会の後半は、一枚の業界相関図から始まった。NVIDIAを中心に、誰が誰に出資し、誰が誰から買っているのかを時価総額の大きさでプロットする。そこから読み取られたのは、OpenAIがVCとして振る舞う理由、xAIがSPVでバランスシートを軽くする手口、そして経済圏を作ることが成長率ではなくレジリエンスを買う行為であるという構造だった。
後半の議論は、参加者への何気ない問いかけから始まっている。「リサーチするときに、紙に書きやすいように業界の図や図式でまとめている人はいますか」。手を挙げた小島氏が評価され、そこから主催者が実例として提示したのが、NVIDIAを中心に据えたAI業界の相関図だった。サービス面、インベストメント、ベンチャーキャピタルとしての機能、そしてサービスの機能。それぞれの企業がどの役割で繋がっているかを、時価総額(評価額)ベースの大きさでプロットしたものである。
この図で最初に問われたのが、「NVIDIAと似たような動きをしているところが一つあるのが分かりますか」だった。答えはOpenAIである。GPUを供給する側と、AIモデルを提供する側。本来まったく異なるレイヤーにいるはずの二社が、図の上では同じ振る舞い――出資者としての振る舞い――をしている。この一致を見つけたことが、以降の議論すべての起点になった。
そこから話は、イーロン・マスクのファイナンス設計に移る。xAIの資金調達ラウンドは総額200億ドル。うち株式が75億ドル、負債部分が125億ドルに分割されている。ここで登場するのがSPV(特別目的事業体)である。調達しているのはxAI本体ではなくSPVであり、SPVがNVIDIAのGPUを買い、それをxAIに5年間レンタルするという契約になっている。万一プロジェクトが失敗した場合、責任はSPV側に行く。この構造によってxAI本体の総資産と総負債が抑制され、ROICやROAといった資本効率指標の見栄えが良くなる。
議論はさらに、この構造が業界全体に広がっている状態へ向かった。参加者の一人が発した「大いなる循環取引に見える」という指摘に、主催者は「その通りです、そこがポイントです」と即答している。企業どうしが相互にサービスを購入する形を見せることで成長を膨らませ、さらに資金調達をする。それが1990年代後半のドットコムバブル期と同じやり方だ、という位置づけである。ただし彼はそれを一方的な危険信号として扱わなかった。経済圏を作ると各社の収益性は上がりにくくなるが、代わりにレジリエンスが強くなる。ドットコムバブル後に復活できたのは仲間を作っていたからだ、という研究があるという。
ネットで検索してページをめくるのはリサーチではない。関係を図に落とし、有効性のあるリンクから先に埋め、そのうえで何が欠けているかを探す。この順序を守ると、サム・アルトマンが明言していない戦略も、ロードマップの日付の重なりから逆算できる。相関図はきれいなアウトプットのためではなく、断片的な情報を全体像に変換するための作業机である。
「三」をめぐる議論が一区切りついた直後、主催者が唐突に投げたのがこの問いだった。リサーチするとき、紙に書きやすいように、分かるように業界の図や図式でまとめている人はいますか、と。手を挙げたのは小島氏で、「さすが掘りちゃん、小島さん」という評価が返っている。
この問いかけが単なる話題転換でなかったことは、直前の議論を振り返ると分かる。その少し前まで、参加者たちは認知の限界としては三が上限で、それを数や文字に起こしてやることで四まで拡張でき、知の限界を突破できるという結論に到達していた。図に描くという行為は、まさにその「外部化による拡張」の実装である。手を挙げた人がいるかを確認したうえで、主催者は自分が使っている図をその場で共有した。話題転換ではなく、抽象論から実装への接続だった。
なお、この日の講義本編である比喩の三類型、その後のナラティブ論、そして冒頭の三菱重工・中国の雑談は、それぞれ別のレポートに収めている。本レポートは後半の分析手法とAI業界の構造に絞る。
提示された図は、AI業界をNVIDIA中心のエコシステムとして描いたものだった。軸として置かれていたのは四つの機能である。サービス面、インベストメント(出資)、ベンチャーキャピタルとしての機能、そしてサービスの機能。企業の大きさは金額ベース、正確には時価総額あるいは評価額でプロットされている。Googleとamazonは図に含まれていない一方、Oracleの大きさが目立つことが参加者から指摘された。
この図を使って主催者が投げた三つの問いが、そのまま図の使い方の説明になっている。第一に、NVIDIAと似たような動きをしているところが一つあるのが分かるか(答え:OpenAI)。第二に、OpenAIの儲け口が分かるか。第三に、自分がCoreWeaveを挙げた理由が分かるか。図を見せて答えを言うのではなく、図から読み取らせるという使い方である。
主催者の説明はこうである。図に見える形でやっていかないと、情報が断片的になってしまう。YouTubeでの発信もここでの講義も、断片的に見えていると断片的な会話しかできず、結果として全体像が見えない状態になる。目に見える形で、業界ごとに絞って描くことで初めて、隙間がどこにあり、どこを判断すべきかが特定できる。
描く対象の選び方についても具体的な指針が示された。国でもよい。中国との関係、中国の経済圏がどうなっているか、どういう契約になっているかを見ると、中国の戦略が非常に透明化されてくる。業界でもよいし、自分の業界でもよい。ただし大きな業界からやったほうがリサーチ方法が分かりやすい。理由は情報量が多いからである。ベンチャーキャピタル、銀行関連でも同じ図が描ける、という応用例も挙がった。
企業ではなくサービスで描く方法もある、という展開も示された。例えばGAFAMでやるなら、Amazon、Google、Meta、Apple、Microsoftのあいだにどういう共通サービスがあるかを並べ、これは仲がいい、これは仲が悪い、という単純なところからライバル関係を洗い出す。するといずれどこでぶつかるだろうという地点が見えてくる。
その実例として語られたのが、イーロン・マスクとマーク・ザッカーバーグがいずれ衝突するという主催者の予測の根拠だった。論点はARグラス、より広くはVR・AR・複合現実のグラスである。これらはリアルタイムでインドア(屋内)の情報を取れる。一方でテスラは車でしか走っていないので、アウトドアの情報しか取れない。ロボティクスを進めるうえでは屋内情報のほうが希少価値が高いのではないか、という推論である。
だとすれば、屋内情報を最も多く取っているのはMetaと、AppleのVision Proだ。ここからザッカーバーグとティム・クックの関係がさらに悪化する、Vision ProがMetaより売れればマスクがAppleを攻撃する可能性がある、さらに屋内情報という切り口ではAmazonのAlexaも出てくるのでMetaとAmazon、AppleとAmazon、マスクとAmazonがそれぞれ揉める――という連鎖が導かれた。予測の当否とは別に、相関図から次の衝突点を絞り出すという手順そのものがここで実演されている。
図から読み取られた最初の答えが、OpenAIがベンチャーキャピタルの役割をしている、という点だった。主催者はその狙いを「すごく単純な、原始人的なビジネス方法」と表現している。
構造はこうである。OpenAIはNVIDIAからGPUを買える。それを、自分たちが出資している会社に売り付ける。あるいはレンディングする。つまり小さなスタートアップのAI企業に投資しているのは、そこへ計算資源を流し込むための布石になっている、という読み方である。出資は純粋な投資ではなく、自社が確保したハードウェアの出口を作る行為として設計されている。
会話の中で、OpenAIについて「2年間の売上も100億ドルぐらいしか上がっていないが、年間で必要な予算は800億ドルぐらい必要になってくる」という数字が語られた。この点は公開情報と部分的に食い違う。
2026年に流出したとされる監査済み財務諸表に関する報道によれば、OpenAIの2025年通年の収益は約130億ドル、総コスト・支出は約340億ドルとされる。同社に帰属する純損失は約385億ドルに膨らんだが、その主因は非営利から営利への転換に伴う約415億ドルの非現金の会計調整であり、これを除いた運営レベルの損失は約209億ドル、純損失は約80億ドルと報じられている。同年にMicrosoftへ支払った総額は約172億ドルとされる。
つまり売上の水準(100億ドル規模)は発言とほぼ整合する一方、「年間800億ドルの予算」は2025年時点の実際の支出(約340億ドル)の倍以上にあたる。発言が将来の計算資源コミットメントの総額を年換算で述べたものなのか、単年の必要予算を述べたものなのかは文脈からは判別できない。この数字を引用する場合は、どの年のどの費目を指すのかを必ず特定すること。
主催者の整理では、OpenAIには三つの選択肢がある。一つ目が資金調達の模索。二つ目が売上を上げること。そして三つ目がコストをどう削減するかである。これだけ契約したのだからコスト削減をしなければならない、という文脈で締結されたのがBroadcomとの契約だ、という説明が続いた。
その根拠として挙げられたのが、Google自身がBroadcomを使ってAI関連でかなりのコスト削減に成功しているという成功体験である。だからOpenAIもBroadcomと組み、エッジコンピューティングや自社半導体の部分を共同制作する。ここで重要なのは、今回リスクを負っているのはOpenAIではなくBroadcomのほうだ、という指摘だった。
ではなぜBroadcomがそこまでして組むのか。参加者からの問いに対する答えは端的だった。OpenAIには金がないがBroadcomには金がある。そして「みんなやっちゃってるから」――つまり競合が既に動いている以上、乗らないという選択肢がなくなっている、という説明である。
この提携は勉強会の3日前にあたる2025年10月13日に公式発表されている。内容は、OpenAIが設計するAIアクセラレータを10ギガワット規模で共同開発・展開するというもので、OpenAIがアクセラレータとシステムを設計し、Broadcomがそれを開発・展開する。ラックはBroadcomのイーサネットその他の接続ソリューションで構成され、2026年後半に展開を開始し、2029年末までに完了する計画とされている。発表を受けてBroadcom株は約9%上昇したと報じられた。
したがって、発言の「Broadcomと契約した」「エッジや自社半導体を共同制作する」という認識は正確である。加えて、展開開始時期が2026年後半とされている点は、後述するPART 5の「2026年末に各社のロードマップが重なる」という読みを裏付ける材料になっている。
この回で最も技術的だったのが、xAIの資金調達スキームの解説である。主催者はこれを「イーロン・マスクがファイナンスを理解している一つのポイント」と位置づけた。
構成はこうである。今回の資金調達ラウンドは総額200億ドル。そのうち75億ドルが株式で、残る負債部分が125億ドルに分割されている。NVIDIAはここからさらに20億ドルほどを出資する。そしてマスクの得意技として登場するのがSPV、つまり特別目的事業体である。
調達しているのはxAI本体ではない。SPVが調達し、SPVがNVIDIAのプロセッサ(GPU)を買い、そのGPUをxAIに5年間レンタルする契約を結ぶ。したがって万一プロジェクトがうまくいかなかった場合、責任はxAIではなくSPV側に行く。
この構造が何をもたらすかが、主催者の説明の核心だった。GPUという資産をあえてSPVに置くことで、xAI本体の総資産と総負債を抑制する。するとROICやROAといった資本効率の指標で見栄えが良くなる。今のところ他社はGPUを自社で抱え込み、バランスシートの総資産に入れている。それに対してxAIはSPVへのレンディングという形にすることで、本体の収益だけがプラスになっていく仕組みを作り、黒字化するAI企業に見せられる。
さらに調達コストの側面も指摘された。株式と負債を使い分けてSPVを組み合わせることで、WACC(加重平均資本コスト)を引き下げられる。調達コストはxAIがSPVに払い、SPVがそれを負担する。結果として、レンディングの支払いだけで負債コストの部分を下げるという「化粧」ができる。xAIの見栄えは、ものすごく儲かる企業のように見える。そうなればさらに資金調達がしやすくなる、という循環が生まれる。
この設計の全体像として、XホールディングスというホールディングスのもとにxAIやXを置き、その傘下にSPVを配置するという構造が紹介された。スタートアップの資金の見せ方を極めてうまくするために、あえてこの持株会社構造を採っている、という読み方である。
図1:xAIの資金調達ラウンドの構成(億ドル。出典:報道内容をClaudeが検索で確認して作図)
発言中の数字はいずれも公開報道と整合している。2025年10月、xAIが資金調達額を200億ドル規模に拡大すると報じられ、その内訳は株式部分が約75億ドル、債務部分が最大125億ドルとされた。NVIDIAは株式部分に最大20億ドルを出資する見込みと報じられている。
SPVの仕組みについても、報道された内容は発言と同じである。SPVが金融市場から資金を借り入れ、その資金でNVIDIA製GPUを購入し、購入したGPUをxAIにリースする。これによりxAIは自社のバランスシートを直接毀損することなく巨額のGPUを確保できる、と整理されている。
なお、こうしたスキームは会計上の効果と経済的実態が乖離しうる典型例でもある。SPVがオフバランスとして扱われるか連結対象となるかは、支配の有無や変動リターンへのエクスポージャーによって決まるため、「SPVに置けば必ずバランスシートから消える」わけではない点は注意が必要である。実際の会計処理がどうなっているかは、開示資料で個別に確認する必要がある。要確認
SPVの説明を聞いた参加者の一人が発したのが、この回で最も鋭い一言だった。「でも、大いなる循環取引に見えるんで」。主催者の応答は即座で、しかも肯定である。「その通りです。そこなんです、ポイントは」。そして「一回外れると終わり」という短い警告が添えられた。
ここから主催者は、当初は翌日のYouTubeで話す予定だったという内容を前倒しで説明した。今アメリカの企業が巨大に組織化されていくなかで、AI企業どうしがクロスセルの状態にある。企業がお互いのサービスを購入する形を見せかけて成長を膨らませ、さらに資金調達をする。一つのコミュニティのようになっている、という描写である。そしてこれが1990年代後半のドットコムバブル期のやり方と同じだと指摘された。
ただしこの手法は、必ず失敗するわけではない。成功例として挙がったのがPayPalマフィアである。メンバーがそれぞれ会社を作り、互いに経済圏を形成していった結果、技術がどんどん汎用的になり、各種の調整もできるようになり、豊富な人材ネットワークもできて、うまくいった。Salesforceも同様のやり方をとり、ソフトウェアの領域で継続的な資金調達を可能にした、という説明が続く。
一方の失敗例として挙げられたのが、アメリカの通信キャリア、ドットコムバブル期の各社、そして暗号資産の領域である。TerraとLunaは、まさに経済圏を作ってクロスセルを行い失敗した例として名指しされた。そして「最悪なやつ」として挙げられたのがFTXである。サム・バンクマン=フリードの名前がその場で思い出せず、参加者の池田氏が「FTX」と補ったやり取りが記録されている。ヘッジファンドの事例も同種の失敗として言及された。
| 類型 | 事例 | 結果 | 差を分けた要因(発言に基づく整理) |
|---|---|---|---|
| 成功 | PayPalマフィア | 技術の汎用化と人材ネットワークの形成 | 経済圏が実体のある技術・人材の蓄積を伴った |
| 成功 | Salesforce | ソフトウェア領域で継続的な資金調達を実現 | クロスセルの先に実需があった |
| 失敗 | 米通信キャリア/ドットコム各社 | 崩壊 | バーター的な取引が実需を伴わなかった |
| 失敗 | Terra/Luna | 経済圏ごと崩壊 | 循環が自己参照的で、外部からの需要がなかった |
| 失敗 | FTX | 破綻 | 同上。主催者は「最悪なやつ」と評した |
現状評価として置かれたのが、アメリカが今作ろうとしているのは経済圏のクロスセルで市場規模を大きく見せる構造であり、まだB2Cのところにあまりリーチできていないという指摘だった。高い製品が売れているわけではなく、ChatGPTの契約が月20ドル程度、その水準でしかできていない。誇大広告が可能になっているのは循環経済圏を作ったからであり、それが今のAIの現状だ、という結論である。
図2:OpenAIの2025年の収益と支出(億ドル。流出したとされる財務諸表に関する報道をもとにClaudeが作図)
この文脈で、ウォルマートがOpenAIと契約して株価が上がったという参加者からの補足が入り、「OpenAIが指標になっている」という評価が共有された。
この提携は勉強会の2日前にあたる2025年10月14日に発表されている。ChatGPTのアプリ内で食料品や日用品の買い物プランを立て、ウォルマートから直接商品を購入できるようになるというもので、ユーザーは「購入」ボタンをクリックするだけで決済まで完結する。発表は好意的に受け止められ、ウォルマート株はニュース後に上昇したと報じられた。背景としては、生成AI搭載の買い物支援ツール「Rufus」を先行投入していたAmazonとの差を縮める狙いが指摘されている。
この事例は、PART 4で指摘された「まだB2Cにリーチできていない」という評価に対する、まさに反例の候補として位置づけられる。会話の時点では最新ニュースとして扱われていたが、これがB2Cへの本格的な到達なのか、それとも経済圏の拡張の一環なのかは、その後の実績で判定すべき論点である。
参加者から、AMDとOracleの動き、そしてOpenAIがNVIDIAと近い関係を築いているならAMDやOracleとも同様のリンクができるのではないか、という予測が示された。主催者はこれを肯定したうえで、より具体的な根拠を提示している。それが製品ロードマップの日付である。
NVIDIAのVera Rubinが2026年待ち。AMDのMI450も2026年待ち。そしてBroadcomの新しいラックシステムも2026年末。三社の新製品が2026年末にかなり重なっている。ということは、最強企業のリソースが一気にOpenAIに集まるという流れをサム・アルトマンが組んでいる、という戦略が見える――というのが主催者の読みだった。
サム・アルトマンは戦略をかなりぼかしており、明言していない。だからこちら側で予想するしかない。しかしあらゆる分散された情報をパズルのように組み合わせていくと、そういう予測が立てられる――これが主催者の説明である。水面下で何が話されているかは分からないが、今出ている外部的な状況だけでもこのくらいの判断はできる。ちゃんとリサーチしておけば、という話だ、と。そして「これが当たるか外れるかは分からない」と自ら留保を置いている。
展開のシナリオは二方向で示された。NVIDIAとAMDが食い合う可能性もあるが、逆にうまくいった場合はOpenAIのバリュエーションが一気に上がり、さらに資金調達できるという流れになる。加えて、株式取得ができるということはOpenAIがAMDの株式を取得できるということであり、取得した株式を担保にまた借入をしてくるだろうという予測も添えられた。これも見越しているはずだ、という読みである。
各社のロードマップについて、公開情報は発言と整合する。NVIDIAは次世代AIプラットフォーム「Vera Rubin」を2026年後半にパートナー各社経由で提供するとしており、北米のクラウド事業者への初期出荷は2026年7月からと報じられている。AMDは「最先端のAIアクセラレータ」と位置づけるMI450を2026年に投入するとしており、MI400シリーズの本格的な立ち上がりは2026年後半、フル生産は2027年初頭にずれ込む可能性も指摘されている。BroadcomとOpenAIの共同開発ラックは2026年後半に展開開始とされている。
したがって「2026年末に三社のロードマップが重なる」という観察は、公表情報から確認できる。ただし発言では「2026年末」で揃うとされていたのに対し、公開情報では2026年後半から2027年初頭にかけて幅がある。特にAMDについてはフル生産が2027年にずれる可能性が報じられており、完全に同一時点で揃うわけではない。時期を根拠に判断する場合は、この幅を織り込む必要がある。
参加者からは、この時期に向けてSKハイニックス、マイクロン、サムスンといったメモリ各社にも別の動きが出てくるのではないか、という指摘が入り、主催者も同意している。xAIがサムスンと組んでいる動きも、2026年末に向けてより明確化してくる部分があるだろう、という見立てだった。
会の終盤、上野氏がマーケット全体のリスクを整理する形で問いを立てた。2026年末に向けて、このままの巡航速度で行けるのか、それとも間に何かが起こるのか。大きな金利上昇は考えにくいなかで、どういうリスク要因が顕在化するかが自分の頭のなかでまだ出てきていない、という率直な留保である。
これに対する主催者の応答が、この回で最も構造的な指摘だった。こういう経済圏を作ると、各企業が食い合うため収益性は上がりにくくなる。これは過去の研究で出ている。しかし、日本の自動車メーカーが潰れなかった理由の一つは、トヨタグループのようにアライアンスを組んだことで、他の企業が死んだときに自分たちにもデメリットが出る状態を作り、みんなが救いにかかる構造ができていたからだ、と。全体的に成長率は伸びにくくなるが、レジリエンスの部分がかなり強くなる。
各社が独立して競争するため、勝者の収益性は高くなりうる。しかし一社が崩れたときに助ける主体がおらず、そのまま退出する。成長率は高いが生存率は低い。
相互にサービスを買い合うため各社が食い合い、収益性は上がりにくい。しかし一社の崩壊が全員のデメリットになるため、崩れても救済が働く。成長率は低いが生存率は高い。
そしてこれこそが、前回のITバブル時にアメリカが得た成功体験の一つだ、という位置づけがなされた。一度崩れたが盛り返した。仲間を作っていたことで成長はしにくくなったが、結果として死ななかった。今回もそれを意図的に再現しているのではないか、という読み方である。
上野氏はこれを受けて、「バブル崩壊という認識はないが、どちらかというとレジリエンスのほうにわざと傾けているのは、AI自体の収益性がまだ上がってこないから見込めず、お互いに協調し合わないと次のステップに進めないと判断しているように見える」と要約した。主催者はこれに同意したうえで、もう一つの理由を加えている。誇大な広告を打つためには実績が必要になる。お互いにクロスセルをやっている状態なので、ボリュームが大きくなっていくのは事実である、と。
ここで具体的な数字が出た。主催者の説明では、NVIDIAの売上高の5割から6割が3社ないし4社で決まってしまっている。時価総額が大きい企業で、一つの顧客に売上の15%程度のシェアを取られているケースはなかなかない。だから一社が崩れたら思い切り下がってしまう。だからこそ分散させなければならないし、同時にレジリエンスを高めることも必要になる。
そして一般則として置かれたのが、「でかくなったら基盤を作る」という言い方である。強くして大きくなったら基盤を作る。これが会社の基本ではないか、と。同じように業界も、大きくなったら基盤作りという流れだと思ったほうがいいかもしれない、という締めくくりだった。「ぜひでずっと突っ込んでいくよりも」という一言が添えられている。
図3:NVIDIAの直接顧客の集中度(2025年1月期・10-Kに関する報道ベース。発言の「一社15%」とは異なる数値である点に注意)
発言では「一つの顧客に売上の15%程度のシェアを取られている」とされたが、公開情報ではこれより高い。NVIDIAの2025年1月期の10-Kに関する報道によれば、最大の直接顧客が売上の22%、2番目が14%を占めており、上位2社だけで約36%に達する。さらにその後の四半期では、顧客Aが23%、顧客Bが16%で、2社だけで約39%を占めたと報じられている。上位10社では約40〜50%を占めるという推定もある。
つまり「上位数社で売上の過半」という発言の方向性は正しいが、単一顧客の比率は発言の15%より高い22〜23%の水準にある。集中リスクの評価としては、発言はむしろ過小に述べていたことになる。この数字を使う場合は、NVIDIAが10-Kで開示している「直接顧客」の定義(最終ユーザーではなく、OEMやシステムインテグレーターなどを含む販売相手)を確認したうえで用いること。
上野氏から出た次の問いが、電力供給は2026年ごろまでに整備されるのか、というものだった。この論点はデータセンター投資の物理的な制約に直結する。
主催者の回答は、以前ファクトフルネスをテーマに話した内容の再提示だった。電力自体がすべて使われているわけではない。だいたい稼働の6割程度しか使われておらず、上限値はデータセンター側がきちんと決めている状態である。したがって大規模なブラックアウトにつながるようなことはない、という説明である。
加えて、その安定性を支える要素として蓄電が挙げられた。テスラなどが手掛ける蓄電池での貯蔵ビジネスが非常に伸びており、その需給を見ていってもよい、という指摘である。テスラ以外にも蓄電を手掛ける企業はあるが、やはりテスラが強い、という評価が添えられた。
この流れから、三菱重工などもエネルギーの貯蔵に取り組もうとしているという話に移り、同社の海外展開をめぐる議論へ接続していく。その部分は本レポートの主題から外れるため、別のレポートで扱っている。
「電力の稼働の6割程度しか使われていない」という数値は、勉強会内で以前扱った内容の再提示として語られたもので、出典が明示されていない。データセンターの契約電力と実使用電力に乖離があること自体は業界で広く指摘されている論点であり、電力系統への接続申請容量が実需を大きく上回る「幽霊需要」の問題としても議論されている。ただし「6割」という具体的な比率が、どの地域・どの時点・どの母集団に対する数字なのかは本セッションでは特定できていない。
電力制約をリスク要因として評価する際は、系統接続の待ち行列、変電設備のリードタイム、発電新設のリードタイムという三つを分けて見る必要がある。「使われていない電力がある」ことと「必要な場所に必要なタイミングで届く」ことは別問題である。
相関図の説明のなかで、主催者は自分が教えてきた人のなかで最初にこれを自然にやっていた人物として、アミル氏の名前を挙げた。彼女は小学4年生、9歳のときから業界ごとに全部これをやっていたという。
その方法は具体的である。全部絵に描いて、関係値を線で紐付けて、そこにコメントを全部書き込み、関係を探る。講義を聞いて自分で勉強し、それを全部絵にまとめて、画用紙1枚に大きくまとめていた。講義中はずっとランダムに書き続け、その後に自分で用紙にまとめ、会社の関係も自分で調べて清書し、それをアウトプットとして提出していた。指示を出していないのに自分でやっていた、というのが主催者の説明である。理由は「絵に描いたほうが分かるじゃん」という一言だった。
この話に対して参加者から、自分は同種の図をモルガン・スタンレーのリサーチで見たことがある、という反応が返っている。プロのリサーチ部門が使う道具を、9歳が自発的に採用していた、という対比がここで成立した。
前田氏から、この手法で最も有効なのはミッシングリンクを探すことではないか、という提案が出た。こことここがまだ繋がっていない、という空白の部分である。特に技術やサービス面が最もやりやすいという実感を持っており、そこを見ていくことで予測精度が上がるのではないか、という仮説だった。そのうえで、主催者は繋がりと拡大の方向で見ているように受け取れたが、両方を併用しているのか、拡大方向を見つけるのか、エコシステムの変化率で見るのか、という質問が続いた。
主催者の答えは、順序の問題として整理された。今の図は半導体とAIの制作という部分だけの図になっている。ここからNVIDIAの派生先としてWistronやGigabyteなどへ広げていくと、逆にミッシングリンクだらけになって見出せなくなる。だから、あくまで有効性のあるリンクからまず作り、そのうえで何がミッシングしているのかを調べたほうが合理的である。
主催者の説明はこうである。ミッシングリンクから入ると、ほとんどがミッシングリンクになってしまう。AIのスタートアップが何千社あるか分からない状態なら、ほとんどがミッシングになる。そうすると切りがなくなる。関係値が分かったからこそ「ここが欠けているよね」と見えるのであって、逆ではない。前田氏はこれを「漏れが少ないところですね」と要約し、主催者も同意した。
そのうえで主催者は次の段階を示している。技術を学んでいけば、その先で「こことここが提携したらここの牙城を崩せるよね」というものが分かってくる。そうすると、あるM&Aがより合理的だったのかどうかも見えてくるのではないか、という予測の立て方である。
会の締めくくり近く、主催者が前田氏に「さっきのリサーチのところで、みんな顔が歪んでいたのはなぜか」と尋ねた。前田氏の答えは、技術の繋がりの話になると顔がどんどん下を向いていく人がいた、というものだった。おそらくそのあたりに触れていない情報だからではないか、という推測である。
主催者の応答は突き放したものだった。業界リサーチとはこんなものではないか。周りがどれだけリサーチしているか分からないが、自分はコンサルに入るときはここまで徹底的にリサーチしたうえで入る、と。そして最も重要な定義がここで示される。
リサーチとは、何かを教えてもらうのではなく、自分でどこまで考えを広げられるかである。人に聞いてどうこうできるものではない。人から渡されたもので判断することをリサーチだと思っている人はかなりいるが、それはリサーチではなく「ただ単に見ただけ」「情報を受けたにすぎない」――そう捉えるべきではないか、というのが主催者の整理だった。前田氏は「それは間違いないと思います」と応じている。
この定義は、この日の冒頭で繰り返された「動画を見てから来い」という要求と同じ構造を持っている。渡された情報を受け取るだけでは前提が共有されず、話が噛み合わない。図を描くという行為は、受け取った情報を自分の側で再構成する作業であり、だからこそリサーチと呼ばれる。会の最後に主催者が「僕の意見を無視して、今日はYouTubeを見てこいと言ったのに見てこない人もいた」と言い添えたのは、この一貫性の確認だった。
なお、この日は最後に次回の予告が入っている。次の金曜日の講義は韓国から行うかもしれない、という連絡である。