本レポートの概要|独自チップと電力・IPO地政学
この回のレポートは全4本に分割しています。本ファイルはその1本目、テーマは「独自チップと電力・IPO地政学」です。
マイキー氏は雑談の冒頭で、AmazonのTrainium/InferentiaやGoogleのTPUを、チップ販売で稼ぐNVIDIAやAMDと同列に語るのは誤りだと整理した。独自チップはAWSやGoogleクラウドという基盤への囲い込みと収益改善のための道具であり、チップ単体の販売収益を狙ったものではない。この整理は、独自チップの採用数を半導体銘柄の競争力として横並びで評価する危うさを浮かび上がらせる。
続く話題は電力・水・データセンターの地政学である。中国が送電網に巨額を投じ、水面下でエネルギー買収が進む一方、超純水という新たな争点も指摘された。世界のデータセンターは現在米国が約4割、中国が約2割を占め、2030年までにこの比率がさらに拡大していくと語られ、両国による電力インフラの寡占という構図が示された。
後半はTikTok買収の資金繰りから、2026年にIPOラッシュが来るという予測に接続する。根拠は需給ではなく、政府封鎖で滞留していたSEC申請という制度側のボトルネックだった。あわせて日本のCVCが機能しない理由として、運用主体が長期間定着しないアメリカの大学ファンドとの対比が語られ、両者は「箱ではなく運用主体が誰か」という共通の論点でつながっている。
独自チップは「売るもの」ではない ― TrainiumとTPUの役割を混同するな
雑談パートで最も実務的に価値が高かったのが、独自チップの位置づけをめぐる整理である。マイキー氏は、AmazonのTrainium/Inferentiaと、GoogleのTPUと、NVIDIAやAMDのGPUを同列に語る人が多いが、会社にとっての役割がまったく違うと指摘した。
NVIDIAやAMDは、チップそのものを販売して利益を上げるビジネスである。一方でAmazonのTrainium/InferentiaやGoogleのTPUは、収益化そのものが目的ではない。AWSというOSのための補助であり、顧客満足度を上げて囲い込むための道具だという整理だ。GoogleがTPUを外販しないのも同じ理由で、TPUを使いたければGoogleのプラットフォームに入ってこなければならない状態を作ること自体が、結果としてGoogleの収益に変わる。前田氏がここで「つまりAmazonプライムの会員数を増やせば増やすほどシステムとして強くなるのと同じ構造か」と接続し、マイキー氏が肯定するという流れになった。
この整理は、投資家目線でも重要な含意を持つ。チップの性能や採用数を「半導体銘柄の競争力」として横並びで評価すると、収益モデルの違いを取りこぼす。Trainiumのシェアが伸びてもAmazonの半導体売上にはならないが、AWSの粗利改善と顧客の乗り換えコスト上昇として効いてくる。同じ「独自チップ」という言葉の下に、まったく異なる損益の経路が隠れている。
発言との差セッション中に「Trainiumを使っている企業が顧客の6割と言われている」という趣旨の発言があったが、公開情報ではこの数字は確認できない。2025〜2026年の業界推計では、AWSのAI関連支出のうちTrainium系が約35%、残り約65%がGPUベースとされている(The Next Platform)。「顧客の6割」ではなく「AI支出の3分の1強」が実態に近い。ただし採用企業の顔ぶれは強力で、Anthropicは2026年初時点でProject Rainierにおいて約50万個のTrainium2を稼働させており、100万個超への拡張を計画。OpenAIも2027年開始でAWS経由2GW分のTrainium容量にコミットしている。
裏取り済Trainium/Inferentiaを開発しているのは、Amazonが2015年1月に買収したイスラエルのAnnapurna Labs(2011年設立、ヨクネアム拠点、当時従業員90名)。買収額は非開示だが3.5億〜4億ドルと報じられた。同社は現在Nitro・Graviton・Trainiumの3系統を担当している。
裏取り済依存度の比較は本文の主張を裏づける。2025年通期でMetaの広告収入は総収入の97.6%(1,961.8億ドル/2,009.7億ドル)、Appleは iPhone が総収入の50.4%(FY2025で2,095.9億ドル)。一方Alphabetの広告依存度は74〜76%で、セッション中の「9割」よりは低い。Microsoftは主力セグメントでも4割強にとどまり、確かに最も分散している。
電力・水・データセンターの地政学 ― 中国のパワープレーをどう見るか
話題はエネルギー買収に移る。前田氏が「そろそろエネルギー企業の買収話がまた出てこないか」と振ったのに対し、マイキー氏は2025年の時点ですでにエネルギー関連の買収は多く、水面下で進んでいると応じた。シェブロンがデータセンター向けを見据えた動きをしている例が挙げられ、来年あたり注目されるのではないかとしてヘリオン・エナジーの名前が出る。加えてマイキー氏が「もっと一気に注目が来る」と読んでいるのが水関連、とくに超純水(100%純度に近い水)を作る企業である。データセンターの冷却・半導体製造の双方で不可欠になり、すでに問題化しつつある領域だという指摘だった。
しかし議論の重心は、すぐに中国の圧倒的な物量に移る。マイキー氏の見立ては明快で、「パワープレーが一番強い」「札束のやつが結局一番強い」。技術がどれだけ進んでもレガシーが廃れないという現実がある一方で、送電設備だけで中国が今後5年に巨額を投じると宣言している以上、勝負の構造そのものが違う、という認識である。前田氏の「それで宇宙も押さえるということですね」という応答に、マイキー氏が肯定を返す形で締められた。
データセンターについては、現在世界の約2割が中国、約4割がアメリカで、2030年までに両国で世界の8〜9割の電力を使う構造になる、という数字が語られた。これはつまり米中の企業がデータセンターを支配してしまうという結論に接続される。
裏取り済中国の送電投資は発言の水準感でおおむね正しい。国家電網(State Grid)は第15次五カ年計画期間(〜2030年)に固定資産投資4兆元=約5,740億ドルを計画しており、第14次五カ年計画比で約40%増。超高圧直流送電回廊の建設を加速し、地域間送電容量を2030年までに30%以上引き上げる方針(Bloomberg / Yicai Global / 中国国務院国有資産監督管理委員会、2026年1月)。セッション中の「5,000億ドル/75兆円」は実額よりやや控えめで、実際は約5,700億ドル。
発言との差「日本の国家予算の75%」という比較については補正が必要。日本の一般会計歳出は年115兆円規模であり、5,740億ドル(約86兆円、1ドル150円換算)はおよそ75%に相当する。円換算次第で数字は動くため、比較として使う場合は為替前提を明記したほうがよい。
発言との差データセンターのシェアについて、IEA『Energy and AI』(2025年)によれば2024年時点の世界のデータセンター電力消費シェアは米国45%、中国25%、欧州15%。発言の「米4割・中2割」は近い。ただし2030年に米中で「8〜9割」というのはやや過大で、GlobalDataは2030年に米中で世界のデータセンター容量の69%と予測。IEAは2030年までの成長分の約80%が米中としており、「存在量の8割」ではなく「増加分の8割」が正確な表現になる。
発言との差ヘリオン・エナジー(Helion Energy)は「小型モジュール炉(SMR)」ではなく核融合(fusion)の会社。サム・アルトマンが出資し、マイクロソフトと電力購入契約を結んでいる点は発言どおり。2026年6月に4.65億ドルを調達し企業価値155億ドル、ワシントン州中部に建設中の初号機「Orion」から2028〜2029年にマイクロソフトのデータセンターへ50MWを供給する計画。ただし同社は過去に納期遅延を繰り返しており、タイムラインには留保が必要。
TikTok買収の資金繰りと、2026年IPOラッシュ予測
アメリカ側のプラスとして挙げられたのが、オラクル主導のTikTok買収である。マイキー氏はシルバーレイクやMGXが入って組成されたが、オラクル自体の保有はおよそ19%で、複数のベンチャーキャピタルやファンドを合わせて米国側が50%超を持ち、取締役会の過半は米国人になる、という枠組みを説明した。オラクルが全部を買うわけではない、というのが要点である。
しかしここで前田氏が挙げた懸念が、当時の相場観として重要だった。オラクルの主要な融資元がデータセンター向けの資金を出さないと言い始めた件である。マイキー氏も社名を思い出せないまま「そこが出さないと言い始めた」と応じ、本当に完結して進められるのかという疑問が共有された。
そこから議論は、AIハイプサイクルの幻滅期入りと、資金の出し手であるMGXやサウジアラビア系ファンドの動きに広がる。マイキー氏は「下手をすると一種のポンジ・スキームなんじゃないかと見えるぐらいの仕組み」と踏み込んだうえで、トランプ政権が続く限り中東マネーは引っ張られ続けるだろうと述べた。オラクルの収入源がほぼOpenAIに依存しており、そのOpenAI向けデータセンターが1年延期されたため、収益化も1年後ろ倒しになる、という構造的な指摘も加えられている。
2026年にIPOラッシュが来るという読み
ここからがこのセッションで最も予測性の高いパートだった。マイキー氏はアメリカから入ってくる情報として、Anthropicが翌年上場する可能性を挙げ、もし実現すればSpaceXとあわせて翌年最大のIPOになり、調達額は過去最高を更新すると述べた。過去15年で最大だった2021年と比較して、SpaceX一社だけで当時の最大調達額の3倍になるとも語っている。
そしてその根拠として提示されたのが、需給ではなく制度側のボトルネックだった。フィグマの上場を見てIPOが来るかもしれないと言った後、SEC(証券取引委員会)には過去最高水準のIPO申請が入っていた。ところが政府封鎖(シャットダウン)が過去最長に及んだため上場ができず、それが2026年に持ち越された。つまり閉じていた水門が来年開放される――だから2026年1月以降に一気に上場が来る可能性がある、という論理である。
さらにマイキー氏はその二次効果まで踏み込んだ。IPOラッシュが起きればベンチャーキャピタルの動きが活発化する。世界的にVCは今まさに回収時期にあり、回収が終わればそのリターンで再び資金がばらまかれる。問題は、そこに日本企業がどれだけ食い込めるかだが、おそらく難しいだろう、という見立てで締められた。
発言との差TikTok米国JVの持分は「オラクル19%」ではない。2026年1月22日にクローズした実際の枠組みは、オラクル15%・シルバーレイク15%・MGX15%の3社が各15%、ByteDanceが19.9%(divest-or-ban法の上限)、残り35.1%を既存投資家系のコンソーシアムが保有する構成。発言の「19%」はおそらくByteDanceの19.9%と取り違えられている。米国側が過半を握り取締役会も米国主導という骨子自体は正しい。
裏取り済思い出せなかった融資元はブルーオウル・キャピタル(Blue Owl Capital)。2025年12月17日、オラクル最大のデータセンター投資パートナーだった同社が、ミシガン州の100億ドル・1GW級AI施設への出資と債務アレンジの協議から離脱したことが報じられた。オラクルの設備投資と債務増加に対する貸し手側の懸念が理由。オラクルは代替資金を探し、ブラックストーンが後継の資金パートナー候補として協議中と報じられている。前田氏の懸念は的中していた。
裏取り済IPOラッシュ予測は的中した。SECは政府封鎖明けに記録的な申請滞留を抱え、IPO審査を株主提案より優先する方針を示した。2026年は2021年以来最強のIPO年になるとの見方が主流となり、SpaceXは2026年5月20日にS-1を公開提出、6月11日に1株135ドル・5億5,660万株で価格決定し、約750億ドルを調達して史上最大のIPOを達成(6月12日ナスダック上場、ティッカーSPCX、評価額1.77兆ドル)。
裏取り済Anthropic上場予測も進行中。Anthropicは2026年6月1日にSECへS-1を秘密提出。7月中旬には主幹事(モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、JPモルガン)が機関投資家との面談を開始し、早ければ2026年10月の上場が視野に入っている。直近の非公開評価額は2026年5月のシリーズHで9,650億ドル。なおOpenAIは2026年秋の上場目標を後ろ倒しし2027年を検討しており、Anthropicが先行する構図になった。マイキー氏が語った「来年最大のIPOはSpaceXとAnthropic」という読みは、ほぼそのとおりに動いている。
日本のCVCはなぜ機能しないのか ― 大学ファンドの運用履歴が示すもの
前田氏が「NECあたりも入ってくる可能性があるのでは」と振ったところから、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)の話になった。マイキー氏の回答は容赦がない。日本のCVCは形は出来上がっているが機能性はゼロに近い。リサーチする気のない会社が「新規市場開拓部」のような組織を作って誰も機能していない、という状態がそのままCVCになっている、という見立てである。
構造的な原因も指摘された。CVCを作るのならアメリカのベンチャーキャピタリストのトップレンジを連れてきてやらせないと無理だが、現実にはCVCの作り方が分からないため、アメリカのVCが日本企業にコンサルとして入ってCVCを組成している。つまり運用主体ではなく組成だけを外注している状態にある。
ここで前田氏がアメリカの大学ファンドを引き合いに出し、マイキー氏が重要な補助線を引いた。アイビーリーグの大学ファンドで最も利益率が高いのは、CFO的な立ち位置の人物が長期間据わっていた大学である。ハーバードは近年その担当が変わっており運用リターンが低い一方、イェールはずっと同じ体制で収益を出し続けている。つまり長期間ファンドマネージャー的な人材を置かない限り、大学ファンドですら収益は出ない。CVCを作って人を入れたとしても、リターンが見込めるまでには相当な時間がかかるだろう、という結論だった。
裏取り済言及されている構図は「イェール・モデル」として知られる。デイビッド・スウェンセン(David Swensen)が1985年から2021年の逝去まで36年間イェール大学基金のCIOを務め、株式・債券中心のポートフォリオをプライベートエクイティ・ヘッジファンド・実物資産へ大胆に配分し直したことで、長期の超過リターンを生んだ。運用主体の在任期間の長さがリターンと相関するという本文の主張は、この事例と整合する。
要確認ハーバード基金(HMC)とイェール基金の直近の年次リターン比較については、両大学の年度報告書で毎年更新されるため、具体的な数値を引用する際は最新の年次報告を直接確認されたい。本レポートでは数値の断定は避ける。