本パートは、SECIの講義の流れで出た参加者の質問から始まった。日本では暗黙知を形式知にする必要性すら感じていないのではないか、という問いに、マイキー氏は「学ぶことすら分からない状態だ」と答え、インプットしてもアウトプットしない人が多いこと、自分のやり方に疑問を持たず、問題点が見つからないと言う人が多いことを指摘した。
話はそこから「お金を稼ぎたい」という動機に移った。マイキー氏によれば、稼ぎたいと言う人ほど自分の好きなこと、気持ちいい方にしか進まない。経営学の順番は、組織を作り、研究し、良いものを作り、売り方として営業を強くし、最後にマーケティングをかけるというものである。営業もプレゼンもできない人がマーケティングを学ぶのは、カラオケの練習をせずに大会に出るのと同じだという。
前田氏は、利益を目的とする企業は目的と手段が逆転しており、食事の目的が満腹なのに胃袋を広げる訓練をするようなものだと例えた。ずれた方向に加速すれば、いずれ自滅する。マイキー氏は自身のクラブが広告を一切使わず、営業とプレゼンだけで人を集めていることを例に、マーケティングは最後にかけるレバレッジだと説明した。
後半は弁証法の解説である。マイキー氏は、ソクラテス、ヘーゲル、マルクスという系譜を示したうえで、Netflix、IBM、Amazonがそれぞれ市場から突き付けられたアンチテーゼに向き合い、新しい事業(ジンテーゼ)を作ってきたと説明した。儲からなくなった事業とは、なぜアンチテーゼが生まれたのかを想像しなかった結果だという。前田氏は、インプットとアウトプットは全てのスポーツの走り込みに当たる基礎体力であり、これができなければ弁証法すら成り立たないと締めくくった。
顧客の問題を解決するという目的に立ち、営業とプレゼンで地力を作ってから初めてマーケティングで増幅する。市場からの否定(アンチテーゼ)を無視せず、そこから新しい答えを作る。この順番を逆にすると、商品も会社も自滅する。
参加者の一人は、暗黙知を形式知にするとき、成長に必要なものを求め、得たものを自分の暗黙知と結び付けて自分なりの形式知を生む流れはイメージできるが、今の日本の話はそもそもその必要性を感じていないから前提が分からない状態なのか、と尋ねた。マイキー氏は「学ぶことすら分からない状態」だと答え、インプットした後にアウトプットするのと、インプットしたままでいるのとでは、どちらが学習効率が高いかを問い返した。答えはアウトプットである。ではなぜアウトプットしないのか。
マイキー氏は、前回の講義で前田氏が扱った批判的思考や、成田氏が話した弁証法に触れ、自分のやっていることに疑問を持たなければ循環は回らないと述べた。参加者も、ビジネスが長くなると自分のやり方がアイデンティティのように固まり、これが正しいと思い込むのではないかと応じた。
参加者が、もっと稼ぎたいという表面的な目的を掲げる人は問題の掘り起こしが甘いのか、と尋ねると、マイキー氏は、金を稼ぎたいと言う人ほど自分の好きなことしかやっていない、一番お金に近いところに皆が行く、と答えた。簡単に稼ぐのは危ないと分かっている人は多いのではないかという問いには、「分かっていない」と否定した。
前田氏は、以前北川氏に話した「お金を儲けるのは企業の目的」という考え方について、その時点で無理だと感じたと振り返った。食事の目的は生存や空腹を満たすことである。ところが利益を目的にするのは、食事を十分にとれないからと胃袋を拡張する練習をしたり手術をしたりするようなもので、目的と手段が逆転している。ずれた方向に加速すれば、必ず破滅に向かう。前田氏は、利益だけを目的とする企業は基本的に自滅の方向にしか行かないと述べた。
マイキー氏は、普通に経営学をやっていれば分かる順番を示した。組織を作り、研究し、インプットとアウトプットを重ねて素晴らしいものを作る。作ったものをどう売るかを考え、営業を強くする。営業が強くなって最後にやるのがマーケティングである。マーケティングは販売チャネルを増やすことだが、そこには必ず営業やプレゼンテーションが出てくる。営業もプレゼンもできない人が、なぜマーケティングを学ぶのか。
マイキー氏は、インターネットがこの順番を狂わせたと説明した。以前は営業を頑張って少しずつ広げるしかなかったが、今は1分後には世界中の誰とでもつながれる。簡単につながれるので、そちらに流れる。その結果、100人を集めてもプレゼン力がないので1人も売れない、という人がたくさんいる。いきなりマーケティングを仕掛けると商品が死ぬ。カラオケ大会に出る前にカラオケの練習をしないのか、という例えが示され、参加者は「お客さんにそのまま試すのは怖い」と応じた。
マイキー氏は、自身のクラブは広告を一切出しておらず、全部プレゼンで集めていると説明した。マーケティングの基本はターゲティングと限定性で、自分にはまる人にだけ売る。先日のJ.エイブラムス氏の講演会では、聴衆約1,300人のうち自分を知っていたのは3割、つまり390人程度しか刺さらないはずだった。しかも聴衆はマーケティングを学びに来た人たちで、自分はマーケティングの話を一切しなかったのでアウェイの中のアウェイだった。それでも結果として1,100人に刺さった。これは営業とプレゼンで新しい市場を作ったということであり、ターゲティングを前提とする広告ではできない、というのがマイキー氏の説明である。
マーケティングはレバレッジをかけることであり、1に3をかければ3、3に3をかければ9になる。3と9なら9を選ぶ。その9とは、営業とプレゼンがあって初めてマーケティングが生きるということである。マーケティングをしなくても勝てるなら、固定費であるマーケティングをする必要もない、とマイキー氏は述べた。
マイキー氏は、以前前田氏が講義で扱った弁証法を改めて説明した。弁証法(dialectic)は、対立や矛盾を通して真理に到達する哲学の方法論である。起源は古代ギリシャのソクラテスにあり、質問を繰り返して相手の矛盾を引き出し、真理に近づく対話を行った。ヘーゲルは、世界の歴史は矛盾とその克服によって発展するとし、テーゼ(正)、アンチテーゼ(反)、ジンテーゼ(合)の流れを理論化した。さらにマルクスは、歴史や社会の変化を物質的条件で説明し、資本主義の矛盾から社会主義への移行を説いた。
| 段階 | 意味 | 朝型・夜型の例 | 自由と秩序の例 |
|---|---|---|---|
| テーゼ(正) | 主張・立場・仮説の提示 | 夜の方が仕事の効率がよい | 個人の自由が制限された社会 |
| アンチテーゼ(反) | 反対の主張や矛盾の指摘 | 朝型の方が健康的だ | 自由主義革命で個人の自由を重視。行き過ぎると国がまとまらない |
| ジンテーゼ(合) | 対立を統合した新しい結論 | 朝でも夜でも柔軟に組めるスケジュール | 自由と秩序のバランスをとる現代社会 |
マイキー氏は、新しいアイデアを生むには批判的思考が必要だと強調した。テーゼだけを追っていると、反発がないので新しいものが出てこず、会話にもならない。対立や矛盾を発展の原動力にする、というのが弁証法の考え方である。
ヘーゲルの弁証法は「正・反・合」の三段階で説明されることが多いが、ヘーゲル自身はこの用語をほとんど使っておらず、フィヒテに由来する図式を後世が当てはめたものとされる。マルクスの立場は一般に「弁証法的唯物論」「史的唯物論」と呼ばれる。ソクラテスの問答法は、弟子のプラトンの対話篇を通じて伝わっている。
| 企業 | テーゼ(既存事業) | アンチテーゼ(市場の否定) | ジンテーゼ(新事業) |
|---|---|---|---|
| Netflix | 郵送によるDVDレンタル | ネット普及で、消費者は物理的なDVDよりオンラインのストリーミングを求めるようになった | ストリーミング配信に全面移行 |
| IBM | 大型コンピューター(メインフレーム)の製造 | PC市場の拡大でハードは儲からなくなり、シェアを他社に奪われた | ハードから撤退し、ITサービス・コンサルティング・ソリューション提供へ |
| Amazon | オンライン書店 | 競合が増え、物流コストが上がり利益率が低下 | プライム会員制度やクラウドへの展開 |
マイキー氏は、自分が一番お世話になったビデオショップのブロックバスターが潰れたことに触れつつ、これらの企業は常にアンチテーゼと戦い、そこにジンテーゼを作ってきたと説明した。批判してくれる存在がいたから新しいサービスを作れたのであり、Appleも同じだという。儲からなくなった事業とは、なぜアンチテーゼが生まれたのかを想像しなかった結果である。そのためには市場との対話、業界との対話、業界外との対話が必要になる。
Netflixは1997年創業、1998年にDVDの郵送レンタルを開始し、2007年にストリーミング配信を始めた。競合だったブロックバスターは2010年に米連邦破産法の適用を申請した。IBMは2004年12月にPC事業のレノボへの売却を発表し(2005年完了)、サービス・ソフトウェア中心の事業構成へ転換した。ただしメインフレーム事業自体は現在も継続しており、「ハードから完全撤退」ではない。Amazonは2005年にプライム会員制度、2006年にAWS(クラウド)を開始している。講義中の「お客さん自体にクラウド上で出していく」はAWSを指すと考えられる。
マイキー氏は参加者の事業にも当てはめた。10年後にはいろいろなアンチテーゼが生まれるかもしれない。それにいち早く対応してジンテーゼを見つけられるかどうかも企業のリソースである。紙の事業に環境問題というアンチテーゼが突き付けられたとき、タブレットのような答えが出てくる。前田氏が北川氏に伝えたのも同じことで、会社は社会や顧客の問題を解決するためにあり、お金儲けはその次だ、というのがマイキー氏のまとめである。
マイキー氏は、テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼを学ぶのに最適な教材として『新世紀エヴァンゲリオン』を挙げた。前田氏からは、マイキー氏がエヴァンゲリオンの解説をやると言ってホワイトボードまで買ったのに、1年近くやっていないと突っ込みが入った。
マイキー氏は、自分は皆さんのアンチになろうと思っていると述べた。皆さんのコミュニケーション能力が低すぎるという指摘に対して無視をするなら、それは成長がないということであり、インプットするがアウトプットしないということだ。
前田氏は、そもそもインプットとアウトプットをどう捉えているかを問うた。ただ言うことがアウトプットなのか、ただ聞くことがインプットなのか。ここの理解が違うと全てが変わる。今日の話の前提は全て、インプットとアウトプットができなければ弁証法すら成り立たないということである。