6754 東証プライム 電気機器・計測器

アンリツ

「はかる」技術で130年超の歴史を持つ通信計測の世界的リーダー。3Gで世界シェア70%、LTEで50%を獲得し、Keysight Technologies(米)との実質デュオポリーを形成。5G/6G・AI時代の計測需要拡大が成長の柱。

01 / OVERVIEW

スナップショット

株価

約1,600円

2026年8月時点(概算)

時価総額

約2,200億円

概算

PER(実績)

約29倍

2026/3期ベース

保有株数

未確認

本社:神奈川県厚木市|従業員:約4,000名(連結)|IFRS適用|海外売上比率70%超|設立:1931年(ルーツは1895年)

02 / SEGMENT

事業ごと・国/エリアごとの売上高比率

事業セグメント別 売上高構成比(FY2026/3)

セグメント概算売上構成比
通信計測(Test & Measurement)約880億円約75%
PQA(食品・医薬品検査)約175億円約15%
環境計測約120億円約10%

通信計測事業が売上の約75%を占める。5G基地局・端末のテスト装置が主力製品。PQAは食品異物検査装置、環境計測は大気・水質分析装置。

地域別 売上高構成比

地域構成比
日本約30%
北米約25%
欧州約15%
中国約15%
アジア他(インド含む)約15%

海外比率70%超。北米はWiltron買収(1990年)以降の強固な顧客基盤。インド市場は急成長中。

03 / HISTORY

創業からの歴史

アンリツのルーツは2つの企業に遡る。1895年設立の共立電機株式会社(有線通信機器)と、1900年設立の安中電機製作所(無線通信機器)。1914年には世界初の実用的な無線電話機(TYK式)を開発し、日本の通信技術の礎を築いた。

1931年、両社が合併して「安立電気株式会社」が誕生。戦後の1950年、企業再建整備法に基づき第二会社として再出発。1952年に通信計測事業を本格的に開始し、以降「はかる」技術の専門企業として成長を遂げる。

1981年、世界初の光パルス試験器(OTDR)を開発。光ファイバー通信時代の到来を計測技術で支えた。1985年に社名をカタカナの「アンリツ」に変更。1990年には米国Wiltron Company(マイクロ波計測大手)を約180億円で買収し、北米市場での地位を一挙に確立した。

以降、3G・4G・5Gと通信規格の世代交代のたびに計測需要を取り込み、Keysight Technologies(米、旧Agilent)と並ぶ世界的デュオポリーを形成。2021年4月に2030年に向けた新経営ビジョンを策定し、次世代通信(Beyond 5G/6G)とAIデータセンター計測での成長を目指す。

04 / MISSION, VISION, VALUE

ミッション・ビジョン・バリュー

企業理念:「『はかる』を超える。限界を超える。共に持続可能な未来へ。」——計測技術を通じて社会の安全・安心・快適を実現するという姿勢が一貫している。

2030ビジョン:2021年4月に策定。「はかる」技術の進化で持続可能な社会に貢献し、計測領域のグローバルリーダーとしての地位を強化する。

長期目標:売上高2,000億円。現在の約1,200億円から66%の成長を目指す意欲的な目標。通信計測の5G→6G需要取り込み、環境計測の拡大、PQA事業の食品安全ニーズ拡大が成長の3本柱。

ESG経営にも注力し、サステナビリティを経営戦略の中核に位置づける。「はかる」技術そのものが環境モニタリングや食品安全に直結するため、事業とESGの親和性が高い点が特徴。

05 / LEADERSHIP

現経営者の特徴・過去の実績(レジリエンスの観点)

濱田宏一(代表取締役社長 グループCEO)——1964年生まれ、東京電機大学工学部1988年卒。同年アンリツ入社。技術畑で計測事業のR&D部門長(2015年執行役員)、計測事業グループ社長(2017年)を経て、2018年に社長就任。

経営スタイル:技術者出身のトップとして、研究開発投資とイノベーションを重視。人材育成とESGへのコミットも強い。売上2,000億円という長期目標を掲げ、通信計測以外の領域(環境計測・PQA)の成長加速を推進。

レジリエンス評価:5Gの初期投資ブーム後の踊り場(FY2022-24)を乗り越え、FY2026/3で増収増益基調を回復。通信計測事業の谷間でも赤字に陥らなかった点は、事業ポートフォリオの分散効果と堅実な経営の表れ。

06 / LATEST EARNINGS

直近決算の予想・ガイダンスに対する結果

FY2026/3期(2025年度)通期実績(IFRS)

項目実績前年比
売上収益1,174億円+4.0%
営業利益148億円+22.3%
当期純利益116億円+26.1%

FY2026/3はAI・データセンター関連の通信計測需要が牽引し、増収増益を達成。営業利益は前年比+22.3%の148億円、営業利益率は約12.6%。純利益も+26.1%と好調。

FY2027/3(今期)会社予想:売上収益1,400億円(+19%)、当期純利益150億円。通信計測850億円・環境計測160億円(前年比+48%)を計画。上方修正含みの意欲的なガイダンス。

07 / REVENUE & PROFIT

売上高・利益の推移(直近10年間)

売上収益・当期純利益(10年推移、概算値)

決算期売上収益当期純利益備考
2017/3約900億円約60億円4G計測安定期
2018/3約1,000億円約80億円5G先行投資開始
2019/3約1,070億円約100億円5G投資ブーム
2020/3約1,070億円約100億円5G需要継続
2021/3約1,060億円約85億円コロナ影響も底堅い
2022/3約1,100億円約90億円5G展開本格化
2023/3約1,080億円約75億円5G投資一巡の踊り場
2024/3約1,100億円約80億円緩やかな回復
2025/3約1,130億円約92億円AI/DC需要が新ドライバーに
2026/31,174億円116億円確定値。増収増益

出所:各年度の検索結果から概算。FY2026/3のみ確定値。10年間で売上は約900億→1,174億(CAGR約2.7%)。赤字年なし。5Gの初期投資ブーム(FY2019-20)→踊り場(FY2023-24)→AI/DC計測需要による再加速(FY2026〜)というサイクルが読み取れる。次回更新時に精緻な数値へ置き換え予定。

08 / VALUATION

PERの推移(直近10年間)

PER(推移)

アンリツのPERは概ね20〜40倍のレンジで推移してきた。テクノロジー銘柄としてのプレミアムが乗りやすく、日本株の平均(15倍前後)と比較すると常に高めの評価。

FY2026/3期の実績PERは約29倍。FY2027/3の会社予想(NP150億円)ベースでは予想PERが20倍台前半まで低下する可能性があり、6G投資サイクル入りを見越した成長期待が織り込まれつつある水準。

5G投資ブーム期(FY2019-20)には利益成長と株価上昇が重なりPERが30〜40倍台で推移。踊り場のFY2023-24では利益減少により一時的にPERが上昇する局面もあった。

※ 精緻な各年PER数値は次回更新時に反映予定。

09 / CAPITAL RETURNS

ROIC・WACC・ROEの推移

ROE

直近のROEは推定約11%前後。ROAは約8.5%。資本効率は日本のテクノロジー企業の中では良好な水準にある。

過去10年間、赤字に転落した年がなく、安定してプラスのROEを維持している点はEPCやシクリカル銘柄と比較した際の大きな優位性。ファブライト・高粗利率ビジネスの特性が効いている。

ROIC・WACC(参考)

ROIC・WACCの精緻な10年時系列データは今回取得できなかった。ただし、営業利益率12〜13%・ROE 11%・無借金に近い財務体質から、ROICはWACCを上回る(=価値創出)状態にあると推定される。通信計測のデュオポリーという市場構造が安定した超過リターンを支えている。

次回更新時に精緻なデータへ置き換え予定。

10 / CASH FLOW

キャッシュフローの推移

CF概況

アンリツはファブライトモデル(自社工場は限定的、設計・ソフトウェア中心)のため、設備投資負担が小さく、営業CFからFCFへの転換率が高い。過去10年間、営業CFは一貫してプラスを維持している。

FY2026/3期の営業CF・FCFは増益に伴い好調と推定。R&D投資比率は売上高の約12〜14%で安定しており、技術開発への持続的投資と株主還元(配当+自社株買い)のバランスが取れている。

財務体質は実質無借金で、手元キャッシュは潤沢。大型M&Aや設備投資に備えた余力がある。

※ 精緻な10年CF時系列データは次回更新時に反映予定。

11 / INVESTMENT & M&A

直近の投資・M&A状況

1990年 Wiltron Company買収(約180億円):アンリツ史上最大のM&A。米国のマイクロ波計測機器大手を取得し、北米市場のプレゼンスを一気に確立。この買収が現在のKeysightとの世界的デュオポリーの基礎となった。通信計測における日米双方の技術・顧客基盤を統合した好事例。

直近のM&A:大型買収は目立たないが、5G-Advanced/6G向けの技術開発に積極的な研究開発投資を継続。自動車(コネクテッドビークル)計測、食品・医薬品安全検査領域での技術拡充に注力。

資本配分はR&D投資(売上高比12〜14%)と株主還元(配当+自社株買い)のバランス型。大型M&Aのための手元余力は十分にある。

12 / SEGMENT GROWTH

主要事業ごとの成長性

セグメント別 成長ドライバー

セグメントFY2027/3目標成長ドライバー
通信計測850億円5G-Advanced、Beyond 5G/6G(100GHz超)、AIデータセンターの高速通信テスト
環境計測160億円大気・水質規制強化、カーボンニュートラル関連計測、インド市場拡大(前年比+48%成長計画)
PQA食品安全意識の高まり、医薬品品質管理の厳格化、自動化ニーズ

最大の成長ドライバーは通信計測における6G需要。通信規格は約10年サイクルで世代交代し、そのたびに基地局メーカー・端末メーカーは新規格対応の計測装置を購入する必要がある。6G商用化は2030年代前半が見込まれ、R&D向け計測需要は2027年頃から本格化する見通し。

環境計測事業のFY2027/3目標160億円(前年比+48%)は特筆すべき成長計画。インド市場での大型受注が寄与する見込み。通信計測以外の柱を育てることで、通信世代交代の谷間のリスクを軽減する戦略。

13 / COMPETITIVE POSITION

競争優位性や業界内でのポジション

Keysightとの実質デュオポリー。モバイル通信の計測市場はアンリツとKeysight Technologies(米、旧Agilent Technologies)の2社でほぼ独占。3Gでアンリツが世界シェア70%、LTEで50%を獲得した実績は、この分野の寡占度を示す。

スイッチングコストの高さ:通信機器メーカーは認証試験に特定の計測器を用いるため、世代が変わっても同じベンダーから購入し続ける傾向が強い。数十年にわたる顧客リレーションシップが参入障壁を形成している。

130年超の計測技術の蓄積:世界初の無線電話機(1914年)、世界初のOTDR(1981年)など、計測のパイオニアとしての技術蓄積は容易に模倣できない。特にミリ波・サブテラヘルツ帯(6G向け100GHz超)の計測技術は高度な専門性が求められる。

Wiltron買収の果実:1990年の買収で獲得した北米のマイクロ波計測技術・顧客基盤は、30年以上を経て同社のグローバル競争力の源泉となっている。

14 / SCP ANALYSIS

SCP理論からの分析(市場動向・規制リスク・業界トレンド)

Structure(市場構造)

モバイル通信計測市場はアンリツ+Keysightのデュオポリー。参入障壁は極めて高い。通信規格の策定段階から標準化団体(3GPP等)に参加し、計測ソリューションを規格と同時に開発できる体制が必要。IP(特許)の蓄積、顧客認証のロックイン効果、R&D集約性(売上高比12〜14%)が新規参入を阻む。

食品検査(PQA)・環境計測はより競争的だが、アンリツは特定ニッチでの技術力で差別化。

Conduct(企業行動)

5G-Advanced → Beyond 5G → 6G(100GHz超)への投資を継続。通信世代交代のたびに「次の世代を最初に計測できる」ポジションの確保が生命線。自動車(V2X、コネクテッドビークル)計測への領域拡大で、通信以外の需要源を開拓。インド市場(環境計測)への重点展開は、中国リスクのヘッジとしても機能。

Performance(業界トレンド・帰結)

営業利益率12〜13%、ROE約11%は安定水準。デュオポリー構造が価格競争を抑制し、超過リターンの持続を可能にしている。ただし、通信世代交代のサイクル性は不可避で、5G→6Gの谷間(FY2023-24)のような踊り場が周期的に訪れる。この谷間でも赤字にならない安定性はPQA・環境計測の分散効果。10年間赤字ゼロという実績は、同規模のテクノロジー企業としては優秀。

15 / INVESTMENT THESIS

これらの分析結果をもとにした現在の投資妙味

ブルケース(強気):6G投資サイクルが2027年頃から本格化し、通信計測の需要が再加速する。AIデータセンターの高速通信テスト需要も上乗せされ、売上2,000億円の長期目標に向けた成長軌道に乗る。デュオポリー構造は価格決定力を維持し、営業利益率15%超への改善も期待できる。環境計測のインド需要爆発がサプライズとなる可能性。

ベアケース(弱気):PER約29倍は成長期待を相当織り込んだ水準。6G投資の本格化が遅れれば(2030年以降にずれ込むシナリオ)、通信計測が再び踊り場に入るリスク。中国市場の不確実性(米中テクノロジー対立)、円高による海外売上の目減りも懸念材料。

総合判断:「Keysightとのデュオポリー」「10年赤字なし」「6Gサイクル」という3要素は強力な投資テーゼ。ただしバリュエーション(PER 29倍)が示すとおり、市場はこれらをある程度織り込み済み。6G投資の具体的なタイムライン確認と、FY2027/3の1,400億円目標の達成度が、追加投資判断のカギ。

16 / WATCH POINTS & RISKS

今後の注目ポイントやリスク要因

注目ポイント

・6G R&D投資の本格化タイミング(各国の通信キャリア設備投資計画)

・AI/データセンター向け高速通信計測の受注動向

・環境計測事業のインド市場拡大(FY2027/3 +48%計画の進捗)

・FY2027/3の売上収益1,400億円ガイダンスの達成可否

・長期売上目標2,000億円に向けたM&A戦略の具体化

リスク要因

・通信世代交代の谷間リスク(5G→6G間で設備投資が一時的に減少)

・中国市場の不確実性(米中テクノロジー対立による需要減)

・Keysightとの競争激化(特にAI/DC分野での新規参入含む)

・円高局面での海外売上(70%超)の円建て目減り

・PER 29倍の高バリュエーション — 期待値を下回る決算時の株価調整リスク