STUDY REPORT / 2025年10月度 勉強会

相関図で読むAI循環経済圏――SPVで軽くしたバランスシートと、2026年末に重なるロードマップ

会の後半は、一枚の業界相関図から始まった。NVIDIAを中心に、誰が誰に出資し、誰が誰から買っているのかを時価総額の大きさでプロットする。そこから読み取られたのは、OpenAIがVCとして振る舞う理由、xAIがSPVでバランスシートを軽くする手口、そして経済圏を作ることが成長率ではなくレジリエンスを買う行為であるという構造だった。

EXECUTIVE SUMMARY

図に落とすと、契約書に書かれていない意図が見えてくる

200億ドルxAIの資金調達ラウンド総額(株式75億+負債125億)
20億ドルNVIDIAがxAIの株式部分へ出資する額
5年SPVが購入したGPUをxAIへ貸し出す契約期間
2026年末主要各社の新製品ロードマップが重なる時点
5〜6割NVIDIAの売上のうち上位3〜4社が占めるとされた比率(発言)
6割データセンターで実際に使われている電力の稼働率

後半の議論は、参加者への何気ない問いかけから始まっている。「リサーチするときに、紙に書きやすいように業界の図や図式でまとめている人はいますか」。手を挙げた小島氏が評価され、そこから主催者が実例として提示したのが、NVIDIAを中心に据えたAI業界の相関図だった。サービス面、インベストメント、ベンチャーキャピタルとしての機能、そしてサービスの機能。それぞれの企業がどの役割で繋がっているかを、時価総額(評価額)ベースの大きさでプロットしたものである。

この図で最初に問われたのが、「NVIDIAと似たような動きをしているところが一つあるのが分かりますか」だった。答えはOpenAIである。GPUを供給する側と、AIモデルを提供する側。本来まったく異なるレイヤーにいるはずの二社が、図の上では同じ振る舞い――出資者としての振る舞い――をしている。この一致を見つけたことが、以降の議論すべての起点になった。

そこから話は、イーロン・マスクのファイナンス設計に移る。xAIの資金調達ラウンドは総額200億ドル。うち株式が75億ドル、負債部分が125億ドルに分割されている。ここで登場するのがSPV(特別目的事業体)である。調達しているのはxAI本体ではなくSPVであり、SPVがNVIDIAのGPUを買い、それをxAIに5年間レンタルするという契約になっている。万一プロジェクトが失敗した場合、責任はSPV側に行く。この構造によってxAI本体の総資産と総負債が抑制され、ROICやROAといった資本効率指標の見栄えが良くなる。

議論はさらに、この構造が業界全体に広がっている状態へ向かった。参加者の一人が発した「大いなる循環取引に見える」という指摘に、主催者は「その通りです、そこがポイントです」と即答している。企業どうしが相互にサービスを購入する形を見せることで成長を膨らませ、さらに資金調達をする。それが1990年代後半のドットコムバブル期と同じやり方だ、という位置づけである。ただし彼はそれを一方的な危険信号として扱わなかった。経済圏を作ると各社の収益性は上がりにくくなるが、代わりにレジリエンスが強くなる。ドットコムバブル後に復活できたのは仲間を作っていたからだ、という研究があるという。

セッションを貫く1本の線

ネットで検索してページをめくるのはリサーチではない。関係を図に落とし、有効性のあるリンクから先に埋め、そのうえで何が欠けているかを探す。この順序を守ると、サム・アルトマンが明言していない戦略も、ロードマップの日付の重なりから逆算できる。相関図はきれいなアウトプットのためではなく、断片的な情報を全体像に変換するための作業机である。

PART 0

「図でまとめている人はいますか」という問いかけ

「三」をめぐる議論が一区切りついた直後、主催者が唐突に投げたのがこの問いだった。リサーチするとき、紙に書きやすいように、分かるように業界の図や図式でまとめている人はいますか、と。手を挙げたのは小島氏で、「さすが掘りちゃん、小島さん」という評価が返っている。

この問いかけが単なる話題転換でなかったことは、直前の議論を振り返ると分かる。その少し前まで、参加者たちは認知の限界としては三が上限で、それを数や文字に起こしてやることで四まで拡張でき、知の限界を突破できるという結論に到達していた。図に描くという行為は、まさにその「外部化による拡張」の実装である。手を挙げた人がいるかを確認したうえで、主催者は自分が使っている図をその場で共有した。話題転換ではなく、抽象論から実装への接続だった。

なお、この日の講義本編である比喩の三類型、その後のナラティブ論、そして冒頭の三菱重工・中国の雑談は、それぞれ別のレポートに収めている。本レポートは後半の分析手法とAI業界の構造に絞る。

PART 1

相関図という道具――何を軸に描くか

提示された図は、AI業界をNVIDIA中心のエコシステムとして描いたものだった。軸として置かれていたのは四つの機能である。サービス面、インベストメント(出資)、ベンチャーキャピタルとしての機能、そしてサービスの機能。企業の大きさは金額ベース、正確には時価総額あるいは評価額でプロットされている。Googleとamazonは図に含まれていない一方、Oracleの大きさが目立つことが参加者から指摘された。

この図を使って主催者が投げた三つの問いが、そのまま図の使い方の説明になっている。第一に、NVIDIAと似たような動きをしているところが一つあるのが分かるか(答え:OpenAI)。第二に、OpenAIの儲け口が分かるか。第三に、自分がCoreWeaveを挙げた理由が分かるか。図を見せて答えを言うのではなく、図から読み取らせるという使い方である。

図に落とすと何が変わるか

主催者の説明はこうである。図に見える形でやっていかないと、情報が断片的になってしまう。YouTubeでの発信もここでの講義も、断片的に見えていると断片的な会話しかできず、結果として全体像が見えない状態になる。目に見える形で、業界ごとに絞って描くことで初めて、隙間がどこにあり、どこを判断すべきかが特定できる。

大きな業界から始めたほうが速い

描く対象の選び方についても具体的な指針が示された。国でもよい。中国との関係、中国の経済圏がどうなっているか、どういう契約になっているかを見ると、中国の戦略が非常に透明化されてくる。業界でもよいし、自分の業界でもよい。ただし大きな業界からやったほうがリサーチ方法が分かりやすい。理由は情報量が多いからである。ベンチャーキャピタル、銀行関連でも同じ図が描ける、という応用例も挙がった。

企業ではなくサービスで描く方法もある、という展開も示された。例えばGAFAMでやるなら、Amazon、Google、Meta、Apple、Microsoftのあいだにどういう共通サービスがあるかを並べ、これは仲がいい、これは仲が悪い、という単純なところからライバル関係を洗い出す。するといずれどこでぶつかるだろうという地点が見えてくる

ARグラスをめぐる衝突の予測

その実例として語られたのが、イーロン・マスクとマーク・ザッカーバーグがいずれ衝突するという主催者の予測の根拠だった。論点はARグラス、より広くはVR・AR・複合現実のグラスである。これらはリアルタイムでインドア(屋内)の情報を取れる。一方でテスラは車でしか走っていないので、アウトドアの情報しか取れない。ロボティクスを進めるうえでは屋内情報のほうが希少価値が高いのではないか、という推論である。

だとすれば、屋内情報を最も多く取っているのはMetaと、AppleのVision Proだ。ここからザッカーバーグとティム・クックの関係がさらに悪化する、Vision ProがMetaより売れればマスクがAppleを攻撃する可能性がある、さらに屋内情報という切り口ではAmazonのAlexaも出てくるのでMetaとAmazon、AppleとAmazon、マスクとAmazonがそれぞれ揉める――という連鎖が導かれた。予測の当否とは別に、相関図から次の衝突点を絞り出すという手順そのものがここで実演されている。

PART 2

OpenAIがVCとして振る舞う理由

図から読み取られた最初の答えが、OpenAIがベンチャーキャピタルの役割をしている、という点だった。主催者はその狙いを「すごく単純な、原始人的なビジネス方法」と表現している。

構造はこうである。OpenAIはNVIDIAからGPUを買える。それを、自分たちが出資している会社に売り付ける。あるいはレンディングする。つまり小さなスタートアップのAI企業に投資しているのは、そこへ計算資源を流し込むための布石になっている、という読み方である。出資は純粋な投資ではなく、自社が確保したハードウェアの出口を作る行為として設計されている。

📌 Claude補足:OpenAIの収支と「800億ドル必要」という発言の検証

会話の中で、OpenAIについて「2年間の売上も100億ドルぐらいしか上がっていないが、年間で必要な予算は800億ドルぐらい必要になってくる」という数字が語られた。この点は公開情報と部分的に食い違う。

2026年に流出したとされる監査済み財務諸表に関する報道によれば、OpenAIの2025年通年の収益は約130億ドル、総コスト・支出は約340億ドルとされる。同社に帰属する純損失は約385億ドルに膨らんだが、その主因は非営利から営利への転換に伴う約415億ドルの非現金の会計調整であり、これを除いた運営レベルの損失は約209億ドル、純損失は約80億ドルと報じられている。同年にMicrosoftへ支払った総額は約172億ドルとされる。

つまり売上の水準(100億ドル規模)は発言とほぼ整合する一方、「年間800億ドルの予算」は2025年時点の実際の支出(約340億ドル)の倍以上にあたる。発言が将来の計算資源コミットメントの総額を年換算で述べたものなのか、単年の必要予算を述べたものなのかは文脈からは判別できない。この数字を引用する場合は、どの年のどの費目を指すのかを必ず特定すること。

コスト削減という第三の道

主催者の整理では、OpenAIには三つの選択肢がある。一つ目が資金調達の模索。二つ目が売上を上げること。そして三つ目がコストをどう削減するかである。これだけ契約したのだからコスト削減をしなければならない、という文脈で締結されたのがBroadcomとの契約だ、という説明が続いた。

その根拠として挙げられたのが、Google自身がBroadcomを使ってAI関連でかなりのコスト削減に成功しているという成功体験である。だからOpenAIもBroadcomと組み、エッジコンピューティングや自社半導体の部分を共同制作する。ここで重要なのは、今回リスクを負っているのはOpenAIではなくBroadcomのほうだ、という指摘だった。

ではなぜBroadcomがそこまでして組むのか。参加者からの問いに対する答えは端的だった。OpenAIには金がないがBroadcomには金がある。そして「みんなやっちゃってるから」――つまり競合が既に動いている以上、乗らないという選択肢がなくなっている、という説明である。

📌 Claude補足:OpenAI・Broadcom提携の実際

この提携は勉強会の3日前にあたる2025年10月13日に公式発表されている。内容は、OpenAIが設計するAIアクセラレータを10ギガワット規模で共同開発・展開するというもので、OpenAIがアクセラレータとシステムを設計し、Broadcomがそれを開発・展開する。ラックはBroadcomのイーサネットその他の接続ソリューションで構成され、2026年後半に展開を開始し、2029年末までに完了する計画とされている。発表を受けてBroadcom株は約9%上昇したと報じられた。

したがって、発言の「Broadcomと契約した」「エッジや自社半導体を共同制作する」という認識は正確である。加えて、展開開始時期が2026年後半とされている点は、後述するPART 5の「2026年末に各社のロードマップが重なる」という読みを裏付ける材料になっている。

PART 3

SPV――バランスシートを軽くするという化粧

この回で最も技術的だったのが、xAIの資金調達スキームの解説である。主催者はこれを「イーロン・マスクがファイナンスを理解している一つのポイント」と位置づけた。

構成はこうである。今回の資金調達ラウンドは総額200億ドル。そのうち75億ドルが株式で、残る負債部分が125億ドルに分割されている。NVIDIAはここからさらに20億ドルほどを出資する。そしてマスクの得意技として登場するのがSPV、つまり特別目的事業体である。

SPVスキームの構造

調達しているのはxAI本体ではない。SPVが調達し、SPVがNVIDIAのプロセッサ(GPU)を買い、そのGPUをxAIに5年間レンタルする契約を結ぶ。したがって万一プロジェクトがうまくいかなかった場合、責任はxAIではなくSPV側に行く。

この構造が何をもたらすかが、主催者の説明の核心だった。GPUという資産をあえてSPVに置くことで、xAI本体の総資産と総負債を抑制する。するとROICやROAといった資本効率の指標で見栄えが良くなる。今のところ他社はGPUを自社で抱え込み、バランスシートの総資産に入れている。それに対してxAIはSPVへのレンディングという形にすることで、本体の収益だけがプラスになっていく仕組みを作り、黒字化するAI企業に見せられる

さらに調達コストの側面も指摘された。株式と負債を使い分けてSPVを組み合わせることで、WACC(加重平均資本コスト)を引き下げられる。調達コストはxAIがSPVに払い、SPVがそれを負担する。結果として、レンディングの支払いだけで負債コストの部分を下げるという「化粧」ができる。xAIの見栄えは、ものすごく儲かる企業のように見える。そうなればさらに資金調達がしやすくなる、という循環が生まれる。

この設計の全体像として、XホールディングスというホールディングスのもとにxAIやXを置き、その傘下にSPVを配置するという構造が紹介された。スタートアップの資金の見せ方を極めてうまくするために、あえてこの持株会社構造を採っている、という読み方である。

図1:xAIの資金調達ラウンドの構成(億ドル。出典:報道内容をClaudeが検索で確認して作図)

📌 Claude補足:xAIのSPVスキームは報道内容と一致する

発言中の数字はいずれも公開報道と整合している。2025年10月、xAIが資金調達額を200億ドル規模に拡大すると報じられ、その内訳は株式部分が約75億ドル、債務部分が最大125億ドルとされた。NVIDIAは株式部分に最大20億ドルを出資する見込みと報じられている。

SPVの仕組みについても、報道された内容は発言と同じである。SPVが金融市場から資金を借り入れ、その資金でNVIDIA製GPUを購入し、購入したGPUをxAIにリースする。これによりxAIは自社のバランスシートを直接毀損することなく巨額のGPUを確保できる、と整理されている。

なお、こうしたスキームは会計上の効果と経済的実態が乖離しうる典型例でもある。SPVがオフバランスとして扱われるか連結対象となるかは、支配の有無や変動リターンへのエクスポージャーによって決まるため、「SPVに置けば必ずバランスシートから消える」わけではない点は注意が必要である。実際の会計処理がどうなっているかは、開示資料で個別に確認する必要がある。要確認

PART 4

循環取引――ドットコムバブルと同じ形をした成功例

SPVの説明を聞いた参加者の一人が発したのが、この回で最も鋭い一言だった。「でも、大いなる循環取引に見えるんで」。主催者の応答は即座で、しかも肯定である。「その通りです。そこなんです、ポイントは」。そして「一回外れると終わり」という短い警告が添えられた。

ここから主催者は、当初は翌日のYouTubeで話す予定だったという内容を前倒しで説明した。今アメリカの企業が巨大に組織化されていくなかで、AI企業どうしがクロスセルの状態にある。企業がお互いのサービスを購入する形を見せかけて成長を膨らませ、さらに資金調達をする。一つのコミュニティのようになっている、という描写である。そしてこれが1990年代後半のドットコムバブル期のやり方と同じだと指摘された。

成功例と失敗例

ただしこの手法は、必ず失敗するわけではない。成功例として挙がったのがPayPalマフィアである。メンバーがそれぞれ会社を作り、互いに経済圏を形成していった結果、技術がどんどん汎用的になり、各種の調整もできるようになり、豊富な人材ネットワークもできて、うまくいった。Salesforceも同様のやり方をとり、ソフトウェアの領域で継続的な資金調達を可能にした、という説明が続く。

一方の失敗例として挙げられたのが、アメリカの通信キャリア、ドットコムバブル期の各社、そして暗号資産の領域である。TerraとLunaは、まさに経済圏を作ってクロスセルを行い失敗した例として名指しされた。そして「最悪なやつ」として挙げられたのがFTXである。サム・バンクマン=フリードの名前がその場で思い出せず、参加者の池田氏が「FTX」と補ったやり取りが記録されている。ヘッジファンドの事例も同種の失敗として言及された。

類型事例結果差を分けた要因(発言に基づく整理)
成功PayPalマフィア技術の汎用化と人材ネットワークの形成経済圏が実体のある技術・人材の蓄積を伴った
成功Salesforceソフトウェア領域で継続的な資金調達を実現クロスセルの先に実需があった
失敗米通信キャリア/ドットコム各社崩壊バーター的な取引が実需を伴わなかった
失敗Terra/Luna経済圏ごと崩壊循環が自己参照的で、外部からの需要がなかった
失敗FTX破綻同上。主催者は「最悪なやつ」と評した

まだB2Cに届いていない

現状評価として置かれたのが、アメリカが今作ろうとしているのは経済圏のクロスセルで市場規模を大きく見せる構造であり、まだB2Cのところにあまりリーチできていないという指摘だった。高い製品が売れているわけではなく、ChatGPTの契約が月20ドル程度、その水準でしかできていない。誇大広告が可能になっているのは循環経済圏を作ったからであり、それが今のAIの現状だ、という結論である。

図2:OpenAIの2025年の収益と支出(億ドル。流出したとされる財務諸表に関する報道をもとにClaudeが作図)

この文脈で、ウォルマートがOpenAIと契約して株価が上がったという参加者からの補足が入り、「OpenAIが指標になっている」という評価が共有された。

📌 Claude補足:ウォルマート・OpenAI提携の事実確認

この提携は勉強会の2日前にあたる2025年10月14日に発表されている。ChatGPTのアプリ内で食料品や日用品の買い物プランを立て、ウォルマートから直接商品を購入できるようになるというもので、ユーザーは「購入」ボタンをクリックするだけで決済まで完結する。発表は好意的に受け止められ、ウォルマート株はニュース後に上昇したと報じられた。背景としては、生成AI搭載の買い物支援ツール「Rufus」を先行投入していたAmazonとの差を縮める狙いが指摘されている。

この事例は、PART 4で指摘された「まだB2Cにリーチできていない」という評価に対する、まさに反例の候補として位置づけられる。会話の時点では最新ニュースとして扱われていたが、これがB2Cへの本格的な到達なのか、それとも経済圏の拡張の一環なのかは、その後の実績で判定すべき論点である。

PART 5

2026年末に重なる三つのロードマップ

参加者から、AMDとOracleの動き、そしてOpenAIがNVIDIAと近い関係を築いているならAMDやOracleとも同様のリンクができるのではないか、という予測が示された。主催者はこれを肯定したうえで、より具体的な根拠を提示している。それが製品ロードマップの日付である。

NVIDIAのVera Rubinが2026年待ち。AMDのMI450も2026年待ち。そしてBroadcomの新しいラックシステムも2026年末。三社の新製品が2026年末にかなり重なっている。ということは、最強企業のリソースが一気にOpenAIに集まるという流れをサム・アルトマンが組んでいる、という戦略が見える――というのが主催者の読みだった。

この推論の作り方

サム・アルトマンは戦略をかなりぼかしており、明言していない。だからこちら側で予想するしかない。しかしあらゆる分散された情報をパズルのように組み合わせていくと、そういう予測が立てられる――これが主催者の説明である。水面下で何が話されているかは分からないが、今出ている外部的な状況だけでもこのくらいの判断はできる。ちゃんとリサーチしておけば、という話だ、と。そして「これが当たるか外れるかは分からない」と自ら留保を置いている。

展開のシナリオは二方向で示された。NVIDIAとAMDが食い合う可能性もあるが、逆にうまくいった場合はOpenAIのバリュエーションが一気に上がり、さらに資金調達できるという流れになる。加えて、株式取得ができるということはOpenAIがAMDの株式を取得できるということであり、取得した株式を担保にまた借入をしてくるだろうという予測も添えられた。これも見越しているはずだ、という読みである。

📌 Claude補足:2026年という時期の裏取り

各社のロードマップについて、公開情報は発言と整合する。NVIDIAは次世代AIプラットフォーム「Vera Rubin」を2026年後半にパートナー各社経由で提供するとしており、北米のクラウド事業者への初期出荷は2026年7月からと報じられている。AMDは「最先端のAIアクセラレータ」と位置づけるMI450を2026年に投入するとしており、MI400シリーズの本格的な立ち上がりは2026年後半、フル生産は2027年初頭にずれ込む可能性も指摘されている。BroadcomとOpenAIの共同開発ラックは2026年後半に展開開始とされている。

したがって「2026年末に三社のロードマップが重なる」という観察は、公表情報から確認できる。ただし発言では「2026年末」で揃うとされていたのに対し、公開情報では2026年後半から2027年初頭にかけて幅がある。特にAMDについてはフル生産が2027年にずれる可能性が報じられており、完全に同一時点で揃うわけではない。時期を根拠に判断する場合は、この幅を織り込む必要がある。

参加者からは、この時期に向けてSKハイニックス、マイクロン、サムスンといったメモリ各社にも別の動きが出てくるのではないか、という指摘が入り、主催者も同意している。xAIがサムスンと組んでいる動きも、2026年末に向けてより明確化してくる部分があるだろう、という見立てだった。

PART 6

顧客集中とレジリエンス――経済圏は成長率ではなく生存率を買う

会の終盤、上野氏がマーケット全体のリスクを整理する形で問いを立てた。2026年末に向けて、このままの巡航速度で行けるのか、それとも間に何かが起こるのか。大きな金利上昇は考えにくいなかで、どういうリスク要因が顕在化するかが自分の頭のなかでまだ出てきていない、という率直な留保である。

これに対する主催者の応答が、この回で最も構造的な指摘だった。こういう経済圏を作ると、各企業が食い合うため収益性は上がりにくくなる。これは過去の研究で出ている。しかし、日本の自動車メーカーが潰れなかった理由の一つは、トヨタグループのようにアライアンスを組んだことで、他の企業が死んだときに自分たちにもデメリットが出る状態を作り、みんなが救いにかかる構造ができていたからだ、と。全体的に成長率は伸びにくくなるが、レジリエンスの部分がかなり強くなる

経済圏を作らない場合

各社が独立して競争するため、勝者の収益性は高くなりうる。しかし一社が崩れたときに助ける主体がおらず、そのまま退出する。成長率は高いが生存率は低い。

経済圏を作った場合

相互にサービスを買い合うため各社が食い合い、収益性は上がりにくい。しかし一社の崩壊が全員のデメリットになるため、崩れても救済が働く。成長率は低いが生存率は高い。

そしてこれこそが、前回のITバブル時にアメリカが得た成功体験の一つだ、という位置づけがなされた。一度崩れたが盛り返した。仲間を作っていたことで成長はしにくくなったが、結果として死ななかった。今回もそれを意図的に再現しているのではないか、という読み方である。

上野氏はこれを受けて、「バブル崩壊という認識はないが、どちらかというとレジリエンスのほうにわざと傾けているのは、AI自体の収益性がまだ上がってこないから見込めず、お互いに協調し合わないと次のステップに進めないと判断しているように見える」と要約した。主催者はこれに同意したうえで、もう一つの理由を加えている。誇大な広告を打つためには実績が必要になる。お互いにクロスセルをやっている状態なので、ボリュームが大きくなっていくのは事実である、と。

NVIDIAの売上構造という脆弱性

ここで具体的な数字が出た。主催者の説明では、NVIDIAの売上高の5割から6割が3社ないし4社で決まってしまっている。時価総額が大きい企業で、一つの顧客に売上の15%程度のシェアを取られているケースはなかなかない。だから一社が崩れたら思い切り下がってしまう。だからこそ分散させなければならないし、同時にレジリエンスを高めることも必要になる。

そして一般則として置かれたのが、「でかくなったら基盤を作る」という言い方である。強くして大きくなったら基盤を作る。これが会社の基本ではないか、と。同じように業界も、大きくなったら基盤作りという流れだと思ったほうがいいかもしれない、という締めくくりだった。「ぜひでずっと突っ込んでいくよりも」という一言が添えられている。

図3:NVIDIAの直接顧客の集中度(2025年1月期・10-Kに関する報道ベース。発言の「一社15%」とは異なる数値である点に注意)

📌 Claude補足:顧客集中の数値は発言より深刻である

発言では「一つの顧客に売上の15%程度のシェアを取られている」とされたが、公開情報ではこれより高い。NVIDIAの2025年1月期の10-Kに関する報道によれば、最大の直接顧客が売上の22%、2番目が14%を占めており、上位2社だけで約36%に達する。さらにその後の四半期では、顧客Aが23%、顧客Bが16%で、2社だけで約39%を占めたと報じられている。上位10社では約40〜50%を占めるという推定もある。

つまり「上位数社で売上の過半」という発言の方向性は正しいが、単一顧客の比率は発言の15%より高い22〜23%の水準にある。集中リスクの評価としては、発言はむしろ過小に述べていたことになる。この数字を使う場合は、NVIDIAが10-Kで開示している「直接顧客」の定義(最終ユーザーではなく、OEMやシステムインテグレーターなどを含む販売相手)を確認したうえで用いること。

PART 7

電力は足りるのか――稼働6割という数字

上野氏から出た次の問いが、電力供給は2026年ごろまでに整備されるのか、というものだった。この論点はデータセンター投資の物理的な制約に直結する。

主催者の回答は、以前ファクトフルネスをテーマに話した内容の再提示だった。電力自体がすべて使われているわけではない。だいたい稼働の6割程度しか使われておらず、上限値はデータセンター側がきちんと決めている状態である。したがって大規模なブラックアウトにつながるようなことはない、という説明である。

加えて、その安定性を支える要素として蓄電が挙げられた。テスラなどが手掛ける蓄電池での貯蔵ビジネスが非常に伸びており、その需給を見ていってもよい、という指摘である。テスラ以外にも蓄電を手掛ける企業はあるが、やはりテスラが強い、という評価が添えられた。

この流れから、三菱重工などもエネルギーの貯蔵に取り組もうとしているという話に移り、同社の海外展開をめぐる議論へ接続していく。その部分は本レポートの主題から外れるため、別のレポートで扱っている。

📌 Claude補足:稼働6割という数字について要確認

「電力の稼働の6割程度しか使われていない」という数値は、勉強会内で以前扱った内容の再提示として語られたもので、出典が明示されていない。データセンターの契約電力と実使用電力に乖離があること自体は業界で広く指摘されている論点であり、電力系統への接続申請容量が実需を大きく上回る「幽霊需要」の問題としても議論されている。ただし「6割」という具体的な比率が、どの地域・どの時点・どの母集団に対する数字なのかは本セッションでは特定できていない。

電力制約をリスク要因として評価する際は、系統接続の待ち行列、変電設備のリードタイム、発電新設のリードタイムという三つを分けて見る必要がある。「使われていない電力がある」ことと「必要な場所に必要なタイミングで届く」ことは別問題である。

PART 8

リサーチとは何か――小学4年生の図と、ミッシングリンクの順序

相関図の説明のなかで、主催者は自分が教えてきた人のなかで最初にこれを自然にやっていた人物として、アミル氏の名前を挙げた。彼女は小学4年生、9歳のときから業界ごとに全部これをやっていたという。

その方法は具体的である。全部絵に描いて、関係値を線で紐付けて、そこにコメントを全部書き込み、関係を探る。講義を聞いて自分で勉強し、それを全部絵にまとめて、画用紙1枚に大きくまとめていた。講義中はずっとランダムに書き続け、その後に自分で用紙にまとめ、会社の関係も自分で調べて清書し、それをアウトプットとして提出していた。指示を出していないのに自分でやっていた、というのが主催者の説明である。理由は「絵に描いたほうが分かるじゃん」という一言だった。

この話に対して参加者から、自分は同種の図をモルガン・スタンレーのリサーチで見たことがある、という反応が返っている。プロのリサーチ部門が使う道具を、9歳が自発的に採用していた、という対比がここで成立した。

ミッシングリンクをいきなり探すな

前田氏から、この手法で最も有効なのはミッシングリンクを探すことではないか、という提案が出た。こことここがまだ繋がっていない、という空白の部分である。特に技術やサービス面が最もやりやすいという実感を持っており、そこを見ていくことで予測精度が上がるのではないか、という仮説だった。そのうえで、主催者は繋がりと拡大の方向で見ているように受け取れたが、両方を併用しているのか、拡大方向を見つけるのか、エコシステムの変化率で見るのか、という質問が続いた。

主催者の答えは、順序の問題として整理された。今の図は半導体とAIの制作という部分だけの図になっている。ここからNVIDIAの派生先としてWistronやGigabyteなどへ広げていくと、逆にミッシングリンクだらけになって見出せなくなる。だから、あくまで有効性のあるリンクからまず作り、そのうえで何がミッシングしているのかを調べたほうが合理的である。

なぜ順序が重要なのか

主催者の説明はこうである。ミッシングリンクから入ると、ほとんどがミッシングリンクになってしまう。AIのスタートアップが何千社あるか分からない状態なら、ほとんどがミッシングになる。そうすると切りがなくなる。関係値が分かったからこそ「ここが欠けているよね」と見えるのであって、逆ではない。前田氏はこれを「漏れが少ないところですね」と要約し、主催者も同意した。

そのうえで主催者は次の段階を示している。技術を学んでいけば、その先で「こことここが提携したらここの牙城を崩せるよね」というものが分かってくる。そうすると、あるM&Aがより合理的だったのかどうかも見えてくるのではないか、という予測の立て方である。

「渡されたもので判断する」のはリサーチではない

会の締めくくり近く、主催者が前田氏に「さっきのリサーチのところで、みんな顔が歪んでいたのはなぜか」と尋ねた。前田氏の答えは、技術の繋がりの話になると顔がどんどん下を向いていく人がいた、というものだった。おそらくそのあたりに触れていない情報だからではないか、という推測である。

主催者の応答は突き放したものだった。業界リサーチとはこんなものではないか。周りがどれだけリサーチしているか分からないが、自分はコンサルに入るときはここまで徹底的にリサーチしたうえで入る、と。そして最も重要な定義がここで示される。

リサーチの定義

リサーチとは、何かを教えてもらうのではなく、自分でどこまで考えを広げられるかである。人に聞いてどうこうできるものではない。人から渡されたもので判断することをリサーチだと思っている人はかなりいるが、それはリサーチではなく「ただ単に見ただけ」「情報を受けたにすぎない」――そう捉えるべきではないか、というのが主催者の整理だった。前田氏は「それは間違いないと思います」と応じている。

この定義は、この日の冒頭で繰り返された「動画を見てから来い」という要求と同じ構造を持っている。渡された情報を受け取るだけでは前提が共有されず、話が噛み合わない。図を描くという行為は、受け取った情報を自分の側で再構成する作業であり、だからこそリサーチと呼ばれる。会の最後に主催者が「僕の意見を無視して、今日はYouTubeを見てこいと言ったのに見てこない人もいた」と言い添えたのは、この一貫性の確認だった。

なお、この日は最後に次回の予告が入っている。次の金曜日の講義は韓国から行うかもしれない、という連絡である。

Q&A

質疑応答

リサーチするときに、紙に書きやすいように業界の図や図式でまとめている人はいますか。(主催者から全体へ)
小島氏が手を挙げ、評価された。主催者はこれを受けてAI業界の相関図を共有し、サービス面・インベストメント・VC機能・サービス機能という軸で、時価総額(評価額)ベースの大きさでプロットした図を提示している。図から読み取らせる形で、NVIDIAと似た動きをしている企業(OpenAI)、OpenAIの儲け口、CoreWeaveを挙げた理由という三つの問いが出された。
この図は金額ベースでプロットしているのですか。大きさは何ですか。(参加者)
時価総額ベース、正確には評価額ベースである、との回答。Oracleの大きさが目立つという指摘も出た。なおGoogleとAmazonはこの図には含まれていない。
SPVの資金は、xAIから貸出金として出ているのですか。(参加者)
違う、SPVの資金は投資家から出ている、との回答。投資家に対してそれなりの配当・リターンが出るように見せかけている、という確認に対しても肯定された。つまりxAIは資金の出し手ではなく、GPUのリース料を払う借り手の側に立っている。
誰がクレジット主体を取っているのですか。ヘッジファンドですか。(参加者)
ベンチャーキャピタルである、との回答。JPモルガンのような大手投資銀行は入っていないのではないかという確認に対しては、JPモルガンとイーロン・マスクの仲が悪いためだと説明された。他の投資銀行についても、テスラやSpaceXの投資家層が一つのシンジケートのようになっており、ラリー・エリソンを含めてそこで株式を交換したり株式を担保に調達して入れ込んだりしている、という説明が加えられた。加えて、テスラ自体の収益もxAIに必要だという理屈で、11月の株主総会あたりで決定する案件がある、という言及もあった。
でも、大いなる循環取引に見えるのですが。(参加者)
主催者は即座に肯定した。「その通りです。そこなんです、ポイントは」。そして「一回外れると終わり」と短く警告している。ここから、AI企業どうしのクロスセルが1990年代後半のドットコムバブル期と同じ形をしているという説明、PayPalマフィアやSalesforceの成功例、通信キャリア・Terra/Luna・FTXの失敗例という比較へ展開した。
なぜBroadcomは、そこまでしてOpenAIと組む必要があるのですか。(参加者)
OpenAIには金がないが、Broadcomには金がある。そのうえで「みんなやっちゃってるから」という一言が答えだった。競合が既に動いている以上、乗らないという選択肢がなくなっている、という説明である。加えて、この契約では今回リスクを負っているのはOpenAIではなくBroadcomのほうだ、という指摘もなされた。
AMDとOracleの話もここで説明がつくのでは。OpenAIがNVIDIAと近い関係を築いているなら、AMDやOracleとも同様のリンクができると予測できるのでは。(前田氏)
主催者は肯定し、根拠としてロードマップの日付を挙げた。NVIDIAのVera Rubinが2026年待ち、AMDのMI450も2026年待ち、Broadcomの新しいラックシステムも2026年末。三社の新製品が2026年末に重なるため、最強企業のリソースが一気にOpenAIに集まる流れをサム・アルトマンが組んでいる、という読みである。NVIDIAとAMDが食い合う可能性もあるが、うまくいけばOpenAIのバリュエーションが一気に上がり、さらに資金調達できるという流れになる、と付け加えた。
ファイナンスでコストを落とす戦略と、キャッシュフローが一気に出ないよう分割する戦略が、今度は出てくるということでしょうか。(前田氏)
そのとおり、との回答。株式取得ができるということはOpenAIがAMDの株式を取得できるということであり、取得した株式を担保にまた借入をしてくるだろう、という予測が示された。これも見越しているはずだ、と。ただしサム・アルトマンが言っていることではなく、分散された情報をパズルのように組み合わせて立てた予測である、という留保が明示されている。
気になる時期は2026年の前半か末か。SKハイニックスやマイクロンの動きもそこに向けて出てくるのでは。(前田氏)
末に来る、との回答。メモリ各社についてはサムスンも含めて動きが出てくるだろうと同意し、xAIとサムスンが組んでいる動きも2026年末に向けてより明確化してくる部分があるだろう、と述べた。
この手法で最も有効なのはミッシングリンクを探すことではないか。両方を併用しているのか、拡大方向を見るのか、エコシステムの変化率で見るのか。(前田氏)
順序の問題として答えられた。有効性のあるリンクからまず作り、そのうえで何が欠けているかを調べたほうが合理的である。ミッシングリンクから入ると、AIスタートアップが何千社あるか分からない状態ではほとんどがミッシングになり、切りがなくなる。関係値が分かったからこそ欠落が見えるのであって、逆ではない。前田氏は「漏れが少ないところですね」と要約した。
2026年末に向けて、このままの巡航速度で行けるのか。どういうリスク要因が顕在化するのか、まだ自分の頭のなかで出てきていない。(上野氏)
主催者は、経済圏を作ると各企業が食い合うため収益性は上がりにくくなるが、レジリエンスは強くなる、という研究上の整理で応じた。トヨタグループのアライアンスが日本の自動車メーカーを潰れさせなかった構造と同じで、他社が死ぬと自分にもデメリットが出る状態を作ることで救済が働く。ドットコムバブル後にアメリカ企業が復活できたのも仲間を作っていたからだ、と。上野氏はこれを「バブル崩壊という認識ではなく、AIの収益性がまだ見込めないので協調しないと次に進めないと判断している」と要約し、主催者も同意したうえで「誇大な広告を打つには実績が必要で、クロスセルによってボリュームが実際に大きくなっている」という理由を追加した。
オラクルはバックログのオーダーを意識しているのではないか。クラウドベースのバックログがどれだけ溜まり、どこで実現され、どこで出てくるかを見なければならない。(上野氏)
主催者は「まさにそこはある」と同意した。オラクルはオーダーが最も積み上がっており、その恩恵を受けているからこそ株価がここまで伸び、ラリー・エリソンが世界一の富豪になった、という整理である。上野氏はこれに、ネットワークの通算を持っているという自信がある点も一因ではないか、と相関図から読み取った観察を添えた。
電力供給は2026年ごろまでに整備されるものなのでしょうか。(上野氏)
電力自体がすべて使われているわけではなく、だいたい稼働の6割程度しか使われていない。上限値はデータセンター側がきちんと決めている状態である、との回答。したがって大規模なブラックアウトにつながるようなことはない、と続き、テスラなどの蓄電池による貯蔵ビジネスが伸びているのでその需給を見てもよい、という指摘が加えられた。
さっきのリサーチのところで、みんな顔が歪んでいたのはなぜですか。(主催者から前田氏へ)
技術の繋がりの話になると、顔がどんどん下を向いていく人がいた、というのが前田氏の観察。おそらくそのあたりに触れていない情報だからではないか、という推測である。主催者は「業界リサーチってこんなものではないか」と応じ、自分はコンサルに入るときここまで徹底的にリサーチしたうえで入る、と述べた。そのうえで、リサーチとは自分でどこまで考えを広げられるかであり、人から渡されたもので判断するのはリサーチではなく「ただ見ただけ」にすぎない、という定義を示した。
宿題・アクションアイテム

次に手を動かすこと

  1. 自分の業界の相関図を1枚描く。 企業を時価総額の大きさでプロットし、出資・販売・提携の線を引く。ただし、まず大きな業界から始めること。情報量が多いほうがリサーチ方法自体を習得しやすい、というのが指示である。
  2. 有効なリンクから埋め、最後に欠落を探す。 ミッシングリンクから入らない。関係値が確定した後でなければ欠落は識別できず、切りがなくなる。
  3. xAIのSPVスキームを図解する。 投資家→SPV→GPU購入→xAIへ5年リース、という資金と資産の流れを一枚に描き、xAI本体のB/Sから何が消えるかを自分で確認する。あわせてSPVの連結要否がどう判定されるかを調べる。
  4. 循環取引の成功例と失敗例を分類する。 PayPalマフィア・Salesforce(成功)と、通信キャリア・Terra/Luna・FTX(失敗)を並べ、何が差を分けたかを自分の言葉で一行にまとめる。実需の有無が軸になるはずである。
  5. 2026年後半のロードマップを日付で並べる。 Vera Rubin、MI450、Broadcomのラック。各社の公表資料から出荷・展開開始の時期を拾い、実際にどの程度重なるかを幅つきで確認する。発言は「2026年末」だが、公開情報には2026年後半〜2027年初頭という幅がある。
  6. NVIDIAの顧客集中を10-Kで確認する。 発言の「一社15%」に対し、開示ベースでは最大顧客22%である。直接顧客の定義とあわせて自分で読み、集中リスクの水準を判定する。
  7. 「でかくなったら基盤を作る」を自社に当てはめる。 成長率を取りにいくのか、レジリエンスを取りにいくのか。どちらを買っている局面なのかを、自分の事業について明示的に決める。
  8. 渡された情報と自分で作った情報を分けて記録する。 主催者の定義に従い、直近1週間で自分が触れた情報を「見ただけ」と「自分で広げた」に仕分ける。後者の比率が実質的なリサーチ量になる。
用語集

この回に出てきた語

相関図(業界の俯瞰図)
企業・サービス間の出資・販売・提携関係を、時価総額の大きさとともに一枚に描いた図。断片的な情報を全体像に変換するための作業机として位置づけられた。
SPV(特別目的事業体)
特定の目的のために設立される事業体。xAIのケースでは、投資家から調達した資金でGPUを購入し、それをxAIに5年リースする役割を担う。
ROIC/ROA
投下資本利益率と総資産利益率。資産をSPVへ移すことで分母が縮み、資本効率の指標が改善して見える、という文脈で言及された。
WACC(加重平均資本コスト)
株式と負債の調達コストを加重平均したもの。株式と負債を使い分けSPVを組み合わせることで引き下げられる、と説明された。
クロスセル(企業間の相互購入)
企業どうしが互いのサービスを購入し合うことで成長を膨らませ、資金調達につなげる構造。ドットコムバブル期と同型だと指摘された。
循環取引
参加者が発した表現。相互の売買が実需ではなく圏内で完結している状態を指す。主催者はこれを肯定し「一回外れると終わり」と警告した。
ミッシングリンク
関係図のなかでまだ繋がっていない箇所。前田氏が有効な着眼点として提案したが、探す順序は有効なリンクを埋めた後だと整理された。
レジリエンス
この回の中心概念の一つ。経済圏を作ると収益性は下がるが、相互依存によって崩壊時の救済が働き、生存率が上がるという効果を指す。
バックログ(受注残)
クラウド事業で積み上がった未実現の契約残高。オラクルの株価上昇の根拠として上野氏が挙げた指標。
Vera Rubin/MI450
NVIDIAとAMDの次世代AIアクセラレータ。ともに2026年に投入予定で、Broadcomのラックとあわせて時期が重なる点が戦略読解の起点になった。
PayPalマフィア
PayPal出身者が各々起業し形成したネットワーク。経済圏構築が技術の汎用化と人材蓄積を伴って成功した例として挙げられた。
誇大広告(古代広告)
文字起こし上の表記は異なるが、クロスセルによって膨らんだボリュームを実績として提示し、実態以上に大きく見せる行為を指して使われた。