なぜここ数か月、半導体製造装置とデータセンターの仕組みばかり教えてきたのか。株が上がったのはおまけで、本当の狙いは別にあった――という種明かしの回。
講師はこの日、ずっと保留してきた質問に答えると宣言した。ここ数か月の勉強会でデータセンターの仕組みや半導体製造装置を執拗に扱ってきたのは、目先の株で儲けさせるためではなく、次に来る量子コンピューティングの局面で企業を選別できる土台を作るためだった、という種明かしである。同時に、その姿勢を実演する形で、参加者が持ち込んだコーニングのセグメント分析が丁寧に添削された。技術の仕組みを理解してから企業を見る、という手順そのものがこの回のテーマである。
開始前の雑談は、直前に起きた二つの相場の出来事から始まった。一つはニューヨーク州がデータセンターの建設を止めにかかっているという話である。参加者からは、十一月の選挙で民主党が勝ち進めば州ごとにデータセンター建設が止められる状況が出てくるのではないか、という懸念が出された。これに対して講師は、政権を握っているのは共和党であり、いま建設を止めたら中国に負けるという国家安全保障上の力学が働くので、民主党はデータセンターそのものを止めるよりも化石燃料からクリーンエネルギーへの転換を押してくるのではないか、と見立てを述べた。ただし最大のネックは雇用だという点では両者一致しており、日本で原発が身近に建設されるとなれば誰もが反対するのと同じ構図だ、という比喩が添えられている。
公開情報では、2026年7月14日にニューヨーク州のキャシー・ホークル知事が行政命令(EO #62)を発し、50メガワット以上のデータセンターに対する裁量的な環境許可について一年間のモラトリアムを課している。全米初の州単位でのハイパースケール・データセンター建設停止であり、州議会も「Responsible Data Center Development Act」を可決している。当初案は三年以上のモラトリアムだったが一年に短縮された経緯がある。つまり参加者の懸念は、この講義の前日に現実の政策として形になっていた。なお主導しているのは民主党のホークル知事であり、争点が電力料金の転嫁・環境影響・水使用にある点も、講師が挙げたエネルギー軸の予測と重なる。
もう一つはIBMの急落である。講師は「IBMが20%下がるとは思わなかった」と率直に驚きを述べ、テスラが20%下がるのはまだ分かるが、ボラティリティの高い会社だと思っていなかったのでショックだ、と語った。まだ自分でリサーチしきれていないと断ったうえでの仮説として、インプットコストが上昇したことでIBMに対するコスト・アロケーションが削られているのではないか、限られた予算をメモリやそちらの側に割かねばならず、緊急性の低いものへの配分が落とされているのではないか、と述べている。同時期にSKハイニックスも米国でのADR発行に伴って二割ほど下げており、そちらは株式の希薄化という説明がつく分、感覚的に理解できるという対比が語られた。
公開情報では、IBM株は2026年7月14日に25%超下落しており、これは日次の記録が残る1968年以降で最大の下落率とされる。第2四半期の暫定業績が市場予想を下回ったことが引き金で、売上高見通しは約172億ドルと市場予想を6.6億ドル下回った。時価総額にして約670億ドルが消失した計算になる。アービンド・クリシュナCEOは、顧客の支出がメモリチップなどのハードウェア購入へ移ったことによるソフトウェアとインフラの弱さを理由に挙げており、「インプットコストの上昇でアロケーションが削られている」という講師の仮説と方向性は一致する。ただし下落幅については発言の20%に対し実際は25%超であり、講師自身が「まだ調べきれていない」と断っていた通りの状況であった。
SKハイニックスのADRは2026年7月10日に米ナスダックへ上場し、初日終値は公開価格比13%高の168ドルだった。しかし7月13日には韓国市場で一時16%安となり、ADRも一時10%安の139ドル台と公開価格の149ドルを割り込んでいる。公募による調達額は約265億ドル。講師の言う「株式発行による希薄化で落ちた」という説明と、「材料出尽くし」という市場側の解釈が併存している状況である。
この日の実質的な最初のパートは、参加者が前回の宿題として取り組んだコーニングのリサーチ発表だった。参加者はアニュアルレポートから三年分のセグメント別情報の推移を取り、オプティカル・コミュニケーションズが大きく成長して利益率が三ポイント上がったこと、スペシャリティ・マテリアルズの利益率が四ポイント上がったことを確認したうえで、「悪い事業を切り捨てた形跡は数字からは見つけられなかった」と報告した。さらに直近の四半期でセグメントの名称が「グラス・イノベーションズ」に変わったことまで到達している。
講師はこの到達点を「そのリサーチ、それです」と評価したうえで、読み方を補正した。コーニングがやったのは事業の切り捨てではない。ディスプレイ用ガラスや特殊素材はすでに成熟し、今後の大きな成長が見込めない事業である。その成長の見込めない事業をバラバラのまま放置せず統合して無駄なコストを削り、効率よくキャッシュを生む仕組みに変えた。そのうえで、稼いだ資金をオプティカル・コミュニケーションズとソーラーという成長領域へ投入するという流れを明確に打ち出した。ここが評価の変わり目である。
そして講師は、この事例を単発の知識で終わらせないための一般化を提示した。セグメント・ディスカウント、すなわちお荷物事業の存在が全体の評価を押し下げる現象は投資家心理の中で確実に動いている。だから、同じようにお荷物事業を統合して資金をトレンド領域に振り向ける動きが他社で出れば、そこでも評価が変わりうる。過去に同じ構造の事例を探し、その後に投資家がどう反応したかを調べていけばパターンが見えてくる。アニュアルレポートと株価・出来高の動きを連動させて見ていく、という参加者の要約に対し、講師は「そういうことです」と応じた。
コーニングは2026年第1四半期から報告セグメントを改定し、従来のディスプレイ・テクノロジーズとスペシャリティ・マテリアルズを統合して「Glass Innovations」セグメントを新設している。同時にヘムロック・セミコンダクターと太陽光ウェハ・モジュール事業をまとめた「Solar」セグメントも新設され、オプティカル・コミュニケーションズとオートモーティブは従来どおり、残りはライフサイエンスおよび新規成長事業として括られた。会社側の説明は「経営の実態と資源配分の見方に合わせた」というもので、講師の読みと一致する。
参加者からは「利益率16%台の事業をお荷物とは思わなかったのが反省点だ」という発言があり、講師は、日本の産業と比べれば高い利益率だが、いまのAI関連は利益率の水準そのものが常軌を逸しているのだと応じた。固定観念を外さないとAI領域の分析はできない、という参加者自身の結論でこのやり取りは締めくくられている。
参加者への添削を終えたところで、講師は本題に入った。なぜここ二か月ほど、データセンターの仕組み、装置、半導体の技術といった話を執拗にやってきたのか。皆さんの株が上がって喜んでいるが、それはおまけであって、自分には別の狙いがある――という切り出し方である。
まず突きつけられたのは、本気でAIブームに乗るなら、この情報は2021年あたりから得ておかなければならなかった、という指摘だった。つまり現時点でこの知識を入れている参加者は、AIについてはすでに機会損失をしている。ではなぜいま教えるのか。答えは、四年後、五年後に向けた基礎知識としてである。講師が長らく「回答する」と言いながら回答を保留してきた質問、すなわち量子コンピューティングに関する問いに答えるための前提として、データセンターと半導体の話をあえて先に置いていた、という構造だった。
講師自身の分析力の説明もここで与えられる。AIが来る前からAIが来ることを予想して仕込めたのは、特別な勘ではなく、技術的な要素を十年、二十年前から理解していたからにすぎない。とすれば、いまデータセンターと半導体の知識を入れておけば、五年後、十年後に来る量子コンピューティングの局面では同じことが再現できる。講師は参加者に「そう予想がついた人は手を挙げてみてください」と問い、確認を取ったうえで話を進めた。
技術の仕組み(データセンター・半導体・製造装置)→ 各方式の運用原理と企業マップ → 誰がどのレイヤーを押さえるかの判断 → 個別株の選別。この順序を踏まないと、断片的な情報しか持てず「分析のしようがない」というのが講師の主張である。逆に順序を踏めば、ブームが始まってから乗る「後乗り」ではなく「前乗り」ができる。
そして講師は、量子コンピューティングの技術がデータセンターや半導体と地続きであることを具体的に指摘した。量子コンピューティングに必要なものの多くは、半導体そのものや製造メーカー、製造装置から流れてきている。ケーブルのように日本が特殊な技術で作っているものもあり、そうした技術がそのまま転用される。つまりデータセンターの回で扱った企業群を理解しておくことが、そのまま量子の企業選別の準備になる、という筋である。要確認 なお、この転用関係のうちどこまでが実際の受注として確認できるかは、個別企業の開示に当たる必要がある。
締めくくりとして講師は、以前「なぜ量子コンピューティングの話をしないのか」と問われたときに空間推論の話をした理由をここで回収した。量子のキャリブレーションもデコーディングも本質的には三次元の空間推論分析であり、そこが繋がっていなければ量子の話をしても意味がなかった、というのがその論旨である。詳しい技術や企業の話は別の回で改めて扱うと予告されたうえで、「前にやった内容を全部復習しておくように」という指示でこのパートは終わった。
この回でもう一つ印象的だったのが、講師自身が情報発信の時間差を意図的に設計していると明かした場面である。参加者が講師のYouTubeを見て「予想の当て方が周到だ」と感想を述べたのに対し、講師は、その内容はマイキークラブでは一か月以上前に喋っている、と答えた。
その仕組みはこうである。いま週に九本から十本のペースで収録しており、動画の在庫が一か月分ほど積み上がっている。クラブ内では会合や講義で先に話し、YouTubeにはタイムラグを置いて上げる。有料で参加している人を優遇しなければならない以上、その日にやった内容を翌日YouTubeに流したらクラブに入った意味がなくなる、というのが講師の説明だった。そのうえで、時間差で知った視聴者が得られる幅は小さくなるという構図を「みんなで笑って見るムーブも面白い」と、かなり露悪的な言い方で述べている。
「視聴者の資産がどうなろうが関係ない」「オンタイムで知りたければCNNでも見ればいい」という発言は、価値判断が明確に分かれる主張であり、講師個人の見解として記録しておく。対立する見方としては、無料で発信する以上は誤解を招く時間差を明示すべきだという立場、逆に有料コミュニティの価値を守るための情報の出し分けは正当な事業設計だという立場の双方が成り立つ。本レポートはいずれかを支持するものではない。なお講師は、YouTubeでは薄い内容をタイムリーに出す発信者が多いのに対し、自分は濃い内容を遅らせて出しているのだから許容されるはずだ、という自己正当化の理屈もあわせて述べている。
関連して、動画本数を増やすための運用も明かされた。他の出演者に取材を担当させ、それを文字起こしして記事化しビジネス系メディアに持ち込む。毎回四本収録するのが面倒なときは三本にして他の人の回を二本入れる。こうした数の稼ぎ方は、発信そのものが目的というより、要求されている本数を満たすための作業として語られていた。