STUDY REPORT / 2026年4月度 勉強会

取引コストは高い場所で下げる――依存を減らす作業が、なぜ依存を増やす結果になるのか

資源依存理論の最終回で、取引費用理論(TCE)へ橋を架ける形で展開された議論。安いところを探す思考と、高いところで下げる思考の分岐点を扱う。
EXECUTIVE SUMMARY

「安い」を追いかけた先に、抜けられない依存がある

40%
大手物流が引いた依存の上限
逆転
TCEは「安い場所探し」ではない
開放系
組織を閉じたものと見ない
交渉された環境
環境は与えられるものではない
RBV
資源がなければ差別化案も出ない
2:00
セッション総尺

この回の後半、議論の中心は資源依存理論から取引費用理論へと滑っていった。きっかけは主宰者の一言である。ほとんどのサービスは、どうやって顧客の依存性を増すかを考えて設計されている。だから依存度は勝手に上がっていく。そのとき強いのは、みんなが依存しているものに対して逆をやれる人間だ、と。そして、依存度が高いものは取引コストが安い──だから「取引コストが安い=良い」にはならない、という前提を理解しないまま取引費用理論を勉強すると危ない、と釘を刺した。

主宰者の主張はこうである。ほとんどの人にとっての取引費用理論は「どれだけ安く、楽にできるか」を探す枠組みになっている。海外進出でも、いちばん安くて簡単な場所はどこか、を探し続ける。しかし経営学上のTCEはそんなことは一切言っていない。もっとも困難なところで、どうやってコストを下げるのかを論じている。この前提が抜け落ちると、安いほうへ流れ、依存が深まり、抜けられなくなって、結果として取引コストが上がる──という反転が起こる。

この論点を補強したのが、参入コストが下がった後に入る者と、下がる前に下げに行く者の対比だった。参入障壁が外部要因で下がったなら、それは自社のリソースで下げたわけではないので、結局誰でもできる。優秀な経営とは、取引コストがめちゃくちゃ高い環境で、自社の内部リソースを使ってコストを下げ、独占に近いポジションを作ることだ、と。この定義は、そのまま後半のRBV(リソース・ベースト・ビュー)の議論につながっていく。

セッションを貫く1本の線:「痛みを避けるコストを払うか、痛みを引き受けて消しに行くか」
主宰者の言葉では「みんな取引コストは痛みを避けるコストを払う。痛いと分かったうえで、どれだけ痛みを消そうかを考える思考にならない」。肉を切らせて骨を断つ、というのがこの回の締め方だった。
PART 1

依存を減らそうとした側が、依存させられる

具体例として最初に出たのが日本の物流業界である。日本の物流業界がAmazonに依存しすぎており、このままでは根こそぎやられるかもしれない。そこで会社によっては「自社の物流受注のうちAmazonは40%まで」と限界値を決めた。これが大手物流のやった依存管理である。

ところがこれがプラスに働いたかというと、そうでもなかった。Amazonは営業が強い。大手から仕事を減らされたAmazonは、中小の物流会社に営業をかけまくり、それまで大手の下請けをしていた中小が直接Amazonと取引できるようになった。依存度を減らしたいなら、営業で別のところを掴めばいい──というAmazon側の作戦が上回ったわけである。結果としてAmazonはコストも下げられ、取引先も分散できた。日本の大手物流がAmazonへの依存を減らそうとしたら、実際にはAmazonのほうが日本の大手物流への依存を減らした、という一枚上手の構図になった。

資源依存理論としての読み方──依存度の管理は一方向の作業ではない。自分が上限を引くという行為は、相手にとっては「この取引先は将来の供給源として不安定だ」というシグナルになり、相手側の分散行動を誘発する。依存の削減は、相手の分散を招く引き金にもなる。どちらが先に代替可能性を確保するかという競走であって、自分だけが動けると考えた時点で見落としが生じる。

プラットフォーム依存──TikTokとYouTube

同じ構図が個人の側でも語られた。YouTubeで成功している参加者に対し、主宰者は「媒体がYouTubeだけで安心だと思いますか」と問い、SNSの一分野に依存していた人が、そのSNS自体が壊れたときにどうなったかを想起させた。アメリカでTikTokが一時的に禁止されたとき、生き残ったのは誰だったか、という問いも重ねられている。

そこで出たのが、チャンネルが飛んだYouTuberの話である。残った人と残らなかった人の差は何か。YouTubeしかない人は死んだが、自分で講演会を開いていたような、アナログを強化していたところは残った。ここから主宰者は、デジタルとアナログの自由度は直感と逆だ、という見方を展開した。ネット上は自由に見えるが、実際にはプラットフォーム企業が作った規制があり、それを超えたらBANされる。一方アナログは、犯罪を犯さない限り国から「これをしてはいけません」と言われることはない。つまり自由度が高いのはデジタルではなくアナログのほうだ、と。

この話は、YouTube撮影の制約という具体例に落ちた。コラボ撮影の場で、プライベートなら普通に話せて、しかもそちらのほうが面白い内容が、YouTube側からカットを指示される。主宰者自身も、撮影では15分ほど話して切り上げることが多く、それは運用コストが上がるからだと明かしている。リアルであれば運用コストは発生しない。媒体を選ぶことは、規制を選ぶことでもある、という含意である。

PART 2

交渉された環境──組織を開放系として見るということ

この回でもう一つ厚みを持ったのが、参加者(渡辺さん)による理論的な整理だった。彼が提起したのは、資源依存理論を理解するには、組織を閉鎖系ではなく開放系として見るステップが要る、という論点である。自分のシステムが単に自律的であるという以上に、外部からの影響を受けなければ存在しえないものである、と自覚しなければならない。それはある意味で「組織が閉じている」という前提に対して批判的な視点を持つことだ、と。

企業体だけを見れば、組織はいくらでも閉じたシステムとして記述できる。しかし依存のネットワークに埋め込まれた存在として見るなら、どうやっても開かれたシステムとして扱わざるをえない。そして開かれたシステムとして見るには、経営判断や経済学の枠から一歩出た政治的な視点と、関係性の理論を持ち込まなければならない──という道筋が示された。

「単に与えられた環境ではなく、交渉された環境である」
渡辺さんのこの一言が、講師の「組織は自分に都合のいい環境を作るために動く」という定義に、別の言語を与えた。環境が交渉の産物であるなら、そこにロビー活動も、市場戦略も、利益連合の形成も、ジョイントベンチャーも位置づけられる。いずれも要求を調整するための連合体を作り、有利なポジションを作る手段になる。単に事業の数字を改善するための戦略ではなく、開放系における自己判断の問題である、という整理だった。

ソーシャル・コンテクストと「どう見せるか」

渡辺さんがもう一つ視点として挙げたのがソーシャル・コンテクストである。ネットワーク量だけでは掴めないが、この文脈を読むことがこの理論を理解する要点ではないか、と。講師はこれをマキャヴェッリ的な言い方に翻訳した。外見に響きやすい性質を利用して、古い形態の外観を維持する──すなわち擬装の問題である、と。古い形をまとうことで余計な衝突を避け、資源を保護する関係になる、という読み方だった。

さらに議論は、組織が自らをどう表象(リプレゼント)するかという論点に進んだ。外に対してどう見せるか、内部の人間に対して自分がどういう存在と見られるか。自分の依存性をどう見せるかという話である。連合体を作るときも、正当性を調達するときも同じで、政治的アクターとしてどのロールを演じるかという役割の問題になる。渡辺さんはここに、資源とはどこかに繋がるネットワークを形成できない限り資源にならない、という命題を重ねた。逆に繋ぎ方が分かってしまえば、少ない資源を大きく見せることもできてしまう。ESGの視点を持ち出すこと、自分が最低者の立場に立ってみせることも、その一形態として挙げられた。

講師はこの応酬を受けて、資源依存理論は平面的に捉えられがちだが、本来は立体的に捉えなければならない理論であり、次元をどう拡張していくかまで含めて扱われるべきだと述べた。その接続点は今回の説明では見つけられなかった、と正直に認めてもいる。

📌 Claude補足:マキャヴェッリの「憎まれてもよいが軽蔑されてはならない」

この文脈で渡辺さんが引いたのは、マキャヴェッリ『君主論』で知られる格言である。渡辺さんの解釈は資源依存の言語に翻訳されていた──軽蔑されるのは資源への依存がないからであり、依存があるからこそ憎しみに変わる。つまり重要な部分(法律や刑罰など)を握れていることが、クリティカルな戦略を握っていることと同義になる、と。チェーザレ・ボルジアの行動は、資源依存理論と取引費用理論の接合によって論理的に解釈しやすくなり、それはまさに取締役会の理論でもある(誰が中心になり、誰が起点になり、結び直すことで誰が排除されるのか)というのが彼の整理だった。この部分は文献に基づく厳密な引用ではなく、参加者による理論的なアナロジーである点に留意されたい。

PART 3

取引費用理論の逆説──難しい場所で下げた者が勝つ

主宰者が最も力を込めたのがこのパートである。TCEの通俗的な理解は「どれだけ参入コストが低く、安く、楽にできるか」を探す枠組みになっている。しかし経営学上のTCEが論じているのは、もっとも困難なところでどうやってコストを下げるのかという効率性の戦略だ、というのが主張の核だった。前提を取り違えると、簡単なほうへ行き、依存度が増し、抜けられなくなって、逆に取引コストが上がる。

具体例として挙げられたのが、自身の20代のサウジアラビアでの経験である。当時サウジに入る際は大使館から親の年収まで確認されたという。取引コストがきわめて高い環境で、どう下げるかを考えて仕事をし、うまくいった。その後サウジは観光大国を目指して企業が参入しやすくなり、参入コストも取引コストも下がった段階でみんなが入り、依存していく。ドバイ不動産も同じで、ブルジュ・ハリファができる前から目をつけていた、と。カンボジア、タイ、台湾も同様の文脈で挙げられている。そして、そういう時期に入る人は風当たりばかりで、敵だらけで辛い、とも述べられた。だからこそ、そこで繋がりを作るにはソーシャル・リレーションシップしかない、と。

「取引コストという戦術で勝って、依存という戦略で負けている」──渡辺さんによるこの言い換えが、議論の要約になった。コスト削減は具体的でミクロで対処しやすいが、そもそも事象を理解するためのスタンドポイントを作っている段階で、マクロ・抽象では負けてしまう、という指摘である。主宰者はこれを「内部の効率性と外部の有効性を混同している」と言い換えた。自分の影響力を最大化し、他者のコントロールを最小化するには、外部志向の政治的プロセスを有効性として考えること。そのうえで内部の効率性も持つこと。両方あって初めて本来の戦略である、と。

スズキとインド、そしてウクライナ・イスラエル

「取引コストが鬼のように高い中でどう下げるか」の分かりやすい例として挙げられたのがインドのスズキである。誰もやりたがらない状況で取引コストを下げて入っていったから、必然的に勝つ。いま日産もホンダもトヨタもインドに進出しようとしているが、規制緩和で他国企業も投資しやすくなり取引コストが下がった段階では、そもそも遅くないか、という問題提起だった。参入障壁が外部要因で下がったのなら、それは自社のリソースで下げたわけではないので、結果として誰でもできてしまう。完全競争に巻き込まれるだけだ、と。

同じ論法で、ウクライナやイスラエルのような戦時下の市場にも触れられている。いま参入すれば取引コストは極端に高いが、経済が元に戻ったとき、最初に入って取引コストを下げていった企業が圧倒的な優位を持つのは必然だ、という見立てである。さらに個人のレベルでは語学が例に挙がった。年齢が上がるほど言語習得の取引コストは上がる。学生時代がもっとも取引コストが低い。「日本に住んでいるから関係ない」と思っていた人間は、後になるほど取引コストが重くなっていく。就職のしやすさや報酬でキャリアを選ぶと、優先順位を間違える、というやりとりが交わされた。

📌 Claude補足:取引費用理論の出典と、インド市場の実際

取引費用理論(TCE)はオリヴァー・ウィリアムソンの一連の著作(1975年・1985年・1996年)で体系化された。TCEの三本柱は限定合理性(bounded rationality)・機会主義(opportunism)・資産特殊性(asset specificity)である。限定合理性はハーバート・サイモンの概念で、「意図としては合理的だが、限られた範囲でしかそうではない」行動を指す。ウィリアムソンは初期からサイモンを繰り返し引用している。資産特殊性とは、投資した資産が他の用途・他の相手に転用できず、転用すれば価値を失う性質を指し、これが当初の多数間の競争を、契約期間中の少数間の交換関係へと変質させる。講義で後述された「金銭だけでなく情報探索コストや交渉コストも含む」「限定合理性が前提にある」という説明は、標準的なTCEの構成と整合している。

インド市場については、要確認を含む。発言では「(インドの自動車市場で)スズキが一人勝ちしている」とされたが、2026年時点の公開データではマルチ・スズキの乗用車シェアは概ね37〜40%で首位を保つ一方、数年前から10ポイント超の低下が指摘され、タタとマヒンドラがそれぞれ8ポイント前後シェアを伸ばしている。日産は2026年3月に前年同月比+218%、ホンダは+48%、トヨタは+24%といった高い伸び率を記録しており、「一人勝ち」という現在形の描写は実勢とずれている。ただし「もっとも困難な時期に入った者が優位を築いた」という歴史的な論点自体は成立する。また発言中の「2025年11月の時点で(インドで規制が緩和され)国の企業が投資しやすくなった」という部分は、音声が不明瞭で該当する制度変更を特定できなかった。要確認

PART 4

RBV──アイデアが出ないのは、リソースが足りないから

セッション終盤、次に扱うRBVについて参加者から提唱者の確認があり、そこから主宰者が実践的な解説を加えた。日本の経営者の戦略思考はほとんどがポーター寄りになっている、というのが出発点である。どうやって差別化を図るか、どうやって他社と違いを見つけるか。それがポーターの言うSCP系の発想であるのに対し、バーニーのRBVは「会社内にある資源が大事だ」と言っている。

では資源が大事なのかアイデアが大事なのか。結論は両方大事で、片方に偏るのがよくない、というものだった。そのうえで主宰者は、自分が教えているのはポーター側ではないと明言した。理由はシンプルで、アイデアはリソースから出てくるからである。知識も経験もない人間から面白いアイデアは出てこない。リソースがダメな人間が差別化戦略を練るより、リソースがある人間が練ったほうがよいものが出る。だから「アイデアが出ない」というのは、時代背景に考え方が合っていないだけであり、リソースが足りていないだけだ、と。

ポーター(SCP系)
業界構造と外部環境から戦略が導かれる。資源の蓄積は、外部条件が命じる戦略を実行するための手段として位置づけられる。日本の経営相談の現場では、「他社がこうしているからうちはこうする」という比較ベースの発想としてほとんどの経営者がここに寄っている、というのが主宰者の観察。
バーニー(RBV)
企業の資源こそが戦略の基盤であり、戦略とは競争環境に対して自社資源を最もよく活かすためのものだと考える。主宰者の翻訳では「アイデアを出すための原資はリソースであり、人が面白ければアイデアも面白くなる」。

ただし主宰者は、両方とも追いつかれるものだ、とも述べている。差別化戦略はパクられる。技術やスキルが優れていると言われてもいずれパクられる。珍しいと言われたものは民主化していく。だから商品も進化しつつ、人間もリソースも進化し続けなければならない。外部環境がダイナミックに動いている以上、内部も動的に連動して動かないと遅れる。能動的に動けなくなった状態を、人はリソース不足とか思考停止と呼ぶ、という整理だった。

オリジナリティについても踏み込んだ発言があった。いきなりオリジナリティを出そうとしても出ない。まずパクるところから始めて、良いものをパクる習慣がつけば、良いものと良いものを組み合わせた結果として新しいものに変わる。選択肢を持てるかどうかのほうが大事だ、と。これは講師個人の学習観であり、価値判断が分かれる主張である点は明記しておく。模倣からの学習は熟達研究でも支持される一方、模倣可能な資源は持続的優位にならないというRBV自身の含意とは緊張関係にある。

📌 Claude補足:RBVの提唱者と、ポーターとの対立軸

参加者の「提唱者はJ.B.バーニーでよいか」という確認は正しい。Jay B. Barney の1991年論文 "Firm Resources and Sustained Competitive Advantage"(Journal of Management)がRBV成立の画期とされる。当初の枠組みは VRIS(価値・希少性・模倣困難性・代替可能性)で、のちに「組織(Organization)」の観点を加えたVRIOへと更新された。バーニー自身は2001年に「RBVの10年後」という回顧論文を書いている。

ポーターのファイブフォースは産業組織論のSCP(structure-conduct-performance)パラダイムを基礎に持ち、外部環境の条件と制約が戦略を規定すると考える。これに対しRBVは、企業資源こそが戦略の基盤であると主張した。外部(産業構造)と内部(資源)のどちらが競争優位の源泉かという、戦略論における基本的な対立軸である。主宰者の「両方大事だが偏るのがよくない」という整理は、この対立を折衷する現在の標準的な見方に近い。

Q&A

質疑応答

どんな会社も何かに依存して売上が立っている中で、既存のスキルが活かせるところから新しいものを考えるのが自然に思えるが、まったく新しいことをやるべきか、その判断はどうするのか

講師の回答は「それはアンゾフのマトリクスに乗っている」というものだった。自分が持っている資源をどう見て、どう分配していくか。それによってどういう形で生き残り、成長するかを考えるのがアンゾフのマトリクスであり、あわせて事業ポートフォリオの構えを見る。この二つを組み合わせるとほぼ答えになる、という回答である。

(続けて主宰者から)YouTubeという媒体だけで安心だと思いますか

思いません、という返答を受けて、主宰者は過去にSNSの一分野に依存していた人がその分野の崩壊とともにいなくなった例、TikTokが米国で一時禁止されたときに生き残った人の条件を挙げ、他のメディアも考えなければならないという結論へ導いた。メーカーの取引でも構造は同じで、外部の一部の会社への依存度が高い状態は同じリスクを抱える。質問者は「コンテンツ自体は流用できるので、分散していってもいいのかもしれない」と受け止めている。

組織行動のメカニズムの話について──相互依存と非対称性という真逆の性質を持つ二要素から出発し、親和力と斥力をどう関係として維持するのか、という問いから組織の定義に至る構成だと理解したが(渡辺さん)

講師はこれを肯定し、資源依存を何と結びつけるか、その取締役会の方向設定、置かれた環境をどう表象するかという問題だ、と応じた。そして次にどのツールを使うか──制度理論か、取引費用理論か、RBVか──を適切に見つけて組み合わせなければならず、ダイナミック・ケイパビリティとの接続も考えるべき理論だと認識している、と述べている。渡辺さんはさらに、いきなり何でもありではなく、自分の置かれた対象がどのような意思決定を下す主体であるかを見たうえで、自組織が開放系か閉鎖系かを問うステップが必要だ、と補足した。

取引コストが高いところで下げるという戦略が成立するには、「いつか取引コストが下がる」という前提が要るのではないか。何十年も先にしか下がらない場所なら先行投資できない。いつ、どういう条件で下がるのかを見抜くリサーチ能力がないと、ただの無謀な挑戦になるのでは

講師の回答は、その論点に一気に行く前に押さえるべき前提がある、というものだった。TCEにおけるコストの構造は金銭的なものだけではなく、情報探索コスト、交渉コストなど、直接金銭に反映されないものも含めて定義されている。さらにこの理論には限定合理性が前提にあり、人は全体をメタ認知できているわけではない。したがって、事実性よりも「判断する環境としてどういう基準を置くか」という視点で見たほうが適切だ、という整理である。質問者は「コストを金額ばかりで捉えていたのが問題だった」と受け止め、講師は「本人がどう認識しているかが意思決定に反映する」という点も改めて挙げた。

次にやるRBV理論の提唱者はJ.B.バーニーでよいか。まず彼をベースにして、定義を揃えていく進め方でよいか(富士さん)

講師は提唱者の確認を肯定したうえで、RBVはポーターの理論と比較されることが非常に多いので、その二つの対比で見ていくほうが見えやすい、と助言した。ここから主宰者によるポーター/バーニーの実践的な解説(PART 4)に展開している。

三理論の位置づけ(講師によるまとめ)──制度理論・資源依存理論・取引費用理論は、いずれも意思決定に関わる理論である。制度理論は正当性、資源依存理論は依存、取引費用理論は効率性を、それぞれ当事者が判断する基準として扱っている。この対応で捉えると見えやすい部分がある、という整理が示された。
ACTION

宿題・アクションアイテム

  1. 自分の依存先を一つ選び、上限を引いたらどうなるかをシミュレーションする。日本の大手物流の事例が示したのは、上限を引く行為が相手の分散行動を誘発するという点である。自分が動いたとき相手がどう動くかまで含めて設計する。
  2. 取引コストが「安い」か「高い」かで案件を仕分けし直す。安いから入る案件は、外部要因で安くなったのか、自社のリソースで下げられるのか。前者なら誰でもできる。
  3. アンゾフのマトリクスと事業ポートフォリオを組み合わせて、既存資源の活かし方を整理する。「既存スキルを活かすか、新規か」という問いへの回答としてこの二つが指定された。
  4. 次回はRBV。バーニーとポーターの対比で準備する。RBVはVRIO、ポーターはSCP/ファイブフォース。どちらに自分の思考が偏っているかを自覚してから読む。
  5. デジタル媒体の規制範囲を書き出す。プラットフォームのルールがどこまで自分の行動を縛っているか。アナログ側に持てる自由度は何か。
GLOSSARY

用語集

取引費用理論(TCE)取引を行うこと自体に伴う費用から組織の境界を説明する理論。ウィリアムソン(1975/1985/1996)。三本柱は限定合理性・機会主義・資産特殊性。
限定合理性人は合理的であろうとするが、認知能力の限界により限られた範囲でしかそうなれない、というサイモンの概念。TCEの前提。
資産特殊性投資した資産が他の用途や相手に転用できない性質。転用できないほど、相手との交渉で足元を見られやすくなる。
開放系/閉鎖系組織を外部と資源をやりとりする系として見るか、自己完結した系として見るか。資源依存理論は前者を前提とする。
交渉された環境環境は与えられるものではなく、ロビー活動・連合形成・市場戦略などを通じて交渉の結果として形づくられるという見方。
ソーシャル・コンテクストネットワークの量では捉えられない、関係の文脈や意味。資源をどう見せるか、自らをどう表象するかに関わる。
RBV/VRIO企業内部の資源に競争優位の源泉を求める理論。バーニー1991。価値・希少性・模倣困難性・組織の四観点で資源を評価する。
SCP パラダイム産業構造(Structure)→企業行動(Conduct)→業績(Performance)という因果を置く産業組織論の枠組み。ポーターのファイブフォースの基礎。