TXN NASDAQ アナログ半導体

テキサス・インスツルメンツ

1930年創業、ジャック・キルビーが集積回路を生んだ「半導体の原点」。アナログ半導体で世界シェア首位を握り、10万点超の製品カタログと自社300mmファブという二重の堀を持つ。2021年からの巨額設備投資サイクルが終盤に入り、フリーキャッシュフローが急回復する局面をどう評価するかを検証する。

01 / OVERVIEW

スナップショット

株価

$276.59

2026/8/12終値

時価総額

約2,540億ドル

約38兆円(1ドル150円換算)

PER(実績)

42.0倍

予想PER 28.6倍

配当利回り

2.05%

年間配当 $5.68(22年連続増配)

売上高(TTM)

194.5億ドル

前年比 +16.7%

営業利益率(TTM)

37.3%

粗利率 58.3%

ROE / ROIC

35.0% / 22.3%

資本コストを大きく超過

保有株数

未確認

出典:StockAnalysis.com(TXN、2026年8月13日時点)、Texas Instruments Investor Relations。株価・時価総額・PERは日々変動するため、最新値は各自ご確認ください。

02 / SEGMENT

事業ごと・国/エリアごとの売上高比率

事業セグメント別 売上高構成比(FY2025)

アナログ (Analog) 79.2% 組込プロセッサ (Embedded) 15.3% その他 (Other) 5.5%

アナログ140.1億ドル、組込プロセッサ27.0億ドル、その他9.8億ドル(合計176.8億ドル)。TIの正体は「アナログ半導体の総合カタログ企業」であり、売上の約8割が電源管理IC・信号チェーンICなどのアナログ製品である。

国・エリア別 売上高構成比(FY2025)

米国 38.1% EMEA(欧州・中東) 22.5% 中国 19.3% その他アジア 10.8% 日本 7.8% その他地域 1.7%

中国は本社所在地ベースで全社売上の約2割を占める。米国比率が4割弱と高いのは、TIが米国内生産・米国内顧客を重視する「地政学ヘッジ型」のサプライチェーンを構築してきた結果でもある。

出典:Texas Instruments Form 10-K(FY2025)、StockAnalysis.com KPIページ(stockanalysis.com/stocks/txn)。

03 / HISTORY

創業からの歴史

TIの出発点は半導体ではなく「石油探査」だった。1930年、John Karcherと Eugene McDermottが Geophysical Service Incorporated(GSI)を創業し、反射地震法による石油探査サービスを世界で初めて事業化した。第二次大戦中に軍向け電子機器へ事業を広げ、1951年に社名を Texas Instruments に改称。この「探査屋から電子機器屋へ」という最初の大転換が、TIという企業のDNA——本業を守るより、稼げる場所へ資本を移し替える——を決定づけた。
1954年に世界初の商用シリコントランジスタを量産し、1958年には入社間もない技術者 Jack Kilby が集積回路(IC)を発明する。トランジスタ発明から10年、半導体産業における最大の飛躍であり、Kilbyはこの功績で2000年にノーベル物理学賞を受賞した。1967年には世界初のハンドヘルド電卓を開発し、1980年代にはDSP(デジタル信号処理)で通信市場を握る。TIは一貫して「産業の土台になる部品」を作り続けてきた企業である。
1990年代後半からの経営は、徹底した「選択と集中」の連続だった。1997年に防衛事業をRaytheonへ売却、1998年にDRAM事業をMicronへ譲渡し、価格変動が激しく資本効率の低いメモリから完全撤退。代わりに2000年にBurr-Brownを約76億ドルで、2011年にNational Semiconductorを約65億ドルで買収し、高収益・長寿命のアナログ半導体に経営資源を集中させた。この「メモリを捨ててアナログを取る」判断が、現在の高い粗利率と圧倒的な製品カタログの源泉になっている。
2020年代に入り、TIは再び大きな賭けに出る。2021年にMicronからユタ州Lehiの300mmファブを約9億ドルで取得、2022年にはテキサス州Shermanで4棟構想のメガサイト建設に着工。2025年には「米国内で600億ドル超を投資し、基礎的半導体を数十億個規模で製造する」計画を公表した。外部ファウンドリ依存を強める同業とは逆に、自社300mm内製化でコスト優位を築くという、極めてTIらしい逆張り戦略である。

出典:TI公式沿革(ti.com)、TI 8-K「National Semiconductor買収完了」(2011年9月23日)、Quartr「Texas Instruments: From Calculators to Master Capital Allocators」。

04 / MISSION, VISION, VALUE

ミッション・ビジョン・バリュー

TIが公式に掲げる中核の想いは 「半導体によってエレクトロニクスをより安価にし、より良い世界をつくるという情熱(a passion to create a better world by making electronics more affordable through semiconductors)」。ビジョンは「より賢く・より安全で・より効率的で生産的かつ持続可能な世界を実現する、最も信頼され革新的な半導体企業であること」と表現される。
注目すべきは、この理念が財務戦略と一直線につながっている点だ。「より安価に」を実現する手段は、①300mmウェハによる製造コストの構造的引き下げ、②内製化率の引き上げ、③長寿命製品によるライン償却の最大化——であり、いずれも設備投資と資本配分の問題に帰着する。TIの経営陣が四半期ごとに「1株当たりフリーキャッシュフローの長期成長」を最重要KPIとして語り続けるのは、理念とKPIが同じものを指しているからである。理念が抽象的なスローガンで終わっていない企業は、実は多くない。

出典:TI「Living our values — TI's ambitions, values and code of conduct」(ti.com)、TI Investor Relations「Capital management」資料。

05 / LEADERSHIP

現経営者の特徴・過去の実績(レジリエンスの観点)

CEOは Haviv Ilan(ハビブ・イラン)。1968年イスラエル生まれ、テルアビブ大学で電気工学の学士・修士、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院との共同EMBAを修了。1999年、TIがイスラエルのスタートアップButterflyを買収した際にTI入りし、無線接続事業のVP、TI Ra'anana(イスラエル拠点)のGMなどを経て、2020年にCOO、2023年4月にRich Templetonの後任としてCEOに就任した。現在は会長・社長・CEOを兼務する。
Ilanのリーダーシップの特徴は「短期の株価より長期のキャパシティを取る」姿勢にある。就任直後の2023〜2024年は、産業機器・自動車の在庫調整で売上が2年連続の二桁減となる逆風下だったが、彼はそこで設備投資を絞らず、むしろ年間50億ドル規模のCapExを継続した。結果としてフリーキャッシュフローは2022年の59億ドルから2023年に13億ドルへ急落し、2024年6月には物言う株主 Elliott Managementが「FCFを軽視しすぎだ」と公開書簡で圧力をかける事態にまで至った。
レジリエンスの観点で重要なのは、その後の展開である。Ilanは戦略の骨格を変えないまま、投資家との対話の枠組み(キャパシティ計画の複数シナリオ開示)だけを調整して事態を収拾。そして2026年、AIデータセンター向け電源需要が想定を上回る速度で立ち上がると、先行投資した300mmキャパシティがそのまま増産余力に転化し、Q1のデータセンター売上は前年比約90%増、Q2は約2倍へと跳ねた。「不況期に投資を続けられるか」は経営者の胆力を測る最良のテストであり、Ilanはそれを通過したと評価できる。なお2026年8月1日付でCFOはRafael Lizardi(25年在籍)からJulie Knecht(1999年入社、前・最高会計責任者)へ交代し、資本配分の連続性は保たれる見通しである。

出典:TI Investor Relations「Haviv Ilan」(investor.ti.com)、CNBC「Activist Elliott wants Texas Instruments to bolster free cash flow」(2024年6月1日)、TI「Texas Instruments announces CFO transition」(2026年6月2日)。

06 / LATEST EARNINGS

直近決算(2026年第2四半期)の予想・ガイダンスに対する結果

2026年Q2実績とQ3ガイダンス

指標2026年Q2 実績前年同期比評価
売上高54.6億ドル+23%市場予想を上回る
純利益19.8億ドル大幅増営業レバレッジ発現
希薄化後EPS$2.14+52%コンセンサス超過
アナログ売上+26%主力が加速
組込プロセッサ売上+16%回復基調
データセンター向け約2倍最大の伸長領域
Q3ガイダンス(売上)56.5〜61.5億ドルレンジ中央で+約17%
Q3ガイダンス(EPS)$2.23〜2.57増益継続を示唆
Q2の内容は「循環回復+AI需要」の二段ロケットである。まず2023〜2024年に積み上がった産業機器・自動車の流通在庫がほぼ払底し、注文が実需ベースに戻った。そこにAIデータセンター向けの電源管理IC・信号調整IC・コネクティビティ部品の需要が重なり、データセンター売上は7四半期連続の増加を記録した。Q1時点で前年比+90%だった同領域は、Q2で約2倍まで加速している。
ただし冷静に見るべき点もある。粗利率58.3%(TTM)は、2022年のピーク68.8%からなお10ポイント以上低い。これは新設300mmファブの減価償却が本格化しているためで、稼働率が上がるにつれて改善する構造ではあるが、「昔のTIのマージン」に戻るには数年単位の時間がかかる。EPS+52%という数字は、あくまで前年が谷だった反動を含む点を割り引いて読む必要がある。

出典:TI 8-K「Q2 2026 Results」(stocktitan.net)、Futurum Group「Texas Instruments Q2 FY2026 Earnings」、Quartr決算サマリー。

07 / REVENUE & PROFIT

売上高・利益の推移(直近10年間)

売上高・純利益(FY2016〜FY2025、単位:十億ドル)

13.4 FY16 15.0 FY17 15.8 FY18 14.4 FY19 14.5 FY20 18.3 FY21 20.0 FY22 17.5 FY23 15.6 FY24 17.7 FY25 売上高 純利益

税引前利益と各種マージン(FY2021〜TTM)

指標FY2021FY2022FY2023FY2024FY2025TTM(26/6)
売上高(億ドル)183.4200.3175.2156.4176.8194.5
営業利益(億ドル)89.6101.473.354.760.272.5
税引前利益(億ドル・概算)89.2100.374.254.557.169.1
純利益(億ドル)77.787.565.148.050.060.5
粗利率67.5%68.8%62.9%58.1%57.0%58.3%
営業利益率48.8%50.6%41.9%34.9%34.1%37.3%
税引前利益率48.6%50.1%42.3%34.9%32.3%35.5%

※税引前利益は「売上高×税引前利益率」で算出した概算値。FY2016〜FY2020の税引前利益率は本更新時点で一次データを確認できていないため、グラフは売上高と純利益の2系列で構成している(次回更新時に反映予定)。

10年を俯瞰すると、TXNの業績は「なだらかな成長トレンドに、振幅の大きい半導体サイクルが重なった」形をしている。FY2016の134億ドルからFY2025の177億ドルへ、10年CAGRは約3.2%。決して高成長企業ではない。しかし利益の作り方が特異で、FY2022には売上200億ドルで純利益87.5億ドル——実に純利益率43.7%という、半導体としては異常な収益性を記録した。長寿命・多品種・低単価のアナログ製品を、償却済みの旧世代ラインで大量生産するモデルが効いている。
FY2023〜FY2024の2年連続二桁減収は、コロナ期の二重発注が剥落した典型的な在庫調整である。ここでTIが同業と決定的に違ったのは、減収局面でも設備投資を止めなかったこと。その結果、FY2025は+13.1%、TTMベースでは+16.7%と、業界回復とAI需要を同時に取り込む反転を実現している。減益局面の深さ(FY2024純利益48億ドルはFY2022比▲45%)は、この銘柄のシクリカル性を示す重要な数字として記憶しておきたい。

出典:StockAnalysis.com(売上推移財務サマリー)、MacroTrends(純利益2016〜2020)。

08 / VALUATION

PERの推移

実績PER(FY2021〜現在、倍)

22.8 FY21 17.6 FY22 24.1 FY23 36.1 FY24 31.8 FY25 42.0 現在 PER(倍)

※FY2016〜FY2020の年次PERは信頼できる一次データを確認できていないため未掲載(次回更新時に反映予定)。参考として、過去10年の平均PERは約24.6倍とされる。

バリュエーション指標(2026年8月時点)

指標現在値過去平均・比較評価
実績PER42.0倍10年平均 約24.6倍歴史的に割高
予想PER(NTM)28.6倍増益を織り込み低下
PSR13.0倍FY2022は7.5倍売上比では最も割高な水準
P/FCF47.2倍FY2022は25.3倍CapEx減で改善余地
配当利回り2.05%FY2025は3.17%株価上昇で低下
PERの推移は、この銘柄の評価がいかに「利益の谷」で歪むかを教えてくれる。FY2022はPER17.6倍——史上最高益の年に最も安く評価されていた。逆にFY2024はPER36.1倍だが、これは株価が上がったからではなく利益が45%減ったからである。シクリカル銘柄でPERを額面通り使うと、必ず高値掴みか安値売りのどちらかをやる。
現在のPER42倍・PSR13倍という水準は、10年平均の約1.7倍にあたる。市場は明らかに「AIデータセンター向けアナログ需要による構造的な利益水準の切り上がり」を先取りしている。予想PER28.6倍は増益前提だが、それでも同業のADI・NXPと比べて安いわけではない。ここから先のリターンは、業績が市場の織り込みを上回れるかどうかという、かなり厳しい条件に依存する。

出典:StockAnalysis.com「TXN Financials — Valuation」(stockanalysis.com)、FinanceCharts「TXN PE Ratio Averages」。

09 / CAPITAL RETURNS

ROIC・WACC・ROEの状況

資本効率指標(直近実績・概算含む)

指標数値算定根拠・コメント
ROE(TTM)約35.0%純利益60.5億ドル/自己資本。米大型株の上位水準
ROIC(TTM)約22.3%NOPAT/(有利子負債140.5億ドル+自己資本−現金70.0億ドル)
WACC(概算)約8.0〜8.5%株主資本コスト約8.8%(β≒1.0、無リスク利子率4.3%、ERP4.5%)、負債コスト税引後約3.2%、負債比率約5%で加重
ROIC − WACC スプレッド約 +14ポイント投下資本1ドルにつき年14セントの経済的付加価値を創出
営業CF/売上(TTM)44.6%キャッシュ変換力の高さを示す

※WACCは市場データからの概算試算であり、公式開示値ではない。ROIC・ROEの年次10年系列は一次データの整合確認ができていないため、次回更新時に反映予定。

TXNの資本効率で押さえるべきは「今の22%は谷を抜けた直後の数字」という点だ。2021年以前のTIは、CapExが売上の約5%(年間平均約6.5億ドル)という驚異的な軽資産経営で、ROICは40%を優に超えていた。そこから300mmファブ3拠点への投資で投下資本が急膨張し、ROICは大きく圧縮された。つまり現在のROIC22%は「投資済み・未稼働の資産」を分母に抱えたままの数字である。
ここが投資判断の分岐点になる。新ファブの稼働率が上がれば、分子(NOPAT)だけが増えて分母は増えないため、ROICは機械的に上昇する。逆に需要が想定を下回れば、償却費だけが残ってROICはWACC近辺まで沈む。ROIC−WACCスプレッド+14ポイントという現状は健全だが、これは「賭けの途中経過」であって確定した実力値ではない、と理解しておくべきだろう。

出典:StockAnalysis.com統計ページ、GuruFocus「TXN ROIC」、The Armchair Trader「Texas Instruments: from CapEx heavyweight to free cash flow machine」。WACCは当サイトによる概算試算。

10 / CASH FLOW

営業・投資・財務・フリーキャッシュフローの推移

営業CF・設備投資・フリーCF(FY2021〜TTM、単位:十億ドル)

8.8 FY21 8.7 FY22 6.4 FY23 6.3 FY24 7.2 FY25 8.7 TTM 営業CF 設備投資 フリーCF

キャッシュフロー4分類(単位:億ドル)

項目FY2021FY2022FY2023FY2024FY2025TTM(26/6)
営業CF87.687.264.263.271.586.7
投資CF-41.0-35.8-43.6-32.0-14.4-31.1
財務CF-31.4-67.2-21.4-28.8-56.9-49.5
設備投資(CapEx)-24.6-28.0-50.7-48.2-45.5-33.1
フリーCF62.959.213.515.026.053.6
FCFマージン34.3%29.6%7.7%9.6%14.7%27.5%
配当支払-38.9-43.0-45.6-48.0-50.0-51.1
自社株買い-5.3-36.2-2.9-9.3-14.8-7.1
この表がTXNという投資対象の本質を最も雄弁に語る。FY2023〜FY2024、フリーCFはわずか13〜15億ドルまで落ち込んだ。一方で配当支払は45〜48億ドル。つまり2年間、TIはフリーCFの3倍を超える配当を払い続けた。差額は手元資金と新規社債(FY2023に30億ドル、FY2024に29.8億ドル発行)で埋めており、実際に純有利子負債はFY2022の3.3億ドルの純現金から、FY2025には91.7億ドルの純負債へと転じている。
これを「増配を守るための無理」と見るか、「投資サイクルを跨ぐための合理的なブリッジ調達」と見るか。TIの言い分は後者であり、実際にTTMではCapExが33億ドルまで減少し、フリーCFは53.6億ドル・FCFマージン27.5%へ急回復している。会社は2026年のCapExを20〜30億ドル(成長率が前年並みなら下限寄り)と示しており、1株当たりフリーCF8ドル超を目標に掲げる。想定通りなら、FY2026以降のフリーCFは70億ドル規模となり、配当・自社株買いの原資が一気に潤沢になる計算だ。この「CapEx崖の向こう側」こそが現在の強気シナリオの中核である。

出典:StockAnalysis.com「TXN Cash Flow Statement」(stockanalysis.com)、TI Investor Relations「Capital management」(Haviv Ilan)。

11 / INVESTMENT & M&A

直近の投資・M&A状況

TIの資本配分は「M&Aより自前の工場」に完全に振れている。大型買収は2011年のNational Semiconductor(約65億ドル)が最後で、以後15年間、目立った企業買収を行っていない。代わりに資金を投じたのが300mmウェハ製造能力である。2021年にMicronからユタ州Lehiのファブを約9億ドルで取得(組込プロセッサ向けに転用)、テキサス州Richardsonでは RFAB2 を立ち上げ、そしてShermanでは4棟構想のメガサイトを建設中だ。
2026年時点の進捗は明確な節目にある。Sherman第1棟(SM1)は着工からわずか3年で初期生産を開始し、第2棟(SM2)は建屋外殻が完成済み。2025年に公表した「米国内600億ドル超投資」計画は、CHIPS法の補助金と歩調を合わせつつ、TIを世界最大級の基礎半導体メーカーに位置づける構想である。
投資家として見るべき論点は3つ。①なぜ300mmか——同じ枚数のウェハから採れるチップ数が200mmの約2.3倍になり、チップ単価を構造的に下げられる。②なぜ内製か——外部ファウンドリに払うマージンを自社に取り込め、かつ供給途絶リスクを排除できる。③なぜ米国内か——地政学リスクの高まりで「米国製である」こと自体が自動車・産業・防衛顧客への販売条件になりつつある。この3点が揃って初めて、TIの重い先行投資は合理性を持つ。逆に言えば、需要が付いてこなければ最も重い固定費を抱えた企業になる、という裏返しのリスクも同時に背負っている。

出典:TI「Texas Instruments plans to invest more than $60 billion...」(ti.com)、Manufacturing Dive「Texas Instruments sees continuing semiconductor market recovery in 2026」。

12 / SEGMENT GROWTH

主要事業ごとの成長性

セグメント別売上推移(単位:十億ドル)

13.0 FY23 12.2 FY24 14.0 FY25 15.6 TTM アナログ 組込プロセッサ

最終市場別の直近成長率(2026年)

最終市場2026年Q1 前年比位置づけ
データセンター約 +90%AI電源需要。7四半期連続増、Q2は約2倍へ加速
産業機器約 +30%最大の売上構成。在庫調整の完全終了
自動車十数%台EV減速の逆風下でも回復。ADAS・車載電動化が下支え
パーソナル電子機器成熟。成長ドライバーではない
セグメント別に見ると、アナログはFY2024の121.6億ドルからTTMで156.3億ドルへ約29%増、組込プロセッサは25.3億ドルから28.8億ドルへ約14%増。回復のスピードはアナログが明確に速い。これはAIサーバー1台あたりに必要な電源管理ICの員数が、従来サーバーの数倍に達するためだ。GPUが1kW級の電力を食う時代になり、その電力を配って整えるアナログチップの需要が構造的に膨らんでいる。
ただしデータセンターは、TIの全社売上に占める比率で見ればまだ小さい。「+90%」という見出し数字に釣られると全体像を見誤る。TIの土台はあくまで産業機器(工場自動化、計測、医療機器等)と自動車であり、この2つが合わせて売上の過半を占める。逆に言えば、産業・自動車の循環が再び下向けば、データセンターの成長では相殺しきれない。成長株としてではなく「産業サイクルの上に乗った高配当キャッシュ製造機」として捉えるのが実態に近い。

出典:StockAnalysis.com KPI(セグメント別売上)、Futurum Group「Texas Instruments Q1/Q2 FY2026」、Zacks/Yahoo Finance各種決算レポート。

13 / COMPETITIVE POSITION

競争優位性や業界内でのポジション

TIはアナログ半導体市場で世界シェア約17.8%(2025年)を握る首位企業である。2位のAnalog Devicesが約13.5%、以下NXP、ON Semiconductor、STマイクロが続く。ただしこの市場の本質は「首位でもシェア2割弱」という極度の分散にある。数万点の製品が数万社の顧客に売られており、単一の巨大顧客も単一の巨大製品も存在しない。
TIの堀は主に4つ。第一に製品カタログの広さ。10万点を超える品番を持ち、設計者が「TIのサイトで探せば必ず見つかる」状態を作っている。第二に直販・オンライン販売網。代理店経由を減らし自社ECで直接売ることで、顧客データと粗利の両方を握る。第三に製品寿命の長さ。アナログ製品は一度設計に採用されると10年以上使われ続け、乗り換えコストが高い。第四に300mm内製による構造的コスト優位。競合の多くが200mmラインや外部ファウンドリに依存する中、TIだけがチップ単価で恒常的に下を取れる。
弱点も明確だ。アナログ製品には「圧倒的な性能差」が生まれにくく、堀の実体はコストと利便性である。中国では国産アナログメーカーが政府支援を背景に急速に品揃えを広げており、汎用品領域では価格競争が始まっている。TIの高マージンは、技術的独占ではなく「規模の経済+乗り換え面倒くささ」に支えられているという構造は、常に意識しておくべきだ。

出典:Coherent Market Insights/GMInsights「Analog Semiconductor Market Share 2026」、Zacks「Can Texas Instruments' Analog Unit Extend Its Strong Sales Growth Run?」。

14 / SCP ANALYSIS

SCP理論からの分析(市場構造・企業行動・業界トレンド)

Structure(市場構造)

アナログ半導体市場は「上位集中度の低い寡占」という珍しい構造を持つ。首位TIで17.8%、上位5社合計でも50%程度にとどまり、CR4は低い。参入障壁は特許ではなく、①数十年分の設計資産の蓄積、②償却済み製造ラインを持つコスト構造、③数万社の顧客に届ける流通網——という「時間で買うしかない」タイプの障壁である。買い手は自動車OEM、産業機器メーカー、データセンター事業者と分散しており、単一顧客の交渉力は弱い。一方で汎用品の代替可能性は高く、価格支配力は製品カテゴリによって大きく異なる。

Conduct(企業行動)

TIの行動戦略は極めて一貫している。①M&Aではなく自社300mmファブへの垂直統合投資、②代理店を介さない直販・自社EC比率の引き上げ、③長寿命製品による設計採用(デザインウィン)の積み上げ、④フリーCF全額の株主還元(22年連続増配)。特筆すべきは価格戦略で、TIは不況期に値下げして市場シェアを取りに行く「コストリーダーの典型的行動」を取る。競合が耐えられない価格で売れるのは、償却の進んだラインを持つからだ。規制面では、CHIPS法の補助金受給企業として米国内生産義務を負う一方、対中輸出規制・関税政策の変更に直接晒される立場にある。

Performance(業界トレンド・帰結)

結果として業界は「長期的には緩やかな数量成長(電化・自動化・AI)+短期的には激しい在庫循環」というパターンを繰り返す。2021〜2022年の超過需要、2023〜2024年の在庫調整、2025〜2026年の回復——というサイクルは、今後も形を変えて再来すると考えるのが自然だ。構造的な追い風はAIデータセンターの電力密度上昇であり、1ラックあたりの電源管理IC需要はGPU世代交代のたびに増える。逆風は中国国産化で、汎用アナログの価格が長期的に下方圧力を受ける。TIの高マージンが将来も維持されるかは、①先端の高付加価値アナログへの製品ミックス移行、②300mm内製によるコスト低減、この2つが中国勢の価格攻勢を上回るスピードで進むかにかかっている。

出典:本サイトによる分析。基礎データは各種市場調査レポートおよびTI Form 10-K(FY2025)。

15 / INVESTMENT THESIS

これらの分析結果をもとにした現在の投資妙味

強気の論理は「CapEx崖」に集約される。 TIは2021年から5年間、年間45〜50億ドルという重い設備投資を続けてきた。これがFY2026に20〜30億ドルへ落ちる。営業CFが年80〜90億ドル水準にあるなら、フリーCFは機械的に60〜70億ドルへ跳ね上がる。会社が掲げる「1株当たりフリーCF 8ドル超」は、現在の株価276ドルに対してFCF利回り約2.9%——さらに稼働率上昇でマージンが戻れば、ここから数年でFCFが倍化するシナリオも描ける。工場は既に建っており、追加投資なしに増産できる。これは強い。
弱気の論理はバリュエーションに集約される。 実績PER42倍、PSR13倍、P/FCF47倍。10年平均PER24.6倍の1.7倍である。市場は既に「AI需要による構造的な利益水準の切り上がり」を織り込み済みだ。過去10年の売上CAGRは3.2%にすぎない企業に、成長株並みのマルチプルが付いている。TIを買うということは、実質的に「AIデータセンター向けアナログ需要が今後数年間、市場予想を上回って伸び続ける」ことに賭けることを意味する。
筆者の見立て。 事業の質は文句なく一級品である。ROIC22%、営業利益率37%、22年連続増配、そして不況期に投資を続けた経営陣の胆力。長期保有に値する企業であることは疑いようがない。問題は「今この価格で買うか」だ。PER42倍という水準は、失望決算1回で20〜30%の調整を正当化してしまう。既に保有しているなら握り続ける理由は十分にある。新規で入るなら、産業・自動車の需要が再び軟化してPERが25〜30倍圏まで戻る局面を待つほうが、期待リターンとリスクの釣り合いは良い。この銘柄は「良い会社を、悪い時に買う」という原則が最もよく効くタイプである。

※本セクションは当サイトによる分析・意見であり、特定の投資行動を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

16 / WATCH POINTS & RISKS

今後の注目ポイントやリスク要因

注目ポイント(カタリスト)

FY2026のCapEx着地——20〜30億ドルのどこに落ちるか。下限に近いほどフリーCFの跳ね幅は大きい。

粗利率の回復ペース——58.3%からどこまで戻るか。60%回復が見えれば新ファブの経済性が証明される。

データセンター売上の絶対額開示——現在は成長率のみの開示。金額が示されればモデルの精度が上がる。

Sherman SM2の稼働時期——第2棟立ち上げが需要とタイミングを合わせられるか。

新CFO Julie Knechtの資本配分方針——2026年8月就任。自社株買い再加速の有無。

連続増配記録の更新——2026年内の増配発表で23年連続へ。

リスク要因

バリュエーションリスク——PER42倍は失望決算に極めて脆い。最大のリスクは業績ではなく期待値そのもの。

産業・自動車の再減速——売上の過半を占める。EV販売の伸び鈍化は既に顕在化している。

中国国産アナログの台頭——政府支援を背景に汎用品で価格競争。中国は売上の約19%を占める市場でもある。

固定費レバレッジの逆回転——新ファブの償却費は需要が落ちても消えない。不況時の減益幅は過去より大きくなる可能性。

純有利子負債の増加——FY2025時点で91.7億ドルの純負債。金利上昇局面では調達コストが重くなる。

関税・輸出規制——米中対立の激化、対中輸出規制の強化は直接的な売上毀損要因。

AI需要の持続性——データセンター向けが二重発注を含んでいた場合、2023年型の在庫調整が再来する。

出典:TI Form 10-K(FY2025)リスクファクター、各種決算説明会資料、および当サイトによる分析。