STUDY REPORT / 2026年4月度 勉強会

同質化の三段階と形骸化
――アイソモーフィズムはどこで目的を失うか

制度理論・第2回/同質化(アイソモーフィズム)の役割・段階・便益と副作用、そして硬直化への対処

EXECUTIVE SUMMARY

「みんながやっているから」に変わった瞬間を捕まえる

3段階
多様性 → 拡散 → 制度化
3つの圧力
強制的・模倣的・規範的
2つの目的
社会的承認と生き残り
4段階
DiMaggio & Powell の構造化過程
1880–1935
米国公務員制度改革の普及研究
2つの処方
両利きの経営とデカップリング

この回は、前回に置いた「制度の定義」という土台の上に、制度がどうやって出来上がるのかという作動原理を積み上げる時間だった。講師(前田氏)が冒頭で釘を刺したのは、前回いちばん誤解を招きそうだと感じていた点である。同質化すれば制度になる、という単純な等式は成り立たない。同質化しても制度化まで至らないものはいくらでもある。ただし逆向きの命題は成り立つ。同質化がなければ制度化は起こらない。同質化は制度化に至るための一つのステップにすぎない、という限定こそが今回の出発点だった。

そのうえで議論は、なぜ組織や市場が同質化するのかという動機の話へ進む。ここで提示された補助線は「生存」と「競争」という二つの視点だった。生存という尺度で見れば同質化のメリットは大きい。みんなで協力し、同じ型を共有したほうが生き残りやすい。しかし競争という尺度に切り替えた瞬間、同じことをやっている者同士は差別化できず、競争そのものが成立しにくくなる。同質化は、この二つの軸の上でメリットとデメリットを同時に生むトレードオフとして扱われる。目的の側から言い直せば、同質化は社会的承認と生き残りのために起こる。

次に時間軸が入る。同質化には段階があり、ざっくり三つに分けられる。初期の多様性、中期の拡散、後期の制度化である。多様性の段階では、いろいろな人がいて、いろいろな考えがあり、その中で何がいちばん効果的か、効率的かが追求される。いくつかのモデルが生き残ると、今度は「これがいいよね」という模倣が始まり、拡散が起こる。拡散しきったものは常識になり、制度化に至る。重要なのは、この過程で動機がすり替わっていくことだ。最初は効率性を求めて始まったものが、拡散の段階を経て、最後には「みんながやっているから」という理由だけで実施されるようになる。講師はこれを形骸化と呼び、硬直化(イナーシャ)の温床として位置づけた。

後半は処方箋である。利点を伸ばす方向としては標準化とデファクトスタンダードの獲得、つまり自分がルールメーカーの側に回ること、そして信頼の強化。欠点を抑える方向としては両利きの経営(深化と探索の同時追求)とデカップリング(本音と建前の使い分け)。ただし質疑では、その処方箋自体がまた流行として同質化していくのではないかという指摘が出て、講師は「おっしゃる通りになります」と正面から認めた。同質化は避けられるものではなく、避けようとすること自体が新しい罠になる。だから常に「同質化するものだ」という前提で、どう壊すかを意識し続けるしかない――これがこの回の到達点だった。

セッションを貫く1本の線:効率を求めて始まった仕組みが、拡散の途中で「みんながやっているから」という理由に置き換わる。その置き換わりを検知できるかどうかが、制度を使う側に回れるか、制度に使われる側に落ちるかの分岐点になる。
PART 0

前回の訂正から入る――同質化と制度化は同じではない

この回は雑談ではなく、前回の補足から始まった。講師は前回、正当性が必要だという話と、制度理論における制度の定義が一般的な用法と違うという話をしていた。その続きとして同質化を扱うにあたり、自分の説明が誤解を生みそうだと感じていた箇所を先に潰しにかかっている。「同質化をするからイコール制度化するわけではない」「ただ同質化がないと制度化しないんですよ」という二段構えの言い方は、本人も「かなり乱暴な気はする」と断りつつ、現段階でいちばん掴みやすい捉え方として提示された。

この慎重さには理由がある。同質化を制度化と同一視すると、同質化しているのに制度になっていない状態――たとえば業界内で横並びの慣行が広がっているだけで、誰も当たり前だと思っていない段階――を見落とすことになる。逆に、同質化を一方的な悪として扱うと、後半で出てくる「外圧に対する強さ」という側面が説明できなくなる。講師がこの回の最後に「まずは同質化の特性を知りましょう」と繰り返したのは、善悪判断より先に性質の理解を置く、という順序の指定だった。

📌 Claude補足:この回が立っている理論的な足場

講師が言及した「新制度派(新制度論)」は、組織社会学では neo-institutionalism と呼ばれる系統を指す。中核となる論文は Meyer & Rowan(1977)"Institutionalized Organizations: Formal Structure as Myth and Ceremony"(American Journal of Sociology, 83巻340–363頁)と、DiMaggio & Powell(1983)"The Iron Cage Revisited: Institutional Isomorphism and Collective Rationality in Organizational Fields"(American Sociological Review)である。Meyer & Rowan は、組織が公式構造を採用するのは効率のためではなく、制度化された社会的期待に適合して正当性を得るためだと論じ、その適合が内部の効率要求と衝突するときに構造と実際の活動を切り離す「デカップリング」が起きると説明した。後半で講師が挙げる処方箋としてのデカップリングは、もともとこの1977年の論文で「組織が生き延びるために実際にやっていること」として記述された概念である。

PART 1

生存では得、競争では損――同質化のトレードオフ

同質化がなぜ起こるのかを、講師は二つの視点に分けて説明した。生存という視点から見ると、同質化のメリットは大きい。みんなで協力したほうが生き残りやすいからである。一方、競争という視点に立つとデメリットが大きくなる。全員が同じことをやれば差別化できず、競争としては成立しにくくなる。同じ現象が、どの尺度で測るかによって正反対の評価を受ける。

この二つを目的の言葉に置き換えると、同質化の目的は社会的承認と生き残りの二つになる。講師はここで、これはあくまで便宜上いちばん重要な点をピックアップして分かりやすくしているのであって、見方によってはこれだけではない、と留保をつけている。理論を道具として渡すときに、道具の適用範囲まで一緒に渡すという姿勢が一貫していた。

生存の軸で見た同質化

協力が成立しやすく、集団として生き延びる確率が上がる。外部からの衝撃に対して内部でコントロールが効く。正当性が強まり、社会的信頼が増し、取引コストが下がる。

競争の軸で見た同質化

全員が同じ型に収束するため差別化が消える。競争優位は初期段階では差別化によって作られるので、同質化はその逆方向に作用する。結果として競争優位を喪失する。

講師の見解として:「同質化が悪い」という言い方は一面的である。競争の文脈では不利だが、生存の文脈では有利。どちらの文脈に今いるのかを判定しないまま良し悪しを論じても、道具としては使えない。
PART 2

多様性・拡散・制度化――三段階と、そこに重なる3つの圧力

同質化のステップには複数の提唱のされ方があるが、この回ではまず三段階に整理された。初期は多様性の段階で、いろいろな人といろいろな考えがあり、その中で何が効果的か、効率的かが追求される。そこからいくつかの仮説とモデルが生まれ、良さそうなモデルが絞られてくると、みんながそれを真似し始める。これが拡散の段階である。拡散が進むと、そのやり方は常識になる。この常識化のイメージが制度化だ、というのが講師の説明だった。

前回扱った三つの同質化圧力――強制的・模倣的・規範的――は、この三段階に重ねて理解できる。多様性が多い初期には強制的な同質化圧力が強くなりやすい。拡散期に入ると模倣による同質化が起こりやすい。後期には規範による同質化が働き、制度化に至る。ただし講師は「必ずしもこういうステップではなくて、実は重なっているところがいくらでもある」と明示的に注意した。段階論はあくまで見取り図であり、現実には三つの圧力が同時並行で働いている。

ティッピングポイントを超えられない組織は制度化しない

この三段階の中で講師が特に強調したのが、急激に拡散が進む時期、すなわちティッピングポイントの存在である。ここを超えられるかどうかで、その組織や市場が強固なものになるかどうかが決まる。超えられなければ制度化には至らない。普及の曲線はゆるやかなS字を描き、最初はかなりゆっくり、途中で急速に拡大し、最後にまたゆっくりになる。講師はこの形状から、制度理論のプロセスはイノベーター理論(普及理論)と相関性が高いので、一緒に見ると分かりやすいと補足した。

図1:同質化の三段階と普及率のイメージ(講師説明にもとづくClaude作図・概念図)
📌 Claude補足:普及理論との接続はどこまで妥当か

講師が言う「イノベーター理論」は Everett M. Rogers の『イノベーションの普及』(初版1962年)で提示された採用者分類(イノベーター/アーリーアダプター/アーリーマジョリティ/レイトマジョリティ/ラガード)と、累積採用率がS字カーブを描くという記述を指す。制度理論側でも、採用曲線の前半と後半で採用の動機が変わるという知見は実証的に確認されている(PART 4 の Tolbert & Zucker 1983 を参照)。ただし両者は説明対象が異なる。Rogers は個人・組織が新しいものを採用する意思決定過程を扱い、DiMaggio & Powell は組織フィールド全体が同型化していく構造を扱う。曲線の形が似ていることと、背後のメカニズムが同じであることは別問題なので、重ねて使うときは「形が似ている」という水準にとどめるのが安全である。

PART 3

相互作用から共通意識へ――構造化の4段階

三段階モデルとは別の切り口として、講師は「ディマジオ・パウエルという人が提唱しているもの」として四つの過程を紹介した。最初、市場の参加者や組織にいる人はバラバラで共通点がない。そこでまずお互いにコンタクトを取り、コミュニケーションが増える。それを続けているとルールが決まり、誰がリーダーかが決まる。講師はこれを「主の決定」と表現した。さらに進むと、みんなが必要とする情報が似てくる。その情報に向かって収集と共有が起こり、必要な情報量が急速に拡大する。情報が集まって共有されることで共通意識が芽生え、制度化に至る。

段階講師の説明原典の記述
① 相互作用の増加バラバラな参加者が互いにコンタクトを取り、コミュニケーションが増えるフィールド内の組織間の相互作用の程度が増大する
② 支配構造の出現ルールが決まり、誰がリーダーかが決まる(主の決定)明確な組織間支配構造と連合パターンが出現する
③ 情報負荷の増大必要な情報が似てきて、収集・共有される情報量が急速に拡大するフィールド内の組織が処理すべき情報負荷が増大する
④ 共通意識の形成共通意識が芽生え、制度化に至る共通の事業に関与しているという相互認識が発達する
📌 Claude補足:出典と、講師の説明との対応

この四段階は Paul J. DiMaggio と Walter W. Powell の1983年論文「The Iron Cage Revisited」で「structuration(構造化)」として提示されたもので、原文では ①組織間の相互作用の増大、②明確な組織間支配構造と連合パターンの出現、③組織が対処すべき情報負荷の増大、④共通の事業に関わっているという参加者間の相互認識(mutual awareness)の発達、の4つとされる。講師の説明は原典の順序と内容を正確になぞっている。なお講師は音声上「リマパウエル」と発音しているが、これは DiMaggio & Powell の聞き取り上の揺れとみられる。同論文は2023年時点で6万8千件超の被引用を持つ、組織論で最も引用された論文のひとつである。

PART 4

便益、不利益、そして形骸化――公務員制度改革という実例

同質化が起こることで生じる利益として、講師は正当性の強化を最初に挙げた。同質化には正当性が必要だという話を前回していたが、逆に同質化することで正当性を強めることもできる。正当性が強まれば社会的信頼が強まる。組織・市場・産業の安定性が増し、安定性が増せばリスクが低減する。信頼性が高まれば取引コストが下がる。ここで講師が使った例は銀行の金利だった。信頼性が高い会社や人のほうが、安い金利で資金を借りられる。信頼があることで、さまざまな面でかかるコストが下がるという説明である。もう一つの利益は比較可能性で、ルールや定型化が進むことで、産業内の企業や技術を横並びで比較・測定できるようになる。

不利益の側は三つ挙がった。第一に競争優位の喪失。競争では差別化が初期段階の有効な戦略だが、同質化はその反対方向への運動なので、競争優位としては基本的に逆に働く。第二に変化への脆弱性。みんなが同じ方向を向くということは、変化に弱くなるということである。第三が形骸化で、講師がこの回でもっとも時間を割いた論点だった。最初は効率性を求めて起こった同質化が、最終的には「何だかよく分からないけれどみんながやっているから」という理由だけで実施されるようになる。この硬直化の一形態として、講師はイナーシャ(慣性)という語も挙げている。

アメリカ地方政治の実証研究

形骸化については実証研究があるとして、アメリカの地方政治制度の事例が紹介された。選挙で勝った政党が支持者を公務員に採用していたため汚職が蔓延し、それを是正するために公務員制度が導入された。汚職を防ぎ、能力の高い人材を採用できるようにするという明確な目的があった。ところが普及していく段階になると、目的は消え、「みんながやっているから導入します」という単なる模倣になっていた、というのが研究の結論である。

📌 Claude補足:この実証研究の特定と、年代の食い違い

内容から見て、これは Pamela S. Tolbert と Lynne G. Zucker による1983年の論文「Institutional Sources of Change in the Formal Structure of Organizations: The Diffusion of Civil Service Reform, 1880–1935」(Administrative Science Quarterly 28巻22–39頁)である。米国の都市が公務員制度改革を採用した過程を分析し、早期採用は各都市の内部的な組織要件(都市の特性が採用を予測できる)と結びついているのに対し、後期の採用では都市の特性がもはや採用を予測せず、正統な構造形態という制度的定義と結びついていた、と報告している。講師の「最初は目的があったが、途中から模倣に変わった」という要約は、この研究の核心と一致する。

一方、年代には食い違いがある。講師は発言中で「1940年代50年代とかでアメリカで」と述べているが、この研究が対象としている期間は1880年から1935年であり、公務員制度改革(Pendleton法は1883年)の普及もこの時期にあたる。1940–50年代という年代設定は該当しない。研究の論旨自体は講師の説明どおりなので、年代だけが記憶違いの可能性が高いが、発言を黙って書き換えず食い違いとして記録しておく。

形骸化の見分け方(講師の説明を整理):ある制度について「なぜそれをやっているのか」と問うたとき、答えが効率性や効果ではなく「みんながやっているから」「昔からそうだから」になった時点で、その制度は形骸化に入っている。この転換は組織の内部からは見えにくい。なぜなら、その時点ではすでに常識になっているからである。
PART 5

ルールメーカーになるか、壊し続けるか――二方向の処方箋

同質化には利点と欠点の両方があるので、使い分けが必要になる。利点を強化する方向として挙がったのが標準化と信頼の強化である。標準化とは、自分が市場や組織の作り手の側に回ること、つまりデファクトスタンダードを握ることを指す。ルールメーカーになれば、制度に対して主導権を握る側に立てる。信頼の強化のほうは、信頼があることでレバレッジが効くという話だった。一緒に組んで事業をやりませんかと言われやすくなるし、資金も借りやすくなる。それを利用して事業や勢力をさらに拡大することもできる。

欠点をカバーする方向として挙がったのが、両利きの経営とデカップリングである。両利きの経営とは、知の探索と知の深化を両方やること。一つのことを深く考えることと、知らない世界に飛び込んでとりあえずいろいろ知ってみること、この両方をやらなければならない。両方やることで硬直化を防ぐ。デカップリングのほうは、講師の言い方では「本音と建前を使い分けましょう」ということだった。

📌 Claude補足:両利きの経営とデカップリングの出自

「知の探索(exploration)と知の深化(exploitation)」という対概念は James G. March が1991年の論文「Exploration and Exploitation in Organizational Learning」(Organization Science)で定式化したもので、両利きの経営(organizational ambidexterity)として経営学に定着させたのは Charles A. O'Reilly III と Michael L. Tushman である。デカップリングは前述のとおり Meyer & Rowan(1977)の概念で、原義は「組織が制度的圧力への適合を掲げながら、実際の活動をその構造から切り離して温存すること」。講師の「本音と建前」という訳し方は語感としては近いが、原義では「建前を掲げること自体が正当性の獲得手段である」という点まで含む。つまりデカップリングは欺瞞ではなく、正当性と効率が衝突する環境で組織が生き延びるための構造的な解として記述されている。

質疑で確認された重要な留保:両利きの経営もデカップリングも、流行すればそれ自体が新しい同質化になる。講師はこれを否定せず、「常に同質化はするものだという前提で、どう壊すかを意識し続ける」ことしか対処法はないと答えた。処方箋の有効期限は、その処方箋が制度化するまで、ということになる。
PART 6

同質化の中で強さを作る――SMM と TMS

質疑の流れから、参加者の一人(マイキー氏)が別の角度を持ち込んだ。多様性から制度化へ向かうプロセスで実際に何が決め手になるかというと、結局は多数決になる。そして多数決で票を取るのはプレゼンが上手い人間である。つまり、プレゼンが上手い人間が制度を作れてしまう、という身も蓋もない指摘だった。そこからルールを制度化していく流れを作ると何が強くなるかというと、SMM――シェアードメンタルモデル(共有メンタルモデル)だという。

SMM は、組織を人の集合体と捉えたうえで、そのメンバー全員が持っている共通認識のことを指す。会社や店舗でいえばマニュアルにあたる。これをサイクルさせて水準を上げていく。講師の説明では、細かい共通認識が積み上がることで、集団としての最低ランクの認識水準が上がっていく。マイキー氏はこれとペアになる概念として TMS――トランザクティブ・メモリー・システムを挙げた。制度化された状況の中で、誰が何に詳しいかという分布を組織が把握している状態のことで、中国のことなら誰、犬のことなら誰、というように正確な情報の在り処を引き当てられる仕組みを指す。SMM と TMS が両方存在していることが、組織体であることの条件だという整理だった。

価値判断が分かれる主張(マイキー氏の見解として明示):マイキー氏は、SMM の構築において判断基準は全体最適化であり、「1人2人が犠牲になろうが100人が救われればいい」と述べた。また、提案が SMM の向上につながるかどうかは、その提案から「自分が得をするか」をどれだけ排除できているかで決まるとした。これは功利主義的な集計原理に立つ立場であり、個人の権利は多数の利益に還元できないとする立場(たとえばロールズ的な正義論や権利基底的な議論)からは正面から反対される。組織運営上の有効性の主張と、倫理的な正当化は別の水準の問題として扱う必要がある。
📌 Claude補足:SMM と TMS の出典要確認

シェアードメンタルモデル(shared mental models)はチーム認知研究の概念で、Cannon-Bowers, Salas & Converse(1993)らによるチーム効果性研究の系譜に属する。トランザクティブ・メモリー・システムは Daniel M. Wegner が1980年代に提示した概念で、「誰が何を知っているか」についての共有された知識を通じて集団が個人の記憶容量を超えた情報処理を行う仕組みを指す。いずれも組織論・社会心理学で確立した概念だが、本レポートでは提唱者名と初出年の一次資料までは確認できていないため、年代表記は避けた。なお、この両概念を「制度理論の中で SMM と TMS がセットで組織体を定義する」とする整理は、標準的な制度理論の教科書的記述ではなく、マイキー氏独自の接続である点に注意されたい。

Q&A

質疑応答

柔軟性を持つことを組織の方向性として定めれば、柔軟性を残したまま同質化できるのではないか。
難しい。「柔軟性を持つ」と言った時点で、自分たちで柔軟性の定義を決めてしまっている。本来の柔軟性とは、自分たちの方向性と意識を極力持たないこと。だから探索とは、知らないところに飛び込んでいくことを指す。(講師)
リーダーが知の探索をして現場に落とし、現場がそれを受け入れて変化していく、という形でよいか。
逆である。受け入れてはいけない。壊していかなければならない。今日は触れないが「異質化」という概念もある。基本の考え方は、これまでのものを受け入れるのではなく、疑問を持って意識的に壊していくこと。そのほうが柔軟性を保てる。(講師)
「今から壊す時間ですよ」と会議の習慣にしたとしても、知らないうちにグループ内の同質化に戻ってしまうのでは。
戻る。必ず同質化は起こると思っておいたほうがよい。だから常に同質化していく前提で、どう壊すかを意識し続ける。意識していてもかなり厳しい。だからこそ、他業界から人を採用したり、あえて違う業界に飛び込んだりすることが必要になる。(講師)
日本では雇用したら解雇できない。その制約下で長期的にビジネスをやるにはどうすればよいか。
結論としてはできない。やり方があるかもしれないが、現時点の自分の理解では「できない」というのが結論になる。(講師)
同質化した組織に異物を入れるとき、具体的に何を入れればよいか。
規範(文化的・認知的な層)のところにアカデミズムを入れること。規範は業界ごとに圧倒的に違うので、全く違う業界の人材を入れることで、当たり前と見なしている枠組みに別の角度と切り口が入る。ある業界で当たり前と思われていることは、他の業界では当たり前ではない。アカデミズムはある意味、世間や社会と相容れない価値観を維持している場所なので、そういう人と対話することがすごく大事。企業レベルでやると非常にお金がかかるが、そこにかけるのが両利きの経営であり、探索を行うということだと思う。(渡辺氏)
アカデミックな人と対話するとき、自分がこの業界に埋め込まれているという自覚がないまま話しても意味があるのか。相手も自覚できていないのでは。
相手も切り分けられていない。だから互いに分からないもの同士が粘り強く対話するしかない。そうしないと喧嘩になる。最初はまず対話にならないと思ってよい。(渡辺氏)
共通の課題があって専門家を呼ぶとき、お互いに譲れないものが出てくる。どう選べばよいか。
全くその業界に対して素人である人を連れてくるべき。皆さん業界を知っている人を連れてこようとするが、それではできない。業界を知っている人はその人のバイアスがかかって話すので、その段階で破綻する。連れてくる相手が想像もつかなくてよい。いきなり生物学や脳神経学でよい。それくらい遠くしないとダメ。全く関係ない人に向けて自分の事業をプレゼンする。話が合いそうな人を選んだ時点で、それがもうバイアスである。(渡辺氏)
アカデミックと一般のあいだの断絶はどう溶かすのか。
互いのスタンダードがあり、遮断されている状態をどう溶かすかが重要になる。そこでプレゼンテーションが要る。つまり共通言語を作るのに、誰のどの言葉を選ぶべきかを考える。アカデミックの人は専門用語が多くなり、一般の人は感情論が多くなる。その中間地点を探すのがよい。歩み寄るために何をすればいいのかを考える。ニコニコしているだけでは歩み寄れない。コミュニケーション以外に歩み寄る手段は存在しない。人は足りていないところを業界同士で固まって埋めようとする。そのほうが楽だから。(マイキー氏)
シェアードメンタルモデルとは何か。
組織を人の集合体と捉えたとき、みんなが持っている共通認識のこと。会社や店舗でいえばマニュアルにあたる。これをサイクルさせて水準を上げていく。細かい共通認識が積み重なることで、集団全体の認識の最低ランクが上がっていく。(マイキー氏)
それは効率化のために同質化するということか。
効率化は考えなくてよい。全体の最適化になるかどうかが SMM の基準。最適化にならないものは受け入れられず、最適化するものは採用される。「自分はこうしたほうがいいのではないか」という主張だけのものは SMM の向上にはつながらない。(マイキー氏)
スライド後半のデカップリング、「本音と建前」の意味がよく分からない。同質化とどう関係するのか。
何かをやるときに、伝えた商品と出てくる商品が違う、という面のこと。同一の商品でも、A社・B社・C社では業界も使い方も違うので、相手ごとに違う提案の仕方をする。同じ商品でも、この人にとってはこういう良い商品になる、という形で謳い方を変える。これは同質化を避ける方法ではなく、同質化してしまった環境の中でどううまくやるかという話である。同質化には必ずメリットとデメリットがあるので、そのトレードオフを理解しながら使いこなす必要がある。良い悪いで考えると使いこなせない。欠点が出たときにどうカバーするかが分かっていれば、単なるトレードオフではなく、片方を活かしながら欠点をカバーすることもできる。(講師)
両利きの経営そのものが「そういうものだよね」という同質化になってしまわないか。
おっしゃる通りになる。だから自分たちだけではできないということで外部の知を入れたり、外に飛び込んだりする。それでもそうなる可能性は十分にある。常に同質化はするものだと思ってやらないと、むしろ「避けられる」と考えることのほうが罠になる。(講師)
みんなが流行り出してから両利きと言い始め、実際にはやっていないのに「やっている風」になる。それが形骸化ではないか。
まさに同質化の問題点そのもの。形骸化は同質化に必ず内在している。(講師)
形骸化を解決する方法は何か。新しい道を作ってもまた形骸化して、循環するだけではないか。
探索と深化はどちらから始まるか――探索からである。その後に深化の比重が大きくなっていくだけであって、市場がチェンジすればまた探索が増え、商品化する段階で深化が増える。つまりこれが柔軟性である。(マイキー氏)※この答えから、米国でM&Aがコングロマリット解消の方向に動いているという事例の話に展開した。
HOMEWORK

宿題・アクションアイテム

  1. 自分が所属する組織や、投資対象として見ている業界が、同質化の三段階(多様性/拡散/制度化)のどこにいるかを判定する。判定の根拠として、新規参入者の型が揃っているか、業界内の比較が容易になっているかを見る。
  2. 自組織のルール・慣行から3つを選び、「なぜそれをやっているのか」を問い直す。効率性や効果で答えられないものが形骸化の候補になる。
  3. 全く関係のない業界・分野の人に自分の事業をプレゼンする機会を作る。相手の選定では「話が合いそう」を基準にしない(渡辺氏の指摘に基づく)。
  4. 次回予告:制度ロジックの対立と、その最大の源泉としての宗教。講師は「制度ロジックが違うところから連れてこないといけない」として、次の論点に置いた。
GLOSSARY

用語集

アイソモーフィズム(同型化・同質化)組織や市場の参加者が、形態や慣行において似通っていく現象。強制的・模倣的・規範的の3つの圧力によって駆動される。
構造化(structuration)DiMaggio & Powell 1983 が示した、組織フィールドが形成されていく4段階の過程。相互作用の増大、支配構造の出現、情報負荷の増大、相互認識の発達。
ティッピングポイント普及が急激に加速する転換点。ここを超えられないと制度化に至らず、組織や市場が強固なものにならない。
形骸化(セレモニー化)効率性を目的に導入された仕組みが、「みんながやっているから」という理由だけで維持されるようになる状態。
イナーシャ(慣性)組織や市場が過去の型から離れられなくなる硬直性。形骸化の帰結として現れる。
デカップリング掲げている制度・構造と、実際の活動を切り離すこと。Meyer & Rowan 1977 の概念。講師は「本音と建前の使い分け」と説明した。
両利きの経営知の探索(exploration)と知の深化(exploitation)を同時に追求する経営。March 1991 の対概念に基づく。
SMM(シェアードメンタルモデル)組織メンバーが共有している共通認識。マイキー氏は会社・店舗におけるマニュアルにあたると説明した。
TMS(トランザクティブ・メモリー・システム)「誰が何を知っているか」という分布を組織が共有している状態。正確な情報の在り処を引き当てる仕組み。
デファクトスタンダード公的な標準化機関ではなく市場での普及によって事実上の標準となった規格・方式。講師は同質化の利点を強化する手段として挙げた。