STUDY REPORT / 2026年5月度 勉強会

資本コストを説明できない経営
――上場企業の役員を詰めた、その日の記録

資本コストとは経営者にとっての支出ではなく、投資家にとっての期待リターンである。この一点がずれたまま上場している企業に何が起きるのか。当日おこなわれた実際の面談を素材に、企業価値の分母と分子、エクイティスプレッド、そして「答えが返ってこないから何もしない」という構えの問題までを扱った回。

テーマ:コーポレートファイナンス講義:マイキー氏参加:前田氏/小賀氏ほか
EXECUTIVE SUMMARY

分母を見ない経営は、分子をいくら増やしても評価されない

2023/3/31
東証が「資本コストや株価を意識した経営」を要請した日
10%→5%
資本コストが半減すると、同じCFでも企業価値は100億→200億に
マージンか
レベニューか
資本コストを一言で言えば、経営者と投資家の見え方の違い
エクイティ
スプレッド
ROE − 株主資本コスト。マイナスなら黒字でも価値を破壊している
算出方法は
出せません
上場企業が東証に基準を問い、返ってきた回答
宿題をやらない
先生の答えが来なかったから宿題をやらない、と同じ構図という指摘

この回の講義パートは、当日の昼間に講師が実際におこなった上場企業役員との面談から始まっている。海外の投資家側から依頼を受けて入った場で、「どこまでやっていいか」を確認したうえで徹底的に詰めた結果、逆ギレされて終わったという。その面談で何を問い、なぜ会話にならなかったのかを再現する形で、資本コストの本質が説明された。

講師の整理はこうだ。資本コストという言葉は、経営者にとっては配当や支払利息、つまりPL上の費用として見えている。支出ベースであり、マージンの話になる。ところが投資家にとってはまったく逆で、投資に対してどれだけのリターンが期待できるかという収益ベースの話である。配当と株価上昇の両方を含む。同じ言葉が正反対の側から見られているのに、その差を埋める対話がされていない。

続いて示されたのがファイナンス理論における企業価値の定義である。将来生み出すキャッシュフローの現在価値の総和。分子はキャッシュフロー、分母は(1+資本コスト)による割引である。多くの経営者は分子を大きくすることばかりを考え、分母を小さくすることを考えない。しかしこれは割り算である。資本コストが10%で毎年10億円のキャッシュフローなら企業価値は100億円、資本コストが5%になれば200億円になる。同じ事業でも、分母の扱い方だけで企業価値は倍になる。

そして講義の後半で、話は突然聴講者の側に向き直る。東証に算出基準を問い、「出しません」と返され、どうしていいか分からなくなって何もしなかった企業。これは、先生に質問して正しい答えが返ってこなかったから宿題をやらない小学生と同じではないか。分からないから足を止めるという構えは、企業規模や年齢とは無関係に現れる、というのがこの回の着地点だった。

セッションを貫く1本の線

資本コストに「全上場企業に共通の正解」は存在しない。業界によって違い、事業の組み合わせによって違い、投資家によって違う。だからこそ、各企業が自社の事業・リスク・成長性を全部合わせ、投資家との対話を通じて最適なコストを自ら導き出す――講師の定義では、それこそがコーポレートファイナンスである。答えを外から取りに行った時点で、この営みは始まってすらいない。

PART 0 / 開始前の雑談

逆ギレされた面談と、100万ドルの相談

この日の冒頭は、いつものように雑談から始まっている。飛行機に乗る予定の参加者の話、『The Last of Us Part II』を二日で終わらせたという話、トランプ大統領の訪問団にジェンスン・ファン氏が急遽同行することになったらしいという話題。イーロン・マスクの母であるメイ・マスク氏の名前が出たところで、講師が4年ほど前に投資家400人規模の会で彼女の前座として登壇した経験に触れた。子育て論が中心の場で盛り上がったが、結論を言えば「母親がただ優秀なだけ」だった、という感想である。

そこから話が移ったのが、その日の昼間に行われた上場企業役員との打ち合わせだった。企業名も業界も時価総額も明かせない条件だが、海外の投資家側から「入ってほしい」と依頼されて参加した場である。講師は最初に「どこまでやっていいか」を確認し、「徹底的にやっていい」と言われたのでそのとおりにしたという。

講師が投げた問いの例

「ROEは今どれくらいですか」に対して数字を答えるだけの説明が返ってきたことを、講師は「英語の教科書じゃないんだから」と切った。常に必要なのは、なぜその数字が妥当なのかを付け加えて投資家に説明することである。妥当性を語れないのは、何も考えていないのと同じだ、と。さらにCFOに対して「CFOは何のためにいるのか」「コーポレートガバナンスとコーポレートファイナンスの領域で、投資家との対話の内容を全部教えてください」と問い、会話が成立しなかったと述べている。

講師の評価は厳しい。財務三表が読める程度の人物がCFOに就いており、資金調達が上手いだけの体制になっている。「一般人である自分にここまで突っ込まれるということは、世界中の投資家はもっと突っ込んで見ている。それでも皆さんの会社の株を買わない理由は、言うまでもないと思われているから何も言われていないだけだ」と伝えたという。相手はプライム市場への上場を目指しているとのことだったが、「プライムに行っても突っ込まれないだろう。なぜならプライム市場の5割がこの状態だから」とも述べている。

雑談の後半では、参加者の一人が前日に父を亡くしたことを報告した。NVIDIAを8ドル台から保有していた人物で、30億円規模の利益を出していたという。税引後に約100万ドルの余裕ができたが、これは遺産であるため講師は自分の銘柄情報での運用を勧めなかった。「万が一ダメになった場合、こちらの責任が大きすぎる」という理由である。個別に相談を受ける形で話は収まり、ファンド組成の構想にまで広がった。

📌 Claude補足|PBR1倍割れの比率について

講義中、講師は「日本の3割以上の企業がPBR1倍以下」「プライム市場の5割がこの状態」と述べている。この二つの数字は時点が異なる可能性が高い。東証が2023年3月31日に要請を出した当時、プライム市場の約半数がPBR1倍割れという状況が広く報じられており、「5割」はその時点の実感に近い。

一方で2026年5月時点の公開データは、これよりかなり改善している。TOPIX500ベースでPBR1倍割れ銘柄の比率は2025年後半以降に低下が進み、足元では20%程度と2018年以来の低水準になっている。また東証要請への対応状況も、2023年12月末時点ではプライム上場企業の49%(検討中を含む)だったものが、2025年4月末には92%まで拡大している。講師の問題意識そのもの(開示の質と対話の欠如)は現在も有効だが、比率の数字については講義時点の市場全体を表すものではない。

PART 1 / 資本コストとは誰の何か

マージンで見るか、レベニューで見るか

講義パートの冒頭、講師は参加者に「資本コストを説明できる人はいますか」と問い、答えが出ないことを確認したうえで、一言でまとめるならこうだと言った。マージンで見るか、レベニューで見るかの違いである。

経営者から見た資本コスト

支出ベース。配当金・支払利息・経費。PL上の費用として捉えられる。実際にキャッシュアウトするものなので、「コスト」という和訳のまま理解される。
結論:減らすべきもの。

投資家から見た資本コスト

収益ベース。投資に対する期待リターン。インカムゲイン(配当)とキャピタルゲイン(株価上昇)の両方を含む。リスクと時間を買っている対価。
結論:企業が超えるべき最低限の利益ハードル。

講師はここで「コストという日本語訳が誤解を生んでいる」と指摘した。経営者側はこれを費用として捉えるが、ファイナンスにおける資本コストの本質はそこにはない。投資家が求めているのは「この企業に投資してどれくらいのリターンが期待できるか」であり、自己資金を企業に入れる以上、そのリスクに見合ったリターンを要求するのは当然である。企業から見れば、資本コストとは資金を預けてもらうために最低限超えなければならない利益ハードルであり、それを実現できなければ投資家は資金を引き上げる。

PBR1倍割れが意味すること

講師の説明では、PBR1倍割れとは「資本コストを無視して経営しています」という宣言に等しい。他人のリソースを預かりながら、そのリソースを無視する行為である。100万円を持たせるくらいなら、すぐ返してもらってもっと効率のいいところに投資したほうがましだ、と市場が言っている状態だからだ。

PART 2 / 分母と分子

割り算であることを忘れた経営

ファイナンス理論における企業価値の定義は、将来生み出すキャッシュフローを割り引いた現在価値の総和である。講師はこれを分数として板書し、経営者が分子ばかりを大きくしようとして分母に触れない点を突いた。

企業価値 = 将来キャッシュフロー ÷ (1 + 資本コスト)n の総和
分子=キャッシュフロー / 分母=資本コスト(割引率)

分母が大きいということは、市場から見てこの会社のリスクが高いということである。キャッシュフローが同じでも、分母が大きすぎれば企業価値は小さく見積もられる。逆に分母を小さくすれば企業価値は上がる。講師が出した練習問題は単純だった。資本コスト10%で毎年10億円のキャッシュフローを生むなら企業価値は100億円。資本コストが5%になれば、10億÷0.05で200億円になる。

出典:講義中に提示された永続価値の計算例(CF=10億円固定)。作図:Claude

ただし講師は、下げればいいという話でもないと釘を刺している。下げすぎるのも問題であり、適正な水準が何パーセントなのかを投資家と会話しているかが問われる。その会話をしているかと面談で問うと、していないという答えが返ってきた、というのがこの日の顛末である。

エクイティスプレッド

次に持ち出されたのがエクイティスプレッドである。ROE(自己資本利益率)から株主資本コストを差し引いたもので、これがマイナスなら――つまりROEが資本コストを下回っているなら――たとえ黒字であっても、その会社は価値を破壊している状態にある。したがってROEは資本コストを上回らなければならない。この会話が経営陣とCFOの間でされているなら、資本コストがここまで高いはずがない、というのが講師の見立てだった。

📌 Claude補足|エクイティスプレッドと伊藤レポート

エクイティスプレッド(ROE − 株主資本コスト)は、2014年8月に経済産業省が公表した「持続的成長への競争力とインセンティブ」(座長・伊藤邦雄氏の名を取って伊藤レポートと通称される)で広く知られるようになった概念である。同レポートは「8%を上回るROEを最低ラインとし、より高い水準を目指すべき」と記した。価値創造企業とは長期的に資本コストを上回る利益を生む企業である、という認識がその基礎にある。講義の説明はこの定義と一致している。

東証の要請(2023年3月31日)は、この伊藤レポートから約10年を経て、資本コスト経営を上場企業全体に広げる施策として位置づけられている。要請の対象はプライム市場およびスタンダード市場の全上場会社で、内容は①資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応、②株主との対話の推進と開示、③「エクスプレイン」のポイント・事例、の3点である。

講師が問うべきだと言った項目

面談で講師が投げた質問は、数字そのものではなかった。「その水準にしている理由は何か」「リスクフリーレートはどれくらいか」「ベータはどの値で設定しているか」「それをCFOとどれくらい話しているか」。さらに、ROEの数字を聞いたうえで「結果報告ではなく、そのROEの水準によってPBRや株価が市場からどう見えているのかを説明してほしい」「投資家の見方とのギャップが生まれているなら、それをどう埋めに行く努力をしているのか」と続けた。返答は出てこず、「財務側に任せてあります」で止まったという。

PART 3 / 東証に基準を聞いた企業

「出しません」と言われて、何もしなかった

講師がこの日もっとも強く批判したのは、個別企業の能力ではなく構えの問題だった。東証の要請が出た後、一部の上場企業が東証に対して「資本コストの算出方法のベースを教えてください」と問い合わせた。東証の回答は「出しません」。その結果、何をしていいのか分からなくなり、何もしなかった企業が多数あるという。

講師の見解では、この質問を東証にしている時点で終わっている。全上場企業に共通して適用できる資本コストなど存在しないからである。業界によって違うに決まっており、複数の事業を組み合わせている企業がどう見られるかは、むしろ東証より当の企業のほうが知っているはずである。Googleが検索プラットフォームでありデータセンター事業者でもある、Metaがそのどちらとも重なる領域を持つ――こうした複合性をどう評価されるかは、自分で判断するしかない。

そこから講師は、話を聴講者に向け直した。マイキー氏や前田氏に質問をして回答があった。しかしその回答が自分の思い通りでなかった、あるいは分からなかった。結果として何もしない。そういう人がどれくらいいるか、と。

学校の宿題との類比

「学校の先生に、この問題が解けませんと質問した。先生から正しい回答が来なかった。だから私は宿題をやりません――これは学校で許されますか。大人になったら許されるんですか」。講師はこの構図が、企業規模にも年齢にも関係なく現れると述べた。分からないから足を止める。前半で扱った境界線の議論も同じで、分からないなら自分で境界線を探しに行けばいい、という接続である。

面談の最後、相手企業は「こちらでちゃんとやって持ってきます」と言ったという。講師の返答は「持ってきてください。ただし持ってきたらさらにボコボコにしますけどね」だった。それは修正するためだと説明したうえで、「妥当な数字を持ってこられても面白くない。すでにまともではないのだから、イカれた数字を持ってきて、その正当性を説明してみろ」と要求している。投資家が納得する根拠のあるストーリーがあるなら、数字が突飛でも「面白いですね」となる。すべての提案と説明が面白くないから、市場に響かず株価も上がらない、というのが講師の論理だった。

PART 4 / 機関投資家の側の問題

年200回のIRで、誰もWACCを聞かない

議論はここで、企業側だけの問題ではないという方向に広がる。参加者の一人(事業会社の役員経験者)が自身の経験を語った。前職では年間200件のIRを実施していたが、当時のCFOはROICも資本コストも知らなかった。実際にIRの場に出てみると、そうした質問はほとんど出ない。機関投資家は自社のExcelを埋めるのが仕事になっている、という指摘である。

講師もこれに同意し、「日本の機関投資家もレベルが低い」と述べた。参加者は続けて、ガバナンス報告書には資本コストの欄があるため書かざるを得ないが、有価証券報告書に書く会社と書かない会社がある、と説明した。書いてある内容も、ウクライナ戦争や関税といった外部環境の言い訳が延々と並び、WACCの話は出てこない。半導体製造装置で世界トップクラスの日本企業でも、社外取締役を務める知人によれば「WACCという言葉は取締役会で一度も出たことがない」という。

📌 Claude補足|「去年から義務付けられている」という発言について

参加者は「ガバナンス報告書に資本コストの欄が去年から義務付けられている」と述べたが、東証の枠組みは法的な義務化ではなく「要請」である点は区別しておきたい。2023年3月31日の対応要請はプライム・スタンダード両市場の全上場会社を対象とするが、形式は要請であり、2024年1月からは要請に基づいて開示している企業の一覧表が毎月公表される仕組みになっている。開示するかどうか自体は各社の判断に委ねられ、実質的な圧力として機能している、というのが実態に近い。要確認

参加者はまた、機関投資家の面談が予定調和である理由を説明した。質問は事前に送られてくるため、その場で想定外のことは起きない。銀行も返済計画しか聞かないため、企業は銀行向けの資料しか作らない。だからこそ、アクティビストから突然手紙が届くと極端に狼狽する。今まで聞かれたことのない質問が来るからである。

CFOが「借金してはいけない」と言う問題

講師が挙げたもう一つの例が、「借金はしてはいけない」と言うCFOが多数いることだった。株主資本コストは負債コストより圧倒的に高い。銀行を納得させるより投資家を納得させるほうが難しく、要求されるパーセンテージも高くなるからである。この論点は本勉強会で以前扱った「負債は未来を使う道具」の議論と接続する。

参加者はさらに、部門別ROICや部門別資本コストの算出を企業が嫌がる理由を挙げた。悪い部門が可視化されれば、そこを切れ・売却しろと言われるからである。だから全体の数字しか言わない。ある大手金融グループが部門別ROICを開示したのはようやく昨年のことであり、運用資産80兆〜100兆円規模の組織がその水準にある。ソニーについても、セグメントごとに計算方法が自社に都合よく異なるという話がある、と付け加えられた。要確認

PART 5 / 事業ポートフォリオに踏み込んだ企業

日立、三菱電機、KADOKAWA

ここから話題は、実際に事業ポートフォリオの見直しに踏み込んだ企業へ移る。参加者が挙げたのが日立製作所だった。川村隆氏、中西宏明氏、東原敏昭氏と続いたリーダーシップのもとで上場子会社の売却が進み、最後は東原氏が「ブルドーザーのように」数千億円規模の子会社を売却した。2018〜19年ごろから一気に稼働した、という証言である。

講師と参加者はまた、東原氏の経歴が日立のなかでは異色である点に触れた。日立では東京大学工学部が主流であるところ、東原氏は高専から徳島大学工学部という経路を辿っている。

📌 Claude補足|日立の事業売却と東原敏昭氏の経歴

経歴について:東原敏昭氏は1977年に徳島大学工学部を卒業して日立製作所に入社、1990年にボストン大学大学院を修了している。社長兼CEOの在任は2014年から2021年で、会長兼代表執行役を務めた。講義で語られた学歴の異色性は事実と一致する。

売却の規模について:講義では「最後に5,000億円の子会社を売った」と語られたが、日立が売却した主要子会社の規模はこれと差がある。日立化成(現レゾナック)、日立金属(現プロテリアル)、日立電線(2013年に日立金属が吸収合併)といった御三家に加え、日立キャピタル・日立工機・日立国際電気・クラリオンなどが売却され、20社を超えていた上場子会社は2019年末に4社まで減った。日立金属の売却は2021年に決まり、報道された取引規模は8,000億円台である。「5,000億円」という数字は特定の案件を指すのか概算なのかが特定できない。要確認

なお旧日立金属のプロテリアルは2026年8月に電線事業を2,000億円規模で売却する方向にあると報じられており、この再編はなお継続している。

次に講師が期待を示したのが、三菱電機のモビリティ事業である。自動車部品部門が分社化され、そこに鴻海(フォックスコン)が50%を出資する構想が動いている。三菱電機が強いインバーターやモーターを鴻海のEVプラットフォームに載せ、世界中に流せるようになる。しかも非トヨタ系列としての立ち位置を持つ。講師は「面白いかもしれない」と述べた。

📌 Claude補足|三菱電機と鴻海、そして関潤氏

三菱電機は2026年4月24日、自動車機器事業の共同運営を通じた鴻海精密工業との戦略的提携の検討開始に合意したと正式に発表している。三菱電機モビリティを鴻海との折半出資(50%)の合弁会社にすることを視野に協議が進んでおり、電動化・自動運転・SDV分野での協業拡大が目的とされる。講義の内容は公表事実と一致する。

講義で言及された「元日産の関さん」は関潤氏で、日産自動車で副COOを務めた後に日本電産(現ニデック)へ移り社長に就任、その後退任している。2023年2月1日付で鴻海グループのEV事業最高戦略責任者(CSO)に任命され、鴻海主導のMIHコンソーシアムCEOも務めた。講師は「23年で首になった」と述べたが、ニデック社長を退いたのは2022年で、2023年はフォックスコンのCSOに就任した年である。年の対応が入れ替わっている可能性が高い。要確認

もう一件、講師が挙げたのがKADOKAWAである。「オアシスが20%も取っていて、何もしないわけがない」という文脈で、アクティビストによる圧力が変革につながることへの期待が語られた。講師の立場は「ぐちゃぐちゃにされればいい。結果として変革してくれるならそれでいい」というものである。任天堂については、負債コストを上げて資本コストを下げるべきだ、WACCを抑えろと以前から述べているが、株価に反映されてこないという指摘があった。

📌 Claude補足|オアシスのKADOKAWA持分

Oasis Management は2026年3月18日時点でKADOKAWA株17,655,800株(11.89%)を保有し、ソニーグループを抜いて筆頭株主となった。その後2026年6月29日時点では約15.25%まで積み増している。講義で語られた「20%」には達していない。オアシス自体は2020年からKADOKAWAの株主であり、2026年の定時株主総会では夏野剛CEOの選任に反対するよう他の投資家に呼びかけている。

Q&A

質疑応答(このテーマに属するもの)

今日は株とファイナンス、どちらの話をしますか。(参加者への逆質問)

参加者の希望でファイナンスに決定。株を選んだ場合は、エネルギー業界の関連10社ほどを一社ずつ説明する予定だったと明かされた。

その会社の時価総額はいくらだったのですか。(参加者)

言うなと言われているため出せない。業界も明かせない条件になっている。

投資家は誰が入っていたのですか。(参加者)

日本の投資家が中心で、日本の機関投資家のレベルだった。質問の水準が低い。

部門別に資本を配分したとして、間接コストはどうやって配分したのでしょうか。(講師から参加者へ)

間接費も現場の実態に応じて配分しているはず。ただしセグメント別ROICは計算方法が分かりにくく、事実上ブラックボックスの部分が大きい。ソニーはセグメントごとに自社に都合のいいように計算方法が異なるという話もある。

プライム市場を目指していると言っていたのですか。(参加者)

目指しているとのことだったが、いまの段階では上がれない。審査は確実に厳しくなっている。仮に行けたとしても、PBR1倍割れの層に入るだけになる。

ブラックロックのような世界最大の機関投資家はどうなのですか。(講師から参加者へ)

ブラックロック・ジャパンについては「拍子抜けするほど優しかった」との証言。ただし海外のブラックロックはスチュワードシップ部門がかなり厳しいと聞いている、と講師が補足した。表面的に優しくても、粛々と売っている可能性はある。

先月の東証の資料で、上場会社と投資家の認識ギャップが最大なのはどこですか。(参加者からの情報提供)

事業ポートフォリオの見直しと、適正なバランスシートがどこかという点。ここが最も乖離のある部分だと開示資料に明記されている。

ASSIGNMENT

宿題・アクションアイテム

  1. 自社(または分析対象企業)の資本コストについて、リスクフリーレート・ベータ・採用した水準とその根拠を書き出す。数字だけでなく「なぜその水準が妥当か」を一段落で説明できる状態にする。
  2. ROE − 株主資本コスト(エクイティスプレッド)を計算し、符号を確認する。マイナスなら、黒字であっても価値を破壊している状態であることを前提に次を考える。
  3. 将来キャッシュフローを割り引いて、自社の本来のポテンシャル(理論的な企業価値)を自ら算出する。市場評価とのギャップを数値で出す。
  4. そのギャップを埋めるためのストーリー――成長戦略・製品・投資家が納得する根拠――を文章で用意する。妥当な数字ではなく、正当性を説明できる数字を作る。
  5. マイキークラブ内で上場を検討している参加者に対し、講師は当日の資料をもとに突っ込むと明言している。該当者は事前に資料を読み込んでおくこと。
  6. 次回予定:金曜日からのエキスポ期間中は講義なしで懇親会内での実施。月曜日は通常どおり実施予定。別途、緊急収録した米中首脳会談に関する動画が公開されているので視聴しておくこと。
GLOSSARY

用語集

資本コスト企業が資金提供者に対して最低限応えなければならない期待収益率。経営者から見れば支出、投資家から見れば期待リターン。
WACC加重平均資本コスト。負債コストと株主資本コストを資本構成で加重平均したもの。企業価値算定の割引率として使われる。
エクイティスプレッドROE − 株主資本コスト。プラスなら株主価値を創造、マイナスなら黒字でも価値を破壊している。
ROE自己資本利益率。伊藤レポート(2014年)は8%を最低ラインとした。
ROIC投下資本利益率。事業部門別の資本効率を測る指標。部門別開示は日本ではなお進んでいない。
PBR株価純資産倍率。1倍割れは、市場が解散価値以下の評価をしている状態を意味する。
リスクフリーレート/ベータCAPMで株主資本コストを算出する際の入力値。無リスク金利と、市場全体に対する感応度。
東証の要請(2023年3月31日)プライム・スタンダード全上場会社に対する「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」。義務ではなく要請。
伊藤レポート経済産業省が2014年8月に公表した報告書。エクイティスプレッドとROE8%基準を広めた。
アクティビスト株主として経営に積極的に関与し、資本政策や事業ポートフォリオの変更を求める投資家。