正しい中身を、間違った器に載せた回
この回の前半は、資産運用EXPOのブースで顧客リストを集めた営業成績上位三名による座談会の報告だった。発表者はエッチな渡辺(成績3位)、マモ(1位)、ゴキブり先生(2位)の三名で、渡辺がメインで進行し、二人に振っていく形式を取った。三人が事後に話し合って共通点を抽出した結果、営業は「声をかけるマインド」「足を止める技術」「LINE登録まで運ぶ詰め」という三段階に分解できる、という整理に落ち着いた。
各段階の中身は具体的である。マインドの段では、キャッチやティッシュ配りの経験がそのまま効くこと、無経験者でも初日で場数を踏めば二日目以降は機能することが語られた。足を止める段では、良い数字を連呼する無差別型と、相手の属性を読んで問いを投げるターゲット型という二つの型が同時に成立していたことが示された。登録の段では、相手の関心度を三段階に分けて、それぞれに別の話法を当てる設計が語られた。
ところが発表が終わった直後、講師のマイキーから「これは報告会ですか」という問いが投げられる。営業を教える講義なのに、講義そのものが営業になっていない。営業成績1位・2位・3位を名乗った人間が、その場で何も売らずに終えるのはおかしい。しかも事前に「マウントを取れ」という宿題が出ていたのに、それも実行されていない。ここから議論は、内容の是非ではなく「入り口の設計」へ移っていく。
指摘の核心は入れ子構造にある。周りの出展者はこういう行動を取っていた、自分たちはこういう意識でやっていたからこういう結果になった――という比較を先に置けば、同じ内容でも聞き手に動機が生まれる。その上で「前回参加した人、リベンジしませんか」と次のEXPOへ誘えば、報告そのものが営業になる。技術の説明ではなく、技術を使って見せることが求められていた。
血の海とスプラトゥーン――冒頭の雑談から
講義開始前の雑談は、マイキーの負傷談から始まった。水をこぼしたと思って一時間ほどゲームを続けていたら、床が全部自分の血だったという話である。ペチャペチャと音がするので見たら血の海になっていた。スタッフが騒ぎ出したのは試合の最中で、ホイミンがナプキンを取りに行って三十秒から一分ほど戦線を離脱したため、その試合は負けた。血よりも試合を優先し、離脱した側に文句を言ったという筋である。骨折の経験は別にあり、コテージに泊まった際にロケット花火を人に向けて撃ち合い、森川(あだ名はエビオスマン)を追いかけ回している最中に転んで足をやったという。
話題はゲームの実力論に移る。マイキーは四十代からスプラトゥーンを始めて、二千万人規模のプレイヤーのなかで一万位以内に入ったと述べ、XPは2300ちょいだと語った。年齢別なら相当上位のはずだという受け答えがあり、十代なら3000は行くという自己評価も出た。過去にはウイニングイレブンのオンライン対戦で、良いときは世界十位圏、低いときで百位から二百位台にいたという。有線接続を含めた環境のセットアップを徹底する話に及び、「素人はそこまで気にしない」という一言が出た。この、勝つための前提条件を先に全部潰しておくという態度は、この後の営業の話とつながる。
もう一つ、配信者ネッピーの話題が出た。コラボ配信でTwitchの同時視聴を一万人まで伸ばしたことに触れ、「配信は実力じゃなくて面白いやつが勝つ」という本人の言葉が体現されていたと評された。ネッピー本人はYouTube配信で食えなくなったらビジネスに行くと語っており、資産運用もしているので問題ないという。この「面白いやつが勝つ」という前提も、この回の後半に効いてくる。
講義中で「先月ビッグサイトで」と語られた展示会は、RX Japan主催の「資産運用EXPO【夏】」と特定できる。公開情報では第5回が2026年5月15日(金)〜17日(日)の3日間、東京ビッグサイト東7ホールで開催されており、約120社の出展と約120本のセミナーが組まれていた。発言にある「3日間」「セミナーが随時行われる会場」という描写は、この開催実績と整合する。
三段階に分解された営業――マインド、足止め、登録
発表の骨格は明快だった。EXPOにおける営業の定義は「顧客リストの取得」であり、ブースに立つ営業員は一人ひとり固有のQRコードを渡され、来場者にLINEで読み込ませる。誰が何件取ったかは管理側に丸見えで、その数字で競争していた。本は餌であり、最終的な目的はマイキークラブへの導線を引くことにある、という構造がまず示された。
第一段階のマインドについては、知らない人間に声をかけられるかどうかが経験の有無で大きく分かれる、という整理だった。渡辺は学生時代に深夜のカラオケ客引きのアルバイト経験があり、人にキャッチをすることに抵抗がない。成績1位のマモは大学時代に同級生に誘われてティッシュ配りを二、三回経験しており、知らない人に声をかけて受け取ってもらう感覚を持っていた。
対照的なのが成績2位のゴキブり先生で、この種のバイト経験は一切なかった。初日にキャッチの経験を集中的に積み、二日目以降は前田から教わった型をそのまま繰り返した。本人の言葉では「オリジナリティを出すとかそういうことはなく、とにかく言われたことをただやって、無視されてもやる」というだけで、気づいたら上位にいた。ここで本人が出した問いが印象的である――五百人に無視されたことがあるか。三日間で取得したリストは数字の上で二百件ほど、声をかけて聞いてくれるのは二割か三割なので、逆算すれば五百人以上に無視されている計算になる。初日は落ち込んだが、無視されて当たり前という前提を先に置くことでしか続かない、という話だった。
図1:講師発言からの逆算による声かけファネル(概算・Claude作図)。「3日間で約200件取得」「反応は2〜3割」という発言から推計した参考値であり、実測値ではない。
初心者がやるべきこととして三点が挙げられた。会期中の早い段階で経験を積み切ること、断られる前提のマインドを持つこと、そして堂々とすることである。十人に声をかけて十人分のリストを取るのは天才でなければ無理なので、確率ではなく数を打つ。発表者自身が「今も堂々としているふりをして頑張っている」と述べたのは、この三点目を実演する意図だったと読める。
この回では取得件数として二つの数字が出ている。ゴキブり先生が語った「三日間で数字上は二百くらい」は個人実績と読める。一方、後半でマモが他の出展者に対して「うち、あのなんか2000件ぐらい行きますよ」と語った場面がある。要確認 後者がブース全体の合計なのか、営業トークとしての誇張なのかは講義中で明示されていない。十倍の開きがあるため、この数字を外部に引用する際は、どちらの母数の話かを本人に確認したほうがよい。なお後者は「出展者から登録を取るための会話」の文脈で出ており、話法の一部だった可能性が高い。
無差別型とターゲット型――足を止める二つの解
第二段階では、三人のやり方が二つの型に分類できることが示された。渡辺とゴキブり先生は同じ言葉を多数に投げる無差別型、マモは相手を読んでカスタマイズするターゲット型である。成績順位と型は対応しておらず、どちらでも上位に入れたという事実そのものが、この分類の面白いところだ。
無差別型(渡辺・ゴキブり先生)
通りすがる人の足を止めるために、良い数字をひたすら口に出す。二千円の本が無料でもらえる、IQ150の人が書いた資本主義で勝つための本、アマゾンで一位になった本、といった具合である。ゴキブり先生は隣のブースあたりから相手をロックオンし、自分のエリアに入った瞬間に声をかけた。ブース内の誰よりも先に戦端を開くことを徹底し、本を目の前に掲げて「この本もらいました」と見せる手も使った。
ターゲット型(マモ)
登録を求める前に、足を止めることだけにフォーカスする。メリットを伝えるのも一つの手だが、マモが選んだのは問いかけだった。答えざるを得ない状況を作れば足は止まる、という仮説を立てている。朝なら「今日はどのブースを一番狙って来たんですか」、著名講師の講演前なら「今から見に行くんですか」。声をかけにくそうな相手には「そのネックレスすごいですね、どこで買ったんですか」「それどこのスカジャンですか」と持ち物から入る。
ターゲット型の設計思想は明確である。来場者はアンケートや登録の依頼をブロックするモードで歩いている。その状態に対してアンケートを求めれば当然はねられる。だが質問は、断るモードの人間にも答えを要求する。無視しにくい状況を意図的に作る、という一点に絞っている。ここで効いているのは相手の興味ではなく、会話を成立させる社会的な圧力である。
第三段階は、足を止めた相手をLINE登録まで運ぶ詰めである。三人の話をまとめると、相手は「興味なし」「興味あり」「興味ありまくり」の三層に分かれていた。興味なしには一方的に良い数字を並べるプレゼンを当てる。興味ありは質問をしてくるので、このブースは何か、登壇者は誰か、本には何が書いてあるかといった問いに的確に答えて、ありまくりの状態へ引き上げる。ありまくりの層は、あと一押しで登録する。
押し方も三人三様だった。渡辺は「私のために本をもらってください」とプロポーズのように迫り、アマゾン一位なので絶対に損はしないと畳みかける。ゴキブり先生は、書店では売り切れている、今日のために特別に確保したものだ、というプレミア感で渡していた。マモは二つの意図を持っていた。登録の背中を押すことと、登録時の抵抗感を消すことである。前者は「今日この情報収集の場に来て、これを持って帰らずに帰る人はアホですよ」と前提をすり込む形を取り、後者は「他のブースみたいに年収とかつまらないアンケートは一切ないので」と、他社との比較でハードルを下げていた。
さらに後半に語られたのが、他の出展者を敵ではなく味方に変える動きだった。ゴキブり先生は最終日の残り二時間で、ある保険会社のブースの一番偉い人を先に捕まえ、「部下の方も半分ほど受け取っているので、組織のためにもぜひ」と押し込んで渡した。その上でそのブースに行き、「さきほどトップの方にお渡ししたので、残りの方にも」と言って問答無用で三、四人に配っている。順序が逆なら断られていた渡し方である。渡辺は別の角度から同じことをやった。出展側で歩いている人に「今回リスト何件くらい集まりましたか」といきなり聞く。二百件です、百件ちょっとですと返ってくると、そこで「うちは二千件くらい行きますよ」と返し、相手が「なぜですか」と食いついたところで「読んでみるとヒントになるかもしれないので」と登録を促した。最終日に出展者から大量の登録が取れたという。
足止めの言葉として「二千円の本が無料」「IQ150の人が書いた本」「Amazonで1位になった本」という三つの訴求が語られた。要確認 このうちAmazonランキングの一位は、総合一位か特定カテゴリー一位かで意味がまったく異なり、期間も分単位で変動する指標である。講義中では書名・カテゴリー・時期が示されていないため、公開データとの突き合わせができなかった。営業トークとして使う分には機能するが、外部に文書で書く場合はカテゴリーと日付を添えるのが安全である。
「これは報告会ですか」――入れ子構造という指摘
発表が一区切りついた直後、マイキーが質問の形で介入した。営業のやり方をやるのなら、そのまま営業の仕方で何かに促すのではないか。自分たちが営業トップ3だという状態になっているのなら、「トップ3だったから八月にやるやつで一緒にやりませんか」まで持ち込む。そこで営業をかけないのはおかしい、という指摘である。プレゼンの講義で「今からプレゼンします」と言ってプレゼンしないのと同じだ、という比喩が添えられた。
ここで前提として語られたのが、事前に出ていた宿題である。渡辺には「マウントを取れ」という課題が出ていた。その意味は単なる自慢ではない。会場のほとんどの出展者は、その辺を歩いている人に声をかけて「この本どうぞ」と言っているだけで、七割ほどがそうだった。断られて「すいません、すいません」としか言わない人もいれば、「ちょっとお時間いいですか」というつまらない切り口で入る人もいた。そういう行動パターンを先に提示したうえで、自分たちはこういう意識を持っていたからこの結果になった、と続ける。この対比があって初めて、同じ話が「なるほど」に変わる。
指摘はさらに一段進む。前回参加した人のなかには、まさにそういう声のかけ方をしていた人が大勢いる。その人たちに「リベンジしませんか」と話したらどうなるか。次のEXPOへの導線が、報告の中から自然に生まれる。日本人が弱いのは営業とプレゼンだが、その弱さは最初の掴みの時点で決まっている。今回の発表は終始「どうやって掴みに行くか」の話をしていたのだから、その話をしている自分たちが掴みに失敗しているのは矛盾している、という構造的な批判だった。
掴みは営業だけの技術ではない、という一般化もここで示された。同じ掴みの技術がプレゼンテーションに使われ、さらに人間関係の構築における信用の部分にも使われる。「すいません、ちょっといいですか」と声をかける人間は、そもそも面白くもないし掴みもない。本を受け取ってもらって「ありがとうございます」で終わるのも同じだ、という厳しい評価が続いた。内容として決して悪くない、という留保は明示的に添えられている。悪いのは内容ではなく、それを載せる器の設計だった。
技術的な補足として、Zoomでの画面共有の扱いも語られた。資料を共有すると画面がいっぱいになり、参加者の顔が見えなくなる。マイキー自身も常に画面はパンパンで、ビューアーモードになるため人の顔は一切見えていない。だからコメントを読み上げてもらう運用にしている。緊張については逆説的な整理が示された。十人から二、三十人くらいが一番緊張する。全員の顔を認識できてしまうからである。五百人、千人になると誰が誰か分からなくなり、かえって振り切った話ができる。顔が見えないことは、むしろ自由度として使える。
評価額2,000万円の土地を1,300万円で買う
リベンジの機会として、マイキーが渡辺に振ったのが不動産の交渉話だった。以前マイキーと組んで不動産の値段を吊り上げた案件があり、そのときは土地を売る側だった。今回は買う側を一人でやった。自分の土地とくっつければ五千万円の価値になる土地を、千三百万円で取得したという。
交渉の構造はこうである。売り手は固定資産税評価額を基準に考えており、その額は二千万円だった。そこから建物の取り壊し費用として七百万円を差し引いてくれた。買い手がキャッシュを潤沢に持っているとは思われていなかったことも効いて、千三百万円という提示になった。嬉しさを抑えて「それなら用意できます」と淡々と受けた、という顛末だった。
固定資産税評価額は、総務省の固定資産評価基準に基づき三年ごとに評価替えが行われ、土地については地価公示価格等の七割程度を目途に設定される運用が続いている。したがって評価額二千万円の土地は、公示価格ベースでおおむね二千八百万円前後の水準に対応する。発言にある「自分の土地とくっつければ五千万円の価値」という部分は、隣接地の併合による増価(いわゆる限定価格)を指しており、これは一般の取引価格とは別の概念である。要確認 五千万円という評価額の算定根拠は講義中に示されていないため、この差額をそのまま利益として読むことはできない。売り手が評価額を基準に考えていたという点については、日本の個人間の土地取引で実際によく見られる行動であり、発言と整合する。
マイキーはこの話にも同じ指摘を重ねた。それだけの案件なら「リアル地面師です」くらいの入り方で上から行けばいい。マイキーなしでこれだけできた、すごいだろう、と言わなければならない。マイキー自身も、海外のコテージを購入する際に「二棟買うから一棟はただにしろ」と交渉して通した経験を語り、二棟分の価格で三棟を得たことがあると述べた。
ここから話は、営業という技術の位置づけに戻る。投資でも不動産でも、最後は営業が効く。マイキーの周辺人物である不動産の小林も、同じく木村も、不動産で最も重要なスキルは営業とプレゼンであり、知識は二の次だと明言しているという。高く売ることも安く買うことも、結局は同じ技術の応用である。この整理をもって、EXPO営業の話題は締められた。
質疑応答(このテーマに属するもの・全件)
宿題・アクションアイテム
- 発表した三名(渡辺・マモ・ゴキブり先生)は反省会を行い、今回の講義を入れ子構造に組み直す。中身ではなく入り口の設計を作り替えること。
- 次回の発表では、周囲の出展者の行動パターンと自分たちの意識の差を先に提示し、そのうえで次のEXPOへの参加を促すところまでを一本の流れにする。
- 中国のショートドラマの構成(冒頭三秒のフック、中盤のミニクライマックス、終盤の引き)を参照して、プレゼンの時間配分を設計し直す。
- 取得リスト件数について、個人実績と全体実績の数字を切り分けて整理する。二百件と二千件という二つの数字が同じ回の中で出ている。
- 六月二十日の運動会を予定に入れておく。回り役メンバーの募集は継続中で、来週金曜にあらためて募集のプレゼンが行われる。