STUDY REPORT / 2025年10月度 勉強会

任正非の非上場経営とLOGINK――「目立つな」という家訓が、世界最強の見えないインフラを作った

韓国エンタメの人事システムから始まった組織論は、Microsoftのリファラル採用を経て中国企業の人の使い方へ移り、最後にゲスト参加者による任正非論に着地した。財務諸表を気にせず、人と研究開発だけに投資し、目立つことを徹底して避けた企業が、なぜアメリカに最も恐れられたのか。

EXECUTIVE SUMMARY

見えないところで強い企業と、見えないところで集めるデータ

1987年
ファーウェイ創業年。深圳、資本金約2万1000元
非上場
創業から現在まで一貫。財務諸表を「関係ない」と言い切る
約30年
10兆円企業に到達するまでの期間(講義中の表現)
2007年
中国が物流データ基盤 LOGINK の開発に着手した年
2021年
中国データ保護法改定。以後、中国海域の船舶位置情報が激減
6〜7港
世界のコンテナ取扱量トップ10のうち中国が占める数

この日の勉強会には、ファーウェイ研究で著書のあるゲストが参加していた。海底ケーブルの話の中でファーウェイが繰り返し登場したことを受け、そのゲストから任正非(レン・ジェンフェイ)論が展開された。これがこの回で最も密度の高い10分間になった。

語られた論点は3つに整理できる。第一に、なぜアメリカはこれほどファーウェイを排除したのか。答えは「怖かったから」であり、その恐怖の対象は消費者向け製品ではなく、海底ケーブルや通信といった見えない領域の技術力だった。GAFAM が誰もが使う製品を作るのに対し、ファーウェイは誰も意識しない場所に技術を埋め込んでいる。

第二に、任正非の経営思想。財務諸表には関心がなく、人への投資と研究開発への投資しかしない。非上場を貫き、誰にも財務を見せない。目立てば狙われるという父の教え――文化大革命で投獄された共産党系教員の父が「目立つな、勉強だけしろ、知恵をつけろ」と言い続けた――が、そのまま企業戦略になっている。北京から最も遠い深圳の田舎町で創業し、東南アジア、中東、アフリカを経てから最後に北京へ戻るという「農村から都市を包囲する」順序を辿った。

第三に、アメリカによる制裁を「無料の広告」と捉える視点。任正非は「巨大なアメリカが我々のような小さな企業を宣伝してくれて、こんなにありがたいことはない」と述べたという。競合は大量の食料と支援部隊を伴ってエベレストを登るが、我々は北側から干し飯だけで登る――この比喩が語られた。

そして後半、物流実務経験を持つ参加者との対話で LOGINK の話に接続する。中国は世界中に港を作り、そこから物流データを吸い上げている。輸入者・輸出者・品目・数量・最終納品場所まで、船積み時の細かなデータがすべて集約される。講義者はこれを「物流業界と港湾業界の Facebook を作ってしまった」と表現した。

セッションを貫く1本の線 見えないものは規制されにくい。ファーウェイは消費者に見えない領域で技術を積み、LOGINK は誰も気にしない船積み書類からデータを積んだ。どちらも「目立たなかったから育った」。そして育ちきってから、初めて外部が慌てて規制を始める。この時間差こそが最大の資産である。
PART 0

韓国エンタメの人事、Microsoftのリファラル、そして中国企業の人の使い方

本編に入る前、参加者から人事・組織編成についての相談が出た。動画で「ステージ4」の内容を見た結果、人事と組織編成、つまり「どう人を使い、どう配置するか」がきわめて重要だと感じたという。そこで浮かんだのが韓国のエンターテインメント業界である。誰がアイドルになるかを最初に選抜し、その後の育成をシステマチックに回している。もしかすると最強の人事機構を持っているのではないか、という仮説だった。

講義者の回答は、その仮説をやんわりと退けるものだった。それなら一緒にアメリカへ行った方が見えるかもしれない、というのである。今回の韓国訪問は深く踏み込む予定がなく、細部までは見られない。撮影を入れられるかどうかで打ち合わせ場所が本社になるかカフェになるかも変わってしまう。そもそも韓国の大手自体が完成形とは思っていない。むしろアメリカのスタートアップ関連の方が面白い、という評価だった。

では洗練された組織として何を評価するかと問われ、挙がったのが Microsoft のリファラル(社員紹介)採用である。採用コストを落とすという点でアメリカ企業はかなり実践している。ただし「その辺りは中国企業の方が上手いのではないか」という留保が付いた。人をあれだけ使い切れる凄まじさも含めて、メリハリがはっきりしている、という評価である。参加者からは、中国のスタートアップが朝礼で「我々は奴隷のように働きます」と宣言している動画があった、という補足も出た。

📌 Claude補足:リファラル採用のコスト効果

リファラル採用(employee referral)は、採用単価と定着率の両面で有利とされる採用手法である。人材業界の各種調査では、リファラル経由の採用は求人媒体経由と比べて採用単価が低く、入社後の定着率が高い傾向が繰り返し報告されている。Microsoft を含む米大手テック企業が社員紹介プログラムに報奨金を設定していることも公開情報で確認できる。

ただし「Microsoft のリファラル採用が突出して優れている」という定量的な比較データは確認できなかった要確認。講義中の評価は、講義者自身の観察に基づく定性的な判断として受け取るのが正確である。

この人事論が伏線になっている。というのも、この後に語られる任正非の経営思想の核心が、まさに「人への投資」だからである。財務諸表は関係ない、人と研究開発に投資する――というのが任正非の言葉として紹介される。韓国のシステマチックな育成、Microsoft の低コスト採用、中国企業のメリハリ、そして任正非の人への集中投資。この4つが並ぶことで、人事戦略にも複数の型があることが浮かび上がる。

PART 1

なぜアメリカはファーウェイをここまで恐れたのか

ゲスト参加者の説明はこう始まった。ファーウェイの創業は1987年で、意外と最近である。そして現在に至るまで非上場企業のままだ。

ではなぜアメリカはあれほどファーウェイを排除したのか。「みんな、なんでそこまで、と思いますけど、やっぱりすごく怖かったんだと思います。実力が。分かっていたからアメリカは」というのが答えだった。

ここで対比構造が示される。アメリカのGAFAMは、誰もが目にするサービスと商品を作っている。みんなが使う Facebook、みんなが使う Google、みんなが使う Apple、みんなが使う Microsoft。一方ファーウェイは、スマートフォンこそあるものの日本ではほとんど売れておらず、ウォッチはバッテリーの持ちが良いという評価はあるが広く使われているとは言い難い。

しかしファーウェイは、海底ケーブルや通信といった見えないところでとてつもない技術を持っている。それがアメリカにとって最も怖かった。この指摘は、この回の前半で語られた海底ケーブル戦争の話と正面から接続する。ファーウェイの海底ケーブル部門が欧米から徹底的に排除されているのは、まさにこの理由による。

📌 Claude補足:ファーウェイの創業データ ― 発言はほぼ正確

ファーウェイは1987年、任正非によって深圳で創業された。初期資本は約2万1000元(当時のレートで約5,000ドル)で、香港から輸入した構内交換機(PBX)をホテルや中小企業に転売する事業から始まっている。講義中の「資本金30万円」という表現は、当時の円ドルレートを使えばおおむね妥当な換算である。

任正非は人民解放軍の元エンジニアで、現在ファーウェイの従業員は世界で約20万8000人。2024年の売上高は8621億元(約1181億ドル)に達している。

ここで一点、発言との差を明記しておく。講義中では「30年で10兆企業になった」とされたが、2024年時点の売上高は日本円換算で約18兆円規模である。10兆円という数字は数年前の水準を指していると思われ、現時点ではむしろ過小評価になっている。この差の理由は自分で確認しておきたい。

図1:ファーウェイの創業時資本と現在の売上規模(対数スケール/単位:円換算)/出典:創業時2万1000元・2024年売上8621億元をもとにClaude作図

PART 2

財務諸表は関係ない ― 任正非の経営思想

ゲストは2019年頃に執筆し2020年に出版した自著の内容として、任正非の言葉を紹介した。

まず制裁について。「これだけ広告費も出さずにアメリカが宣伝してくれるので、巨大なアメリカが我々みたいな小さな企業を宣伝してくれるので、我々はすごくありがたい」。制裁を敵意として受け取っていない。広告費を使わずにファーウェイの名前を世界中に知らせてくれる、こんなにありがたいことはない、という受け止め方である。

次に競合との比較。「彼らは大量の食料を持ち、たくさんの支援部隊を伴ってエベレストを登っている。しかし我々は北側から干し飯だけで登っている。その違いだ」。北壁は登攀難度の高いルートである。装備で勝る相手に対し、最も過酷な経路を最小装備で登る。これが自己認識だという。

そして財務観。「財務諸表なんか関係ないんだ。人への投資、技術・R&Dへの投資だ」。非上場企業なので誰にも財務を見せていない。もちろんビッグ4の一角が会計監査に入っており会計基準は満たしているが、財務指標そのものを経営の目的にしていない。

30年で到達したという事実 ゲストが強調したのは、この規模の企業がわずか30年で成立したという点の異常さだった。長い時間をかけて積み上げたのではなく、ごく短い期間で巨大企業になった。そして人事戦略が優れており、財務比率は気にしない。この組み合わせが強さの源泉である、という診断である。

目立つな、という家訓

もう一つの柱が「目立つところには行かない、目立つと狙われる」という行動原理である。この出自が語られた。任正非の父は共産党系の学校教員で、文化大革命でひどい目に遭い、投獄されている。その父から言われたのが「目立つとダメだ、勉強だけしろ、知恵をつけろ」だった。とにかく知恵をつけ、目立たないようにする。

人民解放軍に入っても目立たないようにしていたため、結果として解雇された。職も金もない状態から、資本金約2万1000元で創業する。場所の選択も一貫している。政府と関わりたくないから、北京からできるだけ遠く離れた場所――香港のすぐそばの深圳という小さな田舎町を選んだ。

創業時は香港から小型通信機器を輸入して販売する事業だった。そこから自社製造へ移行する。展開順序も北京を避けている。まず海外に出て、東南アジアから中東へ、そしてアフリカへ。最後に北京を含む主要都市に戻ってきた。

一般的な中国大手企業の経路

北京・上海など中枢に近い場所で創業し、政府調達や国有企業との関係を足がかりに国内シェアを固めてから海外展開する。政策との距離の近さが資産になる。

ファーウェイの経路

北京から最も遠い深圳で創業。国内の中枢を避けて先に海外へ出る。東南アジア→中東→アフリカと、競合の薄い市場を順に取り、最後に本国の主要都市へ戻る。政策との距離を保つことが資産になる。

📌 Claude補足:任正非と文化大革命の背景

任正非の父・任摩遜は教員で、文化大革命期に迫害を受けたことが複数の伝記的資料で確認されている。任正非本人は重慶建築工程学院を卒業後、人民解放軍の工程兵部隊に技術者として所属し、1983年の部隊縮小に伴い除隊している。講義中の「解雇された」という表現は、この部隊解体・除隊を指していると読める。

深圳は1980年に経済特区に指定された都市であり、1987年の創業時点では急速に発展しつつある「香港に隣接した実験場」だった。「小さな田舎町」という表現は創業当時の実感としては妥当だが、政策的には既に特別な地位を与えられた場所だった点は補足しておく。

ゲストの著書について

参加者から書籍名の確認があり、『日本版シリコンバレー創出に向けて』というタイトルが示された。講義者は「僕の本の100倍ぐらい面白そうなのでそっちを買います」と応じ、その場で在庫を確認して購入した参加者もいた。セッション終了後の雑談でも「ファーウェイの話が面白かった」「もう買いました」「アメリカを出汁に使ったという話がアイロニックすぎて、そういう話が大好きなので」と、複数の参加者が購入を報告している。

📌 Claude補足:言及された書籍の特定

言及された書籍は、中川有紀子(早稲田大学大学院経営管理研究科)編『日本版シリコンバレー創出に向けて――深圳から学ぶエコシステム型イノベーション』(晃洋書房、2020年)と特定できる。文字起こしで「人生費の哲学」と聞こえた箇所は「任正非の哲学」の音声認識誤りである。

同書には「治にいて乱を忘れず 任正非のファーウェイ――任正非 ファーウェイ創業者CEOの経営哲学と176カ国グローバル展開」という趣旨の章が収録されており、勉強会で語られた内容と符合する。出版年2020年も講義中の説明と一致する。

なお同時期に出版された類書として『ファーウェイ 強さの秘密――任正非の経営哲学36の言葉』(鄧斌著、楠木建監訳、日本実業出版社)などがあるため、書名を伝聞で引用する際は混同に注意。

PART 3

日本との関係 ― 分かっている企業は繋がっている

ゲストは、任正非が日本を非常に好んでおり、頻繁に来日していると述べた。研究所は横浜にもあり、東京大学工学部大学院の卒業生も採用している。日本にサプライチェーンが豊富に存在することに、当時から着目していたという。

ファーウェイ側の意図は、日本のサプライチェーンをもっとエコシステム的にうまく活用していきたい、というものだった。しかし日本側では「近づくな」という空気が広がった。それでも、分かっている企業は繋がっている――TDK やソニーは、しっかりとファーウェイの大口顧客関係を維持している、という指摘である。

ゲストの結論は明快だった。「それが分かるか分からないかの差は、日本企業の考え方にも、経営者の資質にもよる。ただ私は個人的には付き合った方がいいと思いますよ。目立たない商品を使っていますが、本当に強い企業で、日本が好きなんです。だったら付き合った方がいいんじゃないの、と思いますけどね」。

この論点の受け止め方 これは特定企業との取引を推奨する話ではなく、「相手の実力を正しく評価できているか」という問いである。政治的な忌避感で判断を代替すると、実力の見積もりそのものを放棄することになる。付き合うかどうかは各社の判断だが、実力の評価だけは正確に行っておく必要がある――そう読むのが妥当だろう。

講義者はこのゲスト発言を受けて「中川先生のアイロニックと任正非のアイロニックが両方来たので楽しかった」と評した。制裁を広告として利用するという発想と、それを紹介する語り口の両方に皮肉が効いている、という意味である。ゲストはこう締めた。「目立っちゃダメだというのが彼の哲学。だから非上場、財務諸表も出さない、目立った製品もせいぜいスマホ程度」。

PART 4

LOGINK ― 物流業界のFacebookを作ってしまった

話題は中国の物流データへ移る。講義者は「中国の最も凄いところの一つは物流データだ」と切り出した。

中国には LOGINK(ログインク)と呼ばれるシステムがある。中国国内から世界各地の巨大港湾のユーザー情報まで、入力されたデータ量が圧倒的に多い。これが中国の貨物データ基盤であり、データセンター技術を使って、海底ケーブルと同時に物流の情報管理と世界の取引を回している。この分野において、中国はヨーロッパやアメリカと比べて圧倒的に先行してしまっている、という評価である。

なぜ先行できたのか。理由は、通関業者のアナログさにある。港湾の仕組みはシンガポールなどで自動化が進んでいるが、通関業者自体はガラパゴスと言えるほど遅れている。物流実務の経験がある参加者なら分かるはずだが、いまだにやっていることが極端にアナログである。だからこそ「これをデータ活用できるのではないか」という発想が成立した。

中国が LOGINK の開発に着手したのは2007年である。表向きは営利目的ではないとされているが、実質的には世界中に港を作り、物流情報を取り続けるための仕組みである。海のシルクロード構想のベースになる情報データベースが、この LOGINK だと講義者は位置づけた。

📌 Claude補足:LOGINK の実態 ― 発言はきわめて正確

LOGINK は2007年に中国のある省(浙江省)で開発された港湾トラフィック管理システムを起源とし、現在は中国交通運輸部が管理する統一デジタル物流・貿易プラットフォームである。講義中の「開発着手は2007年」は正確である。

規模については、中国国内で500万台のトラック、200の倉庫、45万人のユーザーからデータを集約しており、中国の対外貿易フロー管理の中核ツールとなっている。

国際展開も講義中の説明と一致する。現在、世界24港と協力協定を結んでおり、うち欧州は7港(アントワープ、バルセロナ、ブレーメン、ハンブルク、シネス、リガ、ロッテルダム)。講義者が挙げた「ヨーロッパの入口であるロッテルダムやアムステルダムが LOGINK のシステムを使ってしまっている」という指摘のうち、ロッテルダムについては公開情報で裏が取れている。

米国の警戒も事実である。米中経済安全保障調査委員会(USCC)は、LOGINK が中国政府に対して海運情報、通関書類経由の貨物評価額、仕向地・経路情報へのアクセスを与えうると指摘。米政府は国防総省に対し、LOGINK を運用する港湾の使用を禁じている。

データ保護法という蓋

そして講義者が最も注目したのが、2021年11月に中国が改定した「中国データ保護法」である。この法律が施行されて以降、実際に何が起きたか。日本の物流が中国の港を使った場合、その貨物が中国側に渡った後の物流の流れを把握できなくなった。特に中国海域における船舶の位置情報へのアクセスが著しく困難になり、アクセス数が一気に激減した。

集める仕組みと、出さない仕組みが揃った LOGINK でデータを集める仕組みを2007年から15年かけて作り、2021年に外部からのアクセスを止める法律を整える。片方向のバルブが完成した形になる。世界の物流データは中国に流れ込むが、中国からは出ていかない。
📌 Claude補足:2021年の法整備とAISデータの遮断

2021年、中国では9月1日にデータセキュリティ法(数据安全法)、11月1日に個人情報保護法(PIPL)が施行された。講義中の「2021年11月に新しく変えた」という記憶は、PIPL の施行時期と一致する。

この時期を境に、中国沿岸の陸上AIS(船舶自動識別装置)受信局からのデータ提供が大幅に絞られ、中国海域の船舶位置情報の入手が世界的に困難になったことは、海運・サプライチェーン分析業界で広く報告されている事象である。講義中の「アクセス数が一気に激減した」という説明は、この現象を指している。

ここは発言と公開情報が高い精度で一致している箇所であり、この回で最も信頼して引用できる論点の一つと言える。

PART 5

コンテナ港のトップ10 ― 参加者の実務データによる裏付け

物流実務の経験を持つ参加者から、独自に調べたデータが共有された。コンテナ取扱量で世界のトップ10港を並べると、上海、寧波、深圳、青島といった中国の港がずらりと並び、10港のうち7港を中国が占めるという。圧倒的な物量である。

さらに実務の視点から LOGINK の恐ろしさが補足された。コンテナに貨物を積む際には、輸入者、輸出者、品目、数量、最終納品場所まで、極めて細かいデータを船積み時に登録する。それがそのまま LOGINK に集積される。「中国が物流のデータを全部集めていると言っても過言ではない」というのが、実務経験者の評価だった。

📌 Claude補足:コンテナ港ランキング ― 「7港」は集計次第

2024年のコンテナ取扱量による世界ランキングは、1位 上海(5150万TEU)、2位 シンガポール(4110万TEU)、3位 寧波舟山(3930万TEU)、4位 深圳(3340万TEU)、5位 青島(3090万TEU)、6位 広州(2645万TEU)、7位 釜山(2440万TEU)と続く。集計によればトップ10のうち中国本土が6港、アジアが9港を占める。

参加者の「7港」という数値は、天津または香港を含めるかどうかで変動する。いずれの集計でも「トップ10の過半を中国が占める」という結論は揺るがないため、論旨に影響はない。要確認(集計年・集計主体により順位が入れ替わるため、引用時は出典年を明記すべき)

図2:世界のコンテナ港トップ7の取扱量(2024年/単位:万TEU)/出典:公開集計をもとにClaude作図。赤が中国本土の港

講義者は、この物流データの意味をこう総括した。「物流業界とか港湾業界の Facebook みたいなものを作ってしまった」。実際に LOGINK 自体が扱うデータ量の大きさから「重い場」と表現されることもあるという。

参考として、オランダが伸びた背景の一つとして、ロッテルダムの企業が金鉱山に入った際に大きな金脈を見つけたという逸話が引かれ、「その金脈版が LOGINK である」と表現する記事が過去にヨーロッパで出たことがある、という紹介もあった要確認。情報源としての価値が金脈に例えられるほど高い、という文脈である。

そして、ここで海底ケーブルと接続する

この物流データの話は、質疑の中で海底ケーブルへ再接続した。「海底ネットワークのハブはどう繋がっているのか、中国は他国とどう連携しているのか」という問いに対する答えが、「中国は世界中に港を作っている。世界で最も海洋物流データを持っているのは中国である。港がある以上、繋がらざるを得ない」だった。初期段階では、中国は港の近くにケーブルを引く傾向が明確にあったという。

港・ケーブル・データの三位一体 港を作る。港の近くに海底ケーブルを引く。ケーブルを通じて物流データを吸い上げる。集めたデータをデータ保護法で外に出さない。この4段階が一体で設計されている。単体で見れば「インフラ投資」「通信投資」「業務システム」「個人情報保護」に分解され、どれも警戒対象になりにくい。
Q&A

質疑応答

人事や組織編成の観点で、韓国のエンターテインメント業界を見に行きたい。誰がアイドルになるかを最初に選び、育成をシステマチックに行っている点で、最強の人事を持っているのではないか。
それなら一緒にアメリカへ行った方が見えるかもしれない。今回の韓国はそこまで深く行くつもりがないので細部は見られない。撮影を入れられるかどうかで打ち合わせ場所も変わる。そもそも韓国の大手自体が完成形とは思っていない。アメリカのスタートアップ関連の方が面白い。
これまで見てきた中で、洗練された組織だと感じたところはあるか。
Microsoft のリファラル採用は好きだ。採用コストを落とすという点でアメリカはかなりやっている。ただ、その辺は中国企業の方が上手いのではないか。人をあれだけ使い切れる凄まじさも含めて、メリハリがはっきりしている。
(物流実務経験者から)コンテナのスポットデータを調べたところ、コンテナ物流の港でトップ10のうち7つが中国だった。LOGINK については、コンテナに貨物を載せる際に輸入者・輸出者・品目・数量・最終納品場所まで細かいデータを船積み時に登録するので、それが全部集積される。中国が物流データを全部集めていると言っても過言ではないのではないか。
そのとおり。データが集中的に運び込まれているので、LOGINK 自体が「重い場」と表現されることもある。
自分が実務をしていた頃には LOGINK を見たことがなかった。まだ新しいシステムなのか。
自分が商社にいた頃にようやく出てきたぐらいなので、そんなに古くはない。
(ゲストの書籍について)タイトルをもう一度教えてほしい。
『日本版シリコンバレー創出に向けて』(中川有紀子編、晃洋書房、2020年)。任正非の経営哲学とファーウェイの176カ国展開を扱った章が収録されている。
宿題・アクションアイテム

次までに手を動かすこと

  1. LOGINK を実際に検索し、どういうシステムなのか、どの港が接続しているのかを確認する。物流実務の経験がある人は、自分が扱っていた船積みデータのどこまでが LOGINK に流れうるかを具体的に考える。
  2. 中川有紀子編『日本版シリコンバレー創出に向けて――深圳から学ぶエコシステム型イノベーション』(晃洋書房、2020年)を読む。特に任正非の経営哲学を扱った章。
  3. 米中経済安全保障調査委員会(USCC)が公表した LOGINK に関するレポートを読み、米国が具体的に何を懸念しているのかを一次資料で確認する。
  4. 2021年の中国データセキュリティ法・個人情報保護法の施行前後で、中国海域のAIS(船舶位置情報)の入手可能性がどう変化したかを、海運データベンダーの公表資料で追う。
  5. ファーウェイの2024年売上高(8621億元)と従業員数を確認し、「30年で10兆円企業」という表現が現在どの程度更新されるべきかを自分で計算する。
  6. TDK・ソニーとファーウェイの取引関係について、各社の開示資料や報道から確認できる範囲を整理する。「分かっている企業は繋がっている」という指摘が事実として裏付けられるかを検証する。
用語集

このレポートに出てきた用語

任正非(レン・ジェンフェイ)ファーウェイ創業者兼CEO。1987年に深圳で創業。人民解放軍の元技術者で、父は文化大革命で迫害された教員。
LOGINK(ログインク)中国交通運輸部が管理する統一デジタル物流・貿易プラットフォーム。2007年に浙江省で開発着手。世界24港と協力協定を持つ。
リファラル採用社員紹介による採用手法。採用単価の低さと入社後の定着率の高さが特徴とされる。Microsoft を含む米大手テック企業が制度化している。
中国データセキュリティ法/個人情報保護法それぞれ2021年9月1日、11月1日施行。データの越境移転を規制。施行後、中国海域の船舶位置情報の入手が困難になった。
AIS(船舶自動識別装置)船舶の位置・針路・速度を発信する装置。海運分析やサプライチェーン把握の基礎データだが、中国沿岸では2021年以降入手が制限されている。
TEUTwenty-foot Equivalent Unit。20フィートコンテナ換算の単位。港湾のコンテナ取扱量を示す標準指標。
海のシルクロード一帯一路構想の海洋版。港湾整備と海底ケーブルの確保を通じた物流・情報網の構築を指す。
通関業者輸出入の税関手続きを代行する事業者。港湾システムの自動化が進む一方、この領域は各国でアナログな運用が残っている。