The Boring Company (TBC) への投資提案を受けたマイキーが、技術・規制・人的リソースの多角的分析で投資家をロンパ(論破)した実例から、非市場戦略の重要性を学ぶ。
冒頭、マイキーは近況を共有した。たまたま1時間の空き時間ができたとき、PS5でディズニープラスを観ようとしたところ「鬼者」の新作を発見し、0.1秒で購入を決断したという。直近の生活は壮絶で、前回の土曜勉強会から水曜日までの合計睡眠がわずか8時間。昼12時から深夜24時まで面談を続け、YouTube撮影、メディア取材、海外案件、講義、個別相談をこなす日々だった。
それでも4月8日から11日はFF7リベレーションの発売日に充てるため、全仕事を断ると宣言しており、海外の関係者全員に「この期間に連絡したらぶち殺す」というメッセージを送信済みだという。週明け月曜日には小山さんの依頼で登壇イベントに参加する予定だが、プレゼン資料はタクシーの中で作成する方針で(前回は本番15分前に作ったとのこと)、他の登壇者の持ち時間を削って「マイキーさんに喋らせろ」という指示が出ているという異例の扱いだった。
マイキーのもとにVC(ベンチャーキャピタル)経由でThe Boring Company(TBC)への投資話が持ち込まれた。投資家が説明したTBCの価値提案は、トンネル掘削における2つの根本的課題を解決するというものだった。
従来のトンネル掘削方式は極めて非効率だ。まず地上から縦穴を掘り、そこに重機を降ろし、少し掘ってはコンクリートで固め、また少し掘って固めるという作業を繰り返す。工事が完了したら重機を分解して地上に引き上げなければならず、時間もコストも膨大にかかる。
TBCが開発した掘削機「Prufrock(プルフロック)」は、この工程を根本から変える設計だ。地表から斜めに進入(「ポーポイジング」と呼ばれる手法)し、前方で岩盤を掘削しながら後方で同時にコンクリートを固めていく。1本の連続した動作でトンネルが完成するため、従来の「掘る→止まる→固める→掘る」のサイクルが不要になる。投資家は「1日で7マイル(約11km)掘れる」「自動化によって人手も不要」と説明した。
Prufrock MB1は15.5インチのディスクカッターを搭載し、斜め進入・退出(ポーポイジング)を実現した。2026年4月にはMB2がナッシュビルでテスト完了しており、MB1比15%の出力向上と17インチカッターへの大型化が報告されている。ただし「1日7マイル(11km)」はTBCの目標値であり、公開された実績値ではない点に注意が必要だ。 要確認
マイキーの最初の反撃は、技術の素晴らしさを一切否定せずに核心を突くものだった。「掘った土はどうなるんですか?」というシンプルな問いだ。
理論上、均一な地層であれば高速掘削は可能かもしれない。しかし実際の都市部の地下には水道管、高圧電力ケーブル、下水道、ガス管など無数のインフラが埋設されている。自動化(AI制御)の掘削機がこれらの地下構造物に衝突すれば、断水・停電・ガス漏れなど都市機能が停止するリスクがある。まさに「街中で掘る」からこそ人間の目視確認が不可欠であり、完全自動化には限界があるという指摘だ。
しかしマイキーが「最重要の問題」として挙げたのは、掘削速度そのものではなく、掘り出した土を地上から搬出する速度だった。アメリカの都市部では環境規制によりダンプトラックの台数が厳格に制限されている。いくら地下で高速に掘削しても、排出した土砂を処分場に運ぶためのトラック台数に上限がある以上、全体のスループットはそのボトルネックに規定される。ベルトコンベアで地上に出すにしても環境基準を満たす必要があり、掘削速度の革新だけでは工期短縮にならない。技術的ブレークスルーに見えるものが、実は規制というまったく別次元の制約によって無効化されるという構造的問題だった。
投資家が「実際にできています」と主張したベガスループについて、マイキーはさらに掘り下げた。たしかにベガスのラスベガス・コンベンションセンター(LVCC)周辺のトンネルは完成した。しかしその建設過程では深刻な安全問題が発生していた。コンクリートの急速硬化に化学薬品を使用した結果、作業員が薬品を浴びて大火傷を負い、TBCは多額の賠償金を支払う事態となった。ネバダ州の安全当局(OSHA)からも問題が指摘されている。
ネバダ州OSHAはTBCに対し約40万ドルの罰金を科したが、ロンバルド知事の政治的介入により罰金は取り消された。この決定は2026年2月時点で連邦レビューの対象となり、議論が継続している。またテキサス州バストロップの施設では2022年に環境規制違反が5件確認されている。消防士が化学薬品で負傷する事故も記録されており、マイキーの「賠償金を大量に支払い」という指摘は事実と整合する。
マイキーがこの問題を追及すると、投資家は話題をドバイに切り替えた。ドバイならトップダウンの意思決定で規制が緩いから実現可能だ、と。しかしマイキーはこれを「アメリカでの規制問題への回答になっていない」と一蹴した。ドバイで成功してもアメリカ国内の排土規制や安全規制は1ミリも変わらない。
実際、TBCがアメリカ国内で発表した主要プロジェクトはほぼ全てが頓挫していた。シカゴのダウンタウンからオヘア空港を12分で直結する計画は2021年に完全白紙化。ロサンゼルスのハイウェー405とドジャース・スタジアムを結ぶ計画は住民反対で中止。メリーランド州からワシントンDCへの路線、サンアントニオの計画もすべて頓挫。唯一「完成」と呼べるのはベガスのみで、それも総延長わずか3.5km(2.2マイル)に過ぎず、当初計画の68マイル・104駅構想に対して拡張ペースは年間わずか1.25駅に留まっている。
| プロジェクト | 内容 | ステータス |
|---|---|---|
| ベガスLoop | LVCC周辺 9駅・3.5km | 稼働中(拡張停滞) |
| ドバイLoop | DIFC〜ブルジュハリファ 4駅・6.4km | 建設中(2027年開業予定) |
| ナッシュビル | Prufrock MB2テスト | テスト中 |
| シカゴ | ダウンタウン〜オヘア空港 12分直結 | 2021年 白紙化 |
| ロサンゼルス | HW405・ドジャースタジアム接続 | 住民反対で中止 |
| DC-ボルチモア | 都市間高速トンネル | 2021年 ウェブサイトから削除 |
| サンアントニオ | 市内トンネル | 2022年選定後 ゴースト化 |
| フォートローダーデール | 市内トンネル | 2022年12月 停止 |
マイキーの分析はさらに組織と人に向かった。TBC社長のスティーブ・デイビスは、SpaceXやxAIなどイーロン・マスクの他事業に顔を出しまくっており、ボーリングカンパニーの経営にフルコミットしていないという。イーロン・マスク自身もAI、データセンター、自動車(テスラ)、ロボティクスといった領域に関心と時間を集中させており、TBCは優先順位の低い「放置事業」と化している。
Steve Davisは2003年にSpaceXに入社し、粒子物理学と航空宇宙工学の修士号2つに加え、金融と機械工学の学位も保持する。2019年11月からTBC社長を務めるが、2025年以降はDOGE(政府効率化部門)にも関与していることが確認されており、マイキーの「ボーリングカンパニーをほったらかしにしている」という指摘と整合する。
特に注目すべきは、イーロン・マスクがVCに対して出した投資条件だった。第一に「州政府・地方政府の役人に会わせて規制交渉をさせろ」、第二に「エンジニアの採用を手伝え」、そして「これらの条件を満たせなければ株を買い取れ(返せ)」というものだ。これは裏を返せば、TBC自身に非市場戦略(政府との交渉力)と人材獲得力が不足していることをマスク自身が認めている証拠でもある。
マイキーはこの条件を踏まえて、投資を持ちかけてきたVCの実力を測った。結論として、そのVCには50州にまたがる規制突破能力も、ハイレベルなエンジニアの紹介ネットワークも感じられなかった。アメリカは州ごとに道路交通法や建設規制がすべて異なる。50州それぞれの規制当局と交渉して許認可を取得するのは短期間では到底不可能であり、これこそがTBCのスケーリングを阻む本質的なボトルネックだとマイキーは断じた。
TBCにはファウンダーズファンド(ピーター・ティール)、セコイア・キャピタル、8VC、ブルックフィールド、クラフトベンチャーズなど一流VCが投資している。しかしマイキーはこれを額面通りには受け取らなかった。これらの著名投資家がシリーズB(2019年)の段階で既に入っているにもかかわらず、規制問題は一切解決されていない。ピーター・ティールのネットワークと政治的影響力をもってしても、50州の規制突破には至っていないという事実がある。
マイキーはコミットメントペーパー(出資条件書)も知人経由で入手し、詳細を確認していた。調達額の推移と評価額の膨張を見れば、VCのバリュエーション(評価額)ゲームとしての側面が強く、実事業の収益性や実現可能性とは乖離が大きいと判断した。
マイキーの最終結論は「見送り」だった。TBCは現状まだアーリーステージレベル(シリーズC〜D程度)に過ぎず、技術の実証も規制の突破も道半ばだ。マイキーはレイトステージ(事業が軌道に乗り収益化の見通しが立った段階)での投資の方が確率性が高いと考えており、現時点でのリスクリターンは合わないと判断した。
マイキーが勉強会で言及した「評価額200億ドル」は収録時点での推計値だったが、2026年9月にUAE主導のシリーズDで30億ドルを調達し、評価額は230億ドル($23B)で確定した。マイキーの推計値との食い違いは約15%だが、方向感としてはほぼ正確だった。なお、UAE主導の資金調達はドバイプロジェクトと連動しており、マイキーが指摘した「規制が緩い国に逃げる」パターンとも整合する。
TBCの分析を終えた後、マイキーはイーロン・マスクが関わる主要企業について横断的な評価を展開した。各事業の本質的な競争優位と投資判断を、非市場戦略と実現可能性の軸で切り分けた。
SpaceXは政府予算(NASAや国防総省)を安定的に吸収できるビジネスモデルを持ち、ロケット開発の参入障壁は極めて高い。競合がゼロから追いつくには10年単位の時間と数兆円の投資が必要であり、構造的な「堀」が存在する。マイキーはSpaceXを明確に「投資する価値あり」と評価した。
低軌道衛星通信網のStarlinkも高く評価された。通信インフラとしてのポテンシャルに加え、2024年に黒字化を達成した実績がある。収益化への道筋が見えており、マイキーは投資意欲を示した。
脳-コンピュータインタフェースのNeuralinkに対しては条件付きの評価だった。「自分が生きている間に完全な実用化が可能か疑問」としつつも、評価額の上昇を狙って途中で売り抜ける前提なら投資する、というスタンスだ。FDAが臨床試験を進めている事実は認めつつ、もしこれが中国企業であれば規制のハードルが低いため、より積極的に投資すると述べた。
本セッションの主題であるTBCについて、マイキーは技術自体は面白いと認めた上で、非市場戦略の弱さが致命的だと結論づけた。もしアルテミス計画や火星探査での地下基地建設など、宇宙でのトンネル掘削という明確なビジョンが示されていれば評価は変わったかもしれないが、そうした戦略は提示されなかった。
マイキーは最後に「イーロン・マスク・プレミアム」という概念に触れた。イーロン・マスクの名前がつくだけで顧客やパートナーが動き、メディアが取り上げ、人材が集まるという名前の価値は否定しない。バリュエーションを引き上げる材料としては有効だが、それが実事業の収益と結びつくかどうかは別問題だ。名前のプレミアムで株価が上がっても、事業として利益を生まなければ最終的には評価は修正される。
SpaceXは2024年末時点で評価額が3,500億ドルを超え、未上場企業として世界最大級の評価を受けている。Starlinkは2024年に黒字化を達成し、衛星通信市場で圧倒的なシェアを確立した。Neuralinkは2024年1月にヒト初の脳インプラント手術を実施し、FDA承認のもと臨床試験が進行中だ。TBCの設立は2017年1月11日で、元はSpaceXの子会社だったが2018年に独立した。創業のきっかけについてマイキーが述べた「渋滞にキレて思いついた」という話はほぼ正確で、2016年12月にマスクがLA渋滞にうんざりしてツイートしたのが始まりだ。
参加者から「さっきの掘削技術は鹿島建設のシールドマシンで既にあるのではないか。削りながら外壁を作る技術だ」という質問があった。マイキーはこれに対し、シールドマシンで前方掘削と外壁施工を同時に行う技術は既に存在すると認めた上で、TBCの「ポーポイジング(斜め進入)」は確かに新しい要素だと補足した。しかし繰り返し強調したのは、本質的な問題は掘削技術の革新性ではなく、排土規制という非市場要因であるという点だった。
「ボーリングカンパニーの評価額200億ドルのベースは何か?」という質問に対し、マイキーはAI技術などのトレンドに乗ったマルチプル(倍率)を絡ませた評価手法が使われていると指摘した。掘削技術単体のロジックでは200億ドルという評価額は正当化できず、あくまで将来ビジョンに基づいた評価だと説明した。
マイキーは最後に参加者への宿題を出した。金曜日に予定されているイーウェル社長との面談に向けて、今回のTBC分析で見せたような深掘りリサーチと質問力を準備するよう求めた。証券会社のアナリストレポートに書いてあるような「売上はいくらですか」「利益率は?」といった数字を聞くだけの質問ではなく、その企業の物語(ナラティブ)を引き出す質問を用意せよという指示だ。企業のトップと直接対話できる機会は極めて貴重であり、その場を最大限に活かすためには、事前の徹底的なリサーチ、業界知識の蓄積、そして本質を突く質問力が不可欠だと強調して勉強会を締めくくった。