PAAS NASDAQ 銀鉱山

パン・アメリカン・シルバー

世界第2位の純銀生産量を誇る北中南米最大級の銀鉱山会社。MAG Silver買収で主力鉱山を獲得し、構造的な銀の供給不足を追い風に業績が急拡大している局面を、事業構造・経営者・財務・SCP分析からまとめました。

01 / OVERVIEW

スナップショット

株価

約$44.26

2026年前半時点

時価総額

約$183〜186億

情報源により幅あり

PER(実績)

約13.7〜23.6倍

配当利回り約1.46%

保有株数

40

ポートフォリオ登録数

出典:複数金融情報サイトの集計値。上場市場(NYSE/TSX)により表示値に幅があるため、レンジで掲載しています。

02 / SEGMENT

事業ごと・国/エリアごとの売上高比率

金属別 生産構成(2025年実績)

2,280万oz

前年比 +8%

74.2万oz

前年比 ▲17%

亜鉛

5.59万トン

2.70万トン

3,000トン

銀セグメント(La Colorada・Cerro Moro・Huaron・San Vicente等)と金セグメント(Jacobina・El Peñón・Timmins・Shahuindo・Dolores等)の2本柱に加え、メキシコJuanicipio鉱山の44%持分を保有。

推定売上構成比(FY2025):

金 72% 銀 23% 亜鉛 4% 鉛 1% 銅 1%

2023年のYamana資産取得(金鉱山群)以降、社名に反して金が売上の7割超を占める構造に変化。数値は価格・出荷量からの推計値。

鉱山所在国

カナダ メキシコ ペルー ブラジル ボリビア チリ アルゼンチン グアテマラ(Escobal・操業停止中)

中南米が中心だが、グアテマラのEscobal鉱山は先住民協議に関する裁判所命令により操業停止が継続中で、地政学・規制リスクの分散と集中が同時に存在する。

出典:Pan American Silver 2025年決算資料。

03 / HISTORY

創業からの歴史

パン・アメリカン・シルバーは1994年4月、鉱山起業家ロス・ビーティ氏によって創業された。1995年にNASDAQ上場を果たすと同時にペルーのキルビルカ鉱山を取得し、以後30年にわたり北中南米各地の銀鉱山を買収・開発することで事業を拡大してきた。転機となったのは2019年、当時カナダの大手金鉱山会社だったTahoe Resourcesを約11億ドルで買収した案件で、これにより金セグメントを本格的に取得し「銀と金の両輪経営」への転換を果たした。そして2025年、カナダのMAG Silverを約21億ドルで買収完了し、メキシコの高品位銀鉱山Juanicipioの44%持分を獲得。この買収が2025年第4四半期の四半期最高となる730万オンスの銀生産をもたらし、同社を名実ともに世界第2位の純銀生産企業へと押し上げた。
04 / MISSION, VISION, VALUE

ミッション・ビジョン・バリュー

同社は「世界クラスの銀生産企業として、責任ある鉱山開発を通じて地域社会・株主・環境すべてに持続的な価値を提供する」ことをビジョンに掲げる。鉱業という環境負荷の大きい産業でありながら、地元コミュニティとの関係構築・現地雇用の創出・環境配慮型の操業を重視する姿勢は、業界内でも「持続可能な鉱山開発の実践者」としての評判を確立する土台となっている。一方でグアテマラのEscobal鉱山が先住民協議手続きの不備を理由に長期の操業停止に追い込まれている事実は、理念と実務のギャップが現実に経営リスクとして顕在化した事例でもあり、同社のESG対応力が今後も問われ続ける。
05 / LEADERSHIP

現経営者の特徴・過去の実績(レジリエンスの観点)

CEOのマイケル・スタインマン氏は2004年に入社し、2016年から社長兼CEOを務める。スイス連邦工科大学チューリッヒ校で地質学の博士号を取得し、南米での鉱山開発に30年以上従事してきた地質学者出身の経営者で、シルバー・インスティチュート(銀業界団体)の元会長、ランディン・マイニングの取締役も務める業界の重鎮である。レジリエンスという観点で象徴的なのは、2022年に純損益が3.42億ドルの赤字に陥った時期を経て、コスト構造の見直しとMAG Silver買収による高品位鉱山の獲得を進め、2025年には純利益9.78億ドル(前年比+773%)、2026年第1四半期だけで純利益4.57億ドル(前年同期比+170%)という劇的なV字回復を実現したことだ。銀セグメントのAISC(総維持コスト)を1オンスあたり13.88ドルから6.63ドルまで半減させた実行力は、専門技術者出身らしい現場感覚に基づくコスト管理能力の高さを裏付けている。
06 / LATEST EARNINGS

直近決算の予想・ガイダンスに対する結果

2026年Q1実績とFY2026ガイダンス

指標市場予想/従来ガイダンス実績/新ガイダンス評価
2026年Q1純利益市場予想$4.57億(前年同期比+170%)市場予想を上回る
銀セグメントAISC$13.88/oz(前年同期)$6.63/oz▲52% 大幅改善
FY2026 銀生産量ガイダンス従来ガイダンス2,650万〜2,850万oz上方修正
FY2026 金生産量ガイダンス従来ガイダンス17.5万〜19.0万oz上方修正
FY2026 AISCガイダンス従来ガイダンス$14.50〜15.50/oz引き下げ(コスト改善)
MAG Silver買収によるJuanicipio鉱山の本格的な生産寄与とコスト改善が同時に進み、市場予想を大幅に上回る決算が続いている。銀価格自体が構造的な供給不足を背景に上昇基調にある中、生産量の拡大とコスト削減という「量と質の両面での改善」が重なったことが、四半期利益の急拡大(前年同期比+170%)という結果に直結した。ガイダンス上方修正は、経営陣がこの改善を一時的なものではなく持続的なものと見ていることを示している。
07 / REVENUE & PROFIT

売上高・税引前利益の推移(直近10年間)

売上高・営業利益の推移(FY2016〜FY2025、百万ドル)

FY16 FY17 FY18 FY19 FY20 FY21 FY22 FY23 FY24 FY25 売上高 営業利益

純利益の推移(FY2016〜FY2025、百万ドル)

100 FY16 121 FY17 10 FY18 111 FY19 178 FY20 97 FY21 -342 FY22 -104 FY23 112 FY24 978 FY25

参考:2026年Q1単独の純利益は4.57億ドル(前年同期比+170%)。2022〜2023年の赤字期を経て、MAG Silver買収とコスト改善により2025年以降に劇的な収益拡大を遂げている。

年度売上高営業利益純利益
FY2016$774.8M$151M$100M
FY2017$816.8M$125M$121M
FY2018$784.5M$49M$10M
FY2019$1,350.8M$148M$111M
FY2020$1,338.8M$188M$178M
FY2021$1,632.8M$279M$97M
FY2022$1,495.0M-$213M-$342M
FY2023$2,316.0M$107M-$104M
FY2024$2,819.0M$556M$112M
FY2025$3,619.0M$1,127M$978M

2019年の売上急増はTahoe Resources買収、2023年はYamana資産取得が寄与。出典:Macrotrends、StockAnalysis.com。

08 / VALUATION

PERの推移(直近10年間)

PER(実績、年末値)の推移(FY2016〜FY2025)

20 FY16 17 FY17 184 FY18 38 FY19 37 FY20 49 FY21 N/A FY22 N/A FY23 64 FY24 20 FY25

FY2018のPER184倍は純利益がわずか$10Mまで落ち込んだ特殊値。FY2022・FY2023は純損失のためPER算出不能(N/A)。FY2025は20倍程度まで低下しており、2025年の大幅増益(純利益+773%)を市場がまだ十分に評価し切れていない可能性がある。銀価格の構造的な供給不足という追い風もあり、資源株としては相応の注目度にある。

09 / CAPITAL RETURNS

ROIC・WACC・ROEの推移(直近10年間)

年度ROEROICWACC(推定)
FY20167.46%10.84%約8〜9%
FY20178.17%8.32%約8〜9%
FY20180.64%3.07%約9〜10%
FY20194.56%5.37%約9%
FY20207.24%7.22%約8%
FY20213.70%10.52%約8%
FY2022-14.06%-8.52%約9〜10%
FY2023-2.02%1.76%約10%
FY20242.40%10.25%約9%
FY202516.70%16.98%約9%

WACCはパン・アメリカン・シルバー自身が開示する数値ではなく、当サイトによるCAPMベースの概算値(資源国リスクプレミアムを加味)。2022〜2023年の赤字期を経て、2025年はROICがWACC推定値を上回る価値創出局面に転じている。出典:Macrotrends、StockAnalysis.com。

10 / CASH FLOW

営業・投資・財務・フリーキャッシュフローの推移(直近10年間)

年度営業CF投資CF財務CFフリーCF
FY2016$215M-$140M-$28M$28.5M
FY2017$225M-$178M-$52M$84.0M
FY2018$155M-$159M-$33M$26.4M
FY2019$282M-$402M$103M$86.5M
FY2020$462M-$84M-$330M$306.2M
FY2021$392M-$187M-$86M$148.6M
FY2022$32M-$255M$53M-$242.9M
FY2023$450M$398M-$552M$71.2M
FY2024$724M-$33M-$225M$401.0M
FY2025$1,333M-$706M-$278M$1,019.0M

2023年の投資CFプラスは資産売却($355M)による一時的な要因。2025年は営業CF・フリーCFともに過去最高を更新。出典:Macrotrends、StockAnalysis.com。

直近の株主還元・流動性状況

4.88億 Q1 FCF 16億 現金等 24億 総流動性 最大10億 年間還元上限 3.05億 年間配当

2026年Q1のAttributable FCF(帰属フリーキャッシュフロー)4.88億ドル、2026年3月末時点の現金・短期投資残高16億ドル、総流動性24億ドル。新たな株主還元方針として年間フリーキャッシュフローの35〜40%を配当・自社株買いで還元する枠組みを導入し、2026年は最大10億ドルを還元予定。四半期配当は1株0.18ドル(年換算約3.05億ドル)。

11 / INVESTMENT & M&A

直近の投資・M&A状況

最大のM&A案件は2025年5月に発表、同年9月に完了したMAG Silverの買収(総額約21億ドル)で、これによりメキシコの高品位銀鉱山Juanicipioの44%持分を獲得した。この買収は2025年第4四半期の四半期最高生産量(銀730万オンス)に直接貢献しており、株式交換を中心とした買収スキームで財務レバレッジを抑えながら成長を実現した点が特徴的だ。過去に遡ると2019年のTahoe Resources買収(約11億ドル)が金セグメント獲得の起点となっており、同社は「既存の優良資産を持つ企業をまるごと取り込む」M&A戦略を一貫して採用してきた。埋蔵量は2025年6月末時点で銀452百万オンス・金630万オンス(確認+推定合計)と、買収を通じて着実に積み増されている。
12 / SEGMENT GROWTH

主要事業ごとの成長性

セグメント別の成長ドライバー

銀セグメント:Juanicipio鉱山(メキシコ)のフル生産化が最大の成長ドライバーで、AISCの大幅改善(13.88→6.63ドル/オンス)も同時進行。金セグメント:2025年は生産量が前年比▲17%と減少しており、銀セグメントほどの勢いはない。EV・太陽光発電向けの産業用需要拡大が、銀価格自体の上昇を通じて両セグメントの収益性を下支えしている。
成長性の中心は明確に銀セグメントにある。太陽光パネル・EVなど産業用途の銀需要が世界の総需要の50%超を占めるようになっており、2026年は銀市場にとって6年連続の供給不足年(不足量215百万オンスと予測)になる見通しだ。この構造的な需給ギャップが銀価格を支え、Juanicipio等の高品位鉱山を持つ同社の収益性を長期的に押し上げる土台となっている。一方、金セグメントは既存鉱山の成熟化により生産量が伸び悩んでおり、ポートフォリオ全体の成長ドライバーとしては銀に一本化されつつある。
13 / COMPETITIVE POSITION

競争優位性や業界内でのポジション

世界の純銀生産ランキングでは、2025年に約53.1百万オンスを生産したFresnillo(メキシコ)に次ぐ世界第2位の地位にあり、Hecla Mining・First Majestic Silverなど他の銀専業企業を規模で上回る。競争優位性の核は、北中南米7ヶ国に分散した鉱山ポートフォリオによる地政学リスクの分散と、MAG Silver買収で獲得したJuanicipioのような高品位・低コスト鉱山を組み合わせられる点にある。銀鉱山は新規開発に5〜10年という長いリードタイムを要するため、既に稼働中の優良資産を多数保有していること自体が強力な参入障壁として機能する。一方でメキシコ・ペルー・ボリビア・グアテマラといった資源国はいずれも政治・規制リスクを抱えており、Escobal鉱山の操業停止が示すように、地の利が同時に経営リスクの源泉にもなるという二面性を持つ。
14 / SCP ANALYSIS

SCP理論からの分析(市場動向・規制リスク・業界トレンド)

Structure(市場構造)

世界の銀市場は2026年で6年連続の供給不足が予測され、太陽光発電・EV向けの産業用需要が総需要の50%超を占める構造にシフトしている。生産面ではメキシコ・ロシアが世界の銀生産の約20〜21%を占め、地政学リスクが供給構造に直接影響する。

Conduct(企業行動)

大手各社はM&Aによる既存優良鉱山の獲得を成長戦略の中心に据えている(パン・アメリカンのMAG Silver買収がその典型)。同時に、資源国政府との関係維持・先住民協議など社会的合意形成のプロセスが、Escobal鉱山の事例のように操業継続を左右する重要な経営課題となっている。

Performance(業界トレンド・帰結)

構造的な供給不足が続く限り銀価格の下値は堅く(一部予測では2026年に75〜90ドル/オンスまでの上昇シナリオも語られる)、優良鉱山を持つ生産者の収益性は押し上げられやすい環境が続く。ただし新規供給の立ち上げには5〜10年を要するため、価格上昇が需給改善に反映されるまでのタイムラグが長く、政治・規制リスクが顕在化した場合の生産減少インパクトが相対的に大きくなりやすい業界構造である。
15 / INVESTMENT THESIS

これらの分析結果をもとにした現在の投資妙味

パン・アメリカン・シルバーは「構造的な銀の供給不足」という長期テーマに対する最も直接的な投資対象のひとつである。世界第2位の純銀生産量、MAG Silver買収による高品位資産の獲得、AISCの大幅改善(6.63ドル/オンス)という3つの要素が重なり、2025年以降の業績はV字回復を超えて過去最高水準へと拡大している。2022〜2023年の赤字期を知る投資家からすれば、この収益改善は一時的なブームではなく、コスト構造改善と資産の質向上という構造改革の成果と見ることができる。年間フリーキャッシュフローの35〜40%を還元する新たな株主還元方針も、資源株にありがちな「増産偏重で株主還元が後回し」というパターンからの脱却を示すポジティブな変化だ。一方でメキシコ・ペルー・ボリビア・グアテマラといった資源国リスクは常に内在しており、Escobal鉱山の長期操業停止はその現実を象徴する。「銀価格上昇の恩恵を最大限に享受できる優良銀鉱株」としての妙味は大きいが、政治リスクの高い国への地理的集中は継続的なモニタリングが必要である。
16 / WATCH POINTS & RISKS

今後の注目ポイントやリスク要因

注目ポイント

Juanicipio鉱山のフル生産化進捗とAISCのさらなる改善余地/2026年通期ガイダンス(銀2,650万〜2,850万オンス)の達成状況/銀価格自体の上昇トレンド継続(構造的供給不足の深刻化)/新株主還元方針(FCFの35〜40%)の実行状況/Escobal鉱山の操業再開に向けた協議進展。

リスク要因

メキシコ・ペルー・ボリビア・グアテマラなど資源国の政治・規制リスク(資源ナショナリズム、増税、許認可の遅延)/グアテマラEscobal鉱山のような操業停止が他鉱山でも発生するリスク/銀価格が調整局面入りした場合の収益性への影響/新規鉱山開発の5〜10年という長いリードタイムによる供給対応の遅れ/MAG Silver買収後の統合リスク(人員・システムの一体化)。