スナップショット
株価
2,386円
2026/8/14 時点(分割後)
時価総額
約7.6兆円
発行済31.76億株ベース
PER(実績)
約20倍
分割調整後EPS 118.4円ベース
PER(会社予想)
約22倍
27/3期EPS 108.99円ベース
売上高
5兆1,102億円
2026年3月期(+9.2%・初の5兆円台)
営業利益率
8.2%
2026年3月期(営業4,182億円)
自己資本比率
56.9%
D/Eレシオ25.9%まで低下
保有株数
―
ポートフォリオ未登録
事業ごと・国/エリアごとの売上高比率
事業セグメント別 売上高・営業利益(2026年3月期実績、単位:億円)
| セグメント | 売上高 | 構成比 | 営業利益 | 利益構成比 | 利益率 | YoY(利益) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 自動車関連 | 29,372 | 56.1% | 1,797 | 42.9% | 6.1% | +73億円 |
| 環境エネルギー関連 | 11,788 | 22.5% | 906 | 21.6% | 7.7% | +119億円 |
| エレクトロニクス関連 | 4,091 | 7.8% | 395 | 9.4% | 9.7% | +102億円 |
| 産業素材関連他 | 3,884 | 7.4% | 314 | 7.5% | 8.1% | +108億円 |
| 情報通信関連 | 3,266 | 6.2% | 774 | 18.5% | 23.7% | +575億円 |
| 消去又は全社 | ▲1,299 | ― | ▲5 | ― | ― | ― |
| 連結合計 | 51,102 | 100% | 4,182 | 100% | 8.2% | +975億円 |
この表で最も重要なのは最下段の一つ上の行である。情報通信は売上構成比わずか6.2%にすぎないが、当期の営業増益額975億円のうち575億円(59%)を単独で稼いだ。同セグメントの利益率23.7%は、自動車関連の6.1%の約4倍。売上を見ると自動車部品会社だが、利益の増分を見るとデータセンター部品会社である、という二重構造がこの一表に凝縮されている。出典:住友電気工業 2026年3月期決算短信 セグメント情報。
国・エリア別 売上高構成比(2026年3月期、海外売上高ベース)
| 地域 | 売上高(億円) | 連結売上比 | 前期比 | 10年前(2020年3月期)比 |
|---|---|---|---|---|
| 日本(国内) | 19,012 | 37.2% | ― | ― |
| 米州 | 11,594 | 22.7% | +14.2% | 17.4%→22.7%(+5.3pt) |
| アジア(除く中国) | 7,054 | 13.8% | +5.8% | 12.3%→13.8%(+1.5pt) |
| 欧州その他 | 7,034 | 13.8% | +16.3% | 10.5%→13.8%(+3.3pt) |
| 中国 | 6,407 | 12.5% | +3.7% | 15.6%→12.5%(▲3.1pt) |
| 海外計 | 32,090 | 62.8% | +10.5% | 55.8%→62.8%(+7.0pt) |
海外売上比率は62.8%。この6年で最も構成比を伸ばしたのは米州(+5.3pt)で、逆に唯一縮小したのが中国(▲3.1pt)である。米中対立と関税政策の下で、同社の売り先はすでに静かに西側へシフトしている。ただし所在地別営業利益で見ると日本が2,203億円(53%)を稼いでおり、製造・開発の付加価値は依然として国内に集中している点は押さえておきたい。出典:住友電気工業 FACT BOOK(2026年5月)所在地別セグメント情報・海外売上高。
創業からの歴史
出典:住友電工「住友電工グループの歴史」(sumitomoelectric.com)、住友電工120年の軌跡、住友電気工業 FACT BOOK(2026年5月)、各期決算短信。
ミッション・ビジョン・バリュー
出典:住友電工「住友事業精神」「Glorious Excellent Company」「五方よし」「長期ビジョン2030」(sumitomoelectric.com)、2026年3月期決算短信「会社の対処すべき課題」および「重要な後発事象の注記」。
現経営者の特徴・過去の実績(レジリエンスの観点)
出典:住友電気工業 各期決算短信(2022年3月期〜2027年3月期1Q)、FACT BOOK(2026年5月)、住友電工「役員一覧」、IRBANK 役員の状況(irbank.net)、日本経済新聞。
直近決算の予想・ガイダンスに対する結果
2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)実績(単位:百万円)
| 指標 | 前年同期 | 当1Q実績 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,148,436 | 1,330,591 | +15.9% |
| 営業利益 | 60,301 | 97,059 | +61.0% |
| 経常利益 | 61,837 | 103,039 | +66.6% |
| 親会社株主純利益 | 35,119 | 66,414 | +89.1% |
| 営業利益率 | 5.3% | 7.3% | +2.0pt |
| 自己資本比率 | ― | 55.1% | 前期末56.9%から▲1.8pt |
1Qのセグメント別 営業利益(単位:百万円)
| セグメント | 1Q売上 | 前年同期比 | 1Q営業利益 | 増減額 | コメント |
|---|---|---|---|---|---|
| 情報通信 | 86,484 | +24,821 | 27,246 | +19,115 | DC向け光配線機器・光デバイス。利益率31.5% |
| 産業素材他 | 115,743 | +22,869 | 17,047 | +11,422 | タングステン市況高騰下で超硬製品の受注増 |
| エレクトロニクス | 110,581 | +20,561 | 11,720 | +5,431 | 主要顧客向けFPCが堅調 |
| 環境エネルギー | 253,039 | ▲9,833 | 15,265 | +1,643 | 住友電設の連結除外で減収も、銅価上昇で増益 |
| 自動車 | 802,803 | +132,204 | 26,026 | ▲561 | 増収も中東情勢による原材料高で減益 |
出典:住友電気工業 2027年3月期第1四半期決算短信(2026年7月31日)、2026年3月期決算短信(2026年5月12日)、2026年3月期第2四半期決算短信(2025年10月31日)。
売上高・税引前利益の推移
売上高(白)・営業利益(グレー)の推移(2020年3月期〜2027年3月期予想、単位:億円/2軸)
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 | 税引前利益 | 親会社株主純利益 | 局面 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2020年3月期 | 31,070 | 1,272 | 4.1% | 1,332 | 727 | 米中摩擦・コロナ直前 |
| 2021年3月期 | 29,186 | 1,139 | 3.9% | 1,103 | 563 | コロナ減産で10年最低 |
| 2022年3月期 | 33,679 | 1,222 | 3.6% | 1,599 | 963 | 半導体不足+銅高で利益率最低 |
| 2023年3月期 | 40,056 | 1,774 | 4.4% | 1,965 | 1,127 | 円安と値上げ浸透 |
| 2024年3月期 | 44,028 | 2,266 | 5.1% | 2,385 | 1,497 | 自動車が牽引、情報通信は赤字 |
| 2025年3月期 | 46,798 | 3,207 | 6.9% | 3,041 | 1,938 | 全社的な収益力改善が始動 |
| 2026年3月期 | 51,102 | 4,182 | 8.2% | 5,052 | 3,695 | 初の5兆円台。情報通信が利益源に |
| 2027年3月期(予) | 54,000 | 4,500 | 8.3% | ― | 3,400 | 7/31に上方修正。純利は電設益剥落で減 |
| 2029年3月期 中計目標 | 60,000 | 6,000 | 10.0% | ― | ― | 税引前ROIC15%以上 |
単位:億円。読み取るべきは利益率の階段である。2022年3月期の3.6%を底に、4.4%→5.1%→6.9%→8.2%と4期連続で切り上がった。売上は同期間に+51.7%だが営業利益は+242%——増収より利益率改善の寄与が圧倒的に大きい。中計2028が掲げる10.0%まではあと1.8pt。なお税引前利益の2026年3月期5,052億円には住友電設売却益791億円が含まれる点は差し引いて見る必要がある。2017〜2019年3月期の数値は現行FACT BOOKの開示範囲外のため、次回更新時に有価証券報告書から補完予定。出典:住友電気工業 FACT BOOK(2026年5月)P/L Summary、2027年3月期1Q決算短信。
PERの推移とバリュエーション
EPS・配当・PER関連指標(分割前ベース、単位:円)
| 決算期 | EPS | BPS | 1株配当 | 配当性向 | ROE |
|---|---|---|---|---|---|
| 2020年3月期 | 93.24 | 1,946.93 | 40.0 | 42.9% | 4.7% |
| 2021年3月期 | 72.25 | 2,088.51 | 32.0 | 44.3% | 3.6% |
| 2022年3月期 | 123.49 | 2,269.31 | 50.0 | 40.5% | 5.7% |
| 2023年3月期 | 144.45 | 2,436.14 | 50.0 | 34.6% | 6.1% |
| 2024年3月期 | 191.98 | 2,830.82 | 77.0 | 40.1% | 7.3% |
| 2025年3月期 | 248.47 | 2,936.93 | 97.0 | 39.0% | 8.6% |
| 2026年3月期 | 473.78 | 3,517.58 | 154.0 | 32.5% | 14.7% |
| 2027年3月期(予) | 410.30 | ― | 156.0 | 38.0% | ― |
※2026年7月1日の1株→4株分割前の数値。分割後換算では2026年3月期EPS 118.44円、2027年3月期予想EPS 108.99円、年間配当予想39円となる。2026年3月期のEPS 473.78円のうち、住友電設売却影響を除いた実力値は383.79円(会社開示)。
現在のバリュエーション水準
| 指標 | 水準 | 算出根拠・コメント |
|---|---|---|
| PER(実績) | 約20.1倍 | 株価2,386円 ÷ 分割調整後EPS 118.44円 |
| PER(実績・電設益除く) | 約24.9倍 | 分割調整後実力EPS 95.95円ベース |
| PER(会社予想) | 約21.9倍 | 27/3期予想EPS 108.99円(上方修正前ベース) |
| PBR | 約2.7倍 | 分割調整後BPS 879.4円 |
| 配当利回り(予) | 約1.6% | 年間配当39円(分割後) |
| PERレンジ(2010年以降) | 3.42〜34.9倍 | IRBANK集計(2010〜2026年) |
| PBRレンジ(2010年以降) | 0.46〜3.27倍 | IRBANK集計(2010〜2026年) |
同社のPERは2010年以降3.42〜34.9倍という極端に広いレンジで推移してきた。理由は利益の振れ幅が大きいためPERの分母が安定しないことにある。より安定した物差しはPBRで、レンジは0.46〜3.27倍。現在の2.7倍は上限に近い。ここが評価の分岐点である——ROEが3.6%〜8.6%で推移していた時代のPBR1倍前後という常識で見れば割高だが、ROE14.7%(実力ベース11.9%)が定着するなら理論PBRは2倍台後半でも説明がつく。「利益率8%は一過性か構造変化か」という一点に、現在のバリュエーションはすべて賭けている。なお10年間のPER時系列グラフは期末株価データの整備が必要なため、次回更新時に反映予定。出典:住友電気工業 FACT BOOK(2026年5月)Per Share Index、IRBANK(irbank.net/5802/per)。
ROIC・WACC・ROEの推移
税引前ROIC(緑)・ROE(白)・WACC概算(赤・水平線)の推移(%)
| 決算期 | 税引前ROIC | 営業ROIC | ROE | WACC概算 | ROIC−WACCスプレッド |
|---|---|---|---|---|---|
| 2020年3月期 | 5.6% | 5.4% | 4.7% | 約7% | ▲1.4pt |
| 2021年3月期 | 4.4% | 4.6% | 3.6% | 約7% | ▲2.6pt |
| 2022年3月期 | 5.8% | 4.5% | 5.7% | 約7% | ▲1.2pt |
| 2023年3月期 | 6.6% | 5.9% | 6.1% | 約7% | ▲0.4pt |
| 2024年3月期 | 7.6% | 7.2% | 7.3% | 約7% | +0.6pt |
| 2025年3月期 | 9.3% | 9.8% | 8.6% | 約7% | +2.3pt |
| 2026年3月期 | 14.7% | 12.2% | 14.7% | 約7% | +7.7pt |
| 同(住友電設売却影響除く) | 12.5% | ― | 11.9% | 約7% | +5.5pt |
| 2029年3月期 中計目標 | 15%以上 | ― | ― | ― | ― |
同社が公表するROICは投下資産=総資産−無利子負債を分母とする独自定義である。ここで最も重要なのは2024年3月期にROIC−WACCスプレッドがプラスへ転じたという一点だ。それ以前の同社は、資本コストを賄えていない=企業価値を毀損しながら売上を伸ばしていた。2026年3月期のスプレッド+7.7pt(実力ベース+5.5pt)は、この構造がひっくり返ったことを示す。
WACC概算の前提(当サイト試算):自己資本2兆7,434億円/有利子負債7,098億円(E比率79.4%)、負債コスト=支払利息237億円÷平均有利子負債≒3.2%(税引後約2.2%)、株主資本コスト=リスクフリー1.7%+β1.1×ERP6%≒8.3%。加重平均で約7.0%。あくまで概算であり、βやERPの前提を変えれば6〜8%程度に振れる点にご留意ください。出典:住友電気工業 FACT BOOK(2026年5月)Financial Index、2026年3月期決算短信。
営業・投資・財務・フリーキャッシュフローの推移(直近10年間)
フリーキャッシュフローの推移(2017年3月期〜2026年3月期、単位:億円)
| 決算期 | 営業CF | 投資CF | 財務CF | フリーCF | 設備投資 | 営業CFマージン |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2017年3月期 | 2,092 | ▲1,948 | ▲48 | 144 | 1,752 | 7.43% |
| 2018年3月期 | 2,396 | ▲1,743 | ▲668 | 653 | 1,720 | 7.77% |
| 2019年3月期 | 1,777 | ▲1,846 | ▲43 | ▲69 | 1,903 | 5.59% |
| 2020年3月期 | 2,646 | ▲1,780 | ▲13 | 866 | 2,088 | 8.52% |
| 2021年3月期 | 1,697 | ▲1,634 | ▲131 | 62 | 1,722 | 5.81% |
| 2022年3月期 | 760 | ▲1,654 | +828 | ▲894 | 1,897 | 2.26% |
| 2023年3月期 | 2,652 | ▲1,478 | ▲983 | 1,174 | 2,083 | 6.62% |
| 2024年3月期 | 3,935 | ▲1,238 | ▲2,923 | 2,697 | 1,938 | 8.94% |
| 2025年3月期 | 4,023 | ▲2,239 | ▲1,508 | 1,783 | 2,433 | 8.60% |
| 2026年3月期 | 4,252 | ▲1,749 | ▲3,260 | 2,503 | 2,222 | 8.32% |
| 2027年3月期(計画) | ― | ― | ― | ― | 3,500 | ― |
単位:億円。10年を通して読むと三つの局面が見える。①2017〜2021年3月期:FCFがほぼゼロ近辺——営業CF約2,000億円に対して設備投資も約1,800〜2,100億円で、稼いだ現金がそのまま設備に吸われる典型的な重厚長大型。②2022年3月期の崩壊——棚卸資産が1,951億円増加して営業CFマージンが2.26%まで落ち、FCF▲894億円、財務CF+828億円の資金調達。③2023年3月期以降の転換——4期連続でFCFプラス、直近3期の累計は6,983億円。2026年3月期の財務CF▲3,260億円は、配当866億円に加えて住友理工の完全子会社化で1,127億円、短期借入返済966億円を実行した結果である。
ただし2027年3月期は設備投資を前期比+58%の3,500億円へ引き上げる計画で、内訳は情報通信720億円(前期237億円の3.0倍)、自動車1,470億円、エレクトロニクス490億円(同1.7倍)。AI需要を取りに行く投資フェーズに入るため、FCFは一時的に圧縮される可能性が高い。出典:IRBANK キャッシュ・フローの推移(irbank.net/E01333/cf)、住友電気工業 FACT BOOK(2026年5月)。
直近の投資・M&A状況
直近の主要な資本取引
| 時期 | 案件 | 方向 | 金額 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| 2026年2月 | 住友理工 完全子会社化 | 取得 | 1,127億円 | 自動車用防振ゴム・ホース。売上6,532億円を100%取り込み |
| 2026年3月期 | 住友電設 株式売却 | 売却 | 売却益791億円 (回収53,036百万円) | 売上2,284億円の電気工事子会社を連結除外 |
| 2026年3月期 | 政策保有株式の圧縮 | 売却 | 売却益86億円 | ROIC改善策として継続実行中 |
| 2026年3月期 | 事業構造改善(電子ワイヤー・WH等) | 再編 | 費用117億円 | 3期連続の拠点再編・人員適正化 |
| 2026年7月 | 1株→4株の株式分割 | 資本政策 | ― | 投資単位引き下げ、発行可能株式30億→120億株 |
| 2027年3月期 | 設備投資 3,500億円計画 | 投資 | 前期比+58% | 情報通信720億円(3.0倍)、エレキ490億円(1.7倍) |
出典:住友電気工業 2026年3月期決算短信(連結CF計算書・重要な後発事象の注記・会社の対処すべき課題)、FACT BOOK(2026年5月)設備投資・研究開発費。
主要事業ごとの成長性
セグメント別 売上・営業利益の推移と会社計画(単位:億円)
| セグメント | 21/3期 | 24/3期 | 26/3期 | 27/3期計画 | 6年CAGR(売上) |
|---|---|---|---|---|---|
| 情報通信 売上 | 2,246 | 2,061 | 3,266 | 5,000 | +6.4% |
| 情報通信 営業利益 | 243 | ▲116 | 774 | 1,300 | ― |
| 自動車 売上 | 16,020 | 25,964 | 29,372 | 30,400 | +10.6% |
| 自動車 営業利益 | 482 | 1,447 | 1,797 | 1,840 | ― |
| 環境エネルギー 売上 | 6,342 | 9,800 | 11,788 | 10,600 | +10.9% |
| 環境エネルギー 営業利益 | 250 | 429 | 906 | 440 | ― |
| エレクトロニクス 売上 | 2,526 | 3,565 | 4,091 | 4,100 | +8.4% |
| 産業素材他 売上 | 3,025 | 3,642 | 3,884 | 4,200 | +4.3% |
※21/3期=FY2020、24/3期=FY2023、26/3期=FY2025。環境エネルギーの27/3期計画減は住友電設(売上2,284億円)の連結除外による。CAGRは21/3期→26/3期の5年。出典:住友電気工業 FACT BOOK(2026年5月)事業セグメント別売上高・営業利益。
競争優位性や業界内でのポジション
SCP理論からの分析(市場動向・規制リスク・業界トレンド)
Structure(市場構造)
ワイヤーハーネス=寡占的競争。住友電装・矢崎総業・京信・レオニなど数社で世界市場の大半を占め、車種ごとの設計ロックインにより競争は「価格」より「開発リソースの確保」で行われる。買い手(完成車メーカー)の交渉力は強く、コストダウン要求が構造的に続く。
光ファイバ・光デバイス=差別化された寡占。コーニング、住友電工、古河電工、フジクラ、YOFC(中国)等。ただし汎用シングルモードファイバは中国勢の参入でコモディティ化しており、実際に2024年3月期には市況急落で赤字転落した。一方でマルチコアファイバ、InP基板、光デバイスは技術障壁が高く価格決定力が残る。同一セグメント内で「コモディティ」と「差別化」が同居しているのが特徴。
電力ケーブル・超高圧送電=実績寡占。国家間連系線クラスの案件は実質数社の指名競争。
超硬・焼結=原料(タングステン)の寡占が上流に存在する構造。中国が世界タングステン供給の大半を握るため、原料アクセス自体が競争要因になる。
Conduct(企業行動・規制リスク)
規制・地政学リスク:
①米国追加関税——決算短信で繰り返し言及されるリスク。自動車部品はメキシコ・北米生産が多く、通商政策の見直しは直撃する。会社は「顧客と丁寧に対話し影響を最小化」と述べるにとどまる。
②中東情勢——2027年3月期1Qで自動車セグメントが減益になった直接要因。原材料価格上昇と物流混乱。
③タングステン等重要鉱物の輸出規制——中国の資源戦略の対象になりうる。会社は「タングステン原料の安定調達に向けたリサイクル能力増強」を明記しており、リスク認識は高い。
④中国経済の減速——中国向け売上は連結の12.5%で、構成比は6年で3.1pt低下した。
⑤過去の独禁法違反——電線・ワイヤーハーネス業界は各国でカルテル摘発の歴史がある業種であり、コンプライアンスは構造的な監視対象である。
Performance(業界トレンド・収益性への帰結)
したがって、今後の業界トレンドは三つの軸で見るべきである。①生成AI/データセンター投資——情報通信セグメントの唯一にして最大のドライバー。光インタコネクト需要が続く限り高収益が続くが、投資サイクルが反転すれば2024年3月期の赤字が再現しうる。②電力系統への投資——データセンターの電力需要、再エネ導入、国家間連系線。これは自動車サイクルとも半導体サイクルとも相関が低く、収益の安定化に効く。③自動車の電動化とCASE——ハーネスの高電圧化・高速通信化は単価上昇要因だが、同時に中国EVメーカーの台頭は日系OEM依存の同社にとって逆風でもある。
結論として、同社の利益率が10%(中計目標)へ向かうかどうかは、情報通信と環境エネルギーの合計利益構成比が現在の40%からさらに上がるかにかかっている。売上の6割を占める自動車事業の利益率が6%台にとどまる限り、全社10%はミックス改善でしか達成できない。
これらの分析結果をもとにした現在の投資妙味
※本セクションは公開情報に基づく当サイトの見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
今後の注目ポイントやリスク要因
注目ポイント(カタリスト)
②自動車セグメントの利益率回復——1Qは唯一の減益。銅価・原材料高の売価転嫁がいつ効いてくるか。ここが戻れば全社利益率はさらに上振れする。
③設備投資3,500億円の執行状況——特に情報通信の720億円(前期3.0倍)。稼働時期と歩留まりの立ち上がり。
④中計2028の進捗——2029年3月期に売上6兆円・営業利益6,000億円・税引前ROIC15%。初年度である今期の達成度が信頼性を左右する。
⑤電力ケーブル・連系線の受注——欧州新拠点の立上げ、国家間連系線案件。データセンターの電力需要は情報通信とは別ルートの追い風になる。
⑥株式分割後の投資家層拡大——投資単位が約24万円→約6万円へ低下。個人投資家の流入と流動性改善。
⑦さらなる政策保有株式の圧縮——投資有価証券7,130億円。売却は特別利益とROIC改善の両方に効く。
リスク要因
②米国追加関税・通商政策——自動車部品の北米・メキシコ生産比率が高く、関税は直撃する。会社も繰り返しリスクとして明記。
③銅価格の変動——原材料に銅を大量使用。上昇局面では売上増と利益圧迫が同時に起き、下落局面では逆になる。両方向の変動要因。
④中東情勢・地政学——1Qの自動車減益の直接要因。物流・原材料コストへの波及。
⑤中国のタングステン等資源政策——超硬製品の原料アクセス。輸出規制が発動されれば産業素材セグメントに影響。
⑥中国EVメーカーの台頭——同社の自動車事業は日系・欧州系OEM依存度が高く、中国勢のシェア拡大は中長期の構造リスク。
⑦PBR2.7倍という水準——過去レンジ上限圏。業績が良くても株価が伸びない、あるいは好決算で売られる局面がありうる。
⑧2027年3月期の減益予想(純利益▲8.0%)——一過性要因の剥落だが、ヘッドラインとしてはネガティブ。
⑨経営体制——社長在任9年目・会長との二頭体制。後継者計画の明確化。
出典:住友電気工業 2027年3月期第1四半期決算短信(2026年7月31日)、2026年3月期決算短信(2026年5月12日)「会社の対処すべき課題」、FACT BOOK(2026年5月)、IRBANK。