陸・海・海底・空・宇宙という5層で覇権争いが起きている。そのうち一般に見えないのが海底と宇宙だ。世界の国際通信の99%を運ぶ海底ケーブルをめぐって、供給側は4社の寡占となり、発注側はGAFAMへ交代した。その4社の中で技術力トップとされる日本企業が、なぜ最も売れていないのか。
講義者は参加者に「海底ケーブルがなぜ重要か分からない人は挙手を」と促し、複数名が手を挙げた。その反応に対する第一声が「ググってください」だった。マイキークラブに在籍していて海底ケーブルの仕様が分からないのは論外だ、という叱責である。この苛立ちには理由がある。3年ほど前のセミナーで「海底ケーブルに投資している企業がAIで勝つ」と明言しており、その帰結として「Appleは負ける」とまで言い切っていたからだ。Apple は海底ケーブルに投資していない。
この日の海底ケーブル論は、単なる技術解説ではなく、資金の流れの話の続きとして語られた。中国がイラン向けの石油代金を建設費として環流させているという構造の話を受け、参加者から「では次にイランへ入ってくる企業に目星はあるか」と問われたときの答えが「イラン単体ではなく、同じことを海底ケーブルでやっている」だった。つまり海底ケーブルは、通信インフラであると同時に、資金移動と地政学的影響力の器でもある。
構造を整理すると三層になる。第一に供給側の寡占。SubCom(米)、Alcatel Submarine Networks(仏)、NEC(日)、HMN Tech(中)の4社がほぼすべてを握る。第二に需要側の交代。かつては通信キャリアが発注していたが、いまや帯域の7割を GAFAM が使い、彼らが自分で敷き始めた。第三に、敷いた後の防衛。年間の切断件数、修理船の不足、ドローン監視、3Dプリンタによる補修――ケーブルを長くするほど防衛費が増える。
そして最後に、この回で最も苦い論点が置かれた。48本の光ファイバを1本のケーブルに収める技術を持つのは NEC だけであり、SubCom もファーウェイも Alcatel も成功していない。にもかかわらず NEC は売れていない。講義者の診断は明快である。「ポイントは営業の力だと思います」。造船の話と同じだ、と参加者が引き取った。
まず規模感が提示された。世界のインターネット通信のほぼすべて、AIのデータのやり取り、そして金融取引が海底ケーブルを通る。株式や為替の大口取引はすべてデジタル通信で行われており、その日次規模だけで10兆という単位が動く。これが動いているのは海底ケーブルがあるからだ、という説明である。
次に総量。アメリカと中国がそれぞれ敷設したケーブルの長さはほぼ同水準で、世界全体では「月と地球を二往復できる」長さのケーブルが張り巡らされている。この比喩は距離感を掴むには有効だが、数値としては後述の通り検証が必要である。
歴史も辿られた。参加者の一人が「1800年代後半にはあったはず」と答え、講義者は「1850年代」と訂正しつつ正解に近いと評価した。最初のケーブルはイギリスとフランスを結ぶ海峡に敷かれたもので、当時は銅線を海中に引いてゴムで覆っただけの構造だったため、故障が頻発した。それでも通信自体には成功し、その15年後に大西洋横断ケーブルがイギリスとアメリカを結ぶ。ここから長距離電話通信が可能になり、電話ケーブルの時代が始まる。当時は短いメッセージの送信に数時間を要した。それが現在は秒で届く。この速度差を生んだのが、投資額の累積である。
最初の商用海底ケーブルは1850年、英仏海峡にドーバー〜カレー間で敷設されたもので、講義中の「1850年代・英仏海峡」は正確である。銅線をガタパーチャ(天然樹脂)で被覆した構造で、実際に敷設翌日に切断されている。
大西洋横断ケーブルについては、最初の敷設が1858年(8年後)だが数週間で機能停止し、恒久的に運用可能となったのは1866年(16年後)である。講義中の「15年後」は1866年の恒久ケーブルを指していると読めば、ほぼ正確。ただし1858年の初回試行と1866年の実用化を区別しておくと、当時の技術的困難さがより正しく伝わる。
また「国際通信の99%が海底ケーブル」という数値は、業界の標準的な認識として広く引用されており、TeleGeography も国家間データの99%超が600本以上の海底ケーブル系統を通ると整理している。この点は裏付けが取れている。
講義者が挙げた供給側のプレイヤーは4社である。世界最大がアメリカの SubCom。次がフランスの Alcatel Submarine Networks(ASN)。第3位が日本の NEC で、ただし技術力では圧倒的に高い。第4位が HMN Tech(Huawei Marine Networks Tech)である。
この HMN Tech の出自が重要な論点として提示された。ファーウェイが単独で作った会社ではない。海底ケーブル設計の専門企業であるイギリスの Global Marine Systems と共同で設立された合弁である。ファーウェイが通信技術を、Global Marine が海底ケーブルの敷設技術を持ち寄った。その合弁が後に分離し、海底ケーブル専業として独立したのが HMN Tech である。現在、欧州とアメリカから強く忌避されている。
Huawei Marine Networks は2008年、天津において Global Marine Systems(49%)とファーウェイ(51%)の合弁として設立された。講義中の「イギリスの Global Marine Systems と共同で作った」という説明は正確である。
2019年6月、ファーウェイは持分売却を発表。同年10月には Global Marine Group も保有株を亨通光電(Hengtong Optic-Electric)へ売却することで合意した。この取引で HMN の企業価値は2億8500万ドル、GMG の49%持分は約1億4000万ドルと評価されている。亨通が81%を取得して合弁が解消され、2020年11月に HMN Technologies へ改称された。米商務省は Huawei Marine Networks をエンティティリストに追加している。
したがって現在の HMN Tech は「ファーウェイの子会社」ではなく「亨通光電傘下の独立企業」である。ただしファーウェイ由来の技術基盤を持つことから、欧米では実質的に中国国家系インフラ企業として警戒されている。この区別は正確に理解しておくべき点。
ASN、NEC、SubCom、HMN Technologies の4社で海底ケーブル市場の約98%を占めるという集計がある。講義中の「4社体制」という認識は正確である。
ただし順位については注意が必要。「SubCom が世界最大、次に ASN」という講義中の序列に対し、公開されている分析では ASN・NEC・SubCom の3社で2024年のウェットプラント(海中設備)売上の6割超を占めるとされ、どの1社が最大かは集計年・集計対象によって入れ替わる。特に ASN を首位と見る整理も一般的である。要確認
興味深いのは NEC の位置づけ。地政学的理由から SubCom と HMN Tech のどちらも選びたくない案件が、NEC を「妥協案としてのサプライヤー」として選ぶ傾向が指摘されている。これは技術力とは別軸で NEC が選ばれる構造があることを意味し、後述の「営業力の欠如」論と併せて読むと示唆が深い。
図1:海底ケーブル建設4社の寡占構造(概念図)/出典:4社で約98%という業界集計をもとにClaude作図。各社の内訳比率は集計年により変動
講義者は「今のところ世界中で年間何本の海底ケーブルが切られているか」と問い、自ら「700本」と答えた。中国はこれについて「自分たちはやっていない、事故ではないか」という立場を取る。中国の海底ケーブルが切られたとされる場面には、しばしば漁船が出ている。分かっている範囲では、釣りをしているように見える者が実は釣りをしておらず、ケーブルを切っている――そういう話もある、と紹介された。
実例として台湾が挙げられた。2週間ほどネットが止まった事例があり、最近では北欧でも切断が相次いでいる。
国際ケーブル保護委員会(ICPC)の統計では、世界の海底ケーブル障害は年平均約200件である。2010〜2024年の平均で年199件、2013年以降は海底ケーブル総延長が150万kmから270万kmへ50%増加したにもかかわらず、件数は年200件前後で安定している。2023年は136の法域で206件の修理が行われ、最長の修理は947日を要した。
したがって講義中の「700本」は公開統計の約3.5倍にあたる。この差の理由は本レポートでは特定できない。考えられるのは、(a)修理案件ベースではなく損傷イベント全体を数えている、(b)陸揚局や分岐装置を含む広い定義、(c)単純な記憶違い、のいずれかである。ここは発言をそのまま引用せず、ICPC の年約200件を基準に据えるべき箇所と判断する。
なお原因の内訳については、漁業と錨による事故が障害の86%を占めるとされる。講義中の「漁船が絡む」という指摘自体は統計と整合しており、「事故が大半である」という中国側の主張も、統計上は完全な嘘とは言い切れない。むしろ「事故が大半だからこそ、意図的な切断を事故に紛れ込ませられる」という読み方が正確である。
図2:海底ケーブル年間障害件数 ― 発言値とICPC統計の対比/出典:ICPC統計(2010-2024年平均199件、2023年206件)および勉強会での発言値。Claude作図
講義中の「台湾で2週間ネットが止まった」という事例は、2023年の馬祖列島の件を指していると読める。しかし実際には、2023年2月2日と2月8日に中国船舶によって2本のケーブルが損傷し、約1万4000人の住民が50日間インターネットを失った。台馬3号ケーブルの修理完了は3月31日で、もう1本の台馬2号はさらに2か月を要する見込みとされた。
停電期間中は LINE のテキストメッセージ1通の送信に15〜20分かかり、マイクロ波無線での限定的な代替に頼っていた。また中華電信によれば、過去5年で台湾〜馬祖間のケーブル損傷は20件以上発生している。
つまり実際の被害は発言より深刻だった。「2週間」で語ると、海底ケーブル切断のダメージを過小評価することになる。この差は論旨を弱める方向のズレなので、講義者の主張はむしろ統計によって補強される。
修理の物理的なプロセスも説明された。船からフックを降ろして海底のケーブルを引っ掛け、損傷部を海面まで引き上げる。接続し直して海底に戻す。所要は1日以上、標準的には2日程度とされる。
そして修理より前段の「壊されないようにする」対策が現在の焦点になっている。海底ケーブル周辺の海域と上空にドローンを大量投入して常時監視する。損傷したケーブルを補修する専用の3Dプリンタも登場した。ドローンを売るアメリカ企業、3Dプリンタを売るアメリカ企業が、この防衛需要で伸び始めている。ケーブルを太く頑丈に作るという「頑丈性」の設計も重要で、ここは通信容量とはまた別の技術軸になる。
講義者はこの争いを層構造で整理した。地上のインフラを整えると同時に、海洋を押さえに行く。それと並行して海底のシェアも取りに行く。陸、海、海底、空、宇宙という5層に分かれて、中国と欧米諸国が戦っている。一般の目に触れるのは海か陸か空であり、宇宙と海底は見えないところで奪い合われている。
個別のプロジェクトも紹介された。APCN-2(Asia Pacific Cable Network 2)はアジア域内を結ぶ。SEA-ME-WE は頭文字の連結で、South East Asia(東南アジア)、Middle East(中東)、Western Europe(西欧)を結ぶ、という命名法である。東南アジアから中東を経て地中海方面まで到達する。
中国側の主力が PEACE ケーブルである。パキスタンを起点に、西へ向かえばヨーロッパ、東へ向かえば東南アジアに接続する。講義中では「去年完成した」とされた。対する SEA-ME-WE の新プロジェクトは2026年である。つまり長距離幹線については、一部で中国がアメリカより先行してしまっている状態にある。しかも PEACE と SEA-ME-WE 系のルートは、海底ケーブル地図で見るとほとんど隣り合わせで走っている。中東のペルシャ湾のような狭い海域では、ほぼ距離感なく並走している。アメリカと中国が海の中で肩を並べている状態である。
PEACE ケーブル(Pakistan East Africa Connecting Europe)は全長約15,000kmで、2022年12月に全面サービス開始している。パキスタン〜エジプト区間の最終接続によりカラチ〜マルセイユ間が開通した。講義中の「去年完成した」(=2024年)は、実際には2022年で2年のズレがある。ただし PEACE は段階的に区間を延伸しており、後続フェーズの完了を指していた可能性はある。
SEA-ME-WE 6 については、フランス、エジプト、モルディブ、パキスタン、スリランカ、インドで陸揚が完了し、2026年第1四半期のサービス開始が見込まれている。講義中の「2026年」は正確である。ただし SEA-ME-WE 6 はアメリカ主導ではなく、複数国のコンソーシアム方式である点は補足しておきたい。
結論として「中国側の PEACE が先に完成し、対抗ルートは2026年」という講義者の構図そのものは正しい。むしろ実際には PEACE の完成は2022年で、先行の度合いは発言より大きい。
これらのケーブル確保が、中国のいう「デジタル・シルクロード」の中身である。そしてそこに絡んでいるのがファーウェイであり、その技術的系譜を引く HMN Tech である。
もう一つ、海底ケーブルを敷く理由として通信以外の目的が示された。潜水艦の位置確定である。潜水艦は基本的に海中に隠れるが、隠れるには深い海が必要になる。中国近海には深い海が乏しい。そのため深い海峡の近く、水深が急に落ちる地形の近くに潜水艦が潜む。だからそういう海域を狙ってケーブルを敷く。ケーブルは通信路であると同時にセンサーネットワークでもある。
講義者は再び参加者に問いを投げた。「世界の通信量のうち、GAFAM が使っているのは何割か」。参加者からは「20%」という答えが出た。正解は7割である。10年前は10%未満だった。
この構造変化の意味は大きい。従来はキャリア(通信会社)にインフラ投資を依頼するモデルだった。しかしデータ量の増加スピードに、そのモデルでは追いつかない。だから GAFAM が自分で投資するようになった。日本でも KDDI、NTT、ソフトバンクが投資しているが、独自通信網を確保できるほどの資金力を持つ日本企業は限られる。
TeleGeography のデータでは、コンテンツ事業者(Google、Meta、Amazon、Microsoft)が国際帯域の75%を消費している。2010年には AT&T や Telstra といった伝統的通信事業者が約75%を使っていたので、15年で完全に逆転したことになる。
ルート別ではさらに集中度が高い。太平洋横断ルートで80%超、大西洋横断ルートでは90%近い。また稼働容量(lit capacity)ベースでは、ハイパースケーラー4社が71%を占める。講義中の「7割」は、この稼働容量ベースの数値とほぼ一致しており、正確である。
所有面でも Google は34系統、Meta は20系統に持分を持ち、Microsoft と Amazon が合計10系統を保有する。大西洋では新設予定ケーブルの100%、太平洋では80%がコンテンツ事業者主導である。
図3:国際帯域幅に占めるコンテンツ事業者の比率(2010年→現在)/出典:TeleGeography公表データをもとにClaude作図
具体的な動きとして、Meta の Project Waterworth が挙げられた。5万km、地球1周分に相当する世界最長の海底ケーブルを Meta が独自に確保しようとしている。その建設契約先には SubCom や NEC が入る。Microsoft と Google も、帯域確保と長期的なコスト削減の両面から容量を増やしている。データセンターは最も通信量を消費する施設であり、グローバルに接続する必要があるからだ。Google は日本へのデジタル投資として、海底ケーブルだけで10億ドルを投じると表明している。
Meta の Project Waterworth は2025年2月に発表され、全長5万km超で地球の円周(4万75km)を上回る世界最長の海底ケーブルとなる。5大陸を結び、米国・インド・ブラジル・南アフリカを主要接続先とする。24ファイバペア構成で、新世代ケーブルの一般的な8〜16ペアを大きく上回る。最大水深7,000mのディープウォータールーティングと、沿岸の高リスク域での埋設強化が特徴である。Meta はこれまでに20本のケーブルを手掛けており、従来の最長記録は4万5000kmの 2Africa だった。講義中の「5万km、地球1周分、Metaが独自に」という説明は正確である。
Google の対日投資については、2024年4月に「Pacific Connect イニシアチブ」の日本展開として10億ドルを表明。Proa(日本〜北マリアナ諸島〜グアム)と Taihei(日本〜ハワイ)の2本の海底ケーブルが含まれ、両方とも NEC が建設する。パートナーには KDDI、アルテリア、Citadel Pacific が名を連ねる。講義中の「Googleが日本に海底ケーブルだけで10億ドル」は正確である。
この文脈で講義者が強調したのが、3年前のセミナーでの自身の発言である。「海底ケーブルに投資している企業がAIで勝つ」「Appleは負けるぞ」と明言していた。Apple は海底ケーブルに投資していない。前田氏、渡辺氏、上野氏なら覚えているはずだ、という念押しがあった。
そこから一般化された論点がこうである。前回はピックアップトラックの販売データをなぜ日本人は見ないのか、という話をした。自分にとって関係なさそうな話こそが、将来その会社がどうなるかの予測に直結する。海底ケーブルというインフラの話は、まさにその代表例である。
Google、Meta、Microsoft、Amazon の4社がケーブル所有・共同所有・容量購入で存在感を高めているのに対し、Apple は主要な海底ケーブルコンソーシアムにほぼ登場しない。この点は講義中の指摘どおりである。
ただし「だからAIで負ける」という因果については、Apple のビジネスモデルがデバイス販売とオンデバイス処理を軸としており、ハイパースケールのデータセンター事業を持たないことが背景にある点も併せて理解すべき。海底ケーブル投資の有無は、AI競争力そのものというより「自社でグローバルなクラウド基盤を運営する意思があるか」の指標として読むのが正確である。要確認(AI競争の勝敗という将来評価は現時点では検証不能)
質疑の中で、NEC が今後 GAFAM からの受注を積み上げて、かつての石油パイプラインのような覇権的地位を取れるのかという問いが出た。地政学的にも日本は真ん中にいるのだから有利ではないか、という趣旨である。講義者の答えは「難しいと思う」だった。
理由の一つは地理的な棲み分けである。最近の開発状況を見ると、日本海側については NTT などが主導しているが、太平洋側はほとんど GAFAM 系になっている。Faster ケーブルなどがその例である。NTT や三井物産が関わる日米間の大型案件も存在するが、太平洋の主導権はすでに移っている。
もう一つ、Google の判断力を示す事例が語られた。海底ケーブルをアメリカ本土に直接引くと思いきや、計算するとカナダのバンクーバー側に引いた方が通信能力が高いと判明し、実際にカナダへ引いた。Unity というプロジェクトの話として紹介された。なぜそちらが効率的なのか講義者自身も理由は分からないが、そういう判断を下せるデータ能力が Google にはある、という評価である。
それでも NEC の技術は突出している、という説明が続く。NEC が受注したケーブルに JUNO がある。通信容量は350兆ビット(350Tbps)。現在保有する技術では500兆ビットまで到達可能とされる。この容量は、1秒間に DVD 1万3000枚分のデータを送信できる規模であり、4K の YouTube であれば2500万人が同時接続できる。
技術の核は、1本のケーブルに何本の光ファイバを収められるかにある。他社は24本にとどまるところ、NEC だけが48本の光ファイバを収める技術を成功させた、と説明された。元々は4組8本だったものが、2020年時点で12組24本になり、そこから24組48本へ到達したという経緯である。SubCom もファーウェイも Alcatel もこれには成功していない。
JUNO ケーブルシステムは Seren Juno Network が発注し NEC が建設した全長約10,000kmの太平洋横断ケーブルで、米カリフォルニアと日本の千葉・三重を結ぶ。設計容量350Tbps(後に360Tbpsと公表)で、日米間の既存システムとして最大。2025年5月30日に PoP 間の Ready for Service を達成している。講義中の「350兆ビット」は正確である。
ただしファイバ構成については、NEC は省電力中継器と空間分割多重(SDM)技術により20ファイバペアを実装したと公表している。講義中の「24組48本」とは一致しない。
興味深いことに、24ファイバペア(=48本)という仕様は、前述の Meta の Project Waterworth が採用している構成である。講義者が JUNO と Waterworth の仕様を混同した可能性がある。「NECだけが48本を成功させた」という部分は、公開情報では確認できない。要確認
ただし論旨の骨格は揺らがない。NEC が SDM とファイバペア数の拡張で技術的先端にいること、JUNO が日米間最大容量であること、Google の Proa・Taihei も NEC が建設することは事実である。「技術は日本がトップ」という評価自体は裏付けが取れている。
図4:1本のケーブルに収容される光ファイバ本数の推移(勉強会での説明値)/出典:勉強会での発言をもとにClaude作図。JUNOの実仕様は20ファイバペアであり、48本の達成は未確認
そして講義者は最も鋭い一撃を置いた。「NEC ができたんですよ。でも売れない理由は何なのか。ポイントは営業の力だと思います」。参加者が即座に「また船と同じ話ですね」と応じ、講義者は「一緒です」と返した。
この診断は、技術力の問題ではなく利益配分の問題を指している。技術で勝っても交渉で負ければ、価格決定権は相手に移る。NEC が「地政学的な妥協案」として選ばれているという外部の分析(PART 1 の Claude補足参照)と重ね合わせると、この構造はさらに厳しく見える。技術で選ばれているのではなく、消去法で選ばれている可能性があるからだ。
また参加者からの「コスト面はどうか」という論点に対し、中国は Alcatel、SubCom、NEC と比べて3割ほど安く作れると説明された。ベトナムなど中国依存を避けたい国は日欧米に発注しているが、生産能力が追いつかない。技術は日本がトップだが、生産能力では中国が上回る。
| 軸 | 優位にある陣営 | 講義中の説明 |
|---|---|---|
| 技術力(容量・ファイバ集積) | 日本(NEC) | 圧倒的に高い。他社が成功していない集積を実現 |
| 生産能力・スピード | 中国(HMN Tech) | 生産能力は中国が高い。日欧米は「遅い」 |
| 価格 | 中国 | Alcatel・SubCom・NEC より約3割安い |
| 営業・交渉力 | 米中 | 日本の最大の弱点。技術があっても買い叩かれる |
| 発注者としての資金力 | GAFAM | 帯域の7割を使い、自ら敷設側に回った |
参加者から、スターリンクはコスト面で海底ケーブルの完全な代替にはなり得ないのか、という質問が出た。講義者の評価は肯定的だった。例として挙げられたのがクルーズ船である。世界的なクルーズブームが起きているが、そこで使われている通信はほぼスターリンクである。かなりのテスト運用が行われており、常時移動する船舶での使い勝手が非常に良いと聞いているという。
そこから宇宙産業の今後へ話が広がった。講義者が挙げた次の2つの課題は給油技術と原発である。月開発を進めるにあたって、この2つが必要になるとされている。ブルーオリジンもかなり探っており、どうやって宇宙に燃料を持ち込むかを研究している。
技術的な難所も説明された。液体窒素、液体ヘリウム、液体水素はいずれも沸点が低く軽すぎる。宇宙空間は真空かつ低温条件であるため、簡単に蒸発してしまう。この持ち運び方法をどうするかを、ブルーオリジンもスペースXも実験している。スペースXはロケットを打ち上げて軌道上にドッキング拠点を作り、地上から送った燃料を供給できるようにしようとしているが、管理方法が難しいという。ブルーオリジンについては「ニューグレン計画」を見るように勧められた。参加者が検索すると、火星探査機の打ち上げに向けたニュースが当日(米国時間10月8日、日本では10月10日)付けで出ていた。
クルーズ業界でのスターリンク導入は事実である。Royal Caribbean をはじめとする主要クルーズ会社が全船隊への導入を進めており、従来の静止衛星(GEO)通信と比べて低遅延・高帯域である点が採用理由とされている。講義中の「クルーズ船はほとんどスターリンク」という認識は実態に近い。
ただし海底ケーブルの完全な代替にはならない。理由は容量である。海底ケーブル1本の設計容量が数百Tbps規模であるのに対し、衛星通信は全体で見てもその桁に届かない。スターリンクは「移動体・低人口密度地域・冗長経路」として強く、大陸間の大容量幹線としては別カテゴリと理解するのが正確。
軌道上での推進剤補給(on-orbit refueling)については、SpaceX が Starship 同士のship-to-ship 推進剤移送を月・火星ミッションの前提技術として開発中であり、極低温推進剤のボイルオフ(蒸発損失)管理が最大の課題であるという講義者の説明は技術的に正確である。ブルーオリジンの New Glenn は2025年1月に初飛行に成功し、同年11月には NASA の火星探査ミッション ESCAPADE を打ち上げている。