4403 東証プライム 化学・油脂/火薬 テーマ:防衛・安全保障パラダイム転換

日油

「バイオから宇宙まで」を掲げる油脂化学メーカー。営業利益率18%・自己資本比率74%・実質無借金という優等生の財務に、いま化薬事業(固体推進薬・発射薬・火薬)を通じて防衛費の急拡大が流れ込んでいる。売上の24%を占める化薬が2027年3月期に売上1,128億円へ倍増する一方、その山は2028年度に崩れると会社自身が言う。「防衛パラダイム転換」のミクロ具体として、山の高さと崖の深さを数字で測る。

01 / OVERVIEW

スナップショット

株価

2,588.5円

2026/9/18 終値(Yahoo!ファイナンス)

時価総額

約5,820億円

2,588.5円×224.7百万株(概算)

PER(予想)

約15.0倍

FY27/3会社予想EPS約173円で算出

PBR

約2.0倍

stockanalysis(2026/9取得)

配当利回り(予想)

2.70%

年間70円予想(前期61円)

年初来レンジ

2,510〜3,400円

安値8/5(1Q決算日)・高値4/8

出典:Yahoo!ファイナンス時系列(finance.yahoo.co.jp/quote/4403.T/history)、stockanalysis(stockanalysis.com/quote/tyo/4403、発行済株式数224.73百万株・PBR2.00倍・β0.36)、2027年3月期第1四半期決算短信(純利益予想390億円)。予想PERは会社予想純利益390億円÷1Q時点の株式数(約225.8百万株、1Q EPS33.53円から逆算)=EPS約173円で当サイトが算出。株価は4月8日の年初来高値3,400円から、5月11日の決算・中計発表で1日▲13.2%、8月5日の1Q決算で年初来安値2,510円まで下げた後の水準で、高値から▲24%の位置にある。保有株数:未確認。

02 / SEGMENT

事業ごと・国/エリアごとの売上高比率

事業セグメント別 売上高(2026年3月期)

機能化学品 1,458億円 / 56.5% 化薬 617億円 / 23.9% 医薬・医療・健康 499億円 / 19.4%

事業セグメント別 営業利益(2026年3月期)

機能化学品 268億円(利益率18.4%) 医薬・医療・健康 158億円(利益率31.7%) 化薬 80億円(利益率12.9%)

国・エリア別 売上高(2026年3月期)

日本 1,863億円 / 72.2% アジア 372億円 / 14.4% 欧州 172億円 / 6.7% その他 173億円 / 6.7%

出典:日油 2026年3月期決算短信(決算短信PDF)、The社史(the-shashi.com/tse/4403/current)。構成比はセグメント合計(2,574億円)に対する比率。
この3枚が示すのは「稼ぐ場所と伸びる場所が違う」構造である。売上の56.5%を占める機能化学品(界面活性剤・脂肪酸誘導体・有機過酸化物・化粧品原料・防錆)が利益の53%を稼ぎ、売上19.4%の医薬・医療・健康(DDS用活性化PEG・機能性脂質・MPCポリマー・機能食品)が利益率31.7%で利益の31%を出す。一方、本テーマの主役である化薬は売上23.9%に対し利益は16%、利益率12.9%と3事業で最も低い。つまり日油は「防衛株」として買われても、利益の8割強は防衛と無関係の化学・医薬から出ている。1年前(2025年3月期)の構成は機能化学品63%・医薬20%・化薬16%だったから、化薬は1年で構成比を8ポイント押し上げたことになる。地域別は日本72.2%と内需型で、防衛向けは当然ほぼ全額が国内計上。為替感応度は同業の化学大手より低く、海外はアジア14%(中国・台湾・韓国の電子材料・化粧品原料)が中心である。

03 / HISTORY

創業からの歴史

1937年、日産コンツェルンの傘下で油脂・石鹸・塗料・火薬を手がける4社が合併し「日本油脂」が発足した。油脂と火薬という一見無関係な2事業が最初から同居していたことが、90年後の今もこの会社の骨格を決めている。油脂から脂肪酸・グリセリン・界面活性剤へ、火薬から産業爆薬・推進薬へ——どちらも「分子を設計して混ぜる」化学であり、社内では別々の技術系統として育てられた。戦後は財閥解体を経て1949年7月に企業再建整備法に基づき分離・再設立、同年9月に東京証券取引所へ上場した。1961年には川崎に千鳥工場を新設して石油化学に進出し、1973年には米ダイヤモンドシャムロック社と合弁で日本ダクロシャムロック(金属防錆処理)を設立するなど、油脂から機能化学品への展開を進めた。
転換点は2000年代前半である。祖業の一角だった塗料事業と溶接事業から撤退し、経営資源を「機能化学品」「ライフサイエンス」「化薬」の3本に絞り込んだ。1990年代から育ててきたDDS(薬物送達)用の活性化PEGは、この選択と集中の中で医薬セグメントの柱に成長し、2007年10月には社名を「日本油脂」から「日油」へ変更して、油脂専業のイメージから脱した。この時期に営業利益率が一桁から二桁へ切り上がっている(2017年3月期14.0%→2026年3月期18.4%)。
直近では2023年4月に組織を再編し、機能化学品側に「機能材料事業部」を新設、医薬側では「ライフサイエンス事業部」に統合した。2024年4月には北海道の産業爆薬子会社・北海道日油を、防衛・弾薬を担う日本工機に吸収合併させ、化薬事業を日本工機に集約した。そして2025年5月、防衛関連製品の増産に1,000億円(のちに1,400億円へ増額)を投じる方針が報じられ、油脂と火薬の二本立てのうち、長く「安定だが伸びない」とされてきた火薬側が、90年ぶりに成長の主役として前面に出た。

出典:The社史(the-shashi.com/tse/4403、日油有価証券報告書【沿革】に基づく)、日油会社情報(nof.co.jp/company/message)、株探ニュース2025年5月26日(kabutan.jp)。

04 / MISSION, VISION, VALUE

ミッション・ビジョン・バリュー

経営理念は「バイオから宇宙まで、化学の力で新しい価値を創造する企業グループとして、人と社会に貢献します」。「バイオ」がDDS・機能性脂質、「宇宙」がH3ロケット用固体推進薬を指しており、油脂と火薬という創業以来の二本柱を一文に収めた理念である。トップメッセージでは、気候変動・資源エネルギー・健康安全という社会課題に対して「ライフ・ヘルスケア」「環境・エネルギー」「電子・情報」の3分野に経営資源を集中し、顧客ごとのカスタム製品で長期のパートナーシップを築くと述べている。防衛は理念文には登場しない。
ビジョンに相当するのが2026年5月に発表した長期ビジョン「NOF VISION 2030」と「2028中期経営計画」(2026〜2028年度)である。数値目標は、2028年度に売上高3,060億円・営業利益570億円(営業利益率18.6%)・ROE14%以上、2030年度に営業利益650億円(前計画の600億円から引き上げ)・営業利益率20%以上・ROE15%以上。株主還元は配当性向40%程度を基本に「中長期的な累進配当」を目指し、総還元性向70%以上を目安に自己株式取得を機動的に行う。3年間の営業CF1,100億円に対し設備投資930億円・株主還元960億円以上を配分するとしており、稼いだ以上を投資と還元に回す(不足分は借入も検討)という、自己資本比率74%の会社にしては踏み込んだ資本配分方針である。
注目すべきは、2028年度の営業利益570億円という目標が、化薬の営業利益を154億円(2026年度予想)から73億円へ半減させた前提で組まれていることだ。つまり会社は「防衛の山は2026〜27年度で終わる」と最初から宣言したうえで、機能化学品(264→354億円)と医薬(123→188億円)で穴を埋めて増益を続ける計画を示している。ビジョンの本質は「防衛で稼ぐ」ではなく「防衛で得た初度費の山を、化学と医薬の成長で平準化する」ことにある。

出典:日油トップメッセージ(nof.co.jp/company/message)、2028中期経営計画 NOF VISION 2030(r08_gyoseki5.pdf)、ログミーFinance(finance.logmi.jp/articles/385198)。

05 / LEADERSHIP

現経営者の特徴・過去の実績(レジリエンスの観点)

代表取締役社長は沢村孝司氏(1965年2月生まれ、1988年4月入社、2023年6月就任)。経歴はDDS一筋に近い。2017年1月にDDS事業部営業部長、2021年6月に執行役員DDS事業部長、2022年6月に常務執行役員DDS事業部長、2023年4月に常務執行役員ライフサイエンス事業部長を経て社長に就いた。つまり現社長は、活性化PEGを世界シェア首位の事業に育てた当事者であり、化薬(火薬)畑でも機能化学品畑でもない。会長は前社長の宮道建臣氏(1956年生まれ、1980年入社、人事・総務部長、2018年6月〜2023年6月社長)で、社長・会長ともに生え抜き。取締役兼常務執行役員の斉藤学氏(機能食品事業部長・CCO)が続く。
レジリエンスの観点で過去10年を振り返ると、日油は2020年3月期(米中摩擦・自動車減産)と2021年3月期(コロナ禍)に2年連続で減収(▲4.4%、▲4.6%)となったが、営業利益は▲5.5%、▲1.0%にとどまり、コロナ禍の2021年3月期に営業利益率はむしろ15.4%へ上昇、純利益は増益だった。営業利益率は10年間一度も14%を割っていない。これは宮道体制下で進めた「顧客ごとのカスタム製品で価格を守る」方針と、内需72%・実質無借金という財務が効いた結果で、危機時に投資を止めなかった(2021年3月期も営業CF307億円で過去最高水準)ことがその後の最高益更新につながった。
沢村体制(2023年6月〜)の実績は、3期連続で売上・各段階利益の過去最高更新、配当を45円→61円→70円(予想)へ引き上げ、2026年3月期に200億円、2026年5月・8月にそれぞれ50億円上限の自己株式取得と1,000万株の消却を決めた。一方で試練も同氏の出身母体から来ている。自らが育てたDDS事業が、特定顧客の医薬品の市場浸透遅延で2026〜27年度に売上減少局面に入り、2027年3月期の医薬セグメント営業利益は▲35億円の減益予想となった。防衛の山を「一過性」と明言して中計目標に織り込まない誠実さと、自分の出身事業の不振を隠さず「2028年度以降に回復」と時期を区切って説明する姿勢は、投資家との対話という点では評価できる。ただし、1,400億円規模の防衛設備工事という、火薬側の経験が薄い経営者にとって未経験の大型プロジェクトを安全・工期の両面で完遂できるかは、まだ実績として示されていない。

出典:キタイシホン 役員情報(kitaishihon.com/company/4403/board-of-director)、日油役員一覧(nof.co.jp/company/officer)、The社史(歴代社長)、2027年3月期1Q決算短信(自己株式取得・消却)、決算説明会質疑応答(r08_gyoseki8.pdf)。

06 / LATEST EARNINGS

直近決算の予想・ガイダンスに対する結果

2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)実績 vs 通期会社予想

指標1Q実績前年同期比通期会社予想進捗率評価
売上高690億円+23.1%3,190億円(+23.7%)21.6%下期偏重前提なら妥当
営業利益107億円▲9.7%500億円(+5.5%)21.4%前年同期は25.0%進捗
経常利益115億円▲6.3%510億円(+1.3%)22.6%過去5年平均進捗28.3%を下回る
純利益75.7億円▲12.1%390億円(▲3.8%)19.4%未達懸念
営業利益率15.5%▲5.6pt(前年21.1%)15.7%化薬の売上急増で希釈
自己資本比率76.7%+2.7pt(前期末74.0%)前受金減で総資産圧縮

セグメント別 1Q実績 vs 通期予想

セグメント1Q売上前年比1Q営業利益前年比通期予想(売上/営利)営利進捗
機能化学品392億円+8.8%78.5億円+11.0%1,555億/264億円29.7%
医薬・医療・健康112億円▲17.9%12.2億円▲77.6%502億/123億円9.9%
化薬184億円+197.8%23.0億円黒字化(前年▲0.07億円)1,128億/154億円14.9%
2026年3月期通期は売上2,580億円(+8.3%)・営業利益474億円(+4.6%)・純利益406億円(+11.1%)で、売上・各段階利益とも過去最高。化薬は早期装備化の初度費に係る一部取引の収益認識で売上617億円(+59%)・営業利益80億円(+155%)と急伸した。ただし市場が反応したのは通期実績ではなく、同日(2026年5月11日)に出た2027年3月期予想と中計で、株価はその日▲13.2%の2,800円まで急落した。売上+23.7%に対して営業利益+5.5%・純利益▲3.8%という「増収なのに利益が伸びない」予想、そして2028年度に化薬営業利益を73億円へ戻す計画が、防衛テーマで買っていた投資家の期待を裏切った形である。
そして8月5日の1Qは、その懸念を強める内容だった。売上は+23.1%と計画線上だが、営業利益は▲9.7%の107億円で進捗率21.4%(前年同期は通期比25.0%)、経常利益の進捗22.6%は過去5年平均の28.3%を大きく下回り、株価は年初来安値2,510円をつけた。中身を見ると三者三様である。機能化学品は営業利益+11%・進捗29.7%と順調で、脂肪酸誘導体・界面活性剤が好調(有機過酸化物・特殊防錆は低調)。医薬は「DDS原料の納入が下期予定」で営業利益▲77.6%・進捗9.9%と極端に遅れており、通期123億円に届くには残り3四半期で111億円(四半期37億円)が必要。前年並みの四半期40億円ペースなら届く計算だが、DDSは「下期納入」の一言に依存する。化薬は売上184億円(約3倍)に対し営業利益23億円・利益率12.5%、進捗14.9%と、初度費の工事進捗に応じた計上が下期偏重であることがうかがえる。会社は通期予想を据え置いた。

出典:日油 2027年3月期第1四半期決算短信(2026年8月5日、決算短信PDF)、2026年3月期決算短信(PDF)、株探決算速報(Yahoo!ファイナンス転載)、みんかぶニュース2026年8月5日(minkabu.jp/news/4585812)、stockanalysis株価履歴(5月11日▲13.18%)。
この数字が意味すること。1Qの営業減益は「防衛の失速」ではなく「防衛の売上が先に立ち、利益率の低い工事売上が全社利益率を希釈した」ことと「DDSの納入時期のズレ」の合成である。会社予想の営業利益率15.7%は前期18.4%から2.7pt低下する前提であり、その通りに進んでいる。問題は、下期にDDS納入と化薬工事の両方が計画通り積み上がるかという「二重の下期偏重」を抱えている点で、11月の2Q決算で医薬の進捗が40%に届かなければ通期未達の確率が高まる。

07 / REVENUE & PROFIT

売上高・利益の推移(直近10年間)

売上高(FY2017〜FY2026、3月期、億円・日本基準)

1,741 FY17 1,799 FY18 1,892 FY19 1,809 FY20 1,726 FY21 1,926 FY22 2,177 FY23 2,223 FY24 2,383 FY25 2,580 FY26

営業利益(億円)

243 FY17 258 FY18 284 FY19 269 FY20 266 FY21 356 FY22 406 FY23 421 FY24 453 FY25 474 FY26

経常利益(税引前利益の代替、億円)

250 FY17 274 FY18 301 FY19 288 FY20 289 FY21 376 FY22 432 FY23 456 FY24 466 FY25 504 FY26

営業利益率(%)

14.0% FY17 14.3% FY18 15.0% FY19 14.9% FY20 15.4% FY21 18.5% FY22 18.7% FY23 19.0% FY24 19.0% FY25 18.4% FY26

10年データ表(億円)

年度売上高営業利益営業利益率経常利益純利益
FY17(2017/3)1,74124314.0%250176
FY18(2018/3)1,79925814.3%274199
FY19(2019/3)1,89228415.0%301220
FY20(2020/3)1,80926914.9%288211
FY21(2021/3)1,72626615.4%289233
FY22(2022/3)1,92635618.5%376267
FY23(2023/3)2,17740618.7%432340
FY24(2024/3)2,22342119.0%456340
FY25(2025/3)2,38345319.0%466365
FY26(2026/3)2,58047418.4%504406

出典:The社史(the-shashi.com/tse/4403/current、有価証券報告書XBRLベース)。税引前利益は集計元で個別開示がないため、日本基準の経常利益(税金等調整前利益との差は特別損益のみ)を代替指標として掲載した。
この10年で日油は「売上1.5倍、営業利益1.9倍、営業利益率14%→18%」を実現した。売上は1,741億円→2,580億円(CAGR+4.5%)と化学メーカーとしては平凡な伸びだが、営業利益は243億円→474億円(CAGR+7.7%)と売上の伸びを上回り、営業利益率はコロナ禍を含めて一度も14%を割らず、2023年3月期以降は18〜19%で定着した。減収は2020年3月期と2021年3月期の2回だけで、その2年も営業利益率は14.9%→15.4%と上がっている。つまりこの会社の10年は「値上げと製品ミックス改善で利益率を切り上げ続けた10年」であり、規模で稼ぐ会社ではない。2026年3月期は営業利益率が18.4%と前期の19.0%からわずかに低下したが、これは利益率12.9%の化薬売上が急増した希釈効果であり、機能化学品・医薬単体の利益率が崩れたわけではない(ただし機能化学品は原燃料高と減販で▲30億円の減益)。2027年3月期は売上3,190億円・営業利益500億円予想で、利益率15.7%へさらに希釈される見込み。

08 / VALUATION

PERの推移(直近10年間)

実績PER(各3月末株価÷当該期EPS、倍)

5.0倍 10.0倍 15.0倍 20.0倍 FY17 FY18 FY19 FY20 FY21 FY22 FY23 FY24 FY25 FY26 11.7倍 13.6倍 14.5倍 13.6倍 20.6倍 15.5倍 14.8倍 14.8倍 13.1倍 17.6倍 実績PER(3月末株価÷EPS)

算出データ(株価・EPSはいずれも現行株式数ベースに調整)

年度3月末株価(調整後)EPS(調整後)実績PER
FY17(2017/3末)788円67.4円11.7倍
FY18(2018/3末)1,048円77.0円13.6倍
FY19(2019/3末)1,257円86.4円14.5倍
FY20(2020/3末)1,143円83.9円13.6倍
FY21(2021/3末)1,930円93.5円20.6倍
FY22(2022/3末)1,673円107.9円15.5倍
FY23(2023/3末)2,057円139.0円14.8倍
FY24(2024/3末)2,086円141.2円14.8倍
FY25(2025/3末)2,020円153.9円13.1倍
FY26(2026/3末)3,101円176.3円17.6倍
現在(2026/9/18)2,588.5円約173円(FY27/3会社予想)約15.0倍(予想)
算出方法:各年3月末の月次終値(Yahoo!ファイナンス時系列、2017年10月の株式併合〈2株→1株〉と2024年4月の株式分割〈1株→3株〉を調整した「調整後終値」)を、The社史のEPS(2017〜2019年3月期は併合後・分割前の値のため3で除して現行基準に統一)で割った。10年間の実績PERレンジは11.7〜20.6倍、中央値は14.6倍。20倍を超えたのはコロナ後の金融緩和で株価が先行した2021年3月期の1回だけで、2022〜2025年3月期は14.8〜15.5倍→13.1倍と、EPSが年率10%超で伸びるなかPERはむしろ切り下がった。2026年3月期末は防衛期待で17.6倍まで買われたが、その後の株価下落で予想PER約15.0倍と、10年中央値の水準に戻っている。

出典:Yahoo!ファイナンス時系列(月次データ)、The社史(EPS)。
この数字が意味すること。市場は日油に対して10年間、営業利益率18%・ROE13%の企業としては控えめな13〜15倍しかつけてこなかった。理由は内需型化学という地味さと、成長率が一桁だったことにある。2026年春の17.6倍は「防衛で成長率が変わる」期待の値段だったが、会社が5月に「2028年度に化薬利益は半減」と示したことで、その期待は剥落した。現在の15倍は「防衛プレミアムなし、DDS回復も織り込まず」の水準に近い。逆に言えば、ここから上に行くには化薬の既存製品(初度費を除く)の増産が数字で見えるか、DDSの回復が前倒しになるかのどちらかが必要で、PERの拡大だけを当てにする局面ではない。

09 / CAPITAL RETURNS

ROIC・WACC・ROEの推移(直近10年間)

ROIC(概算)・ROE・WACC(%)

5.0% 10.0% 15.0% FY17 FY18 FY19 FY20 FY21 FY22 FY23 FY24 FY25 FY26 10.7% 10.4% 10.7% 10.0% 9.0% 11.1% 11.7% 11.0% 11.2% 11.1% ROIC(概算) 11.6% 11.8% 12.4% 11.9% 11.5% 12.1% 14.2% 12.8% 13.1% 13.7% ROE 7.3% 7.3% 7.3% 7.3% 7.3% 7.3% 7.3% 7.3% 7.3% 7.3% WACC(β0.8)

ROIC・ROE・WACCとスプレッド

年度NOPAT(億円)投下資本(億円)ROICROEWACC(β0.8)スプレッド
FY171701,58510.7%11.6%7.3%+3.4pt
FY181811,73110.4%11.8%7.3%+3.1pt
FY191991,86710.7%12.4%7.3%+3.3pt
FY201881,87310.0%11.9%7.3%+2.7pt
FY211862,0749.0%11.5%7.3%+1.7pt
FY222492,23511.1%12.1%7.3%+3.8pt
FY232842,43611.7%14.2%7.3%+4.4pt
FY242952,69411.0%12.8%7.3%+3.6pt
FY253172,82011.2%13.1%7.3%+3.9pt
FY263322,98611.1%13.7%7.3%+3.8pt

試算方法:ROIC=NOPAT÷投下資本。NOPAT=営業利益×(1−実効税率30%)、投下資本=自己資本+有利子負債(期末、The社史の有報XBRL集計)。WACC=CAPMで推定。リスクフリーレート2.956%(2026年9月18日の新発10年国債利回り、財経新聞)、株式リスクプレミアム5.5%、負債コスト1.5%(税引後1.05%)、資本構成は時価総額5,817億円:有利子負債33億円(負債比率0.6%)。β は stockanalysis 公表の5年β0.36を使うと株主資本コスト4.9%・WACC4.9%になるが、内需ディフェンシブ株の低βが過小評価を生みやすいため、本表では保守的にβ0.8(株主資本コスト7.4%・WACC7.3%)を採用した。ROEはThe社史の値(会社公表のROEは2026年3月期14.1%)。
ROICは10年間9.0〜11.7%のレンジにあり、保守的なWACC7.3%を毎年1.7〜4.4ポイント上回っている(最低はコロナ禍の2021年3月期9.0%)。β0.36を使えばスプレッドは6ポイント超に広がる。ただし投下資本には現預金830億円(2026年3月末)が含まれており、これを除いた事業ROICは2026年3月期で約15.4%と、さらに高い。つまり日油は「資本コストを稼げているか」という問いにはとうに答えを出しており、問題はROICが10年間ほぼ横ばいで、上がってもいないことだ。利益が1.9倍になっても自己資本が同じ1.9倍(1,518億→2,953億円)に積み上がったためで、ROEも11〜14%のレンジを出ていない。2026年3月期に自己株式200億円を取得し、中計で総還元性向70%以上を掲げたのは、この「資本の積み上がり」を止めるためであり、ROE15%以上(2030年度目標)は利益成長より資本圧縮で達成する設計と読める。今後、早期装備化の1,150億円の設備は防衛省との契約で回収される仕組みのため、日油側の投下資本を大きく増やさない点も、ROICの観点では追い風である。

10 / CASH FLOW

営業・投資・財務・フリーキャッシュフローの推移(直近10年間)

キャッシュフロー4種(FY2017〜FY2026、億円)

FY17 FY18 FY19 FY20 FY21 FY22 FY23 FY24 FY25 FY26 営業CF 投資CF 財務CF FCF

10年データ表(億円、FCF=営業CF+投資CF)

年度営業CF投資CF財務CFFCF
FY17240▲58▲75182
FY18202▲49▲85153
FY19199▲55▲108143
FY20278▲48▲113230
FY2130719▲80326
FY22274▲88▲153186
FY23233▲7▲162226
FY24300▲150▲171150
FY25290▲137▲220152
FY26359▲44▲314314

出典:The社史(the-shashi.com/tse/4403/current、有報XBRLベース)、2026年3月期決算短信(前受金の注記)。
営業CFは10年間で199〜359億円、一度もマイナスなし。FCFは10年通算で概算+2,064億円のプラスで、財務CFは10年通算▲1,482億円と、営業CF累計の5割強を配当・自己株式・借入返済で株主と債権者に戻してきた。投資CFは2024〜25年3月期にLS愛知工場(DDS)と化薬設備で▲150億円・▲137億円と膨らんだが、2026年3月期は▲44億円に縮小している。ここで注意すべきは2026年3月期の営業CF359億円(+24%)の中身で、決算短信の注記によれば化薬事業の早期装備化に係る防衛関連設備の前受金139億円が含まれている。つまり営業CFの増加分のほぼ全額は防衛省からの前受けで、本業のキャッシュ創出力は前期並みと見るのが正確である。2027年3月期の設備投資予定705億円(前期344億円)はこの前受金と今後の契約収入で賄われる設計だが、工事の進捗と入金のタイミングがずれれば、一時的にFCFが赤字に振れる年が出る可能性は高い。中計のキャッシュアロケーション(営業CF1,100億円に対し投資930億円+還元960億円以上)が「必要に応じ借入」と明記しているのはそのためで、実質無借金の財務が数年内に変わる可能性は織り込んでおくべきである。

11 / INVESTMENT & M&A

直近の投資・M&A状況

防衛関連の早期装備化設備:当初1,000億円→1,400億円(2027〜29年に順次稼働)。2025年5月、推進薬など防衛関連製品の生産能力増強に1,000億円を投じる方針が報じられ(化学工業日報・株探)、愛知事業所の武豊工場(愛知県知多郡武豊町)で製造設備を増設し、弾薬製造を手がける子会社(日本工機)でも新設備を建設するとされた。2026年5月の決算説明会では、契約内容の精査と建設資材・設備資材の高騰、人手不足による人件費上昇を理由に1,400億円へ増額されたことが説明され、2028中計の3年間には早期装備化関連として1,150億円が計上されている。重要なのは会計処理で、この設備は防衛省の「早期装備化」枠組みのもと、履行義務の進捗に応じて収益と費用を計上する契約取引になっている。日油の自己負担で建てる工場ではなく、国から初度費として回収されながら建てる工場であり、これが2026〜27年度の化薬売上・利益の山の正体である。
化粧品原料設備:250億円。機能化学品側では、化粧品関連製品向けに愛知の既存工場を増強する250億円の投資を決め、2028中計の後半(2027〜28年度)からの稼働を計画している。特定顧客向けにとどまらず複数顧客・海外展開も視野に入れると説明された。DDS・LS愛知工場。川崎のDDS工場の2倍規模の製造能力を持つLS愛知工場が2025年度に稼働し、活性化PEGの安定供給体制を整えた。ただし需要側の遅れで固定費先行となり、2027年3月期の医薬セグメントは固定費増▲35億円の減益要因になっている。2024年8月には米Phosphorex社へ部分出資し、LNP(脂質ナノ粒子)処方開発の顧客対応を強化した。
研究所・その他。ヘルスサイエンス・マテリアルサイエンス研究所の新設に130億円、福利厚生設備に60億円、川崎事業所隣地の一部取得を予定。2028中計の設備投資は3年間で総額2,080億円(検収ベース)と、過去10年の年平均(約80億円)の8倍超のペースになる。M&A。中計には「M&A・用地取得等に係る投資枠」が戦略投資約2,000億円の中に含まれるが、具体的な案件・金額は開示されていない。過去10年間に大型M&Aの実績はなく、2024年4月の北海道日油の日本工機への吸収合併のようなグループ内再編が中心。株主還元。2026年3月期に自己株式200億円、2026年5月に50億円上限、8月5日に50億円上限(200万株)の取得と1,000万株の消却を決議。配当は61円→70円へ。

出典:化学工業日報(chemicaldaily.com/archives/649476)、株探ニュース2025年5月26日(kabutan.jp)、財経新聞(zaikei.co.jp)、決算説明会質疑応答(r08_gyoseki8.pdf)、2028中期経営計画(r08_gyoseki5.pdf)、DDS事業の展開(r07_gyoseki2.pdf)、日油事業所一覧(nof.co.jp/company/plant/map_aichi)。

12 / SEGMENT GROWTH

主要事業ごとの成長性

セグメント別 実績と会社計画(億円)

セグメントFY25/3実績
売上/営利
FY26/3実績
売上/営利
FY27/3予想
売上/営利
2028年度(FY29/3)計画
売上/営利
利益率推移
機能化学品1,509/2981,458/2681,555/2641,770/35419.7%→18.4%→17.0%→20.0%
医薬・医療・健康480/157499/158502/123615/18832.7%→31.7%→24.5%→30.6%
化薬388/31617/801,128/154670/738.1%→12.9%→13.7%→10.9%
連結(調整後)2,383/4532,580/4743,190/5003,060/57019.0%→18.4%→15.7%→18.6%
化薬(固体推進薬・発射薬・爆薬・火工品・産業爆薬・宇宙)——「山」と「崖」を同時に持つ事業。製品は4系統に分かれる。①防衛関連製品:砲弾・銃弾の発射薬、ミサイル用の固体推進薬(ダブルベース系・コンポジット系)、弾頭炸薬、点火具・信管などの火工品、弾薬の最終組立(子会社・日本工機)。②宇宙関連:H3ロケットの固体ロケットブースタ用推進薬。③産業用爆薬類:土木・鉱山向け。④機能製品:自動車エアバッグ用インフレータのガス発生剤など。防衛向けの正確な比率は非開示だが、2026年3月期の増収分229億円のほぼ全額が「早期装備化の初度費に係る収益認識」で、産業爆薬は前期並み、機能製品は減収と説明されており、化薬617億円のうち防衛関連が半分を超えた可能性が高い(推定、要一次確認)。2027年3月期は売上1,128億円・営業利益154億円と初度費の計上ピーク(2026・27年度)に入り、2028年度には初度費が収束して売上670億円・営業利益73億円へ戻る。ただし会社は初度費を除く既存製品の販売計画を2025年度100→2028年度115→2030年度175と示し、2031年度以降も設備能力に余地を残すとしており、崖の底は2025年度(売上617億円・営利80億円)より少し低い程度で、そこからは新設備による実需で伸びる設計になっている。
医薬・医療・健康(DDS活性化PEG・機能性脂質・MPCポリマー・機能食品)——利益率30%超の「本当の成長エンジン」が足踏み中。活性化PEGはタンパク質・ペプチド医薬の体内滞留性を高める修飾剤で、日油は世界シェアNo.1。mRNAワクチンやLNPに使われる機能性脂質(SS脂質等)も同じ事業部が担う。市場成長はペプチド・タンパク質医薬が年9%、核酸医薬・遺伝子治療が年42%と高いが、足元は特定顧客(主要3社向け)の医薬品の市場浸透遅延で2026〜27年度にPEG修飾剤の売上が減少する見込み。顧客パイプラインは臨床後期5件・初期14件・前臨床20件以上で、2028年度以降の需要回復と年平均10%成長を会社は見込む。機能性脂質は各バイオベンチャーで臨床検討中だが上市は「2031中計以降」と遠い。2027年3月期の営業利益123億円(▲35億円)はLS愛知工場の固定費が先行したもので、需要が戻れば操業度改善で利益率は30%台に復帰しうる。
機能化学品(界面活性剤・脂肪酸誘導体・有機過酸化物・化粧品原料・防錆)——安定だが原燃料と中東情勢に弱い。2026年3月期は減販▲14億円・固定費▲22億円で営業利益▲30億円の減益。2027年3月期は化粧品関連製品と特殊防錆処理剤の堅調な需要を見込むが、中東情勢に伴う原燃料高で▲4億円、「一部顧客の調達環境悪化と生産計画見直し」が足元で発生しており、終息時期は「想定できない」と会社も認める。2028年度に売上1,770億円・営業利益354億円(+90億円)という計画は、化粧品原料の250億円設備が2027〜28年度に稼働することが前提で、この事業の伸びが中計達成の最大の変数である。

出典:2026年3月期決算説明資料(r08_gyoseki4.pdf)、質疑応答(r08_gyoseki8.pdf)、2028中期経営計画、DDS事業の展開、日油事業構成図(nof.co.jp/company/structure)、whiteorder.net(二次情報)。セグメント営業利益の合計と連結の差は全社費用・消去。
この表が意味すること。2027年3月期の増益は化薬(+74億円)が医薬(▲35億円)と機能化学品(▲4億円)の減益を埋めて余りある形で成り立っている。2028年度の目標570億円は、逆に化薬が▲81億円減る分を機能化学品(+90億円)と医薬(+65億円)で埋めて増益を続ける形だ。投資家が見るべきは「防衛が伸びるか」ではなく「防衛の山が崩れる2028年度に、化学と医薬がその穴を埋める準備ができているか」である。1Qの数字(機能化学品は順調、医薬は遅延)はこの点で明暗が分かれた。

13 / COMPETITIVE POSITION

競争優位性や業界内でのポジション

化薬:国内で推進薬・発射薬を量産できる会社は事実上ひとつ。誘導弾用の固体推進薬、砲弾用の発射薬、ニトロセルロースといったエネルギー材料の国内主力供給者は日油(武豊工場・日本工機)であり、火薬類取締法・爆発物の規制、住宅地に隣接する工場での安全管理、防衛省との数十年にわたる認証実績が参入障壁になっている。同種製品を作る国内企業として日本化薬・細谷火工が挙げられるが、いずれも火工品・信管など周辺領域が中心で、推進薬・発射薬の量産では競合しない。酸化剤の過塩素酸アンモニウム(AP)は国内唯一のカーリットから調達しており、「AP→推進薬→ミサイル」の国内サプライチェーンは、カーリットと日油の2社でほぼ完結している。海外では米国でAES工場爆発(2025年10月)が起き単一供給リスクが顕在化したように、この産業は世界的に供給者が極端に少なく、防衛省が早期装備化の初度費を日油に付けて工場を建てさせているのは、「代替がいないから国が設備を買う」構図そのものである。シェアの数値は非開示だが、Round1-2の分析ではこの点を「国内推進薬・発射薬の主力(A◎)」と評価した。
医薬:活性化PEGで世界シェアNo.1。PEG修飾剤は医薬品の製造承認に紐づく原料であり、一度採用されると原料メーカーの切り替えには再申請が必要になるため、スイッチングコストが極めて高い。日油の強みは、GMP対応の製造設備(川崎DDS工場+LS愛知工場)と、顧客の開発段階から処方設計を支援する体制にあり、パイプライン40件超が将来の需要の裏付けになる。弱みは顧客集中で、主要3社向けの動向でセグメント利益が±30億円動く。
機能化学品:カスタム品で価格を守る中堅。界面活性剤・脂肪酸誘導体・有機過酸化物・化粧品原料・MPCポリマー(コンタクトレンズ・化粧品向け)はいずれも汎用品ではなく顧客仕様のカスタム品で、10年間営業利益率14%以上を維持できた根拠はここにある。ただし個々の製品で世界首位というより「多数のニッチで上位」という構造で、規模で勝る花王・日本触媒・三菱ケミカル等とは競争軸が異なる。総じて日油の業界内ポジションは、「化薬で国策上の代替不能、医薬で世界首位、化学で多ニッチ上位」という3層構造で、どの層も規模より参入障壁で守られている。

出典:Round1-2テーマ分析(防衛・安全保障パラダイム転換)、whiteorder.net(二次情報)、DDS事業の展開(r07_gyoseki2.pdf)、日油事業構成図。防衛向けシェアの公式数値は非開示(未取得)。

14 / SCP ANALYSIS

SCP理論からの分析(市場構造・企業行動・業界トレンド)

Structure(市場構造)

化薬が属する市場は、買い手が防衛省(実質1者)、売り手も国内で日油(実質1者)という双方独占(bilateral monopoly)に近い。この構造では価格は市場ではなく交渉と原価計算方式で決まり、日油の説明どおり「装備品の原価計算方式により売上増加時に利益率が高まる」——つまり利益率は競争ではなく制度が決める。参入障壁は火薬類取締法・立地・認証で極めて高いが、その分、価格決定力の上限も制度で縛られている(2028年度計画の化薬利益率10.9%がその上限の目安)。医薬(活性化PEG)は、供給側が寡占(日油が首位)で買い手が大手製薬・バイオ数社という構造で、参入障壁は医薬品承認への紐づきという規制由来。機能化学品は多数のニッチ市場の集合で、個別には差別化された競争市場。日油は「制度で守られた双方独占」「規制で守られた寡占」「差別化競争」の3つの構造に同時にいる。

Conduct(企業行動・規制リスク)

企業行動の核は、①防衛の需要急増に対して自己資金ではなく初度費(国費)で設備を建てるというリスク移転型の投資を選び、②その山を中計目標に織り込まず「2028年度に収束」と自ら開示し、③化粧品原料250億円・研究所130億円・DDS工場という民生投資と、総還元性向70%以上の自社株買いで利益の使途を分散する、という3点にある。防衛依存を深めない行動は、双方独占の買い手(防衛省)に対する交渉力を保つうえでも合理的である。規制リスクは3方向。第1に火薬工場の安全規制と地域合意。武豊工場は2000年(住民100人超負傷)、2009年(従業員死亡)、2023年・2025年と爆発事故の履歴があり、事故は操業停止・工期遅延に直結する。第2に防衛予算・調達制度の変更。早期装備化は2027〜29年の防衛力整備計画に紐づいており、次期整備計画(2026年末閣議決定見込み)や原価計算方式の変更で利益率が動く。第3に防衛装備移転三原則。輸出5類型の撤廃・緩和が進めば推進薬の輸出という新しい需要が生まれるが、逆に規制が残れば新設備の稼働率は国内需要に依存する。

Performance(業界トレンド・収益性への帰結)

業界トレンドは、①防衛費GDP比2%(弾薬確保約9,000億円/年)と2027〜29年の早期装備化集中、②H3ロケットの打ち上げ再開と民間ロケットによる固体推進薬需要、③GLP-1に代表されるペプチド医薬と核酸医薬の市場拡大、④化粧品原料のアジア需要、の4つが日油の追い風で、⑤原燃料高と中東情勢、⑥自動車減産(エアバッグ用火薬・防錆)が向かい風。SCPの帰結として、日油の収益性は「制度が決める化薬の利益率(10〜14%)」と「参入障壁が決める医薬の利益率(30%超)」の加重平均で決まり、化薬の比率が上がるほど全社利益率は下がる。2027年3月期の営業利益率15.7%への低下はまさにその帰結であり、2028年度に化薬が縮んで機能化学品・医薬が戻れば18.6%へ回復するという会社計画は、構造的に筋が通っている。裏返せば、化薬が計画以上に伸びても全社の利益率は上がらず、企業価値の増分は「利益の絶対額」でしか測れない。
15 / INVESTMENT THESIS

これらの分析結果をもとにした現在の投資妙味

結論。日油は「防衛の山」に賭ける銘柄ではなく、「山が崩れた後も残るもの」——ROIC10%超・営業利益率18%の化学・医薬事業と、国費で建った推進薬工場——に対して、10年中央値並みのPER15倍で入れるかどうかを問う銘柄である。Round1-2の結論(防衛テーマの中期コア2位、2028年度クリフに注意)は今回の精査でも維持できるが、「PER15倍台(2,700円台)で分割」とした買い条件は、株価が2,588円まで下げた現在、すでに満たされている。一方で買い条件のもう一つ、「化薬の四半期営利が会社計画を2四半期連続で下回ったら撤退」については、1Qの化薬進捗14.9%が「下期偏重」で説明できるか、11月の2Qで判定が出る。
強気に見るなら。①予想PER約15.0倍・PBR約2.0倍・配当利回り2.7%は、10年間のPERレンジ(11.7〜20.6倍)の中央値であり、防衛プレミアムは剥落済み。②ROICは10年間一貫してWACC(保守的に7.3%)を1.7〜4.4pt上回り、現預金830億円・有利子負債33億円の財務は、設備投資2,080億円と還元960億円を同時にこなす余力がある。③早期装備化1,400億円は国費で回収される設備であり、完成後は日油の投下資本を増やさずに既存製品の販売を2025年度比1.75倍(2030年度)へ伸ばす土台になる。④活性化PEGの世界首位ポジションとパイプライン40件超は、2028年度以降の年10%成長の裏付けとして残る。⑤総還元性向70%以上・累進配当・1,000万株消却で、EPSは利益横ばいでも増える設計。⑥アナリスト目標株価3,800円(5名平均、stockanalysis)との乖離は+47%。
弱気に見るなら。①2027年3月期は売上+23.7%に対し純利益▲3.8%という「増収減益」予想で、1Qは営業利益▲9.7%・純利益進捗19.4%とその予想すら下振れの懸念がある。②化薬営業利益は2027年3月期154億円→2028年度73億円へ▲81億円のクリフが会社計画に明記されており、2028年3月期(2027年度)が初度費のピーク2年目として通過した後、市場は減益を織り込みに行く。③DDSの回復は「特定顧客の市場浸透」という日油がコントロールできない変数に依存し、2027年3月期の医薬営利123億円は1Q進捗9.9%と最も危うい。④武豊工場の爆発事故履歴(2000・2009・2023・2025年)は、1,400億円の工事と量産を同時に進める局面で最大の非財務リスク。⑤2028中計の設備投資2,080億円は過去10年平均の8倍超で、工期遅延・資材高騰による増額(1,000→1,400億円の前例)が再び起きうる。⑥内需72%で、円安メリットは薄い。
投資妙味の判定。バリュエーションは「防衛の山を除いた実力」に対して割高ではなく、ROIC-WACCスプレッドは10年間プラスで、財務は盤石。したがって2,500〜2,700円のレンジは中期(1〜2年)の分割買いの入り口として合理的だが、投資妙味の源泉は「防衛で利益が急増する」ことではなく、「2028年度のクリフを市場が悲観的に織り込んだときに、機能化学品と医薬の回復と資本圧縮でEPSが崩れないこと」にある。Round1-2で示した「2028年度クリフが市場に意識される前(=2027年後半)に半分利確、クリフで株価が調整した局面で長期ポジションを構築」という時間軸は、今回の分析でも変わらない。撤退条件は、11月の2Q決算で医薬セグメントの営業利益進捗が40%未満、または化薬の通期予想が下方修正された場合。
※本セクションは公開情報に基づく分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
16 / WATCH POINTS & RISKS

今後の注目ポイントやリスク要因

注目ポイント(カタリスト・日付)

2027年3月期 第2四半期決算(2026年11月上旬見込み、前年は11月5日)。医薬セグメントの営業利益進捗が40%に乗るか(通期123億円)、化薬の初度費計上が加速して営利進捗が40%を超えるか。通期予想の修正有無。
次期防衛力整備計画(2026年末の閣議決定見込み)。2027〜29年以降の弾薬・誘導弾の調達数量と、早期装備化枠の継続・拡大。日油の新設備の稼働率を決める。
2028年3月期の会社予想(2027年5月)。初度費ピーク2年目の化薬営業利益と、2028年度クリフの深さがどう示されるか。ここが「半分利確」の判断点。
H3ロケットの打ち上げ再開。宇宙関連製品の出荷回復(1Qは減少)。
DDS主要顧客の医薬品の市場浸透状況と、機能性脂質(LNP用)の臨床進捗。回復が2028年度から前倒しになれば医薬の利益率30%台が早期に戻る。
防衛装備移転三原則の見直し。推進薬・火薬の輸出解禁は新設備の稼働率を押し上げる長期カタリスト。
自己株式取得の進捗と追加設定。総還元性向70%以上の方針のもと、2026年8月決議分(50億円上限)の消化後に次の枠が出るか。
3月末の年度末配当(70円予想の期末35円)と、累進配当の継続。

リスク要因

2028年度の化薬利益クリフ。会社計画で営業利益154億円→73億円(▲81億円)。市場がこれを織り込む時期(2027年後半〜2028年)に株価が調整するリスク。
1Q時点の通期未達リスク。営業利益進捗21.4%、純利益進捗19.4%、経常進捗22.6%(5年平均28.3%)。医薬・化薬の「二重の下期偏重」が計画通り実現しない場合、初の減益・下方修正となりうる。
武豊工場の安全事故。2000年・2009年・2023年・2025年に爆発事故。住宅地隣接型の工場で1,400億円の工事と量産が並行する局面は、事故確率が構造的に高まる。事故は操業停止・工期遅延・初度費計上の後ずれに直結する。
工事コストの再増額と工期遅延。初度費は1,000→1,400億円へ増額済み。資材・人件費の高騰が続けば再増額や工期のずれが起き、収益認識のタイミングが読めなくなる。
DDSの顧客集中。主要3社向けの動向で医薬セグメントの利益が±30億円動く。特定顧客の医薬品の市場浸透遅延は日油がコントロールできない。
原燃料高と中東情勢。機能化学品の原料は石油化学由来で、会社も「終息時期は想定できない」と認める。一部顧客の生産計画見直しが減販につながる。
防衛調達制度の変更。原価計算方式・利益率の見直し、次期整備計画での数量減。双方独占市場では買い手(国)の制度変更が直接利益率を決める。
財務構造の変化。中計は「必要に応じ借入」を明記。実質無借金が崩れる局面ではROICは維持されてもFCFが赤字に振れる年が出る。
自動車減産。エアバッグ用インフレータ火薬(化薬の機能製品)と特殊防錆処理剤(機能化学品)は自動車生産に連動し、1Qでも防錆が低調・機能製品が減収。
SOURCES

出典一覧

https://the-shashi.com/tse/4403/current/
https://the-shashi.com/tse/4403/
https://the-shashi.com/tse/4403/segment/
https://azcms.ir-service.net/DATA/4403/ir/140120260804508740.pdf
https://azcms.ir-service.net/DATA/4403/ir/140120260508520276.pdf
https://www.nof.co.jp/files/ir/library/briefing-materials/r08_gyoseki4.pdf
https://www.nof.co.jp/files/ir/library/briefing-materials/r08_gyoseki5.pdf
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https://kitaishihon.com/company/4403/business
https://www.zaikei.co.jp/article/20260918/870672.html

未取得項目:防衛向け売上の公式比率(非開示)、化薬セグメントの10年営業利益系列(2025/3期以前は集計元に未掲載、会社IR一次資料での確認が必要)、株価取得時点の時価総額の公式値(概算で代替)、保有株数。
分析日:2026-09-20