STUDY REPORT / 2025年9月度 勉強会

医療AI承認数と日本市場の壁――需要は大きいがポテンシャルは小さい、という警告と、AIでは医療事故は減らないという結論

海外スタートアップのピッチに対して日本側から返された二つの冷水。一つは規制の壁の定量的な指摘、もう一つは「精度は技術では上がらない」という原理的な反論である。

EXECUTIVE SUMMARY

「日本には需要はある。だがポテンシャルはない」

1,000超
米国のAI医療機器承認数(発言値)
50未満
日本のAI医療機器承認数(発言値)
日本は最後
推奨された参入順序
減らない
AI導入と医療事故率の関係
主訴
最大のエラー源として名指しされたもの
範囲限定
精度を上げる唯一の方法

スイス発の医療AIスタートアップによるピッチが終わったあと、この回は二段階で厳しさを増していく。第一段階は、日本市場に対する定量的な冷水である。「日本には高齢者が多いから需要は大きい」という参入の常套句に対し、日本側の参加者が示したのは承認済みAI医療機器の国際比較だった。米国が1,000件を超える一方で、日本は50件に満たない。需要は非常に大きいが、実際のポテンシャルは非常に小さい――この非対称性こそが、海外の医療AI企業が日本で軒並み失敗してきた理由だ、という指摘である。

第二段階は、より原理的な反論だった。医療にロボットやAIが導入されていけば医療事故は減るのか、という問いに対する回答が「全く減らない。減る理由がない」だったのである。理由は技術ではなく、入力にある。人間そのものが最大のエラー源であり、患者が申告する症状はそもそも正確でない。だとすれば、実行者の正確性が上がるほど、間違った情報を忠実に実行することになり、エラーは増幅されうる。

この二つは、表面的には別々の話に見える。しかし通底しているのは同じ命題である。すなわち、技術の性能は市場のボトルネックではないということだ。日本市場のボトルネックは承認プロセスであり、医療精度のボトルネックは入力情報の品質と、判断レベルを評価するシステムの不在である。どちらも、モデルを良くしても解けない。

セッションを貫く1本の線:技術サイドから見える問題と、現場から見える問題は違う。ピッチする側は「解ける問題」を提示するが、受け取る側が知りたいのは「どこがボトルネックか」である。この回の日本側の二つの指摘は、いずれもボトルネックの位置を訂正するものだった。
PART 0

承認数という定量指標――需要とポテンシャルは別物である

質疑の後半、日本側の参加者から出たのは助言の形をとった警告だった。日本市場については「需要のポテンシャルを全く別に考えなければならない」という前置きから始まる。世界中の医療スタートアップと話をしていると、彼らはみな「日本は需要が大きいから」という理由で日本に来ようとする。しかし実際のポテンシャルは非常に小さい。まずそこを説明しなければならない、という切り出しである。

根拠として示されたのが、AI医療機器に対する政府認証の件数だった。米国は既に1,000件を超えている。中国は500件、韓国は400件から300件。それに対して日本は50件未満――この数字の落差が、この回で最も強く記憶されるべき情報である。

そのうえで、日本には規制が非常に多く、市場そのものが強く制限されていること、そして医療システムを管理している側の人々が新しいシステムの導入に対して極めて保守的であることが指摘された。台湾をはじめとする他国の医療AIスタートアップも同じ理由で日本市場に入ろうとし、そして規制の問題で多くが失敗している、という観察が添えられている。

📌 Claude補足:承認数の実データと発言値には大きな開きがある

この比較は方向性としては正しいが、個々の数値は公開データと大きく食い違う。順に確認する。

米国:発言「1,000件超」→ 公開データと整合。FDAのAI搭載医療機器リストは、2025年時点で累計1,451件が承認済みとされ、2025年単年で295〜331件が承認された。2015年から2025年3月までで1,000件を突破している。査読論文(npj Digital Medicine, 2025)も1,016件の承認を分析対象としており、発言値は妥当である。

中国:発言「500件」→ 公開データは154件。2020年から2025年6月までに中国NMPAが承認したAI医療機器は154件(うち79.9%がクラスIII)。2024年6月時点でクラスIIIのAIツールは92件だった。発言値の500件とは3倍以上の開きがある。

韓国:発言「400件〜300件」→ 公開データはさらに小さい。革新医療機器指定制度が2020年に始まって以降、AI・ビッグデータ等の先端技術を含む指定製品の累計は88件(2025年の指定は45件、2024年は29件)。承認済みAI医療機器の総数は指定制度とは別枠のためこれより多いが、いずれにせよ300〜400件という水準を裏付けるデータは確認できなかった。要確認

日本:発言「50件未満」→ 公開データと概ね整合。日本では2017年の初承認以降、2023年時点で20品目以上のプログラム医療機器(SaMD)が承認され、うち4製品が公的医療保険の適用を受けている。個別集計では薬事承認済みの医療AI機器を24件とする資料もある。発言の「50件未満」は妥当な範囲にある。

結論として、日米の落差(1,000超 vs 50未満、約20倍以上)という主張の骨格は公開データで裏付けられる。しかし中国・韓国の数値は過大であり、日本と中韓の差は発言が示唆するほど大きくない可能性がある。投資判断や事業計画に使う場合は、各国規制当局の一次データで再確認すべきである。

図1:AI医療機器の承認件数――発言値と公開データの比較(出典:FDA AI-Enabled Medical Devices List、npj Digital Medicine 2024/2025、KBR、日本の承認集計資料/Claude作図。集計基準・対象期間が国ごとに異なるため厳密な横比較ではない)
横比較の限界:各国の数値は集計基準がそろっていない。米国は510(k)・De Novo・PMA を通じた「AI搭載医療機器」の累計、中国は2020年以降の承認累計、韓国は「革新医療機器指定」という別枠の制度、日本は「プログラム医療機器(SaMD)」の承認件数である。したがって図1の棒の高さをそのまま比較することはできない。それでも「日本の桁が一つ小さい」という結論は動かない。
PART 1

ピッチ側の反論――日本はパズルの一片にすぎない

この指摘に対するスイス側の回答は、防戦ではなく前提の置き直しだった。グローバルの視点から見れば、日本はパズルの一片にすぎない。まずスイス市場に集中するのは、そこで規制準拠を作り込めるからである、という論理である。

そのうえで、スイスの規制環境の厳しさが強調された。患者ケアとプライバシーに関して想像しうる限り最も厳格な部類の枠組みを持っており、すべてをローカルでホストする必要があり、患者データの処理に汎用LLMを使うことはできない。この厳格な基準に準拠して作り込んでいるものは、日本の基準にも適合するだろう、という主張である。「アメリカ向けに最初に作るのではなく、スイス向けに最初に作る。スイス人はアメリカ人とはデータ管理とデータプライバシーに対するアプローチがまったく違う」という言い方で、設計思想の違いが説明された。

日本については、ロードマップの一部として位置づけたい、という回答だった。アジアでの Medical AI OS 展開にはシンガポール、韓国、日本を含める。中国のような市場も魅力的だが、政府と直接組む必要があるため、さらに先の話になる。今後5〜10年のロードマップの中でより取りやすい市場が他にある、という現実的な整理である。

加えて、日本の投資家に対する配慮も明示された。日本の投資家の多くは、投資したものが何らかの形で日本市場へ、自国へ価値として還ってくることを重視する。それは非常に重要なことだと理解しているので、日本はリストに入っている――という締め方である。

ポイント:「厳しい市場で先に作れば、他の厳しい市場にも通る」という規制アービトラージの逆張り戦略は、医療・金融のような規制産業では有効な設計思想である。ただしこれは「規制の内容が似ている」ことが前提であり、承認プロセスの速度と件数の問題は解決しない。日本側の指摘は品質基準ではなく承認スループットの話だったので、この回答は論点にきれいには噛み合っていない。
PART 2

「日本は最後にしろ」――主催者による実務的な助言

ゲストが退出したあと、主催者から出たのは繰り返し伝えているという定型の助言だった。本当にやるならヨーロッパでやり、次に韓国やシンガポールでやり、日本は最後にしておけ。最初に日本に来ても絶対に通らない。特にメディカル系は難しい――「マジで日本ほどマーケットが難しいところはない」という表現が使われた。台湾についても同様の助言をしているが、それでも来てしまう、という嘆きが添えられている。

日本のベンチャーキャピタルに声をかけても、おそらく来ない可能性が高い、という見立ても示された。理由は意思決定の遅さである。特にアーリーステージでは面倒だ、自分もあまりアプローチしたくない、と明言されている。一方で、この案件は資金調達自体がかなりスムーズに進んでいるように見えるため、日本をメインにやらなくても海外で十分リーチできる、という判断が示された。

登壇者本人の実力についても言及がある。相当量のリサーチをかけていることが読み取れる、ボードメンバーも強い、ヨーロッパで広げてその後に東南アジアという順序が見えている、シリコンバレーのベンチャーキャピタルからある程度の資金調達も立っている――だからアメリカでも展開できるとなれば一気にボリュームが変わるだろう、という評価だった。

参入順序の設計原理:ここで示された「ヨーロッパ→韓国・シンガポール→日本」という順序は、単なる難易度順ではない。規制の厳しさで言えばスイスや欧州の方が厳しい。順序を決めているのは承認までの時間と、意思決定主体の保守性である。技術的な難易度ではなく、組織的な意思決定速度が参入順序を決める――これが実務的な教訓である。

📌 Claude補足:日本では承認を取っても、まだ壁がもう一枚ある

セッションでは承認件数だけが論点になったが、日本市場にはもう一段のボトルネックがある。薬事承認と保険適用は別のプロセスだという点である。

日本では2017年の初承認以降、プログラム医療機器(SaMD)の承認件数は年々増加し、2023年時点で20品目以上が承認されている。しかしそのうち公的医療保険の適用を受けているのは4製品にとどまる。承認を取っても診療報酬上の評価が付かなければ、医療機関には導入する経済的インセンティブが働かない。

この構造は、セッション中にスイス側が述べた「日本の医師には必要なケアを提供する金銭的インセンティブが文字どおり存在しない」という認識と表裏の関係にある。承認件数が少ないという指摘の背後には、承認しても収益に結びつかないという、より根の深い問題がある。日本市場のポテンシャルを評価する際は、承認件数ではなく保険収載件数を分母に置くべきである。

なお、承認審査の側にも構造的な難所がある。日本医療機器産業連合会が2025年に公表した検討報告や、PMDAの科学委員会資料では、個人情報保護の要請から学習用・評価用データの収集そのものが難しい点が課題として挙げられている。規制が厳しいという以前に、AI医療機器を作るための材料が集まらない、という問題である。

PART 3

倫理とゲートキーパー――「倫理から入るとビジネスができない」

参加者から、より原理的な問いが出た。AIと医療従事者が関わることでワンストップ化が進み、医療格差やアクセス格差はある程度是正されるだろう。しかし同時に、そのプラットフォームが医療に対するゲートキーパーの役割を担うことになる。この倫理的なリスクを将来的にどう設計しているのか、という問いである。

主催者の回答は率直だった。効率性が上がれば人は要らなくなるので、排除される人たちが出てくるのは産業として基本的なことだ。全員を守ると考えるならテクノロジーなど無い方がよい。逆に、そこに早くリーチした人たちが先行者として勝っていく。それが技術が発達することの醍醐味である――という整理である。

そのうえで、AI関連企業がみな言っていることとして、「倫理的なことまで考えたらビジネスなんかできない」という現実が引かれた。まず作ってみて、その後にどこに制限をかけるのかを考える方が重要である。いきなり倫理観の話から始めたらビジネスはほぼできなくなる。もっとも、それらしきことを標榜はする、という留保も付け加えられた。

倫理を先に置く立場

ゲートキーパーとして機能する以上、アクセス制御の設計は先に決めるべきである。事後的に制限をかけるのでは、既に固定化した利害構造を動かせない。医療は生命に関わるため、失敗のコストが他産業と異なる。

作ってから制限する立場

作る前には何が問題になるか分からない。倫理から入ると要件が無限に膨らみ、実装に到達しない。まず動くものを作り、そのうえでどこに制限をかけるかを判断する方が、結果として速く安全な地点に到達する。

医療従事者の教育と人員配置

別の参加者からは、システムを売ることのほかに、ネットワークに取り込んでいく医療従事者をどう教育しているのかが重要な視点ではないか、という問いが出た。買収して、そこにシステムを提供すれば格差が是正されるかというと、意外とそうでもない部分があるのではないか。人を逆に再配置するようなことも必要になるのではないか、という趣旨である。

これに対する回答は、ピッチの内容に立ち戻る形でなされた。最初のプレゼンテーションで説明されていたのは、プライマリケアサービスは人員が足りていないにもかかわらず儲かっていない、という問題だった。そのコスト削減のソリューションとして提示されている。したがって、どちらかというと人を排除するのではなく、人が足りないからこそ、人をいかに円滑に回すかにフォーカスしたサービスである――そう本人は説明していた、という整理である。足りないところをどう補うかをテクノロジーで解決する仕組みだ、という位置づけになる。

この文脈で出たのが、「配車アプリのドライバーのような医師になるのではないか」というイメージだった。グループに入った人たちに動いてもらう、拠点間で人が動くという運用が必要になるのではないか、という問題提起である。答えとしては、そこは先行者利益の話になる――先にテクノロジーにリーチした人たちが、使う側としても勝つ、という整理が示された。

また、ドイツに競合がいると表現されたということは、ドイツでは既に部分的にテストが始まっている状態だと読める、という指摘も出た。その地域のヒアリングはまだできていないため、後日確認するか、週末に会う予定の参加者に聞いてもらう、という宿題として残された。

PART 4

「AIで医療事故は減らない」――人間そのものがエラーである

この回で最も鋭い応答が出たのが、講義開始直前のやり取りだった。医療にテクノロジー、ロボットやAIがどんどん導入されていけば、医療事故の確率は減ると思うか。この問いに対する回答は、間髪を入れず「全く減らないと思う」だった。しかも「減る理由がない」と続く。

理由は、人間が最大のエラー源だからである。情報そのものがほぼエラーだ、という言い方がされた。ここから導かれる帰結が重要で、実行する側の正確性が高まれば高まるほど、エラーのリスクも高まってしまう。間違った情報を、より忠実に実行してしまうからである。

具体例として挙げられたのが患者の主訴だった。肩こりと言われて、それは本当に肩こりなのか。めまいと言われて、それは本当にめまいなのか。よく聞くと、実際にはまったく違うことが非常に多い。患者が「めまい」と表現していても症状はまったく別物であり、その申告を信頼して処理したらすべて間違いになる。だから患者の言うことをそのまま聞いてはいけないし、患者の思い込みで表現されていることを信じてはいけない。100%信じない――むしろ信じない方が精度が上がる、というのが実務側の作法だと語られた。

「技術オリエンテッドで単純に考えたら、精度が下がるのは間違いない。理論的には下がることしか考えられない」――この断定が、この日のセッションで最も強い言明である。AIの性能向上が医療精度の向上に直結しないどころか、逆方向に働きうるという主張であり、その論拠は入力情報の信頼性にある。

ではどうするか――ジャッジシステムの不在

では精度を上げるにはどうするか。ここで持ち出されたのが投資の比喩である。投資判断をするときに、極めて優秀なトレーダー10人と、素人1万人を集めた場合、どちらの判断が正しくなるか。レベルによって話がまるで変わる。では医療従事者の判断レベルは、どうやってジャッジするのか。そのジャッジシステムはどこにあるのか――という問いが返された。

これが解消されない限り、精度を確実に上げるとは基本的に言えない、というのが理論的な結論である。同じ医療データや技術を使っても、「医療をやっている人だからいい」わけではない。相当に上位の人材を集めれば少しは減るかもしれないが、基本的に人間のエラーは入り込むので変わらない。

唯一の解として示されたのが、状況の限定である。ある程度状況を限定するしかない。状況を限定した場合の精度は異常に高くなるので、それをどう囲い込むかという設計になる。逆に、対象範囲が広くなればなるほど確実に精度は下がり、非常に難しくなる。つまり、ピッチされていた事業も、おそらくこの最適化を考えているはずだ、という読み方が示された。人手不足を解消するというアプローチでしか語られていなかったのは、そのためだろう、という解釈である。

ポイント:ここで語られたのは、AI医療の実装における「スコープ設計」の原理である。汎用的に賢いモデルを作るのではなく、精度が担保できる範囲を明示的に切り出し、その外側には出ない設計にする。これは医療AIに限らず、業務にAIを組み込む全ての場面で効く原則であり、「範囲を広げると精度が落ちる」という一文に凝縮されている。

この議論の最後には、こうした構造を理解せずに進めると、倫理の問題とはまた別の意味で危険かもしれない、という参加者の指摘があり、「全然違う方に行くと思う」という同意で締められた。

Q&A

質疑応答

Q1. なぜシンガポールや韓国ではなく日本なのか。日本のプライマリケア市場をどう見ているか。(質問者:小賀氏)
A.(スイス側)それらもパイプラインには入っている。日本については、率直に言ってマージンが薄い。日本で医師が不足している理由の一つは、必要なケアを提供するための金銭的インセンティブが文字どおり存在しないからだ。もちろん人を助けたいという情熱でやっている人はいるが、全体としては米国や他市場と同じ量の資金がこのセクターにない。だからこそ、より多くの患者を診る、コストを削る、プロセスを合理化するツールがあれば、医師としての収益を増やせる。
Q2. 日本市場について助言したい。需要のポテンシャルをまったく別に考える必要がある。(質問者:小賀氏)
A.(小賀氏の指摘)世界中の医療スタートアップと話すと、みな需要が大きいという理由で日本に来たがる。しかし実際のポテンシャルは非常に小さい。AI医療機器の政府認証数を見ると、米国は既に1,000件超、中国は500件、韓国は400件から300件。日本は50件未満である。日本には規制が非常に多く、市場も強く制限されている。医療システムを管理している人々が新システムの導入に極めて保守的だからだ。台湾など他国の医療AIスタートアップも高齢者が多いという理由で日本に入ろうとするが、規制の問題で多くが失敗している。
Q3.(上記への回答)グローバルな視点ではどう位置づけるのか。
A.(スイス側)グローバルの視点では、日本はパズルの一片にすぎない。まずスイス市場に集中するのは、そこで規制準拠を作り込めるからだ。スイスは患者ケアとプライバシーについて世界で最も厳格な部類の枠組みを持ち、すべてをローカルにホストする必要があり、患者データの処理に汎用LLMは使えない。アメリカ向けに先に作るのではなくスイス向けに先に作る。日本の厳格な基準にも準拠できるものになる。日本はロードマップの一部であり、アジア展開にはシンガポール、韓国、日本を含める。中国のような市場は政府と組む必要があり、さらに先の話になる。
Q4. AIと医療従事者が関わり、ワンストップ化することで医療格差やアクセス格差は是正されると思うが、医療に対するゲートキーパー的な役割を担うことになる。この倫理的リスクを将来的にどう設計しているのか。医療の将来像をどう考えているのか。
A. 本人に今度聞いておく。そのうえで主催者の見解としては、効率性が上がれば人は要らなくなるので排除される人が出てくるのは産業の基本である。全員を守るならテクノロジーは無い方がよい。逆にそこに早くリーチした人が先行者として勝っていく。それが技術発達の醍醐味である。AI関連企業はみな「倫理まで考えたらビジネスなどできない」と言っている。まず作ってみて、その後にどこに制限をかけるかの方が重要。いきなり倫理観の話をしたらビジネスはほぼできなくなる。それらしきことは標榜するが。
Q5. システムを売るほかに、ネットワークに加える医療従事者をどう教育しているかがかなり重要な視点ではないか。特に日本では。
A. ドイツに競合ができていると表現していたということは、ドイツでは既に部分的にテストが始まっている状態だと読める。そこのヒアリングはまだできていないので、後日聞くか、週末に会う予定の参加者に聞いてもらう。なお最初のプレゼンで説明されていたのは、プライマリケアは人員がないにもかかわらず儲かっていないという問題であり、そのコスト削減のソリューションとして提示されている。人を排除するのではなく、人が足りないから円滑に回すことにフォーカスしたサービスだと本人は説明していた。
Q6. どれほど巻き込んでいくか、グループに入った人たちにどう動いてもらうか。オーナーを巻き込むという部分も必要になるのではないか。配車アプリのドライバーのような医師になるイメージも見える。
A. それは、最初にテクノロジーにリーチした人たちが勝つという先行者利益が生まれる、という話になる。使う側としても同じである。
Q7. 医療にテクノロジー、ロボットやAIがどんどん導入されたら、医療事故の確率は減ると思うか。
A. 全く減らないと思う。減る理由がない。人間が一番のエラーだからである。情報そのものがほぼエラーなので、実行する側の正確性が高まればエラーのリスクも高まってしまう。間違ったものを忠実にやってしまう可能性がある。肩こりと言われて本当に肩こりか、めまいと言われて本当にめまいか。よく聞くとまったく違うことが多い。患者の言うことをそのまま聞いてはいけないし、患者の思い込みで表現されていることを信じてはいけない。100%信じない方が精度が上がる。技術オリエンテッドで単純に考えたら精度が下がるのは間違いなく、理論的には下がることしか考えられない。
Q8. では、上位の医療従事者を集めれば精度は上がるのか。
A. 投資判断で、優秀なトレーダー10人と素人1万人を集めた場合にどうなるかという話と同じで、レベルによって話が変わる。では医療従事者の判断レベルをどうジャッジするのか、そのジャッジシステムはどこにあるのか。それが解消しない限り、精度を確実に上げるとは基本的に言えない。上位の人材を集めれば少しは減るかもしれないが、人間のエラーは入り込むので基本的に変わらない。
Q9. では現実的なアプローチは、人手不足の解消といった方向しかないのか。
A. ある程度状況を限定するしかない。状況を限定した場合の精度は異常に高まるので、それをどう囲い込むか。広くなればなるほど確実に精度は下がり、非常に難しくなる。その最適化を考えているというのが、あの事業について言えるところではないか。
宿題・アクションアイテム

持ち帰るべき課題

  1. 倫理設計についてのヒアリング。ゲートキーパー化に伴う倫理的リスクの将来設計について、登壇者本人に確認する(主催者が引き受け)。
  2. ドイツ市場でのテスト状況の確認。競合がいるということは既に部分的にテストが始まっていると読める。週末に会う予定の参加者からヒアリングする。
  3. 各国AI医療機器承認数の一次データ確認。米国FDA、中国NMPA、韓国MFDS、日本PMDAそれぞれの公表データで、集計基準をそろえたうえで再確認する。発言値と公開データに開きがある。
  4. 「範囲を限定すれば精度は上がる」の定式化。医療AIのスコープ設計原理として、どこまで限定すれば実用精度に達するのかを、具体的な疾患領域で検証する。
  5. 医療従事者の判断レベルを評価するシステムの有無を調べる。「ジャッジシステムがない」という指摘が正しいのか、既存の評価枠組みが何かあるのかを確認する。
用語集

このレポートに出てきた用語

SaMD(Software as a Medical Device)それ自体が医療機器として規制されるソフトウェア。プログラム医療機器。日本では2017年に初承認。
510(k)米国FDAの市販前届出制度。既存の同等品(プレディケート)があることを示して承認を得る経路。AI医療機器の大半がこの経路を通る。
De Novo同等の既存品が存在しない新規デバイスのためのFDAの分類申請経路。プレディケートがないAI機器はここを通る。
PMDA独立行政法人 医薬品医療機器総合機構。日本における医薬品・医療機器の審査機関。
NMPA/MFDSそれぞれ中国の国家薬品監督管理局、韓国の食品医薬品安全処。各国のAI医療機器承認を所管する。
ゲートキーパー医療アクセスの入口を制御する主体。ここでは、AIプラットフォームがその役割を担うことの倫理的リスクとして論じられた。
ヒューマンファースト設計AIが推奨を出しても最終判断は人間が行う設計思想。ピッチ側が競合との差別化として掲げた。
先行者利益技術に早くリーチした主体が獲得する優位。ここでは、排除される側と勝つ側を分ける要因として言及された。