この回で開示された組織設計は、感覚で組まれたものではなく、複数の経営学・組織心理学の理論を実装先として選んだ結果だと説明された。本レポートはその理論の中身を扱う。ダイナミック・ケイパビリティ、コンピテンシー・トラップ、両利きの経営、適応的パフォーマンス、ラーニング・アジリティ、トランザクティブ・メモリー・システム。それぞれの出典と、発言との対応関係を確認していく。
後半の講義で示された設計は、その根拠となる理論が一つずつ名指しされている点に特徴がある。「最先端で最も影響力のある経営学の理論をほとんど入れている」という本人の説明どおり、話は理論名・提唱者・定義・評価指標という順で組み立てられていった。本レポートは、そのそれぞれについて出典を確認し、発言と学術的な定義の対応関係を整理する。
骨格は明快である。まずデイビッド・ティースのダイナミック・ケイパビリティを置き、過去の実績で測る評価(オーディナリー・ケイパビリティ)と、環境変化への対応力で測る評価(ダイナミック・ケイパビリティ)を分離する。次にジェームズ・マーチのコンピテンシー・トラップを置き、短期成果を追うと長期の適応能力を失う構造を示す。そこから知の探索と知の深化の対比に進み、両者を同時に回す「両利きの経営」を、経営者とアカデミックを同居させることで構造的に実現しようとする。
個人レベルの評価軸としては、適応的パフォーマンスの8次元と目標志向性理論が引かれ、成果よりも学習プロセスを志向したほうが能力が伸びるという知見が根拠として使われる。さらに、将来のリーダーシップを最も予測するのはIQでも過去の実績でもなくラーニング・アジリティである、という人材アセスメント領域の知見が接続され、「人の現在価値ではなく成長率(スロープ)に投資する」というベンチャーキャピタル的な発想へ着地する。参照した実例として、実績のない人物をトップに据えたYコンビネーターが挙げられた。
最後に、個人の能力が集合知に変換される条件として、トランザクティブ・メモリー・システムと暗黙知の形式知化が置かれる。参加者はそれぞれ異なる事業を営んでおり、その領域では主宰者より詳しい。だが、それがアウトプットされない限り集合知にはならない。だからアウトプットを徹底させるのだ、という接続である。
理論の解説に入る前に、講義の受け取り方について前提が共有されている。本人が持っている価値観は「いま自分が処理できる情報の価値はゼロだ」というものである。分かる/分からないという感情で情報を判断するのではなく、後々パズルのピースとして嵌まることに価値がある。だから、必要なときに嵌まるピースを事前にどれだけ用意しておくかが問題になる。
この前提から、「私でもついていけますか」という質問への定型的な返答が導かれる。第一に、あなたのことをそこまで知らないので測れない。第二に、あなたが理解できることを勉強して何の価値があるのか分からない。分からないことがどうやって分かるようになるか、そのプロセスこそが重要ではないか――という返しである。したがって講師陣に対しても「難しい話をどんどんしてくれて構わない、置いていっても構わない」という指示が出ている。
実際、この回の講義は理論を一つずつ名指しし、ホワイトボードに図を書きながら進行した。以下では、その順序に沿って、理論ごとに出典を確認していく。
最初に置かれた理論が、ダイナミック・ケイパビリティである。本人はこれを「経営学の中でいま最も重視されている」理論と位置づけ、二つのケイパビリティの区別から説明を始めた。
オーディナリー・ケイパビリティとは、既存のビジネスモデルをどれだけ効率よく運営するかに関する能力である。焦点は "doing things right"、すなわち正しく行うことにある。評価指標は売上、利益率、コスト削減、そして過去の実績になる。これに対してダイナミック・ケイパビリティは、環境変化を感知し、資源を再構成して変革する能力である。評価指標は学習速度、ピボットの回数、新結合の創出、環境適応能力へと変わる。
| 項目 | オーディナリー・ケイパビリティ | ダイナミック・ケイパビリティ |
|---|---|---|
| 問い | いまのやり方をどれだけ効率よく回せるか | 環境が変わったときに何をどう組み替えるか |
| 焦点 | doing things right(正しく行う) | doing the right things(正しいことを行う) |
| 評価指標 | 売上・利益率・コスト削減・過去の実績 | 学習速度・ピボット回数・新結合の創出・環境適応能力 |
| 対応する評価思想 | 成果主義 | プロセスと適応能力主義 |
| 証明できること | 特定の市場環境で成果を出せたこと | 環境が変わっても成果を出せる可能性 |
ダイナミック・ケイパビリティは、デイビッド・J・ティース、ゲイリー・ピサノ、エイミー・シュエンが1997年に発表した論文 "Dynamic Capabilities and Strategic Management" で定式化された概念である。変化する環境の要求に合わせて、企業内外の組織的スキル・資源・機能的コンピテンスを適応・統合・再構成する能力、と定義されている。裏取り済
三つの構成プロセス——機会と脅威を感知する(sensing)、戦略行動によって機会を捕捉する(seizing)、変化する市場条件に合わせて組織の資産とルーティンを変革する(transforming)——という整理も、学術的な定義と一致している。
また、オーディナリー・ケイパビリティ(ゼロ次/オペレーショナル能力)が「現在の収益活動を遂行する能力」であり、ダイナミック・ケイパビリティがそれを拡張・修正・創造する一次の能力である、という階層関係も文献どおりである。ティースはダイナミック・ケイパビリティを「企業ごとに固有で、その企業の歴史に根ざしている」と述べており、模倣が難しい理由をそこに置いている。
この区別が、評価制度の話に直結する。過去に大きな金額を稼いだという実績は、その時点の特定市場環境においてオーディナリー・ケイパビリティを持っていたことの証明にはなる。しかし、未来の環境変化にそれが対応できるかを説明できるか――と本人は問うた。時代が変化している以上、それは説明できない。だからこの場では、過去の最適化の結果ではなく、変化のある時代に適応するために知識・経験・思考力をどれだけ持っているかを優遇している、という説明になる。
三段階のうち、この設計の独自性はトランスフォーミングの扱い方にある。理論上は「組織全体をどう変化させるか」を問う段階だが、ここでは個人に焦点を置き換えている。その人自身が変わらなければならない、という位置づけである。だからこそ、講義を担当する講師陣がやっていることは、まさにこのトランスフォーミングの領域なのだ、という説明が加えられた。
センシングの実装についても、具体的な障害が名指しされている。それが「察する文化」である。機会が変化しているのに人が気づいていない。世界中で評価基準が変わり続けている状況で、それを「察しろ」と言われて誰が気づけるのか。だからこの文化を排除する必要がある。代わりに必要なのは、明確な意思決定を促すこと、説得すること、理解してもらうことであり、そこで要求される能力がコミュニケーションとプレゼンテーションである――という接続になる。
次に置かれたのが、壊したい対象としてのコンピテンシー・トラップである。組織学習理論の枠組みであり、提唱者としてジェームズ・マーチの名が挙げられた。主張は、短期的な成果を求めることが同質化につながる、というものである。そして日本人が同質化している理由は短期目線にある、と接続される。定義としては、長期的な適応能力を失う現象、と説明された。
出典は、ジェームズ・G・マーチが1991年に Organization Science 誌へ発表した論文 "Exploration and Exploitation in Organizational Learning" である。新しい可能性の探索(exploration)と、既存の確実性の活用(exploitation)の関係を論じたもので、その中核的な主張は――適応プロセスは探索より活用のほうを速く洗練させるため、短期的には有効だが長期的には自己破壊的になりやすい――というものだった。裏取り済
「コンピテンシー・トラップ」は、この構造を指す用語として広く使われている。企業には探索を犠牲にして活用戦略を強調する傾向があり、それが罠になる。なお、マーチの1991年論文は理論モデルとシミュレーションによるものであり、実証データに基づいていない点は、この分野のレビュー論文でも指摘されている。理論の射程を理解するうえで押さえておくべき前提である。
ここで発言と学術用語の対応について、一点だけ確認しておく必要がある。講義中、日本語の「知の探索」と「知の深化」に英語を当てる場面で、両者の対応が入れ替わって発話された箇所がある。標準的な対応は、知の探索=exploration、知の深化=exploitation である。日本語での議論の内容——「日本人は知の深化しかしていない」「必要なのは知の探索だ」——は一貫して正しく、英語の当て方が口頭で入れ替わっただけと読める。本レポートでは以降、標準的な対応で表記する。
この対比が、コミュニティの構造設計に直結する。コンピテンシー・トラップを構造的に回避する方法として提示されたのが、経営者は知の深化のプロであり、アカデミックは知の探索のプロである。この二つを融合させればよいという組み合わせだった。個人の意志で両方をやろうとするのではなく、異なる専門性を持つ人材を同じ場に同居させることで、構造として両方が回るようにする、という発想である。
この構造には名前がある。両利きの経営、英語では ambidextrous organization である。講義では、この概念を日本で広めた研究者の名を挙げながら、探索と深化を同時に行うことが重要である、と説明された。だからこそ経営者も大量に入れるし、学術的な背景を持つ人も入れる。とりわけアカデミックに重点を置くのは、日本人が知の探索を苦手としているからであり、それはリサーチ能力の欠如として現れる――という接続である。
「両利きの経営」は organizational ambidexterity の訳語で、探索(exploration)と深化(exploitation)を同時に追求する経営を指す。日本では早稲田大学の入山章栄氏が「知の探索」「知の深化」という日本語を当て、著書で広く紹介したことで定着した。氏自身がこの日本語表現を最初に用いたと述べている。裏取り済
知の深化とは、事業の基盤となりうる知を徹底的に深め、繰り返し活用・洗練させて収益化することを指す。知の探索とは、すでに獲得した認知の範囲外にある知を探し、既存の知と新しく組み合わせることを指す。企業が長期にわたって発展するには両方が必要である、という点も本セッションの説明と一致する。
なお、両利きの経営の理論的な整備は、チャールズ・オライリーとマイケル・タッシュマンによる研究が中心であり、マーチ(1991)を出発点として発展してきた系譜にある。日本語の「知の探索/知の深化」は、この系譜を一般向けに翻訳したものと理解すると位置づけが正確になる。
この理論について、参加者から最も実感のこもった反論が出た。両利きの経営は口で言うのは簡単だが、実際にやろうとすると極めて大変である。自分が最もできなかったのがここだった、全部一人でやっていた、という告白である。
これに対する応答が、この回で最も実務的なやり取りになった。だから仲間が必要である。ただし、仲間がいても「収益を上げていないじゃないか」「お前のせいで収益が上がらなくなった」と、あちこちの部署から批判されることになる。それがイノベーションを起こす際の最初の入り口の問題である。そこで参照されたのがスタートアップの構造だった――スタートアップはなぜ収益が上がらなくてよいのか。5年でも10年でも資金調達を続ければよいからであり、そうやって変化を起こすために知の探索を続けている。いまのAI業界がまさにそうだ、という整理である。
ここまでは組織レベルの理論だった。次に、個人をどう評価するかという水準に話が移る。参照されたのは、心理学における適応的パフォーマンス(adaptive performance)の研究と、目標志向性理論である。
従来の評価制度は数字で見えるものを対象にしている。これに対して、この場が評価したいのは数値化しにくいものである。では数値化しにくいものをどう評価するのかというと、突き詰めれば「面白いかどうか」になる、という率直な説明がなされた。そのうえで、適応的パフォーマンスの構成要素が8次元として列挙された。緊急事態と危機への対処、ストレスへの対処、そして対人関係の適応能力(コミュニケーション能力)、文化的適応(新しい環境での適応)、物理的適応、といった項目である。
講義中に言及された研究者名は、Elaine D. Pulakos らを指すものと考えられる。2000年に発表された "Adaptability in the workplace: development of a taxonomy of adaptive performance" が原典で、21職種から1,000件以上のクリティカル・インシデントを分析して8次元を抽出し、Job Adaptability Inventory(JAI)という測定尺度を開発、24職種・1,619名の回答による探索的因子分析で8次元構造を支持した。裏取り済
8次元は以下のとおりである:①緊急事態・危機への対処、②仕事上のストレスへの対処、③創造的な問題解決、④不確実で予測困難な状況への対処、⑤仕事・技術・手順の学習、⑥対人関係における適応性、⑦文化的適応性、⑧身体的適応性。
講義中に読み上げられた項目(緊急事態と危機の対処/ストレスへの対処/対人関係の適応能力/文化的対応/物理的対応)は、この8次元と一致している。音声が一時的に途切れた区間があり中間の次元は聞き取れなかったが、番号と項目の対応から同一の分類を参照していることが確認できる。
もう一つ引かれたのが目標志向性理論である。成果よりも学習プロセスを目指すほうが能力が伸びる、という知見が根拠として提示された。講義中は提唱者名を思い出せないと述べられていたが、これは教育心理学・組織心理学で確立した領域である。
目標志向性(goal orientation)の研究は、キャロル・ドゥエックによる学習目標志向(learning goal orientation)と遂行目標志向(performance goal orientation)の二分法が出発点になっている。学習志向の人は能力の可塑性を信じ、努力によって能力を変えられると考える。遂行志向の人は、否定的な評価を避けつつ自分の能力の十分さを示し、賞賛を得ようとする。裏取り済
その後、1995年の Elliot、1996年の VandeWalle の博士論文により、二因子モデルから三因子モデル(学習/遂行証明/遂行回避)へ拡張された。VandeWalle と Cummings (1997) はさらに、学習志向の従業員はフィードバックを有用な情報として積極的に求め、遂行回避志向の従業員は自己像への脅威と捉えて避ける、という違いを示している。
この最後の知見は、本セッションの運営方針と正確に対応する。「間違ってもいいから壁打ちしに来い」というプロセス主義は、参加者を学習志向側に置くための仕掛けとして機能する。逆に、成果で評価する運営は参加者を遂行回避側に押しやり、フィードバックを避けさせる。
個人の評価軸として最後に置かれたのが、ラーニング・アジリティである。過去の実績でも IQ でもなく、将来のリーダーシップを最も予測するのはこれだ、という研究知見が紹介された。定義は、経験から学び、新しい状況に対応する能力である。固定された理論を持たないという点でアントレプレナーシップの議論と同じことを言っている、という補足も加えられた。
ラーニング・アジリティは、マイケル・ロンバルドとロバート・アイチンガーがリーダーシップ・ポテンシャルの指標として提唱した概念で、経営幹部の成功と失脚(derailment)に関する広範な研究に基づいている。2006年以降はコーン・フェリー社がこの研究を引き継いでいる。裏取り済
ここで発言と公開情報に食い違いがある。講義中は「コーン・フェリーという会社があって、ロミンガーという人がいる」という説明がなされたが、Lominger は人名ではなく会社名である。創業者2名の姓、LOMbardo と eichINGER を組み合わせた造語で、同社は後にコーン・フェリーに買収された。したがって「コーン・フェリー社(旧 Lominger 社)のロンバルドとアイチンガーが提唱した」が正確な表現になる。発言を書き換えず、食い違いとして記録しておく。
モデルの中身は、Lominger の4因子(mental agility/people agility/change agility/results agility)に、コーン・フェリーが self-awareness を第5因子として加えた構成になっている。予測力については、初めて経験する状況で誰が成果を出せるかを予測し、長期的な昇進ポテンシャルと有意に相関する、とされる。
この理論から導かれた実装が、「人の現在価値はどうでもよい。重要なのは成長率、スロープに投資することだ」という方針である。これはベンチャーキャピタル的な考え方を人材評価に持ち込むものだ、と本人は説明した。企業を評価するときと同じように、人に対しても現在の水準ではなく傾きを見る、ということである。
この発想を参考にしたベンチャーキャピタルとして、Yコンビネーターの名が挙げられた。実績のない人物をトップに据えた、という点が具体的な参照ポイントである。
2014年2月、ポール・グレアムはサム・アルトマンをYコンビネーターのプレジデントに指名した。アルトマンは2005年のYC第1期生であり、2011年からパートタイム・パートナーを務めていた。裏取り済
ただし「実績がなかった」という表現には留保が必要である。アルトマンは2005年にYC第1期で Loopt を創業し、同社は2012年に Green Dot へ約4,340万ドルの現金で買収されている。買収後はベンチャーファンド Hydrazine Capital を立ち上げ、Zenefits などへ投資していた。またグレアムは2009年のエッセイで、アルトマンをスティーブ・ジョブズやGoogle創業者らと並べて「最も興味深い創業者5人」の一人に挙げている。
つまり、大企業の経営実績や運営実績はなかったが、創業・売却・投資の実績は存在した。グレアムが後継指名の理由として挙げたのは「YCは成長する必要があり、自分はそれに最適な人物ではない。サムはこの段階のYCが必要としているものだ」という趣旨であり、実績の有無ではなく次の局面への適合性で選んだ、という構図である。この構図自体は、本セッションの「実績ではなく適応能力で選ぶ」という主張とよく合致している。
この実例が、講師陣の人選にそのまま適用されている。講師として立っている人物たちにプレゼンテーションの実績はない、と本人は率直に述べた。実績ベースで考えるなら、著名な講演者に金を払って呼べばよい。しかしそれでは他のコミュニティと何の差もなくなる。求めているのは実績ではなく、一つの物事を多角的に語れること、違う目線からアウトプットできることである、という結論になる。
理論編の最後に置かれたのが、個人の能力が集合知に変換される条件である。組織とはTMS、トランザクティブ・メモリー・システムである、という定義から入った。
参加者はそれぞれ異なる事業を営んでおり、その領域では主宰者本人より詳しい。太陽光に詳しい人、脳に詳しい人、データセンターに詳しい人。したがって、この場は知の集積場所として極めて強い。ただし条件がある――アウトプットしなければ、それは集合知にならない。だからアウトプットが必要なのだ、という接続である。経験という形で言語化されていないものを、言語化することによってコミュニティの基盤が強くなる。
トランザクティブ・メモリー・システム(TMS)は、ダニエル・ウェグナーが1987年に概念化したもので、社会システムにおいて情報を符号化・保存・検索する集合的なシステムを指す。「誰が何を知っているか(who knows what)」のシステムとして知られ、個人が自分の持つ以上の情報にアクセスできるようにする。構成要素は二つ――個人の頭の中にある専門知識と、個人同士を結びつけて専門知識・スキルを協調させる相互作用プロセスである。裏取り済
ここで重要なのは、TMSの本質が「全員が全部を知ること」ではなく認知的分業だという点である。メンバーが異なる領域を分担して記憶し、課題を最も適任のメンバーに割り当て、どの分野で誰に相談すべきかを知る。本セッションの説明——「各自が自分の事業では自分が一番詳しい、だから集積場所として強い」——は、TMSの定義そのものである。
暗黙知の形式知化については、野中郁次郎・竹内弘高『知識創造企業』(1995年)のSECIモデルが該当する。社会化(Socialization)・表出化(Externalization)・連結化(Combination)・内面化(Internalization)の4プロセスで、暗黙知と形式知を相互変換しながら組織が新しい知識を生み出す、という理論である。講義中の「暗黙知をどうやって形式知化させるのか、それがアウトプット能力だ」という説明は、SECIモデルの表出化のプロセスにあたる。
この文脈で、日本の課題があらためて指摘された。日本では暗黙の了解を作り上げて形式知化させないという文化が強く、むしろ察する文化のほうが優位にある。だから形式知化させるという文化がない。したがって、この場では察する文化そのものを排除していかなければならない――という接続である。
そしてもう一つ、成功体験の扱いについての厳しい問いが投げられた。あなたの成功体験は、ビジネスとして再現できる、あるいは学習可能な理論に形式知化できますか――という問いである。そもそもやっていることは運ではないのか、タイミングではないのか、実力ではないのではないか。だからこそ形式知化されなければならない、という論旨だった。この問いは、コミュニティの外にいる読者にとっても、そのまま自己点検の道具になる。