8766 東証プライム 損害保険

東京海上ホールディングス

国内損保3社体制の一角を占めつつ、海外保険事業が利益の過半を稼ぐグローバル保険グループへと変貌。政策保有株式の圧縮と非保険領域M&Aへの資本シフトが進む中、事業構造・沿革・経営者・財務10年推移からSCP分析までをナラティブでまとめました。

01 / OVERVIEW

スナップショット

株価

7,703円

2026/7/16 時点

時価総額

約14.7兆円

2026/7時点

PER(予想)

17.2倍

2027年3月期予想EPS基準

保有株数

400

ポートフォリオ登録数

出典:IRBANK(irbank.net/8766)、日本経済新聞・Yahoo!ファイナンス等(2026年7月時点)。2024年3月期にIFRS任意適用へ移行したため会計基準の断層があり、株価・PERは日々変動するため最新値は証券会社アプリ等でご確認ください。

02 / SEGMENT

事業ごと・国/エリアごとの売上高比率

事業セグメント別(2026年3月期)

国内損保 48%
海外保険 44%
国内損害保険事業(東京海上日動) 国内生命保険事業 海外保険事業 ソリューション・その他
4セグメント構成。海外保険事業の利益は5,590億円(前期4,884億円)とグループ最大の稼ぎ頭で、正味収入保険料も2兆7,753億円(+6.8%)と拡大。国内損害保険事業(自動車保険47.7%・火災保険17.7%が中心、2024年度正味収入保険料ベース)も増益を確保した一方、国内生命保険事業は損失を計上しており、セグメント間の収益性格差が拡大している。

地域別の収益構造

海外保険事業の営業収益は全社の5割超(約51.8%)に達し、国内(約48.2%)を上回る規模になっている。44の国・地域で事業を展開し、地域別では米国(北米)が最大の収益源で、次いで欧州・中南米・アジアが続く。Tokio Marine HCC(米国スペシャリティ保険)、Philadelphia Insurance(米国中堅企業向け)、Tokio Marine Kiln(ロンドン再保険市場)など、買収した現地ブランドがそれぞれの市場で独立運営される「地域分散型」の構造が特徴。

出典:東京海上ホールディングス 2026年3月期決算短信・決算説明資料(tokiomarinehd.com)、就活×有報ナビ・note記事等の有報分析。正確なセグメント別構成比は決算短信の詳細開示に基づくため、次回更新時に精緻化予定。

03 / HISTORY

創業からの歴史

1879年8月1日、資本金60万円で「東京海上保険会社」が設立された。日本初の保険会社であり、創業時の商品は貨物保険のみだったが、創業年のうちに釜山・上海・香港など18か所に海外代理店を配置するなど、設立当初から国際展開を志向していた点が特徴的である。1884年には船舶保険の引き受けを開始し、その後火災保険・自動車保険へと商品ラインを拡大しながら、戦前から日本を代表する損害保険会社としての地位を築いた。
2001年、三菱グループ系の東京海上火災保険と芙蓉グループ系の日動火災海上保険が「ミレア保険グループ」を結成し、2002年4月に共同株式移転方式で持株会社「ミレアホールディングス」が発足。2004年10月に東京海上火災と日動火災が合併し、2008年7月に持株会社名を現在の「東京海上ホールディングス」に変更した。この時期を境に、同社は単なる国内損保会社から、M&Aを通じたグローバル保険グループへと軸足を移していく。
海外展開の転機は2008年の米Philadelphia Consolidated Holding買収(約4,980億円)であり、以降2012年に米Delphi Financial Group(約2,100億円)、2014年に米大手スペシャルティ保険HCC Insurance Holdings(約9,000億円)を相次いで買収し、北米を中心とした海外保険事業を急拡大させた。近年は政策保有株式の売却を原資に、2024年のID&Eホールディングス(建設コンサル)買収など非保険領域にも資本配分を広げ、2024年3月期にはIFRS任意適用に移行して財務報告体系そのものも刷新している。
04 / MISSION, VISION, VALUE

ミッション・ビジョン・バリュー

東京海上グループのパーパス(存在意義)は「お客様や社会の“いざ”をお守りすること」。経営理念として「お客様の信頼をあらゆる活動の原点におき、企業価値を永続的に高めていく」ことを掲げ、長期ビジョンでは「すべての人や社会から信頼される良い会社“Good Company”を目指し、挑戦を続けてゆきます」というグループスローガンを共有している。
保険という「万一の備え」を扱う事業特性上、理念の中心に置かれるのは短期的な収益最大化ではなく、長期にわたる「信頼」の蓄積である。この考え方は、東日本大震災や近年の激甚化する自然災害における迅速な保険金支払い対応、そして海外で買収した各ブランド(Philadelphia、HCC、Kilnなど)を性急に統合せず現地の顧客基盤・専門性を尊重しながら緩やかにグループへ組み込む経営スタイルにも表れている。
05 / LEADERSHIP

現経営者の特徴・過去の実績(レジリエンスの観点)

2025年6月、小池昌洋氏が社長兼グループCEOに就任した。パリ生まれ、慶應義塾大学法学部卒業後の1994年に東京海上火災保険へ入社し、海外再保険事業部を皮切りに商品開発・企業営業・経営企画部門を横断的に経験、ロンドン・ニューヨークでの海外勤務も経験した「バランス型」の保険プロフェッショナルである。2022年に執行役員、2023年に常務執行役員を経て、53歳での社長就任は大手金融機関で最年少級とされ、「大胆な改革」を掲げる若返り人事として注目された。
前任の小宮暁氏(2019年6月〜2025年6月社長、現取締役会長)は、コロナ禍による保険引受・資産運用環境の激変、相次ぐ大型自然災害、2014年に買収したHCC Insuranceなど海外グループ会社の経営統合という複数の試練を経ながら、海外保険事業を「国内損保に匹敵する収益の柱」に育て上げた実績を持つ。2023年末には大手4社共通の課題として金融庁からカルテル関連の業務改善命令を受けたが、その後の内部管理体制の再構築を進めた。小池新体制は、この基盤の上で政策保有株式の売却を原資とした非保険領域M&Aや資本効率(ROE)重視の経営への転換を明確に打ち出しており、意思決定のスピードと資本規律の両立が今後のレジリエンスを測る試金石になる。
06 / LATEST EARNINGS

直近決算の予想・ガイダンスに対する結果

2026年3月期 通期実績(前期比・IFRS基準)

指標今期(FY26)実績前期比評価
保険収益7兆6,935億円+4.0%増収
経常利益1兆3,486億円-7.6%減益(前期の特殊要因剥落)
親会社所有者帰属当期利益5,313億円+17.9%増益
海外保険事業セグメント利益5,590億円前期4,884億円増益・最大の牽引役
ROE(実績)5.32%+0.39pt水準は依然低め
自己資本比率24.1%ほぼ横ばい健全水準
2026年3月期は保険収益・当期利益ともに前期を上回り、海外保険事業が利益の過半を牽引する構図が一段と鮮明になった。一方で経常利益は前期の政策保有株式売却益等の特殊要因が剥落したことで減少しており、「本業の保険引受・海外事業の伸び」と「政策株売却という一時益」を区別して評価する必要がある。会社側は2027年3月期の利益を8,300億円(前期比+56.2%)、1株配当を245円(前期比+27円、7期連続増配)と強気に見込んでおり、2026年5月20日には最大4,000億円(発行済株式の6.9%)の自社株買いも発表するなど、株主還元姿勢を強めている。市場はこの増配・自社株買い方針を好感し、株価は2026年5月に年初来高値を更新した。
07 / REVENUE & PROFIT

売上高・税引前利益の推移(直近10年間)

保険収益(正味収入保険料)・経常利益(10年推移、兆円)

FY17 FY18 FY19 FY20 FY21 FY22 FY23 FY24 FY25 FY26 保険収益/正味収入保険料 経常利益(税引前利益相当)

親会社所有者帰属当期利益(10年推移、億円)

2,739億円 FY17 2,842億円 FY18 2,746億円 FY19 2,598億円 FY20 1,618億円 FY21 4,205億円 FY22 3,746億円 FY23 6,958億円 FY24 4,504億円 FY25 5,313億円 FY26

出典:IRBANK(irbank.net/E03847/pl)。FY17〜FY24は日本基準(正味収入保険料・経常利益)、FY25〜FY26はIFRS任意適用後の数値(保険収益・税引前利益に相当する経常利益)。2025年3月期の保険収益急増は主に保険収益の認識基準変更(IFRS17)によるもので、事業の実態的な急拡大を示すものではない点に留意。2027年3月期は会社予想で当期利益8,300億円(+56.2%)を見込む。

08 / VALUATION

PERの推移(直近10年間)

PER(期末実績、10年推移)

12.91倍 FY17 12.37倍 FY18 14.00倍 FY19 13.39倍 FY20 22.68倍 FY21 11.62倍 FY22 13.66倍 FY23 13.38倍 FY24 10.58倍 FY25 13.64倍 FY26
FY21(2021年3月期)はコロナ禍による利益急減でPERが一時的に急騰。直近の実勢PER(2026/7時点)は17.2倍前後で、10年レンジ(10.6〜22.7倍)の中では標準〜やや高めの水準にある。損保セクターは伝統的に一桁〜十倍台前半で評価される傾向があり、増配・自社株買い方針が株価を押し上げPERをやや切り上げている。

出典:IRBANK(irbank.net/8766/per)。各年度末(3月末)終値ベースのPER。

09 / CAPITAL RETURNS

ROIC・WACC・ROEの推移(直近10年間)

ROE(自己資本利益率、10年推移)

7.73% FY17 7.47% FY18 7.68% FY19 7.70% FY20 4.42% FY21 10.46% FY22 10.45% FY23 6.84% FY24 4.93% FY25 5.32% FY26

ROIC・WACC(概算試算)

指標推定レンジ算出方法・留意点
ROIC(概算)4〜7%程度当期利益÷(株主資本+有利子負債)で簡便試算。自己資本比率が13%前後→24%超へ急上昇したFY24以降、分母急拡大で低下傾向
WACC(概算)6〜8%程度無リスク金利(日本10年債 約1.5〜2%)+β(約0.9〜1.1)×エクイティリスクプレミアム(5〜6%)。有利子負債比率1.3%と低くほぼ株主資本コストに近似

保険会社は保険料として預かった資金(フロート)を運用に回すビジネスモデルのため、事業会社向けROIC定義(税引後営業利益÷投下資本)をそのまま当てはめる意味は薄く、上記は当サイト独自の簡便試算(公式開示なし)。

出典:ROEはIRBANK(irbank.net/E03847/pl)実績値。ROIC・WACCは公式開示がないため当サイトによる概算試算で、正式な財務指標ではありません。ROE水準(実績5%前後)はWACC概算値(6〜8%)を下回っている局面が多く、資本効率面では改善余地が大きいことが、政策保有株式売却・自社株買い・非保険M&Aという直近の資本政策転換の背景にあると考えられる。

10 / CASH FLOW

営業・投資・財務・フリーキャッシュフローの推移(直近10年間)

営業・投資・財務・フリーCF(10年推移、兆円)

FY17 FY18 FY19 FY20 FY21 FY22 FY23 FY24 FY25 FY26 営業CF 投資CF 財務CF フリーCF
営業CFは概ね年間1兆円前後で安定的に創出されており、FY25(2025年3月期)には政策保有株式の売却等も寄与し2.01兆円まで拡大した。投資CFはFY20(コロナ禍直前の運用資産積み増し局面)に-2.55兆円と突出した流出となった以外は、概ね-0.2〜-0.7兆円のレンジで推移。財務CFは配当支払・自社株買いにより恒常的にマイナスで、フリーCFは多くの年度でプラスを確保しており、保険引受・資産運用から生まれる安定的なキャッシュ創出力を、株主還元と海外M&Aの両方に振り向けられる財務体質であることを示している。

出典:IRBANK(irbank.net/E03847/cf)。FY25以降はIFRS任意適用後の数値。

11 / INVESTMENT & M&A

直近の投資・M&A状況

同社は傘下の東京海上日動が保有する政策保有株式(2024年9月末時点で時価ベース約2兆5,707億円)を2030年3月末までに実質ゼロにする方針を掲げ、売却を加速している。小池新社長は、この売却で得られる資金を非保険領域のM&Aに充てる方針を明言しており、2024年には建設コンサルタントのID&Eホールディングスを買収、2025年10月には海外M&Aに100億ドル(約1.5兆円)超を投資する可能性が報じられるなど、防災・減災・安心安全という祖業に近接する領域での事業ポートフォリオ拡張を進めている。
海外保険事業では、豪州保険会社からタイ・インドネシアの損害保険現地法人を428億円で買収するなど、東南アジアでの地域補完的なM&Aも継続。2026年5月には最大4,000億円(発行済株式の6.9%)の自社株買いを発表し、うち2,000億円分の取得を取締役会で即時決議するなど、資本配分の軸を「政策株売却→非保険M&A・海外保険の地域補完買収→株主還元」という一つの循環として位置づけている点が、直近の資本政策の最大の特徴である。
12 / SEGMENT GROWTH

主要事業ごとの成長性

セグメント別の伸び(2026年3月期)

海外保険事業:セグメント利益+14.5%(4,884億円→5,590億円)、正味収入保険料+6.8%(2兆7,753億円)で最大の成長ドライバー/国内損害保険事業:増益を確保しつつも自然災害・物価上昇によるコスト増が重石/国内生命保険事業:損失計上と最も厳しい状況/ソリューション・その他:非保険領域M&A(ID&Eホールディングス等)による新たな成長軸を模索中
最も持続的な成長を示しているのは海外保険事業である。北米を中心とするスペシャルティ保険(HCC・Philadelphia)は、価格決定力の強い専門性の高い保険種目を扱うため利益率が相対的に高く、金利上昇局面では保険料として預かった資金の運用利回りも改善するという追い風を受けやすい。国内損害保険事業は日本国内の自動車保有台数の頭打ちという構造的な成熟に直面しつつも、自然災害の激甚化による火災保険料率の見直しが収益を下支えしている。一方、国内生命保険事業は低金利環境下での運用難や商品構成の見直しにより損失を計上しており、グループ内での位置づけの再定義が今後の課題になる。
13 / COMPETITIVE POSITION

競争優位性や業界内でのポジション

国内損害保険市場は東京海上日動・損害保険ジャパン・三井住友海上(+あいおいニッセイ同和)の実質3メガ損保による寡占構造で、代理店網・ブランド信頼性・保険引受ノウハウの蓄積という高い参入障壁に守られている。東京海上グループは自動車保険(正味収入保険料の47.7%)を中心に国内でトップクラスのシェアを持ち、150年近い歴史に裏打ちされた信頼とブランド力が最大の競争優位性である。
海外事業では、HCC Insuranceに代表される米国スペシャルティ保険(一般的な保険では引き受けにくい専門性の高いリスクを扱う分野)で高い専門性とプライシング力を確立しており、単純な価格競争に巻き込まれにくいポジションを築いている。「国内は寡占市場での安定収益、海外は専門性で稼ぐ高収益事業」という二段構えの収益構造は、他の国内損保グループと比較しても海外比率が高く、地域・事業の分散が効いている点が同社の強みである。
14 / SCP ANALYSIS

SCP理論からの分析(市場動向・規制リスク・業界トレンド)

Structure(市場構造)

国内損保市場は実質3メガ体制による寡占構造で新規参入が極めて困難。一方、海外スペシャルティ保険市場は多数のプレイヤーが専門分野ごとに競争するニッチ市場の集合体であり、東京海上はM&Aによって複数のニッチ市場でリーダーポジションを積み上げる「寡占×専門ニッチの二重構造」を持つ。

Conduct(企業行動)

政策保有株式の計画的な売却、非保険領域への資本配分、大型自社株買いなど、資本効率(ROE)を強く意識した経営行動へと明確にシフトしている。海外M&Aでは買収先ブランドを性急に統合せず現地経営陣の専門性を活かす分権的な行動様式が一貫しており、2023年のカルテル問題を受けたコンプライアンス体制の強化も進行中。

Performance(業界トレンド・帰結・規制リスク)

自然災害の激甚化・頻発化はコンバインドレシオ(損害率+事業費率)を悪化させるリスクである一方、保険料率の適正化(値上げ)を通じて中長期的には収益機会にもなる「両面のリスク」である。金利上昇局面は運用利回り改善という追い風だが、世界的な金融市場の変動は保有有価証券の評価損益を通じて純資産・ROEを振れやすくする。規制面では、2023〜2024年に大手4社が金融庁の業務改善命令・公正取引委員会の排除措置命令を受けた企業向け保険のカルテル問題が業界全体の信頼低下と代理店手数料体系の見直し圧力につながっており、今後の収益構造・営業慣行に一定の影響を及ぼす可能性がある。
15 / INVESTMENT THESIS

これらの分析結果をもとにした現在の投資妙味

東京海上ホールディングスへの投資妙味は、①国内寡占市場での安定収益基盤と、海外スペシャルティ保険という高収益事業の組み合わせによる「守りと攻めの両立」、②政策保有株式売却・自社株買い・非保険M&Aという明確な資本効率改善の道筋、③7期連続増配という株主還元への強いコミットメント、という3点に集約される。ROE実績(5%前後)は概算WACC(6〜8%)を下回る局面が続いており、資本効率の観点では改善途上にあるが、裏を返せば新体制の資本政策転換が奏功すれば株価の再評価余地も相応にあるという見方もできる。
保険株全般の宿命として、自然災害や金融市場の変動により利益・ROEが年度ごとに大きく振れる点は避けられないが、海外保険事業という「利益成長ドライバー」を持つ点は、国内損保専業の同業他社にはない相対的な強みである。長期の配当成長と資本効率改善の両方に賭けるインカム+バリュー型の投資として検討に値する銘柄と言える。
16 / WATCH POINTS & RISKS

今後の注目ポイントやリスク要因

注目ポイント

・政策保有株式ゼロ化(2030年3月末目標)の進捗ペース
・100億ドル超規模と報じられる海外非保険・保険M&Aの具体化
・最大4,000億円の自社株買いの執行状況と資本効率(ROE)の改善度合い
・小池新体制による中期経営計画の刷新内容
・海外保険事業(HCC・Philadelphia・Kiln)の利益成長の持続性

リスク要因

・自然災害の激甚化・頻発化によるコンバインドレシオ悪化リスク
・金利・株式市場の変動による資産運用損益・純資産のブレ
・2023〜2024年の損保カルテル問題を受けた規制強化・代理店手数料体系見直しの影響
・国内生命保険事業の収益性改善の遅れ
・大型海外M&Aの実行・統合リスク(買収価格の妥当性、為替変動)
・IFRS移行に伴う会計指標の断層による投資家の評価難易度上昇