STUDY REPORT / 2026年4月度 勉強会

組織フィールドと制度の隙間――制度・制度ロジック・組織フィールドの三層で企業を読む

制度理論 第4回/同質化と正当性の相互作用、制度的企業家をめぐる論争
EXECUTIVE SUMMARY

制度は、空間と論理という二重の制約の内側にしか生まれない

三層構造
組織フィールド ⊃ 制度ロジック ⊃ 制度
3つの圧力
強制的・模倣的・規範的(DiMaggio & Powell, 1983)
隙間と重複
institutional void / institutional multiplicity
相互作用
同質化⇄正当性は一方通行ではなく双方向に動く
6層構造
取り込まれる仕組みの深さについての講師の見立て
最小単位=家族
制度ロジックの最小組織、最大は国家と宗教

この回の講義部分は、前回までの「同質化と正当性は厳密には別物である」という確認を引き継ぎ、では制度はどういう範囲に生まれるのかという問いから始まった。提示されたのは三層のモデルである。最も外側に組織フィールド(業界を構成する空間そのもの)があり、その内側に制度ロジック(その業界の行動原理・方針・アイデンティティ)があり、さらに内側に制度(ルールやスタイル)がある。空間の内側に論理があり、論理の内側に制度がある、という入れ子だ。

この順序には実務上の含意がある。制度は、それを生み出す空間と、それを生み出す論理の両方から必ず制約を受ける。だから同じ商品を作っていても、ロジックを変えるだけで売れる範囲は広がりうるし、逆に商品を作って売るだけでは販売範囲は広がらない。講師はこれを企業の体質診断に接続した。売上が伸びていても売っている空間の範囲が狭ければ先細りが見え、いま売上が小さくても空間・論理・承認の範囲を広げている企業は後から爆発的に伸びる、という読み方である。

後半は、この抽象的な枠組みを主催者側がパン屋のメタファーで一気に具体化した。どの街のパン屋も似た店構えになるのはなぜか。トレイとトングを置き、メロンパンとカレーパンとあんぱんの配置まで似てくるのはなぜか。そこにDiMaggio & Powell の三つの圧力を当てはめ、さらに制度の隙間(インドに日本のパン屋の品質管理をそのまま持ち込む必要があるか)と制度の重複(賄賂が常識の場と絶対悪の場の板挟み)へ話が進んだ。

セッションを貫く1本の線:制度理論を学ぶ理由は、常識を疑うためではなく、気づかないうちに取り込まれている経路を言語化するためにある。講師の言葉を借りれば「気づけるものは対抗しやすいが、気づけないものには対抗できない」。この回の終盤で起きた「制度的企業家は常識を破壊する者か、意識をすり込む者か」という議論も、この一点をめぐる対立だった。
PART 0 / 導入

制度化が起きているときに出るサイン

講義は、制度化のサインを三つ挙げるところから始まった。第一に、問いの形が反転する。それまで「なぜそれをやるのか」と問われていたものが、「なぜそれをやらないのか」と問われるようになる。第二に、それまで認知されていなかったものが一つのカテゴリーとして認識され、社会的影響力を持つようになる。第三に、何らかの構造に組み込まれる——たとえば教育システムの中に入る。ここまで来ると、学ばないことによる不利益が発生する。

例として挙がったのがAI、ESG、そしてEVである。AIは数年前まで「使ったことがない」が大多数だったのに、いまでは書類作成やプレゼン資料で使うのが当たり前になりつつあり、「なぜ使わないのか」という問いに変わっている。ESGとEVは、カテゴリーとして成立したことで爆発的に伸びた例として並べられた。

📌 Claude補足|「制度化のサイン」の理論的出所

講義で示された「当たり前化」と「カテゴリー化」は、制度理論では正当化(legitimation)と類型化(typification)として論じられてきたものに対応する。制度的同型化を組織フィールドの概念とともに定式化したのは Paul DiMaggio & Walter Powell "The Iron Cage Revisited: Institutional Isomorphism and Collective Rationality in Organizational Fields", American Sociological Review, Vol.48 No.2(1983年4月), pp.147-160 である。組織フィールドという語は、この論文で「相互に認知し合う組織の集合」として提示されている。講義内の「組織フィールド=業界を作っている空間」という説明は、原典の定義をやや広く取った言い換えになっている。

PART 1 / 三層モデル

空間の内側に論理があり、論理の内側に制度がある

組織フィールド(空間)制度への圧力が発生する組織のネットワーク。その業界に関わるインフラ、人、資源を含む「業界を作っている空間」そのもの。
制度ロジック(論理)その空間の中で成立している行動原理・方針・アイデンティティ。何が正当と見なされるかを決める。
制度(ルール・スタイル)実際に守られている具体的なルールや振る舞い方。企業の役割や業務のかたちがここに当たる。

この三つの関係を、講義では三つのメタファーで繰り返し説明した。第一は音楽業界である。組織フィールドが音楽業界全体、制度ロジックがクラシック・ジャズ・ポップス・K-POPといったジャンル、制度がそれぞれの演奏スタイルや編成のルール——オーケストラなら指揮者がいて楽器が並ぶ、ジャズならアドリブとセッションがあり使う楽器も決まってくる、という具合だ。

第二は市場である。組織フィールドが市場全体、制度ロジックが市場原理やスタンダード、制度が企業の役割にあたる。第三は劇場だった。組織フィールドが劇場、制度ロジックが台本、制度が舞台上で実際に演じられている演劇。そして観客から得られる拍手が正当性である。

実務への接続:制度自体は、それを生み出す空間と論理の両方から必ず制約を受ける。だから同じ商品でもロジックを変えるだけで売る範囲を広げられる。逆に、商品を作って売るという行為だけでは販売範囲は広がらない。売上の増減より、売っている空間・論理・承認の範囲が広がっているかどうかを見るほうが、企業の体質は正確に読める——これがこの回の最も実務的な結論だった。

質問者の一人がこの構造を「空間=誰が同じゲームの中にいるか、論理=何を正当と見なすか」と要約したのに対し、講師は「本当にそんな感じのイメージ」と肯定している。また、制度ロジックには6つの類型が、空間についても理論が整理されているが、細かくやると混乱するので今回は踏み込まないと明言された。

📌 Claude補足|制度ロジックの「6つ」について

講義で触れられた「6つの論理」は、Thornton らが整理した制度ロジックの類型(市場・企業・職業・国家・家族・宗教といった社会の基本的秩序ごとのロジック)を指している可能性が高い。ただし講義では名称も出典も示されなかったため、どの整理を指しているかは発言からは確定できない。要確認 なお、講義の終盤で講師が「制度ロジックの最小単位は家族、最大は国家と宗教」と述べた点は、この類型の枠組みと整合的である。

PART 2 / 相互作用

同質化と正当性は、どちらからでも動き出す

この回で前回からの進展があったのは、同質化と正当性の関係を一方通行ではなく双方向として捉え直したところである。音楽業界の例で説明された。ヒット曲が生まれると社会的承認が生まれ、それを真似する人が出て、似た曲が流行りやすくなる——これは正当性から同質化への流れである。逆に、いったん社会的承認を得てしまった者が次に曲を出すと、それだけでヒットしやすくなる——これは同質化から正当性への流れだ。普及のステージによってどちらが強く働くかが変わる、という整理だった。

具体例として挙がったのがMr.Childrenである。当初ヒット曲が書けず、売れる曲を徹底的に研究して売れるようになってから、自分たちが書きたい曲にスイッチした、という語られ方をした。正当性を先に確保してから、ロジックを自分のものに切り替えた例として位置づけられている。

市場に置き換えると、正当性は市場シェアの形をとる。シェアが高くなるほど社会的認知が強まり、承認が強まる。同質化のほうは標準化として現れ、品質が安定し「これがいい」と認知されたものの類似品・模倣品が出回る。ここで講師が指摘したのは、模倣には合理性があるという点だった。みんなが買ってくれるものを、最も早く、最もリスク少なく提供する手段として、模倣が最も合理的な選択になる。同質化は不合理な横並びではなく、合理的選択の集積として起きる。

📌 Claude補足|「合理的だから似てくる」は原典の主張そのもの

DiMaggio & Powell(1983)の副題は "Institutional Isomorphism and Collective Rationality" である。個々の組織が合理的に振る舞った結果、フィールド全体としては同型化が進むという「集合的合理性」の逆説こそが原典の主眼であり、講義で語られた「模倣が最も合理的だから同質化する」という説明は、原典の趣旨と一致している。

PART 3 / パン屋で読む

三つの圧力と、制度の隙間・制度の重複

ここから主催者側が、抽象度の高い講義をパン屋のメタファーで具体化した。街のパン屋はどこも似た店構えで、トレイとトングがあり、パンの配置もメニューも似ている。この状態が同型化(isomorphism)である。開業すれば「日本のベーカリー業界」というフィールドに放り込まれ、周囲と似た構成を作ることになる。マニュアルやオペレーションも他店を参考にして作り始める。人気商品は真ん中の段の真ん中、目玉商品はレジ横、売れないパンは下の段——という配置まで含めて似てくる。

なぜ似るのか。ここで三つの圧力が当てられた。

圧力パン屋での現れ方作動している心理
強制的
coercive
保健所の衛生基準をクリアする、消費税に対応するルールだから従わないと営業できない、という外からの強制。逸脱に罰がある。
模倣的
mimetic
隣のパン屋で売れている変わり種のパンを、自店でも作る成功例を真似るのが最も早く、最もリスクが小さい。不確実性への対処。
規範的
normative
コック帽と清潔な爪、新人はまず仕込みから、次に配置、最後にレジその職業ならこうあるべきだという業界の空気。職業教育と職能集団が担う。

そのうえで導入されたのが、この回の新しい二語だった。制度の隙間(institutional void)は、当たり前だと思っていた制度そのものが欠けている状態を指す。日本のパン屋は物流も品質管理もHACCPも整った環境で営業しているが、それをそのままインドに持ち込む必要があるかと問われれば、答えは否だ。インフラやルールが欠けている隙間がそこにある。

制度の重複(institutional multiplicity)は、異なる常識が同時に作動して板挟みになる状態である。現地では賄賂を払わないと商売にならないという常識があり、日本では賄賂は絶対悪である。この二つの常識のあいだに立たされることが制度の重複だ、と説明された。自分の常識が外では非常識かもしれない、という前提を常に持てるかどうかが分岐点になる。

📌 Claude補足|institutional void の出所

制度の隙間(institutional void)は、Tarun Khanna & Krishna Palepu が1997年に提示した概念で、市場取引を支える制度(情報の仲介者、契約の執行、規制の枠組みなど)が欠落または機能不全に陥っている状態を指す。取引コストを押し上げ、市場の機能を損なう一方で、そこを埋める企業にとっては参入機会にもなる。新興国で特に顕著だが、どの国にも生じうるとされている点も、講義の趣旨と一致する。なお講義では賄賂が「現地では常識」という形で語られたが、日本企業の場合は不正競争防止法の外国公務員贈賄罪が域外適用されるため、現地の商慣行を理由に正当化することはできない。制度の重複を説明する例としては有効だが、実務上の選択肢としては成立しない。

PART 4 / 論争

制度的企業家は、常識を破壊するのか、すり込むのか

この回で最も見応えのあったのは、講師と主催者のあいだで起きた用語をめぐる小さな衝突である。

主催者側は、制度的企業家(institutional entrepreneur)を「同質化したパン屋の常識をぶち壊してくる、頭のイカれたやつ」として説明した。焼きたてでなければパンではないという正当性が支配するフィールドに、冷凍パンのサブスクを持ち込むような人間である。それに対して講師は、常識を破壊するわけではないと即座に訂正した。破壊するという認識になっている時点で感覚が違う、制度的企業家がやるのは意識をハックすることだ、と。今まで常識だと思っていた地点をひっくり返し、新しいものを常識だと思わせてしまう。ESGがまさにそれだ、という例示だった。「常識を上書きする」という参加者の言い換えに、講師は同意している。

ここで主催者が反論した。2009年に発表された論文には、制度的企業家について "break the institutional status" と明記されている、と。講師はその論文を知らないと応じ、議論はそこで衝突したまま両論併記に落ち着いた。主催者は続けて、破壊する行動によって制度を変容させ新しい制度を生み出すことが要点であり、破壊と同時に埋め込んでいく考え方こそが制度的企業家精神である、と整理した。講師は、同じフィールドの中に複数の制度ロジックが入ってくるためロジック同士の戦いが起き、どちらかの優位性が出てくる過程で確かに破壊的行為は起きている、ただしそれが表面に出てくるかどうかは捉え方の問題だ、と応じている。

主催者の立場

制度的企業家は既存の制度を破壊する。ただし破壊は目的ではなく、破壊を通じて新しい制度を埋め込むことが本体である。文献上の定義に依拠した主張。

講師の立場

制度的企業家は意識をハックし、常識を上書きする。破壊という語を使った時点で、相手に気づかれる形の変化を想定してしまっている。気づかれない変化こそが最も強い。

興味深いのは、この対立が別の論点では合流したことだ。主催者は「制度変化を起こすのはヒーローではない、啓蒙と日々の積み重ねでしか起きない」という趣旨の記述を引いた。ヒーローではないからこそ、我々にもやりようがある、という読み方である。これは講師の「気づかれない形ですり込む」という主張と、実質的には同じ方向を向いている。そして前半のスポーツの話(別レポートで扱う)で言えば、井上尚弥やヒョードルはヒーロー側にいるので正当性だけで戦える、という位置づけになる。

📌 Claude補足|論争の対象となった論文の特定

主催者が「2009年、ハーバード大学のジョリー・パティラノの論文」と述べたのは、Julie Battilana(ハーバード・ビジネススクール), Bernard Leca, Eva Boxenbaum "How Actors Change Institutions: Towards a Theory of Institutional Entrepreneurship", Academy of Management Annals, Vol.3 No.1(2009年), pp.65-107 を指していると考えられる。発表年、所属、テーマのいずれも一致する。音声上の人名は「バティラナ」に対応する。この論文は、Paul DiMaggio が1988年に導入した institutional entrepreneurship の研究を総覧し、制度的企業家の出現から変革の実行までのプロセスモデルを提示したものである。

ただし、"break the institutional status" という文言が原文にそのまま存在するかどうかは確認できなかった。要確認 一方で、この文献系統が制度的企業家を「英雄的個人」として描くことに批判的で、制度変化を集合的・漸進的なプロセスとして捉え直そうとしている点は、主催者が引いた「ヒーローではない」という趣旨と整合する。つまり、文献の権威を根拠に主催者が破壊説を主張し、講師が非英雄的なすり込み説を主張したが、当の文献はむしろ講師寄りの含意を持つ可能性がある——という捻れが、この場では解消されないまま残った。

この論争のあと、講師は制度理論を学ぶ理由を改めて述べた。僕らは気づかないうちにいろいろなものに取り込まれている。なぜ取り込まれるのかを言語化しているのが制度理論であり、気づけるものには対抗できるが、気づけないものには対抗できない。破壊という語に反応したのは、気づかれずに取り込まれてしまうという核心が抜け落ちるからだ、という説明で締めくくられた。

なお、取り込まれる仕組みの深さについて、講師は「二層どころか、いまの認識では6層構造ぐらいで受けている」と述べている。一つ分かっても次があり、絶対に逃れられない形で深い層から取り込まれる設計になっている、という見立てだ。これは講師個人の観察であり、理論上の層数として確立されたものではない。

Q & A

質疑応答

Q1. 制度化するには、合理性より正当性を優先したほうが制度化しやすいのか。つい合理性に走ってしまう。

A. どちらか一方ではなく、すべて必要でバランスの問題だ、というのが回答。EVを例に、ESGに絡めて展開されたことが正当性を与えて普及を後押ししたが、仮に1台1億円なら、いくらESGを掲げても売れない。社会的正当性が「買う理由」を作り、そこに合理性が伴って初めて模倣が広がる、という説明だった。時間と金がかかっても先行投資が必要なのは、そうしないと長く残れず、市場が狭くなってしまうからだと補足された。

Q2. 制度理論はエコシステムを作るときに使えると捉えたが、どうか。

A. その通り、という回答。ただし非市場戦略の話と組み合わせる必要があり、非市場戦略を考えるには制度理論の理解が前提になる、と付け加えられた。組織フィールドの違いを「古典力学と量子力学の差」に例え、フィールドが違えば展開される論理も変わると説明。なお制度ロジックと組織フィールドは、元々の発想では互いに分離しているという前提だが、実際には必ず融合する部分がある——ただし理解の整理としては一旦分離して見るとよい、という但し書きが付いた。

Q3. GAFAMのようなプラットフォーム企業は複数のフィールドを横断・統合し、自ら業界を定義しているように見える。あれは制度を通り越した「主権者」に近いのではないか。

A. あえて狙って目指している、というのが講師の認識。非市場戦略で最も重要なのは市場が形成される前から入ることであり、市場を作りながらルールを形成するのが最強のパターンで、GAFAMやNVIDIAはそこから入っている、と述べた。質問者がカール・シュミットの主権者概念(例外状態を決定する者)に近づいていると指摘したのに対し、講師はGAFAMが国家と同等の力を持ち始めているという論調が実際に出ていること、欧州がGAFAM等を対象とするルールを作っていることを挙げ、これは制度同士の対立が起きている状態だと整理した。今後いろいろな衝突が起きるだろう、という見通しも示された。

Q4. 企業が先にルールのない領域で価値を操作し、国が後から規制をかけて禁止になる、ということはあり得るのか。企業・国家・一般の人は相互作用しているように見える。

A. 制度理論で最も重要な動きは、相手に認知されないように動き、気づいたら取り込まれている状態を作ることだ、というのが前提として示された。AIがその最新例で、使うのが当たり前という認識をすり込み、使わないことで不利益が出る社会環境まで作ってしまっている。スピード感の重要性を訴えて危機感を煽り、合理的だと思わせる——この二層(講師によれば実際は6層)の設計が働いている、という説明だった。

Q5. 制度化は、マーケットインとプロダクトアウトの区別と似ているのか。

A. 別物として整理された。講師の定義では、マーケットインは「お客様を中心に考える」——顧客を調べ、これがベストだと提案して好きになってもらう流れ。プロダクトアウトは「プロダクトを中心に考える」——これがないと困るはずだ、特別なものだ、として自分で独自の市場を作り、そこに顧客を巻き込む。ただし日本で言われるプロダクトアウトの多くは、実際にはマーケットインで売っているために話が噛み合わなくなり、またプロダクト自体の水準が低いために受け入れられない、という辛口の指摘が付いた。そのうえで、制度理論はマーケットインかプロダクトアウトかに関係なく、その商品を買わざるを得ない状況にするために外堀を埋めていく営みだ、と結ばれた。

HOMEWORK

持ち帰りと次回予告

  1. 『進撃の巨人』を第1話から最後まで通して見る。制度理論を学ぶうえで最も分かりやすい作品として、この回で繰り返し推奨された。シーズン4〜5あたりで一気に見えてくる、主要人物は制度的企業家として読める、という読み筋も示された。
  2. 資源依存理論(RDT)を予習する。次回の講義は Resource Dependence Theory に進む見込みとして予告された。世界三大組織理論の一つで1970年代に登場、企業は必ずどこかに埋め込まれているという前提のもと、その中でどれだけ交渉能力を発揮できるかを扱う。
  3. 自社の「売っている空間」の広がりを点検する。売上の増減ではなく、売る空間・論理・承認の範囲が広がっているかどうかで自社と投資先を評価し直す。
  4. 自分の常識が外では非常識になる場面を一つ書き出す。制度の隙間と制度の重複を、自分の業務の中で具体例として特定する。

次回の入口として示された例

RDTの予告として、交渉力は保有するリソースの量と代替可能性で決まるという説明があった。CATLは中国・米国・日本のメーカーに幅広く供給しており、顧客が多いので価格交渉に行っても「BYDがこれだけ買ってくれているから、その金額は無理だ」と返される。対してパナソニックはテスラ向けが中心なので、より多くの顧客を必要とする分、交渉で弱い立場に置かれる、という対比である。通信でも同じで、米国のAT&T・ベライゾン、日本のNTT・KDDI・ソフトバンクのように少数が大部分の市場をカバーしている国では人・物・金・情報のリソースが蓄積するが、欧州は通信会社が100社以上に分散しているため、ソフトバンクのような事業者と交渉して勝てる規模にならない——と説明された。

図:加入者50万人超の移動体通信事業者(MNO)数の地域比較。欧州の分断度合いを示すためにClaudeが作図。出典:Connect Europe "State of Digital Communications 2026" に基づく報道値。欧州は44、米国8、日本4、中国4、韓国3。なお「EU域内の通信事業者は100社以上」という講義中の数字は、規模を問わない事業者総数としては公開情報と整合する(EU27カ国×各国3〜5社)。

📌 Claude補足|CATLとパナソニックの対比は、現状ではさらに極端になっている

講義で示された「CATLは顧客が多く交渉力が強い、パナソニックはテスラ中心で弱い」という構図は、公開情報と方向として一致する。CATLは2026年上半期時点で車載電池の世界首位を維持し、出荷量は2位の2倍超と報じられている。パナソニックエナジーは主要顧客テスラの販売不振の影響を直接受け、2025年1〜3月期には世界シェアで8位まで後退した(2024年は6位)。同年7月には、約40億ドルを投じたカンザス新工場の約30GWhのフル生産開始を、テスラ向け需要の弱さを理由に2026年度末へ延期している。

つまり「顧客の集中は交渉力の低下として現れる」という理論的予測が、現実の順位変動として観測されている局面にある。ただし、パナソニックは安定顧客を持つがゆえの収益性の高さ(2024年度の営業利益率13.8%は韓国勢を上回る水準と報じられた)という別の側面も持っており、リソース分散が常に優位とは限らない点は注記しておく。この論点は次回の講義で扱われる見込みである。

GLOSSARY

この回に出た概念

組織フィールドorganizational field。制度への圧力が発生する組織のネットワーク。業界を構成する空間そのもので、三層の最も外側にあたる。
制度ロジックinstitutional logic。その空間で成立している行動原理・方針・アイデンティティ。何が正当かを規定する層。
同質化(同型化)isomorphism。フィールド内の組織が互いに似てくる現象。個々の合理的選択の集積として起きる点が要点。
三つの圧力強制的・模倣的・規範的(DiMaggio & Powell, 1983)。それぞれ法規制、成功例の模倣、職業規範として現れる。
制度の隙間institutional void。市場取引を支える制度が欠落または機能不全にある状態(Khanna & Palepu, 1997)。参入機会にもなる。
制度の重複institutional multiplicity。異なる制度の常識が同時に作動して板挟みになる状態。国境をまたぐ事業で顕在化する。
制度的企業家institutional entrepreneur。講師の訳語では「変革プレイヤー」。破壊か上書きかをめぐって、この回で見解が割れた。
資源依存理論(RDT)Resource Dependence Theory。Pfeffer & Salancik『The External Control of Organizations』(1978)。次回の主題として予告された。