この日の後半、マイキー氏はベネズエラについて質問した参加者に対して、まず「ニュースの中で分からない単語はなかったか」と問い返すところから解説を始めた。参加者が挙げたのは「太陽のカルテル」という表現である。カルテルという語から連想されるのは、メキシコのシナロア・カルテルやコロンビアのメデジン・カルテルといった、麻薬を扱う非合法犯罪組織だ。では太陽のカルテルも犯罪組織なのか。そこから話がほどけていく。
マイキー氏の説明によれば、この呼称そのものは今回始まったものではない。約30年前、ベネズエラの国家警備隊と軍の将軍が麻薬に関与していたのではないかという調査対象に対して、ジャーナリストが付けた名前である。当時は将官が賄賂を受け取っているのではないかという噂を指す言葉にすぎなかった。それが一気に性格を変えたのが、今回拘束されたマドゥロ政権下だったというのがマイキー氏の見立てである。
何が変わったのか。マイキー氏の整理は明快だ。国の強みとは何かといえばインフラである。港湾、空港、国境検問所、レーダーシステム。これらを密輸組織に提供し、自由に使わせる代わりに上納金を取る。この仕組みが政権のもとで成立した。メキシコやコロンビアのカルテルとは違い、国家のエコシステムそのものをカルテルとして稼働させた――だから太陽のカルテルなのだ、というのがマイキー氏の説明である。マイキー氏はこれを「国家シンジケートみたいなもの」と表現した。
そして麻薬取引の対価として、ミサイルや武器が送り込まれ、密輸ルートが整備される。ではなぜそんなことをするのか。米国とバチバチに揉めていたが、軍事力では絶対に勝てない。だから内部から攻撃しようという発想で、大量の安価なコカインを流し込んだ。マイキー氏はこれを「中国で言うフェンタニルの中米・南米版みたいなもの」と表現した。そこにコロンビアの革命軍やメキシコのカルテルが組み合わさり、さらにトレン・デ・アラグアという仲介組織が北へ北へと運んでいく。陸からも海からも空からもコカインを出せる、米国向けの三ルートができあがった、という構図である。
マイキー氏の解説は終始、「なぜベネズエラでなければならなかったのか」という一点に収斂している。麻薬の流入経路であること。米国の製油所が必要とする重質油が世界最大の埋蔵量で眠っていること。パナマ運河の目と鼻の先にあること。中国が巨額を投じてチョークポイントに影響力を築きつつあったこと。そして過去に米メジャーが接収されて未回収の債権が残っていること。この五つが一つの国で重なっている場所は他にない――だから合理的な標的はここしかなかった、というのがマイキー氏の主張である。これは因果の証明ではなく、条件の重なりを数えた議論であることに注意して読む必要がある。
開始前の雑談で参加者から共有されたのが、この頃よく言われるという話題だった。コンサルティングファームがどんどん潰れる一方で、プライベート・エクイティはどんどん増えている。お金の流れもそちらへ向かっている。理由は単純で、PEは結果を出すところであり、コンサルは結果を出さずにあれこれ言っているからだ、という整理である。
ただし参加者はここに留保を付けた。PEが入ると今度はみんなが疲弊してしまう。3年5年という短期でバリュエーションを極大化するために、ありとあらゆる手段を使うからである。それでもオルタナティブ投資は今年さらに増えていくだろうし、IPOも出てきて市場自体は活性化するのではないか、という見通しが語られた。
マイキー氏はこれを、実体経済と金融市場の乖離がどんどん生まれていく構図として引き取った。金融機関はめちゃくちゃ儲かるし投資家も儲かるが、一般の雇用や事業を経営している人たちは儲からない。ニューヨークの平均給与が2000万円ほどになっているらしいが、それでも生活が苦しいという話が出た。家賃が高騰し、食品も上がっていく。20年前のニューヨークは7万ドルで住めたのだから3倍だが、市場のほうは1.2〜3倍程度でしかない、という比較が示された。
日本についても、可処分所得で考えれば厳しいという指摘が続いた。共働きが増えたので世帯所得自体は上がっているが、一人あたりの所得は可処分ベースでは下がっている。そこにCPIの上昇と、円安による輸入物価の上昇が重なる、という整理である。
雑談の中で最も内容の濃かったのが、参加者が持ち込んだ問いだった。前年の各社予測を見返すと、多くがドル強気を出していた。しかし実際にはユーロなどに対してドルは全体的に下がった。なぜそうなったのか、というものである。
マイキー氏の答えは二段構えだった。第一に、中央銀行が保有しているドルのパイが減っていること。外貨準備におけるドルの比率低下である。第二に、米国は輸入が減って輸出が増えた。輸出が増えるということは、受け取った外貨を現地通貨に換える動きが増えるということであり、これは通貨を弱くする方向に働く。そのうえでマイキー氏は「それよりも下がっている日本円はいかがなものか」と付け加えている。
参加者は自身の予測レビュー作業についても触れ、2025年の予測と実際の答え合わせをしていたところ、三菱系の予測が意外に当たっていたり、逆にコモディティは当てる先とまったく当たらない先がはっきり分かれていたりして、セクション別に見ることの意味がよく分かったと述べている。マイキー氏はこの資料を8〜9時間で作ったと述べ、参加者は「普通の人がやったら数か月かかる、というかできない」と応じた。
もうひとつ、インバウンドの実態についての解説があった。銀座のうどん屋は相変わらず長蛇の列で、中国人が減っても韓国と台湾、それに中東からの客が来るので問題ないと店側は言っている。一方で、体験一回あたり5万円10万円かかるような高単価のサービスはきつい、とマイキー氏は指摘した。飯は誰でも食うが、ラグジュアリーな体験は減る。知り合いの美容整形も、もともと中華系ばかりを相手にしていたところがやられている。
参加者が「もともと金がある人なら政府が何と言おうと勝手に来るのではないか」と問うたのに対し、マイキー氏が説明したのが代理購買の構造だった。中国では14億人全員が旅行に行けるわけではなく、収入証明などが必要になる。そこで一人が代表して行くとなると、周囲の友人から金を大量に預かって、日本で買い物をして帰る。飯はどこでも食えるが、家電やその国でしか手に入らないものとなると日本になる。つまり一人が来ているように見えて、実は何十人・何百人分の金を持って来ている。この構造が消えると、大きな金が動く部分が落ちる。マイキー氏はこれが過去に「大量買い」として発生していたものであり、日本側の不信感の一因にもなっていたと述べた。加えて、リーズナブルな価格帯のホテル、バスで乗り付けるタイプの客はかなり減っているという情報も共有された。
ドル安の要因について――マイキー氏が挙げた「外貨準備におけるドル比率の低下」は、IMFのCOFERデータで長期的に確認できる傾向である。1999年のユーロ導入時に約71%あったドル比率は、近年は58%前後まで低下している。ただし比率低下の相当部分は、ドル以外の通貨建て資産の評価額変動と、豪ドル・カナダドル・人民元など「その他通貨」への分散によるもので、ユーロや円への大規模なシフトによるものではない点は補足しておく必要がある。
輸出増と通貨――「輸出が増えると現地通貨に換えるので通貨が弱くなる」というマイキー氏の説明は、貿易収支の改善が通常は自国通貨高要因とされる教科書的理解とは逆向きに聞こえる。ただし米国の場合、原油・LNGなどエネルギー輸出の増加は、対外決済がドル建てである以上、輸出国側のドル需要をむしろ減らす方向にも働きうる。この論点は文脈次第で符号が変わるため、講師の説明を一般則として受け取るのは避けたほうがよい。要確認
マイキー氏の解説の骨格を、時系列と機能で整理すると次のようになる。まず約30年前、ジャーナリストがベネズエラ軍・国家警備隊の将官による麻薬関与疑惑に対して「太陽のカルテル」という呼称を与えた。この段階では賄賂の噂を指すレッテルにすぎない。次にマドゥロ政権下で、国家の物流インフラそのものが密輸組織に開放される。港湾、空港、国境検問所、レーダーシステム。使わせる代わりに上納を取る。これによって、犯罪組織が国家の資源を借りるのではなく、国家そのものが密輸の運営主体になるという質的転換が起きた、というのがマイキー氏の見立てである。
米司法省はこのカルテルのリーダーがマドゥロ大統領であると認定し、2025年には国際的なテロ組織として定義されるに至った。マイキー氏はこの認定を「勝手に決めつけた」と表現している。ここは講師の評価が入っている箇所であり、事実の記述と分けて読む必要がある。
この構造にはもう一つの部品が必要だった、とマイキー氏は続けた。仲介者である。それがトレン・デ・アラグアというギャング組織で、もともとはベネズエラの刑務所から発祥した集団だという。彼らがメキシコを通って北上し、米国内部に入り込んで武器支援を送っていた。これによって陸・海・空の三ルートで大量に送り出せるようになった、というのがマイキー氏の説明である。
後半の質疑では、この物流の中身についてさらに補足があった。ベネズエラでは空軍もほとんど国が掌握してしまっているため、犯罪組織が物を大量に送れる。コロンビアで作られた安価なコカインが、いったんベネズエラを経由してから米国へ入る。つまりベネズエラは生産国ではなく中継ハブとして機能していたという点が、この構図の要である。参加者はこれを聞いて「攻められても仕方がないような気がする、アメリカからすると」と応じた。
| 要素 | マイキー氏の説明 | 通常のカルテルとの違い |
|---|---|---|
| 名称の由来 | 約30年前、国家警備隊・軍将官の麻薬関与を調べたジャーナリストが命名 | 組織名ではなく、当初は疑惑を指すレッテルだった |
| 提供される資源 | 港湾・空港・国境検問所・レーダーシステムなど国家インフラ | メキシコ・コロンビアのカルテルは国家インフラを持たない |
| 収益モデル | インフラを使わせる代わりに上納金を取る | 密売そのものではなく「場所貸し」で稼ぐ国家版レント |
| 対価 | ミサイル・武器の供与、密輸ルートの整備 | 金銭以外の戦略物資が対価に含まれる |
| 仲介組織 | トレン・デ・アラグア(刑務所発祥のギャング) | 国家と国際カルテルをつなぐ独立したレイヤーが存在する |
| 目的(講師の見立て) | 軍事力で勝てない米国を、安価なコカインで内部から攻撃する | 営利目的ではなく戦略目的が主だという解釈 |
名称の由来――「Cartel de los Soles(太陽のカルテル)」の名は、ベネズエラ軍高官の制服に付けられた太陽の記章に由来する。米国務省の指定発表もこの点を明記している。将官の階級章が太陽をかたどっていることから、軍上層部が関与していることを示す呼称になった。マイキー氏が説明した「30年前にジャーナリストが命名した」という経緯と、記章由来という語源は両立する。1990年代前半に国家警備隊の将官が麻薬捜査対象になった事件を報じる中で使われ始めたとされる。
テロ組織指定の時系列――マイキー氏の「2025年に国際的なテロ組織として定義された」という説明は正確である。米財務省OFACが2025年7月25日に「特別指定国際テロリスト(SDGT)」として制裁指定し、続いて米国務省が2025年11月24日発効で「外国テロ組織(FTO)」に指定した。国務省の発表では、太陽のカルテルはマドゥロおよびマドゥロ政権の高官によって率いられ、軍・情報機関・立法府・司法を腐敗させたとされている。
トレン・デ・アラグア――ベネズエラのアラグア州にあるトコロン刑務所を発祥とするギャング組織で、米国は2025年2月にFTOに指定している。国務省は太陽のカルテルが、トレン・デ・アラグアやシナロア・カルテルといった他の指定FTOと協働していると位置づけている。マイキー氏の「仲介者」という説明は、この公式認定の構図と整合している。
司法省の起訴――マイキー氏が後半で言及した「2020年に司法省がテロ組織として認めろと出していた」という点について、米司法省は2020年3月にマドゥロを含む複数のベネズエラ高官を麻薬テロリズム・コカイン密輸などで起訴している。したがって「起訴が2020年、テロ組織指定の確定が2025年」という講師の時系列は公開情報と一致する。
マイキー氏は参加者に「これが何時間ぐらいで行われたか知っているか」と問いかけた。参加者が5時間ほどかと答えたのに対し、マイキー氏の説明は次のようなものだった。全体で6時間。ただし攻撃開始から回収までは1時間半である。まず30分間でサイバー攻撃と軍事施設への物理的破壊を実施。その後30分ほどミサイル攻撃。それからヘリ部隊がカラカスの市街地に突入し、突入から1時間後にはマドゥロ大統領と夫人をヘリコプターに乗せていた。参加者は「もう映画ですね」と応じている。
公開情報による作戦の概要――米国は2026年1月3日未明、ベネズエラの首都カラカスに対する軍事作戦を実施し、ニコラス・マドゥロ大統領と夫人シリア・フローレスを拘束した。作戦名は「Absolute Resolve」。米軍はベネズエラの防空網を制圧し、複数軍種の特殊作戦部隊と法執行機関が大統領邸への急襲に参加した。投入された航空機は150機を超えたと報じられている。マドゥロは即座に国外へ移送され、ニューヨーク南部地区連邦地裁で麻薬テロリズム、コカイン密輸、機関銃および破壊装置の所持といった罪に問われている。
被害――米兵7名が負傷し、うち5名は回復、2名が加療中と報告された。ベネズエラ政府は作戦により100名が死亡したと発表している。またキューバ政府は、ベネズエラ側の要請で任務にあたっていたキューバ人32名が「戦闘で命を落とした」と発表した。これらの被害の数字はこの日の勉強会では触れられていない。
作戦時間について――マイキー氏が述べた「全体6時間、攻撃から回収まで1時間半、うちサイバー・物理破壊に30分、ミサイル攻撃に30分」という詳細な時間配分は、公開されている一次情報では確認できなかった。要確認 米議会向けの報告書やメディア報道は作戦の日付・規模・負傷者数を伝えているが、分単位の内訳までは公表されていない。防空網の制圧から拘束までが短時間であったという趣旨は報道と矛盾しないが、具体的な分数は情報源を確認したうえで扱うべきである。
その後の政権――2026年1月5日、デルシー・ロドリゲス副大統領が国民議会において暫定大統領として宣誓した。この日の勉強会でマイキー氏が「マチャドにはやらせないでロドリゲス副大統領のほうに、という選択肢もある」と述べた見通しは、実際にはこの発言の時点ですでに現実化していたことになる。2026年8月時点でもロドリゲス氏が暫定大統領を務めている。
この節でマイキー氏が語ったうち、作戦が1月3日に実施されマドゥロ夫妻がヘリで搬送されニューヨークへ移送されたという骨格は報道で確認できる。一方、分単位の時間配分は一次情報で確認できていない。また「米国が長年ベネズエラのギャングを泳がせていた」「アンダーグラウンドで石油メジャーとの取引があったのではないか」といった記述は、マイキー氏自身が「僕にはわからない」「僕はそう思っている」と明示的に断っている推測である。本レポートでも推測として扱う。
ではなぜ米国はベネズエラが欲しいのか。マイキー氏の答えは石油だが、単に量の話ではなかった。質のミスマッチである。シェール革命によって米国は世界最大級の産油国になったが、そこで採れるのは軽い原油である。ところが米国の製油設備は重い原油を処理するように作られている。マイキー氏はこれを「クオリティ・ミスマッチ」という言い方で紹介した。
では重質油をどこから入れているのか。いちばんがっつり入れているのはカナダである。ベネズエラとカナダの重質油は品質が非常に似ていると言われているが、山火事などの影響と輸送コストの高さで供給不安が出ている。次が中東だが、こちらは輸送コストが高く保険料や運賃も嵩むうえ、産出量をOPECがコントロールしている。自分たちが思ったほど取れない。
そこでベネズエラである。地図で見ればパナマ運河のすぐ右下にあたる。マイキー氏はここを「要衝」と呼んだ。ベネズエラから米国へ輸送すれば4日ほどで届く。4日で届くということは在庫管理もしやすい、というインセンティブも働く。同じ時期に、中国系のCKハチソンが持っていたパナマ運河の港湾をブラックロックが買収するという動きがあり、米国が要衝を押さえに行っていた。それと同時並行で、この海域での封鎖も行われている、というのがマイキー氏の説明だった。
「軽油/重油」ではなく「軽質原油/重質原油」である――マイキー氏は解説の中で、米国で採れるのは「軽油」で製油所は「重油」向けだと述べ、さらに「車のような簡単に動くものが軽油、船や工場が重油」「今後アメリカが工場を増やし船を作るなら重油が絶対必要になる」と説明した。この説明には用語の混同がある。
正しくは、原油そのものの分類である軽質原油(light crude)/重質原油(heavy crude)と、原油を精製した後の石油製品である軽油(diesel)/重油(fuel oil)は別の概念である。マイキー氏が本来指していたのは前者、すなわち原油の比重(API度)と硫黄分による分類のほうであり、実際その部分(米国のシェールは軽質、製油所は重質向け)は正しい。一方、後段の「工場や船が増えるから重油が必要になる」という需要側の議論は、精製後の製品である重油の話にすり替わっている。
本当のメカニズム――米国メキシコ湾岸の製油所は、カナダ・メキシコ・ベネズエラなどから割安な重質原油を買い、コーカーなどの高度な装置でガソリンや軽油といった高付加価値製品に転換することで、業界で「複雑性プレミアム」と呼ばれる競争優位を築いてきた。シェール革命で国内産の軽質原油が急増しても、この装置構成は簡単には作り替えられない。つまり需要が重油に向かっているからではなく、既存の精製設備が重質原油を前提に建設されているから、重質原油の輸入が必要になる。この違いは、投資判断に使う際に結論を変えうるため補正しておく。
マイキー氏の解説はさらに現場の技術に及んだ。ベネズエラの石油はほとんどが一部地域に集中しており、それがオリノコ川流域である。この地域で採れる原油は、常温でも固体に近い状態で出てくるほど重い。輸送するには液体化しなければならず、希釈剤を流し込んで混合することでパイプラインの流動性を確保する必要がある。
ここに決定的な弱点があった、とマイキー氏は指摘する。この希釈剤は米国製なのである。そして米国はこの希釈剤の輸出を止めた。輸出を止めるということは、物が送れない状態になるということだ。加えて設備の管理コストが極めて高い。生産能力が落ちていく構造がここに埋め込まれていた。
マイキー氏は、ベネズエラの埋蔵量が3000億バレルあり、サウジとイランよりも多いことを挙げ、「OPECの政治的影響力を受けなかったとしても抜ける」と述べた。埋蔵量の比較は正確である。ただし一点だけ補足すると、ベネズエラは1960年のOPEC設立時の創設5か国のひとつであり、現在も加盟国である。したがって正確には「OPECの外に出られる」ということではなく、米国の管理下に入ればOPECの内側にワシントンの影響力を持ち込めるという構図になる。埋蔵量が大きい加盟国の生産方針を米国が左右できるなら、それはカルテルの外部化ではなく内部からの無力化にあたる。
作戦の後に米国が何をしようとしているのか。マイキー氏の答えは「資産管理」だった。そしてその設計を、過去の因縁から説き起こした。
マドゥロ政権の前、チャベス政権の時代にルールが変えられた。エネルギー関連の企業については、ベネズエラの国営石油会社PDVSAが株式の60%を保有しなければならない、というルールである。これに対してコノコフィリップスとエクソンモービルは「ふざけるな」と撤退した。ではそれまでに投資した分を回収させろと求めたが、結果として回収できなかった。米国はまずこの債権の回収に資金を優先的に回す、というのがマイキー氏の説明である。
第二に、ベネズエラの国営石油会社が利益を出していた部分は再投資に使う。その再投資の受け皿として入っていくのが米国企業であり、米国企業が儲かる。加えて過去のコノコフィリップスやエクソンモービルへの補償金も出てくる。
ただし、これを国が直接管理すると侵略になってしまう。そこでトランプ政権が用意しようとしているのがエスクロー口座、つまり第三者口座だ、というのがマイキー氏の解説だった。この口座を中心に、資金を優先的に米国企業へ流し、分配していく。マイキー氏はまた、ベネズエラから米国へ向かおうとしていたタンカーだけで27隻が攻撃を受けていると述べ、米国はインフラを立て直すために稼ぎまくって回収する構えだ、と整理した。
そしてマイキー氏が最も強く名指ししたのがシェブロンである。エクソンモービルもコノコフィリップスも出ていったなかで、唯一ベネズエラに残った米国企業がシェブロンだった。すでに大手として現地にいるのだから、トランプ政権がやろうとしていることに対して極めて理にかなった位置にいる。さらに、パナマなどカリブ海域が封鎖されている状態でベネズエラから米国へ送れる船舶は、シェブロンのタンカーのみである。「シェブロンの株はめちゃめちゃ期待できる」というのがマイキー氏の結論だった。
もう一つの論点が中国である。これまでベネズエラ経済を回してきたのは中国からの投資だった。返済額だけでも巨額にのぼる。そこに米国が直接介入する。マイキー氏は参加者に問いかけた――中国に返さず先に米国へ返す、設備投資も全部米国企業でやる、という状態になったとき、中国に金は返ってくるか、返ってこないか。答えは返ってこない。さらに、米国が国を管理する状態になれば輸出と油田を管理下に置くので、結果として中国向けの輸出も止められる、というのがマイキー氏の見立てだった。
2007年の接収――チャベス政権は2007年、大統領令5200号により、オリノコ・ベルトの合弁事業を新しい混合会社へ「移行」させ、PDVSAまたはその子会社が最低60%の持分を保有することを定めた。マイキー氏の説明はこの内容と一致する。エクソンモービルとコノコフィリップスはこれを拒否して撤退した。
回収されなかった債権の金額――世界銀行傘下のICSID(投資紛争解決国際センター)は、コノコフィリップスの3件のプロジェクト接収に対して87.5億ドルの支払いをベネズエラに命じた。エクソンモービルについては、セロ・ネグロ事業の接収に対して16億ドルの裁定が下されている。いずれも実際の回収は進んでいなかった。マイキー氏が「回収できなかった」と述べた点は正確である。
シェブロン独占という前提は約6週間で崩れたその後の展開――マイキー氏が「唯一残った米国企業」「唯一送れるタンカー」と強調した2026年1月時点の構図は事実だった。しかし2026年2月13日、OFACはシェブロンに加えてシェル、BP、イタリアのEni、スペインのレプソルにも一般ライセンスを発給し、PDVSAとの石油・ガス事業再開を認めた。シェブロンの独占的地位は約1か月半で解消している。「シェブロン以外が入れない」という前提に立った投資判断は、この時点で見直しが必要になった。
ただしシェブロン優位という結論そのものは当たった――シェブロンは2026年4月13日、合弁事業ペトロインデペンデンシアへの出資比率を35.8%から49%へ引き上げる契約を暫定政府と締結し、日量26万バレルから30万バレルへの増産を目標に掲げた。株価面でも、グレッグ・アベル氏がバークシャー・ハサウェイCEOに就任した2026年1月1日から7月28日の終値まででシェブロンは20.3%上昇し、オキシデンタル・ペトロリアム(27.3%)と並んでバークシャー保有銘柄の上位パフォーマーとなった。「シェブロンは期待できる」という2026年1月時点の判断は、その後7か月の株価で裏づけられた形になる。
中国債務――中国は2007年以降ベネズエラに少なくとも500億ドルを融資し、石油による返済が組み込まれていた。2007〜2016年に積み上がった二国間債務は623億ドルとされ、2016年と2020年に返済繰り延べの合意が更新されている。残高については20〜250億ドルまで推計に幅があり、確定していない。ベネズエラの暫定政権がマドゥロ政権下で締結された対中債務の有効性を見直す動きに出たとの報道があるが、その主体と法的位置づけについては報道間で記述が食い違っており、確定情報として扱えない。要確認 なお「中国は返してもらえない」というマイキー氏の見通しの方向性自体は、その後の報道と整合している。
質疑の中で参加者から、シェブロンはバークシャー・ハサウェイが大量に保有している、という指摘が出た。そしてもう一つ、CEOが交代したという話題につながった。参加者が名を挙げたのがグレッグ・アベル氏で、マイキー氏は「あの人はエネルギーとインフラに大の強い人だ」と応じている。参加者は「そういう意味では今回のイベントは非常にサポーティブな話になってくるのかなと思った」と述べ、マイキー氏は「3500億ドルの金をどうやって運用するのかが本当に見物だ」と付け加えた。
そして今年こうしたイベントが起こることを踏まえると、エナジー関係はトランプ大統領の政策も相まっていろいろな関連が考えられる、という展望が共有された。マイキー氏は、必ずAIで電力不足になる可能性がずっと囁かれるので、エネルギー関連は2026年の目玉になると思う、と述べている。個別企業については以前のYouTubeかレポートでリストを流しているので、そちらを見ておいてほしい、という案内で締められた。
グレッグ・アベル――バークシャー・ハサウェイのCEOに2026年1月1日付で就任し、ウォーレン・バフェット氏から引き継いだ。バークシャー・ハサウェイ・エナジーを率いてきた経歴があり、参加者が述べた「エネルギーとインフラに強い」という評価は妥当である。
「3500億ドル」との差――マイキー氏が述べた運用対象のキャッシュについて、バークシャーが交代前に積み上げていた現金・現金同等物は3,340億ドル超と報じられている。2026年第1四半期の決算報道では4,000億ドル近くという数字も出ている。「3500億ドル」は当時の報道値と厳密には一致しないが、桁と規模感は正しい。時点によって数字が動く指標であるため、投資判断に用いる際は決算期を確認する必要がある。
ポートフォリオにおけるシェブロン――シェブロンはバークシャーの株式ポートフォリオで上位5銘柄に入り、比率はおよそ7%。オキシデンタル・ペトロリアムと合わせると8%超を占める。アベル氏は就任後もこの2社の持分を維持した。2026年8月時点では、アベル氏が積み上がった現金を自社株買いと株式取得へ振り向け始めたことが報じられている。