世界中が財政を拡張し、企業が広告に金を投げ込む。そこで起きるのは広告単価の高騰と競争の激化である。講師が「ぜひ金をばらまいてほしい」と言い切った理由と、通貨・日銀・楽観論をめぐる参加者との対話。
前半で扱われた銀行の楽観論を受けて、この回の後半は「では自分たちはどこに立つか」という話に移った。世界中が金をばらまく。米国はワン・ビッグ・ビューティフル・ビル・アクトによる減税とインフラ投資、ドイツは5,000億ユーロの方向転換、日本も拡張路線。中間選挙を控えた米国はとりわけ金を出す。そこまでは前提として共有された。
問題はその先である。景気を良くしようとすればするほど国の借金は膨らむ。インフレは適度なら良いが、過度になれば良くない。この二つの評価軸は常に同時に働いており、どこかで市場の見方が反転する。ではその転換点はどこか――講師の答えは「これは誰にも分かりません」だった。分からないことを認めたうえで、では何を持っておくかという問いに移る。ここで出たのが、金融機関が楽観的であればあるほど、こちら側はどんな質問を用意しておくかが大事になる、という整理である。景気が悪いと言ってくれた方が兆しは見えやすい。悪くなる転換点に人は気づかない。だから楽観が出てくるほど、発見のポイントを先に持っている人間が勝つ。
もう一つの軸が、通貨をめぐる対話だった。ドルが他通貨に対して安い状態が続き、基軸通貨としての地位が揺らぐという論調も出ている。ブラジルなど南米通貨が欧州通貨より強い。何が起きているのか自分でも整理できない、という参加者の問いに、講師は「いま最も相関性が高いのは期待感情でしかない」と答えた。徹底的にリサーチするより、参加者の大半が食いつきやすい情報は何かを考える方が、短期の動きには連動する、と。
そして最後に、この回でもっとも講師の色が出た部分が来る。世界中が金をばらまけば、企業は一斉に販売に走り、広告に金を投げる。すると広告単価そのものが上がり、ライバルが増える。だから「ぜひ金をばらまいてほしい」。全員が同じ方向に走る局面では、逆方向に立つ側の相対的なコストが下がるからである。
好況は、全員にとって等しく好況ではない。金があふれる局面では、競争のための単価が上がり、体力のない側が先に削られる。だから講師は景気の方向を当てにいかない。景気がどちらに転んでも、経営基盤を整えている側が相対的に有利になるという構造の方に賭けている。「楽観的なのは皆さんではなく、超富裕層にとっての楽観です」「金持ちにとって楽観な時とは、一般人が損する時なんです」という二つの断言が、この回の結論である。
講師が数百行の銀行分析をまとめた結論は、一言で言えば「日本・ヨーロッパ・アメリカが金を使いまくる年になる」というものだった。米国は特にばらまく。中間選挙が11月にあるからである。柱として挙がったのはワン・ビッグ・ビューティフル・ビル・アクトで、法人税・所得税の減税とインフラ投資が経済を押し上げる設計になっている。ドイツは5,000億ユーロを投じる方向転換で、これまでの欧州とは違う一抜けをする。日本も拡張路線で国債を発行し、金をばらまく。
もう一つの柱がAIと財政の関係だった。銀行が明らかに賭けているのはAIである。そして講師が2年間言い続けてきたことが2026年になってようやく表に出る、と述べたのが、AI投資そのものはもう評価基準に入らないという点である。どれだけ収益を上げていくのか、そちらが見られる段階に入る。
金を刷るという行為には、常に二つの評価が同時にぶら下がる。景気が良くなるという評価と、財政赤字が悪化するという懸念である。景気を良くしようとすればするほど国の借金は膨らむ。ヨーロッパは財政赤字を拡大させ、日本も国債を発行し、米国はステーブルコインを短期債にペッグさせて短期債を買わせる。金は出続ける。しかし、どこで市場の評価がひっくり返るのかは分からない。「見極めるポイントは、これは誰にも分かりません」というのが講師の言葉だった。
結果として、2026年の最初の大きな調整は財政赤字懸念からではなく、地政学から来た。3月に米・イスラエルとイランの軍事衝突を受けて原油が高騰し、スタグフレーション懸念が台頭。S&P500は1月の史上高値から8.7%下落し、2022年以来最長となる5週続落を記録した。ナスダックは高値から10%超下げて技術的な調整局面に入っている。
その後、中東不安の後退と好調な企業業績を受けて8月4日にS&P500は約2カ月ぶりの最高値7,736を付け、8月14日にさらに更新した。年末目標は7,700から8,000へ引き上げられている。つまり「転換点は誰にも分からない」という講師の答えは、少なくとも要因の特定については正しかった。この回の勉強会で議論された財政赤字や中間選挙は、8月時点までの主因ではない。
参加者(小賀氏)から出たのは、率直な困惑だった。円が安いのは分かるが、ドルも欧州通貨に対して安い。基軸通貨としてのドルの地位が失われていくのではないかというバイアス込みのコメントも巷にあふれている。ペトロダラーという枠組みがあり、中国はエスクローを使って人民元圏ではない形で別の仕組みを作りつつある。一方の欧州は米国と比べれば経済的に脆弱で魅力はないのに、通貨としては強い。それどころかブラジルなど南米通貨の方が欧州通貨より強い。何が起こっているのか自分でも理解できていない――何をもってその通貨が見られているのか、と。
参加者(前田氏)の応答も、「実情と乖離しているような感じがして、指標がないように思っている」というものだった。そのうえで示されたのが、この回で最も実務的な整理である。いま最も相関性が高いのは期待感情でしかないのではないか。だから逆に、リサーチをしすぎると混乱してしまう状況ができている。市場参加者の大半が食いつきやすい情報は何かを考える方が、徹底的にリサーチするよりも短期の動きには連動する。株式でも通貨でも、そう見えている、と。
これは調査を否定する話ではない。ファンダメンタルズと価格が乖離している局面では、価格を説明する変数がファンダメンタルズの側にないという認識である。短期の値動きを説明したいなら、参加者の注意がどこに集まるかを見る。中長期の構造を判断したいなら、別の道具を使う。この二つを混ぜると、どちらの答えも出なくなる。
2026年上半期の為替市場の主役は円とドルで、ドル円は半年間で152円から162円へ10円の円安が進んだ。主要クロス円では豪ドル円、メキシコペソ円、南アフリカランド円といった高金利・資源国通貨が勝ち組となり、トルコリラは信認不足から下落した。「ドルがほぼ全面安」という地合いは2025年から続いており、対円ではドル高・対他通貨ではドル安という分裂した動きになっている。南米通貨が相対的に強いという参加者の観察は、上半期を通じて維持された。
もう一つ参加者が持ち出したのが、ブラックスワンの発生源として日本を挙げる見方だった。主要国が利下げに向かう中で日本だけが利上げをするのか、あるいは今までの金融政策が他国から遅れていたのを追いつかせるだけなのか。どちらの説明にも違和感がある、と。
これに対する応答は、日本は利上げに対する耐性が低すぎるという指摘だった。国民性としてもそうであり、企業体力としてもそうである。だから、政策として成り立つほどに利上げをきちんと機能させることが本当に可能なのか、という疑問を持たなければならない。日銀が姿勢を示していること自体はもっともだと見ているが、腑に落ちない部分は残る――そして講師は「多分落ちないっていうのが本当のところじゃないかなと思ってます、僕も」と返した。分からないことを分からないまま持っておく、という姿勢がここでも取られている。
2026年1月23日の金融政策決定会合では、政策金利(無担保コールレート翌日物)の誘導目標は0.75%程度に据え置かれた。その後、6月の会合で0.75%から1.0%程度へ0.25%引き上げが決定された。背景には賃金上昇の定着と、原油高に伴うインフレ上振れへの警戒がある。ただし円安基調は根強く、この利上げだけでは1ドル160円よりさらに円安が進む可能性が指摘された。証券会社の見通しでは、追加利上げは2026年に2回・2027年に1回がメインシナリオとされている。「日本は利上げへの耐性が低い」という参加者の懸念に対して、政策としては実行されたが、円安を止めるには至っていないというのが上半期の結果である。
ここで講師は立場をはっきりさせた。「僕は今年、ぜひ金をばらまいていただきたいと思っているんですよ」。理由は景気への期待ではない。世界中で金がばらまかれれば、みんなが一生懸命ものを販売しようとする。日本も含めて。すると各社は広告に金を投げまくる。その結果として起きるのが、広告単価そのものの高騰である。
景気が良くなったという判断が広がった段階で、全員が「儲けようぜ」と同じ市場に入ってくる。広告費はどんどん上がり、ライバルは増える。同じ成果を得るために必要な支出が増え、体力の薄い会社から順に削られていく。だからこそ真逆の方向に行った側が勝つ、というのが講師の見立てだった。景気が良くなること自体を、自分の有利に働く条件として数えている。
景気拡大の報道を受けて広告・販促に投下する。競合も同じ判断をするため、入札単価が上がる。同じ露出を買うためのコストが上がり、獲得単価が悪化する。売上が伸びても利益は伸びにくくなる。
単価が高騰している経路には乗らず、事業戦略・経営戦略・財務戦略の側を整える。競合が高い単価で消耗している間に、獲得コストの構造そのもので差がつく。講師の言い方では「努力もせずに勝てる仕組み」がもう一つできる。
講師は、時代の流れやルールが切り替わったときに脱落していくのは、まさに前半の議論で出た「レジリエンス能力のない会社」だと述べた。景気が死のうが生きようが優秀な人は生き残る。だから見たいのは景気の方向ではなく、誰が耐えられて誰が耐えられないかである。ヨーロッパの企業が死ぬかどうかはどうでもよく、身近な中小企業や知り合いの会社が死んでいく方が面白い――という露悪的な言い方で語られているが、論理としては「変化はレジリエンスの検査になる」という一貫した主張である。
その主張の裏付けとして講師が持ち出したのが、翌週月曜のプレゼンテーションで公開するというデータだった。世界54市場、7,000社規模、2万2,000以上のブランド、450万人以上の消費者アンケートを分析し、中央値で見たものだという。
結果として示された数字は三つ。第一に、外側の見え方だけでなく中身を整えているところと整えていないところで、およそ7.5倍から10倍の差が生まれる。第二に、売上成長率で4倍の違いが出る。第三に、新規顧客の獲得コストは80%削減できる計算になる。さらにマーケティング費用については、同じ成果を上げるのに約3分の1のコストで済む、と。
図:経営基盤を整えた企業と整えていない企業の差(講師が示した分析結果、倍率・削減率)。出典:講師が2026年1月時点で未公開のデータとして提示した数値をもとにClaude作図。第三者による検証は行っていない。
この分析は、勉強会の時点で講師自身が未公開のものとして提示したデータであり、公開された調査報告や論文と突き合わせて検証できるものではない。要確認 数字の性質としても、7.5〜10倍・4倍・80%削減という幅は、何を「整えている」と定義するかによって大きく動く種類のものである。レポートには発言の通りに記録しているが、外部データによる裏取りは行っていない。
なお、マーケティング費用について「売上高に対して340%かけている間で」という表現が文字起こしに残っているが、売上高比340%という水準は文脈上成立しない。音声認識の誤りか、別の指標を指している可能性が高い。ここは発言を書き換えず、数値が確定できない箇所として残す。数値要確認
講師はこの話を、次のように締めた。相場が上がらなくなれば、人はまた探し始める。どうやったらいいのか、どうやって売っていけばいいのか、どういうコンセプトを作ればいいのか。この会話が充満する。しかしそこに実は答えがない、というのが答えである。特効薬を探す会話そのものが、基盤を整える作業から目を逸らさせる。
「楽観的だからイケイケだから金をぶん投げまくれと言った瞬間に、多分死ぬと思うんで」
「楽観的なのは皆さんではなくって、超持っている金持ちな奴らにとっては楽観なんです」
「金持ちな奴らにとって楽観な時っていうのは何なのか。一般人が損する時なんです」
そのうえで講師は、大手銀行のレポート自体が「楽観的ではあるが、今年は見極める能力が必要である」とはっきり書いていることを指摘した。楽観に聞こえる話が多いほど、見極めのハードルは上がっている。過去1難しい年になるかもしれない、と。そして日本については、市場に金をばらまいてうまくいかなかった市場であり、今回さらにばらまけば得する側と削られる側にはっきり分かれる、それは覚悟しておいた方がいい、と付け加えた。
以下はClaudeによる事後の突き合わせであり、勉強会での発言ではない。
| この回で語られた見立て | 2026年8月末時点 | 判定 |
|---|---|---|
| 2026年は日欧米が金を使いまくるアクセル全開の年になる | 米国は減税とインフラ投資、ドイツはインフラ特別基金、日本は高市政権が「責任ある積極財政」を掲げて財政拡張が継続 | 的中 |
| 景気拡大と財政赤字悪化のどちらに評価が振れるか、転換点は誰にも分からない | 3月の調整の引き金は財政ではなく中東情勢と原油高だった。8月には中東不安の後退で最高値を更新 | 「分からない」が正解 |
| 通貨を動かしているのは期待感情でしかない | ドル円は半年で152円から162円へ。高金利・資源国通貨が勝ち組、トルコリラは信認不足で下落と、金利差と信認で説明可能な部分も大きい | 部分的 |
| 日本は利上げに耐えられるのか疑問である | 日銀は1月会合で0.75%据え置き、6月会合で1.0%へ引き上げ。政策としては実行されたが、円安は止まっていない | 利上げは実行された |
| AI投資そのものは評価基準に入らず、収益が見られる段階に入る | 1〜6月の世界のM&AはAI開発競争と電力再編が牽引して過去最高。AI関連の資本支出は依然として拡大局面にあり、収益基準への完全な移行には至っていない | 道半ば |
当たったのは「金は出る」という大枠と、「転換点は特定できない」という留保である。外れたのは、個別の変数を名指しした部分だった。この非対称は、この回の主張そのものと整合している。方向を当てにいくのではなく、どちらに転んでも効く構造の側に立つ――というのが、そもそもこの回の結論だったからである。
この回は開始が遅れて始まった。講師が韓国のライブを見に行っており、9時に終わってから急いで戻ってきたためである。見てきたのはブラックピンクで、6年ぶり――前回はコロナ禍の直前だった。演出から何から異次元だったという感想が語られ、YouTubeに上がっているパリ公演の映像とリアルでは全然違う、映像だと「歌がうまい、ダンスがうまい」で終わるが、現地で見ると受ける印象がまったく変わる、と。いま世界で最もチケットが取れない部類だという話も出た。
その流れで、前日にYouTube撮影を見学した参加者との会話が続いた。映像で見るのと現場は全然違う、講師が編集まで意識して喋っているのがよく分かった、という感想である。さらに、撮影しながら同時に韓国企業へメッセージを送っていたという裏側も明かされた。珍しく資料を見ながら喋っていると思ったら、韓国側とやり取りしていた、と。別の参加者はアフタートークでYouTubeデビューを果たしたものの、カメラが回った瞬間に質問ができなくなった、直前まで鋭い質問をしていたのに、というやり取りもあった。
告知としては、翌週月曜に小山氏のところで行うプレゼンテーションの案内が繰り返された。中川氏も来場するとのことで、講師は「人前で喋るのは本当にラストチャンスかもしれない」と述べている。参加者の一人がDiscordに応援参加者向けの部屋を作る許可を求め、その場で了承された。次回の講義は月曜か水曜か未定で、Discordで連絡するという案内で終わっている。
この回では、講師の投資情報だけで5年間株で食べているという参加者(小松氏)が紹介され、前年のリターンが23%、毎年1,000万円規模の利益が出ているという話が出た。講師は、その参加者が判断を切り替える時点こそが自分たちにとって最も早いシグナルになるかもしれない、と述べている。情報そのものより、情報に最も速く反応する人の行動を見る、という観測の仕方が示された箇所である。個別の運用成績は本人の申告であり、Claudeによる裏取りは行っていない。要確認