6963 東証プライム 電気機器・パワー半導体

ローム

SiC関連で1,936億円の減損を計上し過去最大の最終赤字に沈んだ2026年3月期を起点に、事業構造・経営者・財務10年推移・ROIC−WACCスプレッド・東芝/三菱電機との統合協議までを検証する。

01 / OVERVIEW

スナップショット

株価

4,830円

2026/8/28 終値

時価総額

約1.95兆円

2026/8/28 時点

PBR(実績)

2.40倍

2026/8/28 時点

保有株数

未確認

出典:日経会社情報DIGITAL(nikkei.com)、IRBANK(irbank.net/6963/per)。2026年8月28日時点の株式益回り(予想)1.55%から逆算した予想PERは約64倍。2026年3月期は最終赤字のため実績PERは算出不能で、バリュエーションは「回復後の利益」に対する期待で成立している点に注意。

02 / SEGMENT

事業ごと・国/エリアごとの売上高比率

事業セグメント別 売上高(2026年3月期・報告セグメント3区分)

LSI 2,184億円 / 48.0% 半導体素子 2,053億円 / 45.1% モジュール 316億円 / 6.9%

国・エリア別 売上高(2026年3月期)

日本 1,451億円 / 30.2% 中国 1,466億円 / 30.5% その他(欧米・アジア他) 1,894億円 / 39.4%

日本・中国向け売上高の10年推移(億円)

FY17 FY18 FY19 FY20 FY21 FY22 FY23 FY24 FY25 FY26 日本 中国

出典:The社史(the-shashi.com/tse/6963/current、有価証券報告書XBRLベース)、ローム決算資料。
アナログ/ロジックを含むLSIと、ダイオード・トランジスタ・SiCを含む半導体素子がほぼ拮抗する二本柱で、モジュールが7%弱を補う構成。地域別では日本30%・中国31%・その他39%と、中国向けが国内向けを上回る。中国の売上高は10年前(FY17 1,156億円)から1,466億円へ緩やかに増えており、EV・産業機器向けの比重が高いことが、後述する米中摩擦と中国パワー半導体の内製化を最大の構造リスクにしている。※構成比は報告セグメント3区分の合計(4,553億円)に対する比率で、全社売上高4,811億円との差額はその他・調整額。

03 / HISTORY

創業からの歴史

1954年、立命館大学在学中に超小型抵抗器の特許を取得した佐藤研一郎氏が、京都・西陣で東洋電具製作所を創業したのが出発点である。1958年に株式会社化。社名の「ROHM」は、創業品目である抵抗器(Resistor)の頭文字Rと、抵抗の単位オーム(ohm)を組み合わせたもので、1970年代末から1980年代初頭にかけて現社名へ変更された。
同社を特徴づけたのは、大手が本命視しない領域を狙う「3番手戦略」だった。抵抗器からトランジスタ、ダイオード、そしてSRAMなどのICへと領域を広げる過程で、大手が正面から競う最先端ロジックではなく、アナログ・ディスクリートといった「地味だが利益率の高い」領域に資源を集中し、京都の独立系メーカーとして高収益体質を築いた。1989年の東証一部上場後も佐藤研一郎氏によるオーナー的経営が2010年まで続き、自己資本比率80%台という極端に保守的なバランスシートと、内製主義(設計から製造装置の内製まで自社で抱える)が同社の代名詞になった。
この保守的な体質が大きく変わったのが2020年代である。EV向けSiC(炭化ケイ素)パワー半導体に社運を賭ける形で巨額の設備投資を実行し、2023年には東芝の非公開化を進めるJIP連合へ最大3,000億円を拠出してパワー半導体の製造連携に踏み込んだ。この結果、10年前に86.9%だった自己資本比率は2026年3月期に59.1%まで低下し、無借金に近かった財務は有利子負債2,000億円を抱える構造へ変わった。そして2026年3月期、EV市場の中期成長鈍化を受けてSiC関連の生産設備を中心に1,936億円の減損を計上し、過去最大となる1,584億円の最終赤字を出す。創業以来の「品質第一・保守的財務」という型が、装置産業化したパワー半導体の投資競争のなかで一度限界に達した、というのがここまでの歴史の要約である。

出典:ローム「沿革」(rohm.co.jp)、The社史(the-shashi.com/tse/6963)、日本経済新聞。

04 / MISSION, VISION, VALUE

ミッション・ビジョン・バリュー

ロームの企業目的は「われわれは、つねに品質を第一とする。いかなる困難があろうとも、良い商品を国の内外へ永続かつ大量に供給し、文化の進歩向上に貢献することを目的とする」。創業以来変わらないこの一文が、世界のロームグループ全社に共通の行動基準として置かれている。同社は「品質」を製品性能に限定せず、コスト・デリバリー・サービス・環境・顧客満足まで含む広義の概念として定義している。
この理念は、車載・産機といった長期信頼性が要求される市場でのポジションと整合的である。一方で、理念が「永続かつ大量に供給する」ことを求める構造は、需要が落ちても供給能力を落としにくい方向へ経営を引っ張りやすい。2021〜2025年度の第1次中期経営計画(成長投資4,000億円、2026年3月期売上高4,700億円目標)は売上目標こそほぼ達成したものの、利益目標は大きく未達に終わり、統合報告書でも目標未達を明示したうえで構造改革と新中期経営計画の策定を掲げている。長期ビジョンとしては「パワー・アナログ半導体で世界トップ10入り」を掲げるが、現在の課題は理念の再定義ではなく、理念を実現するための投資規律の再構築にある。

出典:ローム「経営理念/企業目的」(rohm.co.jp)、ローム統合報告書2025。

05 / LEADERSHIP

現経営者の特徴・過去の実績(レジリエンスの観点)

現社長は東克己氏(1964年生まれ)。1989年に名古屋工業大学を卒業してロームに入社し、ディスクリート生産本部長(2013年取締役)、ディスクリート・オプト・モジュール担当専務(2017年)、COO(2020〜2023年)、ローム・アポロ社長(2023年)を経て、2025年4月に代表取締役社長へ就任した。前任の松本功氏(2020〜2025年、LSI生産畑出身)から、ディスクリート・パワー半導体の生産現場を長く歩いた人物へトップが移った形である。就任は2025年1月に発表され、12年ぶりの赤字転落見通しを受けて「痛みを伴う改革も必要」として工場再編を含む抜本的な構造改革を担う人事だった。
レジリエンスという観点で見ると、同社は2013年3月期にも524億円の最終赤字を出し、そこから2023年3月期の純利益804億円まで回復した実績を持つ。ただし前回の赤字は事業ポートフォリオの入れ替えによるもので、今回はSiCという成長投資そのものの前提が崩れた点で性格が異なる。東社長は2026年3月期決算で「今回の減損で膿は出し切れたとみている」と述べ、「大きく改善させて利益を出せる会社にもう一回戻る」と表明した。経営陣の言葉としては明快だが、投資家として検証すべきは言葉ではなく、①減損後の減価償却負担の軽減が実際に営業利益率へ効いてくるか、②工場再編で固定費がどこまで落ちるか、③後述する3社統合協議で自社のSiCがどう位置づけられるか、の3点である。

出典:ローム役員情報、MONOist(monoist.itmedia.co.jp)、EE Times Japan(eetimes.itmedia.co.jp)、ニュースイッチ。

06 / LATEST EARNINGS

直近決算の予想・ガイダンスに対する結果

2026年3月期 通期実績 vs 会社修正予想(2026年2月4日公表)

指標会社修正予想実績前期比評価
売上高4,800億円4,811億円+7.3%ほぼ計画線
営業利益60億円109億円黒字転換上振れ
経常利益110億円192億円黒字転換上振れ
親会社株主帰属当期純利益100億円▲1,584億円赤字拡大大幅下振れ
減損損失1,936億円SiC関連が中心
自己資本比率59.1%▲2.7ptなお高水準だが低下継続
本業(営業・経常)は会社の修正予想を上回って着地した一方、最終損益は1,936億円の減損計上によって計画の100億円の黒字から1,584億円の赤字へ転落した。減損の理由は「EV市場の中期的な成長鈍化」であり、SiCの生産設備を中心に将来キャッシュフローの見積りを引き下げたことによる。つまりこの決算は「足元の稼ぐ力は想定より戻っている/将来の需要前提は想定より悪い」という二層構造で読む必要がある。
2027年3月期の会社予想は売上高5,100億円(+6.0%)、営業利益300億円(+176%)、当期純利益290億円と黒字転換の計画だが、日本経済新聞によればこの純利益予想は市場のアナリスト予想平均を下回った。減損によって将来の減価償却負担が軽くなる分、営業利益率は機械的に改善するため、増益の「質」を見極める必要がある。なお2027年3月期の会社予想営業利益率は5.9%で、ピークだった2023年3月期の18.2%とはなお大きな開きがある。

出典:IRBANK(irbank.net/E01953/pl)、ローム2026年3月期決算短信、日本経済新聞、EE Times Japan。

07 / REVENUE & PROFIT

売上高・利益の推移(直近10年間)

売上高(FY2017〜FY2026、3月期、億円)

3,520 FY17 3,971 FY18 3,990 FY19 3,629 FY20 3,599 FY21 4,521 FY22 5,079 FY23 4,678 FY24 4,485 FY25 4,811 FY26

営業利益(億円)

318 FY17 570 FY18 559 FY19 295 FY20 385 FY21 715 FY22 923 FY23 433 FY24 -401 FY25 109 FY26

経常利益(税引前利益に相当、億円)

356 FY17 542 FY18 647 FY19 358 FY20 407 FY21 826 FY22 1,095 FY23 692 FY24 -297 FY25 192 FY26

親会社株主に帰属する当期純利益(億円)

264 FY17 372 FY18 454 FY19 256 FY20 370 FY21 668 FY22 804 FY23 540 FY24 -501 FY25 -1,584 FY26

出典:IRBANK(irbank.net/E01953/pl)、The社史(有価証券報告書XBRL)。
売上高はFY2017の3,520億円からFY2026の4,811億円へ、10年CAGRで+3.5%。伸びは緩やかだが、注目すべきは利益の振れ幅である。営業利益率はFY2023の18.2%からFY2025の▲8.9%へ27ポイント動いた。半導体サイクルに加え、SiC増強に伴う固定費が一気に立ち上がったことが振幅を増幅している。経常利益が営業利益を上回る年が多いのは、受取利息・配当と為替差益など営業外収益の寄与による。FY2026の当期純利益▲1,584億円は減損1,936億円が主因で、事業キャッシュフローの毀損とは区別して読む必要がある。

08 / VALUATION

PERの推移(直近10年間)

各期末実績PER(FY2017〜FY2024。FY2025・FY2026は最終赤字のため算出不能)

29.6 FY17 28.8 FY18 16.0 FY19 23.9 FY20 28.7 FY21 14.1 FY22 13.4 FY23 17.5 FY24

出典:IRBANK(irbank.net/6963/per)。
10年間の期末PERは13.4倍(2023年3月末)〜29.6倍(2017年3月末)のレンジで、日本の半導体・電子部品セクターとしては標準的な水準にあった。2025年3月末・2026年3月末は2期連続の最終赤字でPERが成立せず、2026年8月28日時点の予想PERは約64倍(株式益回り1.55%の逆数)。PBRは2.40倍で、2010年以降のレンジ0.4〜1.86倍を大きく上回る。つまり現在の株価は、過去10年のどの局面よりも「これから利益が戻る」という前提に強く依存している。統合協議や生成AI・データセンター関連の思惑が株価を押し上げた側面が大きく、利益実績で正当化されている水準ではない。

09 / CAPITAL RETURNS

ROIC・WACC・ROEの推移

ROE(FY2017〜FY2024。FY2025・FY2026は赤字のため算出不能)

3.6% FY17 5.0% FY18 5.9% FY19 3.6% FY20 4.8% FY21 8.0% FY22 8.8% FY23 5.6% FY24

ROIC・WACC概算とスプレッド

年度NOPAT(概算)投下資本(概算)ROIC(概算)WACC(概算)スプレッド
FY2022(2022/3)501億円8,793億円5.7%約9.3%▲3.6pt
FY2023(2023/3)646億円9,562億円6.8%約9.3%▲2.5pt
FY2024(2024/3)303億円12,685億円2.4%約9.3%▲6.9pt
FY2025(2025/3)営業赤字マイナス約9.3%大幅マイナス
FY2026(2026/3)76億円9,577億円0.8%約9.3%▲8.5pt

試算方法:NOPAT=営業利益×(1−実効税率30%)。投下資本=自己資本+有利子負債で、自己資本は当期純利益÷ROE、総資産は有利子負債÷有利子負債比率から逆算した概算値(自己資本比率・有利子負債比率はThe社史の有報XBRL集計を使用)。WACCは、リスクフリーレート2.9%(2026年8月28日の日本10年国債利回り)、マーケットリスクプレミアム5.5%、β1.3、負債コスト2.0%(税引後1.4%)、時価ベースの資本構成(株式1.95兆円/有利子負債2,000億円)で試算した。
結論として、ロームは直近10年で最も好調だったFY2023(営業利益率18.2%)ですらROICがWACCに届いていない。つまり同社は、この10年間ほぼ一貫して資本コストを上回るリターンを生めていない。自己資本比率80%超という「安全な」バランスシートは、裏を返せば低収益資産を大量に抱えたまま資本効率を犠牲にしてきた構造でもある。減損によって投下資本が圧縮されたことで分母は小さくなったが、スプレッドをプラスに転じさせるには営業利益で概算900億円規模(=ROIC9.3%相当)が必要で、これは2023年3月期の過去最高水準に近い。なお国債利回りの上昇局面ではWACCも上がるため、ハードルは年々切り上がっている点に注意。

10 / CASH FLOW

営業・投資・財務・フリーキャッシュフローの推移(直近10年間)

キャッシュフロー4種(FY2017〜FY2026、億円)

FY17 FY18 FY19 FY20 FY21 FY22 FY23 FY24 FY25 FY26 営業CF 投資CF 財務CF FCF

出典:The社史(the-shashi.com/tse/6963/current、有報XBRLベース)。
営業CFは最終赤字だったFY2025・FY2026でも840億円・894億円を確保しており、赤字の主因が非資金項目である減損だったことがCFで裏づけられる。異常値はFY2024(2024年3月期)で、東芝の非公開化連合への出資などにより投資CFが▲4,320億円、これを財務CF+2,651億円(借入・社債)で賄った。この1年でフリーCFは▲3,491億円となり、無借金体質は事実上終わった。FY2026の投資CF+1,086億円は有価証券の売却・償還等によるもので、設備投資が止まったことを意味しない。10年通算のフリーCFは概算▲2億円とほぼゼロで、この10年でロームは営業で稼いだキャッシュをすべて投資に回し、株主に残せた分がほぼなかったことになる。

11 / INVESTMENT & M&A

直近の投資・M&A状況

2023年12月:東芝デバイス&ストレージとの製造連携。ロームと東芝D&Sが共同申請したパワー半導体の供給確保計画が経済産業省に認定された。SiCパワー半導体を宮崎県国富町(ラピスセミコンダクタ宮崎第二工場)、Siパワー半導体を石川県能美市で生産する計画で、事業総額3,883億円に対し最大1,294億円の国庫助成が付いた。SiCパワー半導体は2026年4月から年産72万枚(8インチ換算)、SiCウエハーは2025年1月から年産70.8万枚の計画。
2023〜2024年:東芝非公開化連合へ最大3,000億円を拠出。日本産業パートナーズ(JIP)主導の東芝TOBに出資者として参加。この資金拠出がFY2024の投資CF▲4,320億円の主因であり、実質無借金だった財務体質が有利子負債を抱える構造へ転換する分岐点になった。
2026年3月27日:ローム・東芝D&S・三菱電機の3社統合協議入り。三菱電機のパワーデバイス事業、ロームの半導体事業、東芝D&Sの半導体事業について、事業・経営統合の協議開始に関する基本合意書を、3社とJIP・TBJホールディングスの5社連名で締結した。単純合算の市場シェアは世界2位となる規模で、技術的にはロームがSiC、東芝D&SがSi MOSFET、三菱電機がIGBT・モジュールと補完関係にある。2026年4月には三菱電機社長が「3社のパワー半導体事業を切り出して合弁会社を設立したい」と述べ、パワー半導体とそれ以外の事業の統合を分けて進める方針を示している。2026年8月時点で統合スキームは協議継続中で、確定していない。

出典:東芝ニュースリリース(global.toshiba)、EE Times Japan、日経クロステック、経済産業省資料。

12 / SEGMENT GROWTH

主要事業ごとの成長性

LSI(売上2,184億円)。電源IC・モーター driver・車載向けアナログが中心。車載の電動化・電子化に伴う搭載点数増が構造的な追い風で、ロームが「品質第一」の理念で強みを持つ領域とも重なる。ただしアナログICはTI・アナログデバイセズという規模と製造効率で勝る競合が存在し、価格決定力では劣後する。
半導体素子(売上2,053億円)。ダイオード・トランジスタなどの汎用ディスクリートと、SiCパワーデバイスを含む。ロームは2010年にSiC MOSFETを世界で初めて量産した先行者で、技術的な蓄積は本物である。問題は市場の伸び方が想定と違ったことで、EVの成長鈍化に加え、中国勢のSiC参入による価格下落が同時に来た。減損はこの前提修正を財務に反映させたものであり、逆に言えば「単価が下がっても回る損益分岐点」に作り直せるかが今後の焦点になる。
モジュール(売上316億円)。LEDや光学デバイス等。規模が小さく、全社の成長を左右する位置にはない。
成長ドライバーの現実的な評価。会社計画のFY2027売上高5,100億円(+6.0%)は、EV向けSiCの本格離陸ではなく、車載・産機の在庫調整一巡と生成AI/データセンター向け電源需要が牽引する構図とみるのが妥当である。生成AI向けは電力密度の高さからSiC・GaNを含む高効率電源への需要を押し上げる方向に働くが、この領域はインフィニオン・オンセミ・ナビタス等との競争が激しく、ロームが独占できる市場ではない。

出典:ローム決算資料、The社史セグメント集計。セグメント売上高は2026年3月期実績。

13 / COMPETITIVE POSITION

競争優位性や業界内でのポジション

強み。①SiC MOSFETの世界初量産(2010年)に代表される先行技術と、ウエハーからデバイスまでの垂直統合。傘下にSiCウエハーメーカーSiCrystal(ドイツ)を持ち、材料から一貫して押さえている数少ない企業である。②車載品質での長期実績とディスクリートの品揃え。③自己資本比率59%と、赤字を出しても即座に資金繰りが問題化しない財務余力。
弱み。①規模。パワー半導体世界首位のインフィニオンの売上高は同社の数倍あり、開発費・設備投資の絶対額で劣る。装置産業化した領域では規模がそのままコストになる。②アナログ・ディスクリートは製品単価が低く、価格競争に巻き込まれやすい。③中国勢の台頭。中国はSiCを含むパワー半導体の内製化を国策で進めており、同社の中国向け売上(全体の30.5%)はそのまま代替リスクでもある。④前述のとおり、この10年間ROICがWACCを一度も上回っていない。
ポジションの結論。ロームは「技術では先行したが、規模で負けつつある専業メーカー」という位置にある。3社統合協議は、この規模の劣位を国内再編で埋めようとする動きであり、単独での競争が困難であることを経営自身が認めた証左とも読める。統合が実現すればシェアは世界2位になるが、シェアと収益性は別物で、統合コストとカルチャー統合の難易度は極めて高い。
14 / SCP ANALYSIS

SCP理論からの分析(市場構造・企業行動・業界トレンド)

Structure(市場構造)

パワー半導体は、インフィニオン、オンセミ、STマイクロ、三菱電機、富士電機、ローム、そして急伸する中国勢(BYDセミコンダクター、斯達半導体など)による寡占的競争市場である。上位の集中度は中程度で、独占的な価格決定力を持つプレイヤーはいない。参入障壁は「技術」よりも「量産設備投資と車載認証の期間」に存在し、これは国家補助金が入ると一気に低くなる性質を持つ。実際、中国の国策支援と日本・EUの補助金が同時に走った結果、2024〜2025年にかけてSiCは需要の伸びを上回る供給能力が積み上がった。これがローム減損の構造的背景である。

Conduct(企業行動・規制リスク)

企業行動としては、①国家補助金を前提とした能力増強競争(ローム+東芝で最大1,294億円の助成認定)、②水平統合による規模確保(ローム・東芝D&S・三菱電機の3社統合協議)、③垂直統合による材料の囲い込み(SiCrystal保有)が同時進行している。規制リスクは3方向。第1に米中の輸出管理・関税で、中国向け30.5%という売上構成は政策変更の直撃を受けうる。第2に各国のEV普及政策の後退(EU・米国の規制緩和はSiC需要の前提を直接動かす)。第3に3社統合そのものの競争法審査で、日中欧の当局承認が必要になる。

Performance(業界トレンド・収益性への帰結)

「補助金つき供給能力の同時立ち上げ」と「EV需要の伸び鈍化」が重なった局面では、業界全体の稼働率が落ち、価格が下がり、減損が連鎖する。ロームの1,936億円はその最初の大玉であり、同業でも同種の見直しが出る可能性がある。中期的には、需要側の柱がEV一本からデータセンター電源・産業機器へ広がることで需給は改善に向かうが、そのときの価格水準は2022〜2023年のピーク時には戻らないとみるのが自然である。業界の平均的な収益性は構造的に一段下がり、規模とコストで勝る企業に利益が集中する。SCPの帰結として、ロームのような中堅専業が単独で高収益を維持する余地は縮小しており、統合はその論理的な帰結である。
15 / INVESTMENT THESIS

これらの分析結果をもとにした現在の投資妙味

結論から言えば、現在のロームは「業績の株」ではなく「再編イベントの株」である。PBR2.40倍・予想PER約64倍という水準は、2026年3月期の利益実績からは正当化できない。株価を動かしているのは、3社統合協議の進展と、生成AI・データセンター向け電源需要への期待である。
強気に見るなら。①減損1,936億円を計上したことで将来の減価償却負担が軽くなり、同じ売上でも営業利益が出やすい体質に変わった。②営業CFは赤字期でも840〜894億円を維持しており、キャッシュ創出力そのものは壊れていない。③3社統合が実現すれば世界2位規模となり、国内での過当競争が解消される。④自己資本比率59.1%・現預金4,287億円と、時間を買える財務余力がある。
弱気に見るなら。①この10年、ROICが一度もWACCを上回っていない。企業として資本コストを稼げていない事実は、減損では消えない。②統合協議は基本合意の段階にすぎず、スキーム・比率・競争法審査のいずれも未確定で、破談や条件悪化のリスクがある。③中国向け売上30.5%は、政策リスクと現地競合の台頭という二重の圧力にさらされている。④会社計画のFY2027純利益290億円ですら市場予想を下回っており、業績面での上振れ余地は限定的。
投資妙味の判定。バリュエーションに安全余裕はなく、株価はイベント期待で先に走っている。すでに保有しているなら統合協議の節目(統合比率・合弁会社の枠組み発表)まで持つ合理性はあるが、この水準から新規に「割安だから買う」という理由は見当たらない。仮にエントリーするなら、①統合スキームが具体化して自社SiCの位置づけが明確になる、②四半期ベースで営業利益率が2桁に復帰する、のどちらかを確認してからでも遅くない。逆に、統合協議が停滞した場合の下方リスクはPBR基準で相当に大きい(2010年以降のPBRレンジ上限1.86倍に対し現状2.40倍)。
※本セクションは公開情報に基づく分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
16 / WATCH POINTS & RISKS

今後の注目ポイントやリスク要因

注目ポイント(カタリスト)

① 3社統合協議の具体化(合弁会社の設立形態・出資比率・ロームのSiC事業の位置づけ)。基本合意は2026年3月27日で、次の節目は最終契約の締結。
② 宮崎第二工場のSiCパワー半導体量産(2026年4月開始計画)の立ち上がりと稼働率。
③ 四半期営業利益率の回復ペース。減損後の償却負担減がどの程度効くかが第1四半期以降の実績で見える。
④ 生成AI・データセンター向け高効率電源でのSiC/GaN採用拡大。
⑤ 構造改革(工場再編)による固定費削減の具体的な金額開示。

リスク要因

統合協議の破談・条件悪化。株価がイベント期待で形成されている以上、これは最大のダウンサイド要因。
中国リスク。売上の30.5%を占める中国市場で、国策支援を受けた現地SiCメーカーの台頭と、輸出管理・関税の政策変更が同時に効く可能性。
EV政策の後退。欧米のEV規制緩和が進めば、減損の前提となった「中期的な成長鈍化」がさらに悪化する。
追加減損。経営陣は「膿は出し切った」としているが、需要前提がさらに下振れれば残存する設備・のれんに再度の見直し余地がある。
バリュエーションリスク。PBR2.40倍は2010年以降のレンジ上限(1.86倍)を超えており、期待が剥落した場合の調整幅は大きい。
金利上昇。日本の10年国債利回りが2.9%台まで上昇したことでWACCも切り上がり、ROICがハードルを超えるための必要利益水準が上がっている。