50年周期で来るはずだった技術革新の波が20年で来た。理由はハードからソフトへの転換にある。そして周期が縮んだ瞬間、設備投資の回収計画とサブスクリプションという二つの前提が同時に壊れた。
前半の前田氏による景気循環論を受けて、後半はマイキー氏が一つの質問に答える形で進んだ。質問は単純である――波の周期は短くなっていないか。コンドラチェフの波が50年周期なら、1990年代のインターネット革命の次は2040年前後に来るはずだった。ところが実際にはAI革命が2020年代に来ている。20年早い。なぜか。
マイキー氏の答えは二段構えだった。第一に、インフラがハードからソフトへ移ったこと。鉄道・電力・自動車の時代には地球上に物理的なインフラを敷設する必要があり、それが世界中に行き渡るまでに何十年もかかった。デジタル技術ではネットワーク効果によって情報の伝達が速くなるうえ、限界費用がゼロに近づく。追加の一単位を作るコストがほぼ消えるため、現金が生まれる速度が上がり、生まれた現金がそのまま次の投資に回る。同時に、POSデータやジャストインタイム生産、AIによる需要予測によって在庫調整のタイムラグがリアルタイム化し、キチンの波が持っていた3〜4年のノイズ自体が縮んでいく。
第二に、半導体のアーキテクチャ更新が数年に一度から1年以内へ短縮されたこと。これが効くのは、買い手の側である。数年間隔なら、買った後の数年間は安心していられた。1年以内になると、買わなければ乗り遅れる。投資が前倒しされ、回転が速くなる。
そしてこの二つが重なったところで、経営の前提が壊れる。従来は数十億円を投じ、7年から10年で償却し、5年目以降に利益を最大化するという設計が成り立っていた。しかし投資を回収し終わる前に次のシステムを買わなければ勝てないとなると、ROIの設計そのものが崩れる。マイキー氏が「回収できないのがAIでしょう」と言い切ったのはこの意味である。回収できないなら誰が勝つのか。金を持っているところ、あるいは資金調達が異常にうまいところが勝つ。スタートアップは回収できなかった瞬間に会社自体が終わる。
周期が短くなるという現象は、技術者にとっては進歩だが、経営者にとっては回収計画の耐用年数が切れるという事故である。だからこの局面では、設備を持たない設計(アセットライト)と、買い替えずに部品交換で延命させる設計(モジュール化)の二つが同時に選ばれる。そしてその二つは、売る側と買う側の利害が一致してしまうがゆえに、強力な囲い込みへ転化する。
ハム氏の「周期は短くなっていないのか」という質問に対し、マイキー氏は年表を書きながら説明を始めた。1800年代の産業革命と蒸気機関、1800年代後半の鉄鋼と鉄道、1900年前後の電気・化学・重工業、戦後の石油と自動車の大量生産時代。ここまでは約50年刻みで並ぶ。しかし1990年代のインターネット革命から50年なら次は2040年のはずで、AI革命はそれより20年早く来た。
質問者が「情報がインターネットで得られるようになったからか」と答えると、マイキー氏はそれだけではないとして二つの理由を挙げた。第一の理由はハードからソフトへの転換である。鉄道・電力・自動車は地球上に物理的インフラを作る必要があり、世界中に行き渡るまで何十年もかかった。インターネット、スマートフォン、生成AIといったデジタル技術ではその制約が消える。ここで働くのがネットワーク効果であり、情報の伝達が速くなる。
そして、より構造的な理由として挙げられたのが限界費用の消失である。100個作ったときの費用に対して101個目にどれだけコストが増えるか――それが限界費用だが、デジタルではこれがほぼゼロに近づく。マイキー氏の説明では、これによって利潤が出る速度が上がり、現金が貯まりやすくなる。現金が貯まるということは投資がしやすくなるということであり、回収も含めた回転数そのものが変わる。加えてPOSデータ、ジャストインタイム生産、AIによる需要予測によって在庫調整のタイムラグがリアルタイム化した。これを最もうまくやったのはウォルマートだ、という例が挙げられている。従来の循環に乗っていたノイズが減った結果、サイクルが速くなった。
「限界費用がゼロに近づく」という議論を広く知らしめたのは、ジェレミー・リフキンが2014年に刊行した『限界費用ゼロ社会』である。ソフトウェアなどのデジタル財は一度作れば複製・移動・保存の追加コストが極めて小さいため、従来型の課金モデルが成立しなくなるという主張だった。講義では同書への言及はなかったが、マイキー氏の説明はこの概念をそのまま経営の回転数の議論に接続したものと読める。
第二の理由が半導体のアーキテクチャ更新の短縮である。従来は数年に一度の単位だった開発サイクルが、現在では1年以内にシフトしている。マイキー氏はここで質問者に問いを返した。1年以内になるということは、新しいものが出てくるということ。新しいものを買わないとどうなるか。答えは、買わないと乗り遅れるである。数年間隔なら数年は安心できたが、1年以内になると投資のタイミングが前倒しされ続ける。
講義では、1990年代のインターネット革命を起点として50年後の2040年にAI革命が来るはずだったが2020年に来たので20年早い、という説明がなされた。起点を1990年代半ば、AIの転換点を2022〜2023年(ChatGPT公開以降)と置けば経過は約27〜30年であり、前倒しの幅は「20年」というより「20〜25年」と表現するほうが数字には忠実である。ただし講義の主眼は前倒しの年数そのものではなく、ハードからソフトへの転換が周期を圧縮したという因果にあり、その論旨は年数の丸めに左右されない。
周期短縮の帰結として、マイキー氏はジュグラーの波――すなわち設備投資の波――を名指しした。従来、設備投資は在庫調整をはじめとする既知の変動要因があったからこそ、投じた資金がどれくらいで回収できるかを予想できた。ソフトウェアによってサイクルが短くなったことで、そのROI設計が崩れた。
従来型の財務戦略であれば、数十億円を投じ、7年から10年で償却し、5年目以降に利益を最大化する。ところが破壊的な速度で新しいものが出続けると、投資回収を終える前に次のシステムを買わなければ勝てない。したがって回収期間をどれだけ短縮できるかが課題になる。そしてマイキー氏は、AIに関して言えばそもそも回収できないのだと断じた。NVIDIAが新しいものを出し、AMDが出し、Intelが出してくる。開発スピードが従来のサイクルより速くなった結果、これまでの回収期間という概念自体が変質してしまった。
回収できない世界で勝つのは、もともと金を持っているところ、または資金調達が異常にうまいところである。スタートアップは投資を回収できなかった瞬間に会社自体が終わる。質問者はこの説明を受けて、最近の「国が産業に絡んでくる流れ」にもつながるのではないかと述べ、マイキー氏の説明を国家資本の関与という文脈へ接続した。
図:主要ハイパースケーラーの設備投資の売上高比率(2026年、外部データ)。講義で示された「45〜57%」という水準と照合するための参考。出典は下段のClaude補足に記載。
マイキー氏は、ハイパースケーラーの投資が売上高比で45〜57%に達しているのではないかと述べ、これはシュンペーターの言うクラスタリングに当たり「やりすぎ感がある」水準だと評した。外部データを確認すると、2026年の設備投資対売上高比率はMeta約54%、Microsoft約47%、Alphabet約46%と、講義の示した帯域とよく一致する。ただしAmazonは約25%であり、4社が一様にこの水準にあるわけではない。金額では4社合計で2026年に約7,250億ドル、前年の約4,100億ドルから77%増という規模になっている。講義の数字は上位3社について妥当だが、「ハイパースケーラー全体」として受け取ると過大評価になる点は補正が必要である。
投資回収が読めないなら月額課金に転換して継続課金モデルにすればよい――これは実際に広く語られているトレンドである。マイキー氏はここに罠があると指摘した。
サブスクリプションの本質は、顧客がいつでも解約できる代わりに、提供側が投資リスクを負うという交換にある。提供側は継続して課金してもらうことで、先に投じた投資を回収しようとする。この仕組みが成立するのは、投資の回収期間が十分に長いからである。設備投資の期間が短くなるということは、その前提が消えるということにほかならない。
ある製品Aのために設備投資を行い、4年で回収する前提で月額1,000円を設定したとする。ところがサイクルが速くなり、2年目にアップデート版の製品Bが出た。Bに投資しなければ顧客は離れる。しかしBのために再投資すれば、その回収のために値上げが必要になる。1,000円だったものをいきなり2,000円にできるか――講義中、質問を向けられた小林氏は「値上げするとやはり変えてしまう」と答えた。顧客は「Aでいい」と留まり、結果として投資は回収できない。サブスクリプションは、回収期間が短縮された瞬間にサブスクリプションでなくなる。マイキー氏は、これがAIで潰れていった企業が陥った計算だと述べた。
ではハードウェアを扱う企業はどう対応するのか。マイキー氏は二つの経路を挙げた。第一がアセットライト化である。ハードウェア、自社サーバー、固定設備といった重たい資産を持たない方が資金運用上有利になる。工場を持たず設計だけを行う会社、すなわちファブレス企業が生まれてきた背景はここにある、という説明である。
マイキー氏はファブレス企業について「90年以降に一気に生まれてきた」と述べたが、公開情報では最初のファブレス企業とされるChips and Technologiesの設立は1985年、設計と製造の分離を可能にしたTSMCの設立は1987年であり、起点は1980年代半ばである。ただし1990年代にシリコンバレーのベンチャーキャピタルの資金を得てファブレス企業が急増したことは事実で、Xilinx、Qualcomm、Broadcom、そしてNVIDIAがこの流れに乗っている。「90年代に増えた」は正しく、「90年以降に生まれた」は起点として10年ほど早い時期に修正すべき、というのが食い違いの内容である。
第二がモジュール化である。製品全体を新しく作り直すのではなく、パーツごとに分解・交換できるようにしておき、その部分だけをアップデートできるようにする。マイキー氏はアプライド マテリアルズ、テキサス・インスツルメンツ、ラムリサーチといった企業名を挙げ、これは買い手側の要望でもあると述べた。買い手は新製品を丸ごと買えば回収サイクルに再び入ってしまうが、部品交換で済めばアセットライトを維持できる。
新製品を売り切るより、交換部品を継続的に売るほうが収益が安定する。顧客が製品を使い続けるかぎり部品需要が続く。
新製品を買えば回収期間がリセットされる。部品交換で性能を更新できれば、設備を持ち続けたまま資産を軽く保てる。
マイキー氏が強調したのは、この二つが一致してしまうという点である。利害が一致しているからこそ、顧客は同じ会社の製品を使い続ける。これは互いに納得ずくの囲い込み戦略であり、結果としてスイッチングコストが高くなる。半導体製造装置のような設備投資型の企業がこの構造を持っている、という整理だった。
前田氏のパートの質疑のなかで、参加者の一人が「シュンペーターの理論も四象限に書けば未来を予測できるのではないか」と述べたことから、マイキー氏が前日に行った事業相談の中身が共有された。造園(植木)と外構を手がける池谷氏の事業を、マクロ・中小象・ミクロ・具体という四象限に分解した事例である。
池谷氏はまず、自分の事業を一つの会社としてではなくサービスとして分け、植木屋としての立ち回りと外構としての立ち回りという二つの観点で整理してきた。その分解を見たマイキー氏が提案したのは、顧客の定義を変えることだった。従来の顧客は「一軒家を持ち、庭を持っている人」、さらに言えば庭を持つ高齢者層に限られていた。
そこから広げた先が三つ挙げられた。第一に、不動産オーナーである。外構を整えて外観の質を上げれば、そのアパートの賃料を上げる提案ができる。パッケージとして不動産オーナーに流せるし、コンサルティングとしても成立する。第二に、時間軸で顧客を固定する設計である。子どもが小さいうちは草木が伸びにくい仕様にし、成長したら意匠性の高いものに変える。顧客を探すのではなく、顧客を長期的にメンテナンスする流れを作れば、それはサブスクリプションになる。第三に、遠隔地のオーナーである。植物が育って近隣に迷惑をかければ評判が落ち、メンテナンスを欠いた家は災害時に問題化する。遠隔からでも管理を継続すれば不動産価値が下がらず、資産運用や相続、火災保険の話まで接続できる。
マイキー氏がこの事例で強調したのは、ミクロや具体のレベルで止めないことだった。具体の実装から再びマクロ・中小象へ戻し、自分の技術をスキルアップさせることで、社会に対してより大きな問題解決を提示できるようになる。四象限は分類の道具ではなく、循環させる道具であるという位置づけである。気候変動による気温上昇や洪水による滞水といったマクロの問題を、外構と植栽という具体の技術で受けるという接続が実例として示された。
この事例に対して前田氏は、自分が以前に池谷氏と話した内容と重なると述べ、二つの論点を補った。ひとつは顧客の見方と定義を変えること。もうひとつは、顧客をどう繋いで回し、自分が不可欠な立場になるかということである。同じことを続けるだけのサブスクリプションは結局のところ価格競争に落ちる。価格競争から抜けるには、回し方の設計が要る。手法そのものは四象限でなくてもよく、自分の中で定義が明確にでき、循環が見えるツールであれば何でもよい、というのが前田氏の立場だった。さらに、構造化やアーキテクチャの理解が強い人であれば、むしろ具体へ落とし込まずに中間の抽象度で扱ったほうが楽な場合もあると付け加えている。
マイキー氏は最後に、技術を売るサブスクリプションはハードのサブスクリプションとは条件が違うと述べた。マンパワーで提供している以上、継続の条件は「その人が面白いかどうか」に帰着する。年老いて技術や体力が落ちても、あの人だからお願いしたいと言われる状態になれば、サブスクリプションは回り続ける。これは前半の雑談で出たプレゼン論とも接続しており、質問者が「プレゼンを学べば同じ効果が得られるか」と尋ねたのに対しては、プレゼンはあくまで提案であり、感情を動かすための手段だと答えている。
Q1. 波の周期は短くなってきていないのか(ハム氏)
マイキー氏はこの質問を起点に本編を展開した。理由は二つ。ハードからソフトへの転換によってネットワーク効果と限界費用ゼロが働き、在庫調整のタイムラグがリアルタイム化したこと。そして半導体のアーキテクチャ更新が数年から1年以内へ短縮され、買わなければ乗り遅れる状況が生まれたことである。
Q2. 携帯電話の買い替えサイクルのように、アップデートを繰り返したうえである時点で買い替えさせるという構図も入ってくるのか(小林氏)
マイキー氏は、現段階では新しい工場を建てる局面なので新製品が売れる状況にあると前置きしたうえで、購買側の視点から反転させた。給料が100万円で携帯が200万円なら毎年は買い替えない。しかし100万円払った後に10万円の部品でアップデートできると言われたら交換する。その結果、顧客は同じ会社から部品を買い続けることになり、他社へ移るスイッチングコストが跳ね上がる。小林氏自身が「確かに依存関係になる」と応じている。
Q3. いまの話は絶対的な基準で見ると成り立つのか。ムーアの法則は熱や微細加工の限界で難しくなっているし、月への到達も50〜60年前から進んでいない。いまの話は依存させるためのマイナーチェンジで繋いでいるだけではないか
マイキー氏はこの指摘を否定せず、マイナーチェンジであることを認めた。そのうえで、携帯電話は2年に一度替える必要はなく3年使っても困らないという点を確認し、初回の感動を毎回再現するのは提供側にとっても難しいという質問者の見立てに同意している。結論としては、10個しか作れなかったものが11個作れる、電力効率がこれだけ良くなるといった小さな差分を「実際に得である」とプレゼンできれば交換は起きる、という話に落ち着いた。技術の絶対的進歩ではなく、差分の提示の巧拙が交換を駆動しているという認識が共有された格好である。
Q4. プレゼンを学んでいけば、サブスクリプションの継続について同じような効果は得られるか
マイキー氏は、プレゼンはあくまで提案であり、提案して感情を動かすものだと答えた。うまいほうがよいのは確かで、更新のたびにプレゼンして継続を取れるならそれでよい、という現実的な回答である。あわせて、事業相談を受ける立場として「最低でも自分の事業については自分より説明がうまくなってほしい」と述べ、外部の人間が本人より上手に説明できてしまう状態を問題視した。