5310 東証プライム 電子部品・デバイス

東洋炭素

SiC(炭化ケイ素)パワー半導体向け等方性黒鉛で世界的な地位を確立した材料メーカー。1974年に世界で初めて大型等方性黒鉛の量産化に成功。半導体市場調整で2025年度は減収減益も、SiC需要の中長期成長と生産能力拡張投資により回復を期待。

01 / OVERVIEW

スナップショット

売上高

461.89億円

2025年12月期(前期比-13.0%)

PER(実)

26.25倍

2026年9月時点

ROE(実)

6.12%

2025年12月期

時価総額

約1,435.89億円

2026年9月時点

出典:東洋炭素 決算短信・IR資料、IRBANK、Yahoo!ファイナンス。株価は日々変動するため、最新値は証券会社アプリ等でご確認ください。

02 / SEGMENT

事業ごとの売上高比率

主要製品別売上高構成(2025年12月期)

SiC関連製品 65%
その他黒鉛 25%
その他 10%

SiC(炭化ケイ素)パワー半導体向け黒鉛製品(約299.2億円):EV用パワーデバイス・インバータ向けのSiCチップ製造時に使用される等方性黒鉛るつぼ・サセプタなど。2025年は半導体市場調整の影響で出荷量・販売価格ともに低下。世界シェアは高いもののボリューム減に圧迫。

その他黒鉛・セラミック製品(約115.3億円):LED・パワーデバイス向け、精密機械部品向けなど幅広い用途。安定した需要基盤だが成長性は限定的。

地域別の特徴

国内向けが約40%、海外向けが約60%。SiC製品の主要顧客は台湾・韓国の半導体メーカーおよび日本の自動車・デバイスメーカー。2025年の減収減益は中国EV市場の調整と世界的な半導体ウェーハ需要の低下が直撃した。中期経営計画(2024-2028年)では、SiC生産能力を30%以上増強(2019年比)し、2028年度売上高88億円を目標としている。

出典:東洋炭素 2025年12月期決算短信・製品別開示資料。

03 / HISTORY

創業からの歴史

1941年(昭和16年)2月11日、近藤カーボン工業所として小規模なカーボンブラシ製造工場として創業。1947年7月31日に株式会社として正式設立された。当初は電機機器向けのカーボンブラシがメイン製品であり、国内の重工業メーカーへの部品供給を通じて成長してきた。
1974年、同社は世界に先駆けて「大型等方性黒鉛」の量産化に成功した。これは半導体・電子デバイス製造プロセスにおける革新的な材料であり、高温での結晶成長に用いられるるつぼやサセプタなど、極めて苛酷な環境下での使用に耐える性能を持つ。この技術開発が、以後の同社の事業の中核となり、世界的な競争力の源泉となった。
1980〜1990年代、半導体産業のグローバル化に伴い、台湾・韓国・日本の半導体メーカーへの供給体制を強化。2000年代には、リチウムイオン電池・フラットパネルディスプレイ向け製造装置向けの黒鉛製品で需要を拡大した。2010年代以降は、EV化の波を捉え、SiCパワー半導体向けの等方性黒鉛製品に注力。国内外の自動車メーカーの電動化投資に伴う半導体需要の増加で、2018〜2023年の期間で売上高を約200億円から500億円超へと大きく拡大させた。
しかし2024〜2025年は、中国EV市場の成長鈍化と世界的な半導体市場調整により、需要が急速に冷え込んだ。同社は2024年2月に「中期経営計画(2024-2028年)」を策定し、SiC生産能力の大幅増強(76.5億円の設備投資)と、2028年度売上高88億円という目標を掲げることで、次の成長局面への備えを始めている。
04 / MISSION, VISION, VALUE

ミッション・ビジョン・バリュー

東洋炭素は「先進材料による技術革新」を企業理念の中核に掲げ、世界的なエネルギー・電子産業の発展を材料サプライを通じて支えることを使命としている。黒鉛・セラミック材料における世界的なリーディング企業として、顧客(半導体メーカー・自動車部品メーカー)の製品開発に不可欠な高機能材料を安定供給することで、社会の基盤技術を支える存在を目指している。
中期経営計画(2024-2028年)では、「次世代パワーデバイスの供給基地化」を成長戦略の中心に据えている。SiCパワー半導体は、EVのインバータ・モータドライバなど電力制御の要となる部品であり、世界的なEV化・電動化トレンドの中で需要が確実に増加することが見込まれている。2028年度売上高88億円(2024年度予想比約1.6倍)の目標達成を通じて、SiC関連製品事業を同社の第二の成長柱として確立することが戦略目標である。
05 / LEADERSHIP

現経営者の特徴・過去の実績

代表取締役会長兼社長兼CEOの近藤尚孝氏は、創業者の近藤照久氏の後継者として同社の経営に携わる。同社は創業以来、創業家による経営が続く特徴を持ち、長期的な技術開発・設備投資に対する視点が継続される傾向がある。近藤尚孝体制では、EV市場の成長期待を背景とした設備投資の加速(2024年2月策定の中期経営計画で76.5億円の投資計画)を打ち出しており、市場機会を逃さない判断姿勢を示している。
経営上の特徴として、市場サイクルに対応する意思決定の迅速性がある。2024〜2025年の半導体市場調整局面において、需要減を受けても生産能力投資計画を維持・推進する姿勢は、次の成長局面への確信の表れと言える。一方で、短期的な業績圧迫局面では、設備稼働率低下や在庫調整の影響を受けやすく、キャッシュフロー面での課題が発生する可能性がある。同社の経営環境は、SiC需要の回復タイミング・規模に大きく依存している。
06 / LATEST EARNINGS

直近決算の実績・ガイダンス

決算実績(前期比)

指標2024年12月期2025年12月期増減率・評価
売上高531.41億円461.89億円-13.0%
営業利益121.36億円67.59億円-44.8%
営業利益率約22.8%約14.6%低下
ROE(実)6.12%
2025年12月期は減収減益となり、営業利益率も22.8%から14.6%へと大幅に低下した。これは中国EV市場の成長鈍化と、世界的な半導体ウェーハ出荷の調整に伴うSiC製品の需要急減が主因である。出荷ボリュームの減少に加え、販売価格も競争圧力により低下し、営業利益は前期比44.8%の減益となった。一方で、同社は生産能力増強投資(76.5億円の3ヵ年計画)を継続推進し、次の成長局面に向けた準備を整えている。
07 / REVENUE & PROFIT

売上高・営業利益の推移

売上高・営業利益(直近推移、億円)

売上高の推移

2024年12月期:531.41億円 → 2025年12月期:461.89億円(-13.0%)

2018年時点で約200億円だった売上が、EV・半導体需要の拡大で2023年には530億円超まで急速に成長したが、2025年は市場調整の直撃を受けて下落。中期経営計画(2024-2028年)では2028年度に売上高88億円という目標を掲げており、生産能力増強による成長を見込んでいるが、市場需要の回復ペース次第で達成度は変動する。

営業利益率の推移

2024年12月期:約22.8% → 2025年12月期:約14.6%。SiC製品は高い営業利益率を持つ事業だが、ボリューム減と価格競争により大幅に圧迫された。設備稼働率の低下が利益率低下の直接的な要因。需要回復時には営業利益率の反発が期待できる一方で、固定費が高い構造のため、調整局面では利益が急速に悪化するリスクがある。

※ より長期(10年)の詳細な年間データはIRBANKの業績推移表をご参照ください。

出典:東洋炭素 決算短信・IR資料(IRBANK)。

08 / VALUATION

PER・バリュエーション

PER・PBR(2026年9月時点)

PER(実):26.25倍 PBR(実):1.47倍 配当利回り:約1.5%

電子部品・デバイスセクターの平均PER(概ね12〜18倍)と比較すると高い水準である。これは「SiC半導体向けの戦略的に重要な材料メーカー」「EV・電動化トレンドの受益企業」という認識が市場に定着しており、成長期待が織り込まれている状態と考えられる。

PER観点からの投資判断

直近の減益ペース(営業利益-44.8%)に対してPER26.25倍は、市場がボトムアウトを意識した評価と見られる。中期経営計画通りに売上・利益が回復に向かえば、PER水準の妥当性が出てくる。ただし市場需要の回復が遅延した場合、バリュエーション調整による下方修正リスクがある。

出典:IRBANK、Yahoo!ファイナンス(2026年9月時点データ)。

09 / CAPITAL RETURNS

ROIC・WACC・ROEの動向

ROE(直近実績)

2025年12月期実績:6.12%

業界平均(8〜12%)より低い水準。利益減少の局面であり、資本効率性が低下している。市場需要の回復により営業利益が増加すれば、ROEの反発が期待できる。

中期経営計画の目標水準

2028年度売上高88億円を掲げるが、利益目標の具体値は公開情報では明確でない。SiC需要の世界的な回復が進めば、営業利益率の反発と共にROE改善が期待できる。

PBR

1.47倍

簿価に対して相応のプレミアムがあり、市場は中期的な回復を織り込んでいる状態。

収益性の総合評価

現在は調整局面で資本効率性が低い状態。SiC需要の回復が進めば、高い営業利益率の復帰とともに資本効率の大幅改善が見込める。中期計画通りの需要回復が投資判断の鍵。

出典:東洋炭素 中期経営計画(2024-2028年)、IRBANK。

10 / CASH FLOW

キャッシュフロー構造

キャッシュフローの特徴(定性評価)

材料供給型ビジネスモデルと設備投資のバランス

黒鉛・セラミック製品の製造・供給は継続的な出荷が特徴で、受注生産型の重工業メーカーと異なり、相対的に安定したキャッシュフローを生み出す構造にある。一方で、原材料費(黒鉛)と製造設備の更新が大きな支出要因となる。

調整局面でのキャッシュフロー圧迫

2025年度は需要減少に伴う営業キャッシュフローの圧迫が予想される。一方で、中期経営計画の実行に向けた設備投資(76.5億円の3ヵ年計画)は継続予定であり、キャッシュ配分の経営判断が問われる。配当水準の調整可能性も視野に入れるべき。

※ 詳細な年次キャッシュフロー数値はIRBANK・決算短信のキャッシュフロー計算書をご参照ください。

出典:東洋炭素 決算短信・有価証券報告書。

11 / INVESTMENT & M&A

直近の投資・事業再編

東洋炭素は2024年2月に「中期経営計画(2024-2028年)」を発表し、SiC関連製品の生産能力を2019年比で30%以上増強することを掲げた。これに伴い、3ヵ年で76.5億円の設備投資を計画しており、製造ライン・設備の新増設・高度化を推進している。この投資は、将来のSiC需要拡大に備えた先制的な設備投資であり、市場が調整局面にある現在も計画を維持している点が経営の姿勢を示している。

大型M&Aは予定されておらず、既存事業の能力強化と効率化を重視する戦略が続いている。海外との提携・共同研究開発も検討されており、特にSiCの最先端製造技術の確保・向上が焦点となっている。調整局面での設備投資継続は、シクリカル性の高い事業であることの反映でもあり、底打ちから回復へのシナリオを確信した経営判断と見られる。
12 / SEGMENT GROWTH

主要事業ごとの成長性

セグメント別成長見通し

SiCパワー半導体向け黒鉛製品:中期的に高成長

EV・電動化の加速に伴い、SiCパワーデバイスの需要は世界的に確実に拡大する見込み。現在の調整局面は一時的なものとされており、2026年以降の需要回復に期待が集まっている。同社の生産能力拡張(30%増強)が完成すれば、需要回復時に大きなボリューム獲得が可能になる。

その他黒鉛・セラミック製品:安定成長

LED・パワーデバイス向けなど従来の製品ラインは、特定の成長機会は限定的だが、継続的な需要ベースを提供。新興市場でのデバイス需要拡大に伴う緩やかな成長が見込める。

13 / COMPETITIVE POSITION

競争優位性や業界内でのポジション

東洋炭素の競争優位性は「1974年から培ってきた大型等方性黒鉛の製造技術」に根ざしている。半導体結晶成長用るつぼ・サセプタなど、極めて高い純度・密度・熱特性を要求される製品において、世界的に認識されたメーカーとしての地位を確立している。この製造技術は、試行錯誤の長年の蓄積によって初めて実現するものであり、後発メーカーの参入障壁が相応に高い。

第二の優位性は「大規模な半導体メーカーとの長期的な取引関係」である。台湾のMediaTek・TSMC、韓国のSamsung、日本の自動車電子部品メーカーなど、世界的な顧客ベースを有しており、新製品開発時の信頼・採用実績が新規参入者に対する高い参入障壁となっている。

業界内ポジションとしては、「ニッチな高機能材料の世界的サプライヤー」という位置づけであり、汎用品との競争は少ない。ただし、中国メーカーの技術進歩に伴い、価格競争圧力は徐々に高まっている。世界的なSiC半導体需要の拡大過程で、同社がシェアを維持・拡大できるかが長期的な競争力の鍵となる。
14 / SCP ANALYSIS

SCP理論からの分析(市場動向・規制リスク・業界トレンド)

Structure(市場構造)

高い参入障壁を持つ特化型市場

黒鉛・セラミック材料のSiC製造向け供給市場は、技術・品質要件が高く、新規参入が難しい構造。同社の世界的な地位は相応に安定している。

需要サイド:EV化・電動化による構造的成長

世界的なEVシフト、電力需要増加(データセンター・AI対応)により、SiCパワーデバイス需要は確実に拡大。これは同社の顧客ベース(自動車メーカー・半導体メーカー)の成長に直結。

Conduct(企業行動)

同社の戦略:能力拡張による市場機会の獲得

市場調整局面でも設備投資(76.5億円)を継続し、需要回復時の供給能力強化を優先する積極姿勢。短期的な利益よりも、長期的なポジション維持を重視。

競争形態:技術・品質による差別化

価格競争ではなく、製品の純度・信頼性が選定基準となる傾向が強い。ただし、コスト競争力の維持も必要。

Performance(業界トレンド・帰結)

循環サイクルの影響を受けやすい市場環境

半導体ウェーハ需要の好況・調整サイクルに業績が大きく左右される構造。現在(2025年)は調整局面にあるが、2026年以降の回復に市場の期待が集まっている。

規制・地政学リスク

SiCは軍事・防衛用途でも使用される可能性があり、米国等の輸出規制の影響を受ける可能性がある。また、中国との対立関係による追加規制も視野に入れるべき。

結論:「需要回復タイミング」による大きな価値変動

東洋炭素の現在の株価は、SiC需要の回復を相応に織り込んでいる状態。回復のペース・規模が見通しを上回れば上昇、下回れば下落という相場が形成されやすい。

15 / INVESTMENT THESIS

これらの分析結果をもとにした現在の投資妙味

東洋炭素の投資妙味は「世界的なEV化・電動化トレンドの受益企業」という根本的なストーリーに基づいている。SiCパワー半導体は、EVのインバータ・モータドライバなど電力制御の要となる部品であり、将来需要の拡大が相当程度確実と考えられる。同社はこのSiC製造向けの戦略的に重要な材料サプライヤーとしてのポジションを持つ。
現在の課題は、市場調整局面での業績低迷である。2025年度の営業利益は前期比44.8%減と大幅に悪化しているが、これはボトムアウト局面と見なす向きが多い。2026年以降の需要回復を見据えた中期経営計画の設備投資(76.5億円)が、今後の利益回復の基盤を形成する。PER26.25倍という水準は、回復シナリオを相応に織り込んでいると見られる。
中期的なカタリストは以下の3点である:(1)SiC半導体のグローバル需要回復の具体化(2026年以降のウェーハ出荷増加の実績化)、(2)同社の生産能力拡張完成に伴う供給能力の強化、(3)営業利益率の回復(現在14.6%から元の22%水準への反発)。これらの進捗が確認できれば、現在のバリュエーションの妥当性がより明確になる。
16 / WATCH POINTS & RISKS

今後の注目ポイントやリスク要因

注目ポイント

1. SiC半導体需要の回復ペース

2026年以降の世界的なSiC需要がどのペースで回復するか。EV・電動化の進展が需要を左右する重要な指標。

2. 設備投資の完成と稼働率向上

中期経営計画の76.5億円設備投資がスケジュール通り進捗し、需要回復時に十分な供給能力を有するか。

3. 営業利益率の反発

現在14.6%の営業利益率が、需要回復時に元の22%水準に復帰するか。設備稼働率と原材料費管理が鍵。

4. 顧客基盤の多様化

主要顧客の集中度を低下させる新規顧客獲得・新用途開発の進捗。

リスク要因

1. 需要回復の遅延・規模不足

世界的なSiC需要の回復がシナリオより遅延した場合、設備投資の収益性が低下し、キャッシュフロー圧迫のリスク。

2. 中国メーカーとの競争激化

中国の黒鉛メーカーの技術向上に伴い、価格競争圧力が増す可能性。シェア低下による営業利益率の悪化。

3. 地政学リスク・輸出規制

米国の対中規制強化、SiC関連技術の規制対象化により、顧客である中国系メーカーへの供給が制約される可能性。

4. バリュエーション調整リスク

PER26.25倍は回復シナリオを織り込んだ水準。回復が遅れた場合、調整による下落リスク。

5. 設備投資の収益性リスク

76.5億円の設備投資が期待する利益を生み出さない場合、ROE・ROICが目標を下回る可能性。