創造的破壊の講義から派生して、GEをめぐる議論が1時間近く続いた。ジャック・ウェルチの手法は創造的破壊だったのか。GEキャピタルは何をしていたのか。そして2002年から2011年までGEに在籍した参加者が、内側から見た光景を語った。前回の勉強会で出た「ジャック・ウェルチを調べる」という宿題への、思いがけない形での回答になった回である。
議論の入口は、前田氏の創造的破壊の講義に対する質問だった。GEのジャック・ウェルチが業績不振の事業を次々に切り離し、製造業主体だった会社をGEキャピタルやヘルスケアへ転換させていったことは、創造的破壊とリンクするのではないか。この問いに対する前田氏の答えは、明確な否定だった。
ウェルチのやり方は創造的破壊とは少し違う。あれは生き残るためにどう化粧をつけ続けるかという発想である――これが前田氏の視点だった。要素としては二つある。一つは選択で、不要なものを削り、不要と判断する基準を明確化した点。もう一つがGEキャピタルであり、こちらの方が本質だという。
GEキャピタルは実質的に銀行業であり、バランスシートの向きが製造業とまったく逆になる。この性質を使うと、他の事業部でうまくいっていない部分を会計処理の上でプラスに見せることができる。ただしそれは会計上の処理にすぎないため、歪みは消えずに溜まっていく。その歪みを引き受けたのが後任のジェフ・イメルトで、彼は苦しみ続けることになった。淘汰の構造をどう乗り越えるかという前回の論点で見れば、ウェルチの手法は適切だったと言える。しかしその後の生き残りまで含めて見たとき、本当に正解だったのかは見直す必要がある――前田氏はこれを、見方の分かれる論点だと断ったうえで個人的な意見として述べた。
主宰講師は、この構図を前回の講義で扱った枠組みに接続した。流れとしては、まずマルチプル・アービトラージのように評価倍率の異なる産業を掛け合わせ、儲かっている状態を金融業を入れて作る。その状態で大量に資金調達し、買収を重ねていく。ところがリーマンショックが来ると周辺から次々に歪みが出て、それまで貯めたキャッシュを社会的分配に充てざるを得なくなり、危険な状態に陥る。そして掛け算しすぎた反動として、今度は割り算をする番が来る。航空機エンジン、エネルギー、ヘルスケアへ分けていった流れがそれにあたる。
参加者からも、GEキャピタルによる資金の操作があり、利益の半分がGEキャピタルへ行った結果、実態がブラックボックス化してよく分からない状態になった、という補足があった。コングロマリット・ディスカウントが表面化する前段で、社内の資源配分――主宰講師が「社会主義的分配」と呼ぶもの――を補填し続けなければならず、そこが徐々に蝕まれていった、という読み方である。
議論の途中で、2002年から2011年までGEに在籍していた参加者(中川氏)が発言した。この回で最も具体性のあるパートである。
当時のGEは「世界で最も称賛される企業」で長く1位を取り続け、時価総額も世界一だった。エジソンが創業したアメリカン・カンパニーであるということが合言葉になっており、グローバル・カンパニーではなくアメリカン・カンパニーだという自負が強かったという。しかし本人の感覚としては、当時からずっと「ちょっとおかしいな」という違和感があったと振り返る。
その理由が、企業家精神のようなものがまったく許されない組織文化だった。オペレーショナル・エクセレンスという標語のもと、回し方が正しいのだという前提で世界中で同じやり方をしていた。100数か国で展開していたが、どこでも同じやり方、同じような人材を見出すリーダーシップ。誰が褒められるのか、トップタレントとはどういう人で、どういう称賛を浴びるのか。それが全て明確に定義され、クロトンビル(GEの企業内研修施設)でリーダーシップが体系的に作られていた。種も個性も関係がなかった、と表現された。本人はそれを否定的にだけ語ったわけではなく、「それはそれで、そういう時代だったのだろう」と距離を取った言い方をしている。
財務面についての証言はより生々しい。常にギリギリのバックログ(受注残)を、どこまで今回の売上に入れるかという戦いだった。四半期決算である以上、たとえば12月31日の時点でどこまで計上するかが問題になる。年間8〜10%の成長を求められており、それができなければ「お前バッターアウトだ」という形で解雇される。その厳しさが常態化していた。
そして本人によれば、その状態が後になって書籍で明らかになった。非常に粉飾に近いギリギリのところで、会計監査法人も大きな会社であるため「まあこれはいいだろう」という判断で流していた。本当はギリギリだったが、内部告発があって実はまずかったという話になった。ただし会計監査法人にとってGEは金額の大きい最高の顧客でもあった、という但し書きも添えられた。
証言は日本事業にも及んだ。ジャック・ウェルチの時代、GEは日本でいわゆる消費者金融を買収した。製造業としてのトリプルAという格付けで安く資金を調達し、それを高い金利で貸していたため、極めて高い収益を上げていたという。ウェルチ時代の最後の頃には日本が稼ぎ頭になっていた、というのが本人の記憶である。保険会社も買収した。
しかしその後、日本の消費者金融をめぐる法律が変わって規制が厳しくなり、この商売は成り立たなくなる。生命保険についても規制が入り、こちらも厳しくなった。日本事業は徐々に縮小し、いまではほぼ残っていない。
さらに踏み込んだのが東京電力との関係だった。本人によれば、GEにとってのワールド・ビゲスト・カスタマー、つまり世界最大の顧客が東京電力だったという。原子力発電やガスタービンを高い値段で買ってもらっており、最新のガスタービンも真っ先に買ったのは東京電力だった。日本企業のことは正直なめていた、という率直な回顧である。だからこそ2011年の東日本大震災の影響は非常に大きかった。そして本人の評価は「色々な不幸が重なったのは重なったが、今までのつけが回ってきたのだと思っていた」というものだった。
証言の中で繰り返し使われた言葉が「恐竜」だった。当時から社内で「やっぱり恐竜だよね」と言われていたという。時価総額世界一で、エジソンの時代から存在する企業。だからこそ怖い。小回りが効かないからである。
ただし本人はGEを一方的に否定してはいない。ポジショニングとしては航空機エンジンやガスタービンといった参入障壁の高い領域を押さえていた点を評価している。また世界展開の型として、地元企業と51%対49%で組みながら、あたかも100%自社であるかのように振る舞い、現地の人材も全て自社流に変えていくやり方については、「あれはすごい」「大したものだとも思う」と率直に評価していた。そして現在3社に分割されたことについては、エジソンなどと言わず2020年頃にできた会社のような顔で、企業家的にやっていけばいいのではないか、という前向きな言い方で締めている。
参入障壁の高い領域(航空機エンジン、ガスタービン、原子力)を押さえていたこと。トリプルAの格付けによる低コストの資金調達力。世界中で同一の型を適用できるオペレーションとリーダーシップ育成の体系。
同一の型しか使えないため柔軟性がなかったこと。金融への依存が深まりリーマンショックで致命的な打撃を受けたこと。会計処理で歪みを先送りし続け、格付けと株価という前提が崩れた瞬間に一気に露呈したこと。
議論はここから現在の日本企業へ移った。主宰講師が「日本で化粧しまくっている会社がある」と問いかけ、参加者からは別の企業名が挙がったが、それは不正であって化粧とは違うと訂正されたうえで、答えとして示されたのがソフトバンクグループだった。主宰講師の論点は、純資産が30兆円もあるという数字自体が化粧ではないか、という点にある。非流動性の資産がいくらあるのかを見るべきで、その割合が高いなら見え方が変わってくる、という主張だった。
証言者もこれに同意し、CFOは本当にギリギリのことをやっているはずで、会計監査人も自分の立場がかかっているところまで踏み込んでやっているだろう、と述べた。そしてGEのケースと照らし合わせて見ると面白いのではないか、という形で議論が閉じられた。
前田氏は、ウェルチの手法は創造的破壊とは少し違うと回答。あれは生き残るためにどう化粧をつけ続けるかという発想であり、不要なものを削る選択と、GEキャピタルによる会計上の見せ方の二つが要点だという説明だった。ただし淘汰の構造をどう乗り越えるかという観点で見れば、ウェルチの手法は適切だったとも言える、と補足した。
キャピタルは実質的に銀行業になるため、バランスシートの向きが製造業と逆になる。この性質を使うと、他の事業でうまくいっていない部分を会計上プラスに見せることができる。ただし会計処理にすぎないので歪みは溜まり続け、後任のイメルトがそれを引き受けて苦しむことになった。
そうだと回答。GEキャピタルに在籍した後、東芝との合弁会社であるGEエナジー側へ移ったという。GEキャピタルはもともと商品ローンを顧客に組み込むための部門だったが、製造業より金融業の方が評価倍率も利益率も高いため、そちらへ軸足を移し、あたかも金融の会社であるかのように振る舞っていた、という整理がなされた。
被害は非常に大きく、潰れるのではないかというところまで行ったが、製造業を抱えていたため潰れなかった。ただし株価は2008年以降上がらなくなった、という証言だった。イメルトはバックログを全て前倒しで計上するなど、株主へのコミットメントを必死で守ろうとしていたが、その裏でウェルチがイメルトを批判するような発言をちらつかせることもあったという。
ウェルチ時代の最後の頃は日本が稼ぎ頭だったという。製造業としてのトリプルAで安く資金調達し、それを消費者金融として高金利で貸していたため極めて儲かっていた。しかしその後の法規制強化で成立しなくなり、生命保険も規制が入って縮小、現在はほぼ残っていない。
ソフトバンクグループ、というのが主宰講師の答え。純資産30兆円という数字自体が化粧ではないか、非流動性の資産がいくらあるのかを見るべきだ、という主張である。証言者も、CFOも会計監査人もギリギリのところをやっているはずだと同意した。数値の検証は Claude補足を参照のこと。