スナップショット
株価
約2,280円
2026年8月時点
時価総額
約5,551億円
2026/3期末基準
PER(実績)
13.1倍
2026/3期ベース
保有株数
―
未確認
事業ごと・国/エリアごとの売上高比率
事業セグメント別 売上高構成比(FY2026/3)
| セグメント | 売上高 | 構成比 |
|---|---|---|
| 総合エンジニアリング | 約6,900億円 | 約92% |
| 機能材製造 | 約450億円 | 約6% |
| その他・調整 | 約100億円 | 約2% |
総合エンジニアリング事業がほぼ全体を占める。石油・ガス・LNG・化学プラントのEPC(設計・調達・建設)が主力。機能材は触媒・ナノ粒子技術など。
国・エリア別 売上高構成比(FY2025/3参考)
| 地域 | 構成比 |
|---|---|
| 中東 | 45% |
| アジア | 37% |
| 日本 | 9% |
| 米州・その他 | 9% |
海外比率は約83%。中東依存度が高い点は地政学リスクの観点から注目。
創業からの歴史
1928年、実吉雅郎が東京に「日本揮発油株式会社」を設立。人造石油の製造から出発した同社は、戦後の復興期に石油化学プラントの設計・建設へ事業を転換し、日本のプラントエンジニアリング業界の草分けとなった。
1960年代に本格的な海外展開を開始。1962年に東証2部上場、1969年に1部へ昇格。1973年に初のLNGプラントを受注し、以降LNG分野で世界トップクラスの地位を確立していく。
1976年に社名を「日揮株式会社」に変更。80カ国以上で2万件超のプロジェクトを手がけ、世界のLNG生産能力の30%超を建設した実績は、Bechtel(米)、Technip(仏)、千代田化工建設と並ぶ「LNG Big 4」の一角を占める。
2019年10月、持株会社体制に移行し「日揮ホールディングス」に商号変更。事業会社を日揮グローバル(海外EPC)と日揮(国内EPC)に分離した。2022年4月に東証プライム市場へ移行。
ミッション・ビジョン・バリュー
パーパス:「Enhancing planetary health」——地球と人類の健やかさを高める、という壮大な目標を掲げる。
2040ビジョン:「人と地球の健やかな未来づくりに貢献する」。エネルギートランジションの実現者としてのポジションを明確化した。
中期経営計画 BSP2030(Building a Sustainable Planetary Infrastructure 2030)では、3つの柱を設定:(1) 総合エンジニアリング事業の競争力強化、(2) 機能材製造事業の成長加速、(3) ソリューションビジネスの拡充。解決すべき社会課題として「エネルギーの安定供給と脱炭素化の両立」「資源利用の環境負荷低減」「生活インフラ・サービス構築」を挙げる。
既存のLNG・石油ガスEPCを収益基盤としつつ、水素・アンモニア・SAF(持続可能な航空燃料)プラントへの展開で脱炭素時代の事業ポートフォリオ転換を図る戦略。
現経営者の特徴・過去の実績(レジリエンスの観点)
佐藤雅之(代表取締役会長CEO)——北海道出身、早稲田大学商学部1979年卒。同年日揮入社、財務部門でキャリアを積んだ。2010年に取締役CFO、2012年副社長、2014年会長。
2025年2月、石塚忠社長がFY2024-25の2期連続営業赤字の責任を取り辞任。佐藤が会長兼CEOとして経営の全権を掌握した。エンジニアリング業界では珍しい「財務畑出身」のトップであり、コスト管理・リスクマネジメントの強化が期待される。
レジリエンス評価:2期連続の営業赤字(海外EPCプロジェクトのコスト超過が原因)という危機のさなかにトップ交代。就任初年度のFY2026/3期で営業利益354億円の黒字回復を実現しており、短期的な立て直し能力は証明された。財務規律の回復が今後の焦点。
直近決算の予想・ガイダンスに対する結果
FY2026/3期(2025年度)通期実績
| 項目 | 会社予想 | 実績 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | — | 7,453億円 | -13.1% |
| 営業利益 | 310億円 | 354億円 | 黒字転換 |
| 純利益 | — | 418億円 | 黒字転換 |
FY2024/3・FY2025/3の2期連続営業赤字(海外EPC案件でのコスト超過が主因)から、FY2026/3に一転して営業利益354億円を計上。当初ガイダンスの310億円も上回った。売上高は減収だが、利益率の改善が顕著。前年の営業損失▲115億円から約470億円の改善。
FY2027/3(今期)会社予想:売上高6,700億円、営業利益400億円、純利益460億円。さらなる利益成長を見込む。
売上高・営業利益の推移(直近10年間)
売上高・営業利益(10年推移)
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 純利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 2017/3 | 6,932億 | ▲215億 | ▲221億 | -3.1% |
| 2018/3 | 7,230億 | 215億 | 166億 | 3.0% |
| 2019/3 | 6,192億 | 232億 | 240億 | 3.8% |
| 2020/3 | 4,808億 | 202億 | 41億 | 4.2% |
| 2021/3 | 4,340億 | 229億 | 51億 | 5.3% |
| 2022/3 | 4,284億 | 207億 | ▲356億 | 4.8% |
| 2023/3 | 6,069億 | 367億 | 307億 | 6.0% |
| 2024/3 | 8,326億 | ▲190億 | ▲78億 | -2.3% |
| 2025/3 | 8,581億 | ▲115億 | ▲4億 | -1.3% |
| 2026/3 | 7,453億 | 354億 | 418億 | 4.7% |
出所:the-shashi.com、会社IR資料|売上高は10年で+7%(CAGR +0.7%)。営業利益はEPCプロジェクトの進捗により大幅に振れる。FY2024/3-2025/3の連続赤字は海外大型案件のコスト超過が原因。FY2026/3に黒字回復。
PERの推移(直近10年間)
PER(10年推移)
| 決算期 | PER(倍) | 備考 |
|---|---|---|
| 2017/3 | — | 赤字(算出不可) |
| 2018/3 | 35.2 | 黒字回復直後で高水準 |
| 2019/3 | 15.5 | 利益安定期 |
| 2020/3 | 53.2 | 純利益急減で上昇 |
| 2021/3 | 66.6 | 低利益継続 |
| 2022/3 | — | 純損失(算出不可) |
| 2023/3 | 13.4 | 利益回復で正常化 |
| 2024/3 | — | 赤字(算出不可) |
| 2025/3 | — | 赤字(算出不可) |
| 2026/3 | 13.1 | 黒字回復、割安水準 |
赤字年はPER算出不可。黒字時のPERは13〜15倍が中央値で、グローバルインフラ銘柄としては割安圏。FY2027/3の会社予想NP460億円ベースでは予想PER約12倍。
ROIC・WACC・ROEの推移(直近10年間)
ROE(10年推移)
| 決算期 | ROE |
|---|---|
| 2017/3 | -5.8% |
| 2018/3 | 4.2% |
| 2019/3 | 5.9% |
| 2020/3 | 1.1% |
| 2021/3 | 1.2% |
| 2022/3 | -9.2% |
| 2023/3 | 7.7% |
| 2024/3 | -2.0% |
| 2025/3 | -0.1% |
| 2026/3 | 9.7% |
10年平均ROE: 約1.3%。振れ幅が大きく、安定的な資本効率とは言い難い。FY2026/3は9.7%と回復したが、持続性が問われる。
ROIC・WACC(参考)
ROIC・WACCの精緻な10年推移データは今回取得できなかったため、次回更新時に反映予定。ROEの推移から、EPCビジネス特有の利益変動性(好調時は高ROE、コスト超過時は赤字転落)が読み取れる。ネットキャッシュ3,861億円の厚い手元資金は、WACCに対するバッファーとして機能している。
営業・投資・財務・フリーキャッシュフローの推移(直近10年間)
CF4種(10年推移、百万円)
| 決算期 | 営業CF | 投資CF | 財務CF | FCF |
|---|---|---|---|---|
| 2017/3 | ▲28,884 | ▲12,979 | ▲19,674 | ▲41,863 |
| 2018/3 | 5,539 | 11,736 | 33,781 | 17,275 |
| 2019/3 | ▲55,259 | ▲4,662 | ▲13,878 | ▲59,921 |
| 2020/3 | 92,442 | 19,364 | ▲7,699 | 111,806 |
| 2021/3 | 12,467 | ▲13,520 | 196 | ▲1,053 |
| 2022/3 | 19,311 | ▲7,695 | ▲148 | 11,616 |
| 2023/3 | 110,769 | ▲11,471 | ▲61,288 | 99,298 |
| 2024/3 | 11,090 | ▲20,201 | ▲8,894 | ▲9,111 |
| 2025/3 | 46,761 | ▲21,172 | ▲15,049 | 25,589 |
| 2026/3 | 79,898 | ▲14,822 | ▲10,979 | 65,076 |
出所:the-shashi.com|EPC事業の特性上、営業CFは前受金の受領タイミングで大きく振れる。10年累計FCFは+218,712百万円(約2,187億円)のプラス。ネットキャッシュ3,861億円は業界随一の財務健全性。
直近の投資・M&A状況
日揮HDは大型M&Aよりも、自社技術の高度化とパートナーシップによる事業領域拡大を志向してきた。
主な動き:
BSP2030の下、水素・アンモニア・SAFプラント分野への投資を加速。国内ではコスモエネルギーHDとのSAF商業プラント建設(堺市)を推進。海外ではLNGメガプロジェクト(カタール・モザンビーク・カナダ)の受注パイプラインを維持しつつ、中東での水素プロジェクトにも参画。
機能材製造事業では触媒技術やナノ粒子技術への研究開発投資を継続。大型買収実績は直近では目立たないが、技術ライセンスやJV形式での事業参入が多い。
主要事業ごとの成長性
セグメント別 成長ドライバー
| セグメント | 成長ドライバー | リスク |
|---|---|---|
| 総合エンジニアリング | LNG需要拡大(データセンター電力・新興国)、水素/アンモニア/SAF新設プラント、カタール第3次拡張 | ランプサム契約のコスト超過リスク、中東地政学 |
| 機能材製造 | 触媒の脱炭素用途(水素製造触媒等)、ナノ粒子のヘルスケア応用 | 規模が小さく連結業績への寄与は限定的 |
成長の大部分はエンジニアリング事業が担う。世界のLNG需要はデータセンターの電力需要増、アジア新興国の天然ガスシフトで構造的に拡大基調にある。加えて水素・アンモニア・SAFの大型プラント建設は2030年代に本格化が見込まれ、日揮HDの持つEPC技術が活きる領域。
FY2027/3会社予想の売上高6,700億円は前期比で減収だが、これはプロジェクトの工事進捗の谷間。受注残高は健全な水準にあり、中期的な成長軌道は維持されている。
競争優位性や業界内でのポジション
LNG EPC「Big 4」の一角。世界でLNG液化プラントのEPC(設計・調達・建設)を一括で手がけられるのは日揮HD、千代田化工建設、Bechtel(米)、Technip Energies(仏)の4社に限られる。この寡占構造が最大の参入障壁であり、同社の「経済的堀(モート)」を形成している。
実績と信頼:80カ国以上で2万件超のプロジェクト。世界のLNG生産能力の30%超を日揮が建設。メジャーオイルカンパニーからの指名受注が続くのは数十年にわたる実行実績の蓄積によるもの。
技術力:モジュラー建設工法、極寒冷地対応、FLNG(浮体式LNG)技術など先端技術を保有。LNGプラントは1件数千億〜1兆円規模の超大型案件であり、施工ミスが許されない世界で信頼を勝ち取ってきた。
財務力:ネットキャッシュ3,861億円は、大型EPCプロジェクトの資金繰りにおいて大きな安心材料。2期連続赤字でも財務基盤が揺らがなかったのはこの手元流動性のおかげ。
SCP理論からの分析(市場動向・規制リスク・業界トレンド)
Structure(市場構造)
LNG EPCは4社による寡占市場。参入障壁は極めて高く、新規参入には数十年の施工実績と数千億円規模のプロジェクトマネジメント能力が必要。顧客は国営石油会社やメジャーオイル企業で、発注側も限られた少数のプレイヤー。中東集中(日揮の売上の45%)は構造的リスク。韓国・中国勢が石油化学プラントでは台頭しているが、LNG液化プラントでの本格参入はまだ限定的。
Conduct(企業行動)
従来のランプサム(一括固定価格)契約はコスト超過リスクを請負側が負う構造で、FY2024/3-2025/3の赤字はまさにこのリスクが顕在化したもの。BSP2030ではフィーベース・コストプラス型契約への移行を推進し、利益安定性の向上を図る。また、水素・アンモニア・SAFという新領域への多角化はエネルギー転換リスクのヘッジでもある。
Performance(業界トレンド・帰結)
営業利益率は好調時で4〜6%、不調時は赤字と、EPC業界特有のボラティリティがある。ただし寡占構造ゆえに好調サイクルでの収益力は高い。LNG需要の構造的拡大(データセンター電力、アジア新興国のガスシフト)は同社に追い風。10年累計FCFが約2,200億円のプラスである点は、ボラティリティの中でも長期的に価値を創出していることの証左。
これらの分析結果をもとにした現在の投資妙味
ブルケース(強気):PER 13倍・予想PER 12倍は、LNG需要の構造的成長を考えると割安。ネットキャッシュ3,861億円(時価総額の約70%)は下値の安心材料。水素・アンモニア経済が本格化する2030年代に向けて、同社の技術力が再評価される可能性がある。
ベアケース(弱気):ROEは10年平均で約1.3%と資本効率が低い。EPCのランプサム契約リスクは構造的課題であり、再び大型案件のコスト超過が起きれば赤字転落のリスクが残る。中東地政学リスクも常につきまとう。
総合判断:「回復初年度」のFY2026/3は良い数字が出たが、1年では持続性を判断できない。財務の堅牢性(ネットキャッシュ)と寡占市場でのポジションは魅力的だが、利益の振れ幅の大きさをどう評価するかが投資判断の分かれ目。
今後の注目ポイントやリスク要因
注目ポイント
・LNGメガプロジェクトの受注パイプライン(カタール第3次拡張、モザンビークLNG、カナダLNG)
・水素・アンモニア・SAFプラントの商業案件受注の本格化
・BSP2030中計の進捗(フィーベース契約比率の引き上げ)
・FY2027/3の営業利益400億円ガイダンスの達成可否
・佐藤CEO体制下での財務規律・リスク管理の改善
リスク要因
・EPCプロジェクトのコスト超過再発(ランプサム契約が残存する限り)
・中東地政学リスク(売上の45%が中東依存)
・円高局面での海外案件の円建て利益圧縮
・韓国・中国EPCコントラクターの競争力向上
・エネルギー転換が想定以上に早く進みLNG需要がピークアウトするシナリオ