HBMに必要な企業を挙げよと言われて「ノーリサーチでした」と答えた参加者への、答え合わせとして始まった回。マイクロンが量から質へ位置をずらした戦略と、その製造を支えるラムリサーチのビジネス設計、そして最後に突きつけられた地域別売上構成というリスクを扱う。
この日の後半は、参加者からのリクエストに答える形で始まった。HBMで儲けた話が出た流れで、講師が「HBMに必要な会社としてラムリサーチが絶対的に重要だ」と振ったところ、「ラムリサーチはノーリサーチでした」という返答があった。そこで急遽、マイクロンとラムリサーチを取り上げることになった、という経緯である。
話の構成は三層になっている。第一層はメモリ市況の構造変化で、かつて景気に左右されるボラティリティの高い産業だったメモリが、データセンター需要によって恒常的な増産局面に入ったという整理。第二層がマイクロンで、量産で戦うSK hynixとサムスンに対し、冷却と省電力を武器に高単価品へ位置をずらした戦略が説明される。そして第三層が、そのHBMを物理的に作るために不可欠な製造装置として、ラムリサーチの技術とビジネスモデルが解剖される。
最後に講師は、自分の話を鵜呑みにするなという形で宿題を出した。ラムリサーチの地域別売上構成比率を見ろ、そこにリスクが見える、と。この一言で議論は米中の分断リスクへ折り返し、東京エレクトロンの構成比、CXMTの上場、ファーウェイの新方式へと広がっていった。
装置メーカーの競争力は、装置の性能そのものより顧客が買い替えられない時期をどう設計するかにある。ラムリサーチは消耗品・アップデート・運用最適化という三層のアフターサービスによって、半導体業界の設備投資サイクルの谷でも収益が途切れない構造を作った。それは前レポートで扱った「ルーティンを変化させる」という話の、実装例として読める。
講師はまず、メモリ需要の性質が変質したことを確認した。従来メモリは景気に強く左右される、ボラティリティの高い産業だった。パソコンが売れない時期、携帯電話が売れない時期には、そのままメモリが売れない。ところが現在は、データセンターがいくつあっても足りない状態になっており、恒常的に増やす前提に変わっている。ピック&ショベルの発想でいえば、AIの勝者を当てるのは難しくても、データセンターが膨らめばメモリの需要が増えることは確かだ、という論理である。
HBMで最も進んでいるのはSK hynix、次いでマイクロン、サムスンという順序が確認された上で、講師が論点として置いたのはマイクロンの評価がいつ変わったかだった。答えは2025年12月で、このとき事業ポートフォリオを再編したという。講義での説明は「SSD事業からの完全撤退を発表し、すべてのリソースをHBMやDRAMへシフトした」というものである。AIインフラ市場へリソースを再配分したことを市場が評価した、と整理された。
マイクロンが2025年12月3日に発表したのは、コンシューマー向けブランド「Crucial」からの撤退である。2026会計年度第2四半期末(2026年2月末)までに世界的に縮小し、その供給を戦略的な大口顧客へ振り向ける、という内容だった。SSD事業そのものからの撤退ではなく、エンタープライズ向けSSDとDRAMはMicronブランドで継続される。
つまり撤退したのは消費者チャネルであって製品カテゴリーではない。講義の「SSD事業を完全に撤退」という表現は、公開情報とずれている。ただし「リソースをデータセンターとHBMへ再配分するポートフォリオ転換だった」という解釈の骨格は、同社のプレスリリースの説明("portfolio transformation")と一致する。
講師がこの日、最も時間をかけたのがマイクロンの戦略の位置づけだった。使われた比喩はこうである。SK hynixとサムスンはHBMというハンバーガーを売っている。同じ土俵で肉の質を競っても勝てるか分からない。ならばハンバーガーをやめて、1個1万円の高級ステーキの店になればいい。これがマイクロンだ、という説明である。講師はこれを自身が繰り返し語っている「位置をずらす戦略」の実例として提示した。
ずらした先の争点は二つある。熱と電力である。サムスンやSK hynixが直面している問題を両方解決してしまえばいい、という発想で、発熱を抑える冷却と、消費電力を30%抑える省エネを同時に狙う。さらにマイクロンはDRAMとNANDの両方を持ち、最先端レベルの製造ができる。AIの高速処理に必要なHBM(中身はDRAM)と、膨大な学習データを蓄積するSSD(NAND)の両方を一社で持つため、丸ごと最適化してデータセンターに投入できる、というのが強みだと整理された。
SK hynixは先行者として量産で押し、サムスンは設計から製造まで統合して作る。講師の見立てでは、SK hynixは大量生産型であるため当分崩れない。
マイクロンは量では勝負しない。生産能力は現時点でそこまで大きくなく、量産へ移ろうとはしているが追いついていない。そのぶん単価と付加価値で戦う。
収益性については「利益率が60%くらい出ている」という数字が挙げられた。また技術面では、TSMCとの関係の近さが強調された。NVIDIA、Google、AMDのチップはほとんどTSMCで作られており、マイクロンもその規格に合わせて作れるため、本体チップと組み合わせたときにエラーが起きる確率が低い。さらに特許数はSK hynixの2倍あり、その中でも突出しているのが冷却技術だという。
マイクロンの2026会計年度第2四半期(発表は2026年3月)は、売上高238.6億ドル、粗利率74%。前年同期の37%から倍増している。前四半期の売上は136.4億ドル、前年同期は80.5億ドルで、四半期フリーキャッシュフローは69億ドルと過去最高を更新した。第3四半期のガイダンスは粗利率81%、非GAAP EPS 19.15ドル(±0.40)である。
したがって、この勉強会が行われた2026年5月27日の時点で公表されていた直近実績は74%であり、講義中の「60%くらい」は実態より低い。営業利益率や別の期間を指した可能性はあるが、会話の文脈からは粗利率を指していると読める。数値としては食い違いがある。
講師がもう一つ重視したのは、マイクロンがアメリカ企業であるという点だった。アメリカは製造を国内に持ってきたいが、自国にないから台湾に、韓国に、日本に頼んでいる。その中でマイクロンは安全保障上のインフラ企業として扱われ、公的な支援が厚い。直接の補助金が60億ドル決まっており、低利融資や税額控除も含めれば、政府・自治体から200億ドル、日本円で約3兆円が入っている、という数字が挙げられた。
その資金の使い道として説明されたのが、研究開発と量産を統合した複合ファブである。従来は別々だった機能を一つの施設にまとめ、コストをパッケージ化する。この施設は昨年10月から稼働しており、NVIDIAやGoogleからも高く評価されている、という話だった。
CHIPS法に基づく直接補助金は最大61.65億ドルで、ニューヨーク州とアイダホ州の工場建設に充てられる。講義の「60億ドル」はこれと整合する。ニューヨーク州は事業期間を通じて最大55億ドルの州インセンティブ(5%の投資税額控除)を用意している。ただし「政府・自治体から合計200億ドル」という数字は、公開情報で裏取りできなかった。要確認
研究開発と量産の同居については、アイダホ州ボイシの新工場(ID1)が同社のR&Dセンターと同一敷地に置かれ、技術移管の遅れを減らして製品化までの時間を短縮する設計であることが公表されている。しかし稼働時期は一致しない。ID1の着工は2023年10月、ウェハ出荷の開始は2027年後半の見込みとされており、「昨年(2025年)10月から稼働している」という発言とはずれる。着工時期(2023年10月)との混同か、既存のボイシR&D拠点を指した可能性がある。
ここで話がラムリサーチに移る。講師の立て方は明快だった。HBMという製品はSK hynixやサムスン、マイクロンの社内だけで完結するわけがない。必ずどこかの技術を使っている。では高度なHBMを作るために最も貢献している企業はどこか、という問いである。
シリコンウェハを積み上げていく工程は、大きく三つに分けて説明された。
| 工程 | 内容(講義での説明) |
|---|---|
| デポジション(成膜) | まっさらなシリコンウェハの上に、材料となる薄い膜を隙間なく綺麗に貼る作業 |
| リソグラフィ(露光) | 特殊な光を使って、削る場所と残す場所という回路設計を膜の上に焼き付ける |
| エッチング | 設計図のうち不要な部分を、特殊なガスや薬剤でピンポイントに削り落とす |
このうち成膜とエッチングを提供しているのがラムリサーチである。そして講師が強みとして挙げたのが、垂直に削る精度だった。HBMは現在8層、12層、16層と積層されており、ビルにたとえれば12階建て、16階建てを建てて、それを垂直に一気に切っていくような加工になる。今後50層、100層、200層と伸びていけば必ずずれが出る。そのずれない技術を持っているのがラムリサーチだ、という説明である。研磨をする企業はいくらでもあるが、HBMに特化して垂直に削れることが違いだという。
さらに、削ればゴミが出る。その瞬間に製品は使い物にならなくなるため、クレンジングや研磨、歪みの修正までをラムリサーチが一貫して監視している、という話が続いた。
HBM4をめぐる技術論として、講師は接合方式の限界を挙げた。従来はDRAMのチップとチップの間にマイクロバンプと呼ばれる微細な柱を挟んで熱圧着していた。HBM3Eまではこれで対応できたが、HBM4ではデータを送る接続点の数が従来の2倍以上になり、間隔が狭すぎて物理的に柱を置けなくなる。そこで柱を使わずに接着するハイブリッド接合が必要になり、エッチングによってそれを実現する技術はラムリサーチにしかない、というのが講師の主張だった。中国のCXMTがHBM3Eまでしか作れていないのも、この壁が理由だと説明された。
この論点は、講義後の業界動向と食い違っている。2026年1月のJEDECの決定により、HBMのパッケージ高さ上限が720µmから775µmへ引き上げられた。この45µmの余裕によって16段のHBM4を従来のマイクロバンプで組み立てられることになり、ハイブリッドボンディングの採用はHBM4EおよびHBM5へ先送りされた。HBM4のパッドピッチは10µm前後で、現行手法がまだ経済的に成立する水準にある。SK hynixはHBM4Eについても775µmの上限を理由にMR-MUF(従来方式)の継続を表明している。
したがって「HBM4では物理的に柱が置けず、ラムリサーチのハイブリッド接合技術が必須になる」という講義の説明は、2026年5月時点の見通しとしては共有されていたが、その後の規格判断によって前提が変わっている。ハイブリッドボンディング自体が不要になったわけではなく、必要になる時期が後ろにずれた、という理解が正確である。この差は、装置メーカーの需要が発生するタイミングを見積もる上で重要な意味を持つ。
講師がこの会社で最も評価したのは、装置そのものではなくビジネスモデルだった。ラムリサーチがすごいのは金を巻き取る力であり、その正体はアフターサービスである。自動車で説明された三層構造は次のとおりである。
| 層 | 内容 | 自動車での比喩 |
|---|---|---|
| 消耗品 | エッチングはプラズマやガスで毎日削る作業なので、部品が確実に劣化していく。そこに純正パーツを供給し続ける | ブレーキパッド、エンジンオイル、オイルシールを純正に切り替える |
| アップデート | 工場が新しいものを作りたくなっても、新しい装置を買わせない。今ある装置を自社でアップデートし、次世代品に対応させて使い続けさせる | iPhone 15を持ったまま16の性能を出せますよ、と言われたら使い続ける |
| 運用最適化 | 装置の動きをどう最適化するかまで提供する。曖昧だった地図を精密な地図に置き換え、再現性の高いデジタルツインまで含めて定額でサポートする | 地図アプリが精度を上げ続けて、目的地への最短経路が改善されていく |
そして講師が示した数字が、アフターサービスだけで売上高の約3分の1を占めるというものだった。この設計の意味は、半導体業界が波のある業界だという点にある。景気が悪く資金がなければ、顧客は新しい装置を買えない。しかし新装置を買わなくても自社製品をアップデートできるなら、そのまま使い続けてもらえる。結果として収益が安定する。装置を売り切るのではなく、売った後の関係を設計しているという話である。
ラムリサーチのCustomer Support Business Group(CSBG)は、2025会計年度に69.4億ドルの売上を計上した。同年度の全社売上は184.4億ドルで、比率は約37.6%。講義中の「売上の3分の1くらい」という発言は、むしろ実態よりやや控えめな表現だった。この部門は装置の設置台数(インストールベース)に紐づくため、設備投資サイクルの谷でも収益が落ちにくいという講義の説明は、この構成比によって裏づけられる。
日本の対抗馬として東京エレクトロンが挙げられた。技術の中身は超低温領域で特殊なガスを使うエッチングで、多層プロセスにおいてエッチング速度が2.5倍速いとされる。加えて低温であるためCO2削減が80%以上可能だという。講師の表現では「今かなりラムリサーチに喧嘩を売りに行っている」状態である。
PART 5ここで講師は議論を反転させた。「この会社、間に受けないでください。僕の話も。一つ問題点がありますから。売上の構成比率を見てください、地域の」。そこから参加者が調べながら答えていく展開になる。中国の比率が高いこと、そして韓国・中国・台湾で合わせて8割近くを占めていることが確認された。
ラムリサーチのFY2025(2025年6月期)における地域別売上は、中国34%(62.05億ドル)、韓国22%(41.28億ドル)、台湾19%(34.45億ドル)で、三地域の合計は75%。講義中の「8割近く占めている」はやや大きめの表現で、参加者が推測した「6割、7割」よりは高いが、8割には届かない。
また、参加者が「中国はAI(推計)で35%くらい」と述べたのに対し講師が「実際はそこまではない」と応じた場面があるが、公開値は34%であり、参加者の推計のほうが実態に近かった。地政学リスクという結論そのものは変わらないが、数字としてはこの点を記録しておく価値がある。
参加者からは、東京エレクトロンも同様に中国が4割あるという報告が入った。日本国内が9.2%(最新では8.1%)で、海外が90%。韓国21%、台湾13.3%を足すと、中国・韓国・台湾で74%になる。同社は懸念を認識しつつ、中国向けにはレガシー(旧世代)製品を出していると説明しているという。
この流れで、インドのモディ首相が来日した際に技術移転を要請し、政府も合意しているにもかかわらず、東京エレクトロンのインド工場誘致が2年間ほとんど進んでいない、という話が参加者から出た。中国の意思決定の速さとの差を感じる、という感想である。また日本勢としてキオクシアの評価が上がってきていることにも触れられ、HBMだけでなくSSD領域にも食い込んでおり、8年前には「ただのメモリ屋」と半導体業界内で軽んじられていたのが様変わりした、という話が交わされた。
キオクシア:講義で「日本で時価総額4位くらいまで上がっている」と語られたが、その後さらに上昇し、2026年6月12日には時価総額が44兆円を超えてトヨタ自動車を抜き、国内上場企業で首位となった。6月16日時点では約51.7兆円。ベインキャピタルは2026年7月9日に全株売却を明らかにし、2018年の買収以来8年間の投資を終えている(推定利益は約150億ドルと報じられた)。その後、賠償評決やAI関連株の調整を受けて株価は急落する局面も経験している。
SK hynixとサムスン:講義では「サムスンが1.3兆ドル、SKが1兆ドルで、下手するとSKがサムスンを超えるかもしれない」と語られた。実際に2026年6月22日、SK hynixの時価総額がサムスン電子を上回り、韓国取引所で25年以上ぶりに首位が入れ替わった(ただし2営業日後の6月24日にサムスンが首位を奪回)。またサムスン・SK hynix・マイクロンの三社は2026年5月に揃って時価総額1兆ドルを突破している。講師の見立ては方向として当たった。
CXMT:質問者が「6月末にIPOする」と述べた中国のHBMメーカー(長鑫科技)は、実際には2026年7月27日に上海STAR市場へ上場し、初日に約466%上昇。調達額は579億元(約85.5億ドル)、終値ベースの時価総額は約3.3兆元に達した。
終盤、前田氏が問題提起をした。「ボトルネックにかかるところが話に出ていたのに、皆さんはボトルネックをあまり語らず、いいところばかり語るのが気になる」。挙げられたボトルネックは熱の処理と、メモリとロジック間でデータをやり取りする際の遅延である。この遅延を減らすために距離を縮める必要がある。
なぜ性能で上回るとされるサムスンではなくSK hynixが真っ先に使われるのか、という問いに対して、講師は歩留まりを挙げた。サムスンはファウンドリの歩留まりが悪く、20%ほど差がある。またロジック部分について、サムスンは自社でやるがマイクロンはTSMCのものを使うため、その分性能が高いと言われる。企業間の関係値まで見ないと株式分析は難しい、という結論だった。
マイクロンの技術についてもう一点、講師は「露光装置がいらない技術を持っている、EUVの設計のところで」と述べ、技術的にはかなり突出していると評価した。
マイクロンは長らくDRAM製造にEUV露光を使わず、ArF液浸によるマルチパターニングで先端世代を実現してきたことで知られる。ただし1γ(1-gamma)世代からEUVの導入を進めており、「EUVがいらない」というのは過去から現在にかけての相対的な特徴であって、恒久的な方針ではない。講義中の表現は文脈上「EUVへの依存度が低い」という意味に読めるが、今後も不要という含意で受け取ると誤る点に注意が必要である。
参加者から、前日のロイター報道としてファーウェイの発表が共有された。従来のチップ設計戦略を変え、新しいやり方で世界最先端に相当する水準を目指す計画で、製造は中国のファウンドリであるSMICが担うのではないか、という推測が添えられた。SMICは子会社を通じてファーウェイと連携しており、最近も別のファウンドリを買収して規模を拡大している、という補足もあった。講師はこれを「BYDとCATLのような関係」と表現している。前田氏は「ファーウェイは研究ではなく商用実装まで持ってくる会社だ」と述べ、講師も「上場したら最も価値が出るのはファーウェイだと思っている」と応じた。
ファーウェイが上海のシンポジウムで公表したのは、2031年までに1.4nmプロセス相当のトランジスタ密度を実現するという計画である。手法は微細化そのものではなく、信号伝搬時間の短縮に焦点を当てた「Tau(τ)スケーリング則」という新しい設計原理で、論理回路を折り畳んで積層する「LogicFolding」を2026年後半のKirinチップから導入するとしている。これによりトランジスタ密度を55%、電力効率を41%改善するという主張である。
会話中の「1.47ミクロン」は明らかに1.4nmの言い間違いであり、ここでは訂正して扱った。一方で二点、公開情報と差がある。時期は「2020年代末まで」ではなく2031年。中身も「1.4nmプロセスでの製造」ではなく「1.4nm相当の密度を設計手法で達成する」という主張である。製造をSMICが担うという点は、この発表では確認できなかった。要確認