STUDY REPORT / 2025年10月度 勉強会

米中会談翌日の中国優位論 ――釜山で「何も決まらなかったこと」を、講師陣はどう採点したか

2025年10月30日、釜山でトランプ大統領と習近平国家主席が6年ぶりに直接会談した。その翌日の勉強会は、映像を見た直後の生の反応から始まっている。「時間を伸ばしただけ」「時間は完全に中国の方に味方する」――この日その場で語られた読み筋を、公開された合意内容と突き合わせて再構成し、技術覇権の実装レイヤー(NVIDIAの契約ラッシュ)まで含めて記録する。

EXECUTIVE SUMMARY

「合意が薄いこと自体が中国の勝ち」という読み

57% → 47%
対中平均関税率。会談を受けてトランプ大統領が引き下げを表明
20% → 10%
フェンタニル関連関税。半減で合意
1年間
中国によるレアアース輸出規制の停止期間。「その都度更新される」とされた
議題外
台湾・Blackwellチップ・ロシア産原油。いずれも会談で扱われなかった
140カ国超
北斗(BeiDou)の提供先。講義中の発言は「130カ国」
6年ぶり
直接会談の間隔。前回は2019年のG20大阪サミット

会談翌日の勉強会は、講義に入る前の雑談としてこの話題から始まった。マイキー氏の第一声は「中国は想像以上に大国になってます」であり、「アメリカ、時間の問題で食われるかもしれない」と続く。参加者から「ざっくり言うと、その時間を伸ばしただけみたいな形。時間は完全に中国の方に味方するということ」という整理が出て、マイキー氏が「スピード感は中国が味方しますね。なんでルールも倫理もないもん」と応じた。

この会話が示しているのは、この場での勝敗判定が合意内容の中身ではなく、時間の帰属で行われているということである。中川氏は明確に「1年間は中国にとっては有利に働くんですよ。アメリカにとっては絶対不利に働くんですよ。だから今回の交渉、私の見立てでは中国の勝ちだと思いますよ。時間を稼いだということは、中国がその間にガーっと進化してきますので」と述べている。

もうひとつ、この日の議論で目立ったのは心理戦の読みだった。中川氏は、トランプ大統領が核実験の再開を指示したことと、中国側が宇宙分野の動きをぶつけてきたことを対置し、「お互い強いところを見せたんだな」と評した。そして「トランプさんが待ってたじゃないですか、習近平が来るのを。もうあの時点で負けてるのかな」という参加者の指摘に、場が同意する。会談の中身が薄い以上、判定材料は所作と同時性のほうに移る。

さらにこの日は、会談の2日前に開催されていたNVIDIAのGTC Washington D.C.の話題が終盤に接続された。Palantir、Nokia、Eli Lilly、CrowdStrike――マイキー氏は「NVIDIAの契約ラッシュがえげつない」とし、特にエッジコンピューティング領域への侵食に注目した。地政学の話が、そのまま実装レイヤーの企業提携の話につながる構造がこの回の特徴である。

セッションを貫く1本の線

会談の評価軸は「何を取ったか」ではなく「誰の側に時間が流れているか」に置かれた。1年間の休戦は、規制コストが低くスピードで勝る側にとって純粋な利得になる――というのがこの日の講師陣の共通認識である。ただしこの読みには反証もあり、レアアース規制の停止は中国がカードを一時的に手放したという解釈も成立する。本レポートでは両論を併記する。

PART 1 / 合意の中身

釜山で決まったこと、決まらなかったこと

会談の翌日という時点では、参加者も詳細を把握しきれていない。マイキー氏自身「火曜日からほぼ寝てない」「今日はもう朝からあれですから、もう習近平とトランプで」と述べており、リアルタイムの反応として記録されている。ここでは、その後に公表された合意内容を整理して並べる。

📌 Claude補足 ── 釜山会談(2025年10月30日)の合意内容

裏取り済トランプ大統領と習近平国家主席の会談は2025年10月30日、韓国・釜山で行われた。両首脳の対面会談は2019年のG20大阪サミット以来6年ぶりである。主な内容は以下のとおり。

フェンタニル:フェンタニル対策での協力強化で一致し、米国の対中フェンタニル関税は20%から10%へ半減。関税全体:トランプ大統領は、大豆輸入・レアアース・フェンタニルの進展を受けて、対中の全体的な関税率を57%から47%へ引き下げたと述べた。レアアース:中国商務省は、最新のレアアース輸出規制の実施を停止し、米国船舶を対象とした特別港湾料金も停止すると確認。合意は1年間の期限付きで、「時間の経過とともにごく通常に延長される」とされた。大豆:中国は米国産大豆その他の農産物の輸入を直ちに大幅に再開すると表明。相互訪問:トランプ大統領は2026年に訪中し、習主席を訪米に招請した。

裏取り済議題に上がらなかったもの:トランプ大統領によれば、台湾は一度も話題に出なかった。NVIDIAの最新チップBlackwellについても「Blackwellチップの話はしていない」と明言(ただしNVIDIAの中国アクセス一般については議論があり、同社は北京との協議を続けるとした)。ロシア産原油も直接の議題にはならなかった一方、ウクライナ戦争そのものは「非常に強く」議論に上がったと報じられている。

項目内容期限・性質
フェンタニル関税20% → 10%へ半減協力継続が前提
対中平均関税57% → 47%引き下げ後も高水準を維持
レアアース輸出規制最新の規制の実施を停止。米国船への特別港湾料金も停止1年(更新前提)
大豆・農産物中国が輸入を直ちに大幅再開即時
相互訪問トランプ大統領が2026年訪中、習主席を訪米に招請2026年
台湾議題に上がらず
Blackwellチップ議題に上がらず(NVIDIAの中国アクセス一般には言及)
ロシア産原油直接の議題にならず(ウクライナ戦争自体は議論)

会談翌日の勉強会で「台湾の話も全然してこなかったんで、台湾の話にもならなかった」という発言があったが、これは公開された報道と一致する。中川氏の「何にも話も出てこないし、本質的なところにはまだまだこれからの先だよということで」という総括も、合意内容の薄さという事実認識としては正確である。

PART 2 / 中心命題の検証

「時間は中国に味方する」は成立するか

この日の判定の根拠は、単純化すればひとつである。中川氏の言葉を借りれば「時間を稼いだということは、中国がその間にガーっと進化してくる」。合意が1年の期限付きであるということは、双方が1年間の猶予を得たということだが、その1年をどちらがより有効に使えるかが問われる。マイキー氏の前提――中国はルールと倫理の制約が薄いためスピードで勝る――を置けば、猶予は中国に有利に働く。

マイキー氏はさらに、中国がすでに取っている、あるいは今後取る分野を列挙した。宇宙産業(北斗)、医薬品(「お薬は勝てないですね」)、自動車、エネルギー、資源。「薬を取られて自動車を取られてエネルギーを取られて、AIはまだあれですけど、資源を取られて、あと何があるんだろう」。この日の議論では、残る優位分野としてバイオテクノロジーが挙げられたが、直後に「バイオも負けるんだろうな」と修正されている。

「中国優位」の読みを支える材料

台湾もBlackwellも議題外:米側が主張したかった論点が扱われず、実質的に貿易面の休戦のみが成立した。会談を「何も進まなかった」と評価すれば、現状維持は追い上げる側に有利になる。

レアアースの1年停止:規制の撤廃ではなく「停止」であり、カード自体は中国の手に残る。1年後に再度使える構造になっている。

スピードの差:規制・倫理・合意形成のコストが低い側が、同じ時間でより多くの試行を回せるという構造は、他のセッションでも繰り返し確認された論点である。

非西側での浸透:北斗の提供先が140カ国超に達していることに象徴されるように、中東・アジア・アフリカ・中南米での基盤づくりが進んでいる。中川氏は「我々日本人はアメリカが全てだと思っている。全く違うよと」と述べた。

併記すべき反対材料(Claudeによる補足)

関税は47%が残っている:引き下げ後も対中平均関税は47%と高水準にとどまる。「時間を買った」のは中国だけでなく、高関税の維持という点では米側も譲っていない。

レアアース停止は中国側の譲歩でもある:直前に発表した輸出規制を停止し、米国船への特別港湾料金も撤回した。切ったカードを引っ込めたという読みも成立する。

大豆の即時再開:中国側が具体的な行動を先に取る形になっており、「何も取られていない」とは言い難い。

時間が一方的に味方するとは限らない:中国は不動産部門の調整と内需の弱さという構造問題を抱えている。1年の猶予がどちらにより効くかは、技術のスピードだけでは決まらない。

対中関税率の変化(会談前後)
単位:%。出典:2025年10月30日の会談後にトランプ大統領が言及した数値および中国商務省発表に基づきClaude作図
既存の「会談前夜」レポートとの関係

本レポートは会談翌日のセッションを扱っている。会談前日に行われた回では、7年ぶり(実際には6年ぶり)の首脳会談という位置づけや、台湾がどう扱われるかという予測が議論されていた。結果として台湾は議題にすら上がらなかったため、「台湾がヒリ札になる」という前夜の読みは、少なくともこの会談では検証機会が生じなかったことになる。予測の答え合わせという観点では、この一点が最も重要な差分である。

PART 3 / 心理戦

核実験の指示と、宇宙で返した中国

この日の議論で最も具体的だったのが、中川氏による同時性の読みだった。「当日、核兵器の実験を始めましたよね。そしたら習近平は宇宙のほうの実験をまたスタートしましたよね。同じ日に、わざわざあの日にぶつけてやっているんですよね」。トランプ大統領が核兵器の実験を、いわゆる威嚇として始めた。一方で習主席は宇宙側でレバレッジをかけた。お互い強いところを見せた、という整理である。

マイキー氏も「心理戦もうまいなと思って」と応じ、参加者からも「トランプさんが待っていたじゃないですか、習近平が来るのを。もうあの時点で負けてるのかな」という所作面での指摘が出た。

📌 Claude補足 ── 日付関係を正確に整理する

発言との食い違いセッション中では「10月29日に同じ日に神舟21号の打ち上げ」と語られているが、日付関係は次のとおりである。

トランプ大統領の核実験指示:Truth Socialへの投稿は米東部時間で2025年10月29日夜(韓国時間では30日)。習主席との会談の直前というタイミングだった。「他の核保有国のプログラムを理由に、国防総省(Department of War)に核兵器実験の開始を指示した」という内容で、米国が核実験を行うとすれば1992年の自主的停止以来30年以上ぶりとなる。ただし、軍事専門家や議員からは「核推進システムの試験の増強、あるいは秘密裏の低出力実験を指していた可能性がある」という指摘が出ており、内容には曖昧さが残った。

神舟21号の打ち上げ:実際の打ち上げは2025年10月31日 23時44分(北京時間)、酒泉衛星発射センターから。3名の宇宙飛行士が天宮宇宙ステーションに6カ月滞在する任務である。つまり打ち上げ本体は会談の翌日であり、この勉強会が行われた当日の深夜にあたる。

したがって「同じ日にぶつけた」という表現は、打ち上げ本体ではなく、打ち上げ計画の発表・記者会見のタイミングを指すものとして理解するのが正確である。また「10月29日」という日付は神舟21号には当てはまらない。「両者が強いカードを至近のタイミングでぶつけ合った」という中川氏の読み自体は、日付の細部を修正しても成立する。

なお身長についても言及があった。「習近平の身長、公式183cmって書いてあった」という発言があり、トランプ大統領との対比が話題になった。要確認中国政府は習主席の身長を公式に発表しておらず、複数の報道で示される数値には幅がある。この点は雑談の範囲として記録するにとどめる。

PART 4 / 北斗と宇宙

「アメリカが全てだと思っている」という盲点

マイキー氏が「下手すると宇宙産業も(取られる)んじゃないですか」と述べ、名前が挙がったのが北斗(BeiDou)である。中国の衛星測位システムで、ウイグル自治区の東側に密基地があると言われている、といった話が続いた。

技術的な論点としてマイキー氏が挙げたのは、発射台の移動式化である。緯度を変えて発射できるため、軌道に乗せる能力が高い、と。中川氏はこれを地政学の側から補強した。「北斗って、世界の130カ国で北斗を利用しているんですね、今調べたら。だからアメリカ、我々日本人はアメリカが全てだと思っていますよね。アメリカと日本と、そこにヨーロッパの国があって、それで世界が成り立っていると思っていました。全く違うよと」。中東、アジア、アフリカ、中南米まで含めれば180カ国近くあるのではないか、と続く。

📌 Claude補足 ── 北斗について(1件は明確な誤り)

裏取り済採用国数:2025年時点の公開情報では、北斗の製品・サービスは140を超える国・地域に提供されている。ロシア、パキスタン、ベラルーシ、複数のアラブ諸国などが含まれる。セッション中の「130カ国」はやや控えめだが、桁として妥当である。2020年に北斗3号が全世界へのサービス提供を正式に開始しており、中国国内の民生機器では北斗のシェアが7割を超えている。空間信号精度は2m未満、全世界測位精度は10m級とされる。米国の宇宙PNT諮問委員会が「GPSの能力は現在、中国の北斗と比べて実質的に劣っている」と述べたことも報じられている。

発言との食い違い「北斗自体が昔からすごい有名な、この会社」:北斗は企業ではなく、中国政府が構築・運用する国家衛星測位システムである。地上インフラや端末チップに関わる企業群は存在するが、「北斗という会社」は存在しない。

発言との食い違い「アメリカのスペースシャトルでも6割とかしか(軌道に)乗せられない」:これは公開データと大きく異なる。スペースシャトルは全135回の飛行のうち133回が計画どおり完了しており、成功率は約98.5%である。失敗した2回はチャレンジャー号(1986年)とコロンビア号(2003年)で、いずれも軌道投入精度の問題ではなく、機体の重大事故だった。「6割」という数値の出所は特定できず、軌道投入能力の比較根拠としては使えない。

裏取り済ただし「移動式発射台」の指摘自体は事実に基づく。中国は長征11号を用いた海上プラットフォームからの打ち上げを実運用しており、黄海のバージから北斗の信号増強衛星を打ち上げた実績がある。海上発射は打ち上げ緯度を選べるため、赤道近傍からの打ち上げで軌道投入効率を高められる。固体燃料ロケットを船上で長期保管できることも実証されており、陸上射場に依存しない機動的な打ち上げ手段として位置づけられている。

PART 5 / 実装レイヤー

NVIDIAの契約ラッシュと、エッジへの侵食

セッション終盤、マイキー氏が前田氏に振ったのが「NVIDIA、契約ラッシュえげつないっすね」という話題だった。挙げられた社名はPalantir、Nokia、Eli Lilly、Lucid Motors、CrowdStrike。そして「来月ぐらいにサムスンとヒュンダイと契約発表されます、多分」と予告している。

マイキー氏の読みで最も鋭かったのは、エッジコンピューティングへの侵食という視点である。「NVIDIA、やっぱり頭いいなと思ったのが、CrowdStrikeってエッジコンピューティングじゃないですか。セキュリティとして強いじゃないですか。やっぱりNVIDIAはエッジが弱かった。そこに入り込んできてますね。CrowdStrikeとの契約と、通信のところでNokiaと契約しているので、エッジのところにかなり入り込んできてますね」。そして「エッジまで来られたら本当に(他社は)行っちゃいますよ。エコシステムの築き方が(他社は)入れていない」と続けた。

もうひとつがPalantirである。マイキー氏は「今回パランティアと組んだのは物流システムですから、完全に中国のLOGINKに対抗していますよ。物流の製品管理をPalantirのプラットフォームでやると言っているので。入り口と出口は中国が抑えていますけど、動きの部分にPalantirが入ると言っているので、物流でそこにNVIDIAが入ってきている」と述べた。要確認ただし「LOGINKへの対抗」はマイキー氏の解釈であり、両社の発表にそうした位置づけが明示されているわけではない。

📌 Claude補足 ── 発表タイミングが発言とずれている

発言との食い違いマイキー氏は「来月ぐらいにサムスンとヒュンダイと契約発表されます」と述べたが、これらはいずれもこの勉強会の3日前、2025年10月28日のGTC Washington D.C.で既に発表されていた。会談(10月30日)の2日前にあたる。主な発表内容は以下のとおり。

裏取り済Samsung:NVIDIA GPUを5万基規模で導入し、モバイル機器・ロボット向けの半導体製造を高度化する「AIメガファクトリー」を構築すると発表。Hyundai / Kia:NVIDIA DRIVE Hyperionプラットフォーム上での次世代自動運転技術に関する提携拡大を発表。選定車種へのレベル2+展開と、MotionalによるレベルL4ロボタクシーの取り組みを含む。Eli Lilly:製薬企業が保有・運用するものとしては最も強力なスーパーコンピュータを構築すると発表。Blackwell Ultra GPU 1,016基、AI性能9エクサフロップス超。Nokia:6G対応の通信プラットフォーム「Aerial RANコンピュータ」で戦略提携。CrowdStrike:Charlotte AI AgentWorks、NVIDIA Nemotronモデル等を用いて、常時稼働・継続学習するセキュリティAIエージェントをエッジに展開。Palantir:Ontologyの各種業種向けソリューションでNVIDIAのハード/ソフトスタックをサポート。Uber:DRIVE AGX Hyperion 10を用いた自動運転で、約10万台規模を目標に2027年から展開。

要確認「ルシットモーター(Lucid Motors)」については、この時期のNVIDIA発表に含まれていることを確認できなかった。文字起こしの音声認識誤りの可能性がある。

整理すると、「発表される」という予告部分は不正確だが、「エッジへの侵食」「エコシステムの囲い込み」という読み筋そのものは、発表内容によって裏づけられている。CrowdStrikeの発表がまさに「エッジへのAIエージェント展開」であり、NokiaがRAN(無線アクセスネットワーク)という通信の末端に位置することを踏まえれば、マイキー氏の構造理解は発表の内容と整合する。

Qualcommへの懐疑

前田氏が「逆に僕は、クアルコムがデータセンター向けをまた打ち出しましたけれども、そこにやる意義が薄いかなと思っている」と述べ、マイキー氏が「パソコンと携帯しかないのでクアルコムは」と応じた。「そっちを攻めていくのがいいかどうかは分からないが、NVIDIAはその辺は戦略を立ててかなりいいところに入り込んでいる」という評価である。

HBMとサムスンのファウンドリ

サムスンとの契約について、前田氏は「サムスンのファウンドリも使うようにして契約したのか」と問い、マイキー氏は「じゃないと生産が間に合わないですね」と応じた。前田氏が「技術的にカバーできるのかというのはすごく不安に思っている部分もある」と懸念を述べ、マイキー氏は「一番重要なのはHBMなので、サプライでも抑えているところが結構ある」と返している。要確認この後に続く「2737あたりのレを抑えさせてくれる確約」「理論上サムスンは1.5なのはいける」「歩留まりが死んでいる」という発言は、文字起こしの精度が低く、指している対象(プロセスノードか、HBMの世代か)を特定できなかった。数値としての引用は避けるべきである。

PART 6 / 中国の実装力とMeta決算

EV・自動運転と、一時的な税費用

「中国の道で自動運転できたら世界中でできる」

自動運転について、前田氏は「今のところを見る限りは、やっぱり中国のほうが圧倒的に強いですよね。どう見ても」と述べた。マイキー氏はEVについても「日本はもう勝てないですよ。中国のを見ていたらバッテリーの性能が違うし、ソフトウェアが充実しまくっているし、インフラ整備もくそ早いし、おまけに輸出能力が高すぎる」と続ける。

そして議論は、この日を通じて何度も出てきたデータ収集能力に戻った。「あの範囲であれだけの人数のデータを収集できるということは」――前田氏はテスラのFSDについても「データの蓄積がないと無理では」と応じている。マイキー氏の締めの一言が印象的だった。「あと、中国の道を自動運転できたら世界中の道を自動運転できます。あんだけ複雑な道を作ってるんですもん」

Meta株価の急落

前田氏が「中国の五カ年計画のところで、必要なところでEVを外した」件について問い、マイキー氏は「全人代のレポートをまだ読んでいない」として保留した。そして「どっちかというと昨日のMetaの株価が14%落ちたほうが気になっていた」と話題を移す。「純利益マイナス87%」「法人税の割り当てがいきなり重なったからしょうがない」「一時的なもの」「また元に戻るでしょう」という評価だった。

📌 Claude補足 ── Meta 2025年第3四半期の実数値

発言との食い違いMeta Platformsの2025年第3四半期決算(10月29日発表)の実数値は次のとおり。売上高514億ドル(前年同期比+26%)で市場予想を上回った。一方、純利益は27億ドルで前年同期比83%減。原因は、One Big Beautiful Bill Actの施行に伴う159.3億ドルの一時的・非現金の法人税費用である。この一時費用を除けば、純利益は159億ドル増の186億ドルとなる計算だった。

したがって発言中の「純利益マイナス87%」は実際には83%減、「株価が14%落ちた」は各社報道で約8〜9%の下落とされており、いずれも数値がずれている。ただし「法人税の割り当てが重なったからしょうがない」「一時的なもの」というマイキー氏の判断は正確である。この費用は非現金かつ一回限りのものであり、税制変更に伴う繰延税金資産・負債の再評価によるものである。

ただし補足すべき点がある。下落要因は税費用だけではなかった。Metaは同時に2025年の設備投資見通しを700〜720億ドルへ引き上げ、通年の総費用見通しの下限も20億ドル引き上げて1,160〜1,180億ドルとした。AIインフラへの支出拡大に対する市場の警戒が、株価反応の相当部分を占めていたと報じられている。「一時的な税費用だから元に戻る」という読みだけでは、この局面の説明としては不十分である。

Meta 2025年第3四半期:一時的税費用のインパクト
単位:億ドル。出典:Meta Platforms 2025年第3四半期決算発表に基づきClaude作図。「調整後純利益」は159.3億ドルの一時的法人税費用を除いた場合の水準
PART 7 / 締めの雑談

「日本人は海外メディアを見ない」という自己観測

会の終わりに、マイキー氏がやや自嘲的に自分のYouTubeチャンネルの数字を持ち出した。会談当日に緊急でアップした「トランプ追加関税に対する中国の駆け引きは本当に中国優勢だったのか」という動画が、まったく伸びていない、と。

「これがあの、世界が注目している情報のリサーチと、日本人が見ている情報のリサーチの違いだと思いますよ。海外だとめちゃめちゃ読まれているんで」。参加者からも「この会談、海外メディアでは持ちきりでしたね」「海外メディアも持ちきりですけど、日本人は海外メディアを見ないんでね」というやりとりが続いた。

マイキー氏の観測では、最近伸びたのは「脱ドル」と「日本の最強産業」で、海外向けのコンテンツはほぼ伸びない。「日本最大企業とか、日本なんちゃらと書くとめっちゃ伸びるんですよね」「ミスター・ミセス・ドメスティックです。日本人の思考回路はここをどうにかしたいんですけど、どうにもならないんでしょうね」。

この観測が持つ意味

この日の議論は一貫して「日本人はアメリカが全てだと思っている」「アメリカ以外の180カ国を見落としている」という指摘を含んでいた。締めの雑談で出た視聴データは、その指摘の需要側の実証になっている。関心が国内に閉じている限り、海外向けの分析は供給されても消費されない。中川氏の「130カ国が北斗を使っている」という発見と、マイキー氏の「海外向けの動画は伸びない」という観測は、同じ現象の別の面を見ている。

なお、この日は10月31日・金曜日でハロウィンにあたり、渋谷の混雑が話題になった。次回の勉強会は月曜日、懇親会は翌週土曜(11月8日)で調整する、という連絡で会は締められている。

Q&A

質疑応答

習近平の立ち振る舞いや態度を見て、アメリカを超えているという雰囲気を出していたように見えたが、どう思ったか。(マイキー氏 → 前田氏・中川氏ほか)

中国側は「そこを見えないようにする探り」しかやっていないように感じた。交渉で結果を求めるのではなく、今回は出方を見ましょうというステップの一つとしか見ていないのではないか。交渉の内容があまりにもあっさりしすぎている。アメリカは攻撃的だが、中国はそれ以上に反撃的で、切り札が強すぎる印象を受けた。(参加者)

同じ日に核実験と宇宙をぶつけてきたことをどう読むか。(マイキー氏 → 中川氏)

トランプ大統領が核兵器実験を、いわゆる威嚇として始めた。一方で習主席は宇宙側でさらにレバレッジをかけた。お互い強いところを見せたということ。当日、意図的にぶつけてきたと見ている。(中川氏)

今回の交渉の勝敗をどう判定するか。(議論の流れの中で)

中国は全然引き取っていないし、本質的なところはまだこれから先だという内容。ただし1年間は中国にとって有利に働き、アメリカにとっては絶対に不利に働く。だから今回の交渉は中国の勝ちだと思う。時間を稼いだということは、中国がその間に一気に進化してくるということ。(中川氏)

クアルコムがデータセンター向けを打ち出したが、どう見るか。(前田氏)

クアルコムはパソコンと携帯しかないので、そちらを攻めていくのがいいかどうかは分からない。それに比べてNVIDIAはかなり戦略を立てていいところに入り込んでいる。エッジまで来られたら他社は厳しい。(マイキー氏)

サムスンとの契約は、サムスンのファウンドリも使う前提の契約なのか。(前田氏)

そうでないと生産が間に合わない。ただ最も重要なのはHBMなので、供給面で押さえているところがある。(マイキー氏)/技術的にカバーできるのかという点は不安に思っている部分もある。(前田氏)

中国が五カ年計画の必要分野からEVを外したという話があったが、あれは何か意味があるのか。全人代の話か。(前田氏)

まだ全人代のレポートを読んでいないので保留。(マイキー氏)→ 宿題として持ち越し。

Metaの株価が14%落ちたのはなぜか。(議論の流れの中で)

法人税の割り当てがいきなり重なったからしょうがない。一時的なものなので、また元に戻るでしょう。(マイキー氏)
※ 実数値と、税以外の下落要因についてはPART 6のClaude補足を参照。

宿題・アクションアイテム

次回までにやること

  1. 全人代・五カ年計画の資料を読む。「重点分野からEVが外れた」という指摘の真偽と背景を確認する。マイキー氏自身が「まだ読んでいない」として持ち越した宿題。
  2. NVIDIAの契約先マップを自分で作る。GTC Washington D.C.(2025年10月28日)の発表一覧を起点に、Nokia・CrowdStrike・Palantir・Eli Lilly・Uber・Hyundai/Kia・Samsungがそれぞれバリューチェーンのどこを埋めているかを図にする。特にエッジ領域の空白がどこまで埋まったかを確認する。
  3. マイキー氏のYouTube動画を視聴する。「トランプ追加関税に対する中国の駆け引きは本当に中国優勢だったのか」。会談当日に緊急でアップされたもの。
  4. 北斗の採用国リストを確認する。140カ国超という数字の内訳を地域別に把握し、GPSとの併用状況を確認する。「アメリカが全てだと思っている」という指摘を、自分の情報収集習慣に照らして点検する。
  5. 海外メディアと日本メディアの報道差分を比較する。同じ釜山会談について、海外主要紙と日本の主要紙の扱いの大きさ・論点の違いを実際に並べてみる。
  6. レアアース輸出規制の1年後の扱いを追う。「停止」であって撤廃ではない点を踏まえ、期限(2026年秋)に向けた動きをウォッチする。
GLOSSARY

用語集

釜山会談
2025年10月30日に韓国・釜山で行われたトランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談。両者の対面会談は2019年G20大阪サミット以来6年ぶり。
フェンタニル関税
合成オピオイドであるフェンタニルの前駆物質流入を理由に米国が中国に課した関税。20%から10%へ半減で合意。
レアアース輸出規制
中国がレアアースおよび関連技術の輸出を許可制とする措置。釜山会談を受けて最新規制の実施が1年間停止された(撤廃ではない)。
北斗(BeiDou)
中国が構築・運用する衛星測位システム。2020年に北斗3号が全世界サービスを開始し、140カ国超に提供されている。企業ではなく国家システム。
神舟21号
2025年10月31日に酒泉衛星発射センターから打ち上げられた中国の有人宇宙船。3名が天宮宇宙ステーションに6カ月滞在する。
Blackwell
NVIDIAのGPUアーキテクチャ世代。対中輸出規制の焦点だったが、釜山会談では議題に上がらなかった。
エッジコンピューティング
データ処理をクラウドではなく発生源近傍の機器・拠点で行う方式。NVIDIAが弱かった領域とされ、CrowdStrike・Nokiaとの提携で埋めにきているとマイキー氏は読んだ。
Aerial RAN
NVIDIAとNokiaが提携して開発する、AI処理を通信基地局に統合する6G対応プラットフォーム。無線アクセスネットワークの末端にGPUを持ち込む。
DRIVE Hyperion
NVIDIAの自動運転向け参照アーキテクチャ。Hyundai/Kia、Uberとの提携の基盤となっている。
LOGINK
中国交通運輸部が推進する国際物流情報プラットフォーム。港湾・貨物データの集約を通じた影響力が各国で警戒されている。Palantir提携の意味づけとして言及された。
HBM
High Bandwidth Memory。AIアクセラレータの性能を左右する広帯域メモリ。供給を押さえられるかが競争条件になる。
One Big Beautiful Bill Act
2025年に成立した米国の税制関連法。Metaの2025年第3四半期に159.3億ドルの一時的・非現金の法人税費用を生じさせた。