本パートでマイキー氏は、ホワイトボードを使ってリサーチの型を示した。リサーチには経営戦略、事業戦略、機能戦略、財務戦略の4層があり、この順番で上から下へ調べる。経営戦略ではメガトレンド、地政学、法規制などのマクロ環境を見て、自社は何者でどの山を登り、どの山を登らないのかを決める。事業戦略ではTAM・SAM・SOM、顧客インサイト、競合、価格帯、シェアを見て、ポジショニングを決める。機能戦略ではバリューチェーン、プロセスのボトルネック、組織の動機付けを見て、成約率を安定させるモデルを作る。財務戦略ではROICや資本コスト、キャッシュ・コンバージョン・サイクルを見て資源配分を決める。
マイキー氏によれば、日本の経営者の多くはマクロの層を見ておらず、事業戦略でもSOMしか見ていない。そのうえで「最新のマーケティング手法はないか」と尋ねるが、TAMもインサイトもシェアも分からない相手には答えようがない。マイキー氏は、自身のクラブが広告を使わず営業とプレゼンで勝っているのも、この4層を調べたうえで逆張りを選んだ結果だと説明した。
参加者からは、マーケティングを先に学んでいた反省や、大学の研究現場で国の大型資金が降りたことで「評価される側」に回り、マクロな政策動向を見る必要が生じているという事例が共有された。マイキー氏は、ハイパースケーラーはこの4層を全部やっており、過剰投資と言われる財務の層も必ずチェックしていると述べた。中川氏は『失敗の本質』を引き、現場の情報が中枢に上がらない組織は偶然に対応できないと指摘した。
冒頭の雑談では、VCを入れたがらない技術者集団の資本政策、良い技術を持ちながらプレゼンが弱い日本企業、マイキー氏の欧州出張予定とフランス政治の見通しなどが語られた。
戦術(マーケティング手法)の話をする前に、マクロから財務まで上から下へ調べて戦略を持つ。その順番を飛ばした会社に正しいアドバイスはできず、同じ順番で見れば企業も株も評価できる。
開始前、参加者とマイキー氏の間で資本政策の話が出た。参加者の一人は、上場を目指す会社なのに最初の資金を仲間内で出し合い、VCを入れるのを面倒がる経営者に「きっちりVCを入れないと上場は無理だ」「金以外に何を出せるのかをVCに言わせろ」と伝えたという。マイキー氏は逆のケースとして、自身が関わる米国のセキュリティ企業を挙げた。カリフォルニア工科大学(Caltech)の研究チーム出身の技術者集団で、外部資本ゼロのまま製品を全部作ってしまったが、大手と取引するには資本提携が必要になった。本人たちは「主導権を奪われたくない、金はある」と譲らなかったが、VCの価値は金ではなく人脈や紹介にあると説得し、A株・B株の種類株を設計して納得させたという。
議決権の異なる株式(たとえば1株1票のA株と、1株10票のB株)を発行し、創業者が少ない持分でも経営権を保つ仕組みをデュアルクラス構造という。米国ではGoogle(Alphabet)やMeta、日本ではサイバーダインの上場時などの例がある。外部資本を入れつつ主導権を守る手段として使われる一方、ガバナンス面の批判もある。
マイキー氏は、一社をIPOまで持っていくと次々に話が来るので、成功したら身を伏せた方がよい、経営権には入らず外部顧問として財務チェックや市場分析だけにとどめるのが一番利口だと述べた。
参加者は、静岡の会社のピッチで非常に良いイヤホン系の技術を見たが、プレゼンが刺さらなかったと話した。日本には良い技術がたくさんあるのに伝わらない。マイキー氏も、AIが強くなればなるほどプレゼンが重要になると応じた。マイキー氏は講演会後の面談が殺到し、この日も9時間半ぶっ通しで面談したという。著書は1万3,000部の増刷が決まり、あと1万1,500部で10万部に達したら区切りにするとの報告もあった。
優秀な子どもと接点を持つようになった参加者が、親が子どもの能力を押さえ付けているケースが多いと話した。マイキー氏は、頭の良い子は子どもの世界では退屈なので早く大人と仕事をさせた方が楽しいと述べ、海外のボーディングスクールの利点は多様な人種と付き合う入口になることであり、米国なら飛び級も選択肢になると語った。
マイキー氏は10月21日から欧州に向かい、最初の1週間は小山氏とのクルーズ、その後10月31日から11月8日までスペイン、オランダ、フランス、ドイツ、ベルギー、スイス、ロンドンを1日1カ国のペースで回る予定だと話した。フランスでは国民連合(RN)が政権を取る可能性が高く、国境管理が復活してパスポートが必要になるかもしれないので、その前に行っておきたいという。
マイキー氏は、欧州は分断が進み、イタリアやハンガリーはEUに対して強硬で、フランスも政権が変わりルペン氏が暴れるだろうと予想した。ルペン氏は核抑止でフランスは守るが他国は知らないという姿勢で、国連を壊そうとしているトランプ氏の女性版のような存在だという。さらに、ルペン氏がかつてクレムリンでプーチン大統領と会った写真を選挙活動に使い、批判されて削除したこと、フランスの銀行が融資しないのでロシア系から資金を借りて何が悪いと開き直ったこと、クリミアについても住民の多くがロシアを望んでいると受け流したことを挙げた。マイキー氏は、来年4月以降のフランスは面白くなると述べた。フランスは債務残高が大きく現金が欲しいのだろう、という指摘も出た。
ルペン氏は2025年3月にEU資金の不正流用で有罪となり被選挙権停止の判決を受けた。2026年7月7日の控訴審は有罪を維持したうえで停止期間を短縮し、ルペン氏は2027年大統領選への出馬を表明する一方、破棄院への上告の意向も示していると報じられている。出馬の可否には法的な不確実性が残る。世論調査では国民連合のバルデラ党首が優勢とする結果も出ている。
講義では「今回政権が変わる」「ほぼ確定」という表現があった。確認できた範囲では、2026年初時点の首相はマクロン派のルコルニュ氏で、国民連合は政権に加わっていない。9月時点で国民連合が政権入りしたという情報は今回の調査で見当たらなかった。政権交代の可能性がある節目は2027年4月の大統領選であり、「確定」と言える状況ではない。
ロシアとの関係については、国民連合(旧国民戦線)が2014年にロシア系銀行から約940万ユーロの融資を受けたこと、ルペン氏が2017年にクレムリンでプーチン大統領と会談したこと、2022年のロシアのウクライナ侵攻後にプーチン氏との写真を載せた選挙用冊子が廃棄されたと報じられたこと、2017年にクリミア併合を違法ではないとする趣旨の発言をしたことが広く報じられており、マイキー氏の説明とおおむね整合する。要確認核抑止の範囲やパスポート管理の復活に関する具体的な公約内容は今回確認していない。
このほか、面談に来た人物が突飛な構想を語り、講演費で多額を稼いでいると話したエピソードも紹介されたが、真偽の確認しようがない雑談として扱う。
マイキー氏は、リサーチを経営戦略の枠組みで4層に分けた。上の層ほどマクロで抽象的、下に行くほど具体的になる。それぞれに「何を調べるか」と「何をアウトプットするか」がある。
| 層 | 視点 | 主なリサーチ対象 | 戦略的アウトプット |
|---|---|---|---|
| ①経営戦略 | マクロ | メガトレンド、地政学、法規制など(PEST分析) | 自社は何者か。どの時代の波に乗り、どの山を登り、どの山を登らないか |
| ②事業戦略 | 中間 | TAM・SAM・SOM、顧客インサイト、競合、価格帯、市場シェア(3C分析・自社と他社の分析) | どこと差別化し、どのポジションを取るか。誰に何でどう勝つか |
| ③機能戦略 | 具体 | バリューチェーン(リソース)、プロセスのボトルネック、組織の動機付け。営業・プレゼン・マーケティング・アナリティクス | 成約率を安定させるモデルをどう作るか |
| ④財務戦略 | 資源配分 | ROIC、WACC(資本コスト)、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)、人材・設備・ソフトウェアの不足 | どこに資源を配分すれば利益が最大化するか |
経営戦略の層では、どの山を登るか、登らないかを決める。事業戦略の層では、より具体的に市場の大きさを三段階で見る。マイキー氏によれば、米国や中国のスタートアップはTAMから見るが、日本企業は日本でしか仕事をしないのでSOMしか見ていない。インサイトやシェアは、数字が苦手なのに数字にこだわるので皆が調べるが、TAMが分からなければポジショニングも決められない。
機能戦略の層でのアウトプットは、成約率を安定させるモデルである。それは今の段階では営業かもしれないし、プレゼンかもしれないし、マーケティングかもしれない。SNSかもしれないし、看板や雑誌広告かもしれない。上の層が分かっているからこそ、ここでの打ち手が明確になる。皆がInstagramで売っているペンを自分もInstagramで売るのは埋もれるだけで、皆がSNSなら自分は雑誌で出す、というのが差別化である。
TAM(Total Addressable Market)は製品・サービスが理論上獲得しうる市場全体、SAM(Serviceable Available Market)はそのうち自社のビジネスモデルや地域で狙える市場、SOM(Serviceable Obtainable Market)は現実的に獲得できる市場を指す。PEST分析は政治・経済・社会・技術の4要因でマクロ環境を整理する手法、3C分析は顧客・競合・自社の3つを見る枠組みである。ROICは投下資本利益率、WACCは加重平均資本コストで、ROICがWACCを上回っていれば企業価値を生んでいると判断される。CCCは仕入れから現金回収までの日数で、短いほど資金効率が良い。
マイキー氏は、よく「何か良い最新のマーケティング方法はありますか」と聞かれるが、「あなたの会社のことを知らないので答えられない」と返すという。TAM・SAM・SOMもインサイトもシェアも分からない相手に、マーケティングで何をさせればよいか分からない。参加者に「言っている意味が分かる人」と聞くと皆が手を挙げ、それが分からないまま求めてくる人は「狂っている」という反応で一致した。
マイキー氏は、自身のビジネススクールがなぜ広告を使わずに人が殺到しているかを、この4層で説明した。YouTubeの登録者数で戦えば大手には勝てない。広告費で戦っても市場は飽和している。だから全部逆張りし、日本人が一番苦手な営業とプレゼンで攻めた。YouTube業界もビジネス系スキルの市場も調べたうえで選択しているだけで、皆が広告費を使いまくりマーケティングしか考えない中で、営業とプレゼンを強化するだけで勝てる、というのがマイキー氏の説明である。
マイキー氏は、J.エイブラムス氏の講演で指摘した「古い」の一つもこの点だと述べた。リード・ホフマン氏の「ブリッツスケーリング」をそのまま進めているが、今はそうではない、という趣旨である。
『ブリッツスケーリング』は、LinkedIn共同創業者のリード・ホフマン氏とクリス・イェ氏が2018年に出版した書籍で、効率よりスピードを優先して急拡大する戦略を説いた。要確認講演者「J.エイブラムス氏」の人物特定は、前回に続き公開情報でできなかった。
最近入会した下島氏は、戦略がない状態で小手先だけをこね回していた、自分もそうしていた節があり首根っこをつかまれた感覚だと述べた。マイキー氏は「日本には戦略がないと言ったでしょう」と応じ、SCPの流れで語られるマイケル・ポーターの戦略論が日本にあると思うかと問うと、下島氏は「ない」と答えた。3日前に入会した参加者は、マーケティングという言葉がかっこいいので皆が飛び付き、地政学まで含めたリサーチはほとんど聞いたことがない、何でもマーケティングで解決しようとしている印象を改めて持ったと話した。
マイキー氏は、この4層すべてにSECIモデルが必要だと付け加えた。形式知としてフォーマットに落とし込まなければならず、コミュニケーションを取らない人はどの層もやっていないのと同じだという。自身が日本企業の株を買わない理由もここにあり、経営者がコミュニケーションを取れない会社でこの流れができるはずがない、社員のレベルを見れば分かる、と述べた。
SCP(Structure-Conduct-Performance)は産業組織論の枠組みで、市場構造が企業行動を決め、それが成果を決めると考える。マイケル・ポーターは1980年の『競争の戦略』でこの枠組みを企業側の戦略論に転用し、ファイブフォース分析や3つの基本戦略(コストリーダーシップ・差別化・集中)を示した。
上野氏は大学の事例を話した。研究所に国から大きな資金が降り、皆「やったぜ」と喜んでいるが、実際には「金を出したのだから成果を出しているよね」と評価される立場になった。これまで評価されていなかったので好き勝手にできていた研究者の中には、なぜこんなことをされなければいけないのかと反発する人も多い。今調べてみると全然足りておらず、ざわついている。一方で、評価指標は上から降りてくるだけでなく、自分たちが何をやっているか、なぜ強化すべき最先端なのか、他の研究者との違いや独自性を下から説明するプレゼンも必要になる。ここで、これまでやってこなかった人たちと、ちゃんとやってきた人たちの二極化が起きているという。
上野氏は、国の政策というマクロの層をこれまで見てこなかった研究者が多いので、自分なりに分析したトレンドや政策動向を共有していると述べた。専門の異なる研究者同士で話す機会も増え、専門用語が通じずにぶつかりながら、少しずつ進めているという。マイキー氏は、喧嘩するだけまだ良い組織で、慰め合い認め合うだけなら会話は進まないと評価し、『失敗の本質』をこの事例に重ねて読むよう勧めた。
マイキー氏は、今のハイパースケーラーの投資の仕方はこの4層を全部やっていると述べた。唯一「バグっている」ように見えるのが④財務戦略で、過剰投資と言われる。しかし彼らは必ずそこもチェックしている、というのがマイキー氏の見方で、上野氏も同意した。
2026年初時点の見通しで、Amazon、Alphabet、Microsoft、Meta、Oracleの5社の2026年設備投資は合計6,600億〜6,900億ドルと、2025年の約3,800億ドルからほぼ倍増する水準とされた(Futurum Group)。4社でフリーキャッシュフローが大きく圧迫されるとの報道もあり、2026年7月にはAlphabetの決算を機に設備投資への投資家の懐疑が強まったとCNBCが報じている。マイキー氏の言う「④財務の層だけが過剰に見える」という構図は、市場の受け止め方とおおむね一致する。各社が資本コストに見合う回収を見込めているかは、今後の決算でROICとフリーキャッシュフローを追って確かめる必要がある。
スタートアップ支援に関わる小澤氏は、この4層は入口で全部やるのが当たり前だが、やっていない会社が多く、途中で泣きついてくると述べた。日本企業は①と②をやっておらず、③の機能戦略の話ばかりするので会話がかみ合わない。リサーチをしていないので戦略が練られておらず、戦術の話ばかりになるという。
前田氏は、戦略自体が分からない人が多い印象を持っていると述べた。自身は戦略を「選択肢を増やすこと」と説明し、もう一つ「どう絞るか」も大事だが、それを話すと受け入れられないので絞って話した、それでも伝わらなかったという。
中川氏は、コミュニケーションの重要性に関連して『失敗の本質』を引いた。同書は、日本軍では組織の末端が持つ情報や問題提起、アイデアが中枢に上がることを促す自由な議論が許されなかったと指摘している、という。山本七平氏の言う「空気の支配」にも通じる。戦場はマニュアル通りにいかず、常に想定外への対応を迫られるので、情報を持っているのは現場のはずだが、それを吸い上げず、偶然への対応を考えていなかった。通常通りに戦争が進むと思っていたのである。
中川氏は、今の企業戦略も同じで、地政学がこれほど変わる中でも通常通りに進むと思っているのは大きな間違いだと述べた。コンティンジェンシープランを常に考えておくべきで、それは最初の段階、マクロや中間の層で考えなければならない。
『失敗の本質』は、日本軍が環境変化に対応できなかった要因として、組織内の自由な議論の欠如や、論理より「空気」が意思決定を支配したことを挙げている。山本七平氏の『「空気」の研究』は1977年刊。要確認中川氏が紹介した「言葉を失った」という表現が同書のどの箇所に当たるかは、今回原文で確認していない。
マイキー氏は、リサーチは上から下へ、これは今後も何十回、何百回と言い続けると述べた。これはビジネスの基本であり、株式分析の基本でもある。NVIDIA、Microsoft、Amazon、Google、Metaは全部やっている。目先のお金を稼ぐのに必死な人もいるかもしれないが、海外のスタートアップはこれをやったうえで会社を作り、実際に成長している。今は必要ないと思っても、企業を成長させるときにやっておいて良かったと思えるかどうかだけだ、という。最後に、アウトプットを前提にインプットすることを必須科目として覚えておくよう求めた。