STUDY REPORT / 2025年11月度 勉強会
NVIDIA株の全売却で株価が下げた局面を、講師は「感情的なトレードが作った歪み」と読んだ。その根拠は債券の種類にあった。冒頭の雑談で交わされた銀行員のキャリア論と合わせ、金融の内側の話を一本にまとめる。
この日の勉強会は、冒頭の雑談と最後の相場解説という、まったく異なる二つの金融の話に挟まれていた。雑談のほうは「これから銀行に入るのは危ないのではないか」という、キャリアの話である。講師は実際にメガバンクの社外取締役から聞いた話として、取締役会の議題がAI一色になっていること、JPモルガンをどう研究するかが論点になっていること、それでも「銀行が人を採らなくなった」と言われることを恐れて踏み切れないでいること、を紹介した。技術の理解ではなく、風評への恐怖が意思決定のボトルネックになっている、という構図である。
そこに重ねられたのが、銀行の人事制度の話だった。一度のマイナスが一生ついて回る減点主義では、失敗を前提に走らせる今の局面と噛み合わない。転勤が2〜3年ごとに回るのも、どこへ行っても同じ仕事だからであって、顧客が変わるだけだ――という指摘は、業務の標準化度が高いほどAIに置き換わりやすいという話と直結している。逆に地方公務員が残ると講師が見るのは、苦情を聞いて回り、謝りながら処理するという、標準化しにくい部分が仕事の中核にあるからだ。
後半のソフトバンク解説は、まったく別の角度から「市場は何を見落とすか」を扱っている。11月11日、ソフトバンクグループは保有するNVIDIA株を全売却したと発表し、株価が下げた。メディアは「AI業界への懸念」と書いた。講師の読みは違う。売却資金はスターゲート計画への投資に回るのだから、AI業界に入る現金はむしろ増える。株価が落ちる理屈にならない。では何を見るべきか。同じ時期に発行された劣後債(ハイブリッド債)である。
劣後債は、倒産時の弁済順位が普通社債より後ろに置かれる代わりに利率が高い。会計上は有利子負債だが、利払繰延条項・超長期の償還期限・弁済順位の劣後という三点により、格付機関は元本の一定割合を「資本」とみなす。つまり、借りているのに信用力を毀損しにくい。講師はここに孫氏の設計を見た。「自己資本比率を落とさずに、今後の調達余地を作った」――だから、格付や資本性まで見ずに落とした株価は歪みであり、割安である、と。
◆ セッションを貫く1本の線
この回の銀行の話とソフトバンクの話は、同じことを別の面から言っている。組織も市場も、構造の変化より「見え方」に反応するということだ。銀行は、AIで置き換えられる業務の多さを理解していながら、世間の評判という見え方に縛られて動けない。市場は、資本性を持つ債券が発行されたという構造の変化を見ずに、「NVIDIA株を売った」という見え方だけで値を付ける。講師が「バグ」と呼ぶのはこの落差であり、キャリアであれ投資であれ、構造を読める側にだけ余白が残る、という主張である。
会は、若者の就職の話から始まった。アメリカで新卒の採用が細っているのは、若手が担ってきた定型業務がAIで代替できるようになったからで、日本も遅れて同じ道をたどる――というのが共通認識である。ここで講師が皮肉として口にしたのが、「日本がIT先進国でないことが唯一の救い」という一言だった。導入が遅いという弱点が、雇用の減少を遅らせる緩衝材として働いている、という逆説である。裏を返せば、スマートフォンの普及のように一度スイッチが入れば、遅れは何の防波堤にもならない。
やり玉に挙がったのが銀行業務だった。正確性が最優先される業務ほど、ミスの許されなさが人間にとっては重荷になり、機械にとっては得意分野になる。だから「親が喜ぶから銀行へ」という進路は、講師の見立てでは最も危ない選択になる。
説得力を持たせていたのは、講師が赤い銀行・緑の銀行の社外取締役を務める女性から直接聞いた、という話だった。取締役会ではAIの議題ばかりが並び、JPモルガンの事例が繰り返し話題に上る。「ああならなければいけない」という認識もある。理解していないわけではない。ただし彼らは風評被害を極端に恐れる。銀行が人を採用しなくなった、と言われることそのものが経営リスクになる。だから、やるかどうかではなくどうやるかが論点になっている、というのが内部の温度だという。
ここで参加者から「最近オープンAIと契約しましたよね」という指摘が入り、講師は「だから分かっている。バカじゃないんです、メガバンクの投資部門は」と応じた。さらに、ひとつのメガバンクが事例を作れば他行が一気に追随する、という見立ても示された。赤と緑が変われば青は流れに従う、もう時間の問題だ、と。
📌 Claude補足|「最近オープンAIと契約」の該当事実
この勉強会の3日前にあたる2025年11月12日、三菱UFJフィナンシャル・グループおよび三菱UFJ銀行がOpenAIとの戦略的コラボレーション契約の締結を発表している。2026年1月以降、三菱UFJ銀行の全行員約3万5,000人がChatGPT Enterpriseを日常業務で利用できるよう順次展開する、という内容である。MUFGは2024年2月公表の中期経営計画で2024〜2026年度にAI関連へ600億円以上を投資する目標を掲げており、2025年度中間期時点で116件以上のAI業務実装、2026年度に250件超を目標としている。参加者の発言はこのリリースを指していると考えて矛盾がない。
一方、講師が「JPモルガンを研究している」と述べた点について、JPモルガン側の社内生成AI基盤の名称や導入規模の詳細は、今回の調査では一次情報まで確認できなかった。要確認取締役会での議論内容は非公開情報であり、本レポートでは「そう聞いた」という伝聞として扱う。
講師は「JPモルガンだってチェースバンクを引き取って大変な目に遭っている。商業銀行を取って」と述べ、それでも収益を上げている点を評価した。また「クレディとかもアメリカの銀行を買ってから崩れた」として、買収による拡大が必ず成功するわけではない例に触れている。参加者からは「レジリエンスのポイントになってくる」というコメントが入った。
📌 Claude補足|二つの合併史との照合
JPモルガン・チェースは2000年、ロックフェラー系の銀行持株会社チェース・マンハッタン(当時全米3位)と、モルガン系のJ.P.モルガン(同5位)の合併により誕生した。発言の「JPモルガンがチェースバンクを引き取った」という言い方は、規模でいえばむしろチェース・マンハッタン側が大きく、実態は投資銀行と商業銀行の統合である。「引き取った」という上下関係の表現は公開されている経緯と食い違うため、ここは発言のまま書き換えず併記しておく。もっとも「商業銀行という重い荷物を抱えながら高収益を出している」という論旨自体は、事実関係を修正しても成立する。
クレディ・スイスは1978年に米投資銀行ファースト・ボストンと資本提携し、1988年に経営権を取得して自行内に取り込んだ。その後、投資銀行部門の損失や不祥事が重なり、2023年3月19日にスイス政府・金融当局の仲介でUBSによる買収が決定、6月12日に手続きが完了して同グループはUBSグループに統合された。「アメリカの銀行を買ってから崩れた」という要約は、35年という時間差を圧縮した言い方ではあるが、投資銀行業務の取り込みが後年の破綻要因の系譜につながったという理解自体は、報道でも共有されている見方である。
この日いちばん切れ味があったのは、人事制度への言及だった。銀行で出世するには傷がつかないことが最も大事であり、一度マイナスが付けばそれが一生ついて回る。挑戦して失敗した人間は上がれない。講師は「だから今の状況と最も合っていない」と言い切った。AIの導入は、業務の組み替えを伴う失敗の連続を前提とする。減点主義は、その連続を最初から禁じてしまう。
転勤についても、癒着防止という表向きの理由とは別に、「どこへ行っても同じことができるから」という構造的な理由が示された。顧客が変わるだけで、業務そのものは変わらない。標準化の度合いが高いということは、置き換えやすいということでもある。参加者が「アイデンティティ的なものはなくなりそうですね」と返すと、講師は「あまり出すとまずいので、逆に」と応じ、同質化の圧力が制度に組み込まれていることを示唆した。
◆ 親が最大の障害になる、という指摘
講師の見立てでは、キャリアの阻害要因は本人ではなく親である。いま学生の親は40代後半から50代半ばで、その世代が持つ「銀行=堅い」というイメージは、20〜30年前の産業構造に基づいている。将来の食い扶持を保証できる根拠がないまま、保証があるかのように語ってしまう。参加者の一人が、地方公務員だった母親から「あんたらに公務員というものを勧めてごめんね」と謝られたというエピソードを語り、その世代でも認識の更新が起きていることが示された。なお講師は地方公務員については残ると見ている。苦情を受けて謝りながら処理する仕事は、人がやることに価値があるからである。ただし財政の縮小に伴って待遇は乏しくなる、という但し書きが付いた。
後半、講師は「ちょっと話を変えていいですか」と切り出して、ソフトバンクグループの話に入った。設問はシンプルである。ソフトバンクがNVIDIA株を売り、ソフトバンク株が落ちた。これをどう見たか。
参加者からは二つの見立てが出た。ひとつは「スターゲート計画のための売却だろう」というもの。もうひとつは「NVIDIA株という価値のある資産を手放したこと自体が期待の剥落として受け取られたのではないか」という、資産の裏付けを重視する見方である。仮想通貨を持っただけで株価が動く企業の例が引き合いに出された。
講師の答えは、前者は正しいが株価の説明にはならない、というものだった。売却資金はスターゲート計画への投資に向かう。スターゲートへの投資はNVIDIAのGPUや周辺企業への発注につながるのだから、ジェンスン・ファン氏との関係が悪化したわけでもない。むしろAI業界に流れ込む現金は増える。だとすればプラスに働くのが筋であって、「AI業界に懸念が走った」という報道は現象の説明になっていない、という立論である。
📌 Claude補足|売却の事実関係
ソフトバンクグループは2025年11月11日、保有するNVIDIA株式3,210万株のすべてを58億3,000万米ドル(約8,978億円)で売却したと発表した。売却の実行は10月で、2026年3月期第2四半期の決算開示に合わせて公表された。後藤芳光CFOは会見で、売却理由をOpenAIへの投資資金確保と説明し、「今年はOpenAIへの投資が大きく、300億ドルを超える」ため既存資産を調達に活用した、と述べている。講師が「60億ドル、9,000億円分」と述べた数字は、公表値とほぼ一致する。
同じ日に開示された2026年3月期上期(中間期)の親会社の所有者に帰属する純利益は2兆9,241億円で、前年同期比1兆9,187億円の増加、売上高・営業利益・純利益のいずれも上期として過去最高となった。講師は会の終盤で「2022年以降最高の純利益」と述べているが、公表ベースの表現は「上期として過去最高」である。要確認「2022年以降」という限定の根拠は開示資料からは確認できず、比較対象の期間が発言と公表資料でずれている。
講師は「ソフトバンクは昔NVIDIAでやっている」として、過去の経緯にも触れた。買収を試みたが独占禁止法の関係で失敗し、その後に株式を5%取得した。もし持ち続けていれば30兆円の資産になっていたが、全部売り払ってWeWorkに資金を入れ、WeWorkは沈んだ。コロナ後にまた買い直し、今回売却した――という筋書きである。
📌 Claude補足|買収未遂と保有の時系列
公開情報で確認できる範囲では、次の通りである。孫正義氏はNVIDIAの買収に3度挑んだと自ら語っており、1度目は2016年10月頃、Arm買収(2016年9月・約3.3兆円)の直後にあたる。カリフォルニアの自宅でNVIDIAのCEOと4時間食事をし、ArmとNVIDIAの合併を提案したという。ソフトバンクグループは2016年12月に約3,000億円でNVIDIA株を取得し、2017年5月頃にソフトバンク・ビジョン・ファンド経由で約4.9%の保有が明らかになった。そして2019年2月6日に全株売却を発表している。
ここで注意が必要なのは、「独占禁止法で失敗した」という説明が、時期の異なる別の案件と混線している可能性である。独禁法・各国規制当局の不承認によって破談になったのは、2020年に発表されたNVIDIAによるArm買収(ソフトバンクからの売却)で、2022年2月に断念が発表された。方向はソフトバンクがNVIDIAを買うのではなく、NVIDIAがArmを買う、という逆向きである。孫氏によるNVIDIA買収提案そのものが独禁法で潰れたという記録は、今回の調査では確認できなかった。要確認発言はこの二つを一つに束ねている疑いがあるため、書き換えずに食い違いとして記録しておく。
なお「5%持っていたら30兆円」という試算は、桁として妥当である。NVIDIAの時価総額が4兆〜4.5兆ドル規模であれば、その4.9%は概ね2,000億ドル超=30兆円台に相当する。
ここからが、この日の中心である。講師は「株価が落ちる理由にはならない」と述べたうえで、二つの要因を挙げた。ひとつはトランプ大統領の信用回復という外部要因。もうひとつが、株式ではなく債券を発行していたという事実である。しかもユーロ建てと米ドル建てのハイブリッド債であり、その正体は劣後債だった。
講師は参加者の名前を借りて説明した。自分が二人からお金を借りているとする。会社が立ち行かなくなったとき、普通の債権者には返さなければならない。しかし劣後債で調達した相手は後回しになる。債券の中に弁済の優先順位がある、というのがまず押さえるべき点である。当然、後回しにされる側は嫌がる。だから利率は高くなる。普通社債が3%なら劣後債は5%、というかたちで。
にもかかわらず、講師によれば発行は一瞬で消化された。「これが何を意味するか」というのが、講師の問いかけだった。市場の厚みがそれだけあるということであり、参加者からも「あれだけで調達できるのはすごい」という反応が出た。
📌 Claude補足|発行条件の一次情報
ソフトバンクグループは2025年10月23日、外貨建てハイブリッド社債の発行条件決定を公表している。内容は以下の通り(払込日はいずれも2025年10月29日、発行価格は額面の100%、担保・保証なし、シンガポール証券取引所上場、機関投資家向け・日米除く)。
| 銘柄 | 発行額 | 初回利率 | 年限 | 満期 |
|---|---|---|---|---|
| 米ドル建 2061年満期 | 9億ドル(約1,365億円) | 年7.625% | 35.5年・NC5.5年 | 2061年4月29日 |
| 米ドル建 2065年満期 | 11億ドル(約1,669億円) | 年8.250% | 40年・NC10年 | 2065年10月29日 |
| ユーロ建 2062年満期 | 7.5億ユーロ(約1,322億円) | 年6.500% | 37年・NC7年 | 2062年10月29日 |
参加者(渡辺氏)が挙げた「米ドルが8.25%と7.6%」という数字は公表条件と一致する(7.625%)。一方「ユーロ建ては6%くらい、6.2かなんか」という記憶は、公表値の6.500%とわずかにずれる。また講師が述べた「劣後債だけで40億ドル発行し、一瞬で30億ドル売れた」という規模については、公表された発行総額は米ドル20億ドル+ユーロ7.5億ユーロで、合計は円換算で約4,356億円(およそ28.7億ドル相当)にとどまる。要確認40億ドル/30億ドルという数字が、当初のマーケティング段階の観測記事によるものか、オーダーブック(申込需要)の規模を指したものかは特定できなかった。ここは発言と公表条件が食い違う箇所として明記しておく。
2025年10月発行 外貨建てハイブリッド債の初回利率
出典:ソフトバンクグループ プレスリリース(2025年10月23日「外貨建てハイブリッド社債の発行に関するお知らせ」)/Claude作図
通貨別の発行規模(円換算・構成比)
出典:同上。円換算は1ドル=151.71円、1ユーロ=176.22円(発行体の換算レート)/Claude作図
講師の議論の核心は次の点にある。普通の債券は有利子負債として積み上がる。負債が増えれば自己資本比率は下がり、比率が下がれば次の資金調達がしにくくなる。ところが劣後債は返さなくてよいかもしれないお金に近い性質を持つ。利払いを繰り延べられ、償還は数十年先で、弁済順位は後ろ。だから資本に近いものとして扱われ、自己資本比率を落とさない。落とさないということは、調達しながら次の調達余地を残せるということである。
講師はここに孫氏の計画性を見た。加えて、税務上は利息が損金として処理されるため、優先株のような純粋な資本による調達よりも有利である。そして格付機関の評価レベルも落ちない。つまり総資産・総負債が増えても、資本性を持つ分だけ信用指標が保たれる。「これはむしろプラスの材料」という結論に至る。
📌 Claude補足|「自己資本比率が落ちない」を厳密に読む
ソフトバンクグループ自身のリリースは、この点を次のように整理している。「ハイブリッド社債は会計上は有利子負債として計上される」。そのうえで、任意の利払繰延条項、シニア債務より長い年限、弁済順位の劣後という資本に類似した性質を持つため、格付機関(S&Pおよび日本格付研究所)から元本の50%について資本性が認められる、としている。
したがって厳密には、会計上の(IFRSの財務諸表上の)自己資本比率は下がる。下がらないのは、格付機関が調整後の指標を算出する際に元本の半分を資本とみなすためであり、「格付上の資本」と「会計上の資本」は別物である。講師の説明は結論として正しい方向を向いているが、この区別を挟まないと誤読を招く。実際、この日の会でも参加者の一人が「50%資本形状になっているので、大きなレーティングへのインパクトはない」と補足しており、この参加者の理解のほうが公表条件に忠実である。
なお、今回のハイブリッド債に付されたS&Pの格付はB+である。劣後債は発行体の格付より数ノッチ低く付されるのが通例で、講師が「ソフトバンクの格付はジャンク債ですからね、格付機関だと」と述べた点は、投資適格未満という意味で整合する。また早期償還・買戻しを行う場合には、同等の資本性が認められる商品で置き換える意向がリリースに明記されており、資本性の維持が設計思想であることが読み取れる。
全額が有利子負債。自己資本比率は低下し、信用指標が悪化する。次の大型調達のハードルが上がる。利率は劣後債より低い。
会計上は負債だが、格付上は元本の50%が資本扱い。信用指標の悪化を半分に抑えられる。利息は損金算入できる。代償として利率は高い。
以上を踏まえて講師が出した結論が、「株価が落ちたのは、債券の種類も自己資本のところも格付のところも見ていない感情的なトレードだ」というものだった。そして「こういう場合は買いなんですね」と続く。市場が合理的な配分の結果として下げたのなら意味があるが、感情の反映として下げたのなら基本的に戻る。だから割安感が出ている、という筋道である。
参加者からは、CoreWeaveも一気に下げたが、ビジネスモデルとエコシステムとファイナンスモデルを知っていれば下げる理由がわからない、という同種の疑問が出た。講師の応答は、一般の投資家が市場に入ってきたことで感情論による下落が起こり、そこにヘッジファンドがルール通りのトレードで現金確保に動くため、下げ幅がレバレッジ的に拡大する、というものである。そして今後ネット証券の口座が増え投資ブームが進むほど、この不合理な動きはより極端になると見ていた。
◆ 講師の「バグ」の定義
合理的にやっているにもかかわらず下がった場合、それは割安である。感情的なトレードで安くなったものは元に戻る。だからバグが生じた地点こそが、本来の買い時である――これがこの日提示された枠組みだった。PBRやPERを見るよりこちらのほうがわかりやすい、という参加者のコメントも付いた。ただし後述する通り、この枠組みが実際にどう機能したかは、その後の値動きと照らし合わせて検証されるべきものである。
参加者からは、講師の見立てを補う複数の仮説が出された。ひとつは、マイケル・バーリ氏のファンドが清算されたことによるポジション調整の影響。ネットロングかネットショートかが不明なため断定できないが、時期は重なる、という指摘である。もうひとつは、TSMCの決算予測が良くなかったこと。講師はむしろこちらを「一番でかい」と評価した。さらに、機関投資家が上昇局面の後にポートフォリオを調整せざるを得ないタイミングと重なった可能性、12月にかけての利益確定とスワップ取引の影響、といった実務的な要因も挙がった。
📌 Claude補足|バーリ氏とTSMCの事実確認
マイケル・バーリ氏のサイオン・アセット・マネジメントは、2025年10月27日付の投資家宛書簡でファンドの閉鎖を通知し、11月10日にSECへの登録を抹消した。運用資産は約1億5,500万ドルで、年末までに全資本を投資家へ返還するとされている。時期はこの勉強会の直前であり、参加者の指摘した時系列は正確である。ただし、当該ファンドの規模から見て、ソフトバンク株の需給に有意な影響を与えたと考える根拠はない。
TSMCについては、発言と公開データが食い違う。2025年10月16日に発表された第3四半期決算は会社側ガイダンスを上回る好調な内容で、第4四半期の売上見通しも322〜334億ドルという強気のレンジが示された(実績は337.3億ドル、純利益は前年同期比+35%)。一方、勉強会の5日前にあたる2025年11月10日に公表された10月の月次売上高は約3,674億台湾ドルで単月として過去最高を更新したものの、前年同月比+16.9%と伸び率は2024年2月以来の低さにとどまり、Bloombergは「AI需要が落ち着き始めた可能性」と報じた。要確認つまり「決算の予測が悪かった」という表現は正確ではなく、悪化したのは月次売上の伸び率(成長の二階微分)である。講師自身も直後に「内容はめっちゃいい」「どこかで成長率が鈍化する時は必ず落ちる」と補足しており、実質的な認識はこの事実と整合する。
この鈍化の議論から、話は評価のラグへ広がった。講師は、どんな業界も毎年30%成長を続けられるわけがなく、必ずどこかで需要が凹むか壁に当たり、そこから安定期に入る、と述べた。TSMCが次世代技術に相応の投資を振り向けていても、そうした投資は評価されにくい。参加者が「NTTの技術はNVIDIAも評価しているのに」と例を出すと、講師は「評価されていたらNTTの株はもっと上がっている」と応じ、光通信やデータセンター周辺の評価はまだ先だ、と見ていた。そして「ラグはマジで読めない」という一言でこの論点を閉じている。
ソフトバンクグループ株価の推移(節目のみ・概算)
出典:報道各社の記事に基づきClaudeが節目のみを抽出して作図。2025年11月28日の値は「上場来高値から39%安」という報道からの逆算値であり、終値そのものではない。連続的な株価チャートではない点に注意。
📌 Claude補足|この読みは、その後どうなったか(2026年8月時点)
講師がこの日「割安」と述べた判断について、以降の経緯を追うと、短期では逆行し、中期では方向として当たったという結果になっている。
短期。ソフトバンクグループ株は、この勉強会の後もさらに下落した。日本経済新聞は2025年11月28日の終値が1か月前の上場来高値(2025年10月29日の6,923円)から39%安になったと報じている。「感情的な下げはすぐ戻る」という前提に立つなら、戻るまでの下げ幅と期間は、この日の読みが織り込んでいたものより大きかった。
中期。その後、OpenAIのIPO観測を追い風に株価は反転し、2026年5月下旬に約7か月ぶりに上場来高値を更新、時価総額は41兆円を超えて国内2位に浮上した。2026年5月13日発表の2026年3月期決算では純利益が5兆円規模となり、直後は「材料出尽くし」で反落する場面もあった。さらに2026年6月には、OpenAIが後半に計画していたIPOを延期する可能性が報じられ、株価が一時12%超下落する局面もあった。要確認報道間で日中値の記載に開きがあり(5月14日終値5,770円、5月22日に一時8,036円、5月25日に7,276円など)、単純な連続チャートとしては整合しない。株式分割や報道時点の差異の可能性があるため、正確な水準は証券会社のチャートで確認されたい。
資本政策の継続。劣後債による調達はその後も続いている。2026年6月には国内ハイブリッド社債2,600億円(年5.12%、2061年6月償還)を発行。OpenAIへの追加出資も進み、2026年7月には1.6兆円を払い込み、全額払込完了時には累計投資額646億ドル・出資比率約13%に達する見込みと報じられた。「劣後債で自己資本比率を守りながら調達余地を作る」という講師の読み筋そのものは、その後の行動によって裏づけられている。
◆ この回で講師が最後に投げた一言
「メディアの皆さん、もうちょっとちゃんと分析してからコメント書いてもらっていいですか」。株価が落ちたから騒ぐのではなく、債券の種類と資本性と格付を見てから書け、という要求である。会の締めでも「劣後債でちゃんと調べてみてください。資本比率が実際落ちていないことも見ていただけると分かりやすい」と繰り返しており、この日の宿題は明確に「調達手段の設計を読む」ことに置かれていた。
QソフトバンクがNVIDIA株を売って株価が落ちた。これをどう見たか。
A(参加者) スターゲート計画が関係しているのかとは思ったが、株が落ちる理由がわからなかった。
A(別の参加者) NVIDIA株という価値のある資産を持っていること自体が評価されていて、売却で期待が剥落したのではないか。仮想通貨を保有しただけで株価が上がる企業の逆の現象として。
A(講師) スターゲート計画のためにやったのは正しい。ただしそれは株価が落ちる理由にはならない。売却資金はAI業界に流れ込むのだから現金はむしろ増える。落ちた理由はトランプ大統領の信用回復と、株式ではなく債券――しかも劣後債――を発行していた点にある。
Q普通なら弁済を後回しにされるのは嫌なはずだ。なぜ劣後債が売れるのか。
A(講師) 利率が高いからである。普通社債が3%なら劣後債は5%というかたちで上乗せされる。ただしそれ以上に重要なのは発行体側のメリットで、資本に近い性質を持つため自己資本比率を落とさずに調達できる。税務上も損金処理ができ、格付のレベルも落ちない。それでいて需要がついたということは、市場の厚みがそれだけあるということでもある。
QCoreWeaveも一気に下がったが、ビジネスモデルとエコシステムとファイナンスモデルを知っていると、なぜ下がるのか理解できない。
A(講師) 株式市場が読みづらいのは、一般の市場参加者が入ってきて感情論で落ちるからである。そこにヘッジファンドがルール通りのトレードで現金確保に動くため、下げ幅がさらに拡大する。合理的にやっているのに下がったのなら、それは割安である。今後ネット証券が膨らみ投資ブームが進むほど、この不合理はもっと極端になる。
Qマイケル・バーリのファンドが清算されたことは、今回の下落と関係があるのではないか。
A(講師) ポジション調整で何かあった可能性は否定しない。ただしネットロングかネットショートかが分からないので、断定は難しい。
QAI業界そのものへの懐疑が出てきている、という見方はできないか。全体的に下げ足が来ている。
A(講師) 一時的に感情的な不信感が出ている可能性は十分ある。ただしソフトバンク固有の要因より、TSMCの決算予測が良くなかったことのほうが大きいと思う。内容自体は非常に良い。ただ成長率がどこかで鈍化するときには必ず株価は落ちる。通信機器のときもそうだった。毎年30%成長を続けられる業界などなく、必ずどこかで凹むか壁に当たり、そこから安定期に入る。
QTSMCは次世代技術に相応の投資をしているが、そういう部分は評価されにくいのではないか。
A(講師) 評価されているならNTTの株はもっと上がっている。NTTの技術はNVIDIAも評価しているが、データセンターREITやEquinixの水準まで評価が及んでおらず、次世代通信技術の評価はまだ先である。そしてこのラグは本当に読めない。
Q機関投資家がポートフォリオ調整をしなければならない場面と、上昇後の売却タイミングが重なっただけではないか。
A(講師) 12月にかけてはその通りで、回答時期(決算・報告のタイミング)がある。加えて株式市場側では利益確定が必要な時期でもあり、スワップ取引が絡めば下げる。
Qこれから銀行に就職するのはどうなのか(雑談パートより)。
A(講師) 私は非常に危ないと思っている。銀行業務は正確性が求められる分だけAIと相性がよく、置き換えの圧力が強い。加えて減点主義の人事制度は、今の局面と最も噛み合わない。同じ理由で、むしろ地方公務員のほうが堅い。苦情を聞いて回るような、人でなければできない仕事が中核にあるからである。ただし財政が縮むので生活は乏しくなる。