「AI企業のすべてが時限爆弾を抱えている」——それは規制でも競争でもなく、会計だった
標準的な償却年数
するGPUの耐用年数
2026〜28年の過少償却額
資金調達方式の転換
名指しされた解決策
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この回のマイキー氏は、セッション冒頭から「AI企業のすべてが時限爆弾を抱えている」と予告し、しかもそれは「カリフォルニアで問題になっているもの」——電力や水の規制——ではなく別のものだと言い切った。前振りを一時間近く引っ張ったうえで明かされた正体は、減価償却である。AI業界にとって最も静かで、最も広範囲に効く問題は、規制でも中国でも競合でもなく、貸借対照表上のGPUの帳簿価額だった、という話である。
論理は単純だが射程が長い。米国のハイパースケーラーは概ね5年でGPUを償却する。しかし本当に5年持つと誰が知っているのか。ジェンスン・ファンは6〜7年持つと言っているが、誰が6年間ブラックウェルを使ったのか。理論値でしかない。しかもチップそのものより周辺部品——冷却ファン、サーマルグリス/サーマルパッドといった熱伝導材、コンデンサ、電子回路——が先に壊れる。24時間365日稼働させれば劣化は加速する。加えてソフトウェア側が要求するスペックが上がり続けるため、3年前のGPUが物理的には動いても実務的に追いつかなくなる可能性がある。
この上に、2025年に起きた資金調達方式の転換が重なる。それまで自己資金(フリーキャッシュフロー)でまかなっていたAI投資が、社債発行へと切り替わった。アマゾンもオラクルもメタも債券市場に出た。そして借りた金でGPUを買い、そのGPUを担保にまた借りる。不動産担保なら担保価値は上がるが、GPUの価値は下がる。担保価値が想定より早く落ちれば、資金調達自体ができなくなる。さらに償却しきれなければ減損(ライトダウン)を計上することになり、株価が飛ぶ。
ただしこの回の白眉は、爆弾の描写ではなく解体手順のほうにある。マイキー氏は「解決案もあるんです」と言って、大規模言語モデルの学習には最先端GPUを使い、推論は古いGPUに切り替えるという産業側の動きを説明した。推論に用途が残る限り、旧世代GPUの資産価値は落ちない。だからNVIDIAは「耐用年数が伸びている」と主張できるのであり、それは寿命が伸びたのではなく価値の担保が伸びているのだ、という読み替えである。この読み替えが正しかったかどうかは、2026年8月時点の公開情報で検証できる。結論から言えば——かなりの部分で当たった。
「AI業界の一番の問題は、減価償却です」
マイキー氏は本題に入る前、セッションの冒頭で「みんなが見えていない時限爆弾を説明しようかなと思って」と予告していた。前田氏が「カリフォルニアで問題になっているのが一つある」——電力や水の規制を指す——と応じると、「そこじゃないやつです」と切り返し、しかもそれは特定企業の問題ではなく業界全体の問題だと明言した。そのうえで、GAFAMの中でグーグルが最も時限爆弾を抱えていない、と付け加えている。この最後の一言が、後半のTPU論の伏線になっている。
一時間ほど経ってから明かされた正体が減価償却だった。会員の一人がすぐに「マイケル・バリーが指摘していたじゃないですか」と反応し、マイキー氏も「その通りなんですけど」と認めている。ここから、バリーの指摘とは別の角度で、なぜそれが物理的に起こるのかという説明が始まった。
なぜGPUは太陽光パネルや風力発電と違うのか
マイキー氏の切り口はこうである。太陽光発電や風力発電の設備なら、法定の償却年数が5年だったとしても、物理的には20年使えるということがありうる。つまり償却が終わった後も稼ぐので、元が取れる可能性がある。ところが半導体はそうならない。理由は三つ挙げられた。
第一に、壊れるのはチップではなく周辺部品である。最も壊れやすいのは冷却ファンで、次にサーマルグリスやサーマルパッドといった熱伝導材が来る。これらはチップとヒートシンクの間に挟まれているが、劣化すると熱がこもり、チップにダメージを与える。さらにコンデンサや電子回路も劣化していき、当初のパフォーマンスが出なくなる。そしてメンテナンス費用が非常に高い。
第二に、稼働条件が桁違いである。一般的なGPUはゲームや動画編集の用途なら5〜7年持つと言われる。しかしデータセンターのGPUは24時間365日稼働させなければならない。壊れるのが早い。
第三に、ソフトウェア側の要求が上がり続ける。ソフトウェアが発展すると、求められるスペックと容量が高くなる。3年前のGPUがもう追いつかない、という状態になりうるほどNVIDIAの開発が速い。現段階ではソフトウェアの開発がハードウェアに追いついていないが、今後追いついてくれば、3年前に買ったものが使えなくなる懸念が生まれてくる。
「NVIDIAのジェンスン・ファンは6年から7年持つと言ってはいるんですけど、6年か7年間、誰がブラックウェルを使ったんですか、という話です。理論値の話であって、こういうハード系のものは使いまくると思ったより早くぶっ壊れたりする」——マイキー氏はここで、耐用年数の議論が実績データではなく前提条件の申告にすぎない点を突いた。米国では概ね5年で償却するが、5年持つ保証は誰も持っていない。
減価償却年数の変更が利益に直結することは、過去の実例で裏づけられる。アマゾンは2020年にサーバーの耐用年数を3年から4年へ延長し、2023年までに6年へ延ばした。アルファベットは2023年に4年から6年へ延長し、その年の減価償却費を39億ドル圧縮している。マイクロソフトも2022年に6年へ延長した。業界全体では3〜4年から6年への延長により、年間で約180億ドルの減価償却費が圧縮されたと試算されている。裏取り済
逆方向の動きもすでに始まっていた。アマゾンは一部のサーバーとネットワーク機器の耐用年数を6年から5年へ短縮し、2025年1月1日から適用している。この変更により2025年の営業利益は7億ドル減少すると見込まれた。「会計基準を変えてきたらどうなりますか」というセッション内の懸念は、仮定の話ではなく、すでに一部で現実化していた事象である。裏取り済
なお発言中の「数か月変えるだけで利益が数十億ドルずれる」という表現は、上記のアルファベット39億ドル・アマゾン7億ドルという実例に照らして誇張ではない。裏取り済
自己資金から社債へ——2025年に何が変わったか
マイキー氏は減価償却の話を、資金調達の話と接続した。「最近だと、今まで自分の金でやっていたのが最近変わってきたの、分かります?」という問いかけである。
それまでアマゾンもグーグルもマイクロソフトも、AI投資を自己資金でまかなっていた。それが2025年に社債発行へと変わった。マイキー氏はソフトバンク、アマゾン(150億ドル)、オラクル(300億ドル)といった具体名を挙げている。借りた金でGPUを買い、データセンターを買う。そして米国では概ね5年で償却する。
この転換の含意は重い。「今まではフリーキャッシュフローでやっていたのが、社債に変えたということは、もうこれ以上フリーキャッシュフローを使うわけにはいかないから債券を発行しなければいけない状態になっている」という読み方である。メタでも同じことが起きている、と続けた。
GPUを担保にした資金調達という構造
ここからが本題である。現在行われているのは、GPUチップを担保に置いて金を借りるという方式である。ところが、この担保で借りる金の担保価値そのものが劣化して落ちるものであるため、思ったより資金調達ができなくなる可能性がある。
マイキー氏はこれを不動産と対比した。不動産は価値が上がっていくものだから担保になる。GPUは劣化が早いので、思った以上に資産価値が落ちる。価値が下がっていくものは担保にならない場合も出てくる。しかも新しいデータセンターを買い足していく。もし想定より劣化が早く、資産価値が落ちていった場合に何が起きるのか——これが問いの立て方である。
さらに収益性の問題が重なる。AIで収益性が現時点でそこまで出ていないにもかかわらず、これくらい儲かるだろうという試算のもとで投資が積み上がっている。回収は遅い、GPUの劣化は激しい、おまけに5年という償却年数が使われる。ここで会計基準が変更されれば、利益が大きくずれ、株価が落ちる。
発言中の数字を一次情報・報道と突き合わせると、アマゾンは正確、オラクルは食い違いがある。要注意
アマゾン:2025年11月に3年ぶりとなる米ドル建て社債で150億ドルの調達を発表。発言の「150億ドル」と一致する。裏取り済
オラクル:2025年9月に発行したのは180億ドル(40年債を含む)であり、発言の「300億ドル」とは一致しない。ただし報道では、オラクル向けにデータセンター資金として380億ドルのローンと180億ドルの債券を組み合わせた大型ファイナンスが銀行団によって準備されていたとされ、この数字を混同した可能性がある。また同時期にメタが過去最大となる最大300億ドルの社債発行を申請(2025年10月)しており、「300億ドル」はメタの案件と取り違えた可能性が高い。発言を黙って書き換えず、差として記録する。要注意
全体像:ハイパースケーラー各社(アマゾン、アルファベット、メタ、マイクロソフト、オラクル)は2025年に合計で約1,210億ドルの新規負債を発行し、うち900億ドル超が直近3か月に集中していた。AI関連の債務発行は2026年に約5,700億ドルへ達する見通しで、2025年比で倍以上になると報じられている。「自己資金から社債へ」という構造転換の指摘そのものは、その後の展開でも完全に裏づけられている。裏取り済
AIスタートアップは本業のキャッシュを持っていない
マイキー氏は次に、この爆弾がどこで最初に破裂しうるかを絞り込んだ。答えはAIスタートアップである。
マイクロソフト、アマゾン、グーグルには本業がある。本業がキャッシュを生み、その余剰でAI投資をしてきた。ではOpenAIやAnthropicのメイン事業は何か——AIそのものである。ほかにキャッシュを生む事業がない。
この構造で、AIの収益性が低く、データセンターやGPUの劣化スピードが速いとどうなるか。加えて、データセンター向けの借り入れはスタートアップに対しては金利自体が高い。償却の期間まで持ちこたえられるのか、という問題になる。もし劣化が想定より早ければ難しい。
ではその場合、誰が補填するのか。マイキー氏の見立ては明快だった。AnthropicはグーグルとアマゾンがOpenAIはマイクロソフトとNVIDIAが負担することになるだろう。会社を維持しなければならないので、スタートアップに投資している側の企業に、想定より大きな資本コストが跳ね返ってくる可能性がある。
この見立ての本質は、AIスタートアップのリスクが単独では終わらないという点にある。スタートアップの償却負担は、その出資者であるハイパースケーラーの資本コストに転嫁される。つまり「本業を持っているから安全」とされた側にも、間接的に爆弾の破片が届く構造になっている。
2026年時点で、この連鎖リスクは法務・金融の実務論点として扱われるようになっている。GPU担保の価値が落ちればネオクラウド事業者が債務を返済できず、それがデータセンターSPVへのリース料支払い能力を損ない、SPVの資金繰り悪化を経てABS(資産担保証券)の毀損に至る、という経路が整理されている。中古市場では、2〜3年経過した中程度使用のGPUが新品価格の50〜70%で取引されるとされるが、複数のネオクラウドが同時にストレスを受ける局面では買い手が消え、投げ売りで額面の30〜50%まで回収率が落ちうるとの試算が示されている。裏取り済
個社レベルでも、あるネオクラウド大手は約87億ドルの債務のうち約75億ドルが2026年までに満期を迎え、短期債務の加重平均金利は12%を超えていると報じられた。「スタートアップに対しては金利自体が高い」という発言は、この水準からも裏づけられる。裏取り済
ジェンスン・ファンは、中国に時限爆弾を輸出しているのではないか
ここでマイキー氏は、自ら「勝手な予想」と断ったうえで、この回で最も挑発的な仮説を提示した。
NVIDIAは中国に対して、性能を落とした仕様のGPUを大量に売っている。もしその制限版の耐用年数が米国向けより短いのだとしたら、それを買い続けた中国のAI企業はどうなるか。予算組みが全部崩れる。「これを戦略でやっていたらジェンスン・ファンは本当に天才だと思っていて、ちなみに僕だったらやります。本当に時限爆弾を送りつけるから」と述べている。
ただしこの仮説には、本人による二重の留保がついている。第一に、これは自分の勝手な予想であること。第二に、「ジェンスン・ファンの性格上、そんなことまではしないと思いますけど」という但し書きである。したがってこれは事実の主張ではなく、もし意図してやっているならという条件付きの思考実験として記録すべきである。
NVIDIAが対中輸出向けに性能を制限したモデル(H20など)を供給してきたこと自体は事実だが、それらの製品の耐用年数が意図的に短く設定されているという公開情報は確認できなかった。輸出規制対応による性能制限は演算性能・帯域幅に関するもので、部材の耐久性を落としたという記録はない。したがってこの部分はセッション内で明示された通り「話者の思考実験」として扱うべきであり、事実として引用してはならない。要確認
信管の抜き方は「推論への転用」——そしてこれは当たった
マイキー氏はここで話を反転させた。「ただですね、ただなんです。解決案もあるわけなんですよ」。
論理はこうである。GPUに大量の計算能力が必要になるのは、言語モデルを学習させる局面である。ところが推論なら、昔のGPUで十分である。したがって、最先端GPUは大規模な学習に使い、推論は計算能力の落ちた旧世代GPUに切り替える。これによって古いGPUにも価値があるということを示せる。いまアマゾン、グーグル、マイクロソフトがやっているのはこれだ、というのがマイキー氏の説明である。例としてOpenAIの推論に2020年頃のNVIDIA製品が使われており、それで間に合っている、という指摘が出た。
「NVIDIAは耐用年数が伸びていると毎回主張する。この主張の中身が何なのか、ということなんですよ。(中略)NVIDIA自体が、実際にGPUの寿命が伸びているのではなくて、GPUの価値の担保が伸びているようなんですよ」——マイキー氏は、NVIDIAの「耐用年数が伸びた」という主張を、物理的な耐久性の話ではなく、旧世代品に推論という新しい用途が生まれたことによる残存価値の話だと読み替えた。しかも「これはジェンスン・ファンの主張なんですよ。言ってないけどね。ジェンスン・ファンはそんなこと言ってません」と、自分の解釈であることを明示している。
そのうえでマイキー氏は、この読みが自分の過去の発信と一貫していることを確認した。「大規模言語モデルが終わった後に次に出てくるのが推論だ、という話をしていた。これはなぜかというと、推論のほうに流さざるを得ないんですよ。価値を担保するために」。そして具体的な銘柄観にも接続する。「プラス、なぜ僕がCoreWeaveを推したのか。CoreWeaveの売上高で一番成長しているものは何かというと、古いチップを使ったサービス提供なんです」。ほかに古いGPUでサービス提供している例としてNebiusも挙げられた。
「旧世代GPUを推論に回すことで資産価値が担保される」という2025年11月時点の見立ては、2026年に入って公開情報で確認できる形になった。
CoreWeaveのA100契約:2026年8月、CoreWeaveは2020年世代のA100について、2029年まで走るテイク・オア・ペイ型・固定価格の複数年契約を締結したと明らかにした。これは同社の言葉でGPU減価償却をめぐる弱気論への直接の反論として位置づけられている。A100の価格は2025年に上昇し、年間を通じて概ね10%以内の値幅を保ったとされ、旧世代GPUの需要は推論の成長に紐づいていると説明された。同社はGPUの耐用年数を6年としており(2023年に5年から引き上げ)、6年を超える利用を示唆する実証的な裏づけが見えているとしている。顧客からはA100・H100・H200・Blackwellと世代混在の要求が来ており、その多くが特定システム向けに設計されたワークロードによるものだという。裏取り済
チップ側の裏づけ:グーグルは2026年4月のCloud Nextで第8世代TPUを学習用の TPU 8t と推論用の TPU 8i の二本立てとして発表した。推論が独立した製品カテゴリとして切り出されたこと自体が、この分業構造が業界標準になったことを示している。裏取り済
ただし論点が消えたわけではない。同じ2026年8月時点で、GPU中古市場の価格形成が確立していないこと、電力・系統制約によって高額なGPU群が「座礁資産」になるリスクは依然として指摘されている。爆弾は解体されたのではなく、信管の一本が抜かれた段階という、セッション内の結論そのままの状態にある。裏取り済
データセンターは完成した時点で「ジャンクフード会場」になっている
推論への転用で信管の一本は抜けた。しかしマイキー氏は「ただし問題点がございます」として、もう一つの経路を提示した。データセンター建設のタイムラグである。
データセンターREITやデータセンター開発事業者は、新しい技術に合わせた設計で建屋を作っている。ところが納入が遅れている。原因は水と電力の規制である。マイキー氏はここで独特の比喩を使った。
公共の食材を扱う展示会場を作ろうとして建物を建てた。しかし建設中にどんどん新しいものが出てくるので、完成した時にはジャンクフードしか置けない状態になっている。そうなると回収がしにくくなる。データセンターも同じで、建設が終わった後にできるだけ早くGPUを導入できれば、そのパビリオンは高級食材を出し続けられる。だが実際に2世代、3世代遅れたGPUを導入することになれば、ジャンクフードの会場になってしまう。価値が落ちているから回収がしにくい。
したがって、データセンターの建設と同時にどれだけスムーズにGPUを導入できるかが鍵になる、というのがマイキー氏が過去のYouTube回で「不動産建設のところがすごい問題点だ」と述べていたことの本質だという。
そして最悪のケースが提示される。償却できなかった場合、英語でライトダウン——減損処理を行わなければならない。これはバランスシートに資産価値の損失として計上される。そうなると一気に収益が落ち、「このデータセンターの回収率は大赤字でした」という状態になり、株価が暴落する可能性もゼロではない。
結論としてマイキー氏が「見ていただきたい」と指定したのは、AIのGPUリサイクル戦略がどれだけスムーズに行われているかである。ここがスムーズに回らなければ、どこかで時限爆弾になって破裂する。だから各社は早く収益化を求めなければならない。これがいまAI業界と大手が抱えている問題だ、という締めだった。
この後、話はTPUへ移る。「なぜTPUが最強になるのかが分かるんです」——前田氏が「今おっしゃった問題が一通り全部解消できるということですね」と受け、マイキー氏が「そう、解決できるんですよ、TPUにすることによって」と応じて、後半のグーグル戦略論へ接続していく。前田氏はここでサプライチェーンの視点を追加した。コスト面だけでなく時間的にどれだけ優位性を保っているかを確認することで、その企業の強さの評価が変わる、という指摘である。
「これである程度パズルは繋がったと思います。時限爆弾は抱えているけれど、そこに対してしっかりと対策は打っていますよと。ただ、時限爆弾は解消できてはいないという状態なんです」——楽観でも悲観でもない、この中間の位置がこの回の結論である。
資本規律は外から来る——PEファンドとM&Aの話
セッションの最後、話題はAI業界から離れ、会員企業のM&Aとプライベート・エクイティの話になった。減価償却と資本コストの回の締めくくりとしては、意外なほど整合している。
マイキー氏によれば、翌月には初めて会うPEファンドとのミーティングが3件入っており、そのうち一つはチリのファンドだという。カナダからも来ている。日本の上場会社に対してMBOを含む提案をしたいという引き合いで、リンクトインで調べても情報があまり出てこないような相手も含まれる。理由として挙げられたのが、日本円が明らかに安く見えることと、前年のパフォーマンスが良かったことである。APAC地域ではインドと並んで日本が最も良く、従来の米系の老舗だけでなくカナダやチリまで分散して入ってきている。原資は年金改革に伴う資金ではないか、という推測が語られた。日本担当者は「今年中にディールしなければクビだ」と言われている状況なのではないか、非常に積極的だ、と評している。
ここでマイキー氏は挑発的な見解を述べた。「日本人の経営者なんかいないんで、むしろ外国に買収されて経営してもらってそれでいいと思っている」。PEが入れば徹底的にストレッチさせられる。土日休んでいる場合か、という世界である。日本人は一度、米国や海外のPEのプレッシャーに耐えるメンタリティと忍耐力をつけたほうがいい。自己改革ができないのなら、外部にやってもらうしかないのではないか、という論旨である。
そのうえで構想を語った。マイキークラブの会員企業にPEを繋ぎ、資金を入れさせ、自分の代わりに規律を課してもらう。10億円から50億円規模のPEファンドを引っ張ってきて流していけば、クラブにとっても実績になる。年間で20本のM&Aは行けるだろう、来年中に10本やろう、という話が本間氏との間で交わされた。「全員がここの人たちが経営者じゃなくなっちゃうかもしれないですけど、それはそれで面白いんじゃないか」とも述べている。
この回の前半は、資本コストを甘く見積もったAI投資が会計を通じて反転するリスクの話だった。後半は、資本コストの規律を外部から持ち込む装置としてのPEの話である。どちらも「資本には値段がついている」という同じ一点を扱っている。減価償却は、その値段を時間軸に沿って認識させる会計上の仕組みにほかならない。
「APACでインドと並んで日本のパフォーマンスが最も良い」「チリやカナダのファンドまで日本の案件を見に来ている」といった内容は、話者が自身の面談経験として語ったものであり、特定の統計や公表資料を引いたものではない。日本のPE市場が円安と企業統治改革を背景に海外投資家の関心を集めていること自体は広く報じられているが、個別のファンド動向は一次情報で確認できないため、ここでは発言の記録にとどめる。
質疑応答
マイキー氏:そこじゃないやつ。業界全体である。AI企業のすべてが時限爆弾を抱えている。そしてGAFAMの中で最も時限爆弾を抱えていないのがグーグルである。
マイキー氏:その通りなのだが、バリーが指摘していたのは会計上の論点である。ここではなぜそれが物理的に起こるのか——冷却ファン、熱伝導材、コンデンサ、電子回路の劣化と、24時間365日稼働という条件、そしてソフトウェア側の要求スペック上昇——という側から説明したい。
マイキー氏:そうである。学習用の最先端GPUと推論用の旧世代GPUを切り替えて運用できる構造が、資産価値の担保に直結する。
マイキー氏:解決できる。TPUにすることによって。しかもグーグルは自社で作っている。
前田氏:直接おっしゃっていなかったが、もう一つサプライチェーンの問題もあるということですね。サプライチェーンを見直して、それがコスト的なだけでなく時間的にどれだけ優位性を保っているかを確認することで、その企業の強さの評価は変わってくる。
マイキー氏:学習するものがないというより、データが枯渇している。2027年までに枯渇するという話は以前もした。では枯渇させないために何が必要になるかというと、今度はIoTである。ロボット、携帯、ビジョンプロ、スマートウォッチ——ほかにもいろいろなデバイスで取れる情報量が限られているので、スマート家電などでどんどん吸い上げてデータ量を増やさなければならない。だからみんなエッジコンピューティングに行きたいのである。
マイキー氏:推論型のほうに回せばいい、という解決案は持っていた。同じGPUでもそういう形での転用ができる。
小川氏:担保になっているのに3年から6年まで償却が伸びていて、逆に回転したらすごいことになる、ドミノ倒しになるのではないかと思っていた。特にOpenAI関連、ソフトバンクを含めてオラクル、ソフトバンクはやばいだろうなと。むしろNVIDIAは早く償却されればされるほどプラスになるのではないかと思っていた。
マイキー氏:NVIDIAは売りっぱなしなので。しかも中国にはまだ売っていない。そこで先ほどのシナリオの形で売れ出せば、当然NVIDIAの上値はもっと取れることになる。
マイキー氏:インテルやサムスンにも分散させるが、さすがにそうである。TSMCは最強である。
質問者:台湾の一本足打法がどこまでも行くなと思って聞いていた。台湾の調子がいいのはいいこと。
宿題・アクションアイテム
- 各社の耐用年数の設定と変更履歴を10-K/10-Qで確認する。 アルファベット、アマゾン、マイクロソフト、メタ、オラクル、CoreWeave。延長と短縮の両方向の変更が実際に起きているので、変更時点と利益への影響額をセットで押さえる。
- 「GPUリサイクル戦略」の進捗を各社で採点する。 マイキー氏が明示的に指定した観測点。旧世代GPUが推論ワークロードにどれだけ移されているか、その契約が何年まで走っているかを見る。
- データセンターの建設完了とGPU導入のタイムラグを追う。 水と電力の規制がボトルネックである以上、系統接続の順番待ち(interconnection queue)と給水許認可が実質的な律速になる。
- AI関連の債務残高と満期の壁を並べる。 特にネオクラウドと、本業キャッシュを持たないAIスタートアップ。短期債務の加重平均金利がどこまで上がっているかが早期警戒指標になる。
- マイケル・バリーの試算(2026〜28年で1,760億ドルの過少償却)を自分で再現してみる。 前提となる耐用年数を3年・5年・6年で振って、対象各社の利益がどれだけ動くかを試算する。
- GPU中古市場の価格形成を継続観測する。 担保価値の議論はすべてここに帰着する。平時の50〜70%という水準が、ストレス時にどこまで落ちるか。
- プロジェクト・タラとGoogle(通信関連)を調べる。 セッション内で分野氏に対して名指しで出された宿題。詳細は同日の別テーマのレポートで扱っている。