STUDY REPORT / 2025年9月度 勉強会

護送船団方式と株主総会30分――なぜ日本の会社は「外から言われない構造」を作り込んだのか

戦後復興を成立させた4つの条件が、そのまま今日の統治不全の設計図になっている。大蔵省による全面管理、メインバンク、持ち合い株、そして30分で終わる株主総会。機関設計の比率、創業家の院政、地方銀行の含み益まで、一本の因果でつながる構造をたどる。

EXECUTIVE SUMMARY

エグゼクティブサマリー

4条件財閥解体・人口ボーナス・メインバンクシステム・護送船団方式。日本のバブルを作った戦後の前提条件
30分かつての日本の株主総会の所要時間。海外では3〜5時間かかるのが当たり前だと指摘された
3%日本における指名委員会等設置会社の比率(発言値)。米国はほぼ100%が指名委員会を設置していると対比された
1%未満トヨタ自動車における豊田章男氏個人の株式保有比率。それでも会社の決定事項を左右しているという指摘
1兆1000億円京都銀行の有価証券含み益(発言値)。時価総額を上回る規模でありながら処分が進まないと指摘された
売上 vs 営業利益銀行が貸出の目安としたのは売上だった。日本が売上至上主義に、海外が営業利益重視に分岐した根本原因

このセッションで提示された中心命題は明快だった。日本企業のガバナンス不全は、経営者個人の資質の問題ではなく、戦後に意図的に設計された制度の副作用である、というものだ。しかもその制度は、当時の目的に照らせば見事に機能していた。問題は、目的が変わったあとも制度を作り替えなかったことにある。

出発点は戦後直後の日本が抱えていた三つの課題である。資金不足、ハイパーインフレ、そして金融機関の破綻懸念。これを一元的に解決するため、大蔵省が強い行政権を握り、金利・業務範囲・店舗配置に至るまで細かく管理した。弱い企業も業界全体で保護しながら育成するこの方式が護送船団方式であり、名前のとおり、強い軍艦が弱い船を守りながら船団を進める海上輸送の戦術に由来する。結果として銀行破綻はゼロに抑えられ、輸出産業と中小企業に低コスト資金が大量供給された。

だがこの仕組みには三つの副作用が組み込まれていた。失敗しても救済されるためモラルハザードが起き、経営の規律が緩む。貸出を続けるため巨額の不良債権が生まれる。そして政府が企業を管理する構造そのものが天下りを生む。ここに人口ボーナスが乗り、高度成長からバブルへと突き進んだ。講師の総括は辛辣だった。国が持ってくれていた、管理してくれていただけなのに、自分たちがルールであると勘違いした独自経済を作ってしまった、と。

この独自経済の象徴が、30分で終わる株主総会である。会社にお金がなければ融資してもらうしかない。だからメインバンクが実質的な大株主になり、加えて企業同士が株式を持ち合った。この構造下では外国人投資家は入りづらく、結果として海外のアクティビストを自然に避ける状態が完成する。株主総会は株式会社の最高意思決定機関であり、株主が代理人である経営者の責任を問う場でもあるのに、開催前にすべてが決まっているため拍手で30分で終わる。それが日本の高度成長期の会社のメインの流れだった。

さらに構造的な帰結として、銀行の主収益が利息である以上、貸出判断の目安は売上になった。だから日本は売上至上主義になり、海外は営業利益重視になった。松下幸之助の水道哲学――安く大量に作って売りまくる――が生まれた背景も、この融資基準にある。講師はここに、日本の利益率が上がらない構造的な理由を見ている。

セッションを貫く1本の線

日本の会社は「外から文句を言われない構造」を、意図的に、しかも当時としては合理的な理由で作り上げた。持ち合い株、メインバンク、監査役会設置会社、30分の株主総会。そのすべてが外圧を遮断する装置として機能した。だからこそ処方箋も一つしかない。外圧しかない――アクティビスト、外国人株主、外国人経営者。日本の会社は外圧には異常に弱く、外から言われた途端に急に動き出す。この一点を突くしかない、というのがセッションの結論だった。

PART 0

開始前の雑談 ―― 現場で起きている「変わらなさ」の実物

この日の勉強会は、講義が始まる前の20分あまりが、そのまま本論の実例集になっていた。話題は中川氏が最近会ったという、まもなく役員になりそうな女性の話から始まる。子どもがまだ小さく、周囲のサポートがないと厳しい。せっかくのチャンスだからキャリアを掴みに行ったらどうかと勧めているが、人生でそう何度もない機会であるにもかかわらず、心が揺れているという。会社側も女性役員を求めており、一昨年からMBAコースにも行かせてもらっている。それでも受けるべきか否かで迷っている。

中川氏の見立ては二つあった。一つは、周囲にもっと助けを求めていない――夫にも、たまたま近くにいる親にも。もう一つが本質的で、社内の問題である。本部の経営側であるためラボ勤務の現場から見れば「本部の人間ばかり優遇されているじゃないか」という空気があり、オンサイト勤務が週3日で厳しいので週2日にしてほしいと言うと、それだけで批判を受ける。頑張れとは言うものの、現実は厳しい。リーダーシップもあり資質としては十分な人であっても、この構造の前では動けなくなる。

話はそのまま開示の問題へと移った。サプライチェーンのCO2やCOP関連の要求はプライム上場企業には山ほど来る。ところがデータが出てこない。なぜトップが言わないのか、トップに言わせればいいと言っても動かない。だったら上場をやめろとまで突き放して言っている、と。ESGについても担当者がいて意見はあるのだが、意見を出してもコミットできない。しかも言った瞬間に社内改革の責任を一人で背負うことになる。「言ったやつがやれ」という構図である。

変革の負荷が個人に集中する構造

中川氏はここで本質を突いている。改革を言い出した人が責任を負うこと自体はよい。問題は、それをサポートする組織を会社が作っていないこと、そしてそれが賞与や評価基準にまったく直結していないことである。責任だけが重くなり、周囲はサポートせず、冷ややかな目で見る。しかも「自分たちは今までこうやってきたんだからいいじゃないか」と、従来のやり方を守りたい人のほうが多い。データを一元管理できる形にしようという提案ひとつが、そこで止まる。

この文脈で象徴的な例として出たのが、銀行の勘定系システムだった。50年前のシステムをまだ使っているという話に対し、壊せないのだという答えが返る。怖いというのもある。中川氏自身、かつて勘定系を停止させた銀行にいたことがあり、そのときの頭取は自分のせいではないにもかかわらず責任を取って辞めた、と振り返っている。もはや使われていない言語の習得を若手にさせて引き継いでいくしかなく、それしかできない人間を作り続けることになる。

ただし中川氏の指摘は、コストの問題ではないという点にある。勘定系は社会インフラであるため何かあれば批判は避けられない。そして実際、相当な金額をかけている。多数のコンサルも入っている。それでも元々のストラクチャーはそのままで、その上にアプリを積み上げていく形になっているため、結局は入れ替えざるをえない。根が深い、というのが結論だった。

会話は経営者の動機の話へと進む。なぜトラックレコードを作りたがらないのか。平穏無事に3年後に社長の席に座り、その後は会長・顧問となって秘書と黒塗りの車がつく、それでいいのか。魅力的な人が非常に少なく、サラリーマンがそのまま上に行っただけの人が多い。サラリーマン社長は特別顧問と黒い車が欲しく、オーナーは勲章が欲しい。だから傷をつけたくない。それが分かっていて、やたらと国連関連のことをやってみたり、突然財団のようなものを始めたりする。中川氏は「勲章が出る時期には必ず全部チェックする、もらっている人の名前を全部チェックする」と述べ、そこで祝意を伝えないと後で大変なことになる、お祝い会だけで何度も何度も、会社の金でパーティーが開かれる、と苦笑した。そして70代がいまだに大きな幅を利かせている――というところで、話は処方箋へ移る。

解決策は投資家からの手紙である、というのが中川氏の見立てだった。それは聞くから、と。しかも手紙が来ただけで相当そわそわし、自分だけでは隠しておけずに社内で共有され、騒ぎが大きくなる。訓練を何度もしてくださいと言っているのに全然しないので、急なことが起きたら横からの衝撃に極めて弱い。だからファンドを作るしかない、アクティビストファンドを3倍5倍に増やすしかない、という結論になった。まともなことを言っているアクティビストの主張には耳を持たなければいけないし、揺さぶりが必要だ、と。

ここでバークシャー・ハサウェイが三井物産の株式を10%以上保有したという話題が出るが、意図は分からない、儲かるということなのかもしれない、報道向けの書簡を送るわけでもないだろう、と流された。とにかく株主からの揺さぶりしかない、そしてそれには極めて敏感になっている、ここ2、3年で――というのが中川氏の実感である。

📌 Claude補足:バークシャー・ハサウェイの日本商社株保有

バークシャー・ハサウェイは2020年8月に日本の5大商社(伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事)の株式を各約5%取得したことを公表し、その後段階的に持分を引き上げてきた。2025年3月には各社の持分を7.4〜9.8%に引き上げたことを開示している。ウォーレン・バフェット氏は株主への手紙のなかで、これらの投資を長期保有の前提で行っており、各社経営陣との合意により保有比率には一定の上限が設けられていた旨を説明している。要確認(三井物産に限って10%を超えたとする具体的な開示時点については、本レポート作成時点で確認しきれなかった)

重要なのは、バークシャーはアクティビストではなく、経営に対して要求を突きつけない典型的な長期保有型投資家だという点である。セッション中で「意図が分からない」という反応が出たのはこのためで、大量保有それ自体が経営への圧力になるかどうかは、保有主体の性格によって全く異なる。中川氏が求めている「揺さぶり」は、保有比率ではなくエンゲージメントの強度の問題である。

PART 1

日本のバブルを作った4つの条件

マイキー氏の講義は、「日本の常識は世界の非常識」という使い古された言い回しを、なぜそうなったのかという因果の側から解こうとするものだった。そして必要な認識として一つの前提を置く。グローバル化した社会において、日本経済は海外の資金・技術・資源に強く依存している。だから日本の常識だけを貫くのは合理的ではない。もちろん世界の常識がすべて正しいわけではなく、日本の常識のほうが優れているものもある。重要なのは、ビジネスでも投資でも、どこを合理的に取るかである、と。

そのうえで、戦後の日本が経済復興を遂げバブルまで到達した背景として、4つの大きな条件が提示された。第一に財閥解体。これにより様々な領域にチャンスが生まれ、いわばスタートアップが立ち上がった。第二に人口ボーナス。人口が増えれば需要が増え、会社が成長しやすい環境になる。第三にメインバンクシステム。第四が護送船団方式である。

護送船団方式については、その語源から説明された。海上輸送において、大きな軍艦が弱い船を守りながら進むという戦術である。同じように日本の金融・産業政策では、1950年代から、弱い企業を含めて業界全体・市場全体を政府が保護しながら管理し育成していく仕組みが取られた。これが復興期の日本の仕組みだった。

条件内容成長への寄与その後に残った副作用
財閥解体戦前の財閥支配が解体され、市場に参入余地が生まれた新規事業の輩出。実質的なスタートアップ環境後に株式持ち合いという別形態の企業結合が復活する
人口ボーナス戦後のベビーブームで生産年齢人口が増加需要が自動的に拡大し、企業が成長しやすいボーナスの消滅後も同じ成長前提の経営を続けた
メインバンクシステム特定の銀行が主要取引先かつ主要株主となる安定的な資金供給。長期の設備投資が可能に銀行は口を出さない大株主となり、統治が空洞化
護送船団方式大蔵省が業界全体を保護・管理しながら育成銀行破綻ゼロ。低コスト資金の大量供給モラルハザード、巨額の不良債権、天下り

📌 Claude補足:護送船団方式という呼称と、その終焉

護送船団方式(convoy system)は、戦後の日本の金融行政を指す通称で、経営体力が最も弱い金融機関でも存続できる水準に規制・金利・業務範囲を設定することで、業界全体の破綻を防いだ行政手法を指す。金利規制、店舗行政、業務分野規制、新規参入規制が主な手段だった。

この方式は1990年代の金融危機で事実上崩壊する。1995年の兵庫銀行破綻を皮切りに、1997年には北海道拓殖銀行と山一證券が破綻し、「銀行は潰れない」という前提が失われた。1996年に橋本内閣が打ち出した金融システム改革(日本版金融ビッグバン)は「フリー・フェア・グローバル」を掲げ、1998年の金融監督庁(現・金融庁)設置により、大蔵省から金融行政が分離された。つまりマイキー氏が説明した仕組みは、制度としては30年近く前に解体されている。それでもなお行動様式として残っているという指摘が、このセッションの主張の核である。

PART 2

大蔵省がAからZまで管理した ―― 復興期の3目標

なぜそこまで管理する必要があったのか。マイキー氏は復興期の3つの目標として整理している。第一に、日本にとって最大の問題であった資金不足をどう解消するか。第二に、ハイパーインフレをどう抑えるか。第三に、金融機関をどうやって破綻させないか。この3つが復興の第一目標だった。

これを圧倒的にコントロールするためのポジションに立ったのが大蔵省である。大蔵省が強い行政権を持ち、金利、業務範囲、店舗の配置――どこに店舗を出すかというレベルまで――を徹底的に細かく管理していった。そこに人口ボーナスが加わり、1960年から80年代にかけての高度成長期が形成される。

高度成長期の政策目標は、輸出産業の育成と、産業資金の安定供給の両立だった。同時に、弱い銀行をどう守るかという課題もあった。世界に向けてアピールするタイミングであり、国内を盛り上げるには体力のない銀行も守る必要がある。ここでマイキー氏が参加者に投げた問いが要点を突いていた。弱い銀行でも破綻しなかった場合、預金者の信用度は上がるか下がるか。答えは上がる。この預金者の信用を維持するために、横並びですべてを保護するという方針を大蔵省が取った。

具体的な手段としては、上限金利の徹底管理、普通預金金利の管理、そして財閥解体と同じ発想での業務分離があった。長期信用銀行、信託銀行、地方銀行といった具合に業態を分けていく。加えて新規参入や支店開設には大蔵省の厳格な許可が必要だった。復興の途中で破綻が起きれば最悪の足踏みになるため、何があっても守り続けるという方針である。

生まれたメリット

第一に預金者保護。長期にわたり銀行破綻ゼロを達成した。第二に企業金融の安定。輸出産業と中小企業に低コスト資金を大量供給した。第三にマクロ経済の管理。金利と貸出量を政策目標に合わせてコントロールし、満遍なく配分できた。ここに人口ボーナスが乗り、産業が拡大した。

生まれたデメリット

第一にモラルハザード。失敗しても救済されるため経営の規律が緩む。第二に巨額の不良債権。貸し続けた結果として積み上がり、それでも救済され続けた。第三に天下り。政府が企業を管理する構造そのものが、官から民への人の流れを制度化した。

もっとも重い指摘

「これは何かというと、国が持ってくれていたということです。管理してくれていたということです。なんですけど、自分たちがルールであると勘違いした独自経済を作ってきました」――マイキー氏はこう総括した。日本特有の資本経済が出来上がったが、それはあくまで国内経済の話であった。1945年以降、世界中が復興と国内経済の強化に向かっていたが、その後グローバル経済へと切り替わる。切り替わった時点で経営の考え方を見直す必要があったのに、日本は見直さなかった。見直したのは欧米だった。

PART 3

なぜ株主総会は30分で終わったのか

ここからが本セッションでもっとも構造的な部分である。マイキー氏はまず、米国の株主総会は3〜4時間かかるのが当たり前だと置いたうえで、日本ではかつて約30分で終わっていたと述べ、その理由を分解していく。

まず会社に資金がなければ融資してもらうしかない。では誰が資金を出していたか。銀行である。日本の会社のメイン株主は銀行だった。加えて企業同士が持ち合い株を行っていた。自分たちの仲間内でお互いに株を持ち合う。銀行がメインで保有し、知り合いの会社が相互に株を持っている状態になれば、外国人投資家は入りづらくなる。つまり、自然発生的に海外のアクティビストを避けている状態が完成する。

ここでマイキー氏は株式会社の定義に立ち返った。株主が出資し、株主がオーナーである。そこに選任された経営者が、株主の代理人として会社を経営することを株式会社という。したがって株主総会は株式会社の最高意思決定機関であり、同時に、代理人である取締役や経営者に責任を問う場でもある。この会社は自分たちの所有物であり、経営者に責任があるかどうかをチェックする場所である。それを30分で終わらせてしまった。日本の仕組みとしては、その責任追及を受けないようにしてしまった、ということになる。

加えてマイキー氏は、保有している株主自身に監視能力がなければどうなるのかという問いも投げている。株主が監視できず、その眼力もない。だからこそ「お金の色」の付いた投資家が必要になる、というのが持論である。外国人資本を嫌がって持ち合い株とメインバンクシステムを維持した結果、日本人同士のなれ合いが進行した。

そして株主総会が30分で終わる直接の理由が示される。株主総会を開く前にすでに決まっているからである。身内である銀行は口を出さない。持ち合い株を保有しているのは味方であり仲間である。だから「やってしまっていい」ということになり、拍手で採決してくださいという形になれば、議案は完全に通る。勝手な経営をしてきた、というのが日本の高度成長期の会社のメインの流れだった、と。

売上至上主義がここから生まれた

メインバンクの主収益は何か――利息である。だから当時の日本では株主への配当が少なかった。銀行は利息で儲けたいからだ。では銀行が貸し出しを判断する目安は何か。売上である。結果として日本は売上至上主義になり、海外は営業利益重視になった。今でこそROICなどの指標が使われるが、海外では営業利益を極めて重視する。日本の場合は売上だった。だからこそ「安く大量に作って売りまくれ」という水道哲学が生まれた――マイキー氏はここに、日本の利益率が上がらない構造的な起点を見ている。

📌 Claude補足:株主総会の集中日と所要時間

日本の株主総会が短時間で終わってきた背景には、いわゆる「総会屋」対策として開催日を特定日に集中させる慣行があった。1980年代から90年代にかけては、3月決算企業の株主総会の9割以上が同一日に集中する年もあり、株主が複数社の総会に出席することが物理的に不可能な状態が作られていた。この集中率は近年大きく低下しているが、依然として6月下旬の特定日への集中は残っている。

また、株式持ち合いについては、2015年のコーポレートガバナンス・コード導入以降、政策保有株式の縮減が明確な方針として示され、保有の合理性を毎年取締役会で検証し開示することが求められるようになった。2023年以降は東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営」の要請もあり、政策保有株式の売却は加速している。中川氏がセッション後半で述べた「やっと持ち合い解消が進み出した」という実感は、この流れに対応している。

PART 4

機関設計 ―― 監査役会設置会社97%という現実

マイキー氏は続けて、日本の会社法上の3つの機関設計を取り上げた。指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社、監査役会設置会社である。上場するにはいずれかを選ばなければならない。

ざっくり言えば、指名委員会等設置会社がもっとも監視が厳しい。米国の場合はほぼ100%がこの形であるのに対し、日本は3%にすぎない。残る97%は監査等委員会設置会社と監査役会設置会社が占めている。この2つでは株主の言うことを聞く圧力がそこまで厳しくない。それが今なお97%を占めている。なぜかといえば、外部から言われたくないからだ――というのがマイキー氏の説明である。

そのうえで「株主総会もダメ、取締役会もダメ、外から口を出せない。そんな会社の株を買いたいですか」と問う。取締役会がお飾りだと言われる理由についても、海外では執行役の役割分担がはっきり分断されているのに対し、日本ではそこがぐちゃぐちゃで曖昧になっていたため、取締役会自体も曖昧なものになった、と指摘した。リテラシーの水準が圧倒的に低い、と。

東証上場会社の機関設計と、任意の指名委員会の設置率

出典:日本取締役協会「指名委員会等設置会社リスト」(2024年11月時点、東証上場3,826社中95社=約2.5%)/東京証券取引所「コーポレート・ガバナンス白書」(プライム市場における任意の指名委員会設置率79.7%、2022年7月時点)。Claude作図

📌 Claude補足:3%という数字の正確な意味と、日米比較の落とし穴

まず数字の裏取りから。日本取締役協会の調査によれば、2024年11月時点で東証上場の指名委員会等設置会社は95社で、TOKYO PRO Marketと外国会社を除く上場3,826社に対して約2.5%である。プライム市場に限れば81社で約4.9%となる。マイキー氏が「3%」と述べ、別の場面で「4%」とも述べているのは、この2つの母集団の違いに正確に対応しており、発言値は公開データと整合している。

ただし日米比較には重要な注意点がある。米国の「ほぼ100%」は、日本の指名委員会等設置会社という会社法上の機関設計とは別物である。NYSEの上場会社マニュアル303A条は、上場企業に対し独立取締役のみで構成される指名・コーポレートガバナンス委員会の設置を義務づけており、規則で強制されているために事実上すべての上場企業が持っている。つまり日本の「3%」は会社法上の機関設計を選択した会社の比率であり、米国の「100%」は上場規則による委員会設置義務の履行率であって、同じ土俵の数字ではない。

より近い比較対象は「任意の指名委員会」である。東京証券取引所のコーポレート・ガバナンス白書によれば、プライム市場上場会社では任意の指名委員会の設置率が79.7%、任意の報酬委員会が81.6%に達している(2022年7月時点)。つまり「委員会を置いているか」で比べれば日本のプライム市場も8割に届いており、3%対100%という対比が示唆するほどの断絶はない。この差の本質は、委員会を置いているかどうかではなく、その委員会が法定の決定権限を持つか(指名委員会等設置会社では取締役の選解任議案を委員会が決定する)、それとも取締役会への諮問機関にとどまるかにある。マイキー氏の主張の実質――監視の強度が違う――は正しいが、根拠として提示された数字の対比は、そのまま受け取ると制度差を見誤る。

機関設計指名委員会の位置づけ監視の強度日本での比率(2024年11月)
指名委員会等設置会社法定。過半数が社外取締役。取締役選解任議案を委員会が決定するもっとも強い東証全体で約2.5%(95社)/プライムで約4.9%
監査等委員会設置会社法定の指名委員会はない。任意設置は可能中間両者合計で約97.5%
監査役会設置会社法定の指名委員会はない。任意設置は可能相対的に弱い
PART 5

1%未満で会社を動かす ―― 創業家と院政の構造

機関設計の話は、そのまま創業家の支配構造へと接続する。マイキー氏が挙げた具体例は3つあった。

第一にセブン&アイである。同社がクシュタールから買収提案を受けた際、買収されたくなかったため、親会社にあたる伊藤興業が自ら株式の買い付けを行いMBOによる非公開化を試みた。しかし伊藤興業の保有比率は7〜8%程度にすぎない。30%や40%を保有しているならまだ理解できるが、8%の保有でそれが通ってしまうのか、というのがマイキー氏の疑問だった。

第二にトヨタである。豊田章男氏の株式保有比率は1%未満である。それでも会社の決定事項を左右している。トヨタの最大の株主は結局のところメインバンクだが、そのメインバンクは口を出さない。1%も保有していない人物の指令で会社が動く。加えて豊田家が保有しているのは約2.78%であり、むしろ個人投資家の比率のほうが高い、と述べた。

第三が創業者の院政である。松下幸之助や本田宗一郎も、会長職になってからずっと口を出し続け、戦略をねじ曲げた事例がいくつもある。本田宗一郎については、エンジン開発やF1参戦といった技術方針について、役員が決め株主とも決めたことをすべて自分がチェックし直させるということをやっていた。自動車業界ではスズキも同様で、息子が社長を務めているが、資本提携やEV投資といった最終判断は会長・相談役の側が行っている。「だったら株式会社の意味がなくないですか」というのがマイキー氏の結論だった。

📌 Claude補足:3つの事例の事実関係を確認する

セブン&アイ:2024年11月13日、同社は創業家の伊藤家から法的拘束力のない買収提案を受けていることを公表した。伊藤興業のセブン&アイ株保有比率は約8%であり、マイキー氏の「7〜8%」という発言と一致する。買収計画は事業会社・投資ファンドからの出資4兆円規模と、金融機関融資4兆円規模を合わせた総額8〜9兆円規模とされた。ただしこの計画は、2025年3月4日に創業家側が「多額の買収資金の調達を短期間で実現するのは容易ではない」として取り下げている。つまり本セッションが行われた2025年9月時点では、この非公開化案はすでに頓挫していた。

トヨタ:豊田章男氏の個人保有株は2024年3月期末時点で2,346万株、保有比率0.14%と報じられている。「1%未満」という発言は正確である。一方、豊田家全体の保有比率について発言では「約2.78%」とされたが、複数の報道では豊田家一族全体でも1%程度とされており、この点は食い違っている。要確認 2.78%という数字が何を指すのか(豊田家の資産管理会社を含む集計なのか、別の対象なのか)は、公開情報からは特定できなかった。ただし「極めて低い持株比率にもかかわらず支配的な影響力を持つ」という論旨自体は、グループ企業間の株式持ち合いによる安定株主基盤という形で報道でも指摘されており、方向としては裏付けられる。

スズキ:鈴木修氏は2021年6月に代表取締役会長を退任し相談役に就任、2024年12月に死去している。本セッションの時点で「会長相談役が最終判断している」という現在形の説明は、時制として正確ではない可能性がある。要確認

マイキー氏はここから、日本の経営者の人生そのものに議論を広げる。ずっと守られてきた人生であり、外から文句を言われてこなかった社長人生だった人が多い。率直に言えば、1960年代から70年代にかけては社長は誰がやってもよかった。人口ボーナスで物が売れたからである。しかし今の日本に人口ボーナスはない。スキルも高くない。給与は高い。つまり戦略を変えなければならないことは自明であるにもかかわらず、当時の経営戦略が無理ではないと思ってやってきたのがこの30年だった、と。

その帰結として挙げられたのが、人前で喋れない、人から文句を言われるのが嫌だ、辛いことが嫌だ、適当などんぶり勘定経営、という一連の症状である。日本にプロの経営者がいないと言われる原因はまさにここにある、というのがマイキー氏の見立てだった。

PART 6

地方銀行 ―― もっとも変わっていない業界

講義後の議論で、中川氏が護送船団方式の残滓としてもっとも変革が進んでいない領域を挙げた。地方銀行である。第一銀行から始まり、現在のみずほに至る系譜のなかで、地銀は130ほど存在し、ようやく半分になったが、いまだに投資家のアポイントを受け付けない。

具体例として挙がったのが京都銀行と長野の地銀だった。京都銀行については、投資家がアポを取ろうとしても取れない状態が続いており、明らかに確信犯だと中川氏は述べている。同行はいまなお有価証券を大量に保有しており、その含み益は1兆1000億円ある。それに対して時価総額は9000億円である。含み益だけで1兆1000億円ある銀行でありながら、それを処分しようとしない。投資家から言われるのは間違いないが、テイクオーバーしようにもできない状況にある。護送船団方式の最たる例だ、というのが中川氏の指摘だった。

長野については、あれだけ小さい県で長野銀行と八十二銀行がまだ別々に存在している、という点が問題として挙げられた。さらに話題は、番号を冠した銀行名がいまだに残っていること――第四、十八、百十二といった行名――へと及び、いまだに番号制であること自体がありえないという評価が出た。

マイキー氏からは、金利が2%以上上昇したときにもっとも危うくなるのが福岡銀行だというデータを見た、という指摘が出た。中川氏はこれに同意し、さらに同行はデジタルバンキングで相当な損失を出しており、かなり早い時期から始めたにもかかわらず、いまだに黒字化していない。それでも撤退していない、と補足した。加えて香川県の百十四銀行もかなり危ういという話も出ている。地銀の頭取は「超地方大名」であり、絶対に言うことを聞かない、というのが中川氏の実感だった。

📌 Claude補足:地銀に関する3つの事実確認

京都銀行の含み益と時価総額:京都銀行は任天堂、村田製作所、ローム、ニデックといった京都企業の株式を政策保有として大量に抱えており、その他有価証券の含み益は地銀の中で群を抜いていることが以前から報じられてきた。2021年3月期時点で評価差額は1兆238億円に達していた。発言値の1兆1000億円は、その後の株価変動を踏まえれば十分に整合的な水準である。一方、時価総額については補足が必要で、京都銀行は2023年10月に持株会社体制へ移行し、現在の上場主体は京都フィナンシャルグループ(証券コード5844)である。同社の時価総額は2025年1月時点で約6,783億円と報じられている。発言の「9000億円」は、2025年に入ってからの銀行株上昇を踏まえれば発言時点で到達していた可能性があるが、本レポート作成時点では発言時点の正確な数値を確認できなかった。要確認 いずれにせよ「含み益が時価総額を上回る」という指摘の構造は成立している。

長野銀行と八十二銀行:両行は2023年6月1日にすでに経営統合済みで、八十二銀行が長野銀行を完全子会社化している。発言時点(2025年9月)では法人としては2行が併存していたが、これは統合の第一段階であり「まだ2行ある」という表現は実態と半分ずれている。その後、金融庁が2025年12月25日に合併を認可し、2026年1月1日に「八十二長野銀行」が発足、預金残高9.5兆円の1県1行体制となった。

ふくおかフィナンシャルグループのデジタルバンク:同グループ傘下のみんなの銀行は2021年5月のサービス開始以来赤字が続いており、2025年3月期の最終損失は88億円(前期93億円)と報じられている。2025年5月に口座数130万件を突破し、2025年3月末の預金残高331億円、貸出金228億円と成長指標は伸びているものの、黒字化目標は2027年度とされる。中川氏の「早い時期から始めたが黒字化しておらず、撤退もしていない」という指摘は、公開情報と整合する。

議論はここから海外の銀行実務にも及んだ。東南アジアの頭取にもかなり際どい人物が多く、ロシア系や中国系のプライベートバンキングでは、マネーロンダリングの話を必ず持ちかけてくるという実務経験が共有された。彼らのプライベートバンキングビジネスの大きな部分がロンダリングである、と。ただし東南アジアは金利が高いため経営自体は楽であり、日本は逆に資金需要がないという対比も示された。

PART 7

処方箋は外圧しかない

セッションの結論部分で、両講師の見解は一致した。中川氏は「外にはむちゃくちゃ弱いし、経営者が外圧に言われただけで急に操作し出すので、そこを突くしかない」と述べ、それ以外では重い腰は動かないと断じた。マイキー氏も「外部の外から圧力をかけていって、外国人の言うことは聞くので」と応じ、シャンシャン総会と呼ばれてきた30分の株主総会に対して、海外並みに4〜5時間かけて詰めてもらう必要があると主張した。

その原因についてマイキー氏は、メインバンクシステムをはじめとする戦後の仕組みによって「投資家が何も言わない世界」「人から文句を言われない世界」が日本で構築されたことにあると整理した。そこからやっと脱却し始めているとはいえ、欧米と比べればまだ緩い。だから海外の投資家が入ってきて徹底的に詰めてほしい、そうでないと変わらない、と。

米国の株主総会の実像についても言及があった。マーク・ザッカーバーグを見れば分かるとおり、株主に対しても強気に振る舞い、質の低い質問をしてくれば電話会議から追い出すこともある。経営者も強気で、株主も言ってくるという、双方向でぶつかり合う状態になっている。イーロン・マスクも同様である。それに対して日本は、外部から言われるのが面倒だ、変わりたくないという状態になっている。何を言われてもやり方が分からないと言う。そんな会社の社長は解任すればいい、というのがマイキー氏の主張だった。日本の会社を変革できないのであれば、外国人経営者を雇ってコーポレートガバナンスを強化するほうが、日本の会社のためになる、と。

「言われなかった環境」に問題がある

マイキー氏の整理はこう締めくくられた。文句を言われるのが嫌だという人は論外である。だがそれ以上に、文句を言われなかった環境自体に問題がある。昔は文句を言われなくてよかった。誰も指摘してこないから自分の思うようにやれた。しかし今はそうではない。グローバル化して世界基準に合わせなければならなくなったとき、言われたことに対してきちんと実行するか、きちんと反論するか、あるいはそこに立脚する哲学を持つか――そのいずれもできていない状態になっている。そしてこれは会社だけの話ではなく、個人も同じである、と。

Q&A

質疑応答

Q1. 関与している企業でも、やはり古い体制のままで改革ができない、意識が変わっていないというところが多いか。(マイキー氏 → 中川氏へ)

変えなければいけないとは口では言っている。どの会社も言う。しかしその割に、実際にやろうとすると「もう少し時間をかけて」「ゆっくりじっくり考えて」となり、非常に遅い。時間はないのだが。だからいつも言っているとおり、外圧しかないと思う。外部には極めて弱く、経営者は外から言われただけで急に動き出すので、そこを突くしかない。それ以外では重い腰は動かない。(中川氏)

Q2. 護送船団方式の残滓が、いまもっとも強く残っているのはどこか。(中川氏からの補足)

地方銀行である。第一銀行から始まり現在のみずほに至る系譜のなかで、地銀は130ほどあり、ようやく半分になったが、いまだに投資家のアポイントを受け付けない。京都銀行は明らかに確信犯で、有価証券の含み益が1兆1000億円あるのに対し時価総額は9000億円であり、それでも処分しようとしない。投資家から言われるのは間違いないが、テイクオーバーもできない状況にある。長野についても、あれだけ小さい県で長野銀行と八十二銀行がまだ別々に存在している。護送船団方式の最たる例だと感じる。(中川氏)

Q3. 金利が2%以上上昇したときにもっとも危うくなるのが福岡銀行だというデータを見たが。(マイキー氏)

おそらくそのとおりだと思う。しかもデジタルバンキングで相当な損失を出している。かなり早い時期から始めたにもかかわらず、いまだに黒字化していない。それでも撤退していない。加えて香川県の百十四銀行もかなり危ういと言われている。地銀の頭取は超地方大名であり、絶対に言うことを聞かない。(中川氏)

Q4. 否定的な意見はもっともだが、一方で人の意見をあまり聞かないほうが意思決定は早く動きやすいという面もあるのではないか。その意味でレジリエンスを示しやすい可能性もあるのでは。(小賀氏)

意思決定が速くレジリエンスが高い状態というのは、おそらく一定の知識やトレンドを押さえたうえでの意思決定が強い場合であって、それならレジリエンスが上がる可能性は高い。しかしそもそも標準以下であればレジリエンスも何もない。例として永守氏や稲盛氏のような方々は、最初は知識がほぼなかったと思うが、行動を見る限りレジリエンスは高かったと評価してよい。ただし、日本自体がもう少しきちんとやっていれば、もっと大きな会社になっていたと思う。(マイキー氏)

Q5. それは具体的にどのあたりのポイントか。(小賀氏)

M&Aについても、いわゆるM&Aの神様と呼ばれる方が、安くなるまで徹底的に待つというのは一面では合理的だが、高くても買収してしまったほうがスピードは速いという考え方もある。そのバランスの問題ではないか。待つ分だけ時間的コストがかかっている。データセンターの冷却分野などでも、切り替えがもっと早くできていれば違ったのではないか。(マイキー氏)

Q6. 永守氏の経営スタイルをどう評価するか。

日産から招いて子会社の社長に据え、EVを含めて任せるという話だったが、結局は外に出してしまった。下も誰も彼をサポートしていない。以前からそうで、何度も社長候補を外から引っ張ってきているが全員辞めている。今回も決算の問題が出ている。会長職には2021年に就いているが、M&Aの決裁については会長が入らないと決められない。会社に自由度がなく、売上10兆円という目標も大幅に下方修正することになった。自分の配下の決算はとにかく上げなければならないという論理のなかで数字が出てくるので、そういう決算が積み上がってきたということだと思う。下方修正は許さず、出した途端に解任される。人の意見を聞かず、ナンバー2ですらものを言えなかった。ただし天賦の才はあり、素晴らしい面もある。投資家から言われても「俺が最大株主だ、文句を言うな」の一言で終わる。それでも達成してきたのは事実であり、M&Aのやり方が上手いのも、PMIが上手いのも間違いない事実である。振り切れた経営者だと思う。(中川氏)

永守氏や稲盛氏よりも、現代であればビル・ゲイツやジェフ・ベゾスのほうが総合的には優秀ではないか。ただしゲイツもベゾスも一切口を出さない。助言はするが、あくまでCEOに信頼を置くというスタイルを取っている。アジェイ・バンガからマイケル・ミーバックへの交代なども同様である。子離れできない親のような状態になってしまっているのが問題だ。(マイキー氏)

創業者に多いパターンだと思う。ベゾスもブルーオリジンのように次の事業をやればいい。一度ハンドオーバーしたら、次は自分の別のことをやればよい。永守氏も学校を作って素晴らしい教育をやろうとしているのだから、そこに集中すればいいのだが、それをやらずに結局本業に戻ってしまう。ジャック・ドーシーのように、売却したら新しいSNSを作るというシリアルアントレプレナー的な動き方もある。株主として保有していても口は出さない、という形にすればよいのだが、任せられないという性向がある。非常に残念だ。(中川氏)

📌 Claude補足:ニデックをめぐる時系列 ―― セッション当日が転換点だった

セッション中で言及された「今回も結局決算の問題が出て」という発言は、極めて重要な時期のものである。ニデック(旧・日本電産)は2025年9月3日に会計処理をめぐる調査のため第三者委員会を設置しており、この勉強会が行われた9月23日は、その渦中にあたる。

その後の経過は、中川氏の懸念を裏づける方向に進んだ。2025年11月には自動車部品事業の契約損失引当などにより上期で877億円の損失を計上、2026年4月17日に受領した第三者委員会の最終調査報告書では、会計不正による純利益への累計影響額が1,607億円に上ることが明らかになった。第三者委員会は原因として「短期的収益を重視し過ぎる傾向」を指摘している。これは中川氏がセッション中で述べた「自分の配下の決算はとにかく上げなければならないという論理」という見立てと、事後的にほぼ一致した。

なお経営体制については、永守重信氏は2021年6月に社長を関潤氏に譲り会長CEOに就いたが、関氏は2022年8月に退任・退社。2024年2月には岸田光哉氏が社長に就任し、永守氏はグループ代表という新たな立場に移った。「何度も社長候補を外から引っ張ってきているが全員辞めている」という指摘は事実関係と整合する。

Q7. 日銀の株式保有についてはどう見るか。

株の売却をずっとやってきたが、顧客のところに行くと「お前、売るのか」と言われる。売るなら出入り禁止だと言われると、営業側がそれはやめてくれということになり、結局できない。そういう構図になっているから持ち合い解消もなかなか進まなかった。やっと進み出して、やっと日銀も売り出す。中央銀行が株式を保有しているなど本来ありえないことをやっていた。ただし売却完了までに100年かかると言われている。(中川氏)

📌 Claude補足:日銀のETF売却「100年」は正確だった

この発言は、勉強会のわずか4日前に決まった政策を正確に反映している。日本銀行は2025年9月19日の金融政策決定会合で、保有するETFおよびJ-REITの市場売却を決定した。売却ペースは簿価ベースで年間約3,300億円とされ、保有額は簿価37.1兆円であるため、単純計算で完了までおよそ112年を要する。実際の売却は2026年1月19日以降に開始され、2026年1月の売却額は約53億円だった。「100年かかる」という中川氏の言及は、この決定内容と整合している。

ACTION

宿題・アクションアイテム

  1. 投資対象企業の機関設計を確認する。 指名委員会等設置会社か、監査等委員会設置会社か、監査役会設置会社か。そのうえで、任意の指名委員会・報酬委員会があるか、あるとして諮問機関にとどまるのかを見る。「委員会がある」だけでは監視の強度を判断できない。
  2. 実質的な支配構造を、持株比率ではなく意思決定の経路で見る。 トヨタの事例が示すとおり、1%未満の保有でも会社の決定を左右しうる。誰が最終決裁をしているのか、会長・相談役・グループ代表といった肩書がどこに置かれているかを追う。
  3. 保有銘柄の政策保有株式と、その含み益・時価総額の関係を点検する。 京都フィナンシャルグループの事例のように、含み益が時価総額に匹敵・上回るケースでは、資本効率の観点から売却圧力が働く余地がある。開示されている政策保有株式の縮減方針とその実行率を確認する。
  4. 株主総会の所要時間と質疑件数を、投資判断の材料に加える。 30分で終わる総会と、実質的な質疑が行われる総会では、統治の実態がまったく異なる。招集通知だけでなく、総会後の議事概要や質疑内容の開示姿勢を見る。
  5. 地方銀行のIR姿勢を、投資可能性の一次スクリーニングに使う。 中川氏が指摘したとおり、投資家のアポイントを受け付けるかどうかは、それ自体が統治姿勢の指標になる。
  6. 「売上か、営業利益か」を自社および投資先のKPI体系で確認する。 融資基準に由来する売上至上主義が、いまだにKPI設計に残っていないかを点検する。
GLOSSARY

用語集

護送船団方式最も体力の弱い金融機関でも存続できるよう規制水準を設定し、業界全体を保護・育成した戦後の金融行政手法。海上輸送の船団戦術に由来する。
メインバンクシステム特定の銀行が主要な融資先であると同時に主要株主でもある関係。安定資金供給と引き換えに、株主としての監視機能が働かない。
株式持ち合い企業同士が相互に株式を保有する慣行。安定株主を確保する一方、外部投資家の参入と経営への牽制を遮断する。
人口ボーナス生産年齢人口の比率が高まり、需要と労働供給が同時に拡大する期間。日本では高度成長を支え、その後消滅した。
指名委員会等設置会社指名・監査・報酬の三委員会を置く会社法上の機関設計。指名委員会が取締役の選解任議案を決定するため、監視の強度が最も高い。
監査等委員会設置会社監査等委員である取締役で構成する委員会を置く機関設計。法定の指名委員会はない。
監査役会設置会社監査役会を置く伝統的な機関設計。日本の上場企業で依然として主流を占める。
任意の指名委員会法定機関ではないが取締役会の諮問機関として設置される委員会。プライム市場では約8割が設置しているが、決定権限は持たない。
シャンシャン総会実質的な質疑が行われず短時間で終了する株主総会の俗称。議案が事前に確定していることが前提になる。
モラルハザード救済が保証されることで規律が緩み、リスクを取りすぎる行動が生じること。護送船団方式の代表的な副作用。
水道哲学松下幸之助が掲げた、水道の水のように安価に大量供給するという経営思想。売上至上主義と結びついたと本セッションでは位置づけられた。
アクティビスト株式を取得したうえで経営陣に積極的に提言・要求を行う投資家。日本では外圧の主要な担い手として期待されている。
政策保有株式純投資以外の目的で保有する株式。ガバナンス・コード導入以降、保有の合理性検証と開示が求められている。
PMI(Post Merger Integration)M&A成立後の統合プロセス。買収そのものより難度が高いとされ、永守氏の評価点として挙げられた。