テレビの経済討論に出た主張を一つずつ分解し、実質実効為替レート、パススルー、金利と為替の関係を整理した回。あわせて日米メディアの収益構造の差も扱われた。
マイキー氏が日本のニュースメディアを二週間ほど意識して見直したという話から、この回の後半が始まった。取り上げられたのは、円の実質実効為替レートがトルコリラを下回り「世界最弱通貨」と呼ばれた件をめぐる討論番組である。氏の批判は結論そのものではなく、議論の組み立て方に向けられていた。データ上そう見えることと、価値が下がったという事実は別物であり、その区別が番組内で一切されなかったという指摘である。
実質実効為替レートは、名目実効為替レートに自国の物価と取引相手国の物価の比率をかけたものである。したがってその下落は、名目の動きだけではなく、自国と相手国のインフレ格差からも生まれる。トルコが高インフレを続けていれば、トルコの実質実効レートが上がるのは指標の定義上むしろ当たり前であり、そこから議論を始めなければならない。加えて、日本国債の格付けは安定的でトルコリラは高リスク、流動性も円は世界上位でトルコリラは低い。何をもって最弱と呼ぶのかという定義の問題が残る。
続いてパススルー(為替変動が国内物価へ転嫁される比率)が扱われた。日本はこの比率が極めて低く、企業が利益のマージンを圧迫して価格転嫁を抑えてきた。いま物価が上がっているのは、企業が利益を上乗せしやすくなったという状態の変化であり、生活が一時的に苦しくなる可能性があっても賃金に転嫁されれば均されていく、という説明である。この整理を飛ばして不安だけを煽るのは、プレゼンならともかく議論の場ではおかしい、というのが氏の立場だった。
三つ目が金利と為替である。番組で大学教授は「金利は為替にあまり効かない」と述べ、外資系証券の日本法人社長は「為替は金利に影響します」と述べた。マイキー氏は両方とも間違っていると切り捨てた。金利そのものが為替を動かすのではなく、金利が上がったという情報に投資家がどう反応するかが為替に反映される。行動経済学に近い話になる、という主張である。
指標は現象を要約するために作られており、その要約が何を落としているかを知らずに使うと、数字は結論を偽装する。実質実効為替レートも、パススルーも、金利差も、定義に立ち返れば別の物語が見える。そして定義に立ち返らない議論を量産する構造そのものが、日本のメディアの収益モデルと結びついている。
マイキー氏がまず提示したのが定義である。実質実効為替レートとは、名目実効為替レートに自国の物価をかけ、取引相手国の物価で割ったものである。ここから直ちに出てくる帰結が一つある。名目実効レートが一定だったとしても、相手国の物価が自国の物価を上回って上昇すれば、相対的に自国の実質実効レートは下がり、相手国のそれは上がる。
トルコは長期にわたり高インフレが続いた国である。だとすれば、トルコの実質実効レートが戻ってくるのは指標の性質上むしろ当然で、そこを出発点にしなければ議論にならない、というのが第一の批判だった。第二に、最弱という言葉の中身である。通貨の値という意味では確かにそうだが、国債の格付けは日本が安定的でトルコリラは投機的水準、流動性も円は世界上位でトルコリラは低くボラティリティが高い。比較の軸が一本しかない。
この件は2026年4月に円の実質実効為替レートがトルコリラを下回ったもので、米ブルッキングス研究所のロビン・ブルックス氏が2026年5月24日にBISの実質実効為替指数をもとに指摘し、国内でも報じられた。講義中の「ブルッキングス研究所の研究員」という帰属は正確である。
一方、講義中の「トルコは1年間のハイパーインフレで50%上がりました」という数値は、直近1年とは合わない。ジェトロによればトルコのCPI上昇率(各年12月の前年同月比)は2022年64.27%、2023年64.77%、2024年44.38%、2025年30.89%で、2025年の12か月平均は34.88%である。50%という水準は2023〜2024年の局面に近く、直近1年では30%台前半にとどまる。論旨(トルコの高インフレがREERを押し上げた)は成立するが、数値は発言のほうが大きい。
マイキー氏の結論はここに集約される。実質実効購買力で円がトルコリラを下回っているのはデータ上そう見えるが、トルコリラより価値が下がったという事実は何もない。数字の状況にすぎない。そしてブルッキングス側がエンゲージメントを集めるために言っているのは当然で、問題はそれをメディアがそのまま議論の前提に据えたことだ、という指摘である。
講義中の「取引の流動性は日本は世界で3位」という発言は裏付けられる。BISが3年ごとに実施する中央銀行サーベイ(2025年4月調査)によれば、全世界の1日平均外国為替取引高は9兆5,950億ドルで、通貨別シェアは米ドル89.2%、ユーロ28.9%、日本円16.8%、英ポンド10.2%、人民元8.5%。円は第3位である(1取引に2通貨が登場するため合計は200%になる)。ただしこれは通貨別のシェアであり、取引が行われる市場の所在地別で見ると東京市場のシェアは低下傾向にある点は区別して読む必要がある。
番組で大学教授が述べたとされるのは「日本のインフレが進むほど実質実効為替レートは上がる」という主張だった。マイキー氏はこれを、条件を落とした言い方だと批判した。正しくは、日本のインフレ率が海外より高くなるのであれば実質実効レートは上がる、である。さらにこの関係が成り立つのは名目実効レートが一定という条件下だけで、その条件を明示しなければ理論として通じない。
そのうえで氏は、指標そのものが持つ捻れを説明した。インフレとは物価の価値が上がることであり、その分だけ円の価値は下がっている。他方で実質実効レートが上がることは購買力が上がることを意味する。一見矛盾して見えるが、実質実効為替レートは本来、その国の製品が海外の製品と比べてどれだけ競争力があるかを示す指標である。名目レートが円安に振れれば、インフレになっても実質実効レートは下がるという結論になりうる。知識としては真逆のループに入るこの点こそ、この指標の弱いところだ、という整理だった。
もう一つ持ち出されたのがパススルーである。為替が1%動いたときに輸入価格や消費者物価が何%動くかという比率で、日本はこれが極めて低かった。理由は、為替変動で輸入コストが増えても企業が利益のマージンを圧迫し、価格に転嫁しなかったからである。
コスト上昇を企業が吸収する。店頭価格は動かないが、企業の利益は削られる。消費者は変化を感じにくい。
企業が利益を上乗せしやすくなっている。生活は一時的に苦しくなりうるが、賃金に転嫁されれば均されていく。
マイキー氏は、この構造を説明せずに数字だけ示せば不安しか残らないと述べた。プレゼンテーションで危機感を煽る目的ならまだしも、議論の場でそれをいかにも正しいように進めるのは違う、という線引きである。同時に氏は、自分が使うデータも突っ込みどころはいくらでもあり、学びの動機づけのためのシーディングにすぎないと自ら明かしている。
為替レートの物価へのパススルーが日本で低いことは実証研究で繰り返し確認されており、日本銀行のワーキングペーパーやRIETIの分析でも、日本のパススルーは米国と比べて弱いとされてきた。一方で近年は輸入浸透度の高まりを背景にパススルーが上昇傾向にあることも指摘されている。内閣府の分析では、10%の円安が5四半期後の食料品CPIを1.5%程度押し上げるとの試算が示されている。講義の「以前は低かったが現在は上がっている」という説明は、実証研究の方向と整合する。
三つ目の論点が金利である。番組で大学教授は「金利はあまり為替に効かない」と述べた。マイキー氏は、これは半分正解で半分間違いだと評価した。数年前からアカデミックの世界でも、金利で円安が止まるという説明に信頼性がないという指摘は出始めている。教科書に載るのは購買力平価説と金利平価説の二つで、短期から中期の動きはランダムウォークでも説明しきれない。ただしテイラールールは、特定期間で政策金利が明確になっている場合には機能しうると結論づけている。
金利が上がることそのものが為替を動かすのではない。金利が上がったという情報に対して投資家がどう反応するかが、為替に反映される。したがってこれは行動経済学に近い領域の話になる、というのがマイキー氏の主張である。
この見方から、円安の原因についての通説も書き換えられる。金利差が開いたから円安になったのではない。アメリカをはじめ世界が利上げをするなかで、日本は上げないと言っている。だから差はさらに開くだろうという心理的バイアスがかかり、キャリートレードを長期で組めるという判断が生まれ、資金が流れた。差そのものではなく、差が今後どうなるかについての読みが動かした、という説明である。もし日本が以前から市場に合わせて金利を上下させていれば、同じ差が生じてもここまでの円安にはならなかったはずだ、とも述べられた。
講義が行われたのは2026年6月10日である。その6日後、2026年6月15-16日の金融政策決定会合で、日銀は政策金利の誘導目標を0.75%程度から1.0%程度へ引き上げ、国債買入れの減額停止も決定した。したがって「日本は金利を上げないと決めている」という市場心理の前提条件は、講義時点ですでに転換過程にあり、本レポート作成時点では成立していない。発言を書き換えず記載するが、読む際にはこの時点差を踏まえる必要がある。
同じ番組に出た外資系証券の日本法人社長は「為替は金利に影響します」と明言したという。大学教授は効かないと言い、証券会社は効くと言った。マイキー氏はどちらも違うと述べている。どちらかが正しいという二分法で分断を起こすような会話が、果たして議論なのかという疑問がここでの結論だった。なお発言者や番組名は文字起こしから特定できないため、内容の当否はここでは検証していない。要確認
渡辺氏はこれに、教科書で言われる理論と、いま起きている現象を説明する理論は別だと応じた。日本には中間のバッファーがあり、それが為替変動を吸収してきたが、それが機能しなくなっているという説明から入らなければ議論の場としては不十分で、ある意味で悪意すら感じる、と述べている。マイキー氏は、この内容を10分で話せるのに番組は50分かけていたと評した。
なぜこうした議論が量産されるのかという問いは、メディアの収益構造の話に移った。マイキー氏はニューヨーク・タイムズなど米国メディアと日本の新聞社について、マネジメント手法と財務戦略を比較したという。結論は「日本のメディアは勝てない」だった。
差の原因として挙げられたのが情報のプレミアムである。日本の新聞やメディアは、情報をいかに安く人に届けるかに専念し、情報にプレミアムをつけることを一切しなかった。ただ民主化されたメディアにすぎない。対してアメリカはそこにプレミアムをつける文化を作り上げた。この文化の有無が収益差になっており、取り返しがつかないところまで来ている、という見立てである。
| 項目 | 講義中の発言 | 公開データによる確認 |
|---|---|---|
| ROEの比較 | 日本で非常に良いところで23%程度、ニューヨーク・タイムズは18% | 比較対象企業が特定できず未検証要確認 |
| 読者の平均世帯年収 | ニューヨーク・タイムズやフォーブスで35万ドル | 出典を特定できず未検証要確認 |
| 登録者数 | 5,000万以上 | 公開データと食い違う。NYT社の2026年第2四半期末の購読者は約1,335万人(うちデジタルのみ約1,280万人)。「登録者」が無料登録を含むオーディエンス規模を指す可能性はあるが、有料購読者数としては桁が異なる |
| 日本の有料課金層 | 課金しているのは年収1,000万円以上と結構高いが、約7割が60代以上 | 出典を特定できず未検証要確認 |
| 日本の海外メディア課金比率 | 48市場の調査で日本は比率が圧倒的に低く、最も金を使っていない | ロイター・ジャーナリズム研究所の「Digital News Report 2026」は2026年6月16日公開。日本の有料購読比率が国際的に低位であることは同レポートの従来の傾向と整合するが、本数値の直接確認はできず要確認 |
渡辺氏はこの差を動機の違いとして説明した。統一的見解を欲しがるのは、上から物を言うために知識が必要だからであり、自分で踏破して得たい知識ではない。社会に対する安定性を基盤に物を考えているため、変化するために何が必要かというピースを埋める動機が働かない。決断のための情報ではなく、適応のための情報になっている、という整理である。マイキー氏はこれを「間違いない」と受けた。
マイキー氏は、この形態は40年、50年かけて作られてしまったものであり、どこかの会社にメディアごと買収される時代もいずれ来るのではないか、と述べた。また、こうしたレベルの議論が何十万回、百万回と再生されて流通していること自体に危機感を示し、自分がテレビに出ればその場で話が終わって二度と呼ばれないのが見えているから、基本的にメディアには出たくない、と繰り返している。渡辺氏は、業界を横断する知識がなければいま起きている現象の説明は難しい、と応じた。
講義の前後に共有された事項をまとめておく。次回金曜日の講義は、前田氏がドラッカーを扱う。マイキー氏側は、直前の回で演繹法・帰納法・アブダクションを扱い、アプライドマテリアルズやラムリサーチといった半導体製造装置を取り上げてきた流れを受けて、次はエネルギーを扱うと予告した。当初の希望は宇宙だったが、いまの業界を見たときにここも押さえておかなければならない、という判断である。
6月20日の大運動会は参加者が50名以上に達し、今週金曜日が最終締切と案内された。夜は「闇カジノ」を実施し、賭けるのは金銭ではないとされた。大富豪大会も組み込まれている。遠方参加者向けに宿泊場所が用意されるが、翌日は14時からセミナーが控えている。7月には福岡開催が決定し、Discordに詳細が掲示されている。また、まだ参加していない人向けの募集も告知された。
講義中、マイキー氏は「スペースXが明日上場する予定で、今もう注文で700億ドル入っている」と述べた。実際には、SpaceXは2026年6月11日の市場引け後に1株135ドル・5億5,555万5,555株で価格を決定し、6月12日にナスダックへ上場した。調達額は約750億ドル、想定時価総額は約1兆7,500億ドルで、初日終値は161ドル(+19%)、時価総額は約2.1兆ドルとなった。講義時点の「700億ドル」は最終的な調達額750億ドルより小さく、需要積み上げ途中の数字と見るのが自然である。
参加者から、今年トランプ氏が最も損をした銘柄の一つがくら寿司(くら寿司USA)だった、2月に儲かった資金で買ったものだ、という趣旨の発言があった。文字起こしの音声認識が不安定で対象や文脈を特定できず、裏付けとなる公開情報も確認できなかったため、内容の当否はここでは判断していない。要確認
実質実効為替レートという指標の上ではそう見えるが、ファクトベースではノーだというのがマイキー氏の答え。実質実効為替レートは名目実効レートに自国物価をかけ相手国物価で割ったもので、トルコの高インフレを考えれば数値上そうなるのは当然である。加えて国債格付け、流動性、ボラティリティのいずれも日本とトルコでは条件が違う。数字の状況であって、価値が下がったという事実はない、というのが結論だった。
正確には「日本のインフレ率が海外より高くなれば」であり、かつ名目実効レートが一定という条件下でのみ成り立つ。条件を落とせば理論として通じない。実質実効為替レートは本来、自国製品の対外競争力を測る指標であり、名目が円安に振れればインフレでも下がりうる。この捻れこそ指標の弱点だ、と説明された。
矛盾していない、というのが回答。物価が上昇した分だけ名目レートが多少円安に向かっても、プラスマイナスで相殺されるため基本的には動かない。だから本来の論点は、なぜ実質実効レートが落ち、円安になっているのかであり、そこから産業構造の話に進むはずだが、番組ではそこまで行かない、と指摘された。
どちらの断定も間違いだというのがマイキー氏の立場。金利そのものではなく、金利が上がったという情報に投資家がどう反応するかが為替に反映される。円安の原因も金利差そのものではなく、アメリカはさらに上げうる・日本は上げないと決めている、という読みからキャリートレードを長期で組めると判断され資金が流れた点にある、と説明された。
渡辺氏は、日本には為替変動を吸収する中間のバッファーがあり、それがパススルーの低さに表れていたが、いまは機能しなくなっている、その説明から入らなければ議論の場としては不十分だと述べた。経済を機械的メカニズムとしてのみ見て対案を出さず不安を煽るだけになっている点に、ある意味で悪意を感じるとも付け加えている。
渡辺氏は動機の違いを挙げた。統一的見解を欲しがるのは上から物を言うためであり、自分で踏破して得たい知識ではない。社会の安定性を前提に考えるため、変化に必要なピースを埋める動機が生じない。決断のための情報ではなく適応のための情報になっている点が、格差の源だという見方である。