STUDY REPORT / 2026年6月度 勉強会

NANDの穴とストレージ三層
――HBMに振り切った先で誰が拾ったのか

データセンターの記憶階層を「倉庫・近場の倉庫・作業台・頭脳」に分解し、サムスンとSK hynixがHBMへ資源を寄せた結果として空いたNANDの需要を、キオクシアとサンディスクがどう拾ったのかを追った回。
EXECUTIVE SUMMARY

爆死産業が、長期契約で安定産業に変わった

6万7000円
講義時点で言及されたキオクシアHD株価。上場時1,455円からの水準変化
約50倍
講師が述べたサンディスク株の上昇倍率(再上場後)
約500億ドル
サンディスクが長期契約で積み上げたとされる5年分の売上(講義時点の説明)
650%
サンディスクのデータセンター向けセグメント成長率(前年比・講義内の数値)
約300%
同社のエッジ向け需要の伸び。データセンター以上の成長率という指摘
7〜8割
世界のデータ保存は依然HDDという講師の見立て(指標により差あり・後述)

この回の後半は、講師が板書を使ってデータセンターの記憶階層を一から組み立てるところから始まった。CPU・GPUという「頭脳」があり、その手前にHBMという「作業台」があり、さらに手前にSSDという「近場の倉庫」があり、いちばん外側にHDDという「コンテナ倉庫」がある。頭脳があまりに速くなりすぎた結果、そこへ材料を運ぶ経路のすべてが順番にボトルネックになっていく——この一本の絵が、その日の議論すべての土台になった。

そこから導かれたのが、いま起きていることの順序である。第一波はトレーニング需要によるGPUの爆発、第二波はそれを支えるHBMの逼迫、そして第三波がSSDとHDDという「倉庫」側の拡張だ。講師が強調したのは、この第三波が単なる玉突きではなく、供給側の資源配分が生んだ構造的な空白だという点だった。サムスンとSK hynix、そしてマイクロンは、最も利益率の高いHBMへ資源を寄せた。その結果としてNANDフラッシュ側に穴が開き、そこへキオクシアとサンディスクが入り込んだ、という読みである。

もう一段深い論点は、メモリ産業の性格そのものが変わったのではないか、という指摘だった。フラッシュメモリは長年、今年は黒字で来年は大赤字という振れ幅の大きい「爆死産業」として扱われ、そのボラティリティゆえに投資家が寄りつかなかった。ところがサンディスクがハイパースケーラーと結んだ長期契約は、価格に下限と上限のレンジを設け、数年分の受注を先に固定してしまう構造を持つ。価格が担保されるなら、工場が立ち上がって供給が増えてもシリコンサイクル特有の暴落は起きにくい。講師はこれを「半導体業界がメモリで迎えた転換点」と表現した。

最後は懸念点の共有で終わった。地政学面ではヘリウム供給とホルムズ海峡、需要面では学習から推論への重心移動、そしてその反論としてのエッジコンピューティングの伸び。参加者の前田氏が「メモリには楽観シナリオが多すぎる」と釘を刺し、講師もそれを良いポイントとして受け止めたところで議論は閉じている。

セッションを貫く1本の線

速くなった頭脳の周囲で、材料を運ぶ経路が外側へ外側へと順番に詰まっていく。詰まりの場所が移動するたびに、そこを埋める企業が入れ替わる。投資対象として見るべきは製品ではなく、いま詰まっているのはどの階層かという位置情報である。

PART 1

倉庫・近場の倉庫・作業台・頭脳

講師はまず、参加者に対して「いまの説明をそのまま繰り返せる人はいますか」と問い、手が挙がらなかったのを見てもう一度説明し直した。比喩は日常的なものである。大量に買い込んだ本を家の外の倉庫にしまってある状態がHDD。そこから今日読む分だけを選んで自宅の棚に置いた状態がSSD。棚から取り出して机の上に広げ、いつでも参照できるようにしたのがHBM。そして机の上の材料を使って何を作るかを考えるのが、CPUとGPUという頭脳にあたる。

この比喩の要点は容量と距離のトレードオフにある。外の倉庫はいくらでも入るが取り出すのが遅い。机の上は速いが、そもそも広くない。だから「できるだけ頭脳に近いところに置きましょう」という設計思想が生まれ、その最前線にDRAMを積層したHBMが立っている。講師はDRAMとNANDの違いを問われた際にも同じ言葉で答えている。両者の違いは技術仕様の羅列ではなく、作業台なのか倉庫なのかという役割の違いだ、と。

そして本題は、ここに起きた速度の不均衡である。CPUとGPUの回転があまりにも速くなったため、作業台から頭脳へ送る経路が遅すぎるという問題が最初に露呈した。これを解消すると、今度はその一段外側、倉庫から作業台へ送る経路が新たな制約になる。周辺を順番に強化していかなければ頭脳の性能が活きない、という連鎖がいま進行している、というのが講師の整理だった。

📌 Claude補足 ― 「HDM」はHBMの音声認識誤り

動画タイトルに含まれる「HDM」は、本文の内容から明らかに HBM(High Bandwidth Memory/広帯域メモリ) の誤記である。HBMはDRAMダイを垂直に積層し、シリコン貫通電極で接続することで、通常のDRAMより桁違いの帯域を得る方式。本レポートでは一貫してHBMと表記する。なおHBMの製造にはラムリサーチやアプライドマテリアルズが担うボンディング・エッチング工程が不可欠で、この点は講義中にも言及があった。

比喩の使い方そのものが方法論だった

講師はこの説明の途中で、参加者が同じ比喩で他人に説明し返せるかを確認している。理解したかどうかを自己申告ではなく再現可能性で測るやり方であり、勉強会の運営手法としても読める場面だった。

PART 2

HBMに全振りした結果、どこが空いたのか

サムスン、SK hynix、マイクロンはいずれもDRAMとNANDの両方を手がけている。そのうえで三社がHBMへ資源を集中させたのは、単純に利益率が最も高いからだ、と講師は説明した。特にサムスンについては、HBMに振り切らなければSK hynixに最も儲かる領域を持っていかれるという競争圧力が働いたと見る。参加者から「そこまで愚かにする必要があったのか」という疑問が出た場面では、講師はNANDにおけるサムスンのシェアは依然として圧倒的で、二階建てで見れば負けてはいない、と返している。

その結果として、SSD向けNANDの生産が相対的に薄くなった。ここに生まれた需要を拾ったのがキオクシアとサンディスクだ、というのがこの回の中心的な主張である。講師はNANDのグローバルシェアをサムスン首位、次いでSK hynix、キオクシア、マイクロン、サンディスクはキオクシアと同程度、と並べたうえで、マイクロンとキオクシアの合計がサムスンとほぼ等しい、という言い方で規模感を示した。

NANDフラッシュ 売上ベース市場シェアの推移(出典:Counterpoint Research / TrendForce 報道値をもとにClaude作図)。講義時点の発言とは時期がずれるため、順位の確認用として掲載。マイクロンの2025年Q3値は「キオクシアを下回る」との報道のみで具体値が確認できなかったため空欄。

📌 Claude補足 ― シェアの実測値と発言のズレ

公開されている調査値では、2025年第3四半期のNAND売上シェアはサムスン32.3%、SK hynix 19.3%、キオクシア15.3%、サンディスク12.4%。2026年第2四半期にはサムスン28%、SK hynix 19%、マイクロン15%、キオクシア14%、サンディスク11.4%となっている。「マイクロン+キオクシア≒サムスン」という講師の概算は、2026年前半の数字ではおおむね成立する(14+15=29 対 28)。ただしサンディスクのシェアは直近では低下しており、シェアの拡大ではなく単価と利益率の上昇が株価を押し上げた構図である点は、発言のニュアンスと区別しておく必要がある。

📌 Claude補足 ― DRAM側でも同じ「穴」が起きていた

参加者が「マイクロンが撤退してDRAM価格が急騰し、半年ほどして中国メーカーが参入した」と述べた点は裏付けが取れる。マイクロンは2025年12月3日にコンシューマ向けブランド Crucial からの撤退を発表し、2026年2月に終了した。理由はAIデータセンター向けへの供給集中である。DRAMスポット価格は2025年第3四半期時点で前年比172%上昇しており、この空白が中国系サプライヤーの参入余地を広げた。HBMがNANDに穴を開けた構図と、データセンターDRAMがコンシューマDRAMに穴を開けた構図は相似形になっている。

PART 3

東芝・キオクシア・ウエスタンデジタル・サンディスクの相関

ここから講師は資本構造の話に移った。もともと東芝のメモリ事業を分離して生まれたのがキオクシアである。その後に東芝本体が巨額の損失を出し、その負担を分離先も被る形になった局面で入ってきたのがベインキャピタルだった。ベインが株式の相当部分を握り、日米韓にまたがる枠組みができあがる。その枠組みの中にSK hynixも資金の出し手として入っている。

講師がキオクシアを「応援している」理由として挙げたのは、この後の振る舞いだった。資金を出してもらった相手に対して議決権ベースで15%以上を持たせない条件を課し、口も出させない構造を作った、という点である。講師はこれを繰り返し「性格が悪い」「根性が曲がっている」という言葉で評したうえで、そういう企業が日本からもっと出てきてよい、と述べている。これは企業評価というより経営姿勢への個人的な好みの表明であり、講師自身の見解として受け止めるべき部分である。

もう一方の系統がウエスタンデジタルである。同社はHDDとSSDの両方を手がけていたが、SSD側をサンディスクとして分離した。そしてサンディスクとキオクシアは、四日市工場と北上工場を共同で使い、共同開発も行ってきた長年のパートナーである。参加者から「競合なのに仲が良いのはなぜか」という質問が出た際、講師は「世界で最もうまくいっている合弁のひとつと言われている」と答え、韓国勢が同じことをできるかという問いには「ホンダとトヨタが組めばいいという話と同じで、そうはならない」と返した。

プレイヤー担う階層関係の構造
キオクシアNAND/SSD東芝メモリ事業の分離により誕生。ベインキャピタル系が筆頭株主、SK hynixは持分制限付きで関与
サンディスクNAND/SSDウエスタンデジタルから分離。キオクシアと四日市・北上で生産を共有し共同開発
ウエスタンデジタルHDDSSD側を切り出した後、HDD専業に。容量あたり単価の安さで大容量保存を担う
サムスン/SK hynix/マイクロンDRAM/HBM中心最も利益率の高いHBMに資源を集中。結果としてNAND側に供給の空白

📌 Claude補足 ― 関係の実態と、その後の展開

発言の裏付けと、講義後に判明した事実を分けて示す。(1) 持分制限:ベインキャピタル系SPCが筆頭株主で、SK hynixはそのSPCの議決権の大半へ転換できる債券を保有する一方、2028年までキオクシアの同意なく議決権ベースで15%以上を保有しない契約制限がある。講師の説明は資本構造の実態として裏付けがある。(2) 工場:共同運営拠点は三重県四日市と岩手県北上(講義中は「岩田県」と発音されていたが岩手県)。(3) その後:2026年1月に両社は四日市の合弁契約を2034年12月まで延長し、2026年8月には2032年までに日本国内へ総額約5兆円を投資、北上のK3棟を2029年度稼働目標とすることを発表した。講義時点で語られた「統合するのではないか」という観測は、統合ではなく合弁の長期延長と大型共同投資という形で決着している。

PART 4

長期契約はシリコンサイクルを止めたのか

この回で最も投資判断に直結する論点がここだった。フラッシュメモリは需要増→値上がり→設備投資→供給過剰→暴落というサイクルを繰り返してきた。サンディスク自身、2022年に十数億ドル規模の黒字を出した翌年、市場に売り込みすぎた結果として利益率が数%まで落ち、10億ドル以上の赤字を計上した経験がある、と講師は説明した。

その反省から同社が取った手法が、価格レンジ付きの長期契約である。講師の説明によれば、ハイパースケーラーに対して「これだけメモリが欲しくて、しかも足りていない。吊り上げようと思えばできるが、吊り上げられたくはないだろう」と持ちかけ、最低価格と最高価格の双方を契約で固定し、数年分の供給を先に確定させた。契約を破った場合の違約金は110億ドル規模、契約先は5社程度、5年分で約500億ドルの売上が積み上がっている、というのが講義時点の数字だった。2027年の生産予定のうち3分の1は既に受注済みとも述べられている。

参加者からは当然の疑問が出た。供給を増やせば、いずれ誰かが抜け駆けして値下げするのではないか、と。これに対する講師の回答は明快で、価格が契約で担保されている以上、工場が立ち上がって供給が増えても暴落の経路が塞がれている、というものだった。だからこそメモリ業界が安定産業として再評価され、この数か月で投資家の見方が変わった、と。

📌 Claude補足 ― 契約の実像(発言より規模が大きい)

その後に公表された内容では、サンディスクの長期契約(NBM)は8社・10契約に及び、下限価格ベースで最低939億ドルの想定売上、2027会計年度のビットの半分超、2028会計年度は約3分の2をカバーするとされる。価格は固定部分と変動部分の組み合わせで、変動部分に契約上の下限と上限が設定されている点は講師の説明どおり。下限価格はギガバイトあたり約0.29ドル水準と報じられた。講義時点の「5社・5年で500億ドル」という数字は、その後の開示で社数・金額とも大きく上振れしている。一方、「違約金110億ドル」という具体額は公開情報で確認できなかった要確認。また「サンディスクの営業利益率80%超」という発言も、同社の公表値としては確認できていない要確認(参考までにキオクシアは2026年3月期通期の営業利益率が約37%、2026年4〜6月期予想で74.3%という水準)。

📌 Claude補足 ― 「キオクシアがトヨタを超えた」の時点が合わない

講師は冒頭で「金曜日と今日で、とうとうキオクシアの株式(時価総額)がトヨタを超えた」と述べている。しかし公開報道では、キオクシアHDの時価総額がトヨタ自動車を上回り国内首位に立ったのは2026年6月12日(株価8万3140円、時価総額45兆円台)である。この勉強会は6月1日であり、日付が約2週間ずれる。ザラ場での一時的な逆転が先行していた可能性はあるが、6月1日時点でトヨタ超えが成立していたという裏付けは取れなかった要確認。なお講師が挙げた「上場時1,400円台→6万7000円」という株価水準は、6月12日の8万3140円と整合的な推移であり、株価そのものの認識にズレはない。発言を書き換えず、食い違いとして記録しておく。

従来のシリコンサイクル

需要増で価格上昇 → 各社が設備投資 → 工場完成と同時に供給過剰 → 価格暴落 → 赤字。スポット取引中心で、誰かが抜け駆けすれば連鎖的に崩れる。

長期契約後の構造

下限・上限つきで数年分を先に固定 → 供給が増えても価格の床が抜けない → 収益の可視性が上がる → 投資家が長期資金を入れられる。ただし上限があるため、暴騰局面の取りこぼしも生じる。

PART 5

楽観シナリオへの三つの反証材料

講師自身が最初に挙げた懸念は地政学だった。NANDやHBMの製造工程、特にエッチングや冷却の工程ではヘリウムが不可欠である。そのヘリウムの供給が止まっており、ホルムズ海峡だけで世界供給の33%が通る、という指摘である。株式分析をするなら地政学的なポイントを見なければ正しい分析にならない、というのがこの話の結論だった。

次に参加者の前田氏が提起したのが、学習から推論への重心移動である。推論が中心になれば、トレーニング時ほどのメモリ需要は必要なくなるのではないか、と。講師の反論は二段構えだった。第一に、推論用に設計されたデータセンター自体が増えているため総量としては増える。第二に、IoTによる情報収集がまだ想定ほど進んでおらず、収集地点が細かくなるほど蓄積すべきデータは増える。

そしてもう一つ提示されたのがエッジコンピューティングである。講師によれば、サンディスクにおいてデータセンター向けの成長率は極めて高いが、それと同時期にスマートフォンやPC向けのエッジ需要も前年比300%程度伸びている。エッジは本格化がこれからであり、いずれ靴や衣服にまでチップが入るという構想がある、という話に接続された。この見通しの出所として、講師が関わったスタートアップの顧問だったGoogleの研究者が2018年頃に「2026年以降にエッジが来る」と述べていた、というエピソードが語られている。

前田氏はこれを受けたうえで、規制とエネルギーという二つの制約を挙げ、最後に「いまメモリは楽観シナリオが非常に多い。悲観的なシナリオを自分の頭の中で作っておくことが重要だ」と締めくくった。講師もこれを良い指摘として受け止めており、この回の結論は強気一辺倒ではない。

📌 Claude補足 ― ヘリウムは発言より深刻化している

ヘリウムについては講師の懸念が的中している。カタールは米国外で最大の供給国で世界供給の約30〜35%を占めるが、2026年3月2日にカタールエナジーがLNG処理停止に伴いフォースマジュールを宣言し、3月18〜19日にはラスラファン工業都市が攻撃を受けた。ホルムズ海峡の西側商業航行の実質的な閉鎖と合わせ、世界のヘリウム供給の約30〜38%が市場から失われたと報じられている。韓国は2025年時点でヘリウム輸入の64.7%をカタールに依存していた。「33%」という講師の数字は、供給比率としても喪失量としても妥当な水準にある。

この回で確認しておくべき前提

長期契約が価格の床を作るという議論は、契約期間内に限って成立する。契約には上限価格も設定されており、需給が極度に逼迫した局面では市場価格を取りこぼす。また契約満了時期が集中すれば、そこが新たな転換点になりうる——前田氏の「5年がきっかけになって流れの転換が起こる」という懸念は、この構造から出ている。

Q&A

質疑応答

Q1.サムスンはSSDで良い製品を作っていたのに、なぜHBMへ資源を寄せて自社SSDを手薄にしたのか。
A.(講師)HBMの利益率が圧倒的に高く、振り切らなければSK hynixに最も儲かる領域を奪われるため。ただしNANDのシェアでは依然サムスンが断然トップで、二階建てで見れば負けてはいない。
Q2.キオクシアとウエスタンデジタル(サンディスク)は競合のはずなのに、なぜ仲が良いのか。韓国勢も同様に組めば強いのでは。
A.(講師)両社は世界で最もうまくいっている合弁のひとつと言われる関係で、工場も共用している。韓国勢が同じことをするのは、ホンダとトヨタが組めばいいという話と同じで現実的ではない。
Q3.CPU/GPU、HBM、SSDと盛り上がってきたなら、最後はHDDが来る流れか。
A.(講師)保存量そのものは増え続け、世界のデータの7〜8割は依然HDDに保存されている。コストが安いため残る。今後の注目点は、キオクシアがサムスンのシェアをどこまで奪えるかにある。
Q4.HBMに特化した分、それ以外のDRAMは誰が埋めているのか。
A.(講師・参加者)HBMは基本的に足りていない。HBM以外のDRAMは中国系メーカーが入ってきている。マイクロンの撤退で価格が急騰し、半年ほどして中国勢が参入した。HBMは製造難度が高いため、対応できる企業がそちらへ移っている。
Q5.ADRとADSの違いは何か。
A.(講師)日本の信託銀行に株式を預け、それを裏付けに米国の銀行が発行する権利書がADR。その仕組みの中で実際に市場で取引される株式単位がADS。パスポート(ADR)と、その中の具体的な入国スタンプ(ADS)の関係に近い。米国市場への直接上場はできないため、この経路を通る。
Q6.ADRは発行済株式の何割かを預ける形になるため、希薄化のリスクがあるのでは。
A.(講師・参加者)そのとおりで、どれだけ出すかが論点になる。SK hynixの場合は株主が反発したが、希薄化しても買いたい投資家が多く結果的に株価が上がるとして強行した経緯がある。韓国では自社株買いした株を1年以内に消却しなければならないルールができ、手元株をそのままADRに回す手が使えなくなった、という議論も出た。
Q7.供給を増やせば、いずれ誰かが抜け駆けして値下げし、従来どおりシリコンサイクルが回るのではないか。
A.(講師)価格の下限と上限を契約で定めたうえで5年分を先に売っているため、供給が増えても価格が担保されている。設備投資を増やすのか、受注を前倒しし続けるのかは経営判断としてシビアな論点になるが、少なくとも従来型の暴落経路は塞がれている。
Q8.推論中心になれば、トレーニング時ほどメモリは要らなくなるのでは。
A.(講師)推論用に設計されたデータセンターの総量自体が増えている。加えてIoTによる情報収集がまだ一部しか進んでおらず、収集地点が細かくなるほど需要は増える。さらにデータセンター以上に伸びているのがエッジコンピューティングで、サンディスクのエッジ向けは前年比300%程度伸びている。前田氏は規制とエネルギーという制約を挙げ、楽観シナリオが多すぎる点に注意を促した。
Q9.(感想)村田製作所などの株もこの1か月で倍近くになっていたが、そういう背景があったのか。
A.(講師)この階層全体の需要拡大が周辺部品にも波及している。なお参加者の村上氏はSK hynix、サムスン、キオクシア、サンディスク、マイクロンをすべて少量ずつ購入しており、講師は「どの会社が良いか絞れなかったので一通り買った」という姿勢をリサーチができている例として評価した。
ACTION ITEMS

宿題・アクションアイテム

  1. 日本の時価総額上位企業(トヨタ、ソフトバンクグループ、キオクシア)が何をやっている会社なのかを、他人に説明できる水準まで調べる。講師が繰り返し求めたのはこの一点だった。
  2. キオクシアとサンディスクの直近決算を自分で開き、四半期売上が前通期売上を超えているかを確認する。
  3. サンディスクの長期契約について、契約社数・カバー率・下限価格を一次情報(決算資料)で確認し、講義中の「5社・5年500億ドル」との差分を把握する。
  4. HDDとSSDの容量あたり単価を調べ、どの容量帯で逆転が起きつつあるかを自分で見積もる。
  5. ヘリウム供給とホルムズ海峡の状況を継続して追い、半導体製造工程への影響を確認する。
  6. データセンター向けとエッジ向けの成長率を分けて追跡し、どちらが株価に織り込まれているかを区別する。
GLOSSARY

用語集

HBM(広帯域メモリ)DRAMを積層して帯域を稼ぐメモリ。講義の比喩では「作業台」。CPU/GPUに最も近い位置に置かれる。
NANDフラッシュ電源を切ってもデータが残る記憶素子。SSDの中身。講義の比喩では「近場の倉庫」。
SSD/HDDSSDはNANDを使った高速ストレージ、HDDは磁気ディスク。容量あたり単価はHDDが安く、大容量保存で優位が続く。
シリコンサイクル需要増→設備投資→供給過剰→価格暴落という半導体特有の景気循環。メモリは特に振れ幅が大きい。
長期契約(LTA/NBM)ハイパースケーラーと数年分の供給と価格レンジを先に取り決める契約。スポット取引依存からの脱却手段。
ADR/ADSADRは海外株を裏付けに米銀が発行する預託証券の枠組み、ADSはその中で実際に取引される株式単位。
ジャパンディスカウント日本企業が事業実態に比べて低く評価される傾向。海外上場はこれを剥がす手段として語られた。
エッジコンピューティングデータセンターではなく端末側で処理を行う方式。スマートフォン・PC・車載、さらには衣服まで広がるとされる。