この回の最後のブロックは、マイキー氏が「本当はこれを話そうと思っていた」と切り出したところから始まった。イーロン・マスクとジェンスン・ファンが登壇したサウジ関連のフォーラムである。そこで語られていた内容のうち、マイキー氏が最も注目したのが太陽地球工学(ソーラー・ジオエンジニアリング)だった。
発想は単純である。温暖化対策としてこれまで企業が考えてきたのは、どれだけ排出量を出さないかだった。そこではなく、太陽から来る熱そのものを減らして地球を強制的に冷やしてしまえばいいのではないか、という学問領域である。マイキー氏の言い方では「こっちのほうが(コストが)安くならないか」という発想であり、いまここにかなりの資金が入り始めているという。
手段として二つが挙げられた。一つはイーロン・マスクが構想している宇宙の鏡である。衛星群を飛ばし、地球に届く熱の量そのものをコントロールする。もう一つは成層圏へのエアロゾル散布である。火山噴火のときに太陽が見えなくなる現象を人工的に再現し、二酸化硫黄の微粒子を成層圏にばらまいて日射を遮断する。マイキー氏はこの二つ目について、散布した物質が雨に溶けて森や建物を溶かす酸性雨になること、呼吸器への影響、オゾン層を逆に破壊する懸念があることを挙げ、それでも資金は入っていると述べた。
ここから議論はブロックチェーンとビットコインに移る。参加者が「今日の商品フェティシズムの話で言えば、ビットコインもまさにそれではないか」と指摘し、非中央集権という物語、発行上限による希少性、インターネット以来の革命という語りが価格を作ってきた構造が確認された。マイキー氏はこれに同意したうえで、技術面から反論を積み上げる。中央集権のほうがコントロールも管理もしてもらえて楽である。分散するほど手数料は上がる。そしてブロックチェーンにはデータ本体を載せられず、URLを載せているだけで、実体は外部サーバーにあり改ざんできてしまう。「結局それぐらいの技術でしかない。あと20〜30年かかるのではないか」という評価である。
最後にマイキー氏が並べたのが、「消えると言われて消えなかったもの」のリストだった。ペーパーレス、都市不要論、オフィス不要論。ビル・ゲイツが1995年の著書で唱えた都市への影響論に触れ、結果として何が起きたかを問う。東京、シリコンバレー、ニューヨーク、深圳、バンガロールに優秀な人材が逆に集まっている。オフィスは数が増え、いまは「どうやって人をオフィスに戻すか」が課題になっている。だからAIによる淘汰も、私たちが考えているほどは起きないのではないか。比率とバランスが変わるだけで、完全になくなるものはそう多くない、というのがこの日の結論だった。
新技術は、必ず「これで何かが不要になる」という物語とセットで語られる。その物語には資金がつく。だが実装まで降りてくると、コストと副作用と物理的制約が現れて、想定された淘汰は起こらない。物語に値段がつく速度と、技術が現実になる速度は一致しない。この時間差をどう読むかが、この回の実務的な主題である。
マイキー氏はこのフォーラムを「サウジのフォーラム」と呼び、イーロン・マスクとジェンスン・ファンが登壇し、司会者が太陽地球工学についてかなり突っ込んでいた、と伝えている。「結構パンチの効いた話をしていた」という評価だった。
該当するのは2025年11月19日に開催された米サウジ投資フォーラム(U.S.-Saudi Investment Forum)である。開催地はサウジアラビアではなくワシントンD.C.で、イーロン・マスクとジェンスン・ファンがAIと技術の進展について対談した。モデレーターはサウジアラビアの通信情報技術大臣アブドラ・アルスワハである。当日「サウジのフォーラム」「今日」と語られたが、開催は勉強会の5日前、場所は米国であった。
公開報道の中心はAIインフラである。xAIがサウジ国営AI企業Humainと協力し、リヤド近郊に500MWのデータセンターを建設する計画で、投資規模は250億ドルとされる。NVIDIAのAIチップを使用する。宇宙関連では、マスクが「カルダシェフ・スケールで文明が次の段階に進むには深宇宙に太陽光発電のAI衛星を置く必要がある」と述べ、これらの衛星が年間100ギガワットの太陽エネルギーを生み出せる(米国の平均年間電力消費の4分の1に相当)と説明した。
要確認「司会者が太陽地球工学に突っ込んでいた」という部分は、公開されているトランスクリプトや報道からは確認できなかった。マスクの太陽放射改変への言及は、このフォーラムではなく同年11月3日のX(旧Twitter)への投稿として広く報じられている(後述)。当日の記憶が、フォーラムの内容とその前後の報道を統合している可能性がある。
マイキー氏の説明は端的だった。温暖化対策として企業が考えてきたのは、どれだけ排出量を出さないかである。そこではなく、方向自体を変えてしまえばいい。地球温暖化を止めるために二酸化炭素の量を減らすのではなく、太陽から来る熱そのものを減らして地球を強制的に冷やしてしまったほうがいいのではないか。地球の気候そのものを人工操作するという発想の学問である。
当日は「太陽光の地理工学」という言い方がなされたが、内容から判断すると指しているのは太陽地球工学(solar geoengineering)/太陽放射改変(SRM: Solar Radiation Modification)である。日射量マップ、設置適地、発電コストといった太陽光発電の地理学とはまったく別の領域であり、混同すると議論が成立しない。前者は「地球に届く太陽エネルギーを人為的に減らす」気候介入の技術群、後者は「地表に届く太陽エネルギーをどこで最も効率よく電力に変えるか」という立地の最適化問題である。本レポートは前者を扱う。
マイキー氏の説明では、イーロン・マスクはスターリンクをさらに飛ばし、そこに鏡を配置して反射させることで、地球に届く熱そのものをコントロールしようとしている。一般に「宇宙鏡」「スペースサンシェード」と呼ばれる構想である。「果たしてこれが良いことなのか悪いことなのか」というのがマイキー氏の留保だった。
火山噴火のときに太陽が見えなくなる現象を人工的に再現する。二酸化硫黄の微粒子を成層圏にばらまき、量をコントロールすれば太陽エネルギーを遮断できる、という発想である。マイキー氏は「むちゃくちゃな発想」と評しつつ、実際に研究が進んでいると述べた。
成層圏エアロゾルについて、マイキー氏は三つの副作用を挙げた。第一に、ばらまいた物質が雨に溶けて酸性雨となり、森や建物を溶かす。第二に、大気の状態が変わって呼吸器に影響が出る。第三に、逆にオゾン層を破壊するのではないかという意見がある。それでも「相当金が入っている」、特にサウジのほうに入っている、というのがマイキー氏の見立てだった。
マスクの発言の正確な内容と日付。2025年11月3日、イーロン・マスクはXに「大規模な太陽光発電AI衛星コンステレーションは、地球に届く太陽エネルギーの量をわずかに調整することで地球温暖化を防ぐことができる」と投稿した。報道はこれを太陽放射改変(SRM)の構想として扱っている。ただし複数の技術系メディアが指摘しているとおり、SpaceXがSRM対応衛星を開発しているという裏づけはなく、企業のロードマップというより思考実験に近いと評価されている。当日の「スターリンクをぶち飛ばして鏡を反射させる」という表現は、方向としては正しいが、鏡を積んだ専用衛星群の開発計画が存在するかのように聞こえる点で実態より一歩踏み込んでいる。
コストの実額。改造航空機を用いた成層圏エアロゾル注入(SAI)の年間コストは180億〜270億ドルと試算されている。1℃の温暖化を抑制する年間コストは、シナリオを変えても180億ドルの±10%に収まるという研究結果がある。今世紀末までの累計では2,500億ドルから2.5兆ドル、2100年時点の年間予算は70億〜720億ドル(2020年ドル)というレンジが示されている。他方で、副作用による被害は年間0〜8,090億ドルと推計されており、実施コストより一桁大きくなりうる。
効果の実証は自然実験に依拠している。1991年のピナツボ山噴火は約1,700万トンの二酸化硫黄を成層圏に注入し、1992〜93年に世界平均気温を約0.5℃低下させた。SAIの効果推定はこの事例を基礎にしている。
リスクは、マイキー氏の指摘とおおむね一致する。硫酸塩エアロゾルによる酸性雨の増加、日射低下に伴う降水量の地域的減少(アジアモンスーンへの影響が特に懸念される)、オゾン層破壊、そして注入を止めた瞬間に温暖化が急激に進行する終端ショック(termination shock)が主要な論点である。加えて、散布された二酸化硫黄が高高度を飛ぶ旅客機の機内で硫酸の霧となり、極地ルートを常用する乗務員の健康リスクになりうるという試算も出ている。「空気が薄くなる」という説明については補正が必要で、懸念されているのは大気密度の低下ではなく、硫酸塩微粒子の吸入による呼吸器への影響である。
ガバナンスは空白である。2024年2月の国連環境総会(UNEA-6)では、太陽地球工学の規制や研究方針について各国が合意に至らなかった。このときスイス主導の決議案に対し、米国・サウジアラビア・日本が世界気候研究計画の「気候介入研究」に関する記述の追加を支持した経緯がある。要確認ただし「サウジに特に資金が入っている」という当日の指摘については、SRM研究に対するサウジの具体的な資金拠出を公開情報で確認できなかった。KAUST(キング・アブドラ科学技術大学)の公開情報で確認できるのはペロブスカイト・シリコンタンデム太陽電池やパネル冷却技術といった太陽光発電の研究であり、太陽放射改変の研究ではない。
財務の議論の流れで、マイキー氏がビットコイン財務企業(トレジャリー企業)の下落に触れた。「あの落ち方は気持ちよかった」「自分の事業に関係ないところに金を使うな」という辛辣な評価である。そこで参加者が接続した。「今日の商品フェティシズムの話で言うと、まさにビットコインもそういうことですよね」。
参加者の整理はこうだった。中央銀行からの解放という物語がある。発行上限が決まっているから希少性がある、手に入りにくいという語りがある。インターネット以来の技術革命だと言われた。政府を超える価値を持つ、という物語で伸びていった。マイキー氏はこれを全面的に肯定したうえで、技術面から反論を返した。
マイキー氏の反論はこうである。ブロックチェーン系の技術は「非中央集権」を売り文句にしているが、言ってしまえば中央集権化してくれたほうが、コントロールも管理もしてくれるからこちらとしては楽である。非中央集権化されればされるほど面倒で、こちらのやることが増える。そのデメリットを考えていない人が多いのではないか、と。そしてその分だけコストがかかる。データベースを時間軸に沿ってブロックで作っていくこと自体が無茶な話であり、セキュリティは上がるかもしれないが、その分だけ異常なコストがかかる。当然、手数料も高くなる。
この日の相場環境。ビットコインは2025年10月6日に史上最高値126,198ドルを付けた後、11月21日には一時80,554ドルまで下落した。ピークからの下落率は約30〜36%で、月間ベースでは2022年以来の最大下落となった。背景としては、FRBの利下げに慎重な姿勢、米国ビットコインETFからの累計約35億ドルの資金流出、規制・税制の不透明感、長期保有者による利益確定売りが重なったと分析されている。勉強会が行われた11月24日は、この急落の直後にあたる。
「ストラテジーが上場廃止になりそう」という発言は、事実関係が異なる。当日マイキー氏は「アメリカでめっちゃ(ビットコインを)持っている会社」について「上場廃止になりそう」と述べたが、実際に起きていたのは上場廃止ではなく指数からの除外の議論である。MSCIが2025年10月10日、デジタル資産が総資産の50%以上を占める企業をグローバル投資可能市場指数から除外する提案のコンサルテーションを開始した。Strategy(旧MicroStrategy)はこの提案を「見当違いであり、投資家と業界に深刻な悪影響を及ぼす」として反対する意見書をMSCI株価指数委員会に提出している。MSCIの決定は2026年1月15日に示され、最終的に除外は見送られた。勉強会当日(2025年11月24日)はコンサルテーション期間の途中であり、結論は出ていなかった。
「上場廃止(delisting)」と「指数からの除外(index exclusion)」はまったく別の事象である。前者は取引所での売買そのものが停止することを意味し、後者は指数連動ファンドが保有できなくなるという需給の話にとどまる。株価に与える影響は後者でも大きいが、混同すると企業の存続リスクを過大評価することになる。
マイキー氏の技術評価は具体的だった。ブロックチェーンにはデータそのものを載せられない。文字であればいけるが、たとえば貿易書類そのものをブロックチェーン内に入れる技術はない。あるのはURLを貼る技術である。だから結果として、ブロックチェーンで管理しているのではなくサーバーで管理していることになる。URL自体をブロックとして保存し、改ざんできなくすることはできるが、中身が外部にある以上、外部のデータは改ざんできてしまうので意味がない。「結局それぐらいの技術でしかない、未だに」。
そこから貿易実務への言及が続く。証明などにブロックチェーン技術はほとんど使われていない。理由はコストがかかりすぎるからである。「アフリカの児童労働をさせない会社をブロックチェーンで管理する」といった構想についても、マイキー氏は「絶対無理」と断じた。「途方もない作業ですよ、そんな技術を作っていたら」。そして具体例として、ウォルマートが200億円ほどをかけて管理できたのがピーマンだった、という話を挙げている。それだけの金をかけてピーマンの物流しか管理できないのなら、食品だけで何百・何千とある品目をブロックチェーンで管理したらウォルマートの金が消える、と。
ウォルマートの事例は、対象品目が発言と食い違う。ウォルマートがIBMと組んで実施したブロックチェーンのパイロットは、中国での豚肉と中南米・北米でのマンゴーの2件である。ピーマンではない。成果として広く引用されているのが、マンゴーの産地追跡に要する時間を7日から2.2秒に短縮したという数字である。基盤技術はHyperledger Fabric。その後ウォルマートは対象を拡大し、マンゴー・イチゴ・葉物野菜といった青果、鶏肉・豚肉といった食肉、ヨーグルト・アーモンドミルクといった乳製品、さらにパッケージサラダやベビーフードといった複合原料製品まで、5社のサプライヤーから25品目以上を追跡していると発表している。要確認「200億円をかけた」という金額の裏づけは確認できなかった。
一方で、技術的な指摘の中核は正しい。ブロックチェーンに大容量データを直接書き込むのは実務上非現実的であり、標準的な設計ではデータ本体をオフチェーン(外部ストレージ)に置き、そのハッシュ値または参照だけをオンチェーンに記録する。この構成では、オンチェーンのハッシュによって「データが改ざんされていないこと」は検証できるが、「そもそも記録された内容が事実であること」は保証できない。いわゆるオラクル問題である。マイキー氏の「結果としてはサーバーで管理している」「中身は改ざんできるから意味がない」という指摘は、この構造上の限界をほぼ正確に言い当てている。児童労働の有無のような物理世界の事実をブロックチェーンで担保できない、という結論も、この構造から必然的に導かれる。
参加者から「量子コンピュータが出てきたらブロックチェーンは終わるという話があるが、どういう文脈か」という質問が出た。マイキー氏の答えは、そもそも量子コンピュータ自体がまだ不安定でパフォーマンスを出せる段階にない、というものだった。運用方式に触れ、いま語られている9割は超伝導方式の話であり、良い量子ビットは作れるが数が少ない。イオン方式では数は多いが質が良くない、といったトレードオフがある。扱うデータによって適した方式が変わる。だからそこまで進んでいない、というのが結論である。
方式のトレードオフに関する説明はおおむね妥当である。主要な実装方式は、超伝導回路(IBM、Googleなど)、イオントラップ(IonQ、Quantinuumなど)、中性原子、光方式に大別される。超伝導方式はゲート操作が高速でスケールしやすい一方でコヒーレンス時間が短く、イオントラップ方式はゲート忠実度とコヒーレンス時間に優れるがゲート速度が遅い、というのが一般的な整理である。用途に応じて方式が変わるという指摘は正しい。なお当日「熱電動型」と発音されていたのは超伝導型を指すと解される。
ビットコインの暗号を破るのに必要な規模。ビットコインはRSAではなく楕円曲線暗号(secp256k1上のECDSAおよびシュノア署名)を用いており、RSA-2048より必要な量子リソースは小さい。必要な論理量子ビットは、従来の推定で約2,330、アルゴリズム改良を織り込んだ近年の推定で1,200〜1,450程度とされる。物理量子ビットでは、誤り訂正の前提によって幅が大きく、50万未満とする推定から、1時間以内に破るには約3億1,700万必要とする保守的な推定まで存在する。参考として、Gidney-Ekeråの2019年の有名な試算はRSA-2048を8時間で解くのに2,000万物理量子ビットというものだった。現時点で稼働している最大級の量子プロセッサは物理量子ビット数で千のオーダーであり、いずれの推定を採っても数桁の隔たりがある。「そこまで進んでいない」というマイキー氏の評価は、この観点から支持できる。
マイキー氏がここで持ち出したのが、過去の「不要論」の履歴である。「ユートピアの話はさせておけばいい」と前置きしたうえで、AIによってディストピア的になるという話も当分は現実にならないだろう、と述べた。いらないものは排除され、比率とバランスは変わるが、完全になくなるものはそう多くない、というのが基本的な見立てである。
| 「不要」と言われたもの | 当時の予測 | 実際に起きたこと(当日の指摘) |
|---|---|---|
| 紙(ペーパーレス) | インターネットが普及すれば紙は消える | いまだになくなっていない。啓蒙活動が多くなり、話が誇張されて広まった |
| 都市 | ビル・ゲイツが1995年の著書で提唱したとされる都市不要論 | 東京、シリコンバレー、ニューヨーク、深圳、バンガロールに優秀な人材が逆に集まっている |
| オフィス | インターネット時代にオフィスは不要になる | オフィスの数は増えた。いまは「どうやって人をオフィスに戻すか」が課題になり、大手テック企業は人をオフィスに戻している |
| 人間の仕事 | AIによって大規模な淘汰が起きる | リモートワークは増えたが、オフィスに必ず行く人もいる。バランスが変わるだけではないか |
「回避する場所みたいなものは絶対的に需要としてある。バランスが変わってくるだけ。」リモートワークの数は増えたが、オフィスに必ず行く人はいる。完全になくなるものは何なのかと考えると、そこまでないのではないか。したがって、私たちが考えているほどの淘汰は起こらない、という結論である。
ビル・ゲイツの著書は『The Road Ahead』(1995年)で間違いない。当日、書名が思い出せずにいたところを参加者が特定している。ただし内容の要約には補正が必要である。ゲイツが同書で述べたのは「インターネットは都市の構造に影響を与えるだろう」という予測であり、デジタル技術によって在宅勤務が容易になれば通勤頻度が減り、都心より広い家に住めるオフィスから遠い場所が魅力的になる、という論旨だった。「都市が消える」という断定ではない。実際の帰結について、ゲイツ自身が25周年の振り返りで触れているとおり、都市構造への影響という予測は実現しておらず、むしろ都市の生活コストは多くの人にとって手が届かないものになった。在宅勤務の予測は当たったが、時間軸が大きく外れ、1990年代後半から2000年代を通じて少数派の働き方にとどまった。
「距離の消滅」という言い方はゲイツではない。この時期に広まった「距離が意味を失う」という議論の代表的な著作は、フランシス・ケアンクロス『The Death of Distance』(1997年)である。当時の技術文献一般に共有されていた見立てであり、ゲイツ個人の独創ではなかった、というのが妥当な整理である。
なぜ都市に人が集まり続けるのか。経済学の側から見れば、これは集積の経済(agglomeration economies)で説明される現象で、アルフレッド・マーシャルが『経済学原理』(1890年)で整理した、労働市場のプール、専門化した投入財の供給、知識のスピルオーバーという三つの要因が古典的な説明にあたる。通信コストがゼロに近づいても、暗黙知の交換と偶発的な出会いの価値は下がらない。マイキー氏の「回避する場所は絶対的に需要としてある」という直感は、この理論的背景を持っている。
フォーラムではイーロン・マスクのロボティクスの話もあった。マイキー氏はその話を聞いて、ロボティクスのユートピアの最終地点が見えた、と述べている。そしてそれが映画に描かれている、と。『ドラえもん のび太とブリキの迷宮』である。「あの映画は神で、むちゃくちゃメッセージ性があるので見てください」。会見の後、実際にこの映画を見返したという。Netflixで視聴可能である、との案内も添えられた。
『ドラえもん のび太とブリキの迷宮』は1993年3月6日公開、藤子・F・不二雄が脚本を執筆した劇場版第14作である。原作は同名の大長編。物語は、のび太のパパのもとに届いた不思議なトランクからブリキのおもちゃだけが住む「ブリキン島」へ導かれ、そこがチャモチャ星人の宇宙船であることが判明する、という導入で始まる。ロボット皇帝ナポギストラーの軍隊からドラえもんを助けたのび太たちが、サピオに協力して大迷宮に隠されたフロッピーを使ってチャモチャ星人を救う。
作品テーマの位置づけ。一般的な評価として、この作品は「ロボットとの共存」ではなく「科学技術への警告」を主題としており、人類とロボットの主従関係が逆転した社会を描いている。ロボット技術と文明が進んだ果ての未来を批判的に描いた作品である。要確認マイキー氏が述べた「ロボティクスのユートピアの最終地点」という読み方は講師の解釈であり、作品側の主題設定は「ロボットに全てを任せた文明が自らの主体性を失う」という警告に置かれている。ユートピアとして描かれたものが実はディストピアだった、という反転の構造が主題なので、両者は同じものを別の角度から言っているとも読める。
この日の終盤、前田氏が「いつも落とし込みにくい話ばかりしてすみません」と述べたのに対し、マイキー氏が返した言葉が、この勉強会の設計を端的に表している。「前田さんが話したやつは全部僕に落とすので大丈夫です。渡辺さんも前田さんも好きにやっちゃってください。僕は常に落とすので。それが僕の役割だと思っているので。」「上げていっちゃっていいですよ、僕が落とすので」。
渡辺氏はこれを受けて、「よくこの話題を出されたなと思って、すごいと思っています、前田さん。そして落とし込まれたマイキーさんがすごいです。変な風に広がるのを止めてくれるので安心しています」と述べた。マイキー氏は「これは広げるだけ広げてしまっても全然構いません」と応じている。抽象度を上げる担当と、実務に接地させる担当が明示的に分業されている構造が、この短いやりとりに現れている。
A(マイキー氏)そのとおりである。ブロックチェーン系・仮想通貨系は大体「非中央集権」が謳い文句だが、言ってしまえば中央集権化してくれたほうが、コントロールも管理もしてくれるからこちらとしては楽である。非中央集権化されればされるほど面倒で、やることが増える。そのデメリットを考えていない人が多いのではないか。暗号資産系やブロックチェーンをやっている人ほどそうである。そしてその分だけコストがかかる。
A(マイキー氏)使われていない。結局コストがかかりすぎる。それに加えて、ブロックチェーンにデータそのものを埋め込むことができない。文字であればいけるが、貿易書類そのものをブロックチェーン内に入れる技術はない。あるのはURLを貼る技術である。URL自体をブロック化してどんどん保存し改ざんできなくすることはできるが、中身は外部にあるので外部のデータは改ざんできてしまう。それでは意味がない。結局それぐらいの技術でしかない、未だに。あと20〜30年かかるのではないか。
「アフリカの児童労働をさせない会社をブロックチェーンで管理する」というような話もあったが、そんなものは絶対に管理できない。途方もない作業である。実際、ウォルマートが200億円ほどをかけて管理できたのはピーマンだった。それだけの金をかけてピーマンの物流しか管理できないなら、食品だけで何百・何千とある品目を管理したらウォルマートの金が消える。
A(マイキー氏)そもそも量子コンピューティング自体がまだ不安定な状態で、そこまでのパフォーマンスは出せない。運用方法にはいくつか種類があり、いま言われている9割は超伝導型の運用の話である。良い量子ビットは作れるが数が少ない、という問題がある。イオン方式なら数は多いが質が良くない、といったメリット・デメリットがある。どんなデータを扱うかによって適した方式が変わる。だからそこまで進んでいない、というのが答えである。