この日の勉強会は、AIツールをめぐる長い雑談から始まった。生産性の効果はいつ数字に出るのか、どのツールが最適なのか、AIが作った資料はなぜ見分けがつくのか――話題は散らばっているように見えるが、通底しているのは一つの問いである。ツールで速くなった作業の先で、人は何によって差別化されるのか。
その問いは中盤の営業論でも形を変えて反復される。セールスフォースが支配的になった結果、みんなが同じデータベースで同じ提案書を作るようになった。ならば次のレベルの差別化はどこで作るのか。講師の答えは、データを手で打ち込んで頭に入れること、そして相手の中にインサイトを作り出すことの二点に集約されていく。
後半、受講者の上田氏がB2B営業のイベント企画を提案する。営業スクリプトを事前に作り、実践的に営業会話をやってみて、参加者からフィードバックをもらう。「これなら何ぼの価値がある」というゲーム性を入れて評価する――至極まっとうな企画である。ところが前田講師とマイキー講師は、企画そのものは歓迎しつつ、評価の構造をまるごと裏返した。評価者は絞れ。感情と逆へ行け。そして評価されるのは受講者ではなく講師のアドバイスのほうにしろ。
多数が納得するものは、強いメッセージにならない。営業も、プレゼンも、イベント設計も同じ構造を持っている。全員に受け入れられる形に整えた瞬間に、記憶にも残らず、差別化にもならない。だから設計の段階で意図的に「逆」を仕込む。この回の実務論は、すべてこの一点から派生している。
冒頭の議論は、AIの生産性効果が数字に現れるまでの時間から始まった。SNSのようなものなら直接的に出るかもしれないが、サポートソフトの類は会社の収益に影響したという形で出るのが遅い。効果を見るならマネタイズの効果はすぐ出せるが、生産性の効果は人がすぐには成長しないので会社としても見えにくい。だから5年から10年かかると言われるのも分からなくはない、というのが出発点である。
ただしパソコンやインターネットの時代と比べると、AIの普及率は圧倒的にスピードが速い。もしかするとあと数年でAIが人の生産性にどう寄与したのかが見えてくる可能性もなくはない。ただしこの1年で出るとは思えないので、今のうちに持っておくのがポイントではないか――という結論が置かれた。
参加者の小賀氏から出たのは、どのAIを使うべきか分からないという課題だった。周囲ではNotionを使っている人が多く、一方でBase44のようなバイブコーディング系、あるいはClaudeが裏で走っているCursorがいいという声もある。業種によって最適が違うのではないか、という問いに対し、講師の答えは端的だった。
そんなに能力は変わらないので相性だと思う。全部使えていたら最強なのだろうが、ある程度のところなら相性でいい。講師自身もAdobeを部分的に使い、AIも使い分けている。
小賀氏が挙げた具体的なニーズは実務的なものだった。セミナーで100人を集めて質問を取ったとき、どんな質問があったか、どこに関心が集まったかを一発でアウトプットできれば非常に楽になる。合宿のフィードバックをExcelで集計しているものを一括でダウンロードしてグラフ化し、参加者の傾向を一発で出したい。決算発表のミーティングが20件あったとき、今回はどういう傾向の質問があったかを一発で出したい。周囲に聞くと「そんなの今日中に出せます」と言われた、という話である。
講師側の運用は、LINE公式アカウントのLステップでアンケートを取り、CSVに落として読み込ませる、というものだった。YouTubeの視聴者へのリーチ先がLINEになるため、そこから抽出する必要がある。ツールの組み合わせができないので、CSVを経由する。
Tableau――中野氏が「セールスフォースが買収したもの」として紹介したBIツール。セールスフォースは2019年6月に企業価値157億ドル(現金控除後)の全株式交換取引で買収を発表し、同年8月に完了した。当時のセールスフォース史上最大の買収である。中野氏はトヨタや三菱UFJ、銀行業界で比較的使われていると述べたが、個社の採用状況は公開情報からは確認できなかった要確認。なお買収後のTableau部門は売上成長で本体に劣後しており、2023年には人員削減の対象になっている。
Base44――「ベース44」として言及されたバイブコーディング系のツール。Cursor――AIコーディングエディタ。講師が「Claudeが裏で走っている」と述べたとおり、Anthropicのモデルを主要な選択肢として搭載している。
ここから議論の中心が移る。ソフトウェアの良いところと悪いところは、生産性が上がって時間短縮できる一方、頭に入らないことだ、と講師が指摘した。
小賀氏はこれに一定の反論を試みる。今回のミーティングでオーディエンスが最も興味を持ったところ、質問の多かったところをグラフ化できる。そこからどう分析し、どう次のプレゼンに反映するかは当然データを使う人間の側の仕事だが、少なくとも今まで時間をかけていた作業ができるようになった。金融機関の大手はみなセールスフォースを入れているだろうし、そこからどうアウトプットするか――ただし、それによってみんな同じものが出てくると、投資銀行のバンカーが同じことをしていたら提案の差別化にならないのではないか、という懸念も同時に述べられた。
講師の回答は明確だった。データも全部いきなりデジタル化せず、全部手打ちで入力して覚えている。人に提示するときにAIで簡略化してアウトプットするのはいい。しかしそこに対する質問に答えられるかどうかで言うと、AIに任せると何も答えられなくなってしまう。だからどんなデータであれ全部手入力で、覚えながら入れている。
相手に情報を分かりやすく提示すること。ツールとしては非常に優秀。
提出用・見せる用の資料作成。時間の圧縮。
円グラフ化、集計、傾向の可視化。
頭の中に入れるという作業。これは提示の作業とはまったく別物である。
質問に対して即答できる状態。ここはデータを手で入れた人間にしか作れない。
講師の運用は「頭の中に入っていないものはデータにしたくない」。まず頭に入れてから、ツールで見えやすくする。
資料作成についても具体的な話が出た。講師が使っている勉強会資料は1枚あたり1時間ほどかけて作っている。AIにデータを取らせて作らせると、デザイン性も含めてどこかでバラバラになる。統一性を作るプロンプトを入れても、そうはならない。理由は「勝手に最適化しやがるから」。最適化しなくていいところで指示を出し続けるほうが面倒になるので、ある程度は自分で作ったほうが早い。
そして未だに、人が手で作ったものかAIで作ったものかは見分けやすい。コンペで3社5社が競うとき、明らかにAIで作った資料が出てくると「それじゃないでしょ」となり、差別化ができなくなる。だからアナログ作業がちゃんと効いてくる。
Excel作業についても同じ論理が繰り返された。円グラフを作るのに10分かかるなら自分で作った方が早い場合もある。ただし普通の人は「作っているところで終わってしまう」。円グラフを作ること自体が目的になり、そこでタイムオーバーになって分析に行かない。もっと言えば、そもそもデータベースになっていないので、日本ではそこに非常に時間がかかっているのが現状である、という指摘が中野氏から出た。
この回で最も具体的な「AIに勝った」実例が、講師の商社時代の話である。自動車関連を担当していた頃、市場に流れている販売台数、OEMの金額、アフターマーケットの工場・メーカーの生産量、そしてその価格帯を全部入力し、ある商品について需要と供給、純正の値段とOEMの値段を全部比較したデータを作った。それをシステム化して価格の妥当性を算出し、見積書を出していた。この商品は15%の利益を乗せるが、この商品については価格競争なので10%、という具合である。
大抵のものが「0.8で割る」だけで金額をつけられていた。しかし需要によっては高く売れるものも、売れないものもある。数値の最大化を目指すなら、市場調査をして、調べて、自分で打ち込んで価格妥当性を作るしかない。
最近になって講師は、当時のデータを引っ張り出してAIに分析させてみたという。結果は「僕の方が正確だった」。AIは妥当性の部分で勝手に解釈し、勝手に数値をつけて値段をつけてくるので、上下のブレが大きくなった。AI自体が市場を見ているわけでもなく、当時の状況も分かっていない。遅れたデータなので合わない。細かいところを数値として出すには相当ちゃんと作り込まないと難しい、というのが結論だった。
「僕の頭はまだAIには負けていない。いずれ抜かれるのだろうけど、まだ負けていない」という言葉に、「シンギュラリティはまだ10年後ですかね」という参加者の反応が返り、講師は「一応20年後と言われている」「9割方の人はもうAIに負けているが、僕はまだもうちょっと頑張れる」と応じた。
講師が「AIより自分のほうが正確だった」と述べた事例は、AIの推論能力の問題というより、入力データの鮮度と文脈の問題である。当時の市場環境を反映した価格妥当性の判断は、当時の相場観・取引先との関係・在庫状況といった、データ化されていない文脈情報に依存している。汎用モデルはその文脈を持たないため、統計的にもっともらしい数値を埋めにいく。講師の言う「勝手に解釈しやがる」は、まさにこの現象を指している。
したがってこの事例は「AIは価格設定ができない」ことの証明ではなく、「文脈が失われたデータからは、誰が計算しても正確な答えは出ない」ことの実例と読むのが適切である。手入力で覚えるという講師の運用は、その文脈情報を人間側に保持しておく手段として機能している。
雑談の流れで、成約率の話題になった。営業会社の人と面談していると、みな成約率20%に到達するにはどうすればいいかを目標として考えている。ところがキクリン氏は平均で70%を超えており、講師自身は直近で95%を超えている。96%という数字を見せられると水準が上がる、決まるのが当たり前という世界にいる感じがする――という受講者の感想が出た。
ここで講師が述べたのが、この回で最も核になる一文である。
セールスをしなくても物が売れる状態であること。これが一番強い。
実際、講師は普段セールスをがっつりかけない。かけたときは徹底的に取る。以前は200社が来て180社に売った、という実績が語られた。ただしセールスをかけるのは面倒なので、いつもはかけない。それでもその程度の数字は出る。これはスキルである、と本人は整理している。
キクリン氏の高い成約率についても、講師は構造的な説明を与えた。キクリン氏のところに来る時点で、参加者はもう頭を下げに来る状態になっている。それは講師が12時間の講義の中で全部その状態にセッティングして喋っているからである。参加者は「マイキーさんと話したくて」来るので、キクリン氏は毎回最初に謝っている――という笑い話が添えられた。
受講者から「ファンにすれば、信者にすれば何でも買うという話があったが、方向性としてはそれか」という問いが出て、講師も「今回の成約率が底上げされているのは多分そこだ」と認めている。売り込みの技術ではなく、売り込みが不要な状態を先に作る、という順序である。
翌週に控えていた500名規模のピッチイベントの話が続いた。もともと講師はスポンサーでもなく、サブの入口で喋る予定だった。それが連絡があって「トリになりました」と変更された。
ここで語られた構造が興味深い。あのピッチに登壇するために、通常は1回500万円や800万円といった金額を払う。講師だけが0円である。「金を払うなら絶対に行かない」「金を払うんだったら結構ですと断るタイプだから、金を払わなくてもいいのでやってくれませんかという話が来る」という説明だった。イーロン・マスクの母メイ・マスク氏の回もそうだったという。
一つは「金を払っているんだからいいだろう」精神。もう一つは「回収しなくていいから花火を打ち上げてもいいだろう」精神。今回は後者である。売上が0円でも構わない状態なので、回収の必要がない。受講者の言葉を借りれば「失うものがない」。
そこで講師が計画していたのが、ドラゴンクエストのホイミスライムのぬいぐるみを100個ほど注文して会場に置き、8匹ずつ貯めて後ろにキングスライムを置く、という仕掛けだった。在庫がないと言われて調達に苦戦していたが、会場にスライムを投げまくる、火気が許されるならペットボトルの水を振りまく、顔面ペインティングをする、着ぐるみで登壇する――といった案が次々に出た。
受講者が「テーマは?」と聞くと、「何も考えていない。いつも通りでいいですかと言って、資料を作るのも面倒なのでいつも使い回している一番適当に喋れるやつでいい」という答えが返る。違いがあるとしたらスライムを投げることだけ、という会話が続いた。
「記憶に残るのが目的」。そして「他の人よりも売れば、本当に何でもいいとなる」。結果が全てなので、そこに至る手段は問わない。以前も面談数を他の10倍取ったことがあるので、とにかく楽しく、記憶に残ればいい。
ここに前田講師が的確なツッコミを入れている。志村けんのバカ殿のような白塗りで行こうかという案に対し、「あれは前提の爆笑量があるから白くて面白い。いきなり白い人はただの白い人だ」。講師も「それでも買わせるほうが大事だ」と応じつつ、この指摘は文脈設計の話として正確である。奇抜さそのものには効果がなく、それが機能するための前提が必要だという、営業論の一般則につながる論点だった。
講義の後、上田氏から新しいイベントの提案が出された。内容はB2B向けの営業イベントである。合宿でやっていたような一対多のプレゼンではなく、一対一のイメージ。
| 要素 | 上田氏の当初案 |
|---|---|
| 形式 | 1対1の営業会話。B2B向け |
| 事前準備 | 営業スクリプトを自分で作成する(前田講師らに相談しながら作っているものを想定) |
| 本番 | 準備したスクリプトをもとに、実践的に営業の会話をやってみる |
| 評価 | 参加者全員からフィードバックをもらう。「自分にとって有用だったか」を皆がジャッジする |
| ゲーム性 | 「これだったら何ぼの価値がある」といった値付けを入れて評価する |
| 目的 | 営業力の強化 |
企画としては筋が通っている。実践、フィードバック、ゲーム性という三点セットは、研修設計の定石でもある。ところがここから、二人の講師によって設計が段階的に裏返されていく。
前田講師が最初に指摘したのは、評価者の問題だった。
評価する人は絞ったほうがいい。なぜかというと、みんなが納得するやり方というのは、ある意味で大したやり方ではないからである。
上田氏の「独自性がないというイメージですか」という確認に対し、前田講師はさらに踏み込んだ。
そのほうが感動が生まれる。思っていることと逆をやったほうがいい。
ということは、多くの人に納得が出れば出るほど、営業としてのメッセージはすごく弱くなる。
この二つの指摘は、実は同じ構造を別の角度から言っている。全員から高評価を得る営業トークは、全員の予想の範囲内に収まっているということであり、予想の範囲内のものは記憶にも感情にも残らない。だから評価軸を多数決に置いた瞬間に、練習すればするほど無難な方向に収束していく。この設計上の欠陥を、前田講師は企画の第一声で見抜いている。
PART 2で語られた「記憶に残るのが目的」という悪ふざけの論理と、ここでの「感情と逆へ行け」という営業論は、まったく同じ命題の別表現である。前提の爆笑量がないと白塗りは機能しない、という前田講師のツッコミも含めて、この回では「逆張りには文脈設計が必要だ」という一貫した主張が繰り返されている。
前田講師が続けて提示したのが、この回で最も実務的な命題である。
営業で一番重要なのは、インサイトを見つけることではなく、インサイトを作り出して、本人のインサイトだと思い込ませることである。そこにどうやって誘導するか。そのためには相手をある程度パターン化して見ることのほうが重要になる。
具体的な手順としては、どういうターゲットが来そうかをまず洗い出し、それに対するパターンを作り、それをどうやって自分がうまくその流れに載せられるかをやるのが一番よい、という説明が続いた。ただし但し書きが付く。作りすぎてしまうと、かえってできなくなる。ガチガチになりすぎるから、である。
マイキー講師はこれを引き取り、プレゼンテーションと営業の違いから整理し直した。両者の違いは、ターゲットの絞り方の幅である。プレゼンは全員向けに満遍なく届ける。営業は顧客によって変わる。税理士業をしている上田氏なら、相手は企業になる。
そのうえでインサイトについて段階を切った。ターゲットを絞り込むうえでポイントになるのは、まず相手に「気づかせる」こと。その一段上位になると、仮想でもいいからインサイトを「作ってしまう」能力になる。そこまでいくと受注量がさらに上がる。ただし今大事なのは、コミュニケーションの中でインサイトをどうやって気づかせるか、その部分を離れたところで練習しておくことだ、という順序が示された。
それをやらないと「ハマる客にしかハマらない」状態になる。ハマらない客にどうハメるのかということ自体が、1対1のコミュニケーションの中で構築できるとは思えない――というのが、上田案への技術的な反論だった。
マーケティング・営業の一般的な文献では、インサイトは「顧客自身も言語化できていない本音を発見するもの」として定義されることが多い。この回で提示された「作り出して本人のものだと思い込ませる」という定式は、それより一段踏み込んだ操作的な立場であり、講師独自の実務論である。
ただし発想の系譜としては孤立していない。B2B営業手法として広く知られる「チャレンジャー・セールス・モデル」(CEB/現Gartnerの調査に基づく2011年の議論)は、優れた営業は顧客のニーズに応えるのではなく、顧客が気づいていない問題を提示して思考を組み替えると論じており、この回の主張と方向を同じくする。「顧客の言うことを聞く営業が最も成績が悪い」というのが同調査の中心的な発見だった。したがってこの回の逆張りは、実証研究の側からも一定の支持を持つ立場と言える要確認(講義中に文献への言及はなく、Claudeによる関連づけである)。
ここからマイキー講師が具体的な代案を出した。
第一段階は単純である。「僕がジャッジをやる」。自分が上田氏の顧客になったつもりで、15分でも20分でも10分でもいいのでセールスを仕掛けてもらう。そのやり取りの中で、本当にインサイトを見い出すようなコミュニケーションが取れているのか、質問ができているのかを全部指摘して直す。これだけで営業数字はおそらく上がる。
第二段階が、この回で最も面白い設計の反転である。みんながジャッジする方式にすると、営業の良さが分かっていない人のほうが多いので、上田氏のトーク自体が弱くなる危険性がある。そこで――
「逆だったらどうですか。僕のアドバイスにジャッジしてください、皆さん」。つまり参加者は、営業をやった人ではなく、それに対する講師のアドバイスの有用性を採点する。
この設計には副次的な効果がある。マイキー講師のアドバイスが「素晴らしいものでした」と高く評価された状態で、それを受け取った上田氏が実行しなかった場合、上田氏へのプレッシャーと詰められ方が凄まじいことになる、というストーリーが生まれる。「マイキーさんにあれだけ言われたのに、やってないんですか」と全員で詰められる状況が作り上げられる。ゲーム性がさらに高くなる、というのが講師の説明だった。
上田氏はこれを歓迎し、「最初に道場的にやったほうがいいと思っている。剣道や柔道の道場破りのようなイメージ」と述べた。マイキー講師は「じゃあイベントとしては50人組手でやりましょうか」と応じ、B2BでもB2Cでもよいので個人面談形式のセールスの場で自分が客になる、と引き取った。
「みんなクソみたいな言い訳しかしないわけじゃないですか。言い訳させないというところもこのクラブの方向性として考えるのであれば、50人組手でやって黙らせるということをやって、さっさとやる以外に選択肢はないぞと追い込む。それならこっちもやった甲斐がある」
さらにもう一段、講師は金銭を絡めた設計を提案した。上田氏には点数を伏せておき、周りから見て何点だったのかを後から見てもらう。仮に10点満点で講師のアドバイスが9点、しかし上田氏の自己評価が7点だったとすると、そこに乖離が生まれている。
乖離が生まれた時点で、講師にPayPayで1,000円を払う。点数がマッチングした場合は0円。
狙いは「自分に与えられている情報が、客観的に見てどれくらい自分にとって有益だったのか」を可視化することである。情報の受け取り方と、周りが聞いている状況は違う。その差分に値段をつける。
前田講師はこの設計に二点の修正を加えた。オンラインではなくどこか会場を借りてやったほうがいい。そしてPayPayではなく現金を持ってきてその場で出すほうが、痛みを感じやすいのではないか。この「痛みを感じやすい」という指摘は、前段の「感情と逆へ行け」と同じ設計思想に立っている。決済が滑らかであるほど、学習効果は落ちる。
実施規模については、参加者を絞ったほうがいいという判断に落ち着いた。20人程度を集めるという案から、10人程度に制限してその人たちをどうブラッシュアップするかに注力するほうがいい、という方向である。開催は年内、週末の講義会の日程に合わせる形とし、前田講師が監修に入ることになった。「セールスができれば本当に金に困らない。そこだけやっておけばもう大丈夫」という前田講師の言葉で、この議論は締めくくられている。
誰が評価するか:参加者全員
誰が評価されるか:営業をやった本人
評価軸:自分にとって有用だったか/何ぼの価値があるか
形式:1対1、オンライン想定
規模:参加者数の制限なし
誰が評価するか:参加者全員(ただし対象が変わる)
誰が評価されるか:講師のアドバイス
評価軸:自己採点と他者採点の乖離。乖離があれば1,000円を支払う
形式:会場を借りたリアル開催。50人組手の道場形式
規模:10人程度に制限。年内実施。前田講師が監修
講義の最後、受講者の一人が年末年始にインドのエローラ石窟群を訪れるという話から、インドの自動車市場に議論が及んだ。都市部はヒュンダイばかりだという話に、講師は「やっぱりセールスの力ですよね、韓国企業の」と応じた。
その地域の人たちが好むものを作ってくる。空気清浄機能がいい、ルーフがあるのがいい――そういった現地のニーズを全部詰め込んで出してくれるから売れる。世界中で各地ごとにマーケティングの仕方を変えている点が優れている。
対比として語られたのがタタである。講師が昔インドでタタの車に乗ったとき、前輪がドラムブレーキだったので焦った、という話が出た。ブレーキパッドではなくライニングである。トラックがライニングを使うのは重量があり、その分の重みで止まるので合理的である。だが自動車は軽いのでパッドでないと止まらない。「コスト削減ってそういうことね、安全性を無視するコスト削減ね」という感想だった。ただし「安かろう悪かろうではあるが、今は超成長している」という補足も付いている。
2025年時点のインド乗用車市場では、ヒュンダイ、タタ、マヒンドラがいずれも10〜15%程度のシェアで拮抗している。ヒュンダイは2024年の2位から2025年上半期には3位に後退しており、講師が語った「都市部はヒュンダイばかり」という印象は、体感としては成立するものの、市場全体では首位ではない(首位はマルチ・スズキ)。
ヒュンダイ・モーター・インディアは2030年度までに4,500億ルピーを投資し、国内シェアを15%超へ引き上げる計画を発表している。現地ニーズに合わせた仕様開発という講師の評価は、同社の戦略と方向性が一致する。
なおこの日は「SKハイニクスがヒュンダイと組む」という言及もあった。半導体と自動車の連携という文脈だが、具体的な提携内容については講義中に説明がなく、公開情報での特定もできなかった要確認