7721 東証プライム 精密機器・計測制御 テーマ:防衛・安全保障パラダイム転換

東京計器

1896年創業、日本最初の計器メーカー。艦艇・潜水艦のジャイロ/慣性航法と戦闘機のレーダー警戒装置で国内寡占を握る「防衛の受信・計測側」の企業が、防衛費増額の第一波でどこまで稼ぎ、第二波(2027年度からの次期整備計画)に何を残しているのかを検証する。

01 / OVERVIEW

スナップショット

株価

7,400円

2026/9/18 終値

時価総額

約1,264億円

2026/9/18(発行済1,707.6万株)

PER(会社予想)

22.5倍

予想EPS 328.61円(2026/8/10修正)

PBR(実績)

2.67倍

BPS 2,770円(2026/3末)

配当利回り

0.65%

予想配当48円(+8円)

年初来レンジ

4,850〜9,540円

安値6/11・高値3/2

出典:Yahoo!ファイナンス(finance.yahoo.co.jp/quote/7721.T、2026/9/18)、松井証券(finance.matsui.co.jp/stock/7721)、東京計器 財務ハイライト(tokyokeiki.jp/ir/finance/highlight.html)。PERは9/18終値7,400円÷会社予想EPS328.61円で算出。PBRは同終値÷2026年3月末BPS2,770.05円(Yahoo!表示は2.69倍)。2026年は3月2日に9,540円の高値を付けた後、6月11日に4,850円まで約半値に調整し、8月10日の上方修正を経て7,400円前後まで戻している。半年で±50%動く銘柄であることを前提に読む必要がある。

02 / SEGMENT

事業ごと・国/エリアごとの売上高比率

事業セグメント別 売上高(2026年3月期、セグメント合計611.9億円)

防衛・通信機器 260.2億円 / 42.5% 船舶港湾機器 136.8億円 / 22.3% 油空圧機器 118.4億円 / 19.3% 流体機器 54.1億円 / 8.8% その他(鉄道・検査等) 42.5億円 / 6.9%

事業セグメント別 営業利益(2026年3月期、セグメント合計54.4億円)

防衛・通信機器 23.4億円(利益率9.0%) 船舶港湾機器 13.2億円(利益率9.6%) 流体機器 8.7億円(利益率16.1%) その他 6.8億円(利益率16.1%) 油空圧機器 2.2億円(利益率1.9%)

受注残高(2027年3月期1Q末=2026年6月末、合計639.2億円・過去最高)

防衛・通信機器 442.7億円 / 69.3% 船舶港湾機器 79.5億円 / 12.4% その他 49.2億円 / 7.7% 油空圧機器 36.9億円 / 5.8% 流体機器 30.8億円 / 4.8%

国・エリア別 売上高(2025年3月期、合計576.5億円)

日本 475.5億円 / 82.5% アジア 70.9億円 / 12.3% 欧州 23.7億円 / 4.1% 米州 6.0億円 / 1.0%

出典:東京計器 2026年3月期 決算説明資料(2026/5/11)、2027年3月期 第1四半期 決算説明資料(2026/8/10)、The社史(the-shashi.com/tse/7721/current、有報XBRL)。地域別は2026年3月期の内訳が今回未取得のため2025年3月期を掲載。
この3枚が示すのは「売上の4割、利益の4割、受注残の7割が防衛・通信機器」という構造である。防衛・通信機器は売上260.2億円(42.5%)・営業利益23.4億円(43%)で最大セグメントだが、受注残高では442.7億円と全体の69.3%を占め、他の4セグメントの受注残合計(196億円)の2.3倍に達する。防衛案件の納期は1〜3年(会社説明)なので、この受注残は「今後2〜3年分の防衛売上がすでに契約済み」であることを意味する。なお同セグメントには移動体衛星通信アンテナ・放送局向けアンテナ追尾装置などの民生通信機器が含まれるため、純粋な防衛省向け比率は42.5%より数ポイント低いとみるべきだが、セグメント内の内訳は非開示(未取得)。利益率で見ると流体機器(16.1%)が最も高く、油空圧機器(1.9%)が最も低い。地域別は日本82.5%と圧倒的な内需型で、米州は1.0%に過ぎず、米国関税の直接影響は限定的である。

03 / HISTORY

創業からの歴史

1896年、東京・小石川に「和田計器製作所」として創業した。日本で最初の計器工場であり、圧力計の製造から始まった。1901年に船舶用の羅針儀・測深器を手掛け、1917年の株式会社化と同時に光学部門を分離して日本光学工業(現ニコン)の設立母体となる。同社の現在を決めたのは1918年、米スペリー社のジャイロコンパス生産を開始したことである。以後100年以上、ジャイロ(回転体の角運動量で方位を知る装置)が同社の技術の背骨となり、1926年には国産初の船舶用オートパイロットを世に出した。1930年に本社と工場を蒲田へ移し、1937年に航空計器子会社を設立、戦時中は軍需計器の主要メーカーとなった。
戦後は1948年の企業再建整備法で2社に分割され、1949年に東京証券取引所に上場。1950〜53年にスペリー社から舶用・航空機器とレーダーの製造権を再取得し、1954年に油圧機器、1955年にベンディックス社の航空計器と、いまの4事業の骨格がこの時期に揃った。1963年に世界で初めて超音波流量計の実用化に成功し、1965年にYS-11の航法計器を生産。防衛事業の転機は1971年、F-4EJ戦闘機用レーダー警戒装置を自社開発したことで、以後F-15J(1980年〜)を含む航空自衛隊の戦闘機に一貫してレーダー警戒装置を供給する立場を確立した。1981〜84年には慣性センサの製造も始めている。
1990年に社名を「トキメック」へ変えたが、2008年に「東京計器」へ戻した。この間、1997年に鉄道用超音波探傷車の子会社を設立し、2009年にオーバルと流量計で提携、2011年に水ビジネスへ参入、2013年には事業部制から5カンパニー制へ移行した。2015年に民生の通信機器事業を分社し「通信制御システムカンパニー」を設置、これが現在の「防衛・通信機器」セグメントの源流である。2025年に平和島の新拠点を開設し、2026年に本社を蒲田から羽田イノベーションシティへ移転した。130年の歴史の中で、ジャイロ・レーダー警戒・油圧・流量計という主軸は一度も変わっていない。この「変えない」ことが、寡占の源泉にもなり、成長の遅さの原因にもなってきた。

出典:東京計器 沿革(tokyokeiki.jp/company/history.html)、東京計器 防衛事業の解説(whiteorder.net、二次情報)。

04 / MISSION, VISION, VALUE

ミッション・ビジョン・バリュー

経営理念は「エレクトロニクスをはじめとする先端技術を駆使し、人間の感覚機能である計測・認識・制御の商品化を中心とした事業を通して社会に貢献する」。ミッション・ビジョン・バリューという横文字の整理は使っておらず、理念の下に7つの経営方針(世界最高水準の製品開発、市場変化の先取り、品質と顧客の信頼、人材育成、公正な事業活動、環境保全、企業価値の向上)を置く古典的な構成である。「計測・認識・制御」を「人間の感覚機能の商品化」と定義しているところが同社らしく、ジャイロ(平衡感覚)、レーダー警戒装置(危険察知)、流量計(触覚)を一本の思想で束ねている。
ビジョンに相当するのが「2030年に売上高1,000億円以上・営業利益100億円以上」という長期経営目標で、2026年3月期実績(売上611.9億円・営業利益53.6億円)から売上1.6倍・営業利益1.9倍を求める水準である。この目標からバックキャストして2024〜2026年度の中期経営計画を組み、5つの事業強化領域(SDGs・環境課題への対応、AI/IoT/ビッグデータのセンサー技術、クリーンエネルギー革命、宇宙事業の事業化、ソフトウェアで高度化するモビリティ)を掲げる。2018年に社長に就いた安藤毅氏は就任挨拶で「既存事業の維持だけでは取り残される」「多くの事業で海外売上比率が相対的に低い」と自社の弱点を明言しており、ニッチトップの維持・新製品の育成・グローバル化の3点を自らの使命と定義した。株主還元は「成長投資を優先しつつ安定的・持続的な配当」で、配当性向は16.4%(2026年3月期)と低い。

出典:東京計器 経営理念(tokyokeiki.jp/company/philosophy.html)、中期経営計画(tokyokeiki.jp/ir/guide/plan.html)、5分でわかる東京計器(tokyokeiki.jp/company/5minutes)、社長就任のごあいさつ(tokyokeiki.jp/topics)。

05 / LEADERSHIP

現経営者の特徴・過去の実績(レジリエンスの観点)

代表取締役社長執行役員は安藤毅氏(1956年生まれ、1981年5月入社、2018年6月28日就任、第10代社長)。生え抜きで、1997年に制御システム事業部のプロジェクトリーダー、2002年にトキメック建機(建設機械向け油圧の子会社)社長、2006年に社長室長、2008年に取締役・執行役員、2014年にカンパニー制推進担当、2016年に営業・サービス担当、2017年に専務を経て社長に就いた。油圧事業の子会社経営と全社の企画・営業の両方を経た人物であり、防衛畑の技術者ではない。フルードパワー工業会の会長も務めた(2020年)。会社が開示するスキルマトリクスでは企業経営・営業・IT/デジタル・法務リスク・グローバル・研究開発・M&Aの全項目に丸が付く。
レジリエンスの観点で数字を見る。安藤氏就任直後の2020年3月期は売上474.4億円・営業利益18.8億円だったが、コロナ禍の2021年3月期は売上が420.8億円へ11.3%減収となった。それでも営業利益12.5億円の黒字を守り、営業CFは70.7億円と10年で最大(運転資本の圧縮による)を記録、有利子負債を127.7億円から109.4億円へ減らした。つまり危機時には「投資を止めて現金を積む」守りの経営を徹底した。一方、2023年3月期は売上が回復しても営業利益は13.1億円(利益率3.0%)に沈み、同氏就任から5年間は利益率3〜5%の低空飛行が続いた。転機は2024年3月期以降で、防衛省の大型開発案件(2025年3月期の防衛受注339.9億円)を取り込み、営業利益を2年で13.1億→53.6億円へ4倍にした。同時に2026年3月期の設備投資を52.7億円(前期比2.7倍)へ引き上げ、本社移転(羽田)と那須の防衛生産設備増強に踏み切っている。
評価すべきは、中期経営計画の目標を2度上方修正したことである。2024年5月に策定した2027年3月期目標(売上603億円・営業利益48.1億円)は、2025年5月に683億円・55.8億円へ、2026年5月に683億円・64億円へ、そして2026年8月に700億円・70億円へと引き上げられた。計画を保守的に置いて実績で上回る型は投資家との関係で信頼を積む。弱点は成長分野と位置づける宇宙・水素・エッジAIがいまだ売上に表れていないことと、営業利益率が高い流体機器・鉄道機器を伸ばせていないこと。防衛という追い風がなければ利益率5%の企業に戻るのか、それとも構造が変わったのか——この見極めは次項以降の数字で行う。

出典:東京計器 役員一覧(tokyokeiki.jp/company/executives.html)、2018年3月期有価証券報告書の役員略歴(donburi.accountant)、財界オンライン(zaikai.jp)、ログミーFinance(2025/52026/5)、The社史。

06 / LATEST EARNINGS

直近決算の予想・ガイダンスに対する結果

2026年3月期 会社予想 vs 実績

指標期初予想(2025/5)実績(2026/3期)差異前期比
売上高596.0億円611.9億円+15.9億円(+2.7%)+6.1%
営業利益38.9億円53.6億円+14.7億円(+37.8%)+10.4%
経常利益未取得54.9億円+9.8%
純利益32.1億円40.1億円+8.0億円(+24.9%)+5.5%
営業利益率6.5%8.8%+2.3pt+0.4pt
防衛・通信機器 受注高260.0億円▲23.5%
防衛・通信機器 受注残高432.4億円▲0.1億円(横ばい)

2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)実績と通期予想の修正

指標1Q実績前年1Q前年比通期・旧予想(5/11)通期・新予想(8/10)1Q進捗率
売上高115.9億円105.5億円+9.9%683.0億円700.0億円(+2.5%)16.6%
営業利益▲2.5億円▲3.3億円+0.8億円改善64.0億円70.0億円(+9.4%)―(赤字)
経常利益▲0.5億円▲3.0億円+2.4億円改善65.1億円70.7億円(+8.6%)
純利益0.3億円▲1.8億円黒字転換50.0億円54.0億円(+8.0%)0.6%
EPS(予想)304.27円328.61円
受注高(全社)156.4億円126.3億円+23.8%
受注残高(全社)639.2億円584.9億円+9.3%(過去最高)
為替前提(円/ドル)159.62(実績)145.38151159(2Q以降)

2027年3月期1Q セグメント別(億円)

セグメント受注高売上高前年比営業利益前年比受注残高通期売上予想(修正幅)通期営業利益予想(修正幅)
防衛・通信機器50.139.8+19.6%▲1.2+1.3改善442.7321.0(+10.0)36.1(+1.1)
船舶港湾機器43.036.6+16.5%3.9+27.2%79.5152.0(+4.0)18.0(+4.3)
油空圧機器29.528.1+6.0%0.4黒字転換36.9122.0(±0)2.8(±0)
流体機器15.17.3▲12.6%▲2.2▲0.7悪化30.855.0(±0)8.8(±0)
その他18.74.2▲29.7%▲3.0▲2.0悪化49.250.0(+3.0)5.5(+0.4)
2026年3月期は、期初予想の営業利益38.9億円(本社移転費用と人件費投資で減益を見込んでいた)に対し、実績53.6億円と38%上振れして2期連続で最高益を更新した。上振れの源泉は防衛・通信機器で、売上+6.6%に対し営業利益は+43.3%(16.4億→23.4億円)と、損益分岐点を超えた売上が利益に直結する構造が見える。ただし同セグメントの受注高は339.9億円から260.0億円へ23.5%減った。前期に大型開発案件(MEMS半球共振ジャイロ研究等)を集中受注した反動で、受注残高は432.4億円と横ばいを維持している。
2027年3月期1Qは売上115.9億円(+9.9%)、営業損失2.5億円。赤字だが会社にとっては想定内で、むしろ前年より0.8億円改善している。同社は防衛案件の納入が第4四半期に集中するため1Q・2Qは恒常的に赤字か薄利で、通期営業利益の45〜54%を4Qで稼ぐ季節性がある(2026年3月期は2Q時点で「4年ぶりの黒字転換」が話題になった程度である)。したがって1Qの進捗率16.6%(売上)を額面通りに低いと読むのは誤りで、注目すべきは受注高が防衛・通信で+62.7%(50.1億円)、全社で+23.8%と伸び、受注残高639.2億円が過去最高を更新した点にある。会社は1Q決算と同時に通期予想を売上700億円・営業利益70億円へ上方修正した。理由は①前期から繰り延べられた衛星通信用アンテナスタビライザーの納入、②防衛予算増を背景とした航空機搭載機器の部品販売の好調、③新造船需要と円安(前提151円→159円、1円で営業利益1,500万円)の3点。新予想の経常利益70.7億円はIFISコンセンサスを5.4%上回る水準だった。この数字が意味するのは、上方修正の中身の約4割が為替と前期からのずれ込みであり、実力ベースの上乗せは防衛・通信の+1.1億円と船舶港湾の+4.3億円であるということ。船舶港湾の利益予想が一気に+31%引き上げられた点は、新造船ブームの中でジャイロコンパス・オートパイロットの価格転嫁が効いている証拠として、防衛と同じ重みで見ておきたい。

出典:東京計器 2027年3月期 第1四半期 決算短信(2026/8/10)、同 決算説明資料(2026/8/10)、2026年3月期 決算説明資料(2026/5/11)、ログミーFinance(2025/5 期初予想2025/11 2Q)、Yahoo!ファイナンス/アイフィス株予報(コンセンサス比)。

07 / REVENUE & PROFIT

売上高・利益の推移(直近10年間)

売上高(FY2016〜FY2026、3月期、億円・日本基準)

434 FY16 414 FY17 438 FY18 467 FY19 474 FY20 421 FY21 415 FY22 443 FY23 472 FY24 576 FY25 612 FY26

営業利益(億円)

18.9 FY16 11.2 FY17 13.2 FY18 24.4 FY19 18.8 FY20 12.5 FY21 16.4 FY22 13.1 FY23 27.7 FY24 48.6 FY25 53.6 FY26

親会社株主に帰属する当期純利益(億円)

12.5 FY16 7.1 FY17 11.2 FY18 19.4 FY19 14.2 FY20 9.4 FY21 14.9 FY22 8.7 FY23 22.8 FY24 38.0 FY25 40.0 FY26

営業利益率(%)

4.3% FY16 2.7% FY17 3.0% FY18 5.2% FY19 4.0% FY20 3.0% FY21 3.9% FY22 3.0% FY23 5.9% FY24 8.4% FY25 8.8% FY26

10年財務データ(億円、EPSは円。FY26のみ2017年10月の5株→1株併合を反映した現行株数ベース)

年度売上高営業利益営業利益率経常利益税引前利益純利益EPS
FY16(2016/3)434.418.94.3%19.8未取得12.575.24
FY17(2017/3)413.911.22.7%12.5未取得7.142.72
FY18(2018/3)438.013.23.0%15.1未取得11.267.61
FY19(2019/3)466.924.45.2%26.6未取得19.4117.19
FY20(2020/3)474.418.84.0%20.1未取得14.286.76
FY21(2021/3)420.812.53.0%14.6未取得9.457.67
FY22(2022/3)415.116.43.9%19.319.814.991.06
FY23(2023/3)443.013.13.0%16.912.48.753.16
FY24(2024/3)471.727.75.9%29.931.422.8138.62
FY25(2025/3)576.548.68.4%50.048.738.0231.15
FY26(2026/3)611.953.68.8%54.952.640.0243.75

出典:The社史(the-shashi.com/tse/7721/current、有価証券報告書XBRL、FY2016〜FY2025)、Stock Analysis(stockanalysis.com/quote/tyo/7721/financials、FY2022〜FY2026、S&P Global)、東京計器 2026年3月期 決算説明資料。税引前利益はFY2016〜FY2021が取得元に未収録のため「未取得」とし、経常利益を併記した。
10年を一言でいえば「8年間の停滞と、2年間の急騰」である。FY2016からFY2023までの8年間、売上は414〜474億円のレンジを往復し、営業利益は11〜24億円、利益率は2.7〜5.2%にとどまった。この間の売上CAGRは+0.3%に過ぎない。ところがFY2024以降、防衛予算の増額(2023年度から5年で43兆円)が受注に反映され始めると、売上は2年で443億→612億円(+38%)、営業利益は13.1億→53.6億円(4.1倍)、利益率は3.0%→8.8%へ跳ねた。営業レバレッジが極端に高い——固定費型の開発・生産体制に対し、売上が損益分岐点を超えた分がほぼそのまま利益になる——ことがこの数字の意味であり、裏返せば防衛の売上が減る局面では利益率が急速に3%台へ戻るリスクも同じ構造の中にある。FY2027は会社予想で売上700億円・営業利益70億円(利益率10.0%)と3期連続の最高益更新を見込む。

08 / VALUATION

PERの推移(直近10年間)

実績PER(各年度末3月の月末終値÷当該年度EPS、倍)

0倍 8倍 16倍 24倍 32倍 10.8 27.0 16.7 9.4 8.0 16.4 13.0 22.9 19.6 14.5 25.3 FY16 FY17 FY18 FY19 FY20 FY21 FY22 FY23 FY24 FY25 FY26 実績PER(期末株価÷EPS)

算出内訳

年度期末株価(併合調整後)EPS実績PER
FY16(2016/3)815円75.24円10.8倍
FY17(2017/3)1,155円42.72円27.0倍
FY18(2018/3)1,129円67.61円16.7倍
FY19(2019/3)1,100円117.19円9.4倍
FY20(2020/3)695円86.76円8.0倍
FY21(2021/3)944円57.67円16.4倍
FY22(2022/3)1,187円91.06円13.0倍
FY23(2023/3)1,215円53.16円22.9倍
FY24(2024/3)2,719円138.62円19.6倍
FY25(2025/3)3,345円231.15円14.5倍
FY26(2026/3)6,160円243.75円25.3倍
現在(2026/9/18)7,400円328.61円(会社予想)22.5倍(予想)
算出方法:Yahoo!ファイナンスの月足終値(各年3月)を、2017年10月1日実施の株式併合(5株→1株)で調整し、The社史のEPS(併合後株数ベース)で割った。FY2022〜FY2026はStock Analysisの年度PER(13.0/22.9/19.6/14.5/25.3倍)と一致する。10年間のPERレンジは8.0〜27.0倍、中央値は16.4倍。現在の予想PER22.5倍は10年レンジの上位4分の1にあり、8年間の停滞期に付いていた10〜17倍からは明確に切り上がっている。ただしFY2023の22.9倍は「利益が沈んだのに株価が保たれた」結果であり、現在の22.5倍は「利益が4倍になった上で株価がさらに上がった」結果で、同じ倍率でも中身が違う。会社予想の営業利益成長率+30.6%、純利益成長率+34.8%に対するPEGは0.65〜0.74倍で、テーマ1の集計時点(予想PER21.2倍、営業利益+19%予想でPEG約1.4)から8月の上方修正によって割安方向に動いた。一方で3年前(FY2023末1,215円)から株価は6.1倍になっており、「安い」と言えるのは今期の成長率が来期も続く場合に限られる。

出典:Yahoo!ファイナンス 時系列(finance.yahoo.co.jp/quote/7721.T/history、月足)、楽天証券 株式併合一覧(2017/10/1、5株→1株)、Stock Analysis(ratios)、The社史。

09 / CAPITAL RETURNS

ROIC・WACC・ROEの推移

ROIC・ROE・WACC(%、FY2016〜FY2026)

0% 3% 6% 9% 12% 3.5 2.0 2.1 3.8 3.1 2.1 2.7 2.1 3.8 5.7 5.6 4.8 2.6 4.0 6.7 4.9 3.0 4.5 2.7 6.2 9.4 9.3 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 6.7 FY16 FY17 FY18 FY19 FY20 FY21 FY22 FY23 FY24 FY25 FY26 ROIC(概算) ROE WACC(概算)

算出内訳(億円)

年度NOPAT投下資本ROICROEWACCスプレッド
FY1613.23813.5%4.8%約6.7%▲3.2pt
FY177.84012.0%2.6%約6.7%▲4.7pt
FY189.24422.1%4.0%約6.7%▲4.6pt
FY1917.14473.8%6.7%約6.7%▲2.9pt
FY2013.14193.1%4.9%約6.7%▲3.6pt
FY218.84242.1%3.0%約6.7%▲4.6pt
FY2211.44312.7%4.5%約6.7%▲4.0pt
FY239.24292.1%2.7%約6.7%▲4.6pt
FY2419.45163.8%6.2%約6.7%▲2.9pt
FY2534.05995.7%9.4%約6.7%▲1.0pt
FY2637.56735.6%9.3%約6.7%▲1.1pt
FY27(会社予想)49.0約700(推定)約7.0%約11%(推定)約6.7%+0.3pt

試算方法:ROIC=NOPAT÷投下資本。NOPAT=営業利益×(1−30%)(法定実効税率相当。実際の実効税率はFY2022〜26で20.6〜27.1%なので保守的な値)。投下資本=自己資本+有利子負債(The社史の有報XBRL。FY2026は自己資本比率53.7%×総資産847.8億円=455.3億円、有利子負債はStock Analysisの217.9億円)。ROEは会社開示値。WACCはCAPMで、リスクフリーレート2.9%(日本10年国債利回り、2026年8月末水準の前提)、株式リスクプレミアム5.5%、β0.87(Stock Analysis 5年)→株主資本コスト7.7%、負債コスト税引前1.2%(前提)×(1−30%)、時価ベース資本構成(E 1,264億円:D 218億円=85:15)で約6.7%と推定した。会社自身は2026年5月の説明会で「資本コスト8.2%に対しROE9.3%」と述べており、会社の想定株主資本コストのほうが高い。
結論:3期連続最高益でも、ROICは10年間ずっとWACCを下回ってきた。FY2016〜FY2023のROICは2.0〜3.8%で、資本コストの半分以下。FY2025・FY2026に5.6〜5.7%まで上がったが、まだ概算WACC6.7%に1pt届かない。FY2027の会社予想(営業利益70億円)が達成されて初めて、ROICが約7.0%とWACCに並ぶ。つまり東京計器はいま「資本コストを初めて回収できる年」の入口にいるのであり、この1年の達成如何が、PBR2.7倍という評価が正当化されるかどうかを決める。ROEが9.3%とROICより高いのは、自己資本比率53.7%と借入増(有利子負債は3年で99.5億→217.9億円)のレバレッジによる。なおStock AnalysisのROIC(FY2026:7.1%)は税率・投下資本の定義が異なり、本試算より高めに出る。

10 / CASH FLOW

営業・投資・財務・フリーキャッシュフローの推移(直近10年間)

キャッシュフロー4種(FY2016〜FY2026、億円)

FY16 FY17 FY18 FY19 FY20 FY21 FY22 FY23 FY24 FY25 FY26 営業CF 投資CF 財務CF FCF

キャッシュフロー表(億円、FCF=営業CF+投資CF)

年度営業CF投資CF財務CFFCF
FY1647.0-17.8-15.429.2
FY17-29.5-15.77.4-45.2
FY184.6-13.725.9-9.1
FY1916.4-11.3-9.25.0
FY2029.1-11.4-34.617.8
FY2170.7-9.3-22.561.4
FY2222.6-5.7-11.216.8
FY23-28.30.0-7.8-28.2
FY24-28.4-23.743.0-52.1
FY25-4.5-40.241.8-44.8
FY26-1.6-51.517.1-53.1

出典:The社史(有報XBRL、FY2016〜FY2025)、Stock Analysis(cash-flow-statement、FY2026および照合)、同 balance-sheet(有利子負債・現金)。
この表がこの銘柄の最大の警戒点である。営業CFはFY2023からFY2026まで4期連続でマイナス(▲28.3億、▲28.4億、▲4.6億、▲1.6億円)。利益は4倍になったのに現金が入ってこない。防衛省向けの大型開発案件は納入・検収まで1〜3年かかり、その間の材料費・人件費が仕掛品や契約資産として滞留するためで、受注残442億円の裏側にはそれを支える運転資本がある(会社は棚卸資産の内訳を1Q資料で開示していないため、運転資本の増加要因の内訳は未取得)。加えてFY2024以降は設備投資(FY2026は52.7億円、うち本社移転27.7億円)が重なり、FCFは4期連続で▲28〜▲53億円のマイナス。この穴を財務CF(借入)で埋め、有利子負債は99.5億円(FY2023)から217.9億円(FY2026)へ2.2倍、現金は87.1億円から40.2億円へ半減した。ネット有利子負債は約178億円。防衛案件が納入・検収されるFY2027の4Qには運転資本が解放され営業CFが大きく黒字化するはずで、そこを確認できなければ「利益は出ているが現金が出ない」というアキュルアル(会計上の利益と現金の乖離)の問題として評価を下げる必要がある。なお財務健全性そのものは自己資本比率53.7%・D/E0.47倍で問題ない。

11 / INVESTMENT & M&A

直近の投資・M&A状況

M&Aはほぼ行わず、自前の設備投資で成長する会社である。直近10年で開示された買収は2008年のモコスジャパン子会社化、2009年のオーバルとの流量計提携程度で、ミネベアミツミのような連続買収型とは対極にある。中期経営計画では「成長投資(新設備・研究開発・水素事業・M&A)」を投資枠に含めているが、具体的な案件の公表は今回確認できなかった(未取得)。投資の主軸は次の3つ。
①防衛生産設備の増強。2027年3月期の設備投資計画40.2億円のうち約半分が防衛・通信機器向け(生産設備と開発)。那須工場に防衛管理棟とクリーンルームを増設し、MEMS半球共振ジャイロ(HRG)や航空機搭載機器の量産に備える。2026年3月期の実績は52.7億円(本社移転27.7億円を含む)で、過去10年で最大の年だった。2024年11月に防衛装備庁からMEMS-HRG研究の契約(27.72億円、2027年納入予定)を受けており、これが2027年3月期4Qの「大型案件納入」の中核である。
②本社移転と拠点再編。1930年以来の蒲田本社を売却・再編し、2025年に平和島(東京流通センター)、2026年に羽田イノベーションシティへ本社を移した。移転に伴う営業利益への影響は4.6億円、特別損失は5.1億円(2Q時点の修正値)。老朽資産の更新・DXと合わせ「基盤投資」枠として扱われている。
③研究開発。2027年3月期の研究開発費計画は28.8億円(売上比4.1%)で、自律航行船(自動操舵)、宇宙(小型衛星向け慣性センサ)、水素、エッジAI、ドップラーライダー(2025年7月にメトロウェザーと提携)、対ドローン(マイクロ波技術)に振り向ける。2026年3月期の研究開発費26.4億円は前年比で増え、船舶港湾機器の利益が減った(▲15.1%)主因でもある。この数字が意味すること:同社の投資は「防衛の受注残を納期通りにさばくための設備」に集中しており、外部成長を買う余裕も意思も現時点ではない。営業CFがマイナスのまま設備投資を続けているため、投資の原資は借入であり、投資が売上に変わる2027〜2028年3月期に現金回収が進むかが問われる。

出典:東京計器 2026年3月期 決算説明資料、2027年3月期1Q 決算説明資料、ログミーFinance(2026/52025/11)、東京計器 防衛事業の解説(whiteorder.net、MEMS-HRG契約27.72億円は二次情報)、東京計器 沿革。

12 / SEGMENT GROWTH

主要事業ごとの成長性

セグメント別 実績と会社予想(億円)

セグメントFY25売上FY26売上前期比FY26営業利益前期比利益率FY27売上予想FY27営業利益予想予想利益率
防衛・通信機器243.9260.2+6.6%23.4+43.3%9.0%321.0(+23.4%)36.1(+54.0%)11.2%
船舶港湾機器125.3136.8+9.1%13.2▲15.1%9.6%152.0(+11.1%)18.0(+36.7%)11.8%
油空圧機器114.6118.4+3.3%2.2+12.7%1.9%122.0(+3.1%)2.8(+25.9%)2.3%
流体機器50.254.1+7.8%8.7+10.6%16.1%55.0(+1.7%)8.8(+0.8%)16.0%
その他(鉄道・検査等)42.542.5±0%6.8▲9.4%16.1%50.0(+17.7%)5.5(▲19.6%)11.0%
防衛・通信機器(売上42.5%、受注残69%)。製品は3系統。①航空機搭載機器:F-15J・F-2・P-1などのレーダー警戒装置(敵レーダー波を受信・識別してパイロットに警報する電子戦のES=電子支援側の装置)、対気諸元計算装置、慣性計測装置。②艦艇・潜水艦搭載機器:リングレーザージャイロによる慣性航法装置、ジャイロコンパス、もがみ型護衛艦に標準装備されたオートパイロットPR-9000と電子海図EC-9000。③陸上・その他:捜索レーダー、脅威模擬装置、戦車・自走砲の傾斜センサ・方位検出器、衛星通信アンテナスタビライザー。2027年3月期はMEMS-HRG研究など大型開発案件の納入で売上+23.4%・営業利益+54.0%、利益率11.2%を見込む。成長の起点は2023年度からの5年43兆円の防衛力整備計画で、2025年3月期に受注が339.9億円へ急増、その納入が2026〜2028年3月期に順次売上化する。次の起点は2027年度から始まる次期整備計画(5年70〜80兆円、年末閣議決定予定)で、これが受注に表れるのは早くて2027年度後半、売上化は2028〜2030年3月期になる。つまり同社には「現計画の納入ピーク(2027年3月期)」と「次期計画の受注ピーク(2028年3月期以降)」の間に、受注の谷が生まれうる。2026年3月期の受注▲23.5%はその予兆と読むこともできる。
船舶港湾機器(売上22.3%)。商船向けジャイロコンパス・オートパイロットは世界シェア60%以上、国内船では80%以上。世界の新造船需要は環境規制で2030年に向けて拡大(社長は「2030年に1億トンへ倍増」と発言)し、日本・韓国・中国の造船所が満杯の状態が続く。2026年3月期は研究開発費(自律航行船)で減益だったが、2027年3月期は価格改定と保守サービスの伸びで営業利益+36.7%を見込み、1Qは受注+33.5%と防衛以上の勢いを見せた。もがみ型のオーストラリア向け輸出(2025年8月選定)が実現すれば、防衛と船舶の両セグメントに搭載機器の需要が生まれる。
油空圧機器(売上19.3%、利益率1.9%)。射出成形機向け油圧ポンプで国内シェア約40%を持つが、工作機械・建設機械市場の弱さと海外生産の高コストで利益率は1.9%と全社の足を引っ張る。2027年3月期は10.4億円のコスト削減投資と価格改定で2.3%への改善を見込む程度で、当面「赤字にしない」ことが目標のセグメントである。
流体機器(売上8.8%、利益率16.1%)。超音波流量計(水道・農業用水で国内60%以上)と駐車場消火設備。利益率は全社最高だが、市場が官公需中心で成長は年数%にとどまる。2027年3月期予想は+1.7%と横ばい、1Qは▲12.6%の減収で赤字だった(消火設備コンテナの検査需要の一巡)。
その他(鉄道機器・検査機器)。超音波レール探傷車(JR・私鉄で70%以上)が主力。1Q受注が前年比60%超増え受注残49.2億円と伸びているが、本社移転に伴う減価償却増で利益は減る計画。この表が意味すること:2027年3月期の営業利益増加分(+16.4億円)のうち防衛・通信が+12.7億円、船舶港湾が+4.8億円で、この2つで全体を上回る。残る3セグメントは合計で減益。成長ドライバーは「防衛」と「造船」の2本で、それ以外は現状維持というのが実態である。

出典:東京計器 2026年3月期 決算説明資料、2027年3月期1Q 決算説明資料、5分でわかる東京計器(シェア数値)、財界オンライン、DSEI Japan 2025 速報(j-defense.ikaros.jp)、テーマ1レポート(次期整備計画:Postation防衛省 令和8年度予算)。

13 / COMPETITIVE POSITION

競争優位性や業界内でのポジション

製品別シェアとポジション(会社開示・二次情報)

製品シェア主な競合参入障壁の種類
商船用ジャイロコンパス・オートパイロット世界60%以上/国内80%以上横河電子機器(国内)、Raytheon Anschütz・Sperry Marine(海外)1918年からの型式承認実績、全世界の保守網
戦闘機用レーダー警戒装置(RWR)航空自衛隊向けは1971年のF-4EJ以来ほぼ独占(数値未開示)三菱電機(送信側レーダー)、海外はITAR規制で参入困難脅威ライブラリの継続更新契約、機密性
艦艇・潜水艦用慣性航法装置(RLG)海上自衛隊向け主力(数値未開示)多摩川精機(非上場)、日本航空電子防衛省の開発契約実績、輸入はITAR制約
海上交通センター用管制システム国内100%官公需の実績
射出成形機用油圧ポンプ国内約40%油研工業、ダイキン、ボッシュ・レックスロス低い(価格競争)
超音波流量計(水道・農業用水)国内60%以上横河電機、オーバル(提携先)1963年世界初実用化の実績
気象庁向け地震加速度計約80%官公需の実績
超音波レール探傷車JR・私鉄70%以上保守サービスのロックイン
堀の本体は「受信・計測側」の防衛エレクトロニクスにある。日本の防衛電子機器は棲み分けが明確で、三菱電機がレーダーの送信側(火器管制・警戒管制レーダー)、NECが通信・指揮統制、沖電気が水中音響(ソナー)、そして東京計器が「電波を受けて識別する」レーダー警戒装置と、「外部信号なしで自位置を知る」慣性航法という受信・計測側を担う。この領域は市場規模が小さすぎて大手が本気で参入する経済合理性がなく、一方で機密性と型式認証の壁が高いため、50年以上にわたり事実上の随意契約に近い関係が続いている。テーマ1レポートが指摘する通り、GPS妨害下で動く無人アセット(USV・UUV・誘導弾)には全て慣性航法が必要で、国内供給者は東京計器・多摩川精機(非上場)・日本航空電子に限られ、輸入はITAR(米国武器輸出規制)で困難。ここが「消えたら止まるもの」に該当する。
民生側の堀は船舶にある。ジャイロコンパスとオートパイロットの世界シェア60%超は、100年の実績と全世界の港での保守体制に支えられ、価格競争はあっても代替はされにくい。もがみ型護衛艦への標準搭載は、防衛と民生の技術が同じ装置で繋がっている証拠である。一方で油空圧機器は堀がなく、油研工業・ダイキン・ボッシュらとの価格競争で利益率1.9%に沈んでいる。「ニッチトップの集合体」と自称する同社だが、ニッチトップである事業(防衛・船舶・流体・鉄道)と、そうでない事業(油空圧)の利益率の差が5〜8倍あることが、この会社の構造を正確に表している。

出典:5分でわかる東京計器(tokyokeiki.jp/company/5minutes)、財界オンライン、テレ東BIZ「知られざるガリバー」(txbiz.tv-tokyo.co.jp)、東京計器 防衛事業の解説(whiteorder.net)、テーマ1レポート(慣性航法の国内供給者)。防衛製品のシェア数値は会社が開示しておらず「未取得」。競合企業名は業界一般の整理で、同社の開示ではない。

14 / SCP ANALYSIS

SCP理論からの分析(市場構造・企業行動・業界トレンド)

Structure(市場構造)

同社の主戦場は「買い手が1者(防衛省)、売り手が1〜2者」という双方独占に近い市場である。買い手側の交渉力は制度的に強く、防衛装備品の価格は原価計算方式(コストに一定の利益率を乗せる)で決まるため、需要が増えても売り手が価格を上げる余地は小さい。その代わり2023年度以降、防衛省は「防衛生産基盤強化法」で利益率の引き上げ(最大15%まで)と初度費の国負担を制度化し、売り手の利益率は構造的に改善した——2025年3月期の防衛セグメント利益率が計画5.4%から6.7%へ、2026年3月期に9.0%へ上がった背景にはこの制度変更がある。参入障壁は機密性・認証・ITARの3重で、新規参入はほぼ不可能。商船向けジャイロは世界規模の寡占市場(東京計器・Anschütz・Sperry Marine)で、価格決定力は防衛より高い。油空圧は多数の競合がいる競争市場。「1つの会社の中に、双方独占・国際寡占・完全競争の3つの市場構造が同居している」のが東京計器の構造であり、利益率がセグメントごとに1.9%から16.1%まで開くのはその帰結である。

Conduct(企業行動・規制リスク)

企業行動の特徴は3つ。①受注残に合わせた設備投資:M&Aではなく、防衛省からの受注(残高442億円)を裏付けに那須の生産設備を増強する。受注が先、投資が後という順序はリスクが低いが、成長の上限が防衛省の発注ペースで決まる。②保守的な計画と連続的な上方修正:2027年3月期目標を2年で3回引き上げた。③民生技術との共用:船舶用オートパイロットを護衛艦に、レーダー警戒の受信技術を対ドローン・携帯型電波探知に転用する。規制リスクは主に3方向。第1に防衛予算そのもの——現行の5年43兆円計画は前倒し配分で後年度が薄く、次期計画(70〜80兆円)の閣議決定が遅れれば2028年3月期の受注に谷ができる。第2に輸出規制の緩和が逆に競争を招く可能性——2026年4月の5類型撤廃で日本製装備の輸出が可能になる一方、海外勢との共同開発が進めば国内寡占は揺らぐ。第3に原価計算方式による価格統制で、売上が増えても利益率が制度上の上限で頭打ちになる。中国のレアアース輸出管理(2026年1月強化)は、ジャイロや電子部品の部材調達に影響しうると会社自身が1Q資料でリスクとして挙げている。

Performance(業界トレンド・収益性への帰結)

業界トレンドは、テーマ1で整理した「少数高価なプラットフォームから、安価・大量・無人化へ」の転換である。この転換で慣性航法・ジャイロの需要は台数ベースで桁が変わる——護衛艦1隻に1セットだった慣性航法が、無人艇・UUV・誘導弾の1機ごとに必要になるからだ。MEMS半球共振ジャイロ(HRG)の研究受託はまさにこの流れに対応するもので、リングレーザージャイロより小型・安価な慣性センサを量産できれば、同社の防衛売上は「開発案件の一発」から「消耗品の継続受注」へ質が変わる。ただしSCPの帰結として現時点の数字に表れているのは、①営業利益率が3%台から8.8%へ上がり、②ROICがWACCにほぼ並ぶ水準まで来た、という「第一波の収穫」までである。第二波(無人化・量産)の受注はまだ受注残に入っていない。収益性の次の段差は、次期整備計画の無人アセット約7兆円がMEMS-HRGの量産契約として具体化するかどうかで決まり、それは早くて2027年度後半の話になる。

出典:テーマ1レポート「防衛・安全保障パラダイム転換」(Round1-2)、ログミーFinance 2025/5(防衛省のコスト調整制度による利益率改善)、東京計器 2027年3月期1Q 決算説明資料(リスク記載)、防衛省 令和8年度予算。

15 / INVESTMENT THESIS

これらの分析結果をもとにした現在の投資妙味

結論。東京計器は「防衛第一波の収穫が確定した年」にあり、予想PER22.5倍・PEG0.7倍は成長率に対して割高ではない。ただし営業CFが4期連続マイナスである以上、2027年3月期4Qの現金回収を確認するまでは、フルポジションではなく段階的に持つ銘柄である。テーマ1レポートの結論(艦艇ジャイロ・慣性航法で寡占、3期連続最高益、設備投資の半分が防衛)は本分析でも数字で裏付けられた。PEGはテーマ1集計時の約1.4から、8月の上方修正(営業利益+19%→+30.6%予想)でおよそ0.7へ改善している。
強気に見るなら。①受注残639億円(防衛442億円)は年間売上の0.9年分、防衛セグメントに限れば1.4年分で、2027年3月期の売上700億円の大半はすでに契約済み。②通期予想の営業利益率10.0%が達成されれば、ROICが10年で初めてWACC(概算6.7%)を上回る。③船舶港湾機器が防衛と並ぶ第2のエンジンとして立ち上がっており、1Q受注+33.5%、通期営業利益予想+37%。防衛だけの一本足ではない。④次期整備計画(70〜80兆円、無人アセット約7兆円)の閣議決定が年末に控え、慣性航法はその全てに必要な部材。⑤中期計画を2年で3回上方修正した経営陣の実績。⑥地域別売上の82.5%が日本で、米国関税・海外景気の影響が小さい。
弱気に見るなら。営業CFが4期連続マイナス、FCFは累計▲178億円。利益が現金になっていない。有利子負債は3年で2.2倍、現金は半減。②2026年3月期の防衛受注は▲23.5%で、現計画の納入ピークと次期計画の受注立ち上がりの間に谷が生まれる可能性。③株価は3年で6倍、年初来では9,540円から4,850円まで半値になった実績があり、テーマ株としてのボラティリティは極めて高い。④8月の上方修正の約4割は為替(151円→159円)と前期からのずれ込みによるもので、円高になれば1円あたり1,500万円の営業利益が消える。⑤配当利回り0.65%・配当性向16%で、株価が下がった時に配当が下支えにならない。⑥油空圧機器の利益率1.9%は改善の道筋が見えず、全社利益率10%の足かせ。⑦MEMS-HRGなど「大型案件」は開発受託であり、量産契約に移行しなければ2028年3月期に売上の段差が生じる。
投資妙味の判定。カーリット(PEG約1.6、AP増産は2027年4月稼働)・日油(PEG2超、2028年度の利益クリフ)とテーマ1の3銘柄を並べると、東京計器は「いま数字が出ている」唯一の銘柄であり、短期(3ヶ月)の配分先としてテーマ1が置いた位置づけは妥当である。エントリーの判断材料は11月上旬の2Q決算に絞られる——①2Q累計で営業利益が黒字を維持し(前年は7.2億円)、②防衛受注高が前年2Q累計を上回り、③営業CFの改善が見え始めるか。この3点が揃えば、通期営業利益70億円と4Qの現金回収の蓋然性が高まり、PER22倍を支える根拠が「期待」から「実績」に変わる。逆に2Q時点で営業利益進捗が通期の10%未満、または受注高が減っていれば、株価は4,850〜6,000円のレンジへ戻るリスクを見ておくべきである。「防衛の第一波を取り切った企業」として買うなら合理的、「第二波(無人化の量産)まで織り込んで買う」のはまだ早い、というのが現時点の評価になる。
※本セクションは公開情報に基づく分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
16 / WATCH POINTS & RISKS

今後の注目ポイントやリスク要因

注目ポイント(カタリストと日付)

2027年3月期 第2四半期決算(2026年11月上旬見込み、前年は11月7日、正式日程は未公表)。2Q累計の営業利益黒字維持、防衛・通信の受注高、営業CFの3点。
次期防衛力整備計画の閣議決定(2026年12月見込み)。5年70〜80兆円、無人アセット約7兆円、スタンドオフ9兆円超。慣性航法・MEMS-HRGの量産予算が明示されるか。
2027年3月期 第3四半期決算(2027年2月上旬)と本決算(2027年5月中旬)。MEMS-HRG研究契約(27.72億円)など大型案件の4Q納入と、通期営業利益70億円・営業利益率10%の達成。営業CFの黒字転換。
④ もがみ型護衛艦のオーストラリア向け輸出契約の進展。搭載機器(オートパイロット・電子海図・慣性航法)の受注化。
⑤ 2027年3月期の防衛受注高が前期の260億円を上回るか(1Qは50.1億円、+62.7%)。谷を回避できるかの直接指標。
⑥ 2030年目標(売上1,000億円・営業利益100億円)に向けた次期中期経営計画の公表(2027年5月見込み)。宇宙・水素・エッジAIの売上開示が始まるか。
⑦ 為替。1円の円安で営業利益+1,500万円。2Q以降の前提は159円。

リスク要因

キャッシュフローの悪化継続。営業CF4期連続マイナス、有利子負債217.9億円。大型案件の検収遅延や仕様変更で運転資本の解放が遅れれば、借入依存がさらに強まる。
受注の谷。現計画(2023〜27年度)は前倒し配分で後年度が薄い。次期計画の閣議決定遅延や規模縮小があれば、2028年3月期の受注・売上が減る。2026年3月期の受注▲23.5%は前兆になりうる。
季節性による四半期の振れ。1Q・2Qは赤字が常態で、4Qに利益の45〜54%が集中する。四半期ごとの進捗率で株価が大きく動く。
テーマ株のボラティリティ。年初来高値9,540円から安値4,850円まで半値。地政学的緊張の緩和や防衛関連株全体の調整で、業績と無関係に株価が動く。
原価計算方式による利益率の上限。防衛装備品の価格は制度で決まり、売上増が利益率10%以上に繋がる保証はない。
油空圧機器の低採算。利益率1.9%。工作機械・建機市場の悪化で赤字転落の可能性。
部材調達リスク。中国のレアアース輸出管理強化(2026年1月)、AI向け半導体の逼迫、中東情勢による物流遅延を会社自身が1Q資料で列挙。
為替。円高1円で営業利益▲1,500万円。上方修正の一部は為替前提の変更によるもの。
株主還元の薄さ。配当性向16.4%、利回り0.65%。下落局面で配当が下支えにならない。
本社移転の一時費用。営業利益影響4.6億円、特別損失5.1億円(2026年3月期)。減価償却増は2027年3月期以降も残る。
SOURCES

出典一覧

https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20260810/20260807515817.pdf
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20260810/20260810516161.pdf
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20260511/20260511522305.pdf
https://www.tokyokeiki.jp/ir/finance/highlight.html
https://www.tokyokeiki.jp/ir/guide/plan.html
https://www.tokyokeiki.jp/company/history.html
https://www.tokyokeiki.jp/company/philosophy.html
https://www.tokyokeiki.jp/company/5minutes/
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https://stockanalysis.com/quote/tyo/7721/financials/
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分析日:2026-09-20