STUDY REPORT / 2025年12月度 勉強会

量子5方式と3次元推論の壁――「あなたの言う量子コンピュータは、どれの話ですか」

量子コンピュータについて質問が殺到したにもかかわらず、講師は講演でその話をしなかった。理由は明快で、方式を特定しない質問には答えようがないからである。この回では超伝導・イオントラップ・光・シリコン・冷却原子という5つの運用方式を、物流とパン屋という2種類の比喩で並べ直し、さらに「なぜ3次元データの処理に量子が要るのか」というAI側の論点へ接続した。

EXECUTIVE SUMMARY

方式を言わずに量子を語ることの空虚さ

分類された方式
5方式
超伝導・イオントラップ・光・シリコン・冷却原子
用いた比喩
2系統
自動車/交通の例と、パン屋の例
講師の質問法
埋め合わせ
「これができるならこれはできない。どう埋めるのか」
AI側の論点
3次元
2次元推論は既存機で足りる。3次元が量子の出番
AGIへの立場
否定的
脳が解明されていない以上、判定基準がない
資料に混入
嘘1箇所
講演で意図的に1点だけ誤りを入れた(超伝導の項)

この回の量子コンピュータ講義は、技術解説として始まったのではなく、質問の質に対する批判として始まった。マイキー氏のもとには量子コンピュータについての質問が大量に寄せられている。しかしその多くは「量子コンピュータはどうなりますか」という形をしている。これに対する講師の応答は、運用方式として超伝導なのか、イオントラップなのか、光(フォトニック)なのか、シリコンなのか、冷却原子なのか——これによって用途が全部違うのだから、あなたの指している量子コンピュータとは何の話をしているのか、それを説明したうえでなら回答できる、というものだった。

この態度は単なる意地悪ではない。5方式はそれぞれ得意な計算構造がまったく異なり、ある方式にとって自明な問題が別の方式では原理的に難しい。したがって「量子コンピュータで何ができるか」という問いは、方式を固定しないかぎり答えを持たない。マイキー氏が量子コンピュータを語る人に対して常に投げているという質問は「これができるということは、これはできないですよね。それはどうやって埋めるんですか」というものである。この形式の質問に答えられるかどうかで、その人が方式の物理的制約を理解しているかが判明する。

講義では、この5方式を二段階の比喩で説明した。第一段階は自動車と交通の例である。超伝導は瞬間的にどの道が速いかを計算するのが得意だが、街全体を把握して1時間先まで予測することができない。イオントラップは1台のトラックが50箇所を回る最適ルートを完全最適化できるが、事故が起きて経路を変える場面で計算が一気に遅れる。光は交通の統計予測——何十万台の流れからどこで渋滞が発生するかという確率論——に強いが、緊急対応が遅い。シリコンは半導体として車載できるためエッジ側で数百万台に指示を出しやすいが、量子ビット数が計算に足る水準にまったく達しておらず研究開発段階にある。冷却原子は街の形や道の長さからどこに信号機を置くべきかという配置問題に強いが、置いた信号機の色をいつ切り替えるかという次の段階の計算が苦手である。

第二段階のパン屋の比喩では、同じ制約が経営の言葉に翻訳された。超伝導は注文が入ればすぐ商品が出てくるが品質管理が極めて難しいパン屋。イオントラップは複雑なレシピを手順を間違えずに作れ、職人同士が連携でき(=量子ビット間の結合ができ)、質の高いパンが作れるが、職人気質すぎて焼くのが遅く、1回に焼ける数(=量子ビット数)を増やすのが難しいので大量生産に向かない。光は需要を予測して完成品をすぐ届けられるが、生地を寝かせておくといった時間差の運用ができない。シリコンはすべてに対して同じ品質を出せる能力は高いが、そもそも実現できるかどうかが分からず品数の担保ができない。冷却原子はどこにパンを置けば最も売れるかという設置設計は極めて得意だが、12時から3時までの品揃えをいつ切り替えるかというタイミングの最適化ができない。

セッションを貫く1本の線

この回の通底テーマは「できることの裏側にある、できないことを言語化する」である。5方式の説明はすべて「◯◯は得意/ただし△△が苦手」という対の形で提示された。そして講師が量子コンピュータを語る人に投げる質問も、同じ構造をしている。この「トレードオフを対にして提示する」思考法は、後半のAGI批判にもそのまま適用される。汎用人工知能ができたと誰がどう判定するのか——判定基準を持たないまま「できる」とだけ言う主張は、方式を言わずに量子を語ることと同型である、という批判である。

PART 0 / 講義の前提

なぜ土曜日の講演で量子の話をしなかったのか

この日の量子パートは、直前の土曜日に行われたYouTube視聴者向けの公開勉強会を受けている。その講演には勉強会の常連メンバーも参加しており、講演の場でマイキー氏は「なぜ自分が量子コンピューティングの話をしなかったのか」を説明したうえで、その場で資料を作成したという。資料はDiscordおよび配布ファイルとして共有されている。

その資料の骨格が、5方式の分類表である。マイキー氏の説明では、これは方式の優劣を論じるためのものではなく、「質問に答えるための前提条件を明示するための表」である。量子コンピュータの質問をしてくる人がいっぱいいるが、では何の話をするのか。運用方式として超伝導なのか、イオントラップなのか、光なのか、シリコンなのか、冷却原子なのか。これによって用途が全部違う。だからあなたの指している量子コンピュータとは何の話をしているのか——それを説明したうえでなら量子コンピューティングについて回答ができる、という構えである。

もう一点、この講演には仕掛けが仕込まれていた。マイキー氏は講演の際に意図的に一箇所だけ嘘を混ぜ、参加者に間違い探しをさせている。後日のQ&Aで、その誤りは超伝導の項目——資料の入り口——にあったこと、配布レポートPDFではすでに修正済みであることが確認された。参加者の一人は古いバージョンをダウンロードしていたため気づけなかった、というやり取りが記録されている。この「意図的に誤りを混入させて検証を促す」手法は、既存レポート『クロスチェックと反証可能性』で扱われた検証態度の実践版と位置づけられる。

📌 Claude補足:この5分類は業界の標準的なモダリティ分類と一致する

講義で提示された「超伝導/イオントラップ/フォトニック/シリコン(半導体スピン)/冷却原子(中性原子)」という5分類は、量子ハードウェア業界で用いられているモダリティ(方式)分類とおおむね一致する整合。2026年時点の主要プレイヤーを方式ごとに対応させると、超伝導はIBM・Google・Rigetti・OQC、イオントラップはQuantinuum・IonQ、中性原子はQuEra・Atom Computing・Pasqal・Infleqtion、フォトニックはPsiQuantum・Xanadu、シリコンスピンはIntel・Diraqなどが挙げられる。業界の一般的な整理では、超伝導系が量子ビット数で先行し、イオントラップ系がゲート忠実度で先行し、中性原子系が最も速いスケーリングを見せている、とされている。

なお、この5分類にはトポロジカル方式(Microsoft)が独立項目として含まれていない。後述するとおり、講義中ではトポロジーがシリコンと冷却原子に紐づけて説明されたが、Microsoftのトポロジカル量子ビットは物理的には別系統である。この点は本レポート内で食い違いとして明記する。

PART 1 / 5方式の分類

交通と自動車で読む、5つの物理的制約

マイキー氏が最初に使った比喩は、自動車と交通の最適化である。同じ「交通を最適化する」という目的に対して、5つの方式がそれぞれ違う部分だけを担当できる、という構造で説明された。

方式得意なこと(交通の例)苦手なこと制約の物理的な理由(講義の説明)
超伝導瞬間的に、どの道が速いかを計算する東京全体・街全体を把握して1時間先まで予測する速度は速いがノイズに弱く、量子状態が崩れるため維持時間が短い
イオントラップ1台のトラックが50箇所を回る際の最も無駄のないルートを完全最適化する渋滞や事故に対してリアルタイムで経路を変更する量子精度は高いが、イオンを並べる数の大規模化が難しく、大量データの高速処理ができない
光(フォトニック)何十万台の流れからどこで渋滞が発生するかを予測する(確率論)車が一斉に右折した場合など、緊急事態への瞬時の判断傾向を掴むのは強いが、瞬時の判断という緊急性に弱い
シリコン半導体として車載でき、エッジで数百万台に指示を出せるそもそも実現できていない物理的にまず無理な水準で、量子ビット数が計算に足るほどできていない。研究開発段階
冷却原子街の形や道の長さから、どこに信号機を置けばよいかを的確に設計する置いた信号機の色をいつ切り替えるかを決める配置(トポロジー)の問題には強いが、時間軸の制御は別問題になる
5方式の得意領域プロファイル(講義の説明を相対化)
単位:講義中の説明を5段階で相対化したスコア(5=強い/1=弱い)。出典:Claude作図・当日の講義内容に基づく要約であり、ベンチマーク実測値ではない
📌 Claude補足:「トポロジー=シリコンと冷却原子」という説明には整理が要る食い違い

講義中、シリコンの説明に入る箇所で「トポロジーがかかってくるのはシリコンと冷却原子のところがかなり強い。トポロジーはMicrosoftの」という発言があった。ここには二つの異なる意味の「トポロジー」が混在しているため、切り分けが必要である。

(1)Microsoftのトポロジカル量子ビット。公開情報を確認したところ、Microsoftが2025年2月に発表した「Majorana 1」は、ヒ化インジウム(半導体)とアルミニウム(超伝導体)を組み合わせたゲート定義デバイスを絶対零度近くまで冷却し、磁場でチューニングすることでトポロジカル超伝導ナノワイヤを形成し、その両端にマヨラナ・ゼロモードを生じさせるものである。つまりシリコンスピン量子ビットでも冷却原子でもなく、半導体・超伝導ハイブリッドのナノワイヤ系という独立した方式である。2026年時点では後継の「Majorana 2」がプレプリント段階にあり、超伝導体をアルミニウムから鉛に変更することで親超伝導ギャップが約300µeVから約1,300µeVへ改善したと報告されている。ただしトポロジカル相の独立した実証がなされていない点について、この分野の研究者(Henry Legg氏ら)から批判が継続しており、論争は決着していない。

(2)冷却原子とトポロジー。一方で、冷却原子(中性原子)方式と「配置の幾何学」の関係についての講義の説明自体は、方向性として妥当である。中性原子系は光ピンセットで原子の配置を自在に組み替えられるため、グラフ上の最大独立集合問題のような、頂点の配置構造そのものが問題になる計算に適している。「街の形や道の長さから信号機の置き場所を決める」という比喩は、この特性を的確に捉えている整合。したがって食い違っているのは「トポロジー=Microsoft=シリコンと冷却原子」という結線であって、冷却原子の得意分野の説明自体ではない。

📌 Claude補足:2026年8月時点の到達点——誤り訂正が研究から工学へ

講義が行われた2025年12月から2026年8月までのあいだに、この分野で最も大きく動いたのは論理量子ビット(誤り訂正済み量子ビット)の領域である。QuEraが2026年1月にNature誌で、448個の物理原子から96個の論理量子ビットを構成し、しきい値以下の誤り抑制を達成したと報告している。Microsoftとハネウェル系のQuantinuum(H2システム)は2026年3月に、論理誤り率およそ1,000分の2で12論理量子ビットを実証した。IBM・Google・IonQ・Rigettiを含む主要各社が2026年前半に論理量子ビットのマイルストーンを相次いで達成しており、業界レポートでは「2026年は量子誤り訂正が研究のデモンストレーションから工学的な現実へ移った年」と評されている。

ロードマップの側では、IBMがKookaburraシステム(接続されたプロセッサクラスタ全体で約4,158物理量子ビット)を2026年末までに有用なワークロードで量子優位を示す最初の機体と位置づけ、2029年までに約200論理量子ビットを目標としている。IonQは2027年までに800論理量子ビット、Quantinuumは2030年ごろまでに数千論理量子ビットを掲げる。PsiQuantumはブリスベンとシカゴの施設を最初の具体的成果物とし、100万量子ビット級の誤り耐性機を2027〜2028年に掲げている。講義で「シリコンは研究開発段階」とされた評価は方式別の相対順位として妥当だが、方式全体としては、講義時点よりも誤り訂正の実装が一段進んでいることは押さえておきたい。

PART 2 / パン屋への翻訳

同じ制約を、経営の言葉で言い直す

前半の共産主義・社会主義の議論でパン屋の比喩を使っていたことを受けて、マイキー氏は5方式の説明をもう一度パン屋に置き換えた。技術的な制約を、そのままオペレーション上の制約として読み替える作業である。

方式パン屋としての強みパン屋としての弱み対応する技術的制約
超伝導注文が入ったらすぐ商品が出てくる品質管理がめちゃめちゃ難しいゲート速度は速いがコヒーレンス時間が短くノイズに弱い
イオントラップ複雑なレシピを手順を間違えずに作れる。職人同士が連携でき、オーブンも連携しているので質の高いパンが作れる職人気質すぎて焼くのが遅い。1回に焼ける数を増やすのが難しく大量生産に向かない「職人同士の連携」=量子ビット間の結合。「1回に焼ける数」=量子ビット数
光(フォトニック)需要を読み、大量に作って完成品をすぐ届けられる「この生地を少し寝かせておこう」という時間差の運用ができない統計的・確率的な処理に強いが、状態を保持して逐次操作するのが不得手
シリコンすべてに対して同じ品質を出せる能力が高いそもそも実現できるかどうか分からない。品数の担保ができない半導体プロセスとの親和性は高いが、実用規模の量子ビット数に達していない
冷却原子どこにこのパンを置けば一番売れるかという設置設計が極めてやりやすいその品揃えをどのタイミングで入れ替えるべきかという次の段階の計算がしにくい配置・幾何構造の最適化に強いが、時間発展の制御は別問題

この翻訳作業のなかで、会員から光(フォトニック)についての理解確認が入っている。「需要予測はできるけれど、前提が崩れた場合に在庫が増えてしまうという感じですか」という質問である。マイキー氏の回答は、需要予測もそうだが同時にできるのは「これくらいの需要があるだろうと大量に作って、完成したものをすぐ届けること」であり、できなくなるのは「生地を寝かせておこう」という時間差の運用である、というものだった。つまり弱点は在庫過剰ではなく、時間軸を持った操作の不得手である。

マイキー氏はこの一連の説明を終えたあと、「なかなか自分でこういうものを何に例えたらいいかを引き出すのは難しいかもしれない」と述べている。これは謙遜ではなく、この日の全体テーマである「抽象を自分の事業の言葉へ翻訳する能力」の話に接続している。技術の制約を比喩に落とせるかどうかは、その技術の制約を本当に理解しているかどうかの試験になる。

講師の質問法:「できる/できない」を対にして問う

マイキー氏が量子コンピュータを語る人に対して常に投げているという質問は、次の形式をとる。「これができるということは、これはできないですよね。それはどうやって埋めるんですか」「これができないけど、これができますよね。これはどうやってやるんですか」。方式の物理的制約を理解していれば、この問いには必ず答えがある——別方式とのハイブリッド、古典計算との分担、あるいは「埋められないので用途を限定する」という答えである。しかし方式を意識せずに語っている人は、この形式の問いに対して何も返せなくなる。これは量子に限らず、あらゆる技術トピックに転用できる検証の型である。

PART 3 / ゲート方式とアニーリング

「よく聞く2分類」と5方式はどういう関係にあるのか

会員から、この5分類は初耳であり、よく言われるのは量子ゲート方式と量子アニーリング方式の2つではないか、という質問が出た。これは実務者からの極めて自然な疑問である。

マイキー氏の回答は、ゲート方式にもアニーリング方式にも、それぞれ運用方法(=物理実装)ごとのメリット・デメリットがあり、今説明した5つはアニーリングとゲート方式の両方にまたがる話である、というものだった。つまり「ゲート/アニーリング」と「超伝導/イオントラップ/光/シリコン/冷却原子」は、切り分けている次元が違う。前者は計算モデルの分類であり、後者は物理的な実装方式の分類である。質問者はこの整理で納得している。

📌 Claude補足:二つの分類軸の関係を整理する

この整理は正確である整合。補足すると、二つの軸の関係はおおむね次のようになる。計算モデルの軸には、汎用的な量子ゲート方式(回路モデル)、特定の最適化問題に特化した量子アニーリング方式、そして測定に基づく計算モデル(MBQC)などがある。物理実装の軸には、講義で示された5方式に加えてトポロジカル方式が入る。両者は直交する軸であり、たとえば超伝導という実装のうえにゲート方式(IBM・Google)もアニーリング方式(D-Wave)も乗りうる。フォトニック方式は測定ベースの計算モデルと相性がよく、中性原子はアナログ量子シミュレーションとゲート方式の両方で使われる。会員の質問は「分類の次元が違うものを並べて混乱していた」という典型例であり、マイキー氏の回答はその混乱を正しく解消している。

PART 4 / 3次元推論という接続点

なぜAIの側から量子が要請されるのか

ここで会員から、以前の講義で扱われた「2次元から3次元へ」という説明との接続について質問が出た。この質疑応答が、この回の量子パートで最も実務的な価値を持つ部分である。

マイキー氏の説明はこうである。基本的に今のAIがアウトプットしているものは、ほとんど2次元的なデータである。これを3次元的に持っていこうとしたとき、空間推論が必要になる。ところがこの空間推論は、いまだにテスト段階のものが多い。空間推論の能力が高まって立体的な構造ができあがれば、実際にある程度の形になる。空間を認識することでデータの密度が濃くなる。人間は3次元の世界に生きているのだから、3次元のデータ処理をどれだけ高速に行うか、生成するかが極めて重要になる。

では量子コンピュータとの接続はどこか。指数関数的に計算量が増えるものは、今の既存のコンピュータの0と1では効率が悪い。すべてを計算しなければならないからである。そこに推論を加えることで、3次元的なデータを一瞬で計算できるようになる。2次元的なデータは今のコンピュータが得意だが、3次元的な計算式は苦手である。それを量子コンピューティングで大幅に高速化する。だから3次元データが重要になる、というのが講師の見立てである。

そして3次元データはバグが多く、状況によって出力が変わってくる。だからそれを踏まえたうえで推論型のAIが重要になる。ただし現状の推論型AIは、あくまで2次元的な推論をやっているのであって、3次元的な推論データを扱えていない。

講師が挙げた具体例:交差点の危険予測

「いつどこで車が横から出てくるか分からない。道は想像できるが、車がいつ出てくるかは分からない。100メートル先の交差点が危険か安全かというのは、3次元的な計算を分かったうえでないとできない」——この例は、2次元の平面地図情報(道路の形状)と3次元の動的空間認識(遮蔽物の向こう側にある物体の存在確率)の違いを端的に示している。前者は既存の計算資源で足りるが、後者は組み合わせ爆発を起こす。自動運転が最後まで解けない問題としてしばしば挙げられる領域と一致する。

📌 Claude補足:この接続の位置づけ要確認

「3次元的な空間推論のために量子コンピューティングが必要になる」という因果関係は、講師の見立てであり、現時点で確立された技術的コンセンサスではない。量子機械学習(QML)の研究分野は存在するが、2026年時点で古典計算に対する明確な優位性が実証された実用的機械学習タスクは限られており、特に「空間推論」という応用領域で量子優位が示された事例をWebSearchで確認することはできなかった。一方で、講義が指摘する問題そのもの——空間推論が現行LLMの明確な弱点であることは、業界で広く共有された認識である。したがってこの部分は「課題設定は妥当だが、量子がその解になるという結線は講師の予測である」と読むのが正確である。

AGIについての立場

この流れで、AGI(汎用人工知能)についての質問が続いた。マイキー氏の立場は明確に否定的である。「僕はAGIはできないと思っている人」であり、その理由は2次元/3次元の議論とは別のところにある。基本的に脳が解明できていない以上、どうやって人間の知を超えたと言えるのか——これが最初の問いだ、というのが根拠である。ただ言っているだけではないか、という批判である。

さらに具体的な批判として、判定手続きの問題が挙げられた。ではこのAGIを、どうやってAGIだと判断するのか。AGIに最も近い会社の一つであるOpenAIが、その判定を第三者機関に任せてAGIと認定させるという話になっている。しかしそれが分からない。第三者機関は脳のことを全部分かっているのか。分かっていないのなら、そこが一番の争点になる——これが講師の論法である。

会員からは「MicrosoftはOpenAIが言ったことをそのまま認めたのか」という質問が続いた。マイキー氏の回答は、Microsoftは反対している、というものだった。理由は契約構造にある。Microsoft自体はAGIができるまでは報酬を受けているが、AGIができたと認定されるとMicrosoftは報酬を得られなくなる。だからMicrosoftは「第三者機関に任せるな」と文句を言っている、という説明である。

PART 5 / AGI条項のその後

2026年8月時点で、この論点はどうなったか

📌 Claude補足:AGI条項は独立専門家パネルへ移り、その後さらに撤廃された

この講義(2025年12月8日)で議論されたAGI条項について、公開情報を確認した結果、講義時点の理解と実際の経緯には重要なずれがある。

(1)講義時点の状況。元のAGI条項は、OpenAIの取締役会がAGI到達を宣言した時点でMicrosoftのIP権利に変更が生じるという構造で、閾値は定義されておらず、一方当事者が単独で宣言できるものだった。2025年10月の「next chapter」修正合意により、AGI宣言の権限がOpenAI取締役会から両社が共同で設置する独立専門家パネルへ移され、同時にMicrosoftのIP権利がセーフガード付きでAGI後のモデルにも及ぶよう拡張された。MicrosoftのIP権利は、専門家パネルがAGIを検証するか、2030年に達するかのいずれか早いほうまで存続する、とされた。

(2)発言との食い違い。講義では「Microsoftは第三者機関に任せることに反対して文句を言っている」と説明されたが、独立専門家パネルによる検証というスキーム自体は、2025年10月にMicrosoftが合意した修正契約に盛り込まれたものである。またMicrosoftは同時期にOpenAIの持分約27%を取得しており、OpenAIは公益法人(PBC)へ移行している。「AGIができるとMicrosoftは報酬を得られなくなるから反対している」という利害構造の指摘そのものは、元条項の性質を正しく捉えているが、2025年12月の時点ですでに合意により枠組みが変更されていた点は補正が必要である。

(3)2026年時点の続報。その後さらに新しい取引により、AGIというトリガーは完全に撤廃された。レベニューシェアは、OpenAIが2030年より前にAGIを宣言するかどうかにかかわらず、2030年で終了する。つまり講義で焦点となっていた「AGI認定の主体は誰か」という論点は、契約上は消滅している。講師が指摘した「AGIの判定基準を誰も持っていない」という批判は、結果的に契約当事者たち自身が同じ結論に達し、判定に依存しない設計へ切り替えたという形で裏づけられたと読むこともできる。

この日の量子パートは、最後に「またもっと分かりやすい事例で説明します」「誰かのビジネスモデルを持ってきてもらって、この方式ならこれは計算できるがこれはできない、という形でやってもいい」という提案で締められた。方式ごとの制約を、参加者自身の事業の計算課題に当てはめて検証するという宿題形式である。

なお講義の最終盤で、マイキー氏は「量子コンピューティングの話をしたとき、まったく誰もついてこられなかったのではないか」と振り返りつつ、「募集はすごく多かったし、自分の視聴者は分からないことを知りたいという人が多いのでいいかなと思った」と述べている。前田氏からは「まず一番不安なのは、どこまで浸透するか」という懸念が示された。この講義の翌週以降、宇宙論・物理学系のテーマ(ホログラフィック宇宙論、マルチバース、超弦理論)を扱う可能性にも言及があり、マイキー氏は高校生のときに書いた超弦理論の論文が米国で評価された経緯を明かしている。南部陽一郎の仕事に絡めて扱える、という補足があった。

Q&A

このテーマに関する質疑応答(全件)

フォトニックの場合はパン屋で例えるとどうなるのか。需要予測はできるが前提が崩れると在庫が増えてしまう、という感じか
需要予測もそうだが、同時にできるのは「これくらいの需要があるだろう」と大量に作って完成品をすぐパン屋に届けること。できなくなるのは「この生地を少し寝かせておこう」という時間差の運用である。つまり弱点は在庫過剰ではなく、時間軸を持った操作の不得手にある。
量子コンピュータのこの5分類をまったく知らなかった。よく言われるのは量子ゲート方式と量子アニーリング方式ではないか(量子ビット数をどうやって増やすかという話で)
ゲート方式にもアニーリング方式にも、それぞれ運用方法ごとのメリット・デメリットがある。今説明した5つは、アニーリングとゲート方式の両方にまたがる話である。つまり分類している次元が違う。質問者は「分かりました」と応答している。
2次元から3次元に入るという説明があったが、その間がどういう状況になっているのか理解できていない。AGI(汎用型)もチャートに出ていた
今のAIがアウトプットしているものはほとんど2次元的データ。3次元にするには空間推論が必要だが、いまだにテスト段階のものが多い。空間推論が高まれば立体的な構造ができ、データの密度が濃くなる。人間は3次元世界に生きている以上、3次元データ処理を高速に行うことが重要である。
量子コンピュータと3次元というつながりがまだ分からない
指数関数的に計算量が増えるものは、既存のコンピュータの0と1では効率が悪い。すべてを計算しなければならないから。そこに推論を加えることで、3次元的なデータを一瞬で計算できるようになる。2次元的データは今のコンピュータが得意だが、3次元的な計算式は苦手。それを量子コンピューティングで高速化する。3次元データはバグが多く状況によって出力が変わるので、それを踏まえた推論型AIが重要になるが、現状の推論型AIは2次元的な推論しかやっていない。具体例として「100メートル先の交差点が危険か安全か」の判定が挙げられた。
AGIというのはどういう絡みで考えたらいいのか。汎用型とおっしゃっているのは
自分はAGIはできないと思っている。理由は2次元だけの話ではなく3次元も入れてのこと。基本的に脳が解明できていない以上、どうやって人間の知を超えたと言えるのか。ただ言っているだけではないか。ではAGIをどうやってAGIだと判断するのか。AGIに最も近い会社の一つであるOpenAIが第三者機関に任せてAGIと認定させるというが、その第三者機関は脳のことを全部分かっているのか。分かっていないなら、そこが一番の争点になる。
MicrosoftはOpenAIが言ったことをそのまま認めたのか
Microsoftは反対している。契約上、MicrosoftはAGIができるまでは報酬を受けているが、AGIができたと認定されると報酬を得られなくなる。それが独占禁止に関わってくるという事情もあり、だからMicrosoftは第三者機関に任せるなと文句を言っている。(※この点は本レポートPART 5で、その後の契約変更を含めて事実関係を補正している)
先ほどの間違い探しはどこだったのか。まったく気がつかなかった
超伝導のところ。資料の入り口の部分に意図的に嘘を入れて説明した。配布したレポートPDFではすべて修正済みなので、そちらを見れば正しい内容が確認できる。質問者は古いバージョンをダウンロードしていたため気づけなかったとのこと。修正版はDiscordおよび配布ファイル、ならびに講師のチャンネル側にも置かれている。
(講義終盤)宇宙論をやるとしたらどのあたりか。ホログラフィック宇宙論あたりか
マルチバース宇宙論などもあるが、自分の元々の専門分野である超弦理論をいきなりやる。高校生のときに超弦理論でしっかり論文を書き、米国で高く評価された経緯がある。南部陽一郎の仕事にも絡められる。前田氏からは「機会があったらぜひ伺いたい」との応答があった。
宿題・アクションアイテム

次回までに手を動かすこと

  1. 自社のビジネスモデルを持ち込んで、方式ごとの可否を判定する。講師から提案された宿題。自分の事業のどの計算課題が「超伝導なら解けるがイオントラップでは遅い」のか、「冷却原子で配置は解けるがタイミングは解けない」のかを、実際の業務課題に当てはめて仕分ける。
  2. 「これができるならこれはできない。どう埋めるのか」という質問形式を身につける。量子に限らず、技術トピックを語る相手に対してこの形式で問いを立てる練習をする。トレードオフを対にして提示できない説明は、制約を理解していない証拠である。
  3. 配布資料の最新版を確認し、混入された誤りの箇所を自分で特定する。誤りは超伝導の項にあり、修正版PDFではすでに直っている。旧バージョンをダウンロードしている場合は差し替えること。
  4. 「2次元データ/3次元データ」で自社の扱う情報を仕分ける。今のAIで処理できている部分(2次元)と、空間認識が必要で止まっている部分(3次元)を分けて書き出す。後者が自社にとってどれだけのボトルネックになっているかを見積もる。
  5. AGIについて「何をもってAGIとするか」の自分なりの判定基準を書いてみる。基準を書けないなら、AGIができた/できないという議論に参加する意味がない、というのが講師の立場である。
用語集

このレポートに登場した用語

超伝導方式
超伝導回路で量子ビットを構成する方式。ゲート速度が速く量子ビット数のスケールで先行するが、ノイズに弱くコヒーレンス時間が短い。IBM・Google・Rigetti・OQCなど。
イオントラップ方式
電磁場で捕捉したイオンを量子ビットとする方式。ゲート忠実度が高く量子ビット間の結合に優れるが、動作が遅く大規模化が難しい。Quantinuum・IonQなど。
フォトニック(光)方式
光子を量子ビットとする方式。室温動作が可能でネットワーク接続に向くが、光子の損失や状態保持に課題がある。PsiQuantum・Xanaduなど。
シリコンスピン方式
シリコン中の電子スピンを量子ビットとする方式。既存の半導体製造プロセスとの親和性が高いが、実用規模の量子ビット数に達していない。Intel・Diraqなど。
冷却原子(中性原子)方式
レーザーで冷却した中性原子を光ピンセットで配列する方式。原子の配置を自在に組み替えられるため、幾何構造そのものが問題になる最適化に強い。QuEra・Pasqal・Atom Computingなど。
トポロジカル方式
Microsoftが追求する方式。半導体・超伝導ハイブリッドのナノワイヤにマヨラナ・ゼロモードを生じさせ、位相的に保護された量子ビットを作る。原理的にノイズ耐性が高いとされるが、トポロジカル相の独立実証をめぐる論争が継続中。
量子ゲート方式/量子アニーリング方式
計算モデルの分類。前者は汎用的な回路モデル、後者は最適化問題に特化した方式。物理実装(超伝導・イオントラップ等)とは直交する軸であり、混同されやすい。
量子ビット間の結合
複数の量子ビットを相互作用させる能力。パン屋の比喩では「職人同士が連携できる」状態にあたる。イオントラップ方式が特に得意とする。
コヒーレンス時間
量子状態が壊れずに維持される時間。これが短いと長い計算ができない。超伝導方式の主要な制約であり、「街全体を1時間先まで予測できない」理由として説明された。
論理量子ビット
複数の物理量子ビットを誤り訂正符号で束ねて構成する、誤りに強い量子ビット。2026年に各社が相次いでマイルストーンを達成し、誤り訂正が工学段階へ移行したとされる。
空間推論
3次元空間における物体の位置関係や遮蔽、動的な変化を推論する能力。現行のAIの明確な弱点とされる領域で、講師はここに量子コンピューティングの用途を見ている。
AGI(汎用人工知能)
人間と同等以上の汎用的な知的能力を持つとされるAI。講師は、脳が解明されていない以上その判定基準が存在しないという理由で懐疑的な立場をとる。Microsoft・OpenAI間の契約でも判定主体が長く争点になっていた。