4275 東証プライム 化学・火薬/防衛関連

カーリット

1918年創業の爆薬メーカーが、国内で唯一つくれる「過塩素酸アンモニウム(AP)」を武器に宇宙・防衛推進薬へ舵を切った。売上362億円の会社にとって、防衛用推進薬80億円・AP増産25億円という投資は何を意味するのか。「防衛・安全保障パラダイム転換」テーマのミクロ具体として、数字で検証する。

01 / OVERVIEW

スナップショット

株価

2,056円

2026/9/18(株テク)

時価総額

約456億円

2026/9/7 時点(松井証券、発行済22,940千株)

PER(実績/予想)

15.8倍 / 15.1倍

実績EPS130.50円、予想EPS136.03円で算出

PBR / 配当利回り

1.40倍 / 2.0%

2026/9/7(松井証券)/年42円配当÷2,056円

出典:株テク(kabutec.jp、2026/9/18終値2,056円・PER15.1倍)、松井証券(finance.matsui.co.jp、2026/9/7 11:30時点1,986円・時価総額456億円・PBR1.40倍)、stockanalysis(stockanalysis.com、2026/9/4 1,928円・実績PER15.81倍・β0.47)。年初来高値は3,095円(2026/3/2)、安値は1,902円(2026/1/5)で、9月中旬の株価は高値からほぼ3分の1下げた位置にある。時価総額456億円は、Round1-2の除外基準「PERが同業3倍超」(日油15.6倍、東京計器27倍)に抵触せず、テーマ採用1位の前提は現時点でも維持されている。

02 / SEGMENT

事業ごと・国/エリアごとの売上高比率

事業セグメント別 売上高(2026年3月期、セグメント間取引含む)

化学品 219.8億円 / 56.3% 金属加工 73.0億円 / 18.7% エンジニアリングサービス 52.5億円 / 13.5% ボトリング 44.8億円 / 11.5%

事業セグメント別 セグメント利益(2026年3月期)

化学品 18.6億円(利益率8.5%) エンジニアリングサービス 8.0億円(利益率15.1%) 金属加工 6.0億円(利益率8.2%) ボトリング 3.8億円(利益率8.4%)

宇宙・防衛領域(推進薬+AP)売上高の会社イメージ

2026年度(計画) 15億円(全社売上の約4%) 2030年度(イメージ) 45億円 2035年度(イメージ) 95億円

化学品セグメントの内訳(6分野、2026年3月期 売上前期比)

分野主な製品売上前期比テーマとの関係
化薬産業用爆薬、自動車用緊急保安炎筒「ハイフレヤー」、信号焔管+3%火薬類製造の許認可・赤城工場のインフラが推進薬の土台
受託評価危険性評価試験、電池試験▲4%新設備の減価償却で減益
化成品過塩素酸アンモニウム(AP)、塩素酸ナトリウム、過塩素酸、電極▲8%APは宇宙・防衛とも堅調で増収増益。分野全体は塩素酸ナトリウムの減少で減収
電子材料電解コンデンサ用材料+4%ハイエンドサーバー向けがEV鈍化を補う
セラミック材料研削砥粒▲9%国内砥粒需要の弱さ
シリコンウェーハ4〜6インチのニッチ領域+7%増収だが在庫調整・稼働低下で減益

出典:カーリット2026年3月期決算短信(2026/5/15、Yahoo!ファイナンス開示PDF)、決算説明会資料QA追記版(2026/5/22)、財経新聞/フィスコ(2026/4/13)。構成比はセグメント売上合計390.1億円に対する比率で、連結売上高362.5億円との差はセグメント間取引の消去。
この数字が意味すること。「防衛関連株」として語られるカーリットだが、宇宙・防衛領域(推進薬+AP)の売上は会社自身のイメージで2026年度15億円、全社売上の約4%にすぎない。残りの96%は爆薬・発炎筒・塩素酸ナトリウム・研削砥粒・金属加工・PETボトル受託充填・塗装工事といった、成熟した内需型事業の集合体である。つまりこの銘柄は「防衛で稼ぐ会社」ではなく、「成熟事業のキャッシュで、国内唯一の火薬類インフラを宇宙・防衛向けに転用しようとしている会社」と定義するのが正確だ。2035年度95億円のイメージが実現しても全社売上の2割強にとどまる。なお化学品の6分野別の絶対額は会社が開示しておらず(前期比のみ)、AP単独の売上高は未取得である。国・エリア別売上高は、有価証券報告書で本邦以外の外部顧客売上が全体の10%未満のため記載が省略されているとみられ、未取得とする(過塩素酸の海外需要に言及があるため輸出はゼロではない)。

03 / HISTORY

創業からの歴史

起点は1916年、浅野財閥の初代浅野総一郎がスウェーデン・カーリット社から爆薬「カーリット」の極東における製造販売特許権を取得したことにある。1918年に浅野同族株式会社に製薬部を新設して特許を取得し、1919年に横浜市保土ヶ谷区に工場を建てて製造を開始。1920年に(旧)日本カーリット株式会社を設立し、1934年に浅野カーリット株式会社を創立して群馬県に原料工場を建設した。塩を原料とする爆薬を国産化したという出自が、「塩素酸塩・過塩素酸塩の電解製造」という同社の技術的な背骨を決めている。
1949年に東京証券取引所へ上場、1951年に社名を日本カーリットに改めた。1953年には群馬県に自家用水力発電所(広桃発電所)を建設している。電解に大量の電力を要する事業ゆえに電源を自前で持ったという判断は、100年後のいまも赤城・群馬拠点のコスト構造に効いている。1955年8月2日、保土ヶ谷工場で21人が死亡する爆発事故が起きた。火薬類を扱う企業として最大の負の記憶であり、以後の安全文化と受託評価(危険性評価試験)事業の原点でもある。1956年にパルプ漂白用二酸化塩素発生装置を開発し、1964年に過塩素酸アンモニウムの製造を開始。1966年には保土ヶ谷工場に緊急保安炎筒「ハイフレヤー」の製造設備を新設し、現在も国内登録自動車への搭載率80%を持つ製品となった。1994年にシリコンテクノロジーを設立、1995年に赤城工場を建設して火薬類の製造を開始。2010年にジェーシーボトリングを設立し、飲料受託充填へ参入した。
2013年10月、日本カーリットの単独株式移転により純粋持株会社カーリットホールディングスを設立。2014年に東洋発條工業(金属ばね)を子会社化、2016年には三協実業への資本参加と、日本カーリット・第一薬品興業・日本研削砥粒の3社合併を実施した。2022年3月期に収益認識基準を適用し、ボトリングの受託充填を純額計上へ切り替えたことで連結売上は455億円から339億円へ「見かけ上」縮小している。2022年4月にプライム市場へ移行。2024年7月に商号を株式会社カーリットへ変更し、同年10月に日本カーリットとシリコンテクノロジーを吸収合併して事業持株会社体制へ移行した。そして2025年3月に中期経営計画「Challenge2027」で宇宙・防衛固体推進薬を「重点領域」に指定、同年12月に事業説明会を開いて防衛用固体推進薬製造設備80億円を公表した。爆薬の国産化から107年、同社は再び「国が必要とするエネルギー材料」に戻ってきたことになる。

出典:カーリット公式サイト 沿革(carlit.co.jp/corporate/history.html)、Wikipedia「カーリット (企業)」(ja.wikipedia.org)、閨閥学 歴代社長(keibatsugaku.com/carlit)。

04 / MISSION, VISION, VALUE

ミッション・ビジョン・バリュー

同社の自己定義は「豊かな暮らしに貢献するカーリットグループ」であり、化学品を核に金属加工・ボトリング・エンジニアリングを束ねた「ものづくりの複合体」として自らを位置づけてきた。ミッション・ビジョン・バリューを三段構えで明文化した資料は今回の取得範囲では確認できず(未取得:公式サイトの経営理念ページが取得不能)、代わりに中期経営計画「Challenge2027」(2025年3月策定、2026年5月ローリングプラン2026)が事実上のビジョンとして機能している。
その中身は明快だ。事業を「重点領域(宇宙・防衛固体推進薬)」「注力領域」「育成領域」「基盤領域」の4層に分け、2025〜2027年度の設備投資総額210億円のうち重点領域に90億円(うち防衛用固体推進薬製造設備70億円)、注力領域20億円、育成領域25億円、基盤領域75億円を配分する。数値目標は営業利益で2026年度32億円、2027年度42億円、ROEはChallenge2027最終年度(2028年3月期)に8.5%。2030年度50億円・2035年度60億円という長期の営業利益目標は当初計画で掲げていたが、ローリングプラン2026では「外部環境を見極め、検討中」と一時保留になった。株主還元は総還元性向40%以上(従来30%から引き上げ)、配当は業績連動型を基本とする。
この方針が意味すること。売上362億円・営業利益35億円の会社が、3年で210億円を投資するというのは、年間営業CF(直近5年平均約27億円)の2.5倍を使う計画であり、有利子負債調達70億円が織り込まれている。つまり「Challenge2027」は保守的な内需企業が初めてバランスシートを使って成長に賭ける計画であり、宇宙・防衛を「重点領域」と呼ぶ言葉以上に、資本配分の変化そのものがこの会社のビジョンの転換を示している。一方で2030年以降の目標を保留したことは、防衛需要の見通しに会社自身も確度を持ち切れていない証拠でもある。

出典:中期経営計画Challenge2027 ローリングプラン2026(2026/5/15開示PDF)、2026年3月期2Q決算説明会資料(2025/11/28)、財経新聞(2026/4/13)。

05 / LEADERSHIP

現経営者の特徴・過去の実績(レジリエンスの観点)

代表取締役兼社長執行役員は金子洋文(かねこ・ひろふみ)氏、1960年4月30日生まれの66歳。1984年に日本カーリットへ入社した生え抜きで、2015年に事業会社・日本カーリットの社長、2020年にカーリットホールディングスの3代目社長(初代・出口和男氏2013〜2016年、2代目・広橋賢一氏2016〜2020年)に就いた。2024年の商号変更・事業持株会社化を経て現職。保有株式は370百株(約3.7万株、時価約7,600万円)で、オーナー型ではなくサラリーマン経営者である。財務・法務担当の取締役兼常務執行役員は岡本英夫氏(1961年生)で、富士銀行(現みずほ銀行)出身、2013年に法務・コンプライアンス責任者として入社した銀行系CFOだ。取締役は男性8名・女性2名、社外取締役3名。
レジリエンスの観点で見た実績。金子氏がHD社長に就いた2020年は、コロナ禍の直撃で純利益が6.9億円(前期比▲56%)、ROE2.6%まで落ちた年である。ここからの5年間で同氏が行ったことは、派手な買収ではなく財務の掃除だった。有利子負債は2019年3月期の105.6億円から2025年3月期に12.8億円まで圧縮し、自己資本比率は49.8%から70.7%へ引き上げた。同時に「適正価格の反映」を全社で徹底し、売上がほぼ横ばい(362〜369億円)のまま営業利益率を2021年3月期の3.5%から2026年3月期の9.5%へ、2.7倍に引き上げている。2022年の収益認識基準適用でボトリングの売上が純額化し「減収」に見えた局面でも、実質を投資家に説明しながら利益率改善を進めた。危機に対して「縮めて、固めて、価格を取る」という経営は地味だが、その結果として無借金に近いバランスシートを作ったからこそ、2025年に210億円の投資計画を打ち出せた。財務を固めてから攻めるという順序は、火薬類という事故リスクの高い事業を100年扱ってきた企業文化と整合的である。
懸念材料は2つある。第1に、金子氏は2020年からの「守りの局面」では成果を示したが、防衛用推進薬という新規事業の立ち上げ(2027年度建屋完成、2028年度検収・初度費計上、以降本格量産)は就任以来初めての「攻めの局面」であり、実行力は未検証である。第2に、66歳という年齢と、2028年以降に本格化する量産フェーズの時間軸を考えると、後継体制の開示が今後の論点になる。取締役会に防衛・宇宙分野の知見を持つ社外取締役がいるかどうかは今回の取得範囲では確認できなかった(未取得)。

出典:キタイシホン 社長・役員(kitaishihon.com、2026年6月24日有報提出時点)、日本経済新聞「カーリットホールディングス社長に金子氏」(2020年1月)、閨閥学(keibatsugaku.com/carlit)、各期決算短信。

06 / LATEST EARNINGS

直近決算の予想・ガイダンスに対する結果

2026年3月期 通期:会社予想 vs 実績

指標期初予想(2025/5)修正予想(2025/11/12)実績期初予想比前期比
売上高390.0億円380.0億円362.5億円▲7.1%▲1.8%
営業利益31.0億円35.0億円34.6億円+11.6%+13.5%
経常利益33.5億円37.0億円37.6億円+12.1%+13.1%
親会社株主帰属当期純利益27.0億円28.5億円29.8億円+10.2%+15.8%
営業利益率7.9%9.2%9.5%+1.6pt+1.3pt
年間配当36円42円+6円+6円

2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月):実績と通期会社予想に対する進捗

指標1Q実績前年同期比通期会社予想進捗率通期予想の前期比
売上高86.5億円±0.0%372.0億円23.3%+2.6%
営業利益2.6億円▲42.7%32.0億円8.0%▲7.5%
経常利益3.9億円▲33.7%33.0億円11.7%▲12.1%
親会社株主帰属四半期純利益0.7億円▲77.0%30.0億円2.3%+0.8%
セグメント:化学品売上54.1億円 / 利益2.0億円売上+1.9%売上240億円 / 利益21億円利益9.7%利益+2.4億円
セグメント:ボトリング売上6.6億円 / 利益▲3.7億円売上▲28.7%売上未取得 / 利益0円利益▲3.8億円
セグメント:金属加工売上19.0億円 / 利益1.8億円売上+1.8%利益6.2億円28.5%+0.2億円
セグメント:エンジニアリングS売上10.4億円 / 利益2.1億円売上▲13.7%利益6.5億円31.5%▲1.5億円
2026年3月期は「減収増益」で着地した。売上は期初予想を7%下回ったが、営業利益は期初予想を12%上回り、4期ぶりに営業利益率9%台を回復した。売上未達の主因は化成品(塩素酸ナトリウム)とセラミック材料の減少、シリコンウェーハの在庫調整で、増益の主因は化薬の「適正価格の反映」と化学品セグメント利益の+25.8%。過塩素酸アンモニウムは宇宙開発用途・防衛用途の両方が堅調で増収増益と会社は明記しており、11月の上方修正もこの流れを織り込んだものだった。期初予想の売上390億円は、化学品の需要を強気に見過ぎた結果で、同社のガイダンスは「売上は楽観、利益は保守的」という癖がある点を覚えておきたい。
一方、2027年3月期第1四半期は営業利益2.6億円(▲42.7%)、純利益0.7億円(▲77%)と数字だけ見れば急ブレーキだが、中身はボトリングのPET製造ライン改修(2026年4〜12月、1ラインを第3四半期まで停止)による一時的な赤字3.7億円が大半で、会社計画(ボトリング通期利益ゼロ)の範囲内である。化学品は売上+1.9%、AP(ロケット・防衛用推進薬原料)は「宇宙開発用途および防衛用途需要の両方が堅調に推移し、増収増益」と2期連続で明記された。通期予想(営業利益32億円、▲7.5%)は据え置きで、減益要因はボトリング改修▲3.8億円とエンジニアリング▲1.5億円、化学品は+2.4億円の増益計画。営業利益進捗率8.0%は例年より低く、下期偏重の計画であることは11月の2Q決算で必ず確認する必要がある。なおIFIS集計のアナリスト・コンセンサスは営業利益36.3億円と会社予想を13%上回っており、市場は会社計画の保守性を織り込んでいる。

出典:2026年3月期決算短信(2026/5/15)、2027年3月期第1四半期決算短信(2026/8/7)、2025年3月期決算短信の次期予想(2025/5/15)、2026年3月期2Q決算説明会資料の修正予想(2025/11/28)、決算説明会資料QA追記版のセグメント別営業利益計画(2026/5/22)、IFIS株予報(kabuyoho.ifis.co.jp)。

07 / REVENUE & PROFIT

売上高・利益の推移(直近10年間)

売上高(FY2018〜FY2026、3月期、億円)※FY2022以降は収益認識基準適用後

518 FY18 540 FY19 497 FY20 455 FY21 339 FY22 360 FY23 366 FY24 369 FY25 362 FY26

営業利益(億円)

20.3 FY18 23.3 FY19 未取得 FY20 15.7 FY21 25.1 FY22 26.4 FY23 33.5 FY24 30.5 FY25 34.6 FY26

経常利益(億円)※税引前利益の代替。同社は日本基準で経常利益を開示

21.8 FY18 25.5 FY19 17.3 FY20 17.7 FY21 27.4 FY22 29.1 FY23 36.0 FY24 33.2 FY25 37.6 FY26

親会社株主に帰属する当期純利益(億円)

15.1 FY18 15.8 FY19 6.9 FY20 12.3 FY21 23.4 FY22 22.5 FY23 26.0 FY24 25.7 FY25 29.8 FY26

営業利益率(%)

3.9% FY18 4.3% FY19 未取得 FY20 3.5% FY21 7.4% FY22 7.3% FY23 9.2% FY24 8.3% FY25 9.5% FY26

10年データ表(百万円)

決算期売上高営業利益経常利益純利益営業利益率EPS(円)自己資本比率
2017/3未取得(The社史・IRBANK・株探・バフェットコードがいずれも取得不能。2018年3月期決算短信の比較欄が未入手)
2018/351,7852,0282,1761,5063.9%63.6547.4%
2019/354,0492,3282,5511,5794.3%66.7049.8%
2020/349,745未取得1,732690未取得53.6%
2021/345,5371,5741,7701,2313.5%51.8256.9%
2022/333,8942,5062,7422,3367.4%98.3161.7%
2023/336,0082,6402,9102,2467.3%94.5564.8%
2024/336,5773,3523,6002,5989.2%109.9166.7%
2025/336,9143,0463,3202,5708.3%109.0770.7%
2026/336,2473,4593,7552,9769.5%130.5069.0%
2027/3(会社予想)37,2003,2003,3003,0008.6%133.61

出典:カーリットホールディングス2019年3月期決算短信(JPX開示PDF、2018/3・2019/3)、2022年3月期決算短信(magicalir、2021/3・2022/3)、有価証券報告書 第10期(2023/6/29提出、主要な経営指標 2019/3〜2023/3)、松井証券(2022/3〜2026/3)、2026年3月期決算短信。
この数字が意味すること。売上高は2019年3月期の540億円から2026年3月期の362億円へ「減った」ように見えるが、2022年3月期の収益認識基準適用でボトリング売上(2021年3月期166億円→2022年3月期44億円)が純額計上になった影響がほぼすべてで、実質の売上は横ばいである。注目すべきは利益の側だ。営業利益は2021年3月期15.7億円から2026年3月期34.6億円へ2.2倍、営業利益率は3.5%から9.5%へと、売上が伸びないなかで利益だけが伸びた。これは典型的な「価格転嫁と事業の選別」による利益率改善であり、成長株の利益成長とは質が異なる。裏を返せば、9.5%の利益率は「絞り切った」水準に近く、ここから先の増益は宇宙・防衛の売上増(2026年度15億円→2030年度45億円)という量の成長に依存する構造に変わる。2027年3月期は一時要因(ボトリング改修)で減益予想だが、改修完了後の2028年3月期には反動増が見込めることも押さえておきたい。

08 / VALUATION

PERの推移(直近10年間)

期末PER(有価証券報告書開示値、倍)

11.6倍 16.0倍 14.1倍 6.7倍 7.3倍 FY18 FY19 FY20 FY21 FY22 FY23 FY24 FY25 FY26

PER関連データ

時点PER算出方法備考
2019/3期末11.6倍有報開示(期末株価÷EPS66.70円)利益率4%台の「内需化学・素材株」評価
2020/3期末16.0倍有報開示コロナ禍でEPS急減、倍率は上昇
2021/3期末14.1倍有報開示(EPS51.82円)
2022/3期末6.7倍有報開示(EPS98.31円)利益倍増でPER急低下、市場は評価せず
2023/3期末7.3倍有報開示(EPS94.55円)PBR1倍割れ圏
2024/3・2025/3期末未取得期末株価が取得不能次回更新時に反映
2026/3/2(年初来高値)23.7倍3,095円÷実績EPS130.50円防衛テーマのピーク
2026/9/1815.8倍 / 予想15.1倍2,056円÷実績EPS130.50円 / 予想EPS136.03円高値から34%調整
10年のPER推移が語るのは、市場の「見方の変化」そのものである。2022〜2023年3月期は営業利益が倍増したにもかかわらず期末PERは6.7〜7.3倍と、市場は「ボトリングと金属加工を抱えた地方の内需化学株」としてしか見ていなかった。それが2025年3月の中計で宇宙・防衛を重点領域に指定し、同年12月の事業説明会で80億円の推進薬設備を公表すると、2026年3月には3,095円・PER23.7倍まで買われた。つまり過去3年で起きたのはEPSの成長(94.55円→130.50円、+38%)よりもPERの拡張(7.3倍→15.8倍、2.2倍)であり、株価上昇の3分の2は「防衛銘柄への格上げ」による評価替えである。現在の15.8倍は、拡張したPERが半分ほど戻った位置にあり、「格上げが定着するか、内需化学株の7倍に戻るか」の分岐点にいる。会社予想EPS136円に対する予想PER15.1倍は、日油(15.6倍)と同水準で、東京計器(27倍)や日本製鋼所(25.8倍)より明確に安い。

出典:有価証券報告書 第10期 主要な経営指標(株価収益率の開示値)、株テク(2026/9/18)、松井証券(年初来高値)。※2018/3および2024/3・2025/3の期末PERは期末株価の取得ができず未取得。推測値による作図は行っていない。

09 / CAPITAL RETURNS

ROIC・WACC・ROEの推移

ROE(会社開示)・ROIC(概算)・WACC(概算)の推移(%)

6.1% 6.0% 2.6% 4.5% 7.8% 7.0% 7.4% 6.9% 7.7% 4.0% 4.4% 3.0% 5.0% 6.0% 5.5% 5.4% 5.0% 5.0% 5.0% 5.0% 5.0% 5.0% 5.0% 5.0% 5.0% FY18 FY19 FY20 FY21 FY22 FY23 FY24 FY25 FY26 ROE ROIC(概算) WACC(概算・β0.47)

ROIC・WACC・スプレッドの試算表(百万円)

年度営業利益NOPAT(税率30%)純資産有利子負債投下資本ROICROE(開示)WACC(β0.47)スプレッド
2018/32,0281,42025,6889,56535,2534.0%6.1%約5.0%▲1.0pt
2019/32,3281,63026,75210,55737,3094.4%6.0%約5.0%▲0.6pt
2020/3未取得26,209未取得2.6%約5.0%
2021/31,5741,10228,9777,89636,8733.0%4.5%約5.0%▲2.0pt
2022/32,5061,75430,9034,38635,2895.0%7.8%約5.0%±0.0pt
2023/32,6401,84833,179未取得7.0%約5.0%
2024/33,3522,34636,7752,01538,7906.0%7.4%約5.0%+1.0pt
2025/33,0462,13237,4791,28038,7595.5%6.9%約5.0%+0.5pt
2026/33,4592,42139,7934,80544,5985.4%7.7%約5.0%+0.4pt

試算方法:ROIC=NOPAT÷投下資本。NOPAT=営業利益×(1−30%)(同社の実効税率は年により20%台だが保守的に法定実効税率で統一)。投下資本=純資産+有利子負債(期末)。WACCはCAPMで、リスクフリーレート2.9%(日本10年国債利回り、2026年8月28日)、マーケットリスクプレミアム5.5%、β0.47(stockanalysis掲載値)、負債コスト1.0%(インタレスト・カバレッジ82.6倍から極めて低利と判断、税引後0.7%)、資本構成は時価総額456億円:有利子負債48億円=90.5:9.5で計算し、株主資本コスト5.49%、WACC約5.0%。ただしβ0.47は防衛テーマ化前の低ボラティリティを反映した値であり、βを0.8に置けば株主資本コスト7.3%・WACC約6.7%となり、ROIC5.4%に対してスプレッドは▲1.3ptに転じる。
この数字が意味すること。ROICは2021年3月期の3.0%から2024年3月期に6.0%まで改善し、その後5.4〜5.5%で横ばいだ。ROE7.7%は自己資本比率69%という無レバレッジ状態での数字であり、ROE8.5%という中計目標も、ROIC改善よりむしろ自己株式取得(2025年5月10億円・11月5億円・2026年5月10億円、以降さらに10億円)による分母圧縮の寄与が大きい。ROICがWACCを上回るかどうかはβの置き方ひとつで結論が変わる「損益分岐点ぎりぎり」の水準にあり、2026年3月期に投下資本が58億円増えた(防衛・AP投資の先行)ことでROICは早くも低下し始めている。今後2年間は投下資本が先に膨らみNOPATが遅れて付いてくる「ROICの谷」が続くことを、投資家は前提として織り込む必要がある。2028年度に初度費(80億円相当)が売上・利益計上される局面で一時的にROICが跳ね、その後の量産採算で真の水準が決まる。

10 / CASH FLOW

営業・投資・財務・フリーキャッシュフローの推移(直近10年間)

キャッシュフロー4種(FY2018〜FY2026、億円)

FY18 FY19 FY20 FY21 FY22 FY23 FY24 FY25 FY26 営業CF 投資CF 財務CF FCF

キャッシュフロー表(百万円)

決算期営業CF投資CF財務CFFCF(営業+投資)現金同等物期末有利子負債期末
2017/3未取得
2018/32,880▲1,633▲1,1551,2479,565
2019/32,848▲1,832▲9531,0164,28610,557
2020/32,899▲1,145▲1,4241,7544,622未取得
2021/34,193▲1,135▲2,1873,0585,4967,896
2022/33,063▲984▲3,9812,0793,5894,386
2023/32,064▲65▲1,7841,9993,809未取得
2024/32,155▲1,373▲1,8397822,7532,015
2025/34,696▲991▲1,6993,7054,7681,280
2026/31,660▲3,476+886▲1,8163,8374,805
2027/3 1Q四半期CF計算書は非開示+737(前期末比)

出典:2019年3月期決算短信(JPX)、2022年3月期決算短信(magicalir)、有価証券報告書第10期(2019/3〜2023/3)、2025年3月期決算短信(minkabu)、2026年3月期決算短信、2027年3月期1Q決算短信。
この数字が意味すること。2018〜2025年3月期の8年間、同社は一度もFCFをマイナスにせず、通算で約156億円のFCFを生み、そのほぼ全額を借入返済(有利子負債105.6億円→12.8億円)と株主還元に充てた。2026年3月期に初めてFCFが▲18億円に転じ、財務CFが8.9億円の流入(借入)になったのは、AP増産第2・3期工事と防衛用推進薬設備の先行投資が始まったからで、この会社にとって「借りて投資する」のは10年ぶりの出来事である。設備投資の資金源を整理すると、Challenge2027の3年間210億円に対し、①営業CF(年20〜47億円、3年で60〜100億円程度)、②有利子負債調達70億円(計画)、③防衛用推進薬設備80億円は国から顧客経由で拠出される初度費で全額充当(2028年度に受領・売上計上予定)、という三層構造になっている。つまり最大の投資案件は会社のキャッシュではなく国のキャッシュで賄われ、会社が自腹で負うのはAP増産25億円と周辺投資だ。これは財務リスクを大幅に下げる一方、初度費の受領時期(2028年度)までの2年間はFCFマイナスと有利子負債増加が続くことを意味し、2026年3月期時点で現金同等物38億円・有利子負債48億円とネットデット状態に入っている。自己株式取得(年10〜15億円)を続けながらこれを乗り切れるかどうかが、財務面の観測点である。

11 / INVESTMENT & M&A

直近の投資・M&A状況

過塩素酸アンモニウム(AP)増産:総額約25億円、3期工事。第1期約5億円(完了、2023年時点比1.6倍の製造量に到達)、第2期約5億円(進行中)、第3期約15億円(進行中)で、完成時に2023年時点の最大生産能力の2〜3倍へ。2027年4月稼働開始(1Q短信では2027年3月完成)。用途はH3ロケット固体ブースター、イプシロン、民間ロケット(カイロス)、防衛関連製品(各種誘導弾の固体推進薬)、従来からの花火・玩具煙火・発炎筒。会社は「設備投資は完成しないものの、需要や単価の上昇を見込んでおり、成長ドライバーの一つ」と説明しており、増産前の2026年度からすでに単価引き上げが効き始めている点が重要である。
防衛用固体推進薬製造設備:総額約80億円、赤城工場、2028年〜製造開始。2027年度に建屋・設備完成、試験販売を経て検収、初度費は2028年度に受領し会計上も2028年度に売上・利益計上。会社は「初度費は、弊社のお客さまを通じて国から拠出された費用が充当」「全額が充当される見込み」と明言している。生産規模は「2028年度 数億円規模から開始。以降は未定」。これは同社がこれまで手がけてきた「推進薬の原料(AP)」から一段川下の「推進薬そのもの」への垂直統合であり、国内の推進薬供給が日油武豊工場に集中する現状(Round1-2の分析参照)に対して、国が意図的に第2供給源を作ろうとしていると読める。顧客名・契約相手・受注残は「経済安全保障上の理由から非開示」で、受注残は引き続き未確認である。
その他の投資と資本政策。ボトリングのPET製造ライン更新(2026年12月完了予定、改修中1ライン停止)、受託評価の新試験設備(減価償却増で2026年3月期は減益要因)。M&Aは2014年東洋発條工業、2016年三協実業以降、大型案件はなく、直近3年は自社株買いが主要な資本政策(2025年5月10億円、11月5億円、2026年5月18日に9.998億円・36.49万株、2Q〜3Qにさらに10億円)。政策保有株式の縮減状況は今回の取得範囲では未取得。主要株主にみずほ信託(丸紅退職給付信託口)8.3%、日油3.8%、長瀬産業、関東電化工業、ダイソーが並んでおり、日油は株主であると同時にAPの需要家(推進薬メーカー)でもあるという関係にある。

出典:宇宙・防衛固体推進薬事業説明会資料QA追記版(2025/12/19)、2026年3月期決算説明会資料QA追記版(2026/5/22)、2027年3月期1Q決算短信(2026/8/7)、有価証券報告書第10期 大株主の状況、株探ニュース(2026/4/13)。

12 / SEGMENT GROWTH

主要事業ごとの成長性

セグメント別 前期比成長率(FY2025 → FY2026)と2027年3月期計画

セグメント売上高前期比セグメント利益前期比利益率FY2027利益計画
化学品219.8億円▲2.0%18.6億円+25.8%8.5%21.0億円(+2.4億円)
金属加工73.0億円+1.0%6.0億円+18.5%8.2%6.2億円(+0.2億円)
エンジニアリングサービス52.5億円+19.1%8.0億円▲3.3%15.1%6.5億円(▲1.5億円)
ボトリング44.8億円▲1.0%3.8億円+9.6%8.4%0円(▲3.8億円、改修)
化学品(売上構成比56%、利益の51%)。この会社の成長性はこのセグメントの中の「化成品」分野、さらにその中のAPにほぼ集約される。AP関連の成長イメージは2026年度15億円→2030年度45億円→2035年度95億円で、4年で3倍、9年で6.3倍という会社の描く曲線は、国内ロケット打上げ本数の増加(2024年5本)と、「防衛用ロケット(各種誘導弾)に配分される防衛費は数兆円」という2つの需要を根拠にしている。ただし化成品分野全体は塩素酸ナトリウム(紙パルプ漂白用、構造的縮小)の減少で▲8%であり、APの成長が塩素酸ナトリウムの縮小に相殺される局面がしばらく続く。化薬(爆薬・発炎筒)は価格転嫁で増益だが石灰石採掘需要の減少で数量は減少、電子材料はAIサーバー向けコンデンサ材料が成長、シリコンウェーハは在庫調整中、受託評価は電池試験需要が旺盛ながら設備償却負担が重い。化学品の6分野はいずれも国内ニッチで、AP以外に構造的な成長分野はないと見るのが公平である。
エンジニアリングサービス(利益率15.1%)。塗装・建設・構造設計で、利益率は全セグメント中最高だが、2026年3月期の増収は「内部工事の増加」、すなわちグループ自身のAP・推進薬設備工事の取り込みによるもので、外部競争は激しく利益は減少。2027年3月期も▲1.5億円の減益計画。成長セグメントではなく、設備投資期の内製部門として見るべきだ。
金属加工(東洋発條ほか)とボトリング(ジェーシーボトリング)。金属加工は炉用アンカー・集塵機リテーナが製油所の定修需要で堅調、ばね・プレスは建機・自動車次第で、利益率8%台の安定事業。ボトリングはPET受託充填で、2027年3月期は9カ月の改修で利益ゼロ計画、1Qですでに▲3.7億円。改修完了後の2028年3月期には利益4億円弱の反動増が期待できるが、成長性はない。この2つは「宇宙・防衛の投資期間を支えるキャッシュの土台(基盤領域)」であり、中計でも基盤領域に75億円の維持投資が割り当てられている。

出典:2026年3月期決算短信、決算説明会資料QA追記版(セグメント別営業利益計画 化学品1,858→2,100、ボトリング378→0、金属加工602→620、エンジニアリングS 795→650百万円)、事業説明会資料。利益率=セグメント利益÷セグメント売上高(セグメント間取引含む)。

13 / COMPETITIVE POSITION

競争優位性や業界内でのポジション

主要製品の市場ポジション(会社・報道開示値)

製品ポジション根拠堀の性質
過塩素酸アンモニウム(AP)国内シェア100%(国内唯一の工業製造設備)財経新聞/フィスコ 2026/4火薬類取締法・爆発物の許認可、電解技術、1964年からの製造実績、再認証コスト
自動車用緊急保安炎筒国内登録自動車への搭載率80%同上法定装備品の認証、自動車メーカーとの長期取引
塩曹系除草剤マーケットシェア40%同上塩素酸ナトリウムの派生
シリコンウェーハ4〜6インチのニッチ領域でオンリーワン同上大手が撤退した旧世代径への特化
塩素酸ナトリウムシェア未取得紙パルプ需要の縮小で市場自体が縮む
本質的な堀はAPの「代替不能性」にある。固体推進薬は重量の6〜7割が酸化剤(AP)で占められ、Round1-2で確認したとおり、AP の配合や供給者を変えると推進薬・モーター・ミサイル全体の再認証が必要になる。米国でもAPの工業供給者はAMPAC1社に事実上集中しており、日本ではカーリットが唯一である。この構造は「競合が参入しない」のではなく、「参入しても顧客が切り替えられない」という需要側の粘着性に支えられており、スイッチングコストが国家の装備認証プロセスそのものであるという点で、通常の化学品よりはるかに深い堀だ。加えて火薬類取締法上の製造許可、爆発物を扱う立地(群馬・赤城)、1955年の事故を経て築いた安全管理体制は、新規参入者が短期間に複製できるものではない。
ただし堀の「幅」は狭い。APの国内市場規模は会社イメージで2026年度15億円(推進薬含む)にすぎず、100%シェアの価値は市場が拡大して初めて意味を持つ。輸入APとの競合可能性については、防衛装備の国産化要件と経済安全保障推進法の特定重要物資の枠組みが事実上の障壁として機能しているが、宇宙用途(民間ロケット)では海外調達の余地がゼロとは言えない。また同社は「原料」の供給者であり、推進薬メーカー(日油など)と最終製品メーカー(三菱重工・IHIエアロスペースなど)の間で価格交渉力がどこまであるかは、「需要や単価の上昇を見込む」という会社の説明以上の開示がなく、単価の推移は未取得である。
業界内ポジション。防衛エネルギー材料のバリューチェーンで整理すると、川上のAP(カーリット、国内唯一)→推進薬・発射薬(日油が主力、カーリットが2028年から参入)→誘導弾・ロケットモーター(三菱重工、IHIエアロスペース、川崎重工)→最終装備(防衛省・JAXA)という流れになる。カーリットは最も川上で最も小さく、時価総額456億円は日油6,081億円の13分の1、三菱重工の286分の1。だが「消えたら止まるもの」の観点では、この最も小さい会社が止まると国産固体推進薬の全体が止まる。この非対称性こそが、Round1-2でカーリットを「HBMになる前の存在」の1位に置いた根拠であり、ボトルネック=ピック&ショベル理論の典型例である。

出典:財経新聞/フィスコ「宇宙・防衛の『重点領域』化で再成長を期す化学メーカー」(2026/4/13)、事業説明会資料(2025/12/19)、Round1-2 テーマ1レポート(AP=固体推進薬重量の6〜7割、米AMPAC単一供給、再認証コスト)。

14 / SCP ANALYSIS

SCP理論からの分析(市場構造・企業行動・業界トレンド)

Structure(市場構造)

同社が属する市場は二層構造になっている。①AP・推進薬市場は「買い手も売り手も1〜2社」の双方独占(bilateral monopoly)である。売り手はカーリット1社、買い手は推進薬メーカー(日油ほか)と防衛省・JAXAに連なる数社。参入障壁は法規制(火薬類取締法)・認証・立地の3重で極めて高く、需要は防衛予算(弾薬確保9,075億円/年、Round1-2)と国内ロケット打上げ計画という「政策変数」で決まる。価格は市場ではなく交渉と原価計算(防衛調達の原価計算方式、初度費制度)で決まり、独占者であっても超過利潤を取りにくい構造だ。②残りの96%を占める爆薬・発炎筒・塩素酸ナトリウム・砥粒・ばね・PET充填・塗装工事は、いずれも成熟した国内寡占〜競争市場で、需要は建設・自動車・紙パルプ・飲料といった内需の景気に連動する。参入障壁は中程度、価格交渉力は「適正価格の反映」を続けられる程度にはあるが、成長はない。この銘柄の評価が難しいのは、①の構造が持つ希少性と、②の構造が持つ凡庸さが同じ損益計算書に同居しているからである。

Conduct(企業行動・規制リスク)

企業行動は3点に集約される。第1に垂直統合による付加価値の取り込み:APという原料から推進薬という中間製品へ川下に進出し(80億円)、国の初度費でその設備を賄うという行動は、自社リスクを最小化しつつ独占的地位を川下へ延ばす合理的な選択である。第2に価格転嫁の徹底:2021年以降、全事業で「適正価格の反映」を進め、売上横ばいで営業利益率を3.5%→9.5%に引き上げた。第3に資本政策の転換:無借金化した後に総還元性向40%と自社株買いを掲げ、同時に有利子負債70億円の再調達を計画する「両利き」の資本配分。規制リスクは表裏一体だ。追い風側は、防衛3文書(2022年)による防衛費GDP比2%化、経済安全保障推進法、装備移転三原則の緩和(輸出5類型撤廃議論)で、いずれも国産APの需要を構造的に押し上げる。逆風側は、①防衛調達の原価計算方式が利益率を制度的に抑えること(独占者でも利益率は「適正利潤」に規定される)、②初度費の受領時期・金額が国の予算執行と検収に依存し、遅延リスクを会社がコントロールできないこと、③火薬類製造の事故リスク(2025年10月に米AESの推進薬工場で16名死亡の爆発事故、Round1-2)、④防衛予算の政治的変動、である。

Performance(業界トレンド・収益性への帰結)

業界のトレンドは明確で、スタンドオフ・迎撃弾の量産(12式改・03式改・PAC/SM系)と国内ロケット(H3、イプシロン、カイロス)の打上げ増加により、固体推進薬とその酸化剤の需要は2027〜2030年に段階的に増える。SCPの帰結として同社に起きるのは、「独占的構造 × 制度で抑えられた価格 × 少量からの立ち上げ」という組み合わせであり、需要が増えても爆発的な利益率の上昇は期待しにくい。会社自身の営業利益目標(2027年度42億円、2026年3月期実績34.6億円から+21%)や宇宙・防衛売上イメージ(2030年度45億円)は、この制度的な制約を織り込んだ「堅実な独占者」の数字だと読める。逆に言えば、収益性の上振れが起きるとすれば、①APの単価が輸入代替・供給制約を背景に上昇する、②初度費のみならず量産段階でも第2供給源として政策的に優遇される、③輸出解禁で海外の推進薬メーカーに供給する、という制度変化のときであり、この銘柄のアップサイドは市場競争ではなく政策によって決まる。逆にボトリングや化薬の内需事業は、市場構造どおり低成長・安定利益にとどまる。
15 / INVESTMENT THESIS

これらの分析結果をもとにした現在の投資妙味

結論。カーリットは「国内唯一の酸化剤供給者」という希少性に対して、市場がいったん付けた評価(PER23.7倍)を3分の2まで剥がした位置にあり、予想PER15.1倍・PBR1.40倍は、防衛テーマ銘柄のなかで最も安い部類に入る。ただし、宇宙・防衛の売上は全社の4%であり、2028年度に初度費が計上されるまで損益計算書には「防衛」がほとんど現れない。この2年間の「数字が出ない期間」を保有できるかどうかが、この銘柄の投資妙味の本質である。
強気に見るなら。①AP国内シェア100%と、推進薬全体の再認証を要する代替不能性は本物で、需要は政策で決まる(防衛費、ロケット打上げ)ため景気循環に依存しない。②2026年3月期・2027年3月期1Qの2期連続で「APは宇宙・防衛とも堅調で増収増益」と会社が明記し、増産完成前から単価上昇が効き始めている。③最大の投資80億円は国の初度費で全額充当され、自己資本比率69%・インタレストカバレッジ82倍の財務が投資期間の耐久力を担保する。④総還元性向40%以上、年10〜15億円の自社株買い(発行済株式の2〜3%)が下値を支える。⑤予想PER15.1倍は日油(15.6倍)と同水準で、東京計器(27倍)・日本製鋼所(25.8倍)より明確に安く、Round1-2のPEG約1.6も、2028年度の初度費計上を織り込めば大きく改善する。⑥2027年3月期はボトリング改修で減益計画だが、2028年3月期には改修完了の反動増(+4億円弱)と初度費が重なり、利益の段差が2期連続で出やすい
弱気に見るなら。①宇宙・防衛の売上は2026年度15億円、2030年度でも45億円のイメージで、全社売上の4〜12%。防衛テーマで買うには「テーマ比率」が低すぎる。②受注残・契約相手・APの単価は経済安全保障を理由に非開示で、投資家は会社の「堅調」という言葉以上の検証ができない。③ROIC5.4%はβの置き方ひとつでWACCを下回る損益分岐点にあり、2026年3月期から投下資本が先行して膨らむ「ROICの谷」に入った。④2027年3月期1Qの営業利益進捗率8.0%は低く、下期偏重の計画が崩れれば、テーマ期待で買った株主の投げが出やすい。⑤2030年度以降の営業利益目標を「検討中」に戻したことは、会社自身が需要の確度を測りかねている証拠。⑥火薬類製造の事故リスクは、利益率の議論を一瞬で無意味にする性質を持つ。⑦96%を占める内需事業(塩素酸ナトリウム、砥粒、ボトリング)は縮小〜横ばいで、化学品の「AP以外」が足を引っ張り続ける。
投資妙味の判定。Round1-2で示した「1,800円台への押し目で分割、2,100円ブレイクで追随」というエントリー条件は、9月18日の2,056円という現在地でも有効である。ただし本稿の分析を加味すると、位置づけは「テーマ株」ではなく「2028年度に利益の段差が見える、財務の固い内需化学株」として持つのが正しく、期待すべきは短期の急騰ではなく、①11月の2Q決算でAPの増収増益が3期連続で確認されること、②12月の事業説明会(2025年は12/19開催)でAP第3期工事の進捗と2028年度の量産規模が具体化すること、③2027年3月期決算で宇宙・防衛セグメントの開示が始まること、の3段階で評価が切り上がるシナリオである。逆に、AP第3期工事の延期、初度費の受領時期の後ろ倒し、2Qでの通期下方修正のいずれかが出た場合は、PERが内需化学株の水準(7〜10倍)へ戻るリスクを想定し、Round1-2のストップロス(買値▲12%)を機械的に適用したい。バリュエーションの根拠として、予想EPS136円×PER15倍=2,040円が現在の適正圏、2028年3月期に改修反動を含めて営業利益42億円(中計目標)が実現した場合のEPSは概算150〜160円(経常45億円・税率25%・自社株買い後の株式数約2,200万株で試算、初度費の利益寄与は含まず)で、同じPER15倍なら2,300円前後、防衛プレミアムが復活してPER20倍なら3,100円前後が試算上の上限になる(いずれも断定ではなく、前提を変えれば変わる数字である)。
※本セクションは公開情報に基づく分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
16 / WATCH POINTS & RISKS

今後の注目ポイントやリスク要因

注目ポイント(カタリストと日付)

2027年3月期 第2四半期決算:2026年11月中旬(2025年は11/12発表)。営業利益進捗率(1Q時点8.0%)が通期32億円に対して40%以上に届くか。APの「増収増益」が3期連続で明記されるか。ボトリング改修の遅延有無。
宇宙・防衛固体推進薬 事業説明会:2026年12月(2025年は12/16開催・12/19資料公開)。AP第3期工事(約15億円)の進捗、2027年4月稼働の確認、防衛用推進薬設備の建屋進捗、2028年度の量産規模の具体化。
2027年4月:AP増産ライン稼働(2023年比2〜3倍)。稼働後2四半期で売上増が確認できるかがRound1-2の中期エントリー条件。
2027年3月期決算(2027年5月):宇宙・防衛の売上開示が拡充されるか、Challenge2027最終年度(2028年3月期)の営業利益42億円計画が維持されるか、2030年度目標が再設定されるか。
2028年度:初度費(80億円相当)の受領と売上・利益計上、防衛用推進薬の製造開始。会計上の利益が一時的に跳ねる年で、市場がこれを一過性と見るか、量産の入口と見るかで評価が分かれる。
⑥ 年末の次期防衛力整備計画・防衛予算(誘導弾・弾薬確保額)、H3ロケットの打上げ回数、装備移転三原則の見直し(輸出解禁)。
⑦ 自社株買いの継続(2Q〜3Qに10億円実施予定)と総還元性向40%以上の維持。

リスク要因

設備投資の遅延・初度費の受領遅延。建屋完成(2027年度)→検収→初度費受領(2028年度)という順序は国の予算執行に依存し、遅れれば有利子負債増加とFCFマイナスが長引く。
防衛調達の価格規律。独占供給者であっても原価計算方式の下では利益率が制度的に抑えられ、「独占=高利益率」という期待は成立しにくい。
開示の壁。受注残・契約相手・AP単価が非開示のため、会社の説明が唯一の情報源。説明が変わったときに投資家が気づくのが遅れる。
火薬類製造の事故リスク。1955年保土ヶ谷工場(21名死亡)、2025年米AES工場(16名死亡)の前例。1件で操業停止・許認可・信用のすべてを失う。
内需事業の縮小。塩素酸ナトリウム(紙パルプ)、研削砥粒、産業用爆薬(石灰石採掘)は構造的に縮小しており、APの成長が相殺される。
ROICの谷。2026年3月期に投下資本が58億円増加しROICは5.4%に低下。βを0.8で置けばWACC6.7%を下回る。市場が資本効率で評価し始めるとPERの再拡張は起きにくい。
テーマ剥落。防衛テーマの過熱が収まれば、2023年3月期のPER7.3倍に象徴される「地方の内需化学株」評価に戻る可能性。年初来高値3,095円から34%下げた現在も、その途上にある可能性は否定できない。
経営者の実行力とサクセッション。金子社長(66歳)は守りの局面で実績を示したが、新規事業の量産立ち上げは未検証。2028年以降の体制開示が課題。
株式需給。発行済2,294万株・時価総額456億円の小型株で、テーマ資金の流出入で株価が実力以上に振れる(2026年7月上旬に2日で+18%、その後2週間で▲12%)。
SOURCES

出典一覧

https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20260515/20260515537471.pdf(2026年3月期決算短信)
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20260807/20260807514239.pdf(2027年3月期第1四半期決算短信)
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20260515/20260515538295.pdf(中期経営計画Challenge2027 ローリングプラン2026)
https://assets.minkabu.jp/news/article_media_content/urn:newsml:tdnet.info:20260522545252/140120260522545252.pdf(2026年3月期決算説明会資料QA追記版)
https://assets.minkabu.jp/news/article_media_content/urn:newsml:tdnet.info:20251219523207/140120251219523207.pdf(宇宙・防衛固体推進薬事業説明会資料QA追記版)
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20251128/20251128510807.pdf(2026年3月期2Q決算説明会資料)
https://assets.minkabu.jp/news/article_media_content/urn:newsml:tdnet.info:20250515554818/140120250515554818.pdf(2025年3月期決算短信)
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https://keibatsugaku.com/carlit/
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55042030Q0A130C2YZ0000/
https://finance.logmi.jp/companies/504
https://finance.logmi.jp/254053(2018年3月期2Q決算説明)
Round1-2 テーマ1レポート:/round1-2/theme1-defense.md(2026-09-20)

分析日:2026年9月20日。株価・時価総額・PERは各出典に記載の取得日時点。未取得項目:2017年3月期の全項目、2020年3月期の営業利益・EPS・有利子負債、2023年3月期の有利子負債、2024・2025年3月期の期末PER、国・エリア別売上高、化学品6分野の売上絶対額、AP単独の売上高・単価、受注残、政策保有株式の縮減状況、MVVの原文、経営理念ページ。