本レポートの概要
この日の雑談後半は、前半の会社員時代の話から一転して、資本の流れをめぐる話題に移った。出発点は米国の防衛関連で新しい投資枠の打診が来たという実務の話である。ただし適格投資家の枠の条件が厳しく、自分は問題ないが周囲の日本の投資家がクリアできるかが分からない。海外の投資家ならいくらでもいるが、そちらへ行くのが面倒だ――という、ごく実務的な愚痴から始まった。
そこから話は、電話で済まない世界の話になる。海外の投資家に電話をかけると、いい情報があるなら一度来いという話になる。結局は行かざるを得ない。同じ日に韓国の証券会社から電話が来た件も語られた。SpaceXが上場したあと、自分たちにも入れてもらえないか、次の案件はないかという打診である。講師は「気が向いたら連絡する」とかわしたが、その曖昧な返事こそが定期的に向こうから連絡が来る状態を作り、結果として自分が動かずに情報が入ってくる仕組みになっているという。
この話は自然と、金融業界のクローズド化という診断に接続した。相手を選んで情報を渡す方式が主流になり、金融業界は実質的に情報業界になった。昔はもう少し簡単に手に入ったものが、一般の投資家にはまったく届かなくなっている。講師は容赦なく「一般の人たちはもうカモのリスト」だと言い切った。
後半は日本という国の立ち位置の話になる。みずほがSpaceXの国内トランシェを取ったが、そのチームの中核は元クレディ・スイスの人材である。そごう・西武の案件では外資ファンドが1,000億円規模の利益を得た一方、国内の当事者は奴隷のような扱いを受けたという。学習しないまま、同種の案件がまだいくつも動いている。その対極として挙げられたのが、潰れかけの会社を自分で買い取り、Androidのサプライヤーにまで持っていった秋田の中小企業の社長だった。そして最後に、米国の卒業式で学生が登壇者にブーイングを浴びせた話が置かれる。
適格投資家の枠と、電話で済まない世界
話の入口は、米国の防衛関連で新しい投資の話が来たという報告だった。講師は懇親会の場でも同じ話をしたと前置きしつつ、条件が厳しいという点を強調した。適格投資家の枠に課される条件が非常に厳しく、自分自身は問題なく通るが、これは一体誰に当てはまるのかという状態だという。受けること自体は構わないが、周囲の日本の投資家がクリアできるかどうかが分からない。海外の投資家であればいくらでも該当者はいるが、そちらへ出向くのが面倒だ、というのが本音だった。
ここで語られた観察が興味深い。電話で済まないのが辛い、という。海外の投資家に電話をかけると、久しぶりだ、そんないい情報があるなら一度こちらへ来い、という話になる。結局は行かざるを得ない。無理に電話で済まそうとすると話が進まないので、行ってしまったほうが早い。距離を越える手段が発達しているにもかかわらず、意思決定の場は依然として対面に置かれている。
同じ日、韓国から電話が来たという話も出た。SpaceXが上場したあとで、自分たちの証券会社でも扱わせてもらえないか、SpaceX以外で次の案件はないか、という打診である。講師は「面倒でなければいいが、気分次第だ」と応じ、やりたくなったら連絡すると伝えた。彼自身、人には意思決定のスピードが大事だと言っておきながら、自分がいちばんひどい回答をしていると笑っている。
金融はクローズドサークルになった ―― 情報業界としての金融
参加者の一人が、金融業界がクローズドサークルになっていると指摘した。講師は同意し、相手を選んで情報を渡すという手法が今や主流になっていると述べた。簡単に言えば、金融業界は今や情報業界である。昔はもう少し簡単に手に入ったものが、今はまったく手に入らなくなっている。一般の投資家にとって、案件の入口そのものが閉じている。
講師の表現は身も蓋もない。「一般の人たちはもうカモのリストだ」。そのうえで、分からないならそれでもいいのではないか、と突き放した。ここで語られているのは陰謀論ではなく、情報の非対称性が制度化されたという構造の話である。良質な案件が公開市場に出る前に閉じた輪の中で配分されるなら、公開市場に残るのは配分されなかったものになる。
SpaceX上場と国内トランシェ ―― 儲けたのは誰か
ここから具体的な案件の話になる。今回、みずほが日本国内のトランシェを取った。講師によれば、その案件を担った人材はもともとクレディ・スイスの連中である。クレディ・スイスが破綻し、その後に米国側で受け皿となった。彼らは非常に優秀で、宇宙関連の領域をプライベートバンキングも含めて押さえていた。だからこそ、みずほが国内で取ることができた。上場の当日、彼らは祝賀をしていたという。
講師の目線は冷たい。またたっぷり儲かって、それこそ社長より多く、おそらく10倍以上を手にするだろう。だが原資は日本の資金である。日本の投資家が買ったものの、儲けているのは元クレディ・スイスの人材だ――という整理である。参加者からは「日本人は学習しない、毎回やられている」という声が上がった。
講師は自分が金融機関を辞める前に、国内のチームをもっときちんと取り込むべきだとかなり主張したと語った。シンジケーションやECM(エクイティ・キャピタル・マーケット)の実務も担ったが、「それはルールが違うんです」と返されるばかりで、まったく動かなかったという。
日本国内分については、米国みずほ証券からの委託を受けてみずほ証券が主幹事的な役割を担い、みずほ証券・楽天証券・SBI証券を通じて国内投資家からの申込を受け付けた。当初報道では最大20億ドル(約3,200億円)規模、最終的な国内募集規模は約3,500億円・約1,630万株とされる。新NISAの対象にもなった。みずほ証券が2,000人規模の態勢で臨んだ「総力戦」だったとする報道もある。
一方、「国内トランシェを担ったチームの中核が旧クレディ・スイス出身者である」という点、および「彼らが社長の10倍以上の報酬を得る」という部分は、公開情報では裏取りできなかった。要確認 講師の業界内部の見立てとして記録する。なおクレディ・スイスが2023年にUBSへ救済統合されたのち、旧CSの投資銀行部門の人材が各社へ移籍したこと自体は広く報じられている。
西武池袋と1,000億円 ―― 抜かれても文句を言わない構造
参加者から、そごう・西武の売却案件が引き合いに出された。池袋の案件で、米国のファンドにいくら抜かれたのか、と。講師の答えは「全部抜かれている」「1,000億円抜かれたではないか」だった。そのうえで語られたのが、当事者の扱いである。日本側の関係者にとって西武側は「神様」で、呼び出しがあれば何時でも行くという、奴隷のごとき扱いをされていた。そして儲けたのは案件を取った側だった。明らかなヒエラルキーがそこにあるが、それに対して文句を言う人間が誰もいない――というのが講師の見立てである。
参加者は続けた。1,000億円抜かれても、まだ同じことをやろうとしているところが自分のところにいくつも上がってきている、と。なぜこれほど学習能力がないのか。講師は「日本の関係者は全部奴隷扱いだ」と応じた。
「1,000億円抜かれた」という発言については、フォートレスがこの買収ですでに1千億円規模を儲けたとする報道があり、西武池袋本店の不動産をヨドバシ側へ組み替えるスキームによる利益と説明されている。したがって金額の桁は報道と整合するが、それはセブン&アイから直接抜かれた額ではなく、不動産の再配置によってファンドが得た利益という性質のものである。発言の趣旨(外資が大きな利益を得た)は裏付けられるが、「1,000億円を払った」と読むと事実関係を誤る。
秋田の中小企業という対極 ―― リスクを取る人に関わりたい
ここで話の色調が変わる。参加者が、秋田の会社がAndroid関連のサプライヤーになった件を持ち出した。講師の反応は素直な称賛だった。中卒の社長が自力で頑張ってAndroidのサプライヤーになるのは本当に素晴らしい。潰れかけの会社を自分で買い取り、今は社員100人ほどの規模になっている。あれくらいのリスクを取れる人が実際にいる。そういう企業にこそ自分たちは関わって、サポートしてあげたい――そう語って、話が脇道に逸れたことを詫びた。
この挿話は、直前の「抜かれる日本」という嘆きの裏返しとして置かれている。外資に手数料を持っていかれる構造を嘆く話と、地方の中小企業が自力で世界的なサプライチェーンに食い込んだ話が並ぶことで、問題の所在が「外国が悪い」ではなく「リスクを取る主体が国内にどれだけいるか」に移る。
ブーイングできる学生、できない学生
話題は一転して米国の卒業式に移った。講師が見たという映像の話である。有名大学の卒業式に登壇した人物が、15分のスピーチのあいだに学生から8回ブーイングを受けた。理由はAIである。AIが出てきて若い人たちの就職が消えるという話が広まっているなかで、その当事者にあたる人物が壇上に立った。講師によれば、最後は目を潤ませて帰っていったという。
講師が感心したのはブーイングそのものではなく、それができるという事実だった。卒業式に来賓として来た、それも業界の頂点にいる人物に対して、公然と不満をぶつける。日本人には絶対にできない、というのが彼の評価である。日本なら誰が来ても「すごい人が来た」で終わってしまう。そこを「帰れ、お前がAIを開発するから俺の職がなくなる」と言える。ニコニコしながら全員が怒っているという映像が面白すぎた、と参加者も同調した。
もう一つ引かれたのが、ハーバード大学の卒業式で学生代表の女性が大学そのものに喧嘩を売った一件である。「Harvard, do you hear us?」という言葉が印象に残っているという。自分が卒業する、世界で最も権威のある大学の教員全員を前に、22歳がそれをやった。これも日本ではやらない、と講師は繰り返した。
2026年の卒業式でAIをめぐるブーイングが起きたと報じられているのはセントラルフロリダ大学(UCF)の芸術・人文学部の式典で、登壇者はTavistock社の戦略提携担当副社長グロリア・コールフィールド。彼女が「AIの台頭は次の産業革命だ」と語ったところ、卒業生から強い反発を受けた。2026年の卒業シーズンにはAIに言及した登壇者がブーイングを受ける例が複数報じられている。
次に登壇者名。文字起こしでは「カールシュミット」と聞こえるが、この名前で知られるカール・シュミットは1985年に没したドイツの法学者であり、卒業式に登壇することはありえない。文脈(AIと若者の雇用)から、パランティアCEOのアレックス・カープを指している可能性が高い。カープは2026年1月のダボス会議で、AIが雇用を生むか奪うかと問われて「人文系の仕事は破壊される」と答えて話題になった。ただし彼が2026年の卒業式に登壇してブーイングを受けたという報道は確認できていない。要確認
一方ハーバードの件は2026年ではなく2024年である。2024年5月の卒業式で学生代表のシュルティ・クマールが「The Power of Not Knowing」と題したスピーチの途中で原稿にない発言を挟み、パレスチナ支持のデモに参加して処分を受け学位を認められなかった13名の学生に言及した。締めくくりが「The students have spoken. The faculty have spoken. Harvard, do you hear us?」である。講義中の「昨年」という時点は2年ずれている。
まとめると、大学名・登壇者名・年次のいずれも講義の説明と公開情報が食い違う。ただし「2026年の米国の卒業式でAIを語る登壇者が学生から激しい反発を受けた」という出来事の骨格自体は実在する。講師の論旨(米国の学生は権威に対して公然と異議を唱える)は成立しているが、個々の固有名詞は各自で確認のうえ引用すべきである。
質疑応答(この回・PART 0〜5に属するもの)
宿題・アクションアイテム
- SpaceXの国内募集について、みずほ・楽天・SBIの各社が受けた配分と手数料条件を、公開されている目論見書・訂正目論見書から確認する。「日本の資金が誰に手数料を払ったか」を数字で押さえる。
- そごう・西武の案件を、企業価値2,200億円/有利子負債約2,000億円/株式譲渡価額8,500万円という三つの数字から再構成し、「1,000億円抜かれた」という表現がどの局面を指しているかを自分の言葉で説明できるようにする。
- 2026年の米国の卒業式でAI関連の登壇者が反発を受けた事例を実際に検索し、大学名・登壇者名・発言内容を特定する。講義で語られた固有名詞との差を確認する。
- 秋田県の電子部品・デバイス関連企業のうち、グローバルなサプライチェーンに組み込まれている中小企業を県の産業ガイドブック等から洗い出し、講義で言及された企業に該当しそうなものがあるかを調べる。
- 自分が普段アクセスしている投資情報が、どの層(公開情報/機関投資家向け/クローズドな関係経由)に属しているかを分類し、その層で勝てる戦い方に絞り込めているかを点検する。