STUDY REPORT / 2025年11月度 勉強会
前日の出版記念講演。5時間経って疲れ切った会場で、ブースも立てず、水1本とチラシ1枚だけで面談を積み上げた。その種明かしが、参加者からの質問に答えるかたちで1時間以上続いた。挙手の左右を使い分けるところまで含めて、すべて設計されていたという。
この日の勉強会の後半は、前日に行われた出版記念講演の振り返りに費やされた。登壇者は5人。主催側の二人が先に話し、マイキー氏は三番目に立った。開始が遅れ、聴衆は5時間座り続けて疲れており、しかも会場は主催者側のファンで埋まっていた。つまり完全なアウェイである。それにもかかわらず結果は323本の面談申込となり、他の登壇者が10〜15本、業界のトップ級でも50〜100本という水準を大きく上回った、というのが本人および参加者による報告だった。
この回の価値は、数字そのものではなくその数字がどう作られたかの分解にある。マイキー氏は質問に答えるかたちで、ほぼすべての要素が事前設計であることを明かしていった。会場に早く入って30分歩き回り、他の登壇者がどう売り込んだかを本人から聞き、喫煙所に張り付いて参加者の疲労を観察し、最も見えにくい席に自分で座って視界と音響を確認する。そのうえで、相手が売り込みスタイルなら自分は売り込まない、金の話に一切触れない、ブースを立てない、という逆張りを組み立てる。
最も生々しかったのが、挙手の左右である。プレゼン中、YESの意味で挙げさせるときは常に左手、NOのときは右手で挙げていた。聴衆から見れば右がYES、左がNOという対応が繰り返し刷り込まれる。そして最後、「今日すごく勉強になった人」という質問だけをあえて右手で挙げさせた。それまで分からないと答えていた人までYESに切り替わる瞬間を、意図的に作ったという。挙げやすい質問と挙げにくい質問では手の角度も変えていたし、左から右へ波打つように会場を流して全員に手を挙げさせる動線まで組んでいた。
加えて、裏側の演出指揮がある。モニターが3台あり、カメラも複数入っていた。マイキー氏はそのすべてに対して、「このキーワードを言ったらこの画像に切り替える」「フリップチャートに移った瞬間にそちらを映す」「このタイミングでカメラのフォーカスをこちらへ」という指示を、事前に機材担当へ渡してメモさせていた。本番では機材担当と目でコンタクトを取りながら進めた。喋る内容だけが台本のないアドリブで、演出は完全に台本化されていたという、通常とは逆の構造になっている。
◆ セッションを貫く1本の線
この日の種明かしを一言でまとめるなら、「中身は決めない。器だけを完璧に決める」である。喋る内容は壇上に立つまで決めていない。ストーリー構成もその場の反応を見ながら変えている。一方で、会場の物理条件、聴衆の疲労度、他の登壇者の手口、映像と照明の切り替えタイミング、挙手の左右と角度、水とチラシを配る瞬間――これらはすべて事前に潰されている。コストをかけずに結果を出すとは、金をかけない代わりに設計に時間をかけることだった、というのがこの回の結論である。
会の冒頭、マイキー氏は年末の忘年会ができるか分からなくなった、と切り出した。理由は前日の登壇である。12月末にかけて700件近い面談をこなさなければならなくなり、物理的に無理だという状態になった。1本30分で計算すると、YouTube視聴者向けの募集を予定していた12月6日までの枠が一晩で埋まってしまった。以降も埋まり、いま面談の受付ができない状態になっている、と。
「昨日やりすぎました」という一言に、この日のトーンが凝縮されている。効果が出すぎたことが、そのまま自分の時間を潰す副作用になっている。マイキー氏は「セールスをしたくない。時間を取られるから。金が要るわけでもないので」と繰り返し述べており、この温度差自体が後段の「売り込まない設計」の背景になっている。
コミュニティに新しく参加する二人の紹介もあった。一人は、元は吉本の芸人で、その後「雨の日に靴磨きをやろう」と考えてスポンサーを付け、次に寿司の教室を1時間受けただけで銀座に寿司屋を開いた、という経歴の人物である。握り方を大して分からないまま開業し、いまは繁盛している。当初2万5,000円で出していたコースの評判がよくなったので3万〜4万に上げたいと相談され、マイキー氏が「上げていいんじゃないですか」と答えたところ、技術は「やりながら覚えてきました」という返答だったという。参加者から「合理的ですね」という反応が出た。
もう一人は、元はUFJにいて、その後モルガン・スタンレーの関係者と仕事をしていた人物である。話してみたら頭がキレたので入ってもらった、とのこと。マイキー氏は12月初旬から中旬にかけて募集をかける予定で、「頭のおかしい人、知見のある人、アカデミックの人をどんどん入れたい」と述べた。
◆ 飯は5分以内、というルール
雑談の中で、会員と初めて食事に行った話が出た。もんじゃ焼きの食べ方が分からず、途中で帰った。「外食が好きではない。家でUber Eatsがいい」「松屋なら行く。20分で終わるから」「吉野家なら3分で食える」「飯は5分以上かけてはいけないというルールがある」。ここは完全な雑談だが、時間の使い方に対する徹底した態度が、後段の「75分を1分もずらさない」という話と同じ根から出ていることが見て取れる。
マイキー氏は「460名の前でプレゼンさせていただいて、マイキークラブが70名ほど来ていたので実質400名ほど。結果として323本の面談が来た」と報告した。他の登壇者は10本や15本、業界で名の知れた登壇者でも50本、最大で100本という水準だという。主催者側からは事前に「100本くらい取れたらすごい」と言われていた。
面談獲得本数の比較(発言ベース)
出典:勉強会での本人および参加者の発言。第三者による検証はできていない。上限値のある発言(「50本、マックス100本」)は上限を採用。Claude作図。
📌 Claude補足|数字の扱いについて
要確認本レポートに記載した「323本」「400人」「他登壇者は10〜15本」といった数値は、いずれも勉強会での本人および同席者の申告であり、主催者による公表資料や第三者の集計に当たることはできなかった。イベント名も明示されていないため、外部から検証する手がかりがない。この点を踏まえたうえで、本レポートでは数値そのものより設計手法の記述に価値の重心を置いている。手法は数値の真偽と独立に検討できるからである。
前提条件は悪い。前日、寝ようとしたら熱が出て眠れず、結局朝の移動時間までドラゴンクエストIIをやっていた。当日は38.5℃。資料は1ページ追加しただけである。その1ページが何かというと、主催者側から「ハイプ・サイクルについて喋ってほしい」というリクエストがあったため、前日にハイプ・サイクルとレジリエンスを話につなげるページを作った、というものだった。ストーリーは何も考えず、壇上に立ってからその場で全部組み立てたという。
📌 Claude補足|ハイプ・サイクルとは
ハイプ・サイクルは、1995年にガートナー社のジャッキー・フェン(Jackie Fenn)が考案した、新技術に対する期待の推移を時間軸で示した図である。黎明期、過度な期待のピーク期、幻滅期、啓発期、生産性の安定期という段階を経て、話題先行の技術が実際の普及に至るまでの過程を説明する。フェンはマーク・ラスキーノとの共著『Mastering the Hype Cycle』(2008年)でこの枠組みを体系化している。マイキー氏が前日に追加した1ページは、このハイプ・サイクルにレジリエンス(衝撃からの回復力)の議論を接続したものだった。
会場では、当初の想定より開始が遅れていた。参加者の報告によれば、先に登壇した一人は準備をせずその場の雰囲気で話すスタイル、もう一人は時間が押していることを気にしてかなり早口になってしまった。つまりマイキー氏が立った時点で、聴衆はすでに5時間座り続け、疲労のピークにいた。
◆ アウェイの定義
マイキー氏は自分の状況をこう定義している。基本的にアウェイであり、自分のファンではない人たちがいる。主催者側の大ファンが集まっている中で、自分は「大なり周りの人だよね」という位置にある。以前の別イベントのような「たちの悪いアウェイ」とは種類が違うが、どこからひっくり返すかを考えなければならない。だからエッジを効かせる必要があり、共感性を作っていくと同時に否定もしていくという組み立てになった、と。
マイキー氏は早めに会場入りし、最初の30分をひたすら歩き回ることに使った。目的は明確である。会場の角度、ブースの位置、各社が何を提供しているか、どういう声かけをしているか。それを全部聞いて回った。「事前情報も全部抜いていました。会場で全部把握しました」というのが本人の説明である。
| 抜いた情報 | 方法 | 設計への反映 |
|---|---|---|
| 他の登壇者の売り込み方 | 本人たちに直接「どういう風な売り込みをしたんですか」と聞く | 相手が売り込みスタイルだと分かったので、自分は売り込まないと決めた |
| 参加者が何を受け取ったか | 喫煙所に張り付き、休憩で出てくる人に片っ端から声をかけて話を聞く | どのアプローチがどう受け取られたかを把握し、構成を逆向きに組んだ |
| 聴衆の疲労度 | トイレと喫煙所の人の様子を継続的にモニタリング | 水とチラシを配る瞬間の決定に使った |
| 視界と音響 | 休憩時間に会場へ入り、最も見えにくい席に自分で座って確認 | 一部でも気持ちが下がる席があると全体に伝染するため、その席から見えるように演出を調整 |
| ブースの効果 | 他社ブースの提供物と声かけを観察 | ブースを立てないという判断。「ブースなしでも引っ張れる」ことの検証も兼ねた |
渡辺氏が「一部でも立たない人がいると全体に伝染するのですね。だから最も見えづらいところに自分で行かれた」と要約すると、マイキー氏は「そうですね」と応じ、音響も含めて確認した、と付け加えた。ここで重要なのは、喫煙所という場所の選び方である。休憩で最も人が出る場所であり、しかも人と話す機会が多い。参加者の生の反応を最も安く集められる地点として選ばれている。
◆ 最も気をつけたのはセッティングではない
「一番懸念して気をつけたのはどこか」という質問に対し、マイキー氏はこう答えた。「セッティングよりも、むしろ最後の質問のところ」。会場設営や機材ではなく、クロージングにあたる挙手の設計に最も神経を使っていた、ということである。次のパートがその中身になる。
この回の核心はここである。マイキー氏の説明を整理すると、次のようになる。
プレゼン中、聴衆に手を挙げさせる質問を何度も投げる。そのとき、答えがYESになる質問では自分は左手を挙げて示し、NOになる質問では右手を挙げて示す。聴衆から見れば、自分の右側がYES、左側がNOという対応になる。これを繰り返し、「相手から見て右がYES、左がNOである」という状態を刷り込んでいく。
そして最後、「今日すごく勉強になった人」という質問をするときに、あえて右手で手を挙げさせる。すると、それまで判断がついていなかった人の脳もYESの側に切り替わる。マイキー氏の言葉では「今まで分からないだった人が全員YESに変わった瞬間」であり、「もう洗脳的に刷り込みを入れていた」。参加者が「錯誤ですね。それを右と左で作り分けた」と要約すると、「全部使い分けました。タイミングも」と答えている。
さらに細部がある。どの質問がどれくらい挙手を取れるかを事前に見積もり、挙げやすい質問と挙げにくい質問で手の角度も変えていた。加えて、舞台上の立ち位置を左から右へ流していくことで、手が波打つように順番に上がっていくよう仕込んでいた。後述する質疑で「向かって左手の辺りからの語りかけが長かったように思うが」と問われた際、マイキー氏は「左から右に流していたのに気づきましたか」と返し、これは音響への合図ではなく、挙手のタイミングを波打たせて全員に手を挙げさせるための仕込みだったと明かしている。
📌 Claude補足|行動科学の用語に置き換えると
マイキー氏は「洗脳」「刷り込み」という言葉を使っているが、記述されている手法を行動科学の語彙に置き換えるなら、プライミング(先行する刺激が後続の判断に影響を与える現象)とアンカリング(先に提示された情報が基準点となり、その後の判断を引き寄せる現象)、そして同調行動(周囲の多数派に自分の判断を合わせてしまう傾向)の組み合わせにあたる。アンカリング効果はトヴェルスキーとカーネマンが1974年の論文で提示した古典的な認知バイアスであり、周囲に合わせる同調の傾向は社会心理学で繰り返し検証されてきた。
ただし要確認「YESの側の手を刷り込んでおき、最後に逆の手で挙げさせると回答がYESに反転する」という具体的な操作について、それを直接支持する実験研究は今回の調査では見つけられなかった。この手法の効果を裏づける学術的な根拠は確認できていない、というのが正確な状態である。会場という文脈では、周囲が一斉に手を挙げていることによる同調効果のほうが支配的だった可能性もあり、左右の使い分けが独立にどれだけ寄与したかは検証不能である。手法の記述は本人の設計意図として記録するにとどめる。
プレゼン中、YESの質問では左手を挙げて示し、NOの質問では右手を挙げて示す。聴衆側から見ると右=YES、左=NOという対応が繰り返される。質問の難易度に応じて手の角度も変える。
最後の「今日すごく勉強になった人」で、あえて右手を使わせる。それまで態度が決まっていなかった聴衆がYESの側に流れる。ここが一発逆転のタイミングとして設計されていた。
設計の骨格は逆張りである。マイキー氏は「向こうは売り込みスタイルだったので、僕は売り込まないと決めた」と述べた。他の登壇者はLINEのリスト獲得のために、くじ引きで牛肉を出したり、LINE ID登録者に自分たちの商材を無償提供したりと、1件のID獲得に相応のコストをかけていた。それに対してマイキー氏が用意したのは、ブランドの分からないリラックス用の水1本と、チラシ1枚だけだった。
もう一つの逆張りが、金に直結する話を一切しないという判断である。マイキー氏は「基本的に金に直結するほうが一番人は動く、感情的に。だから僕はあえてお金に直結する話を一切していない」と説明した。最も効く手を、他がそれをやっているという理由で自ら封じている。
三つ目がブースである。会場にはイベント運営のプロがいたにもかかわらず、マイキー氏はブースを立てなかった。しかも「水を配れ」という指示を出したため、周囲がざわついたという。ここでの狙いは二段構えになっている。ひとつは差別化。もうひとつは「ブースなしでも引っ張れる」ことの検証である。普通はブースを立てるのが当たり前だが、ああいうところではブースなしでも行ける――それも計算に入っていた、と本人は述べている。
◆ 一番うまいセールスの定義
「売る気があるのかやる気があるのか分からないような感じでした」という参加者の感想に対して、マイキー氏はこう答えた。「一番うまいセールスとは、思った上で向こうが買ってしまっていた、という状態」である。気づいたら申し込んでいる。実際、その後の面談でセールスは一切かけておらず、「どうやったら入れますか」という質問しか来ていないという。「セールスせずにセールスが終わっている。あれも全部仕込んである」。
水とチラシを配るタイミングは、最後の最後まで指示を出さなかった。会場の雰囲気を見ながら、聴衆が疲れてきたと判断した瞬間に水が出て、「QRコードは何だ、もう少し見たい」と思わせるタイミングでチラシが配られる。マイキー氏によれば「だからチラシも水も、ただ配るより何十倍も効果が変わった」。スタッフからすると直前まで指示が来ないことになるが、当人は「マイキーさんはいつも直前でしか指示が来ないので、イライラはしていません」と応じている。
この「最後まで指示を出さない」という運び方は、情報収集の設計と表裏一体である。会場入りしてから喫煙所で観察し、他の登壇者の話を聞き、その情報を全部入れたうえで方程式を組み立てていく。だから最後まで固定できない。
「最初にどんな掴みをしたのか」という前田氏の質問に対して、マイキー氏が明かした導入の設計は次のようなものだった。
まず、コミュニティメンバーの一人(あだ名で呼ばれている人物)の誕生日を祝う、という体で入る。会場全員でバースデーソングを歌わせる。プレゼンの内容とはまったく関係がない。次に誕生日プレゼントとして、ドラゴンクエストのホイミスライムとはぐれメタルの人形を渡す。ここには、その人物のあだ名が「はぐれメタル」から「ホイミ」に変わったという内輪の経緯があり、そのストーリーを話したうえで人形を出す。
続いて、写真を一枚出す。本人にそっくりだが、実はその人物の兄の写真である。本人が「これ違います」と大声でツッコミを入れる。マイキー氏が「でも、めっちゃ似ていないですか」と全体に振ると、会場全員が「似てる」と声を出す。ここで会場の声が一斉に出た。そのうえで本人を舞台から追い出し、普通に話し始める。
そして最後に、この誕生日そのものが嘘だったと明かす。本当の誕生日は1月である。会場全員で「嘘つけ」と叫ばせる。目的は終始一貫して「声を出させること」だった、と本人は説明している。マイキー氏の実感では、この入口で「場は2分で決まった。行けるなと思った」。
◆ なぜ声を出させるのか
5時間座り続けて疲れ切った聴衆に対して、最初にやるべきことは情報の提示ではなく、身体の状態を変えることだった、という設計である。歌わせる、ツッコませる、全員で似てると言わせる、最後に叫ばせる。いずれも発声を伴う。この回で語られた挙手の設計も含めて、聴衆に何度も小さな行動をさせることが一貫している。渡辺氏はこれを「5時間聞かされているものの中に自然と生まれている支配や強制から解放してあげるような感じですね」と読み替え、「まさにマルクス的ですね」と評した。同じ日の前半で扱われた『資本論』の議論と、ここで接続されている。
会場には大きなモニターが3台あり、後方の席からも見えるように配置されていた。カメラも複数入っていた。マイキー氏はこの機材のすべてに対して、事前に指示を出していたという。
この段階では自分を映す。このタイミングで喋り始めたらこの画像を入れる。フリップチャートに移った瞬間にフリップチャート側を映す。このキーワードを言ったらカメラのフォーカスをこちらに変える――こうした指示を機材担当に全部メモしてもらい、本番ではキーワードを言った瞬間に画面が切り替わっていく、という運びになった。壇上からは、右側にいた音響・映像の担当者に対して目でコンタクトを取り続けていたという。「機材がちょうど近くにあったので、これは目で指示を出せると分かっていました」。
マイキー氏はこれを「セットアップ」と呼び、途中の工程から最後の工程まで、映像の作り出し方・出し方・カメラのズームまで全部指示していた、と述べている。普段は使わないフリップチャートも今回は使い、紙にバランスシートを書いたりホワイトカラー/ブルーカラーの図を描いたりした場面も、書くかどうかを途中まで迷い、その場で決めたという。
◆ 手の位置と、肌を出さないという理由
合宿でも指摘してきたポイントとして挙げられたのが、手のポジションである。プレゼンテーションにおいて手の位置は難しく、しかも肌が見えていると不細工に見えるため、常に長袖を着ている、と。当日は白のトレーナーの上に黒いパーカーを着崩し、肩を出して、やる気がなさそうな雰囲気で登場した。参加者がその印象を述べると、マイキー氏は「あれも狙い。計算済みです」と答えている。さらに「皆さん、ちょっとリラックスしてください」と言いながらしゃがんで立ち上がる動作についても、「普通にやったらめちゃくちゃ難しい」と述べており、真似しやすく見える動作ほど再現が難しいことが示された。
参加者を最も驚かせたのが、時間の話だった。与えられた持ち時間は75分。マイキー氏は時計を見ずに、体感だけで1分もずらさずに終えたという。冒頭のホイミネタで10分使ったため全体は押したが、プレゼンテーションの時間だけを計ると75分ちょうどだった、と。
過去の例も挙げられた。50分の枠では49分30秒で終了。その前の30分のプレゼンテーションでも30秒程度しかずれていない。「77分にしてくれと言われたら、それもできます。細かい数字も大体で合わせられます」。3分スピーチをやらせれば5分喋る人も1分で終わる人もいる中で、75分という長い尺でぴったり合わせられるのは経験値だと本人は説明したが、同時に「その能力を持っている人は日本で見たことがない」とも述べている。
持ち時間と誤差(本人申告ベース)
出典:勉強会での本人の発言。時計を使わず体感のみとの申告。第三者による計測記録は確認できていない。Claude作図。
📌 Claude補足|検証可能性について
要確認「75分の枠を体感だけで誤差なく終える」という能力について、これを裏づける外部記録は存在しない。時間見積もりの正確さに関する心理学の知見では、人間の時間知覚は数分を超える長さでは急速に精度が落ちるとされ、長時間での高精度な自己申告は慎重に扱うのが妥当である。ただし、経験を積んだ話し手があらかじめ構成要素ごとの所要時間を体で覚えており、進行を見ながら要素を足し引きして着地させるという運用は、実務としては一般的に行われている。この日の説明でも「その場の雰囲気で喋る内容もセリフも台本もない」と述べられており、内容を可変にすることで長さを調整していると読むほうが自然である。技能の存在を否定する材料もないため、真偽の判定はせず、申告として記録する。
この回が単なる自慢話にならなかったのは、同席していた複数の参加者が、それぞれ別の角度から観察結果を報告したからである。
長谷川氏の報告によれば、他の登壇者はLINEリストを集めるためにくじ引きで牛肉を出したり、LINE ID登録者に自分たちの商材を無償提供したりと、1件あたりのコストをかけていた。マイキー氏はそれをせず、水1本とチラシ1枚だけだった。にもかかわらず、外れ値の15%を除いたほぼ全員がLINE IDを登録していた。他の人たちの努力が涙ぐましかっただけに印象的だった、という表現が使われている。
長谷川氏はまた、後方の座席の人まで身を乗り出していたことを挙げた。マイキー氏が銀行のデータを提示した際、後ろから見ると細かくて何だか分からず、「このデータをもらってもどうしようもない」と思いながら見ていた。ところが「このデータが欲しい人」と問われると、ほとんどの人が手を挙げた。前のプレゼンで居眠りしていたような人まで挙げていた。「マジかと思って、後ろでドン引きしていました」。
ストーリーの構成についても指摘があった。過去・現在・未来という順序は人間にとって最も分かりやすいストーリーであり、過去を語ってもらうことで距離感があるにもかかわらず親しみを感じる。だから中盤から後半の複雑な内容になっても、聴衆が一生懸命ついていこうとする姿勢が保たれていた、という観察である。
長谷川氏がもう一点挙げたのが、コミュニティメンバーの側の異常さだった。他の聴衆は2万円ほどのチケットを買って座って見ている。一方、マイキークラブのメンバーは前泊・後泊の2泊で飛行機代を含め10万円近くを負担し、スタッフとして働き、しかも立ち見で学ぼうとしていた。「マイキーさんからしたら当たり前じゃないかと思うかもしれませんが、一般的にはあり得ない」。
スタッフとして前方の誘導を担当した参加者は、開演前の会場でマイキー氏について「怖い」といった情報が耳に入ってくる状態で、完全なアウェイを感じたと報告した。しかし始まってみると、お昼過ぎの最も眠い時間帯であるにもかかわらず、後方の人まで非常に前のめりになって聞いていた。「あれだけの人数がいたら普通そうはならないのに」。
◆ 途中で味方を切り捨てた判断
この回で最も冷徹だったのは、マイキー氏が本番中に自分のコミュニティメンバーを見切った、という告白である。最初は盛り上げてくれていたが、途中から声が出なくなった。「こいつらは多分、途中で声を出せないやつらだから出さないだろうな」と判断し、マイキークラブのメンバーを無視して会場全体を巻き込むほうに集中を切り替えたという。別の登壇者から「マイキークラブはうるさいから黙っとけ」と言われた際も、マイキー氏はメンバーには継続するよう指示していたが、継続できなかったのでもういいと切った。味方の熱量を前提に組み立てず、途中で捨てられるようにしていたことになる。
この振り返りが行われた理由も、途中で明かされた。上田氏がB2B向けのセールス勉強会をやりたいと準備を進めており、その告知につなげるためである。マイキー氏は「どちらかというとプレゼンより、B2Bなどの1対1の交渉のほうが強い」と述べ、監修として自分が客役に回り、参加者にセールスをかけてもらって全部直す、という形式を提案した。
設計の理由も述べられている。プレゼンテーションでは周囲の空気感で人は買ってしまう。しかし空気感が作れない1対1の段階でどう持っていくかは、まったく別のベクトルになる。だからテーマを決めて――売るのか、提案するのか、価格交渉なのか――目的を明確にしたうえで営業をかけてもらい、的確に直す、と。「売上と成約率が一気に上がる」という見立てが示された。
時期は年始以降になる見込みである。理由は前述の通り、12月中の面談枠が埋まってしまったためである。加えて11月にプレゼンの合宿が予定されており、この日の登壇動画を教材として使ってよい、という許可も出された。さらに、別の登壇者側とマイキークラブの合同でプレゼン合宿をやる構想も語られた。「他が味わったことのないような合宿にする」と話しているが、参加者からは「どちらが主導でやるかで話がまとまらないのではないか」という懸念も出ている。
◆ 他人の土俵はコストゼロである
この回で繰り返し出てきた考え方が、他人が主催するイベントに登壇することの経済性である。「他人の土俵が一番コストゼロじゃないですか。宣伝費用もかけていない」。人の出版記念に行って面談を持って帰るという行為は、集客コストを主催者に負担させたうえで成果だけを取る構造になる。マイキー氏自身「だから僕を登壇させたくないんですよ、みんな。全部持っていくので」と述べている。裏を返せば、招く側から見たときのリスク管理という論点がここにある。
Qマイキー氏のプレゼンは自然に見えるので、合宿に出ていない人はアウトプットが難しいのではないか。(小畑氏)
A(マイキー氏) 小畑さんのようにあそこまで分析してメモを取れとは言っていない。ただ、アウトプットはその日にする、と教えたはずである。70名もいてアウトプットが10名も出てこないのなら、何のために呼んだのか分からない。
Qコストがほとんどかかっていないのに、ほぼ全員がLINE登録した。改めてすごいと思ったが、どう見ているか。(長谷川氏)
A(マイキー氏) 業界で一番物を売ると言ってきた通りである。しかも今回は物を売っていない。セールスをかければもっと売れていた。あの場で本気でやっていたら、400人中380本くらいは抜けた自信がある。今回は4〜5割でやらせてもらった。
Q時間がぴったりなのは経験値か、それとも元々できたのか。一般の人が真似するには数をこなすしかないのか。
A(マイキー氏) 経験値もあると思う。元々できたわけではない。ただしストーリー構成、資料の作り方、提示の仕方は、真似しようと思えばできる。一方で、人にアクションを教えると全部が遅く見えてしまう。しゃがんで上がるような動作も、普通にやったらめちゃくちゃ難しい。
Q最初にどんな掴みをしたのか。(前田氏・渡辺氏)
A(マイキー氏) 開始からすでに5時間が経ち、完全に疲れている状態だった。そこでまずメンバーの誕生日を祝うという体で入り、全員でバースデーソングを歌わせた。プレゼンとは全く関係がない。次にドラクエの人形を渡し、あだ名の由来のストーリーを話し、本人そっくりの「兄の写真」を出した。本人がツッコみ、会場全員が「似てる」と声を出した。そこで本人を追い出して本題に入った。最後に誕生日が嘘だったと明かして全員に「嘘つけ」と叫ばせた。すべて声を出させるためである。
Qセッティングで最も気をつけたところはどこか。(渡辺氏)
A(マイキー氏) セッティングよりも最後の質問である。YESで挙げさせるときは左手、NOのときは右手を使い、相手から見て右がYES・左がNOという状態を刷り込んでおいた。そして最後に「今日すごく勉強になった人」という質問だけを右手で挙げさせた。それまで分からないだった人が全員YESに変わる瞬間を作った。挙げやすい質問と挙げにくい質問で手の角度も変えていた。
Q一瞬でそれを思いつけるのは、過去に同じことをやった経験があるからか。(渡辺氏)
A(マイキー氏) 基本的にアウェイであり、自分のファンではない人たちの中に立つという前提から考えている。主催者側の大ファンが集まっている中で自分は下の位置にある。そこをどこからひっくり返すかを考えると、エッジを効かせる必要があり、共感性を作ると同時に否定もしていくことになる。その辺りも全部計算した。
Qその逆張りというのは、具体的にどこだったのか。(渡辺氏)
A(マイキー氏) まずセールスの仕方である。向こうが売り込みスタイルだったので、自分は売り込まないと決めた。最終的に面談を取るという地点から逆算し、他の登壇者にどういう売り込みをしたのかを直接聞き、喫煙所で参加者の反応も聞いて回った。そのうえで、煽り立てることを一切せず淡々と話し、セールスをがっつり抜くやり方に切り替えた。加えて、金に直結する話を一切していない。金の話が一番人を動かすからこそ、あえて外した。
Q最後のほうで紙にホワイトカラーやブルーカラーの話を書き出したが、あれも空気を見て決めたのか。
A(マイキー氏) そうである。途中まで書くかどうか迷っていた。バランスシートを書いたのも同じで、途中で決めた。
Q一人ひとりに視線を合わせているように見えたが、しつこく見ていたのか。
A(マイキー氏) 見ていた。演出が重要だからである。機材の担当者にも目を向けていた。ちょうど近くにあったので、目で指示が出せると分かっていた。
Q「ホイミんの誕生日です」という始まり方で、最終的に嘘でしたと言った。あれも決めていたのか。(丸コベ氏)
A(マイキー氏) 決めていた。あいつの誕生日は1月である。みんなで「嘘つけ」と叫んでもらったが、あれも声を発生させたかったからである。
Q最後のほうで両手を挙げてしまったが、右に挙げさせる意図があったのだと今分かった。(丸コベ氏)
A(マイキー氏) 積み将棋のように一個ずつ積み上げていた感じである。
Qその場の情報をうまく活かすのが素晴らしいと思った。感情を入れず客観的な立場を貫けるのが羨ましい。(藤川氏)
A(マイキー氏) 全部ぶっ壊しに行った。丸コベさんも頑張ってくれていたが、途中でマイキークラブのメンバーはもういいと思って無視し始めた。最初だけ盛り上がっていて、途中で声を出せないやつらだと判断したので、むしろ会場を巻き込むほうに集中した。
Q舞台上で、真ん中よりやや向かって左手の辺りから語りかける時間が最も長かったように思うが、どういう配分だったのか。
A(マイキー氏) 左から右に流していたのに気づきましたか。音響への合図ではない。手を挙げるタイミングを波打つように流して、全員に手を挙げさせるための仕込みである。
Q初めてセミナーの手伝いに入ったが、直前でいろいろ決まっていく感じで、皆が案を出して動いていてすごいと思った。
A(マイキー氏) 分かります。(水とチラシの配布については)どこで、どういう風に配ればいいかを全員でその場で考えて、なんとかするしかないという形でやった。
Q会場の全身を使った立ち位置の取り方について。最初に入ってきて、20列ほど並んだ椅子の一番後ろまで行っていたのが印象的だった。
A(マイキー氏) 「ちょろいな」という感じでやっていた。最初の2分で行けると思った。誕生日のくだりで、もう場は決まったと分かった。
Q動画を配布してもらえるか。
A(マイキー氏) 撮ってあるので配ってもいいが、プレゼンを勉強する人だけにする。ただし動画では空気感は絶対に分からない。5分おきにどういう仕掛けがあったかを全部説明できる。3分から5分ごとにトリガーを全部変えている。