STUDY REPORT / 2026年9月度 勉強会

SECIモデルと批判的思考――否定と改善案で回す組織、AI時代に「会話」が嗜好品になる理由

主な発言者:マイキー氏・前田氏 / 質疑:成田氏・渡氏・渡辺氏ほか
EXECUTIVE SUMMARY

エグゼクティブサマリー

4プロセス
共同化・表出化・連結化・内面化。マニュアル更新の循環として解説
正・反・合
弁証法との共通点。ただし「反」は相手に依存する
100→200
「100を否定するなら200の改善案を出せ」
1865年
ジェボンズ『石炭問題』。効率化が消費量を増やす逆説
嗜好品
AIが倫理的な回答を担う時代、人間同士の会話は嗜好品になる
5系譜
特性論からLMX・変革型まで、リーダーシップ理論の変遷

本パートは、参加者の成田氏が「SECIモデルは弁証法に非常に近いのではないか」と問いかけたことから始まった。マイキー氏は、仮説(正)、反証(反)、新しい理論(合)という大枠は似ていると認めたうえで、決定的な違いを指摘した。弁証法を組織で回す場合、アンチテーゼは相手から出てくるものであり、相手に依存する。パワーバランスが崩れた瞬間、たとえばワンマン経営者の下では反が生まれず、循環そのものが止まる。

マイキー氏によれば、日本の組織では「相手を否定してはいけない」「ネガティブな情報を言ってはいけない」という文化があり、「問題点はありますか」と聞くと「ない」と答える人が非常に多い。マニュアルが何年も変わらない企業は、その典型である。完璧なマニュアルなど存在しないのだから、疑問が出ないこと自体が組織のリスクだという。

議論はAIに広がった。AIの回答は多くの場合人間より倫理的であり、倫理的なコミュニケーションはAIに任せられる。すると人間の価値は、面白さ、逸脱、間違いといった部分に移り、人間同士の会話は「嗜好品」になる。一方、ジェボンズのパラドックスが示すとおり、AIによる効率化はむしろ仕事量を増やしており、人間のコミュニケーションはこれまで以上に必要になる。SECIの循環をどれだけ高速で回せるかが、組織の格差を生むというのがマイキー氏の見立てである。

後半は「マニュアルが手順書になっていて、なぜそうするのかが書かれていない」という参加者の問題提起を受け、否定から入って改善案を出す姿勢、リーダーシップ理論の使い分け、AIが倫理の線引きで答えられない領域について議論が続いた。

セッションを貫く1本の線

組織の知識創造は、否定(アンチテーゼ)と改善案が出てこなければ一周も回らない。AIが循環を加速させる時代だからこそ、人間同士が批判し合い、問い合える場を組織の仕組みとして持っているかどうかが差になる。

PART 0

新メンバーの紹介

議論の途中でマイキー氏は、クラブに新しく加わった二人を紹介した。渡氏は、NVIDIAやアクセンチュアでディレクターを務めた経歴を持つとされ、10月3日の会合にも参加予定である。宮氏は医療分野の研究者で、以前はロンドンのキングス・カレッジ・ロンドンに所属していた。本人の説明では、肝臓に関わる栄養の研究を続けてきており、4年に1度開かれる世界消化器病学会の学術大会で銀賞を受けた経験があるという。

📌 Claude補足

要確認両氏の経歴は勉強会での紹介・自己紹介に基づく。文字起こし上は「NBIDIAとアクセンチュアのNPのディレクター」と聞き取れる箇所があり、正確な役職名は確認できなかった。「世界消化器病学会」は、世界消化器病学会(WGO)が関与する世界消化器病会議(World Congress of Gastroenterology)を指すと考えられるが、受賞の詳細は公開情報で確認していない。

PART 1

SECIモデルと弁証法:「反」は相手に依存する

成田氏の理解はこうである。弁証法は、自分の考えと逆の考えをすり合わせてより高いものに作り替えることで、個人でも実践できる。一方SECIモデルは、先輩後輩のような関係の中で組織として回していくもので、そのぶん目指すものがはっきりする。どちらも物事をブラッシュアップしていく方法として近いのではないか。

マイキー氏は、マクロ的に見れば似ている部分は確かにあると応じた。テーゼがあり、アンチテーゼがあり、ジンテーゼ(新しい理論)を作り出す構造は共通している。ただし、組織論として考えたとき、弁証法は相手に依存しなければならない理論でもある。自分がテーゼを言い、相手がアンチテーゼを言ってすり合わせるとき、両者のパワーバランスが崩れた瞬間にすべてが成り立たなくなる。

反が生まれない組織
経営者がワンマンで、社員が反論できない。社員教育ができておらず、客観的・俯瞰的に物事を見る能力が育っていない。「今のやり方が一番楽」だから、疑問に気づかなくてよいと考える人が多い。
反が生まれる組織
肯定も否定もフィフティ・フィフティで出せる状態がある。マニュアルが機能しなかったとき「何が違ったのか、なぜ効かなかったのか」を会話できる。

マイキー氏は、日本の労働環境ではずっと同じことをやらされる状態が多く、疑問が生まれにくい同質化・硬直化した組織体制になっていると指摘した。SECIモデルは簡単に言えば、意見と質問を出し合って知識を知恵に変える流れだが、質問のない人は知恵までたどり着かず、知識か情報の段階で止まる。前田氏も、SECIモデルは会話とコミュニケーションをベースに成り立っているので、会話を生み出せなければモデル自体が生まれないと同意した。

📌 Claude補足:SECIモデルの出典

SECIモデルは、野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)が竹内弘高氏とともに体系化した組織的知識創造理論で、英語版の主著は1995年刊の『The Knowledge-Creating Company』(邦訳『知識創造企業』)である。野中氏は2025年1月に死去し、各誌で追悼特集が組まれた。講義中の「日本人ができなくて死んでいった」という表現は、理論が国内より海外企業で活用されたというマイキー氏の評価を指している。

弁証法の「正・反・合」の三段階は、ヘーゲル哲学の説明として広く流布しているが、ヘーゲル自身はこの三つの用語をほとんど使っておらず、フィヒテ由来の図式を後世が当てはめたものとされる。講義のように「正・反・合」を思考法として用いること自体は一般的である。

その場での演習:「AIが全部やるからSECIはいらない」に反論せよ

マイキー氏は議論の途中で、参加者にあえて極論をぶつけた。「今後はAIがマーケティングもマネジメントも給与計算も顧客対応もウェルビーイングも全部やってくれる。だから努力もSECIモデルもいらない。これに反論してください」。参加者からは次の反論が出た。

反論者反論の要旨
参加者売り込みが画一化され、差別化が図れなくなる。
参加者(花屋経営)アレンジや花束はAIには作れず、夜中まで作り込んでいる。むしろ早く奪ってほしいぐらいだ。
渡氏AIには責任能力も主体性もない。AIに任せたとき誰が責任を取るのかという問題が生じる。

この演習は、「否定してください」と言われたときに反論を出せるかどうか自体を確かめる場になっていた。マイキー氏は、自分も100%正しいことは言えないのだから、間違っていれば質問して突っ込めばよいと述べている。

PART 2

AI時代、人間の会話は「嗜好品」になる

マイキー氏は、今後「人間の会話が嗜好品になる」と予測した。参加者に「AIと人間はどちらが倫理観があるか、回答だけで言えば」と問うと、AIだという答えが返った。倫理的なコミュニケーションがAIに任せられるなら、人間の価値は、面白いかどうか、頭が壊れているかどうか、間違えるかどうかに移る。それがむしろ会話を嗜好品にするという考え方である。

そのうえでマイキー氏は、AIが出てきても現実の世界を変えるのは人間の行動だと強調した。インターネットもメタバースもAIも、リアルの世界をどう改善し効率化するかのためにある。そして前回の講義で述べたとおり、「AIを使い始めて仕事量が減った人は無能である」という。根拠として挙げたのがジェボンズのパラドックスである。

ジェボンズのパラドックス

マイキー氏が挙げた例は次のとおりである。石炭のコストが下がると誰もが使えるようになり、産業以外の用途にも広がって消費量が大きく増えた。照明がLEDになり効率が上がると、電気の使用量はかえって増えた。ハイブリッド車で遠くまで行けるようになると、一人当たりの走行距離が延びてガソリン消費が増えた。そして今、アメリカのAIスタートアップで起きているのは、AIを使いまくることで新しい課題が増え、人が寝られないほど作業時間が伸びている現象だという。

対象効率化結果(講義での説明)
石炭コスト低下で誰でも使えるように産業以外にも用途が広がり、消費量が3倍に
照明LED化で電力効率が向上電気の使用量がかえって増えた
自動車ハイブリッド化で燃費が向上一人当たり走行距離が延び、ガソリン消費が増えた
AI作業の自動化・高速化新しい課題が増え、米スタートアップで作業時間が急増
📌 Claude補足:ジェボンズのパラドックス

英国の経済学者ウィリアム・スタンレー・ジェボンズが1865年の著書『The Coal Question(石炭問題)』で指摘した現象で、蒸気機関の石炭効率が改善すると、石炭の総消費量はむしろ増えたとした。効率化で実質コストが下がり、需要と用途が拡大するためである。エネルギー経済学では「リバウンド効果」として研究が続き、効果の大きさは分野によって異なる。

要確認講義中の「石炭の量が3倍になった」という数値の出典は示されておらず、どの期間・地域の比較かは確認できなかった。また、米AIスタートアップで長時間労働(いわゆる「996」型の働き方)が広がっているという報道は2025年以降見られるが、業界全体の統計として作業時間が増えたと示すデータは確認していない。

AI同士が大量にコミュニケーションを取るようになったとき、人間がやるべきことは意思決定かと問われたマイキー氏は、「いや、人間のコミュニケーションを増やさなければいけない。これまで以上に」と答えた。前田氏も、会話が嗜好品になるということは、会話をちゃんと生み出せる人の希少性が高くなり、二極化しやすくなるという考え方ができると補足した。

KEY:AIは循環を加速させる。人間も同じ速度で回さなければ差が開く
AIの学習もSECIに似た循環を高速で回している。マイキー氏は、人間も同じように高速で回さない限り取り残されると述べ、社員やスタッフのコミュニケーションが活発化しているかを参加者に問うた。ある経営者が「スタッフからよくディスられている」と答えると、それが前田氏の言う循環が回っている状態だと評価した。

SECIとAI:「知識は人に帰属する」

参加者から「SECIモデルはAIにも使えるように聞こえたが、人間用なのか」という質問が出た。マイキー氏は、人間対人間がSECIモデル、人間対AIに近いのが「グライモデル」だと説明し、脳の学習効率に合わせてAIを作った例として中国系のスタートアップ、サピエント・インテリジェンスの推論モデルを挙げた。

前田氏はここで誤解のないよう補足した。知識は人に帰属するものであり、SECIモデルは基本的にAIでは成り立たないというのが大前提である。知識には経験やノウハウなど言語化できないものも含まれる。ただし今のAIは、質問の仕方によって返答が変わり、学習もするので、疑似的にSECIができているように見える部分がある。マイキー氏は、経験と感覚こそAIに再現できない人間の強みであり、会話の循環を回していなければその経験と感覚は積めない、仮に積めても薄っぺらいと述べた。海外旅行に一度も行ったことがない人の「これは危ない」という意見は信用できない、という例えが示された。

📌 Claude補足:サピエント・インテリジェンスとHRM

Sapient Intelligenceは2025年7月、人間の脳の階層的・多時間スケールの処理に着想を得た「Hierarchical Reasoning Model(HRM)」をオープンソースで公開した。パラメータ数は約2,700万と小規模ながら、数独や迷路、ARC-AGIといった推論ベンチマークで大規模言語モデルを上回る結果を示したとして注目された。同社はシンガポールを拠点とし、清華大学出身の研究者が関わっていると報じられている。講義中の「清華大学からのスタートアップ」という説明はこれと整合するが、「中国の会社」と言い切れるかは拠点の扱いによる。

要確認「グライモデル」という名称の人間対AIの学習モデルは、公開情報で特定できなかった。聞き取りの誤りの可能性がある。

PART 3

マニュアルは「完璧ではない」から進化する

マイキー氏は、SECIの循環をマニュアル更新のプロセスに当てはめて説明した。出発点は連結化である。連結化は情報と情報を組み合わせた状態、つまりマニュアルであり、客観的なデータをテーブルに乗せて認識のずれをなくし、感情や主観を抜きにファクトで議論する場である。ここは各自が持つ客観情報を棚卸しする場所でもある。

連結化
マニュアル化
情報と情報を組み合わせ、ファクトで認識をそろえる
内面化
なぜできないか
マニュアル通りにできない差分が個人の知識になる
共同化
暗黙知の同期
直感・違和感・空気感を出し合い共通認識にする
表出化→検証
仮説として言語化
検証がうまくいけばマニュアルに組み込み、次の周へ

マニュアル通りにやろうとしても、人は同じようにはできない。プレゼンのマニュアルを作っても、誰もが同じことをできるわけではない。だから「なぜ外れたのか」を考える必要があり、それが個人の知識に変わる(内面化)。ここで「なぜできなかったのか」という質問が必要になり、批判的な視点がなければこの段階まで来られない。

次に、言葉にできていない直感や違和感、空気感を出し合って共通認識にする(共同化)。マイキー氏が例に挙げたのは、自身が関わったプレゼンテーションの研修である。「説明をするな」というルールを入れていたが、大阪の聴衆は説明を求める人たちだったため、あえて説明を入れたところ相手が食いついた。これはマニュアルから外れた無意識の状況判断であり、なぜそう動いたのかを捉えてまとめることで、「相手によってやり方を変える」というテクニックが言語化される。それを検証し、うまくいけばマニュアルに組み込む。そのマニュアルもまた完璧ではないので、繰り返すことでマニュアルは進化していく。

📌 Claude補足:SECIの標準的な順序

野中氏のSECIモデルは通常、共同化(Socialization:暗黙知→暗黙知)、表出化(Externalization:暗黙知→形式知)、連結化(Combination:形式知→形式知)、内面化(Internalization:形式知→暗黙知)の順で説明される。講義はマニュアル(連結化)を起点に一周を描いているが、螺旋として循環するモデルなので起点の置き方は説明上の選択であり、構造としては整合している。

マイキー氏は最後に、このサイクルを作る仕組みが社内に、チームに、さらに役員同士の間にあるかを問うた。外資系企業では喋らない人は外されるので議論が回るが、日本では喋らないほうが評価される面がある。それで改善につながるかといえば、答えはノーだという。

PART 4

否定するなら改善案を持ってこい

参加者の一人が、日本のマニュアルは手順書の役割が多く、判断の理由、つまり「なぜそれをするのか」が含まれていないから考えようがないのではないか、と問題提起した。マイキー氏は、なぜやるのかを考えつかないのは、なぜやるのかを聞いていない本人の問題だと返した。自身は20代半ばで商社に入ったとき、貿易事務から発注まで手順書になっていたものを、効率がよいと分かったので全部書き換えたという。

マイキー氏の主張は「人間は性格が悪くなれ」である。プロセスの問題点を見つけて改善するには、相手の欠点やシステムの欠点を言いまくるのが一番早い。ただし欠点を言うだけでは意味がなく、文句を言うなら改善案を持ってこいという。ほとんどの人は、自分にとって使いやすいか都合が悪いかでしか考えておらず、そういう意見は聞けない。否定するなら改善案を出す。そうして初めて仮説が始まる。

「100を否定するなら200の改善案を」:受け入れられる改善の水準
既存案の価値を100とした概念図。マイキー氏の発言をもとにしたClaude作図

マイキー氏は、既存のものが100だとして101や102の改善案を出しても受け入れられないと述べた。変える意義がないからである。100を否定するなら200の改善案を出せ、という。自身がJ.エイブラムス氏の講演会に登壇した際も、冒頭で聴衆が聞きに来た理論を古いと否定し、テイラー主義からメアリー・パーカー・フォレット、ティール組織へと続く流れを示して「皆さんが行くべきはここ、ティール組織でいえばオレンジからグリーンだ」と提案したという。コンサルタントとして活動する渡辺氏も、肯定から入るとそのスケールでしか話が進まず、既存の枠を壊せないので、否定から入ってさらに上のものを示すのは自分もよくやると同意した。

📌 Claude補足:講演で挙がった組織論

テイラー主義は、フレデリック・W・テイラーが1911年の『科学的管理法の原理』で体系化した作業の標準化・効率化の考え方である。メアリー・パーカー・フォレットは1920年代に、命令ではなく状況の法則に基づく統合や「パワー・ウィズ(共に持つ力)」を説いた経営思想家。ティール組織は、フレデリック・ラルーが2014年の『Reinventing Organizations』で示した組織の発達段階論で、達成型(オレンジ)、多元型(グリーン)、進化型(ティール)などを色で区別する。

前田氏は、今の最大の問題はほとんどの会話が同意や同調を目的にしていることだと述べた。同調や同意は何も生み出さない。どう変えるかの視点を提示してこそ、発展させるための共有になる。参加者からは、マニュアルを更新するのは誰の仕事かという話になりがちで、それが会社のシステムとして組み込まれていないことが欠点だという意見も出た。マイキー氏は、経営戦略も同じで、戦略そのものが間違っている可能性や見落としがある可能性を常に置いておくべきだとし、SECIモデルは「問題発見機」だとまとめた。

PART 5

リーダーシップ理論とAIの倫理的線引き

マイキー氏は、リーダーシップ理論をAIと壁打ちした経験を紹介した。リーダーシップ理論には戦後から続く歴史がある。最初はリーダーは生まれながらの資質であるという考え方から始まり、次に場面や業界、ポジションによって適した人が変わるというコンティンジェンシー理論が出てきた。家族の前でだけマウントを取る人は、ある意味でこれに当たるという。

系譜考え方講義での説明
特性理論リーダーは生まれ持った資質で決まるリーダーシップ論の出発点
コンティンジェンシー理論状況によって有効なリーダーが変わる場面によってリーダーシップを張れる人と張れない人がいる
サーバント・リーダーシップ部下を支援し奉仕する部下をサポートする流れを作る
LMX理論リーダーと個々の部下との関係の質に差が生まれる優秀な人を優遇し無能な人と差をつける。場合によって生産性が上がる
変革型リーダーシップビジョンやミッションで組織を変える最近の潮流

マイキー氏自身は、理想のリーダーシップは場面によって変わると答える。ところがAIに聞くと、サーバントやオーセンティックといった理論ばかりを挙げ、相手を依怙贔屓する手法について尋ねると「倫理的にだめだ」と返してくる。しかし現実には、イーロン・マスク氏やアマゾンのアンディ・ジャシー氏の経営スタイルのように、倫理観だけでは説明できないリーダーシップも成果を出している、という指摘である。

POINT:倫理から外れた発想こそ人間のポジション
マイキー氏は、場面に応じた判断をAIは倫理の線引きのためにできないと述べ、倫理感から外れた発想をすること自体が人間のポジションになると考えている。参加者も、そこが人間の面白いところであり、それもなければAIのほうがましになると同意した。
📌 Claude補足:理論の出典と評価

コンティンジェンシー理論はフレッド・フィードラーが1960年代に提唱したモデルが代表的である。サーバント・リーダーシップはロバート・K・グリーンリーフが1970年に提唱。LMX(Leader-Member Exchange)理論は1970年代にジョージ・グレーンらが発展させたもので、リーダーと部下の関係に「内集団」「外集団」が生じることを記述した理論である。研究上は、関係の質が高い部下ほど成果や満足度が高いことが示される一方、LMXの「差別化」そのものを推奨する理論ではなく、差が大きすぎるとチームの公平感を損なうという知見も多い。講義の「依怙贔屓で生産性が上がる」という解釈は、理論の一側面を強調したものと見るのが妥当である。

変革型リーダーシップはジェームズ・M・バーンズ(1978年)が提唱し、バーナード・バスが発展させた。オーセンティック・リーダーシップは2000年代に広まった概念である。

Q&A

質疑応答

SECIモデルはスパイラルでどんどん良くなっていくという点で弁証法に近いと思いました。弁証法は個人の哲学的な営み、SECIは会社などの社会の中で回して良くしていく方法と解釈しましたが、違いはどこにあるのでしょうか。――成田氏
マクロ的に見れば、仮説・反証・新しい理論という構造は同じである。ただ、アンチテーゼは相手に依存しなければならず、パワーバランスが崩れると全部が成り立たなくなる。組織論では相手のチームスキルが必要で、ワンマン経営では反が生まれない。否定やネガティブな情報を言ってはいけないという日本の文化を変えない限り、SECIモデルは回らない。質問の仕方がそもそも終わっている段階では、知恵には必ずたどり着かない。――マイキー氏
まさにそのとおりで、質問ができないということは会話が進まないということであり、SECIモデルを生み出せないことを意味する。――前田氏
SECIモデルは人間用ということでよいのでしょうか。AIにも使えるように聞こえました。――参加者
SECIは人間対人間、人間対AIに近いのがグライモデルというイメージである。SECIは一橋大学の野中教授が作った日本人へのメッセージだと思っているが、一番使っているのはアメリカの企業だ。脳の学習効率に合わせてAIを作った会社としてサピエント・インテリジェンスがあるので調べてほしい。循環を繰り返すと、次に何が起きるかの推論がしやすくなる。昔の問題がまた出てくる、似た事例が出てくるといったことが見えるようになる。――マイキー氏
誤解のないよう伝えると、知識は人に帰属するので、SECIモデルは基本的にAIでは成り立たない。ただ今のAIは質問の様式によって返答が変わり、学習もするので、疑似的にできているように見える。それをどう踏まえるかと捉えてほしい。――前田氏
相手が初心者で慣れていない場合は、AからB、BからCへと飛び越えずに一つずつ回していくのが正しいのでしょうか。――参加者
最初の段階は絶対にゆっくりになる。経験者ならAからCに行けるところを、最初はAからB、BからC、CからDと一つずつ回るので時間がかかる。それが速くなっていくだけの話である。――マイキー氏
日本のマニュアルはほぼ手順書で、なぜそれをするのかという判断理由が含まれていないから、考えようがないのではないでしょうか。――参加者
なぜやるのかを考えつかないのは、なぜやるのかを聞いていない人の問題である。自分は商社に入ったとき手順書を全部書き換えた。人間は性格が悪くなれ。問題点を見つけるには欠点を言いまくるのが早いが、否定するなら改善案を持ってこい。100を否定するなら200の改善案を出さないと、変える意義がない。――マイキー氏
ほとんどの話が同意や同調を目的にしていることが今の一番の問題である。同調は何も生み出さない。どう変えるかの視点を提示することが、発展させるための共有になる。――前田氏
(マイキー氏から参加者へ)今、事業や経営をしていて、社員やスタッフとのコミュニケーションが活発化していると言える人はいますか。――マイキー氏
自分は会社を経営しているが、スタッフからよくディスられており、ポンコツ扱いされている。――参加者(経営者)
それでよい。これをやっているかどうかで格差が生まれる。――マイキー氏
宿題・アクションアイテム

持ち帰って試すこと

  1. サピエント・インテリジェンス(Sapient Intelligence)の推論モデルを調べる(マイキー氏からの宿題)。
  2. 自社・自部署のマニュアルを一つ選び、各手順に「なぜそうするのか」が書かれているかを点検する。書かれていなければ理由を書き加える。
  3. 最近「問題点はありますか」と聞かれて「ない」と答えた場面を思い出し、あえて欠点を三つ挙げ、それぞれに既存案を大きく上回る改善案を添える。
  4. 社内・チーム・役員間それぞれに、否定と改善案を出し合える場が仕組みとして存在するかを確認する。
  5. AIを導入して仕事量が減ったか増えたかを振り返り、増えた新しい課題を書き出す(ジェボンズ効果の自己点検)。
用語集

このレポートに登場した用語

SECIモデル
共同化・表出化・連結化・内面化の4プロセスで暗黙知と形式知を循環させ、組織の知識を生み出す理論。野中郁次郎氏らが提唱。
弁証法(正・反・合)
テーゼとアンチテーゼを統合してより高次のジンテーゼを生む思考の図式。
批判的思考
前提や既存のやり方を疑い、問題点を見つける思考。講義ではSECIを回す起点として位置づけられた。
ジェボンズのパラドックス
資源利用の効率化が、かえって総消費量を増やす現象。1865年にジェボンズが石炭で指摘。
HRM(階層的推論モデル)
Sapient Intelligenceが2025年に公開した、脳の階層構造に着想を得た小規模な推論モデル。
コンティンジェンシー理論
有効なリーダーシップは状況によって変わるとする理論。
LMX理論
リーダーと部下の二者関係の質の違いに注目するリーダーシップ理論。
ティール組織
ラルーが示した組織の発達段階論。オレンジ(達成型)→グリーン(多元型)→ティール(進化型)など。
テイラー主義
作業を標準化・計測して効率を高める科学的管理法。
問題発見機
マイキー氏によるSECIモデルの位置づけ。自分たちのやり方が完璧でない前提で、穴を見つけ続ける仕組み。