STUDY REPORT / 2026年3月度 勉強会

CFOの二刀流とオーケストレーション ――埋め込みと弱い紐帯を同時に持つ、という役割設計

過剰埋め込み/組織内の構造的空隙/両利きの経営/パワー半導体再編/AIが測れないもの
EXECUTIVE SUMMARY

この回で提示された役割設計

中心命題
二刀流
埋め込み理論とSWT理論は択一ではなく併用
過剰埋め込みのリスク
硬直化・閉鎖
身内の論理だけで意思決定が回る状態
CFOの新しい位置
結節点
組織の内と外を同時に接続する唯一のポジション
キーワード
オーケストレーション
資源の強弱と配分を設計する力=ダイナミック・ケイパビリティ
日本企業の弱点
探索が弱い
深化は得意。外へ出る力が不足しているという指摘
AIの限界
倫理と憎悪
人間関係の恨みや戦争の判断は計算に乗らない

この回の後半は、一人の参加者——日本CFO協会のブログに4年間連載しているという立場の講師——が持ち込んだ主張によって方向が決まった。彼女の主張は一文で言える。現代のCFOには、埋め込み理論と弱い紐帯の理論の両方が必要であり、これは二者択一ではない。

論理はこうである。CFOが予算のストーリーを書くためには、組織の内部にどっぷり埋め込まれていなければならない。全部を知っていないとストーリーが書けないからである。しかし埋め込みが過剰になると、組織の硬直化と身内の論理による閉鎖が起こる。だからこそ、あえて弱い紐帯が要る。投資家、CVC、ベンチャーキャピタルといった外部と弱く繋がり続けることで、イノベーションの種を吸い上げて自社の競争力に変換する。

そしてこの二つを同時に扱う行為こそがオーケストレーションであり、それがダイナミック・ケイパビリティの核心だ、というのが彼女の到達点だった。オーケストラでは、ここはバイオリンを強く、ここはピアノを、というように役割を分けて強弱をつける。全ての楽器が同じ音量で同時に鳴っても音楽にならない。ネットワークの密度と広がりを自在に操る力がオーケストレーションであり、それを持てる唯一のポジションがCFOだ、と彼女は述べた。

議論はそこから、この二刀流が日本企業でなぜ成立しにくいのかへ移り、実例としてパワー半導体業界の再編——当時進行中だったデンソーによるローム買収提案——が検討される。さらにAIがこの二刀流のどこまでを代替できるかという問いが出され、「AIには倫理があるから、倫理のない人間が勝つ」という主宰者の挑発的な応答と、「AIは戦争を判断できない」という講師の応答が並んだ。後半は地政学的な話題——トランプ大統領の交渉術、イランをめぐる領土回復主義——に展開している。

セッションを貫く1本の線
内側に深く入り込む力と、外側へ出ていく力は、性質が正反対であるために一人の人間・一つの組織のなかで両立しにくい。両立しにくいからこそ、それを意図的に配分する「指揮者」の役割が別立てで必要になる。この日の議論は、その指揮者の職務記述書を書こうとする試みだった。
PART 1

予測不可能な時代に、CFOの役割は何に変わったか

講師はまず、CFOという職能が置かれた環境の変化から話を始めた。1970年代とは違い、現在は極めて予測困難な時代である。それに伴ってCFOの役割も、金庫番・係数管理から、非財務情報の重要性の高まりを含む本質的に別のものへ変わってきている。

彼女の主張の核心は、この変容を解き明かす鍵の在処にあった。CFOが大好きな会計学の中に鍵はない。むしろ社会学のネットワーク理論の中にある。 そこで必要になるのが、この日の講義で扱われた二つの理論——グラノヴェッターの埋め込み理論(エンベデッドネス)と、弱い紐帯の強さの理論(SWT)である。

なぜ両方なのか

埋め込みがないと書けないもの

組織内部のストーリー、特に予算のストーリー。CFOは全てを知っていなければならず、そのためには組織に深く埋め込まれている必要がある。営業の事情も開発の事情も知らずに数字を組むことはできない。

弱い紐帯がないと取れないもの

外部からのイノベーションの種。投資家、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)、ベンチャーキャピタルといった組織外の結節点との関係。これを維持することで、外部の動きを自社の競争力に変換できる。

講師の言葉では「エンベデッドネスとSWTの両方が必要であり、それがまさにパラドックスである」。この二つは性質上、互いに相手を打ち消し合う。内に深く入るほど外から遠ざかり、外へ広げるほど内部の細部を失う。だから両立が難しく、難しいからこそ役割として設計する価値がある。

PART 2

過剰埋め込みと、組織の中にある構造的空隙

講師が明確に警告したのがオーバーエンベデッドネス(過剰埋め込み)である。埋め込みが過剰になると、組織の硬直化、あるいは身内の論理による閉鎖リスクが生じる。だから「あえて」弱い紐帯の理論が必要になる、という構成である。彼女はこれを「過剰埋め込みのパラドックスがあるからこそ」と表現した。

穴は組織の外だけにあるのではない

ここで出てきた指摘が、この回の実務的な収穫だった。構造的空隙は組織の中にも必ずある。講師が挙げた例は、営業と開発である。「想像してみてください。結構、溝はありますよね、それなりに」——この溝が、組織内部の構造的空隙にあたる。

CFOがそこで果たすべきなのは、全社の「財務」という共通言語を使ってこの隙間を繋ぐブリッジ機能である。部門ごとに異なる論理と語彙で動いている集団を、数字という一つの言語に翻訳して接続する。同時に、外部——投資家、監査法人、ベンチャーキャピタル——という別の構造的空隙もまたぎ続けなければならない。内側の橋と外側の橋を、同一人物が同時に架ける。

財務という言語のブリッジ性
なぜ財務が組織内ブリッジの言語になれるのか。営業の言葉も開発の言葉も、その部門の内部でしか通用しない。財務はどの部門の活動も同じ単位に換算できるという点で、部門固有の文脈から独立している。つまり財務は、構造上どの集団にも属さない——だからこそ橋になれる。本レポート第1本目で扱った「ブリッジは強くなりすぎてはいけない(強くなると融合してしまう)」という原理とも整合する。
PART 3

オーケストレーション――強弱を配分する力

議論の到達点が、指揮者の比喩だった。講師はオーケストレーションという語がダイナミック・ケイパビリティのキーワードであると述べ、経営学者デビッド・ティースの議論を参照した。

オーケストラの譜面を見てください、と彼女は言う。ここはバイオリンを強く、ここはピアノ、ここは別の楽器、というように、曲のなかで役割を分けて強弱をつけていく。打楽器も弦楽器も全部が同じところから同じ音量でスタートすることはない。バランスを取り、ここは強く、ここは弱く、と配分していく。その配分の仕事がCFOにある。

そしてこの比喩は、ネットワーク理論の語彙に翻訳できる。彼女の定式化は「ネットワークの密度と広がり、その疎密を自由に操る力がオーケストレーションであり、すなわちダイナミック・ケイパビリティである」というものだった。密度=ボンディング、広がり=ブリッジング。どちらを強め、どちらを緩めるかを、局面ごとに設計する。

彼女はさらに、CFOを「資本の合理性と、社会の人間関係——この二つを同時に維持する唯一のポジション」と位置づけた。ただし直後に、これはCFOに限った話ではないとも付け加えている。CEOでも、部長でも、課長でも、一般社員でも同じである、と。

アンビデクステリティという英語名

この「両方必要だ」という主張に対して、主宰者が用語を提示した。アンビデクステリティ・マネジメント(両利きの経営)である。彼はこれを参加者にメモするよう促し、「いろいろなところで引用されている言葉だ」と述べた。日本語の議論では深化と探索という対で語られる。

📌 Claude補足

用語の出典を確認した。深化(exploitation)と探索(exploration)の対は、ジェームズ・マーチが1991年の論文で定式化したものである。マーチの整理では、深化はほぼ確実で即時のリターンをもたらすのに対し、探索は不確実で将来のリターンしか約束しないため、両者のバランスを取ることが本質的に難しい。この両立能力を組織能力として捉えたのがアンビデクステリティであり、オライリーとタッシュマンらによって「ダイナミック・ケイパビリティとしての両利き」という形で議論が接続されている。

オーケストレーションについては、デビッド・ティースの2007年の論文 "Explicating dynamic capabilities: the nature and microfoundations of (sustainable) enterprise performance"(Strategic Management Journal)が主要な出典である。そこでは、経営幹部が新旧の資産をオーケストレーション(編成)し統合することで、慣性と経路依存を克服して機会を捉える能力が、ダイナミック・ケイパビリティの中核だとされる。asset orchestration という語は「資源と能力の探索・選択・構成」を指す。講師が述べた「密度と広がりを自由に操る力がオーケストレーションである」という定式化は、ティースの原義そのままというより、それをネットワーク理論の語彙へ翻訳した講師独自の接続である点に注意したい。

PART 4

日本企業は探索が弱い、という診断

主宰者はここで、講義パートの担当講師が先に触れていた論点——経営学者の入山章栄氏の指摘——を引き取った。日本人の問題は探索が弱いことである。深化ばかりしていて探索をしていない。主宰者自身も同意見だと述べ、「深化は日本人はすごいと思うが、探索が弱いと言われている。もう少し世界観を広げましょう、というのが日本人の課題」とまとめた。

ただし彼は、ここで一方向の処方を出さなかった。探索ばかりやっていると今度は深化が弱くなる。だからそのバランスをどう取るかを考えなければならない、と付け加えている。要確認——入山氏の主張として語られた内容は複数の著作・講演に散在するため、特定の出典への帰属は本レポートでは確定していない。

トヨタの社長交代という実例

参加者の一人が「トヨタの社長が変わったのも、そういうことがあるのか」と問うた。主宰者の回答は、内部と外部の両方を立てる人事だったという読み方ができる、というものだった。自身のYouTubeで扱った内容だとして、内部の担当と外部の担当を分けて据えた構図に言及し、「ある意味そういう捉え方もできる」と述べている。要確認——人事の具体的な構成については発言が断片的で、本レポートでは講師の見立てとしてのみ記録する。

続けて主宰者は、より強い調子でこう述べた。「さっさとやらないと日本の車メーカーは総崩れになる可能性がある」。加えて「日本はあまりにもカーメーカーが多すぎる」。ここから議論はパワー半導体へ移る。

PART 5

パワー半導体再編――二刀流を企業の水準で見る

主宰者は、勉強会の当日時点で最も話題になっている案件として、デンソーがロームを買収するかどうかという件を挙げた。彼が述べた金額は1.3兆円である。背景として、中国がパワー半導体に大きく資金を投入しており、車載側でもBYDなどが自前で手がけ始めていることを指摘した。

主宰者の見立ては明確だった。中国と張り合って絶対に勝てないのは価格である。仮に統合が実現すれば多様な製品は作れるようになるが、価格帯では勝てない。それでも彼は買収に賛成の立場を取った。理由は、日本のパワー半導体が小規模な事業体に分散しすぎているからである。

主宰者が挙げたシェアの数字
「日本で最もパワー半導体を作っているのは三菱電機だが、世界シェアでは4%しか取れていない」「インフィニオンのような15%から20%まで持っていくには、統合したほうがいいし、淘汰されたほうがいい企業もたくさんある」——これは講師個人の見解として明示的に帰属させるべき主張である。同時に彼は「日本はそういう言葉が嫌いだから、買収がどう行くかは分からない」とも述べた。

さらに主宰者は、統合が起きた場合の副作用にも触れた。ロームはパワー半導体だけでなくアナログ半導体にも強いため、統合が進むと特定の自動車メーカーや産業機器メーカーが調達面で不利になる可能性がある。それも含めたうえで、なお統合したほうがよいというのが彼の立場だった。

別の講師の見解も求められた。彼女の回答は、デンソーはトヨタだけを相手にしているわけではなく世界中のカーメーカーに供給しているため、すでに探索の側もやっている。ロームの顧客が海外へ広がるのであれば統合は良い、というものだった。加えて彼女は「余計な人間関係のゴタゴタがないことを祈る。自分が社長になるはずだったのに連結に入って社長になれなくなった、といった変なメンツの話がないことを祈る」と述べており、この論点はこの後のAIの議論に直結する。

主宰者はもう一点、ロームが当時赤字であること、そして三菱電機と東芝が相対的に元気でないのに対しデンソーは資金を持っているため投資余力がある、という理由も挙げている。加えて、BYDやテスラが垂直統合型であるのに対し日本は分業型であるという構造差に触れ、デンソーがパワー半導体以外にアナログ半導体なども垂直統合し始めている段階にあると述べた。

📌 Claude補足(発言と公開情報の照合・答え合わせを含む)

買収提案について。 日本経済新聞の特報によれば、デンソーがロームに買収を提案したことが判明したのは2026年3月6日で、TOBにより全株取得を目指す1.3兆円規模の内容だった。勉強会は3月20日であり、主宰者が語った「1.3兆円」「買収するかしないか」という状況認識は報道と一致している。両社は2024年9月にアナログ半導体分野などでの提携を発表し、2025年にはデンソーがロームに出資して株式の5%弱を取得していた。

その後どうなったか(2026年9月時点)。 主宰者の「デンソーがロームを買収したほうがトヨタのためになる」という見立ては実現しなかった。ロームは2026年3月27日、東芝デバイス&ストレージの半導体事業および三菱電機のパワーデバイス事業との事業・経営統合に向けた基本合意書を締結。デンソーは2026年4月28日、ロームの特別委員会から賛同を得られなかったとして買収提案を取り下げた。撤回後も両社は人的交流と共創活動の継続で合意しており、アナログ半導体を中心に自動車・産業機器向けで連携を深めるとされている。3社連合については、2026年4月時点で大株主ファンドの意向を含む課題が残ると報じられている。

3社連合という構図について。 主宰者は勉強会時点で「デンソー自体が三菱電機と東芝とロームで3社連合を作り、デンソー自体は富士電機とやっている」と述べているが、実際に3社連合を組んだのはローム・東芝デバイス&ストレージ・三菱電機であり、デンソーはその外側にいる。この点は発言と公開情報が食い違っている。ただし3社統合の基本合意は勉強会の1週間後であり、当日時点では確定情報がなかった可能性が高い。

シェアの数字について。 Yole Groupの2025年パワー半導体メーカー売上高ランキングでは、首位がインフィニオン、日本勢は三菱電機(4位)、富士電機(5位)、東芝(6位)、ローム(8位)、ルネサス(14位)の5社がトップ20入りしている。上位20社の国・地域別内訳は米国6社、日本5社、中国5社、欧州4社。日本勢5社の売上高を合算してもインフィニオンに追いつかない規模と報じられている。この順位関係は主宰者の主張(分散しすぎている・統合が必要)の方向と整合するが、「三菱電機4%」「インフィニオン15〜20%」という具体的なシェア率は今回の検索では裏付けが取れなかった要確認

PART 6

AIが測れないもの――倫理、憎悪、そして領土

参加者から本質的な問いが出た。AIが入ってきたことで、探索の側はAIがかなりやってくれるようになった。一方でアルゴリズムがあることによってエコーチェンバーが起こりやすくなり、逆に強い紐帯のほうが伸びるのではないか。そうなったとき、人間に最後に残る仕事は何か。

主宰者の応答は挑発的だった。深化もAIがある程度やるし、AIは両方のサポートに入る。ただしAIには倫理観がある。だから「倫理観のないやつが勝つ」。彼が例に挙げたのは、ある起業家のやっていることを生成AIに聞けば「やるな」と止められるだろう、という指摘だった。倫理観のない、ぶっ飛んだ発想を持つ人間が強くなる——深化の部分も含めて、と彼は述べた。

別の講師はやや異なる角度から応じた。AIは合理性も倫理も持っているが、戦争のことは判断できない。戦争はその場その場でルールが変わっていき、人間関係の恨みつらみ、憎しみの上に成り立っている。そこはAIには測れない。結局、社会の人間関係のところは人間がやらざるを得ない。

彼女はこれをM&Aに引きつけた。合理性で考えればこう進めるべきだ、という結論が出ても、実際には「あの会社には昔こんなことをされた」「自分は本来社長になるはずだった」といった人間関係の経緯があり、反対する人が出る。取締役会で反対が過半数を占めればその案件は進まない。人間関係を完全に抜きにしてはM&Aも経営も語れない以上、そこはAIには図り知れない、というのが彼女の結論である。先ほどの「余計なメンツの話がないことを祈る」という発言と、ここで論理が繋がる。

人間に残る仕事の定義
参加者がこの議論を受けて出した定式化は「逆サイドにいる相手をどうプレゼンして動かすか」というものだった。講師はこれを是とし、「人間をどう動かし、どう掴み、自分がどう振る舞うか」という駆け引きだと言い換えている。本レポート第1本目でブリッジングの課題が「コミュニケーションのプレゼンテーション能力と提案力」と定義されたことと、ここで完全に一致する。

領土回復主義という共通項

議論はそこから地政学へ移った。話の起点は前日の日米首脳会談で、トランプ大統領の切り返しが話題になった。攻撃の事前通告がなかったことを問われた際に「そちらも真珠湾のときに教えなかっただろう」と返した、というやりとりが紹介され、主宰者は「切り返しはさすがだ」と評した。講師は「歴史上アメリカ本土に攻撃を仕掛けたのはその一度だけなので、よほど記憶されている」と補足している。

続いて、イランをめぐる情勢について参加者から質問が出た。講師が持ち出した鍵語がレデンプティズム(領土回復主義)である。彼女の整理では、ロシアがウクライナに侵攻したのも、元々そこは自国の領土だった、歴史的に自分のものだった、という論理に基づく。同じ論理がアメリカとイランの関係にも当てはまる。イラン革命以前、アメリカとイランは非常に良好な関係にあった。だから「その状態に戻す」という主張になる。イランという国そのものが嫌なのではなく、現在の体制が嫌なのだ、という構図である。

講師は、この論理が中国と台湾にも同型で存在すると述べた。かつて自国の領土だったものを取り戻す——習近平、プーチン、トランプの三者は、根本において同じ考え方をしている、というのが彼女の見立てである。「前は自国の領土だった、前は非常に良かったではないか、だからその歴史を取り戻すのだ」という正論。それを外から見れば「世の中は変わったのだ」とも言えるが、その論理があるからこそバルト三国など旧ソビエト圏の国々が強く警戒している、と付け加えた。

ただし彼女は、トランプ政権のイラン政策については「現時点では大失敗に終わっている」と評価した。理由はイスラエル側の宗教的な憎しみが入り込んでしまったことで、それによってアメリカとイスラエルのあいだにずれが生じ始めているという分析である。また彼女は、宗教のトップを標的にしたことについて「日本の天皇陛下を突然殺すようなもの」と喩え、踏んではいけない一線を越えたのではないかと述べた。

中国が現時点で動かない理由について、主宰者は自身のYouTubeを見るよう促し、この場では答えを言わないと述べている。講師は軍の人事が混乱しており空いたポジションが埋まっていないため時間がかかるという見方、およびメンツの問題で他国のやり方に追随しないという見方を示した。

📌 Claude補足

講師が用いた「レデンプティズム」は、英語の irredentism(イレデンティズム、未回収地回復主義)を指していると考えられる。19世紀イタリアの「イタリア・イレデンタ(未回収のイタリア)」運動に由来する語で、歴史的・民族的な根拠を主張して他国の領域を自国に編入しようとする思想を指す。ロシアのウクライナ侵攻、中国の台湾政策を同一の枠組みで説明する議論は国際政治学でも一般的である。ただし米国のイラン政策をイレデンティズムに含めるのは、自国領土の回復ではなく旧同盟体制の回復を指しているため、この語の標準的な用法からはやや外れる要確認。この日の地政学に関する発言は情勢の展開に左右されるため、本レポートでは勉強会当日(2026年3月20日)時点の講師の見解として記録するにとどめる。

Q&A

質疑応答(このテーマに属する全件)

コンフォートゾーンとコーチングを勉強していた。経営者や課長が自分の役職以外のことを学び、より高い抽象概念からリーダーとしての役割も上との接続の役割も果たす、という話があった。これは組織の埋め込み理論とあえて弱い紐帯のところへ行く、という両方の話と同じことか。(高岡氏)
そのとおりである。組織全体でもそうだし、個人で経営していても同じで、経営者としての枠を広げ、外部との連携で探索していかないと成長しない。二刀流でなければこれからやっていけない。自社の深化も必要だが探索も必要、というのはあらゆるポジションの人に言える。バランスを取らずどちらかに傾くと、これだけ世の中が揺れているなかでは大失敗に繋がる。
(主宰者からCFO像についてのコメント)
CFOとは台本作りだと思っている。お金の使い方、情報、いろいろな分野について、CEOがどういうストーリーを語ればストーリーテリングとして最もはまるのかをリサーチし、それをお金ベースで全て説明できるような場を作る流れをつくるのがCFOである。だから内と外の両方をやらなければならないという指摘は、今後特に必要になる。
トヨタの社長が変わったのも、そういう(内と外の)文脈があるのか。
内部と外部で担当を分けた構図と読める。ある意味そういう捉え方もできる。ただし早く動かないと日本の自動車メーカーは総崩れになる可能性がある。日本はカーメーカーが多すぎる。
ロームはデンソーに買収されたほうがよいのか、今のままがよいのか。(主宰者から別の講師への問い)
デンソーはトヨタだけを相手にしているわけではなく世界中のカーメーカーに供給しているので、すでに探索の側もやっている。ロームの顧客がどこかは未調査だが、顧客が海外へ広がるのであればデンソーでよいと思う。ただし余計な人間関係のゴタゴタがないことを祈る。
AIが入ってきたことで探索はAIがやってくれる部分があり、一方でアルゴリズムによるエコーチェンバーで強い紐帯が伸びる。そうなると人間に残る仕事は何か。相手の反対側の意見をどうセールスするか、という話になるのか。
(主宰者)深化もAIがある程度やる。AIは両方のサポートに入る。ただしAIには倫理観があるので、倫理観のない人間が勝つ。ぶっ飛んだ発想を持つ人間が強くなる。(別の講師)AIは合理性も倫理も持つが、戦争は判断できない。戦争はルールがその場で変わり、人間関係の憎しみの上に成り立っている。M&Aでも、合理的にはこう進めるべきという結論が出ても、過去の経緯やメンツで反対が過半数になれば案件は進まない。人間関係を抜きには経営もM&Aも語れない。
日本の首相を手玉に取っているトランプ大統領が、イランの策略にははまっているように見える。戦争を長引かせ、世論を共和党から民主党へ振らせる作戦ではないか。(加治氏)
(主宰者が質問者の論旨を整理したうえで)それは戦争を長引かせると最終的に中間選挙があり、そこで敗北することによってトランプ大統領の発言力が弱くなるから、という意見でよいか——という確認の後、「それは自分もそう思っている」と同意した。
クルド人を戦争に巻き込まないという話があったが、クルド人に武器を供与して戦争に巻き込んだ場合、トルコにも戦火が広がるのではないか。(加治氏)
トルコにはもう来ている。ただし、この先は「なぜ中国が攻撃をしないのか」「なぜ中国は今黙っているのか」という話に繋がるため、前日のYouTubeを見ていないなら答えを言ってしまうのでここで止めたほうがよい、として主宰者は回答を保留した。その後、別の講師が領土回復主義の観点から補足している。
資料の21ページに、新興企業はあまり両立しないほうがよく、ある程度年数の経った会社が探索と深化を両立したほうがよい、とある。何年目を境目にデータを取っているのか。
(主宰者)そこは分からない。基本的に、レポートのなかで新興企業と成熟企業を「何年目」と定義しているものはない。そもそも年数で定義してはいけない分け方だと思う。それをやると探索しなくなるからである。プレゼンテーションでインパクトを与えるために、あえてどこかでカットオフの値を作ることはおかしくない。しかし探索でそれをやると歪めてしまう。プレゼンテーションすることと、調べることは別である。 分けて考えたほうがよい。(講義担当講師も「定義しているものはないと思う」と同意)例として、ファーウェイは成熟企業だが上場していないため「新興企業」と書かれることがある。記者が「新興のファーウェイが」と書くこともあるが、創業から40年以上経っている。企業の呼称だけでは分からない。
宿題・アクションアイテム

持ち帰るべき課題

  1. アンビデクステリティ・マネジメントを調べる。 勉強会中に主宰者が参加者へ明示的に指示した宿題。深化と探索の両立という論点の英語圏での議論を確認する。
  2. 自分の職務における「内の橋」と「外の橋」を書き出す。 CFOに限らず、自分が架けている組織内部の橋(部門間)と外部の橋(社外)をそれぞれ列挙し、どちらかに偏っていないかを点検する。
  3. 自社にある組織内の構造的空隙を特定する。 営業と開発のような部門間の溝を具体的に挙げ、それを繋ぐ共通言語が自社にあるかを確認する。
  4. 前日公開のYouTube動画を視聴する。 中国が現時点で動かない理由について、勉強会では答えが留保された。主宰者は「情報を取っていなかったことは機会損失である」と述べている。
  5. レポートを読む際、「新興」「成熟」といったラベルの定義を確認する。 定義のない分類語で議論を組み立てていないかを疑う。プレゼン用のカットオフと、調査上の区分は分けて扱う。
用語集

この回に出てきた用語

エンベデッドネス(埋め込み理論)
経済行動が社会関係のなかに埋め込まれているとする理論。組織内部のストーリーを書くために必要だと講師は位置づけた。
オーバーエンベデッドネス
過剰埋め込み。組織の硬直化と身内の論理による閉鎖リスクを生む。SWTが「あえて」必要になる理由。
オーケストレーション
資源と関係の強弱・配分を局面ごとに設計する力。ダイナミック・ケイパビリティのキーワード(ティース2007)。
ダイナミック・ケイパビリティ
環境変化に応じて資源と能力を再構成する企業の高次能力。
アンビデクステリティ(両利きの経営)
深化(exploitation)と探索(exploration)を同時に行う組織能力。マーチ1991年の対概念が出発点。
CVC
コーポレート・ベンチャー・キャピタル。事業会社が自社の戦略目的で行うベンチャー投資。CFOが外部と接続する結節点の一つ。
パワー半導体
電力の変換・制御に用いる半導体。EVやデータセンターの電力制御が主用途で、日本勢が複数社に分散している。
レデンプティズム(領土回復主義)
歴史的・民族的根拠を主張して他国の領域を自国に編入しようとする思想。英語の irredentism に相当。