シュンペーターの景気循環は繁栄・後退・不況・回復の四局面をとる。ガートナーのハイプサイクルも同じ形を描く。二つは何が同じで、何が決定的に違うのか。そして波が速くなった世界では、下落の深さではなく回復の速さが企業を分ける。
この日の講義の最後に、マイキー氏はシュンペーターの循環論をコミュニティ内で以前から扱ってきた別の枠組みに接続した。シュンペーターの景気循環にはPRDという整理がある。プロスペリティ(繁栄)、リセッション(後退)、デプレッション(不況)、そして回復の局面。伸びて、ピークを打って、落ちて、幻滅して、また持ち直す。この形が、ガートナーのハイプサイクルと重なる。
マイキー氏が繁栄期を「過度な期待のピーク」に、後退期を模倣者の参入と価格競争による利益減少に、不況期を企業が倒れて市場が掃除される局面に、そして回復を啓発期・安定期に対応させていく過程で、参加者から「ハイプサイクル」という言葉が先に出た。すでに学んだ枠組みで新しい理論を受け止めなおす、という形で講義は締めくくられている。
ただしマイキー氏は、二つが同一だとは言わなかった。シュンペーターの波を動かしているのは資本であり、実体経済である。ハイプサイクルを動かしているのは情報と心理である。だから曲線は似ていても、根拠が違う。さらにハイプサイクルのほうが短く、シュンペーターの波のほうが長い。相関的にある程度ずれている部分もあるが、大枠で見れば説明がつく――これがマイキー氏の言い方だった。
そのうえで、波が短くなった世界での実務的な含意が二つ示された。ひとつは、経営者が設備投資のリターン回収率について考え方そのものを変えなければならないということ。50年周期の前提で経営していた企業が退場していくのは必然だという指摘である。もうひとつは、リセッションの深さより回復の速さが企業を分けるということ。技術のサイクルが速くなっているなら、落ちてからの復帰も速くなるはずで、逆に技術のない企業は低迷したまま戻ってこない。
似た形の曲線を二つ並べたとき、問うべきは「同じかどうか」ではなく「何が波を押しているのか」である。資本が押している波と、期待が押している波では、局面の読み替え方も、打つべき手も違う。形の相似は理解の入口にはなるが、判断の根拠にはならない。
マイキー氏はまずPRDという略記を提示した。プロスペリティ、リセッション、デプレッション。そして四つ目の局面としてドイツ語表記に由来する頭文字が置かれ、英語にすればインプルーブメント――改善・回復に当たると説明された。繁栄、後退、不況、回復という四つの局面である。
そして参加者に問いかけた。この形は何かに見えないか。参加者から「伸びる、幻滅される……ハイプサイクル」という答えが返る。マイキー氏はそれを受け、シュンペーターの理論はハイプサイクルに置き換えられると述べた。
置き換えの中身は次のように説明された。プロスペリティ、すなわち繁栄は、過度な期待のピークに当たる。市場でイノベーションが発生し、商品が生まれる時期と近い。次のリセッションでは、ピークから減速へ向かうなかで技術が社会に浸透し、模倣する企業が集まって価格競争が起きる。その結果、利益が減少する。先行者利益だったものが現実に当たって、儲からなくなる時期がある。そしてデプレッション、すなわち幻滅期に入ると、多くの企業が倒れて市場が掃除される。そこから改善の局面に入ると、啓発期・安定期に相当する持ち直しが始まる。
ハイプサイクルはガートナー社が考案した用語で、1995年以来、新技術の登場によって生じる過度の期待とそれに続く失望を説明するために使われている。五段階は黎明期、「過度な期待」のピーク期、幻滅期、回復期(啓発期)、安定期(生産性の安定期)。その目的は、誇張と現実を切り分けて経営層が採用可否を判断できるようにすることにある。講義でマイキー氏が「ガートナーというところで出ているので調べてください」と述べたのは、この一次情報を指している。四局面のPRDと五段階のハイプサイクルは段階数が違うため、対応は一対一ではなく、繁栄期を黎明期と過度な期待のピークの二段階に分けて考えると対応が取りやすい。
| シュンペーターの四局面 | ハイプサイクルの段階 | その局面で起きていること(講義の説明) |
|---|---|---|
| プロスペリティ(繁栄) | 黎明期〜過度な期待のピーク期 | イノベーションが市場で発生し、商品が生まれて期待が集中する |
| リセッション(後退) | 幻滅期の入口 | 技術が社会に浸透し模倣者が集まる。価格競争により利益が減少する |
| デプレッション(不況) | 幻滅期 | 企業が次々に倒れ、市場が掃除される |
| インプルーブメント(回復) | 回復期〜安定期 | 実際の利用が定着し、再び伸びていく |
マイキー氏は相似を示したうえで、何が違うのかを明示した。シュンペーターが語っているのは資本の波であり、実体経済の波である。一方でハイプサイクルは情報と心理の波である。
資本と実体経済が動かす波。設備投資、技術革新、在庫という物的な変数が背後にある。周期は相対的に長い。
情報と心理が動かす波。期待の集中と失望という認知の変数が背後にある。周期は相対的に短い。
マイキー氏の整理では、動きは似ているが、ハイプサイクルのほうがやや短く、シュンペーターの波のほうが長い感じがする。ただし大枠で見れば実際にこのように波打っているのだから、似たような動きをしないかという言い方はできる。ずれている部分もあるが、ある程度の説明はつく――この留保の付け方自体が、相似をどこまで信用してよいかの目安になっている。
マイキー氏はここで、前半で扱った周期短縮の議論を再び持ち出した。50年と言われたコンドラチェフの波が短くなっているのは、ハードからソフトへ移ったことが最も大きい。それによって無駄が省かれ、サイクル自体が短くなった。したがってAIがさらに発達すれば、波のスピードはもっと速くなる可能性がある。ならば経営戦略も、10年前・20年前の設備投資に対するリターン回収率の考え方も、経営者自身が変えなければならない。「これまでどおりの50年周期で考えていたら死にますよ、と言って実際に死んでいる企業はいくらでもある」というのが、この日いちばん強い言い方だった。
そのうえでマイキー氏は、サブスクリプションについて改めて注意を促した。目先の収益と計画の立てやすさという点では優れているが、設備投資に関わる領域では将来的に不利益が出る可能性のあるビジネスモデルでもある。これは前半で詳述された論点の再確認である。
質疑では、波の周期ではなく波の高さについての問いが出た。世界規模でいろいろなことが動くようになれば、波の高さそのものが大きくなっていくのではないか、という趣旨である。
マイキー氏の答えは、絶対値と比率を分けるというものだった。経済規模は基本的に拡大するものであり、企業の売上高も今年1億円で100年後も1億円なら無能な会社だということになる。したがって同じ絶対値で波を描けば、当然とんでもなく大きくなる。しかしパーセンテージで見るとそうでもないことが多い。
具体例として挙げられたのが、時価総額の比率である。現在のマグニフィセント・セブンはS&P500のなかで大きな比重を占めているが、鉄道時代の物流関連企業の比重はそれよりさらに大きかった。当時は上場企業数がそもそも少なかったため、工業関連株の割合が極端に高かったのである。したがって「いまは過剰投資か」という問いに対しては、ドットコムバブルのときよりは現在のマグニフィセント・セブンのほうが大きいが、鉄道全体で見れば当時のほうが比重は大きかった、という答え方になる。絶対値では圧倒的な差があっても、市場全体に占める割合で見ると意外とそうでもないものがある、という整理である。
「史上最大の投資額」「過去最高の時価総額」という表現は、経済規模が拡大し続けるかぎりほぼ毎年更新されうる。過熱を判定したいなら、絶対額ではなくGDP比や市場全体に占める比率で見る必要がある。講義中でも、産業革命期・鉄道時代・自動車時代・ドットコムバブル・AI投資をGDP比で並べて比較する手法が言及された。
続く質問は、いまこれだけ盛り上がっている以上、次のリセッションが来るのが怖い、というものだった。マイキー氏の答えは、リセッションの幅は大きいかもしれないが期間は短い可能性がある、というものである。
根拠として挙げられたのがDeepSeekの事例だった。データセンターやチャットGPTをめぐって期待が膨らんでいたところにDeepSeekが登場し、一度下落した。しかしその後の回復は非常に速かった。技術のスピードが遅い時代であれば、同じ規模の衝撃を受ければ株価は低迷し続けていた可能性が高い。サイクルが速くなっているということは、回復も速くなっている可能性が高いということだ、という論理である。
2025年1月27日、DeepSeekのモデルが低コストで訓練されたと報じられたことを受けてNVIDIA株は約17%下落し、時価総額は5,890億ドルを失った。これは1日あたりの時価総額減少としては市場史上最大である。翌28日には約9%戻して2,600億ドルを回復し、その後数週間で1兆ドル超の時価総額を取り戻した。講義中の「半年ぐらいで復活した」という表現より、実際の戻りはさらに速い。回復速度に関する講義の主張は、この事例に関するかぎりデータに支持されている。
マイキー氏はここから、企業のレジリエンスという論点へ進んだ。落ちても回復が速いということは、企業のレジリエンスが上がっているとも言える。技術が革新している企業は下がってもすぐ復活できる可能性があり、技術のない会社は低迷し続ける可能性がある。この対比のなかで、テキサス・インスツルメンツは20年(あるいは15年)死んでいたと言われ、それでも「長い」と評される。シスコは復活まで10年弱、マイクロソフトも10年かかっており、これでも長いとされる。ではその尺度で言えば、30年株式の水準が変わっていない日本企業やNTTはどうなのか――という問いが投げられた。
ここは発言と公開データが明確に食い違う。講義では「シスコは10年弱」「マイクロソフトも10年」とされたが、実際にはシスコがドットコム期(2000年3月)の高値を終値ベースで上回ったのは2025年12月であり、約25年を要している。マイクロソフトは1999年12月のピークを2016年後半に更新しており、約16〜17年である(配当込みのトータルリターンでは2014年に損益が回復しているため、この基準なら約15年)。テキサス・インスツルメンツについては、ドットコム期高値の回復年を特定できる情報が確認できなかった要確認。
この食い違いは論旨の向きを変えるものではない――むしろ「アメリカ企業でも復活には想像以上に時間がかかる」という方向に議論を強める。ただし「10年弱」という具体的な年数を前提に投資判断を組み立てると、回復期間を大幅に短く見積もることになる。
最後にマイキー氏はソフトバンクグループを挙げた。一度大きく上がってから急落し、その後にとんでもない復活を遂げている。売上高ベースで見るか時価総額ベースで見るかで評価が変わるとしつつ、時価総額ベースで言えばサイクルの速い会社ではないかという見方を示した。
講義後の動きとして補足すると、2026年6月1日にソフトバンクグループの時価総額は一時49兆円を超え、トヨタ自動車を抜いて国内首位となった。トヨタが首位を明け渡すのは約22年ぶりである。ただし2026年9月14日時点の時価総額は約33.3兆円まで縮小している。「サイクルの速い会社」という講義の評価は、上昇局面だけでなく下降局面にも当てはまる形で推移していることになる。
Q1. 波が来ることは分かるが、波の高さの問題はここでは関係ないのか。世界規模で動くなら波の高さはどんどん大きくなるのではないか(ゆた氏)
マイキー氏は、GDP比率や売上高比という相関的な尺度では上がっていると認めたうえで、絶対値で描けば当然大きくなるが割合で見ると必ずしもそうではないと答えた。鉄道時代は上場企業数が少なく工業関連株の比重が極端に高かったため、現在のマグニフィセント・セブンよりも市場に占める割合は大きかったという例を挙げている。
Q2. 経済規模が大きくなるなら、下がるときも大きくなるということか(同氏)
絶対値としては大きくなるが、パーセンテージで見るとそうでもないことも多い、という回答である。
Q3. いま非常に盛り上がっているので、次のリセッションが来るのが怖い。どう思うか(同氏)
マイキー氏は、リセッションの幅は大きいかもしれないが期間は短い可能性があると答えた。DeepSeek後の回復の速さを例に挙げ、技術のスピードが速くなっているなら回復も速くなると説明している。そのうえで、技術を持つ企業は下がっても戻るが、技術のない企業は低迷し続けるという分岐を示した。質問者は、以前に「リセッションが来るかもしれないから投資が怖い」と相談したときに「そうでもない」と言われた理由が分かったと応じている。
Q4. ロックウェルでの登壇は、完全なプレゼンにすべきか、説明会寄りにすべきか(マイキー氏から前田氏への相談)
7月4日に赤坂インターシティコンファレンスで行う登壇について、マイキー氏はコトラー・SDロジック・ティール組織を混ぜた内容を求められており、それに全部応えると説明会になってしまうと相談した。前田氏は、何かを売る・誘導するのが目的ならプレゼン、相手の理解と評価を得るのが目的なら説明寄りでよいと答えている。マイキー氏自身は、今回の目的は主催者の社内評価を上げることなので、突飛な人間を呼んだが結果として面白かったと思ってもらい、もう一度来たいと思う企業が何社できるかで考えると説明会に近いほうがよい、と整理した。約300社が来場する見込みであることも共有された。
イノベーター理論は1962年、エベレット・M・ロジャースが『イノベーションの普及(Diffusion of Innovations)』で提唱したもので、採用者をイノベーターからラガードまでの五つに分類する。キャズム理論は1991年、ジェフリー・A・ムーアが『キャズム(Crossing the Chasm)』で提唱したもので、初期市場のアーリーアダプターと主流市場のアーリーマジョリティのあいだにある深い溝を扱う。両者は独立した理論ではなく、後者が前者を土台にハイテク製品へ適用したものである。
講義後に共有された予定は次のとおりである。7月4日、赤坂インターシティコンファレンスでのロックウェル関連イベントに登壇。翌週月曜日には、文化祭のスポンサーを探している青山学院大学の学生が登壇する可能性がある。打ち合わせの進め方がしっかりしていたという評価が添えられた。7月10日に宮崎、その後に福岡で懇親会。7月17日にはペガサス・テック・ベンチャーズのスタートアップ・ワールドカップが開催され、ボランティアが募集されている。7月18日は名古屋のイベントで、この日の雑談で話題になったアクタースクールとボイストレーニングに関連するゲームが用意される。今週日曜日にはアメリカ在住メンバーの帰国に合わせたサミットが予定され、11月25〜26日には札幌で星空キャンプとパネルディスカッションが予定されている。
名古屋イベントの告知をめぐっては、その場で小さな実演が行われた。告知が順番どおりの説明になってしまっているという指摘を受け、マイキー氏が倒置法を使って同じ内容を組み替えてみせた。今日の話でプレゼンの重要性を感じたはずだ、プレゼンに必要な要素はボイストレーニングと演技である、それをゲームのなかで磨けるとしたら試したくないか、その試す場所が名古屋だ――という順序である。冒頭の雑談で語られた「削る」「リズムをつける」という指導が、告知という最も地味な場面で実演された格好になった。