スナップショット
株価
5,802円
2026年8月21日終値
時価総額
約1.23兆円
発行済株式2億1,239万株
PER(会社予想)
16.0倍
予想EPS 362.5円
PBR(概算)
約1.0倍
会社が最大の経営課題と明言
配当利回り
3.6%
年210円・DOE3%目安
保有株数
―
未確認
事業ごと・国/エリアごとの売上高比率
セグメント別 売上高構成比(2025年12月期)
「ガラス会社」というイメージと実態は大きく異なる。化学品(ふっ素樹脂・医農薬中間体・塩ビ・苛性ソーダ)が28%で最大、次いでオートモーティブ(自動車用ガラス)25%、建築ガラス21%、電子(TFT用ガラス・カバーガラス・フォトマスクブランクス)17%、ライフサイエンス(バイオ医薬CDMO)6%。ガラス系(オートモーティブ+建築ガラス+電子)を合計しても63%で、化学品とライフサイエンスで34%を占める。出典:The社史(the-shashi.com/tse/5201)、AGC有価証券報告書(2025年12月期)。
地域別 売上高構成比(2025年12月期)
日本31.7%・アジア31.4%・ヨーロッパ25.1%・アメリカ11.9%と、地域分散が極めて進んでいる。海外売上比率は約68%。ヨーロッパ比率が25%あるのは1981年のグラバーベル(ベルギー)買収に始まる欧州建築ガラス事業を抱えるためで、これが欧州のエネルギー価格と建設需要に業績が振り回される構造的な理由になっている。逆に米国比率は12%と低く、米国の関税政策の直接的な影響は相対的に小さい。
セグメント別 営業利益(2025年12月期)
売上構成と利益構成は一致していない。売上21%の建築ガラスが稼ぐ利益は173億円(利益率3.9%)にとどまる一方、売上17%の電子が475億円(同13.4%)を稼ぐ。そしてライフサイエンスは売上1,331億円に対して▲223億円の赤字である。全社営業利益1,275億円は「化学品+電子で1,005億円を稼ぎ、ライフサイエンスで223億円を失う」という構造になっている。出典:The社史セグメント業績(the-shashi.com)。
創業からの歴史
出典:The社史 AGC(the-shashi.com/tse/5201)、AGC公式サイト沿革、有価証券報告書、決算説明会資料(2024年2月/2025年2月)。
ミッション・ビジョン・バリュー
中期経営計画の目標と、その後の下方修正
| 時期 | 2026年 営業利益目標 | 株主還元方針 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2024年2月(中計発表) | 2,000億円 | 配当性向40%目安 | 「AGC plus-2026」始動 |
| 2025年2月(FY24決算) | 1,800億円へ引下げ | DOE3%目安へ変更 | バイオCDMO減損1,248億円計上 |
| 2026年2月(FY25決算) | FY26会社計画 1,500億円 | 年間配当210円(据置) | 化学品2SBU体制へ再編を発表 |
| 2026年8月(上期実績) | 計画据置(上期は上振れ) | 中間配当105円 | 上期営業利益647億円(進捗43%) |
中計目標は2,000億円→1,800億円→(実質)1,500億円と2年で25%引き下げられた。目標未達そのものより、「戦略事業への集中投資」という中計のロジックが、投資先であるライフサイエンスの減損によって崩れたことの方が重い。
出典:AGC「新中期経営計画 AGC plus-2026」(agc.com)、AGCグループビジョン「Look Beyond」、統合レポート2024・2025、The社史(the-shashi.com)。
現経営者の特徴・過去の実績(レジリエンスの観点)
平井体制(2021年〜)の実績
| 指標 | FY21(就任年) | FY25(直近) | 変化 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 16,974億円 | 20,588億円 | +21.3% |
| 営業利益 | 2,062億円 | 1,275億円 | ▲38.2% |
| 営業利益率 | 12.1% | 6.2% | ▲5.9pt |
| ROE | 10.8% | 5.6% | ▲5.2pt |
| 最終赤字 | ― | FY22・FY24の2回 | 減損計1,629億円 |
| 年間配当 | 160円 | 210円 | +31.3%(赤字期も維持) |
出典:The社史「AGCの直近の業績」「歴代社長」(the-shashi.com/tse/5201/current)、AGC決算説明会資料(2024年2月・2025年2月)。
直近決算の予想・ガイダンスに対する結果
2026年12月期 上期(1〜6月)実績 vs 会社計画
| 指標 | 上期実績 | 前年同期比 | 会社計画(2/6公表) | 修正率 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1兆1,006億円 | +10.6% | 1兆700億円 | +2.9% |
| 営業利益 | 647億円 | +19.7% | 600億円 | +7.8% |
| 税引前利益 | 603億円 | +78.8% | ― | ― |
| 親会社帰属純利益 | 355億円 | 2.6倍 | ― | 通期進捗46.1% |
| 中間配当 | 105円 | ― | 105円 | 据置 |
上期は売上・営業利益とも会社計画を上振れて着地。タイのエッセンシャルケミカルズ新設備のフル稼働、電子材料の出荷増、価格施策が寄与した。建築ガラスは売上2,293億円(+185億円)・営業利益88億円(+55億円)と、円安効果と欧州での値上げで大きく改善している。
四半期別の推移(単位:百万円)
| 四半期 | 売上高 | 営業利益 | 税引前利益 | 純利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 25年4-6月 | 495,890 | 28,182 | 16,794 | 7,260 | 5.7% |
| 25年7-9月 | 516,667 | 40,816 | 39,439 | 25,583 | 7.9% |
| 25年10-12月 | 546,691 | 32,627 | 51,568 | 29,674 | 6.0% |
| 26年1-3月 | 537,965 | 38,472 | 34,964 | 22,844 | 7.2% |
| 26年4-6月 | 562,644(+13.5%) | 26,189(▲7.1%) | 25,367(+51.0%) | 12,668(+74.5%) | 4.7% |
ここが最大の注意点である。上期通算では営業利益+19.7%と好調に見えるが、直近3ヵ月(4-6月)だけを取り出すと営業利益は前年同期比▲7.1%、営業利益率は5.7%→4.7%へ悪化している。上期の増益は1-3月期(利益率7.2%)が稼いだものであり、足元のモメンタムはむしろ減速している。売上が+13.5%伸びているのに利益が減っているということは、原材料・エネルギーコストの上昇を価格転嫁しきれていないことを意味する。
2026年12月期 通期会社計画(据え置き)
| 指標 | FY25実績 | FY26会社計画 | 前期比 | 下期の必要額 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆588億円 | 2兆2,000億円 | +6.9% | 1兆994億円(+3.4%) |
| 営業利益 | 1,275億円 | 1,500億円 | +17.7% | 853億円(+16.2%) |
| 税引前利益 | 1,248億円 | 1,240億円 | ▲0.6% | 637億円(▲30.0%) |
| 親会社帰属純利益 | 692億円 | 770億円 | +11.3% | 415億円(▲24.9%) |
| 年間配当 | 210円 | 210円 | 据置 | ― |
通期計画は据え置かれた。ただし下期に営業利益853億円(前年同期比+16.2%)を稼ぐ必要がある一方、直近四半期の営業利益は261億円で前年割れしている。単純に年率換算すれば下期は約520〜600億円しか届かない計算になり、会社計画の達成には下期の大幅な改善が前提となる。据え置き=安心材料と読むべきではない。出典:株探「AGC、上期最終が2.6倍増益で着地」(kabutan.jp)、AGC 2026年12月期第2四半期決算短信。
売上高・利益の推移(直近10年間)
売上高(白)・営業利益(グレー)の推移(2016年12月期〜2025年12月期、単位:億円)
売上高営業利益
売上高は12,826億円→20,588億円へ1.61倍(CAGR5.4%)。ところが営業利益は963億円→1,275億円と1.32倍にとどまる。売上の伸びに利益がついてきていない。
営業利益率の推移(%)
これがAGCの最大の問題である。2021年12月期に12.1%まで跳ねたのはコロナ後の需要回復・塩ビ市況高騰・円安が重なった一過性の局面で、その後は9.0%→6.4%→6.1%→6.2%と6%台に定着してしまった。2016年12月期の7.5%すら下回っている。10年かけて売上を1.6倍にした結果、利益率は下がった——多角化が収益性を伴っていないことの端的な証拠である。
親会社株主に帰属する当期純利益の推移(億円)
10年で2度の最終赤字を出している。FY22は減損1,284億円(ロシア・ライフサイエンス関連)で▲32億円、FY24はバイオCDMO減損1,248億円+ロシア事業譲渡損365億円で▲940億円。減損の常習性は投資家がこの銘柄を評価するうえで最も警戒すべき点で、PERを素直に使えない理由でもある。税引前利益はFY21 2,100億円→FY22 585億円→FY23 1,228億円→FY24 ▲501億円→FY25 1,248億円と激しく振れている。
出典:The社史 長期業績(the-shashi.com/tse/5201/financials、有価証券報告書XBRLベース)、stockanalysis.com(TYO:5201 Income Statement)。
PER・PBRの状況
現在のバリュエーション(株価5,802円・2026年8月21日)
| 指標 | 数値 | 算定根拠 |
|---|---|---|
| PER(会社予想) | 16.0倍 | FY26予想EPS 362.5円 |
| PER(実績・FY25) | 17.8倍 | FY25 EPS 326.21円 |
| PER(TTM) | 14.4倍 | TTM EPS 401.95円 |
| PBR(概算) | 約1.0倍 | 親会社所有者持分ベースBPS約5,830円 |
| PSR | 0.60倍 | 時価総額1.23兆円 ÷ 売上2.06兆円 |
| EV / EBITDA | 約5.4倍 | EV約1.66兆円 ÷ EBITDA 3,088億円 |
| 配当利回り | 3.6% | 年間配当210円 |
出典:stockanalysis.com(TYO:5201 Revenue/株価、Income Statement)、株探(kabutan.jp)。PBR・EV/EBITDAは当サイトによる概算。
ROIC・WACC・ROEの推移(直近10年間)
ROE(自己資本利益率)の推移(%)
10年平均は約4.0%。東証が求める8%を上回ったのは2018年(8.8%)と2021年(10.8%)の2回だけである。出典:The社史 長期業績(有価証券報告書ベース)。
ROIC vs WACC(%)
ROIC(当サイト概算)WACC(当サイト概算 7.0%)
投下資本=自己資本+有利子負債−現預金。NOPAT=営業利益×(1−実効税率30%)で当サイトが試算した概算値。
ROIC − WACC スプレッド(ポイント)
10年のうち8年がマイナス。プラスだったのはコロナ後の特需に沸いた2021年(+2.9pt)と2022年(+1.5pt)のみで、直近3年は▲1.6ptで固定されている。
出典:The社史 長期業績(the-shashi.com/tse/5201/financials)、AGC統合レポート2024、日本10年国債利回り(2026年8月)。ROIC・WACC・スプレッドはすべて当サイトによる概算であり、会社開示値ではありません。
営業・投資・財務・フリーキャッシュフローの推移(直近10年間)
キャッシュフロー4種の推移(2016年12月期〜2025年12月期、単位:億円)
営業CF投資CF財務CFフリーCF(営業+投資)
営業CFは安定して1,900〜3,300億円を稼いでいる。減損を除けば本業のキャッシュ創出力は堅い。問題は投資CFで、10年間ほぼ一貫して▲1,100〜▲2,300億円を投じ続けてきた。結果としてフリーCF(営業+投資)は、FY17・FY18・FY20の3年でマイナスになっている。
この10年の累計を取ると、営業CF 23,293億円に対し投資CF ▲17,534億円——稼いだキャッシュの75%を設備投資とM&Aに再投下してきた計算になる。にもかかわらず営業利益率が7.5%→6.2%へ低下しているのだから、投資の平均リターンが資本コストに届いていないことがキャッシュフローの面からも裏付けられる。
財務CFはFY20に+1,284億円(コロナ対応の資金調達)、FY21に▲2,523億円(その返済)と大きく振れた後、近年は▲1,000〜▲1,300億円で安定。配当支払(年210円×2.12億株=約446億円)と有利子負債の返済が中心である。会社は設備投資を2,513億円から1,900億円へ圧縮する方針を示しており、これが実行されればフリーCFは年1,500億円規模まで改善する余地がある。ここが今後2年で最も注目すべき数字になる。
出典:The社史 長期業績(the-shashi.com/tse/5201/financials、有価証券報告書ベース)、AGC統合レポート2025。フリーCFは営業CF+投資CFで当サイトが算出。
直近の投資・M&A状況
主要な投資・撤退・資本政策
| 時期 | 内容 | 金額 | 結果・評価 |
|---|---|---|---|
| 2017年〜 | バイオ医薬CDMO(AGC Biologics)への集中投資 | 累計1,500億円超 | FY24に1,248億円の減損 |
| 2018年7月 | 社名を「旭硝子」から「AGC」へ変更 | ― | ガラス会社からの脱皮を宣言 |
| 2024年 | ロシア事業の譲渡 | 譲渡損365億円 | 地政学リスクの遮断 |
| 2024年 | ディスプレイ事業の生産能力2割削減 | ― | 構造的な供給過剰への対応 |
| 2025年 | タイ・エッセンシャルケミカルズ新設備がフル稼働 | ― | FY26上期の増益ドライバー |
| 2025年2月 | 米コロラド(ボルダー・ロングモント)撤退、シングルユース事業に集中 | ― | バイオCDMOの絞り込み |
| 2026年〜 | 化学品を「インテグレイテッドケミカルズ」「エッセンシャル東南アジア」の2SBU体制へ再編 | ― | 管理単位の明確化 |
| 2026年 | 設備投資を2,513億円→1,900億円へ圧縮 | ▲613億円 | 能力拡大投資を一段落 |
| 2025年〜 | 株主還元を配当性向40%目安からDOE3%目安へ変更 | 年間210円 | 赤字期も配当を維持 |
出典:The社史「AGCの直近の業績」IR資料サマリ(the-shashi.com/tse/5201/current)、AGC決算説明会資料(2024年2月8日・2025年2月7日)、統合レポート2024・2025。
主要事業ごとの成長性
セグメント別 営業利益の増減率(2025年12月期 / 前期比)
出典:The社史 セグメント業績(the-shashi.com/tse/5201/financials)。
競争優位性や業界内でのポジション
SCP理論からの分析(市場動向・規制リスク・業界トレンド)
Structure(市場構造)
Conduct(企業行動・規制リスク)
Performance(業界トレンド・帰結)
これらの分析結果をもとにした現在の投資妙味
投資判断の材料整理(株価5,802円・2026年8月21日時点)
| 論点 | 数値 | 評価 |
|---|---|---|
| PBR | 約1.0倍 | 絶対値は割安 |
| EV/EBITDA | 約5.4倍 | 同業比較でも低位 |
| 配当利回り | 3.6%(DOE3%目安) | 日本10年債2.88%を上回る |
| ROIC − WACC | ▲1.6pt(当サイト概算) | 価値毀損が継続 |
| 営業利益率 | 6.2%(10年前は7.5%) | 改善していない |
| 直近四半期の営業利益 | ▲7.1%(利益率5.7%→4.7%) | モメンタムは減速 |
| ライフサイエンス | 営業利益▲223億円 | 黒字化時期は未提示 |
| 減損の頻度 | 10年で2度の最終赤字 | 利益の予測可能性が低い |
| 半導体材料 | EUVマスクブランクスは世界数社 | 唯一の高収益ドライバー |
| 設備投資 | 2,513→1,900億円へ圧縮 | FCF改善余地は年1,500億円規模 |
※ 本項は当サイトによる分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。ROIC・WACC・PBR・EV/EBITDAは当サイトによる概算です。
今後の注目ポイントやリスク要因
注目ポイント(カタリスト)
リスク要因
出典:株探(kabutan.jp)、The社史(the-shashi.com/tse/5201)、AGC決算説明会資料・統合レポート、AGC「半導体関連事業説明会」(2026年6月2日)。