小山竜央氏の出版講義・2つのニーズ・当たる3原則・書店というギャラリー
この回のレポートは全4本に分割しています。本ファイルはその3本目、テーマは「出版コンセプト設計」です。
後半は、出版プロデューサー・小山竜央氏によるマーケティング講義に切り替わる。年間25〜30冊弱を手がけ7万部超が約8割、ベストセラー率100%という実績の背景にある考え方として、「トレンドは人の感情によって生まれる」という原則と、本の厚みの推移が読者のリテラシーを映すという指標が示された。マイキー氏との立ち位置の違いも整理されている。
コンセプト設計では、既存顧客に響くかと一般読者にも分かるかという2つのニーズ、問題提起・原因・解決策で組み立てる「セールスレターとしての本」の構造、そして負の解消・肩書き・目新しさという当たる3原則が解説される。世の中に知られていなかったデータをフィールドワークで作る手法も、具体的な企画事例つきで紹介された。
書店については、本屋の役割がギャラリーに変わったという見立てのもと、表紙の浮き沈みを実際に店頭で検証する手法や、どのコーナーに置かれたいかから逆算してキャッチコピーを作る設計思想が扱われる。ドン・キホーテの棚配置に触れながら、狙ったコーナーごとに効くワードを使い分けるという、書店マーケティングの実務が具体的に示された。
ここからゲスト講義に切り替わる。小山竜央氏は個人投資家・個人事業家として複数事業に関与し、YouTubeプロデュースの累計登録者数は公称9,600万(実際は1億超だが数字を更新していない)。出版プロデュースは年間25冊から、直近では30冊弱を手がけ、1年間で7万部超えが約80%、ベストセラー率は現時点で100%という実績を提示した。日本のビジネス書籍におけるベストセラーの定義は概ね1万〜1万5,000部とされる。自著『マーケティング大全』は11月刊行で、3ヶ月経過時点で約3万部と説明された。
自身の立ち位置については、「マイキー氏がマクロ分析で大枠を作るのに対し、自分は現場でのマーケティング、今すぐ何をすればいいかをステップバイステップで作っていくタイプ」と整理している。
ゲストの小山竜央氏は「マーケティング侍 りゅう先生」として活動する出版・YouTube・PRのマーケティング戦略プランナー。自著『【超完全版】YouTube大全 6ヶ月でチャンネル登録者数を10万人にする方法』(KADOKAWA)は5万部超のベストセラー、『パブリック・スピーキング 最強の教科書』、『新訳 ハイパワー・マーケティング』監訳などがある。
講義中に言及された「マーケティング大全」は、『たった1日で儲かる社長に生まれ変わる 非常識なマーケティング大全』(KADOKAWA、2025年11月12日発売)である。「11月に出て3ヶ月経過」という発言と刊行日を突き合わせると、本セッションは2026年2月中〜下旬の開催と推定される。マイキー氏の書籍の発売日が「3月4日」と語られている点とも整合する。
研究者であれ経営者であれ、これから始める人であれ、全員が出版マーケティングを学ぶべきだと断言された理由は、それが通常のマーケティングと異なり、トレンドを生み出さなければヒットしない種類のものだからである。構造的に近いのがYouTubeで、良い企画を作っただけでは伸びず、「世の中の人たちが求めているもの」×「自分たちのリスナー/顧客が求めているもの」の掛け算でしか伸びない。出版も同じで、書きたい本を書いただけでは売れない。
「トレンドは人の感情によって生まれる」——これが小山氏の大原則である。マーケター的な立場としては、この世界の経済はすべて人の感情で動いていると結論づけている。商品を作る側も買う側も、何かしらの感情が発生する。その感情を理解する教科書として、出版は極めて使い勝手が良い。投資家であれば「数字が出る前に現れる感情」を読む力に、経営者であれば商品開発に、研究者であれば「学術的に正しいこと」と「社会に伝わること」のギャップを埋める実践知になる。
興味深い指標として挙げられたのが、本の厚みの推移である。本は年々薄くなってきている。本を読めない人が増えたためであり、その象徴例として挙げられたのが、7万部以上売れた『金運年鑑』——非常に薄く、しかもページの半分が漫画で構成され、立ち読みで読み終えられるほどの本である。宝くじを当てたい層が一生懸命に本を読むかというと読まない。だから漫画にした、という設計意図である。
ただし、分厚い本が売れないわけではない。『嫌われる勇気』のように分厚く内容も難しい本も売れている。ここにはサイクルがある。薄い本が売れると、次は分厚い専門書が売れる。この流れが交互に繰り返される。今どちらが売れているかを見ることで、日本の世の中の学習リテラシーが上がっているのか下がっているのかが、現場の指標として読み取れる——という見立てだった。
本をヒットさせることは、通常のコンテンツやプロダクトを売るより難しい。大企業の商品なら流通の力技である程度は押し込めるが、本は力技でやってもこける傾向がある。電車広告(ドア横ポスター・吊り革広告)、日経新聞への掲載、テレビ出演といった従来手法は、今も通用はするが昔ほど効かない。Webマーケティング(ブログ・note・X)も、2020年のコロナ期には効果があった——ただしその「そこそこ売れた」の実数は2万〜3万部である。それに対して小山氏の手がける本は7万部超が80%、10万部超も多数という水準にある。つまり普通ではない手法をやっている、という前置きのうえで方法論が開示された。
| ニーズ | 内容 |
|---|---|
| ① 自分の顧客に響くか | 既存のコミュニティ・リスナーが読んで十分に参考になり、ためになる内容であること。マイキー氏の本はマイキークラブの参加者が読んでも成立する作りになっている。ただしこれだけでは足りない。 |
| ② 一般の人にも分かるか | 自分たちの顧客以外の一般読者にも分かりやすくすること。マイキー氏の本で最も大変だったのがこの工程で、話している内容をそのまま本にすると「新約聖書ぐらいの長さ」になってしまった。値段も跳ね上がり、書店も置いてくれない分量になる。圧縮しつつ一般化するという作業の難易度が高すぎて、最初についていたライターは離脱している。 |
売れる本の構造は、チラシやランディングページ、セールスレターと同じである。キャッチコピーがあり、サブキャッチがあり、問題提起から入る。「このままだとあなたはやばい」という状態を示し、次にその原因を教える。そして最後に解決策を示す。今回のマイキー氏の本も、基本的にこの形式で作られている。またセールスレターに「お客様の声」が載っているのと同じ理由で、本にも権威づけの要素が組み込まれる。
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| ① 負の解消 | 問題解決本であること。ただし個人の身近な問題では足りない。「世の中の人がまだ顕在化させていない問題」を扱えるかどうかが分岐点になる。「実はこう困っていたのに、誰も言ってくれなかった」——この切り口を探すのがマーケターの仕事である。例として、ブルーライトカットメガネ(PCメガネ)が挙げられた。「パソコンを見ると目が痛い」という体感を「ブルーライトのせいだ」と言語化して当てた事例である。事実かどうかはさておき、みんなが実は思っていたが誰も言っていなかったコンテンツは基本的にヒットする。もう一つの例が、歌舞伎町の「お一人様ホールケーキ」専門店。キャバ嬢はケーキを食べたいが、大きなホールケーキは要らない。かといってコンビニやケーキ屋のワンカットは「みすぼらしい」と感じる。この矛盾を解いた店が連日混雑している。仕掛けた女性マーケターは元々ホストクラブとキャバクラのマーケティング出身だった。 |
| ② 肩書き | 誰が書いたか。同じAIの本でも、無名のアシスタントが書いたものは買われない。YouTubeでも同様で、医者が語る健康情報のチャンネルと、一般人が語る健康チャンネルでは、明らかに前者が伸びる。権威性の効果である。 |
| ③ 目新しさ | これまで誰も語っていない内容か。既存本の劣化版になっている企画は売れない。ここを作るための手法が2つある(下記)。 |
「日常で使える本かどうか」——シーンに入り込む本にする、という考え方である。ストレッチ本を例に説明された。ストレッチは日常の動作ではない。だからストレッチを売るなら、日常の動作の中に入れる。テレビを見る、ご飯を食べる、ベッドで寝る、電車に乗る、エレベーターに乗る——これらの中に溶け込ませると「どこでもストレッチ」というコンセプトになる。人間は新しいことをやるのが苦手なので、普段やる動作の中に溶け込む形で学べる設計にすると大当たりしやすい。
最近の当たり筋であり、小山氏自身が得意とする手法。例として『FACTFULNESS』、ニック・マジューリ『JUST KEEP BUYING』、そして自身がプロデュースした『あっという間に人は死ぬから』(佐藤舞氏)が挙げられた。共通項は、世の中に知られていなかったデータを出していることである。
このセッションの直前に打ち合わせをしていたという「海外不動産しか勝たん」チャンネルの佐藤氏(2冊目)の企画設計が、具体例として開示された。出版社が出してきた企画は、当たらないコンセプトばかりで全部却下したという(そもそも出版社は「著者が書ける本」を企画にしようとするが、著者が書ける本と世の中が求める本は違う、というのが小山氏の立場である)。唯一面白いと思ったのが『JUST KEEP BUYING』路線だが、ニック・マジューリは研究データベースを基に本を構築しているのに対し、佐藤氏にはそれがない。加えて佐藤氏の肩書きは研究者ではないため、AIで論文データを詰め込んでも権威性が伴わず売れない。
そこで提案されたのが、「フィールドワークによって集めたデータを公開する本」である。富裕層へのガチインタビューと、調査会社を使った一般層へのアンケート調査を実施し、世の中でまだ誰も調べていない数字を作る。アイデアとして挙がったのが「金持ちは寄付をするというが本当か。富裕層と超富裕層で違うのか。むしろ貧乏な人ほど寄付しようとしているのではないか」「年収が高い人ほど本を読むというが、富裕層まで行くと本当に読んでいるのか」「消費税についての富裕層と一般人の考えの違い」など。唯一無二のデータは他では語れないので目新しさが立ち、しかも「そのデータを取りに行けたのは佐藤氏の立ち位置だからだ」という肩書きの説明にもなる。自分の知識を出す本ではなく、データを集めてそれを元に書く本にせよ、という設計である。
この設計には、本を売る以外の意図が仕込まれている。第一に、インタビューは「取材」を餌にすれば著名人・影響力のある人と会える。富裕層・アッパー層との人脈構築の基本は相手の自己重要感を高めることであり、「インタビューに答えると世の中のためになる」という大義名分は極めてアポが取りやすい。第二に、いい友作戦で横のつながりを辿れば、金持ちインフルエンサーのリストが同時に手に入る。第三に、インタビューに答えた本人は最初から巻き込まれているため、刊行後に「あなたのインタビューが本になったので宣伝してください」と言いやすい土台ができる。第四に、これはポジションチェンジでもある。「ちょっとうさん臭い」ポジションから「フィールドワークで独自データを取っている人」へ移行できれば、メディアに出やすくなり、特集されやすくなり、タイアップ可能な場所も増える。第五に、集まったリストは本人のビジネス(投資商品の紹介等)のスケールにも効く。
何かを売る前の段階で、どれだけ人を巻き込んでおくか。取材させる、アンケートに答えてもらう——そして「あなたの回答がコンテンツになりました」と伝える。自分も参加した人は、後で拡散してくれる確率が上がる。集客でも商品販売でも使える汎用手法である。
本屋は年々減っているが、意味がなくなったわけではない、というのが小山氏の見立てである。今の顧客動線は、本屋に行って実物を見て、その場で買うか、あるいは後でKindleやAmazonで買う、という二段構えになっている。だから本屋の役割はギャラリーに変わっただけであり、生き残っている書店(例として紀伊國屋書店が挙げられた)はこの構造を理解している。
理解している書店は、来店客をペルソナ分析し、その層が次に買う本を入口に置く、といった動線設計をしている。さらにマーケティングを徹底している例としてドン・キホーテの棚配置が挙げられた。売れ筋商品を必ず目線の高さに置き、曲がり角で視界に入る位置に配置する。売りたい商品・売れる商品を人の視線の先に置く設計である。また、書店マーケティングの本質は衝動買いをさせることであり、それをどんどん仕掛けている店舗が勝ち残っている。
本屋に行くと、目立たない本(沈む本)と目立つ本(浮く本)がある。本の表紙の作り方一つで売上は圧倒的に変わる。YouTubeでいうサムネイルと同じ役割である。素人の編集者は「おしゃれに作る」と言い出すが、小山氏自身も1冊目(『5分の使い方で人生は変わる』)でかっこいい表紙にしたいと考え、「そんな表紙では売れない、本屋に並べてみれば分かる」と言われ、実際に印刷して並べてみたところ驚くほど目立たなかったという経験を語っている。
今並んでいる本の表紙カラーとタイトル語彙を全部分析する。白っぽい本が多ければ赤を出す。赤が増えてきたら逆張りで黒や白を出す。時流の逆をいくのが原則。実務としては、書店に実際に行き、自分の本の表紙候補を印刷して置いてみる。そこで「浮くか、沈むか」を目視で判定してから決める。
表紙と同じくらい重要なのが、その本がどの書店の、どのコーナーに置かれるかである。過去の失敗例として、中身は自己啓発本であるスマートフォン関連の書籍が、コンピューター関連コーナーに置かれてしまい、想定客層と完全にずれて反応が取れなかったケースが挙げられた。売れない本は、想定していないコーナーに置かれていることが多い。だからキャッチコピーは「どのコーナーに置かれたいか」から逆算して考える必要がある。
| 狙ったコーナー | 効かせたワード/設計意図 |
|---|---|
| 投資コーナー(メイン) | 「億万長者」「入門」——特に「入門」というワードはビジネス・投資コーナーに置かれやすい。各コーナーで実際に使われているタイトル語彙をミックスして構成している。 |
| ビジネスコーナー(メイン) | 同上。既存の「億万長者入門」系タイトルがどこに置かれているかを確認すれば、狙いが読み取れる。 |
| 自己啓発コーナー(サブ) | 「億万長者」というワードは自己啓発系も狙える。加えて「ずる賢い」という語も、同系統の本の配置を調べることで狙いが分かる。 |
カラーについても、現在の時流に対して浮くかどうかを検証したうえで決定している。参加者から「どのコーナーに置かれる前提で作ったか」を問う形式で出題され、投資・教育・お金・週刊誌・金融・ビジネスといった回答が集まった。