STUDY REPORT / 2026年3月度 勉強会

リガクとレポートの穴 ――よくできたレポートに、何が書かれていないかを読む

140ページのレポートが株価を動かした/転換コスト・中国競合・人材流出/職業病というバイアス
EXECUTIVE SUMMARY

この回で実演されたこと

題材
140ページのリサーチ
米国在住の中国人個人が書いたリガク分析レポート
主宰者の読了時間
約15分
その時間で6つの論点の欠落を指摘した
最大の欠落
転換コスト
分析機器から半導体製造装置へ移る間の利益率圧迫
見落とされた競合
中国メーカー
廉価版XRD/XRFをすでに量産している企業が存在
人材面のリスク
引き抜き
技術者が破格の条件で中国企業へ移っているとの指摘
本人が挙げた自らの誤り
職業病
売らせること前提でしか案件を見ていなかった

この回の後半、一人の参加者が持ち込んだ資料が議題になった。米国在住の中国人インフルエンサーが書いたという、リガク・ホールディングスに関する140ページのリサーチレポートである。持ち込んだ本人は金融実務の側の人間で、以前からこの銘柄を追っており、大株主である投資ファンドの保有株を取りに行こうと1年ほど検討していたという。ところが自分が気づいていなかった論点がこのレポートで可視化されており、衝撃を受けたと述べた。

主宰者は、その資料を事前に15分ほど流し読みしただけだと断ったうえで、指摘を6点にわたって並べた。転換コストの不在、中国の競合企業、人材の流出、X線管球のサプライチェーン、代替技術の可能性、そして稼働率という指標。いずれも「レポートに書かれていないこと」であり、書かれていることの誤りではない。ここがこの回の実演の中心だった。良いレポートを読むとは、そこに書かれた論理を追うことではなく、書かれなかった領域を特定することである。

主宰者は同時に、このレポートを高く評価してもいる。「久しぶりにすごいレポートを見た」「ウォールストリートのアナリストでさえ見落としていた点がある」「本当の意味でのインフルエンサーだ」。さらに、日本のアナリストの仕事はAIで代替可能な水準にとどまっているのではないか、という辛辣な評価も添えられた。

持ち込んだ本人の自己分析も記録に値する。彼は自分が「ファンドの持ち分を2,000億円規模で引っ張り出せば儲かる」という発想から入っていたため、アップサイドをほとんど考えていなかったと述べ、それを「金融の職業病」と呼んだ。バイアスは他人の分析ではなく、自分の出発点の置き方に宿る。

セッションを貫く1本の線
この日の前半でネットワーク理論を扱った同じ枠で、後半は一つのレポートを解剖した。共通しているのは「与えられた構造の外側に何があるかを見る」という姿勢である。アルゴリズムが見せない情報群へ手を伸ばすことと、レポートが書かなかった論点を特定することは、同じ作業の別の現れ方にあたる。
PART 1

リガクという会社――分析機器から半導体製造装置へ

まず持ち込んだ参加者が会社の概要を説明した。彼の説明では、リガクは2021年に投資ファンドのカーライルが80%を出資する形でMBOを実施し、経営陣側が20%程度を保有。バリュエーションは1,000億円程度だった。その後、2024年に上場している。上場後もカーライルが40%程度を保有しているため、将来的な売却圧力——いわゆるハングオーバー——が株価の重しになるのではないか、というのが彼の懸念だった。

続いて主宰者が、会社の事業構造を整理した。リガクはもともと科学分析機器のメーカーだったが、半導体の製造装置メーカーへと軸足を移そうとしている。ここに一種のパラダイムシフトが起きようとしている、というのが彼の見立てである。

なぜX線検査が効くのか

主宰者が説明した技術的な必然性は二本立てだった。

①メモリの積層化

データセンター向けに高帯域メモリ(HBM)の需要が拡大し、世代が進むにつれて積層構造が複雑になる。内部の微細な欠陥は外からは見えないため、X線による非破壊検査が合理的な手段になる。次世代のGPU基盤の展開に合わせて市場が伸びる、という筋書きである。

②材料の転換

パワー半導体ではシリコンの耐熱性が限界に近づき、炭化ケイ素(SiC)やガリウム系の材料への転換が進む。材料が変われば従来の検査装置では微小な欠損を捉えられなくなる。そこをX線でカバーするというのがリガクの位置づけになる。

主宰者は、リガクを本レポート第1本目のネットワーク理論の語彙で位置づけてもいる。この会社は大学の研究機関出身のエンジニアを中核に持つという意味で、「疎なネットワークではなく密なネットワークが極めて強い会社」である、と。この評価は、後に述べられる人材流出リスクの伏線になっている。

📌 Claude補足(発言と公開情報の照合)

カーライルの投資について。 日本経済新聞の報道によれば、カーライルは2021年1月に株式会社リガクへの投資を発表しており、規模は1,000億円規模、取得比率は8割とされている。参加者が述べた「80%」「1,000億円」はこの報道と一致する。ただし1,000億円は投資額の規模であって企業価値評価額そのものとは限らない点は留意が必要。持株会社(リガク・ホールディングス)はカーライルが2020年12月に設立している。

上場について。 リガク・ホールディングス(証券コード268A)は2024年10月25日に東証プライム市場へ上場した。公開価格1,230円に対し初値は1,205円と公開価格を下回り、初値ベースの時価総額は約2,700億円だった。参加者が述べた「2,000億円で上場させて」という表現は、公開データ(約2,700億円)と食い違う。

カーライルの保有比率について。 参加者は「IPO後もまだ40%くらい持っている」と述べたが、上場時点の報道ではカーライルが株式の75%を保有する大株主とされている。発言の「40%」がどの時点の数値を指すかは確認できなかった要確認。いずれにせよ、彼が指摘した「将来の売却圧力」という懸念の方向は、後述のとおり現実の展開と一致した。

X線回折装置のシェアについて。 勉強会中、主宰者が「40%くらいか」と問い、持ち込んだ参加者が「もっとある」と答える場面があった。公開情報では、リガクはX線回折装置(XRD)で国内首位・海外2位のシェアを持つとされ、国内シェアを75%とする記述、世界シェアを3割とする記述が確認できたが、出典によって数値が異なる要確認。「40%」という数字の裏付けは取れなかった。

PART 2

個人が書いた140ページが、株価を動かした

持ち込んだ参加者の説明によれば、そのレポートは「リガクは隠れた優良企業なのか」という趣旨のタイトルで、保守的なケースとアップサイドのケースに分けて2030年までのバリュエーションを提示するモデルを含んでいた。証券会社が出すリサーチではなく、個人が書いたものである。HBMやロジック半導体の話題を含め、見せ方に工夫があり、「3Dチップ設計」の図解などが優れていると主宰者も評価した。

特筆されたのは「ウォールストリートのアナリストでさえ見落としているポイント」が明示されていた点である。持ち込んだ参加者は、自分自身が1年間この銘柄を追いながら気づかなかった論点が可視化されており、日本企業でありながら日本の投資家も含めて誰も気づいていなかった点があったと述べた。

そして市場の反応が早かった。彼の説明では、レポート公開後に「あちこちから買い注文がどんどん入っている」状態になり、会社自体が驚いていたという。通常であれば証券会社がリサーチを出し、レーティングを付けてから買いが入る。個人のレポートをきっかけにトップクラスの投資家が買いに来るのは自分も見たことがないし、会社の人も困惑していた、と述べている。株価は1,000円台から2,000円ほどへ、一気に水準を切り上げた。彼はさらに「昨日も買っているのは外国人、アメリカだ」と付け加えた。

主宰者はデータの出所についても目を通しており、ブルームバーグや大手経済紙、ビジネス系メディアのデータがかなり使い回されていると指摘した。「ちゃんとトレンドは追っている」という評価である。また、レポートの書き手が自分のポジション保有を明記していること、インサイダー情報なしで書かれていることも確認されている。

ただし強気バイアスは割り引く
持ち込んだ参加者が「数値のところは結構強気で書いている」と述べ、主宰者も「そこはインフルエンサーっぽい」と同意した。両者とも「割り引いて考えなければいけない」という点で一致している。ただし悲観シナリオも収録されていることは評価された。また主宰者は、書き手が中国の事情を分かったうえで、あえて中国関連のリスクを書かなかった可能性——ポジショントークとしての省略——にも言及している。
PART 3

15分で指摘された6つの穴

ここからが主宰者の実演である。彼は繰り返し「概要をざっと見ただけ」「もっとリサーチをかければもっと出てくる」と断ったうえで、6点を挙げた。

論点レポートに書かれていたこと主宰者が指摘した欠落
①転換コスト分析機器メーカーから半導体製造装置メーカーへの転換シナリオと、2030年までのバリュエーション転換の過程で発生するコストがモデルに入っていない。その間の数年、利益率が圧迫されるはずだがそれが見えない。現在のフリーキャッシュフローで賄えるのか、どういう資金調達をするのかが読み取れない
②中国の競合X線検査を日本の独自技術として扱う書き方中国企業がすでに同種の装置を手がけている。XRD/XRFでリガクの科学分析系製品と競合する製品が中国国内で発表されており、廉価版が量産されている。中国は量産を始めると品質を上げてくる
③人材の流出(言及なし)リガクの技術者が中国メーカーに引き抜かれている。アカデミア出身者や日本人技術者が破格の条件で移っており、そのニュースは中国側ですでに出ている。密なネットワークが強みの会社にとって、これは中核の毀損にあたる
④管球のサプライチェーン垂直統合を強みとして提示X線を通すチューブ(管球)は消耗品であり、高出力で稼働させると寿命が短くなる。組み立ては垂直統合でも、その供給側は結局中国が握っている
⑤代替技術X線検査が唯一の解であるかのような記述EUV露光装置などでもある程度カバーできるという研究報告が存在する。中国側でX線以外の代替手段の開発も進んでいる
⑥稼働率営業利益率30%への到達シナリオ山梨の工場の稼働率が実際の制約になっている。営業利益率が12%程度まで落ちた局面があり、稼働率の向上こそが一つのKPIになるのではないか

主宰者の結論は、批判ではなく設計への提案として述べられた。「リスクはこういうものがあるが、こういうロードマップで、こういうコアコンピタンスがあるからこそ強い」という構成のレポートであれば、もっと良かった。自分が書くならそうする——地政学的なリスクも人材の問題も全部書いたうえでレポートにする、と。

評価そのものは否定していない
主宰者は同じ場で「株価は上がると思っている」「台湾のTSMC、SKハイニックス、サムスンのHBMといった顧客に対するロードマップにはしっかり乗った戦略を組んでおり、非常に優秀だ」とも述べている。つまり彼の指摘は「この会社は良くない」ではなく「このレポートはリスクの記述が薄い」という、対象の切り分けである。この区別は、レポートを読む側にとって重要な作法にあたる。
📌 Claude補足(中国の競合企業の特定)

主宰者が名前を挙げた中国企業のうち、ひとつは「ユニコンプ」、もうひとつは社名を思い出せず「丹東(たんとう)の、東に奥に利と書く会社」と説明されていた。公開情報で確認したところ、後者は丹東通達科技(Dandong Tongda Science & Technology Co., Ltd.)である可能性が高い。同社は中国国内で最大のシェアを持つX線回折装置メーカーとされ、XRD/XRF向けのガラス管球・セラミック管球・メタルセラミック管球も製造している。管球まで自社で扱っているという点は、主宰者が指摘した④のサプライチェーン論点と整合する。前者はUnicomp Technology(電子部品向けX線検査装置メーカー)と考えられる。主宰者が「この会社は50年以上ある」と述べた点については、今回の検索では設立年を確定できなかった要確認

PART 4

答え合わせ――2026年9月時点で何が起きたか

この勉強会から約半年が経過した。主宰者が指摘した論点のうち、検証可能なものについて公開情報と突き合わせる。

リガク・ホールディングスの業績と営業利益率
出典:2025年12月期決算および2026年12月期第2四半期決算短信、会社公表の通期予想。FY2024は前期比率からのClaude逆算値(概算)。

勉強会で主宰者が挙げた第一の穴——転換コストによる利益率の圧迫が見えない——は、その後の決算で数字として現れた。2026年12月期の上期(第2四半期累計)は、売上収益395億6,500万円(前年同期比2.9%減)に対し、営業利益25億7,900万円(同54.9%減)。営業利益率に直すと6.5%である。勉強会で「12%くらいまで落ちた」と語られた水準を、さらに下回った。

一方で会社の通期予想は、売上収益1,010億円(前期比7.2%増)、営業利益194億円(同16.1%増)と据え置かれており、下期に大幅な回復を織り込んだ形になっている。半導体プロセスコントロール部門はAI向け需要を背景に伸びており、2025年12月期は同部門が19%増の278億円と全体をけん引していた。つまり成長の筋書き自体は生きているが、その筋書きが実現するまでの谷が、主宰者の指摘どおり数字に出た。

株価の節目(2024年上場〜2026年9月)
出典:公開価格・初値は2024年10月の上場時報道、2026年9月7日終値は市場データ。2026年3月は勉強会での発言に基づく概数であり実測値ではない。

第二に、持ち込んだ参加者が最も懸念していたカーライルの売却圧力は、勉強会のわずか2か月後に現実化した。2026年5月22日、カーライル関連のアトム・インベストメントが国内外で2,958万300株の売り出しを決定。需要に応じて最大443万7,000株が追加され、5月22日終値ベースで約891億円規模の売り出しとなった。売出価格は6月上旬に決定されている。「カーライルが売ってこないと動けないのではないか」という彼の見立ては、方向としては正しかった。

第三に株価である。勉強会当時の発言では「1,000円台から2,000円くらいになった」とされていたが、2026年9月7日時点の株価は1,711円である。売り出しと上期の減益を経て、当時の水準からは下がっている。

発言と公開データの食い違い(まとめ)

①「2,000億円で上場させた」→ 初値ベースの時価総額は約2,700億円。

②「IPO後もカーライルが40%保有」→ 上場時の報道ではカーライルの保有は75%。40%がどの時点を指すかは未確認。

③「営業利益率が12%まで落ちた」→ 2025年12月期の通期は売上収益941億1,700万円・営業利益181億4,500万円で、営業利益率は約19.3%。12%という水準は特定四半期の数値か、別の指標を指していた可能性がある。なお2026年上期は6.5%とさらに低い。

④「デンソーと三菱電機・東芝・ロームの連合」の構図(第2本目で詳述)→ 実際に統合の基本合意を結んだのはローム・東芝デバイス&ストレージ・三菱電機の3社で、デンソーは買収提案を取り下げた。

いずれも発言を書き換えず、食い違いとして記録する。

📌 Claude補足(時価総額の概算)

初値1,205円で時価総額が約2,700億円だったことから、発行済株式数はおよそ2億2,400万株と逆算できる。この株数を前提にすると、2026年9月7日の株価1,711円における時価総額は約3,830億円となる。勉強会で語られた「今が4,000億円」という水準は、当時の株価(約2,000円なら約4,480億円)に照らしておおむね妥当な桁感だった。また同じ場で「9,000円まで行けば時価総額は2兆円近く」という発言があったが、これも2億2,400万株を前提にすれば約2兆円となり計算上は整合する。ただしこれはClaudeによる概算であり、実際の発行済株式数は自己株式の取得や新株発行によって変動する要確認

PART 5

職業病というバイアス

この回で最も実務的な教訓は、持ち込んだ参加者自身の自己分析から出た。

彼はこう述べている。自分はカーライルの持ち分を取りに行こうと考えていた。だから「2,000億円を引っ張り出せば稼げる」というところが出発点にあり、そこからのスタートだったため、アップサイドがどのくらいあるかをあまり考えなかった。そういうバイアスをかけて自分の頭が動いていたことが、最も根本的な問題だったと後で気づいた——と。

主宰者はこれを即座に一般化した。「それは金融の職業病である」。案件を取りに行く立場に置かれた人間は、その案件をどう取るかという問いの形でしか対象を見なくなる。対象そのものが持つ上振れの可能性は、問いの外側に落ちる。持ち込んだ参加者の言葉では「売らせることばかりを考えていた」。

バイアスは分析の中ではなく、問いの立て方に宿る
この事例が示すのは、分析の精度を上げても出発点の問いが歪んでいれば結論は歪む、ということである。彼は1年間この銘柄を追っていた。情報量では外部の書き手に劣っていなかった可能性が高い。それでも見落としが生じたのは、情報が足りなかったからではなく、「どう取るか」という問いが「何が起こりうるか」という問いを覆い隠していたからである。本レポート第1本目で扱った「好悪・損得で判断するな」という原則の、実務版がここにある。

アナリストという職能への評価

議論の流れで、日本の証券アナリストに対する厳しい評価が両者から出た。主宰者は「今の日本のアナリストは、AIで完全に代替できるような仕事しかしていない」と述べ、持ち込んだ参加者は「それでもまだ数千万円もらう人がいる」と応じた。彼はさらに、IR担当者が自分の予想表を作りたいがために細かい数字ばかり聞いてくること、フォワードの数字をアナリストがほとんど出さなくなったこと、年間数百万円を取るスポンサード・リサーチの内容が乏しいことを挙げている。

両者が一致したのは「こういう人がインフルエンサーとして情報発信してくれれば良い教育媒体になるのに」という点だった。主宰者は「こういうことができる人間はそもそも表に出てこない」とも述べている。

PART 6

会の終わりに――16歳の記憶力という自己申告

この節の取り扱いについて
以下は主宰者が自身の少年期について語った内容であり、すべて本人の自己申告で、第三者による検証はできていない。学歴・経歴に関する主張は裏付けが取れないため、記述はいずれも「本人の語り」として読まれたい。また、本人以外の個人が識別される情報、および行為の手順にあたる詳細は本レポートに含めない。評価も断罪もせず、語られた事実関係のみを記録する。

会の終盤、主宰者が自身の少年期の写真を画面に映した。集合写真のなかで本人がどこにいるか、参加者の誰も特定できなかったという一幕から始まっている。本人の説明では、それは15歳から16歳ごろ、米国で撮られたもので、大学の研究室に関わっていた時期のものだという要確認。本人は自分を「超優等生だった」「真面目だった」と繰り返し述べている。

一方で参加者からは、当時の本人が現在より粗暴だったという趣旨の指摘が複数出た。本人もこれを否定せず、「当時のほうが今より行っていた」「同級生からは『丸くなったな』と言われるレベルだ」と応じている。誰彼構わず衝突していた可能性についても本人は肯定的に語った。手口にあたる具体的な記述はここでは行わない。

記憶力についての語り

この節が本レポートに収録される理由は、本人が語った記憶力の話が、この回の前半で実演された「15分でレポートの穴を6点挙げる」という行為と地続きに見えるからである。

本人の主張は率直だった。当時のほうが今より頭が良かった、記憶力も含めて今の100倍くらいだった、脳は劣化する——と。さらに「当時の自分が今の自分に会ったら、間違いなく『この大人はバカだ』という目線で見るだろう」とも述べている。参加者が「では当時の本人がこのクラブに入ってきたら」と問うと、「誰彼構わず喧嘩を売って、一人ずつ叩きに行っているかもしれない」と答えた。

記憶力の傍証として語られたのが、トランプのカードゲームでの逸話である。本人の説明では、山札が切られて流れていくカードを見て頭の中で全て記録し、終盤で相手の手札を一枚ずつ言い当てる。参加した相手が「相手にカードを見せながらやっているようなものだ」と言って途中で抜けた、という話が紹介された。麻雀でも、親の三倍満で一局を決めたという逸話が語られている。

この二つの話を並べて置く理由
本人の語りが事実かどうかは検証できない。ただし、この回で実際に観察できたことが一つある。約15分の流し読みで140ページのレポートを処理し、6つの欠落を列挙し、そのうち少なくとも1点(転換コストによる利益率の圧迫)はその後の決算で数字として現れた——これは記録に残っている事実である。少年期の逸話は検証できないが、この日その場で起きた処理速度は検証できる。読者としては、後者だけを根拠として扱うのが妥当だろう。

運営からの連絡

会の終わりには運営上の連絡が共有された。翌週月曜のZoom終了後にリーダーミーティングを実施すること、5月に開催予定のエキスポについて参加メンバーを引き続き募集していること、4月11日に参加者が集まる催しを予定していること、その場でカードゲームの大会を行う予定であること、などである。

また、この日の議論——CFOの二刀流とネットワーク理論——が、参加者の一人が連載している日本CFO協会のブログで翌月中旬ごろに記事化される見込みであることも共有された。彼女は3月16日付で、この勉強会で扱われた思考法をテーマにした記事をすでに掲載しているという。主宰者は「ここでやったことが1か月後に記事になって出る」と応じ、双方が謝意を述べて会は終了した。

Q&A

質疑応答(このテーマに属する全件)

このリガクという会社を知っている人はいるか。(主宰者から参加者へ)
参加者の一人が「知っている」と応じた。別の参加者は「23年ほど前に転職エージェントから紹介されたことがある。ただ場所が昭島だったので、遠すぎると思って断った」と述べた。これに対して持ち込んだ参加者が「コーポレート機能は新宿にある。自分の知り合いは全員そちらのオフィスにいる」と補足し、上場後に体制が変わった可能性が示唆された。
(主宰者が概要の確認として)分析機器メーカーから半導体製造装置メーカーへの転換が起きようとしていて、HBMの世代が進むときにX線での検査が理にかなう、次世代のGPU基盤で大きな市場を取るのではないか——という概要でよいか。
そのとおりである、と持ち込んだ参加者が確認した。
X線検査の市場でリガクのシェアはどのくらいか。4割程度か。
もっとある、という回答。具体的な数値は場で確定していない。
中国の競合はどこか。(人材流出・競合の指摘を受けて)
一つはユニコンプ。もう一つは社名が確定できず、「丹東」の名を含む企業として説明された。いずれも似た製品を手がけており、廉価版の装置を量産している段階だという。中国側ですでにリガクの社名を出す形で発表が行われているとのことだった。
技術者が中国に取られている、ということか。
そう。アカデミア出身者や日本人技術者が、破格の条件で引き抜かれている。そのニュースは中国側ですでに出ている。
(持ち込んだ参加者から)知り合いの投資家もこの銘柄を買っている。
別に構わないと思う。自分も株価は上がると思っている。ただし今日指摘したような論点を理解したうえで持っているかどうかは別問題である。(持ち込んだ参加者は「株価がどうこうという話ではなく、その辺りを自分も調べて議論を仕掛けてみる」「レポートを書いた本人にメールで聞いてみる。返事があるかは分からないが」と応じた。)
(持ち込んだ参加者から)今後、会社の技術部門の責任者も表に出てくるらしく、投資家と一緒に訪問したいと考えている。同行してもらえないか。
構わない。ただし自分が行くと辛辣なことを言ってしまうため、相手の評判に傷がつく可能性がある。また、まともに答えられない経営者が出てくると危ういので、相手を見る必要はある。(持ち込んだ参加者は「あえて前段階で整えておく」と応じた。)
宿題・アクションアイテム

持ち帰るべき課題

  1. レポートを読むときは「書かれていないこと」を列挙する。 この回で実演された6項目——転換に伴うコスト、競合、人材、サプライチェーン、代替技術、稼働率などの実行指標——を、他の銘柄レポートを読むときのチェックリストとして使う。
  2. 自分の問いの立て方にバイアスがないか点検する。 「どう取るか」から入ると「何が起こりうるか」が見えなくなる。案件に関わる前に、自分が何を前提に置いているかを言語化しておく。
  3. 優れたレポートの書き手に直接連絡を取る。 持ち込んだ参加者が会の中で宣言した行動。読んで終わらせず、書き手に問いを返す。
  4. リガクの資金調達と稼働率を追う。 転換コストをフリーキャッシュフローで賄えるのか、どういう調達を行うのか。稼働率の推移がKPIとして開示されているかを確認する。
  5. 会の運営連絡。 翌週月曜のZoom後にリーダーミーティング。5月開催のエキスポは参加メンバーを引き続き募集中。4月11日に集まりを予定。
用語集

この回に出てきた用語

MBO
マネジメント・バイアウト。経営陣が投資ファンド等と組んで自社株を買い取り、非上場化する手法。
ハングオーバー
大株主が将来売却してくるという見通しが、現在の株価を押さえつけている状態。オーバーハングとも呼ばれる。
XRD/XRF
X線回折装置と蛍光X線分析装置。前者は結晶構造の解析、後者は元素組成の分析に用いる。
HBM
高帯域幅メモリ。DRAMを積層して広帯域を実現したメモリで、AI向けGPUの性能を左右する。世代が進むほど積層構造が複雑になる。
SiC(炭化ケイ素)
シリコンより高温・高電圧に耐える半導体材料。パワー半導体の次世代材料として採用が進む。
X線管球
X線を発生させる真空管。消耗品であり、高出力運転では寿命が短くなる。サプライチェーン上の急所になりうる。
スポンサード・リサーチ
対象企業が費用を負担して作成される調査レポート。利益相反が構造的に生じる。
稼働率
生産設備がどれだけ使われているかの比率。固定費の回収度合いを通じて営業利益率に直結する。