STUDY REPORT / 2026年9月度 勉強会

質問の技術:問題と問い――「壁打ち」をやめて「ラリー」で知識を引き出す

講師:前田氏 / 進行・コメント:マイキー氏 / 質疑:参加者各位
EXECUTIVE SUMMARY

エグゼクティブサマリー

2種類
質問の型:「問題」(正解確認)と「問い」(知識の引き出し)
3条件
問いの前提:前提の共有・対象の明確化・形式の明確化
3機能
良い問いの働き:知識の引き出し・知識の交換・疑問の創出
壁打ち
多くの人がやっている「会話のつもり」の正体
共有≠同意
コミュニケーションの語源は「共有」。同意も共感も必須ではない
情報+感想
多くの人が質問だと思い込んでいるが、質問ではないもの

本パートは、前田氏が「なぜわざわざ質問の話をするのか」という問いから始めた講義である。前田氏によれば、組織の知識創造を説明するSECIモデルは会話とコミュニケーションを土台にしており、質問ができなければそもそもモデルが回らない。質問の技術は、SECIモデルを理解・実践するための前提条件として位置づけられている。

講義の骨格は二つの区別にある。一つは「会話」と「壁打ち」の区別である。相手の言葉を受けて球質やコースを変えて返すのが会話であり、相手の言葉を無視して自分の言いたいことだけを打ち込むのは壁打ちにすぎない。もう一つは「問題」と「問い」の区別である。「これで合っていますか」のように想定された正解を確認するのが問題であり、想定される正解がないまま相手から知識を引き出すのが問いである。

問いを成立させるには、前提の共有、対象の明確化、答えてほしい形式の明確化という三条件が要る。そして良い問いの必須条件は「会話が継続できること」である。情報に自分の感想を足しただけの発言は、相手に「そうですね」と返されて終わる。相手の見解や経験を引き出し、自分の知見と交換し、新しい疑問を生む問いだけが会話を前に進める。

後半の質疑では、「どう思いますか」に答えない相手への対処、相手の力量の測り方、聞く側の姿勢といった実務的な論点に話が広がった。マイキー氏は、質問の場面では聞く側にも責任があり、表情やリアクションまで含めて「情報を引き出す行為」だと強調した。

セッションを貫く1本の線

質問とは「正解を確かめる作業」ではなく「相手の知識を引き出して交換する作業」である。相手を見て、相手の言葉を受けて問いを組み立てられない限り、会話は独り言の往復にとどまり、知識は知恵に進まない。

PART 0

なぜ今「質問」なのか

前田氏は冒頭、今回の内容は「一つの見方をした場合の見解」として聞いてほしいと前置きしたうえで、質問を取り上げる理由を説明した。前回まで扱ってきたSECIモデルは、個人の暗黙知と組織の形式知を往復させて知識を生み出す枠組みだが、その往復を駆動しているのは会話である。会話は質問によって生まれるので、質問ができない組織ではSECIモデルが成り立たない、というのが出発点である。

講義の終盤でも前田氏は同じ点に戻り、「今回わざわざ質問を取り上げたのは、普段から意識して質問していますか、というのが皆さんへの問いでもある」と述べている。つまり本パートの内容そのものが、参加者に向けた一つの問いとして設計されている。

PART 1

会話はラリー、壁打ちは独り言

前田氏は、質問で意識すべきこととして「言葉をやり取りする」というイメージを挙げた。テニスのように、相手から来るボールの質やコースによって、返すボールの質やコースも変わる。相手の言葉を受けて返すことが会話の基本である。

これに対し、「私がこれを聞くのだから何が悪いのか」という姿勢の人がいる。前田氏には、これはそもそも会話をするつもりがないように聞こえるという。こうした人は、ネットの代わりに真ん中に壁を立て、壁に向かってボールを打ち続けている。本人は会話をしていると思い込んでいるが、相手の言葉をほぼ意識していない。前田氏によれば、この「壁打ち」をしている人のほうが圧倒的に多い。

壁打ち(独り言)
相手の言葉を無視して自分の言葉を打ち込む。相手の返球を受けないので、知識の交換は起きない。自分語り・命令・「私はこうです」の連続がこれに当たる。
ラリー(会話)
相手の球質やコースに応じて返し方を変える。相手の知識が引き出され、自分の知識とつながり、知識の交換が生まれる。
KEY:同じ内容でも、聞く相手によって質問は変わる
話を聞いて「どう思った」を投げるのではなく、相手を見て、相手が何を言っているかを聞いて、相手を想像して質問しているか。前田氏は「相手を引き出さない会話は存在しない」「質問なき会話はない」という二つの認識を持つよう求めた。
PART 2

「問題」と「問い」を分ける

前田氏は質問を二つのパターンに分けた。一つは「問題」で、あらかじめ想定される正解があり、それを確認する行為である。典型は「これで合っていますか」「これでいいですか」である。もう一つは「問い」で、想定される正解はなく、話している相手から知識を引き出す作業である。

問いの例として前田氏が挙げたのは鉛筆である。鉛筆について知ろうとするとき、歴史を調べる、材質を調べる、材質の性質から別の使い道を考える、というように一つの対象からいくつもの方向に話を展開できる。問いとは、一つのことをより深く知ろうとする行為だと位置づけられている。

区分問題問い
目的正解の確認相手から知識を引き出す
正解あらかじめ想定されている想定されていない
典型フレーズ「これで合っていますか」「あなたはどう考えていますか」
会話のその後「はい/いいえ」で終わる展開が生まれ、会話が続く
📌 Claude補足:鉛筆の「材質」の例について

講義では鉛筆の材質の話から「鉛筆をうまく使えば絶縁機能が使える」という趣旨の発言があった(音声認識の揺れを含む)。鉛筆の芯の主成分である黒鉛(グラファイト)は電気を通す導電体であり、絶縁体ではない。芯で紙に線を引くと簡易的な導線や抵抗になることは、理科の実験としてよく知られている。発言の趣旨は「材質を知ると別の用途に展開できる」という点にあり、例としての方向性は変わらないが、「絶縁」ではなく「導電」と読み替えるのが正確である。

問いを成立させる三つの条件

前田氏は、問いを立てるには次の三点が必要だと述べた。第一に前提の共有、第二にトピックの中心となる対象の明確化、第三に答えてほしい形式の明確化である。よくある失敗は「これ、どうですか」という聞き方で、「これ」が何を指すのかも、何を聞きたいのかも相手には分からない。答える側からすればケース1、2、3が考えられるが、どれを聞かれているのか判断できない。

内容の確認や共有が目的であれば、「まず自分はこういう認識で考えているが、どうお考えですか」と自分の前提を示してから尋ねる形になる。前田氏はこれを料理の注文に例えた。何でもいいから作ってくださいではなく、中華が食べたい(ジャンル)、素材は肉で(対象)、料理は酢豚で(形式)と指定すれば、作る側は迷わない。

条件1
前提の共有
どういう設定の話か
条件2
対象の明確化
何を聞きたいのか・中心はどこか
条件3
形式の明確化
どういう形で答えてほしいか
結果
会話が続く
知識が引き出される
PART 3

良い問いは「会話を継続させる」

前田氏は問いで最も重要なことを「知識を引き出すこと」とした。前回の講義で扱ったとおり、知識とは情報に見解や経験が加わったものであり、人によって中身が異なる。だから問いは、その人にしかない知識を取り出す行為になる。

そのうえで、便宜上「良い質問」を定義するなら必須条件は一つで、会話が継続できることだという。ほとんどの人は「これでいいですか」「これですよね」と聞くが、その時点で会話は終わる。話は膨らまず、新しい発見もない。会話が継続するとは、相手の持つ知識と自分の知識がつながっていくことであり、そう意識して会話しているかが問われている。

WARN:「情報+感想」は質問ではない
多くの人がやりがちなのは、事実(情報)に自分の感情(感想)を足して投げることだ。そこには知識がない。「こう思います」と言われても、相手は「そうですね」と返すしかない。前田氏は、これを質問だと思っている人は多いが自分の視点では質問ではない、と明言した。

改善の方向として前田氏が示したのは、感想で終わらせず相手の意図を尋ねる形である。たとえば作品を見て「このシーンで私はこう感じたが、あなたは何を表現したかったのか」と聞けば、相手の知識を引き出せる。「あなたがどう考えているかを知りたい」という聞き方と、「いつ起きた事件の何が問題ですか」という聞き方とでは、その人から得られる情報がまったく変わる。

問いが果たす三つの機能

機能内容講義での例
知識の引き出し相手の見解・経験を取り出す「あなたは何を表現したかったのか」
知識の交換自分の経験を先に開示し、相手の知見と交換する「自分はこうやってきた。あなたはどうしているか」。同業同士ではよくやるが、異業種とやると幅がさらに広がる
疑問の創出相手が気づいていない点や別の知見を示し、次の疑問を生む「その視点はなかった」という反応から新しい問いが生まれる
PART 4

コミュニケーションは「共有」であって同意ではない

前田氏は、コミュニケーションの語源に立ち返った。コミュニケーションは「共有する」という意味の言葉に由来し、一方的に喋ることではない。会話がうまいと言われる人でも、一人でずっと喋っているなら、それは独り言が上手な人にすぎない。自分語りを続ける人、命令をする人はすべて一方的であり、コミュニケーションは成り立たない。逆に言えば、聞き上手のコミュニケーションもありうる。

📌 Claude補足:語源について

英語のcommunicationは、ラテン語のcommunicare(共有する、分かち合う)に由来し、さらにcommunis(共通の)にさかのぼるとするのが一般的な説明である。前田氏の「共有するという意味」という説明はこの語源と整合する。

前田氏はここで誤解を防ぐため二点を付け加えた。第一に、共有は必ずしも同意を得ることではない。違う意見でもよい。第二に、共有は共感でもない。同じものを見て楽しいと感じる人と悲しいと感じる人がいてよく、見解が違っていてよい。大事なのは、互いにどういうものを見ているか、どの状況で見ているかを共有していることである。

共有ではないもの
同意(相手と同じ結論に達すること)、共感(相手と同じ感情になること)、同調(相手の言うことにただイエスと言うこと)。
共有であるもの
何を見ているか、どの状況で見ているかを互いに把握したうえで、意見の違いを出し合い、発展させること。

前田氏は、適切なコミュニケーションとは「その場にいる人たちの知識を共有すること」だとまとめた。ほとんどの会話は壁打ちで独り言になっているが、ラリーをしなければ会話にならない。壁打ちには知識の交換がなく、ラリーには知識の交換が生まれる。

聞く側にも責任がある

講義の終わりに、前田氏とマイキー氏は聞く側の姿勢について補足した。前田氏は、参加者の多くが画面上で固まっていることに触れ、あえてオーバーリアクションをするだけでも場の空気が変わるのに、なぜそれを思いつかないのか、そこで思考が止まっているのではないかと問題提起した。マイキー氏は、自身が登壇したJ.エイブラムス氏の講演会でも同氏が「スマイル」を繰り返していたことに触れ、喋る側にも気を使ってほしいと述べた。聞く姿勢の作り方は、今後のプレゼン合宿で扱う予定とされた。

📌 Claude補足:講演会の人物名

要確認文字起こしでは「Jエイブラムス」「Jウブラムス」と表記揺れがあり、どの人物・どのイベントを指すかは公開情報で特定できなかった。本レポートでは発言どおり「J.エイブラムス氏」と表記している。

Q&A

質疑応答

複数人で話すとき「どう思いますか」と聞いても何も喋ってくれない人がいます。自分の聞き方が悪いのか、イエス・ノーで答えられる質問で展開したほうがよいのでしょうか。――参加者
「どう思いますか」と聞かれて何も思わないのであれば、それはロボットでもよい。アメリカにいた頃、みんなで映画を見た後にフィードバックを出し合う場で意見を出さない人は、二度と呼ばれなかった。いる意味がないからである。イエス・ノーの質問は聞き方次第で誘導できてしまい、何も考えていない人ほど誘導されやすいので、得られた回答が当てになるかというと答えはノーだ。自分なら無視する。いじめではなく、フィードバックを出さない相手と場を共有する理由がないということである。――マイキー氏
そこがまさに差が出るポイントである。どんな質問をしても、どんな工夫をしても無理な人はいる。こちらから努力することは大事だが、ある程度の線引きは必要で、試してもだめなら切り分けるのが合理的だと考える。――前田氏
補足すると、フィードバックは100人いて100人が同じ答えになることはない。だから人間は面白い。「人を殺すのは100%悪いことか」と聞かれても、内戦下で家族を守るために兵士を撃った場合まで同じ答えになるとは限らない。人それぞれの正義があり、回答は異なる。――マイキー氏
コミュニケーションを取るには相手の力量や素性が分からないと成り立たないと思います。力量を測るにはどうしたらいいのでしょうか。――参加者
あなたがこのクラブの面談を受けたとき、自分は相手の力量を引き出すために質問をしていた。あれは何だったのか、という話である。たとえば「なぜ申し込んだのか」と聞いて「お金が欲しい」と答える人と「知識が欲しい」と答える人では、成長するのは後者だ。今の能力はどうでもよく、成長曲線が見えない人には教える意味がない。将来についての質問一つでも、力量はある程度測れる。――マイキー氏
その一言で分かりました。――質問者
「共有は同意と同義ではない、共感とも同義ではない」と伺いましたが、批判的思考や仮説検証が入ってくると、共有と共感が同義にならない場面も出てくるのではないでしょうか。――村上氏
質問の焦点がやや明確でないので推測して答える。一般には同意や共感が共有の定義として使われがちだから、あえて今回はそうではないと示した。一般にやりがちなのは相手の言うことにただイエスと言うことだが、本当に共有しているなら、相手の問題点を見つけたうえでより良くしようとするほうがコミュニケーションとして大事だ。意図の確認ならよいが、会話を発展させたいのに批判もなく同調するのは放置と同じで、次を生み出さない。――前田氏
それ以前にコミュニケーションの取り方として、暗い顔で「はい、はい」と聞いていたら前田さんは喋りにくい。質問した場合、聞く側にも責任がある。自分が質問に答えている最中に相手が携帯をいじっていたらどう思うか。プレゼンでも、最初は誰もこちらを見ずパソコンを叩いている聴衆の顔をどう上げさせるかを考えなければならない。――マイキー氏
今の話は、今回の共感・共有・同意の話がプレゼンテーションにもつながっているということだ。相手の情報を引き出すなら聞く姿勢でも変わるし、喋り方でも引き出せる情報は変わる。今日は「どうやって情報を引き出すか」という話だったのだから、なぜそれを実践しないのか、と捉えてもらうのが、直接答えるよりも役に立つ回答だと思う。――前田氏
宿題・アクションアイテム

持ち帰って試すこと

  1. 直近1週間で自分が発した質問を書き出し、「問題(正解確認)」と「問い(知識の引き出し)」に分類して比率を出す。
  2. 「これどうですか」型の質問を一つ選び、前提・対象・形式の三条件を満たす形に書き直す。
  3. 次の会議で、感想を述べる代わりに「あなたは何を意図していたのか」と相手の知識を引き出す問いを一回以上入れる。
  4. 異業種の知人に、自分の業務のやり方を先に開示したうえで「あなたならどうするか」と聞き、知識の交換を試す。
  5. オンライン会議で聞く側に回ったとき、表情やリアクションを意識的に変え、相手の話しやすさがどう変わるかを観察する(聞く姿勢の扱いは今後のプレゼン合宿で予定)。
用語集

このレポートに登場した用語

問題
あらかじめ想定された正解を確認する質問。「これで合っていますか」が典型で、会話はそこで終わりやすい。
問い
想定される正解がないまま、相手から知識を引き出す質問。会話の継続と展開を生む。
壁打ち
相手の言葉を受けずに自分の言葉だけを打ち込むやり取り。本人は会話のつもりでも実態は独り言。
ラリー
相手の球質・コースに応じて返し方を変えるやり取り。知識の交換が生まれる。
知識
情報に、その人の見解や経験が加わったもの。人によって中身が異なる。
コミュニケーション
語源は「共有する」。同意や共感とは異なり、何をどの状況で見ているかを共有すること。
SECIモデル
野中郁次郎氏らが提唱した組織的知識創造の枠組み。前田氏は、会話と質問がこのモデルを駆動すると位置づけた。
誘導質問
イエス・ノーで答えさせる形などで、回答を特定方向に導いてしまう質問。何も考えていない相手ほど影響を受けやすい。