第1部市場のボラティリティと投資家心理
出演者2名(配信者「マイキーさん」と「小賀さん」を中心とした対話)が、直近の株式市場の下落局面を題材に、暴落サイクル論、選挙相場、投資心理、レバレッジ商品のリスク、半導体市況を議論する内容。
セッションの規模:本セッションは2本の収録が連続する構成(合計約100分)で、金曜セッションの参加者が約670名、日曜セッションが約270名〜349名と記録されている。第1部(相場心理)と第2部(質問力・営業プレゼン)は同一の流れの中で連続して語られている。
1-1. 暴落サイクル論への懐疑
冒頭、ロングタームキャピタル・マネジメント(LTCM)危機、ブラックマンデー、ドットコムバブル、リーマンショックなど過去の暴落を引き合いに「サイクル的な暴落は実際に存在する」という前提を確認しつつも、話者は次のように釘を刺す。
「似たようなチャートには基本的に照らし合わせようと思えばいくらでも照らし合わせられる。なんですけど、そもそも前提条件が全然違ったりする」
- 過去と現在では個人投資家が市場に占める割合が大きく異なり、その差がボラティリティの性質を変えている。
- 現在は複雑な金融商品(レバレッジ型ETF、デリバティブなど)が急増している局面であり、ウォーレン・バフェットも「複雑な金融商品が増えるほど株式は暴落しやすくなる」と指摘している、という引用がなされた。
- 直近の急落局面については「目先の金を追う投機的な参加者(ギャンブラー)が一掃された」というポジティブな捉え方が示された。韓国のレバレッジETF投資家の破綻がその典型例として言及されている(詳細は1-8)。
1-2. 選挙相場と不安定な市場環境
金利政策よりも「選挙」が当面の市場の主変数になるという見立てが語られた。
- 今後3か月は選挙関連のニュースフローが膨れ上がり、株価がそれに敏感に反応する不安定な相場が続く見込み。
- この現象は4年前の中間選挙、2年前の大統領選挙、さらにトランプ対バイデンの選挙時にも繰り返し発生している「お決まりのパターン」として位置づけられている。
- いずれの選挙でも「上がった時も下がった時も過去にあった」のであり、繰り返しパターンである以上、過去事例を材料に感情をコントロールする対象として扱えばよい、という整理がなされた。
- 上昇時にも「上がりすぎでは」という懸念が、下落時にも「下がって大丈夫か」という懸念がそれぞれ生じる、両側に振れる不安定さが特徴。
1-3. プロスペクト理論と値動きの非対称性
行動経済学のプロスペクト理論を用いて、人は下落局面でよりネガティブな感情を抱きやすいことが説明された。
要点:10%の上昇と10%の下落は絶対値としては同じ「10」だが、心理的なインパクトは非対称になる。同じ変動幅でも、上昇より下落の方が感情の振れ幅(バイアス)が大きくなりやすく、これが「値動きが同じでも下落相場の方が急落しやすい」現象につながるという説明がなされた。値の大きさが小さいうちはあまり感じないが、大きくなるほど感情のブレが顕著になる、という点も強調されている。
結論として、「市場が騒ぐほど過剰反応する必要はないのではないか」という見解が示された。
非対称性の数値イメージ(講義内で示された体感値)
| 局面 | 実際の変動 | 感情的インパクト(体感) | 市場の動き | 投資家の行動傾向 |
| 上昇 | +10% | +7程度(実際より小さく感じる) | ゆっくり上がる(上げるのは難しい) | 「もっと上がるか」と欲が出て利確を遅らせる |
| 下落 | −10% | −15程度(実際より大きく感じる) | 急速に落ちる(落ちるのは容易) | 「やばい、売ろう」と恐怖が先行して損切りしてしまう |
マイキー氏の補足:「下落相場のスピードは上昇より速い。だから感情的インパクトも大きくなる。1〜2%程度の上下は感じにくいものが、10%を超えると感情のブレが大きく出る。これが行動経済学の醍醐味。今は過剰反応しなくていい。」
最適な対応としては、上昇局面では冷静に保有を継続し、下落局面では過剰反応せず静観する、という整理がなされた。
「暴落を何度も経験した人間としては本当に恐ろしい。勤務先も2回潰れかけた。だからチキンで怖くてしょうがない。ただそれが正直な姿だし、間違ったことは間違ったと言える姿勢が投資家には必要。儲かった話は聞くが、間違えた話をする人は少ない。」
── 小賀氏(参加者・ベテラン投資家)
投資判断への応用:プロスペクト理論を知っておくこと自体が、「なぜ今売りたくなるのか」という感情的バイアスの自覚につながる。自覚するだけで損切りの衝動を制御しやすくなるという、行動経済学の実践的な使い方が示された。
1-4. IPOラッシュによる資金分散
- 金(ゴールド)は期待値の高まりとともに上昇している。
- SpaceXの上場のように大型IPOが出てくると、大口ファンドや資金がそちらに分散されるため、既存銘柄・市場全体としては上昇率(上がりづらさ)が下がる傾向があるという指摘。これは話者が以前から「予言」していた現象とされる。
- この資金分散は過去何十年も繰り返されてきた現象であり、市場全体が拡大すればまた新たな資金流入が起きるサイクルの一部として、特段懸念するポイントではないという楽観的な総括で締めくくられた。
1-5. IBM急落と個人的な見通し
話者は、自身が「2025年3月以降、怖くて買えなかった」こと(下落を予見していたのではなく、自分の判断ミスであったこと)を明確に補足した上で、直近のIBM株の急落について言及した。
- IBMは31年連続増配企業であり、量子コンピューター分野も手掛ける優良企業だが、AI関連の投資調整の煽りを受けて売られた。
- 個人的な相場観として「9月まではもう少し下がるだろう」との見立てを提示。ただしこれはあくまで個人の勝手な相場観であり、「また間違うかもしれない」と繰り返し留保をつけている。
「皆さん儲かった儲かったという話はあるけど、間違ったという話はあまりないじゃないですか。なので、あえて私は自分は間違えましたと申し上げたい」
1-6. 投資歴と「握力」の関係
投資歴の浅い参加者(小賀さん、株式投資を始めて約半年〜1年強)に対し、投資経験年数と暴落時の耐性の関係が語られた。
- 最初の5〜10年が最も「耐え時」であり、精神的に一番きつい時期である。
- 話者自身はNVIDIA株などを2011〜2012年頃から保有しており、現在の下落局面は「元値を考えたらどうでもいい」水準であるため、心理的な動揺がない。
- ビットコインの例:早期(例:4万円)で購入した投資家は、価格が1000万→800万→2000万→1500万と乱高下してもほとんど気にしない。エントリーが早いほど精神的な余裕が生まれる。
- 対照的な実例として、ビットコインを34万円で購入し180万円まで上昇したところで一部利確、その後の下落局面で30万円付近まで下げたところで損切りしてしまい、結果的にその後1700万円まで到達するのを見逃してしまった知人のエピソードが紹介された。
- 結論:先に市場に入っていた投資家ほど冷静でいられ、後から参入した投資家ほど動揺(テンパる)しやすいのは市場の中で当たり前に起きる現象であり、そこで諦める人と持ち続ける人の差が最終的な結果の差になる。
「エントリー価格が全て」という整理:2011〜12年頃にNVIDIA等を購入していれば、元値からの絶対リターンが大きすぎて−10%程度は誤差の範囲になる。ビットコインを4万円で買った層が1,000万円→800万円の変動を気にしないのと同じ原理であり、逆に投資歴が浅いほど同じ変動率でもパニックしやすい。だからこそ「最初の5〜10年は耐え時」と事前に理解しておくことが、下落局面でのメンタル管理の核心になるとされた。韓国のレバレッジETF投資家が一掃されたように、目先の利益を追う参加者は市場から退場させられる。
Q:投資初心者が下落時にパニックしないためのメンタル管理は?
A:「最初の5〜10年は耐え時」と理解しておくこと。早期エントリーした人は下落を気にしない(絶対リターンが大きいため)。長期的な視点で「今の下落が15年後にどう見えるか」を意識する。プロスペクト理論を知ることで「なぜ今売りたくなるのか」という感情的バイアスを自覚でき、衝動を抑制しやすくなる。韓国のレバレッジETF事例のように、短期で退場する人と持ち続けた人の差は数年後に歴然となる。(マイキー氏・小賀氏)
1-7. レバレッジ型ETFの構造的リスク
この話題は動画の後半(2-13参照)でホワイトボードを使い数値例とともに詳しく説明されるが、ここでは要点のみ先出しされた。
要点:レバレッジ型ETF(レバETF)は基本的に短期トレード以外での保有には向かない。長期保有は危険。相場がレンジ相場(横ばい・乱高下)で推移するほど「ボラティリティドラッグ(ボラティリティ減衰)」により損をする構造になっている。
一般投資家心理の弱点として、ベテラン投資家であれば「一時的な下げ」と判断できる局面でも、経験の浅い投資家は「下がった、やばい、売ろう」と反応してしまう傾向が指摘された。
1-8. 韓国レバレッジETF崩壊とSK hynix ADR問題
直近で話題になった韓国市場の混乱について、2つの問題点が整理された。
① レバレッジ型ETFの誤用
韓国では2倍レバレッジのETFを、本来短期トレード向けの商品であるにもかかわらず2〜3週間という中期スパンで保有した個人投資家が多数存在し、下落局面でボラティリティドラッグの影響を強く受けて損失を被った。レバレッジ型ETFは個人投資家が全体の7〜8割を占めるとされ、短期的な利確目的の資金が集中しやすい構造も背景にあるとされた。
② 韓国金融規制当局によるADR裁定取引の制限
SK hynixのADR(米国預託証券)と韓国国内株の間で、通常であれば裁定取引(アービトラージ)を通じて価格差が収斂するはずだったところ、韓国側の規制当局がADRから国内株への転換(または逆方向)を制限する措置を取った結果、両者の間に一時50%ものプレミアム(価格乖離)が発生。これが市場の不信感を急速に高める本質的な原因になったと説明されている。
| 項目 | 内容 |
| 影響が波及した銘柄 | サムスン電子、SanDiskなど、メモリー関連銘柄全般に波及 |
| SK hynixのADR調達額 | 約260億ドル(SpaceXに次ぐ規模の大型調達と紹介) |
| 話者の見立て | 半導体・メモリー市場のファンダメンタルズが崩れたわけではなく、規制介入による市場構造の歪みが原因 |
| 正常化の見込み時期 | 2026年7月29日(話者の個人的な情報源に基づく見立てとして言及。裏取りは取れていない旨、本人が留保) |
注意:7月29日という日付は、話者が「金融関連の知り合い」から得た情報として語ったものであり、一般に公開された確定情報ではない点に留意。動画内でも「もし覚えていたら翌日の講義で説明する」という留保付きの発言となっている。
続編への参照:この「翌日の講義」にあたる2026年7月20日収録回では、同じSKハイニックスADR問題が制度面まで掘り下げて再説明されている(KSD=韓国預託決済院による普通株⇄ADRの交換停止、ガンマヘッジとレバレッジ型ETFのリバランスによる増幅、7月29日の本当の意味=ツーウェイ・コンバージョン再開予定日、など)。詳細は同回のレポート「ADR急落と投資哲学」を参照。なお、そちらで語られた内容も登壇者の伝聞・仮説を含むため、裏取りが必要な点は同様。
1-9. Jensen Huang来日発言とデータセンター電力コスト
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOの来日時の発言をめぐる質疑応答が展開された。
Q:データセンターの運営コストにおける電気代7%という数字は、半導体の減価償却が大きいことを意味するロジックなのか?
A:そうではなく、単純にデータセンター全体の運営コストのうち電力運営コストが占める割合が約7%であるという事実の言及。100億ドル規模のデータセンターであれば約7億ドルが電力コストに相当し、決して小さい額ではない。
- ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)は高い電力コストを負担しており、消費電力をいかに抑制し「トントン」に持っていくかが技術上の重要指標になっている。
- 半導体・データセンター機器の分野では、電力消費効率の高さそのものが製品の指標・差別化要因になりつつある。
- フアン氏は日本に対し、既存の要素技術(半導体関連)の強みを活かしつつ、より若い世代(ヤングピープル)を巻き込むことを促し、"Be your (own) success" 、"Succeed" という言葉とともに、機会をつかむようメッセージを送ったと紹介されている(マイキーさん来場者としての所感)。
電力削減技術という解答(補足):「たった7%」に見えても絶対額は膨大であり、この電力消費をいかに削減するかが光通信・半導体技術のキーポイントになっている。消費電力効率が高い技術ほど競争優位になるという文脈で、Lumentumの光回路スイッチ(OCS)による電力約60%削減が、その解答の一つとして挙げられた(別セッションの光通信分析と連動する論点)。